原 著
リエゾソ精神医学
〔書女医樽第鱗63強直〕
一具体的課題とその対策一
武蔵野赤十字病院 精神科 東京女子医科大学 神経精神科学教室(主任 柴田収一教授) ホリ カワ堀 川
ナオ シ直 史
(受付 昭和62年7月24日) Consultation・Liaison Psychiatry −On its Problems and Methodology一 Naoshi HORIKAWADepartment of Psychiatry Musashino Red Cross HospitaI
Department of Neuropsychiatry(Director:Prof. Shu−ichi SHIBATA) Tokyo Women’s Medical College
、With regard to 74 inpatients we were collsulted about, we studied the psychiatric diagnoses, the reasons of the consultation and the psychiatric treatlnents, in order to make out the present condition of the liaison−psychiatric service in our hospital, and to d玲cuss the methods of the liaison・psychiatric service..
In accordance with the reasons of their consultation, the cases are divided into three groups:
(A)those who were sent to us because of their mental disorders(48 cases),(B)those who were sent for the neuropsychological assessment(11 cases), and(C)those who were sent because of their problematic behaviors(ユ5 cases), Among the last group, we have found about 40%of the
cases suffering from apparent mental disorders which were not noticed, but as for the other case串,
the characterological and reactive factors play an important role in causing their problematic
behaviors. In the liaison−psychiatric service, these cases are the most dif丑cult to treat. For the treatment of these cases it is important to comprehend the psychological state of a patient, his family and medical stafF, and to establish a clinical team approach.
はじめに 疾患の医学的な側面ぽかりではなく,患者の心 理,社会的な側面をも重視する総合的医療(com− prehensive medicine)が近年とみに注目されるよ うになったが,これには次のような理由がある. それは,医学テクノロジーの進歩が医療の専門分 化を進め,医師が患者と接する時間を短縮し,同 時に患者の心理,.社会的背景への考慮を軽視する 傾向を生みだしたこと,かつては致命的であみた 疾患の治療が可能になったが,その反面患者は心 理,社会的適応の不安に悩みながら生き続けるよ うになったこと,患者の医療に対する期待が高ま り,糖尿病の食事療法や血液透析などのような, 患者自身の長期的な協力を必要とする治療には, 患者が満足しなくなったことなどである. リエゾソ精神医学(liaison psychiatryNま,プ ライマリーケアー活動や広い意味の心身医学など とともに,このような総合的医療をめざす新しい 医療活動のひとつであり,Greenhil11)によれぽ, 「健康や疾患に関係する心理,祉会的問題に対応す るために,精神科と他の診療科とが協力して診療 にあたる体系」と定義されている.
