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〈和文〉国際フォーラム報告 : 「バラッド(物語歌)の力―記憶喪失と失語からの回復」

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Academic year: 2021

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(1)国際フォーラム報告. 「バラッド(物語歌)の力─記憶喪失と失語からの回復」 ウェルズ恵子 人間の命や幸福は,喜びと希望なくしては継続しがたい。また人間は社会的な動物なので, 自分ひとりでは健康に生きていくことも幸福であることも困難だ。そこで課題は,どうしたら みんなで幸せになれるか,希望をつなげるかというところにある。しかし私たちの利害は常に 対立し,病気や自然災害もあるので,これはとても難しい。その状況を認識しつつ,ある男性 の希望を彼の友人たちが歌で救いあげたということについて報告を聞き,私たち自身もいっしょ に歌い,自らの身体で声と人間の命のあり方を考える試みが,このフォーラムであった。講師は, アメリカのバラッド・シンギング・グループのメンバー 4 名である。このグループの活動が, 脳梗塞による記憶喪失と失語症患者の回復を促した経過を追った。 ネイティブ・アメリカンのナラティヴ研究とアングロサクソン・バラッド研究で著名な民俗 学者ベリー・トーキン氏(ユタ州立大学名誉教授)は,2002 年,脳梗塞で左脳を損傷し記憶と 発話能力に大きな障害を負った。彼はかつて,800 曲以上の伝承バラッドを記憶し,その歌い手 でもあったが,これらの歌も全て記憶から失われてしまったかのようだった。. Dr. Barre Toelken(photo by Michael Spooner) 二週間後,トーキン氏が元気であったときに彼からバラッドの楽しさを学んだアレン・クリ ステンセン氏やマイケル・スプーナー氏他数人が,入院中のトーキン氏の枕元で週一回,バラッ ドを歌う集いを始めた。その後,メンバーが増え自宅での集いが 10 年以上続いている。回復は 不可能だと医師に言われていたトーキン氏であるが,失っていた歌の記憶と言語,およびその 他の記憶は次第に回復。現在でも右半身不随であるものの,平日は大学へおもむいて多少の公 務をこなし,人々と交流し,日常生活を送っている。 −3−.

(2) 立命館言語文化研究 25 巻 3 号. 2012 年 11 月 9 日に催された講演では,トーキン氏の闘病を支えてきた妻のミイコ(ミドリ) さん(日系二世)から,歌がどのように記憶と言語の回復を助けたかという報告があった。トー キン氏の長女でバラッドシンガーのマリジョゼさん,シンギンググループのメンバーで大学出 版局編集長マイケルさん,同顧問アレンさんによる背景説明や論考が発表された。最後にはミニ・ コンサートとバラッド・ワークショップを行なった。 当日は,学内から教員や院生,学生の参加が多数あり学外からの聴講者も加えて,有意義な 討議が行なわれた。討議の主な話題は以下のようなものであった。 ・歌詞が物語になっていることと,記憶回復の関連 ・グループメンバーが声をあわせて歌うことと発話回復の関連 ・当初母語(英語)では会話できなかったのに, 第二言語(ドイツ語)や第三言語(ナヴァホ語) では会話できたことの意味 ・発話回復が身体機能全体に及ぼした影響 ・障害者の回復を助ける目的で集まった人々が得た,援助者本人の幸福感と歌の影響 ・伝承バラッドがいまに歌い継がれる理由に関する考察 ・口承芸術が人間存在に与える積極的影響  トーキン氏は前立腺がんの治療も乗り越えられ,2014 年現在もご健在である。. −4−.

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参照

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