一1
2 このリエゾソ精神医学は,一般に精神科コンサ ルテーションと狭義のリエゾソ精神医学的活動と を含むものであると考えられている.近年のリエ ゾン精神医学への関心の高まりは,このうち狭義 のリエゾンに対する社会的な要請が高まったこと に関係している.しかし精神科コンサルテーショ ンが「他科からの要請に応じて,精神科医が患者 の診断や治療に協力すること」2)と明解に規定さ れているのに対し,狭義のリエゾンの概念はなお やや不明確である. この狭義のリエゾン精神医学的活動について, これまでの文献2)∼7)を見ると,診療の対象および 形式という二つの側面から解説されていることが わかる.すなわち,狭義のリエゾンは,「一般診療 科の病棟または外来の患者全体を対象とし,精神 障害の予防のための活動を行う」,「従来の精神科 コンサルテーションの対象にはな:りにくかった (狭義の精神障害以外の)患者の問題行動や,患者 と家族または医療者との関係などをあつかう」, 「医療者に対する精神医学的教育や医療者の精神 衛生の問題などもその重要な課題である」などと いう対象についての記載があり,一方「精神科と 他の診療科との連絡をより密接なものにするため に,例えば特定の病棟に専任の精神科医をおく, あるいは他科の回診などに定期的に参加する」な どという診療の形成についての記載もある.これ らをまとめると,狭義のリエゾンとは,従来の精 神科コンサルテーションの対象にはなりにくかっ た院内で生じるさまざまの心理的問題を対象と し,それに対応するために従来とは異なる診療の 方法を作り出そうとする試みであると考えること ができる. さて,リエゾン精神医学に関するこれまでの文 献を見ると,現状報告8)∼11)や啓蒙的概観2)4)7)12)∼15) を目的としたものが圧倒的に多く,その他に,他 科の医師へのアンケート調査16)や医学教育との関 係を論じたもの17>などがある.しかし,臨床におい てとくに重要だと思われる診療の際の具体的な問 題点や方法などを論じたも’のは極めて少ない.そ こで,武蔵野赤十字病院におけるリエゾソ精神医 学的活動の実態を報告し,とくに狭義のリエゾン について具体的な問題を挙げて考察したいと思 う.なお,武蔵野赤十字病院は東京都武蔵野市の 病床数567床の総合病院であるが,精神科は昭和61 年4月に新設されたぼかりであり,専門の精神科 病棟はない. 対象および方法 昭和61年11月から昭和62年4月までの半年間に 精神科を初診した患者451名のうち初診時に他科 入院中であった症例74例を対象とし,病歴調査に 基づいて,診断,精神科診察依頼の趣旨,治療な: どを検討する. 結 果 以上の基準に従って選択された症例74例は,全 初診患者451例の16。4%に相当する,その性別は男 性30例,女性44例,年齢は7歳から88歳まで,平 均55.5歳である.なお,74例のうち内科から紹介 されたものが31例,以下同様に整形外科15例,脳 外科14例,外科7例,小児科2例,耳鼻科2例, 産婦人科,泌尿器科,放射線科各1例となる. 1.診断 ICD−9による診断を表1に示した.比較のため に同じ時期の精神科外来初診患者の診断も合わせ て記載した.なお,診断名数の合計が真心数より も多くなるが,これは,患者の中に複数の診断名 をつけられたものがあるためである.この表から, 他科入院中の患者では,外来患者に比較して,精 神分裂病,躁うつ病,神経症などが少なく,反対 に,器質性精神病が圧倒的に多く,その他に不適 応反応が多いことがわかる. 2.精神科診察依頼の趣旨 症例を精神科診察依頼の趣旨に従って分類する と,表2のようになる.A群は各科の担当医が, 器質性精神病,内因性精神病,神経症などのよう ないわば狭義の精神障害の存在を予測して精神科 に紹介した患者,B群は神経心理学的総合判断を 求められた主として脳疾患の患者であり,以上の 2群は従来も精神科コンサルテーションの対象と なっていた症例である.これに対し,C群は問題行 動のために診察を依頼されたが,各科の担当医は 上に述べたような精神障害の存在を予測しなかっ た症例であり,これが狭義のリエゾン精神医学的
表1 診断(ICD−9による) 他科入院中の @ 患者 外来患者 全 体 器質性精神病 41例(55.4%) 25例(6.6%) 66例(14.6%) 精神分裂病 Nうつ病 マ想状態,他の非器質性精神病 1(1.4) P1(14.9) R(4.1) 32(8.5) X2(24.4) Q2(5.8) 33(7,3) P03(22.8) Q5(5.5) 神経症 l格異常 Aルコールや薬物の依存,乱用 s適応反応,急性ストレス反応 ク神的諸要因による身体的病態 4(5.4) T(6.8) X(12.2) P0(13.5) P(1.4) 128(34.0) Q3(6.1) P4(3.7) Q6(6.9) P7(4.5) 132(29.3) Q8(6.2) Q3(5.1) R6(8.0) P8(4.0) 精神薄弱 トんかん 1(1.4) 6(L6) P0(2.7) 6(1.3) P1(2.4) その他 7(9.5) 26(6.9) 33(7.3) 合 計 74例 377例 451例 表2 他科入院患者の精神科診察依頼の趣旨 A群:(狭義の)精神障害のために,または @ その疑いのために診察を依頼された患者 48例 B群:精神症状の評価を依頼された患者 11例 C群:問題行動のために診察を依頼された患者 15例 合 計 74例 表3 問題行動 他の患者や医療者としばしばトラブルを起こす 3例 無断故院 2例 拒 薬 2例 拒 食 2例 医療に対するその他の拒否的な態度 5例 退院拒否 1例 合 計 15例 活動に関係の深い症例であろう. 3.問題行動のために診察を依頼された症例 C群の問題行動の内容を表3にまとめた. A群がらC群までの診断を表4に示した.この 表から,C群の中にも,比較的軽症のものではある が,器質的精神病,躁うつ病,妄想状態,神経症 などの症例が含まれていること,A群と比較する と,C群に人格異常と不適応反応が多く含まれて いることなどが明らかになる. C群の問題行動の成因をまとめると,表5に示 すように,問題行動はそれまで気づかれなかった 精神障害の部分的症状であると判断されるもの (C−1群),問題行動は軽度の精神障害(これは全て 軽度の痴呆あるいは意識障害であった)に反応性 の要素が加わって生じたと判断されるもの(C−2 群),問題行動は主として人格あるいは反応性の要 素によって生じたと判断されるもの(G3群)の3 群が区別される. C−2群およびC・3群の計8例について,問題行動 の発生に心因反応性の要素が関係していると判断 されたが,表6に示すように,その大多数の症例 において,反応は,疾患あるいはそれに関係する 医療の問題を契機に生じている. 4.治療 上述のG2群およびC−3群がらそれぞれ1例ず つを報告し,治療について検討する. はじめにC−2群がら1例を報告する. 年齢,性別:明治44年4月3日生まれ,当科初 診時75歳の女性. 既往歴:30歳から35歳ころまで,気管支喘息の 治療を受けた. 家族歴:特記すべき疾患なし.同胞5人の第1 子,挙子1名.現在は,85歳の夫,娘夫婦,孫娘 との5人家族. 性格:勝気でプライドが高く,几張面.
4 表4 精神科診察依頼の趣旨と診断との関係 A群:精神障害 B群:精神症状 C群:問題行動 のために診察を の評価を依頼さ のために診察を 依頼された患者 れた患者 依頼された患者 器質性精神病 27例(56.3%) 6例(54.5%) 8例(53.3%) 精神分裂病 1(2.1) 躁うつ病 8(16.7) 1(9.1) 2(13,3) 妄想状態,他の非器質性精神病 2(4.2) 1(6.7) 神経症 3(6.3) 1(6.7) 人格異常 2(42) 3(20.0) アルコールや薬物の依存,乱用 9(18.8) 不適応反応,急性ストレス反応 7(14.6) 3(20.0) 精神的諸要因による身体的病態 !(6,7). 精神薄弱 てんかん 1(2.1) その他 3(6.3) 4(36.4) 合 計 48例 11例 15例 表5 C.群の問題行動についての精神医学的判断 C−1群 :問題行動はそれまで気づかれなかった精神 瘧Q(器質性あるいは内因性精神病,神経 ヌ)によると判断されたもの 6例 C−2群 :問題行動は軽度の精神障害(器質性精神病)に反応性の要素が加わって生じたと判断さ 黷スもの 4例 C−3群 :問題行動は主として人格あるいば反応性の v素によって生じたと判断されたもの 4例 不 明 1例 合 計 15例 表6 反応を引き起こした契機 疾患そのものへの恐怖,についての悩み 疾患による社会的不適応 2例 医療者への不信 1例 医療行為への不満 2例 医療者の態度に対する怒り 2例 不明確 1例 合 計 8例 現病歴:50歳ころから狭心症の治療を受けてい たが,発作の出現のため,昭和62年1月24日当院 内科に入院した.入院時に患者がもっていたニト ログリセリンを預かっだが,次第にそれを心配す るようになり,医療者は「苦しくなったらすぐに 薬をもってぎます」という説明を繰り返していた. 2月11日に胸部圧迫感を訴え,ニトログリセリン を内服させたが,「薬がきかない,これはニトログ リセリンではない」と言い,その二二薬するよう になった。また「(入院後担当した)医師や看護婦 は信用できない,(長く通院した外来の)医師がも う病院にはいなくなってしまったのではないか」 などとも言うようになった. 昭和62年2月12日精神科初診.病棟に往診する と,非常に憤慨した調子で「苦しい時にすぐにニ トログリセリンをくれな:かった.あとで薬をもっ てきたが,それは別の薬だった.ここは信用でき ないからすぐに帰して下さい」とまくしたてた. 思路の軽度の散乱がみられ,日づけもややあいま い.また,「若い方にはわからないでしょうが」と いう言葉が枕詞のようにしぼしぼ発言に加わる. 娘によれば,この1年,物忘れが少しめだつよう になってきていたとのことであった. 担当医および看護婦との話し合いでは,医療者 側に患者に対する反感または嫌悪、といった感情は 見られなかったが,患者の攻撃に応ずる形で,あ の薬がニトログリセリンだったかどうかという議 論が繰り返される傾向のあることが確認された. この話し合いで,患者に数錠のニトログリセリン をもたせること,患者が信用している外来の医師 にも時々顔を出してもらうことなどが決められ,
精神科医は,その他に,すでに軽い痴呆があり, 自分の体や状況の変化に柔軟に対応しきれなく なっていること,元来非常にプライドの高い人で, 自分の老化を恥じる気持ちが強いことなどを指摘 し,議論の繰り返しは避けた:方がよいこと,ライ フレビューセラピー的な話し合いもよい効果を生 むかもしれないことなどを話した.その後,次第 におちつき,内科の治療をうけ,2月下旬に退院 した.精神科の診断は,軽度の(おそらく脳血管 性の)痴呆および不適応反応である. 次にC−3群がら1例を報告する. 年齢,性別:大正6年8月17日生まれ,当科初 診時69歳の男性. 既往歴:26歳,肺炎. 家族歴:特記すべき疾患なし.同胞8人中第6 子,四男,挙子4名.現在は,60歳の妻,30歳の 次女との3人家族. 性格,生活史:妻によれぽ「上の兄弟は早く死 んで,一人っ子のようにして育てられた.口は達 者だが,おがままで,一人よがりで,人に使われ ることができない」とのこと.実際にも,若いこ ろは俳優をめざし,その後も,いろいろな仕事を 転々として,ひとつの会社に長く勤めたことはな い.妻が働いて生計を立て,今は子供たちからも ほとんど相手にされない状態になっている. 現病歴:昭和61年12月ころから全身倦怠感と腹 痛が出現.昭和62年2月から発熱.3月3日内科 に入院し,急性骨髄性白血病と診断された.個室 に隔離され,抗癌剤の治療を受けていたが,3月 下旬および4月上旬の2回,無断離院.そのつど 家族に説得されて病院に戻った. 昭和62年4月10日精神科初診.病棟に往診した 時は,ちょうど内科主治医との話し合いの途中で あった.主治医の「白血病の治療中であり,白血 球や血小板が減って,感染や脳の出血などを起こ しやすい状態になっている」という説明を一見理 解しているように見えるが,それに対し,「家に 帰ったからまた闘病意欲がわいてきた.これから も週に一度は家に帰してもらいたい」,「二人部屋 に戻してもらいたい」などと繰り返し希望してい た.精神科医との話し合いでは,「こういう閉じ込 められた環境には耐えられない.私は戦争にも 行ったし,これまでは決して泣ぎごとを言わない 人間だったが,今回だけは我慢できない」と言う. さらに一方的に話は発展して,「前に勤めていた会 社の社長が面会にぎた.私は社長の右腕だった. この辺の大きな建物は全部私が不動産屋に勤めて いた時に取り扱った.市議の宴会では,上から5 人目に座る人間で,そこいらのどん百姓とは素姓 が違う」などという他愛のない自慢話が続いた, 病気についても,「白血病が重い病気だということ はわかるが,症状もないし(事実このころは自覚 症状が消失していた),あと何年かは生きられるの ではないか.医師は少し重く考え過ぎているので はないか」などと言う.担当医,看護婦,精神科 医らの話し合いで,病識はあるのに無断で離院す る,わがままで,いらいらしやすいなどの点に関 係して,医療者側にもかなり強い反感または嫌悪 の感情があることが知られた.この話し合いで, 主として拘禁状況に対する反応であるが,生活史 からもわかるように人格の問題が大きく,対応の 際にはこれを考慮すべぎであることが確認され た.具体的には,叱責や説得にあまり大きな効果 は期待できないため,議論のやりとりをなるべく 避iけること,治療のスケジュールを具体的に説明 して,我慢すべきゴールを明らかにすること,家 族の面会をさらに多くしてもらうこと,精神科医 が定期的に往診し話し相手になること,抗不安薬 を少し増量することなどが決められた.その後, 小康状態が続いたが,5月中旬,無断二院,自宅 で発熱したため帰院したが,敗血症のため,5月 23日に死亡した. 精神科の診断は,人格障害および不適応反応で ある. 以上の2例からも理解されるように,このよう な症例に対応するには,精神科医と患者と個人的 な関係に基づく通常の精神科的治療によることは 困難であると思われる.そこで,他科入院中の患 者74例について,実際にどのような治療が行われ たかをまとめると表7のようになる.この表から, A群,すなわち精神障害のために診察を依頼され た症例では,精神科医が病棟に往診する,患者が
6 表7 治療の形式 A群:精神障害のために診察を ヒ頼された患者 B群:精神症状の評価を依頼さ 黷ス患者 C群:問題行動 フために診察を ヒ頼された患者 定期的に往診,比較的頻繁に病棟スタッフや患者の家族との話し合いをもった 5例(10.4%) 7例(46.7%) 定期的に往診 s定期的に往診 15(31,3) P3(27.1) 1(9.1) 5(33.3) 定期的に精神科外来によんで診察 ゙院し,精神科に通院 8(16,7) R(6.3) 3(20.0) 精神科の病院に転院 2(4,2) 精神科の経過観察不要と判断 ? 亡 1(2.1) P(2,1) 10(90.9) 合 計 48例 11例 15例 精神科外来に通院する.患者を他の精神科病院に 紹介するなどの通常の精神科的治療を受けたもの が多いのに対し,C群,すなおち問題行動のために 診察を依頼された症例の約半数については,精神 科医が定期的に病棟に往診するぽかりではなく, 比較的頻繁に病棟のスタッフや患者の家族との話 し合いがもたれたことがわかる. 考 察 他科入院中の患者74例を,精神科診察依頼の趣 旨という観点から分類したが,その中で,狭義の リエゾン精神医学的活動に関係が深いと考えられ るものは,問題行動のために診察を依頼された症 例である.このような問題行動のために診察を依 頼された症例15例のうち6例に,器質性または内 因性の精神病あるいは神経症が見いだされ,これ らの症例における問題行動はこのような精神障害 の一症状であると判断された. 残る9例中8例については,問題行動の発生に 人格あるいは反応性の要素が重要な役割を演じて いると判断された.このような反応を引き起こし た契機は,ほぼ全例において,疾患そのものへの 恐怖や,それによって引き起こされる社会的不適 応に対する悩み,医療者への不信,医療老の態度 に対する怒り,医療行為に対する不満など,疾患 や医療に関係する問題であった. 問題行動のために診察を依頼された症例15例中 7例について,比較的頻繁に病棟スタッフや患者 の家族との話し合いがもたれ,これが重要な治療 的意味をもつものと考えられた.この話し合いで は,患者の人格や生活史,患者と家族との関係, 患者の現在の心理的状態,患者に対する医療者側 の心理的な反応,向精神薬の効果と副作用などが 話し合われ,可能な場合には,患者に対する対応 の方法が決められた. 以上の我々の経験から,狭義のリエゾソ精神医 学的活動における重要課題を,患者や家族および 医療者の心理を適切に理解すること,および治療 におけるチーム医療的アプローチを実現すること の二点に整理することができるであろう.このよ うな整理に従い,課題を達成するよう努力するこ とによって,勤務する精神科医が少なく,例えば, 特定の病棟に専任の精神科医を置くなどの方策を とることができない施設においても,狭i義のリエ ゾンの考え方にそった精神医学的活動を実施する ことができるということが我々の結論である. はじめにも触れたように,リエゾン精神医学に おける具体的な治療技法にふれた文献はほとんど なく,わずかに小此木による力動精神医学の立場 からのアプローチがあるだけである5)6>.彼は,リ エゾン精神医学を,患者を中心とする多面的な人 間関係に精神科医がかかわることであると規定 し,患者,家族,医療者などの心理を,転移,逆 転移,防衛機制などの丁丁精神医学の用語を用い て解釈している.また,患者の示すさまざまな問
題に対応するためには,このような心理的機制を 理解することとともに,「取り扱い(manage− ment)」の技術を身につけることが重要であると 強調している.この取り扱いの技術について,彼 は,医療者の役割の分化,明確化,情報伝達のルー ルの確立などがそれ自体重要な技術であり,これ は,治療チーム的アプローチやミーティングの繰 り返しによって習得することができると説明して いる.この小此木の見解を先に述べた我々の見解 と比較すると,彼が力動精神医学に立脚している という点に相違があるが,その他には,患者など の心理の適切な理解とチーム医療的アプローチと を重視するという点で,基本的には大きな相違は ないものと考えることができる. 最後に,我々の経験から,リエゾン精神医学的 活動の際の問題点を挙げておきたい.ひとつは, 精神科医が,これまで狭義の精神障害を対象とす ることが多かったために,患者,家族,医療者ら の心理の理解にかならずしも熟練していないとい うことであり,もうひとつは,主として一般診療 科の側に,リエゾン精神医学的な考え方について の認識はあっても,リエゾン精神医学的なチーム 医療的アプローチの必要性についての認識が乏し く,また,そのための時間的,人員的なゆとりも ないということである.なお,文献には,その他 に,精神科医が身体的病態に無関心であること, 一般診療科が精神障害や精神科の治療に偏見を もっていること,保険点数の上で評価されないと いう医療経済上の問題はっきりとした言葉によ るコミュニケーションの苦手な我国の文化的背景 などという問題点が挙げられている. おわりに リエゾン精神医学の重要性はすでに繰り返し指 摘されているが,具体的な方法に関する発表はま だほとんど行われていない. 武蔵野赤十字病院での経験に基づいて,とくに 狭義のリエゾン精神医学的活動の際には,患者や 家族および医療者の心理の適切な理解とチーム医 療的なアプローチとがとりわけ重要であることを 指摘した. 今後は,このような心理的状態把握のためのさ らに具体的な方法,および病院全体との関係の中 でどのような形のチーム医療が行われるべきかな どが検討されなけれぽならないであろう. 御指導頂きました東京女子医科大学神経精神科柴 田収一教授と診療および研究に御協力頂きました武 蔵野赤十字病院精神科小川雅美先生に深く感謝いた します。 文 献
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