IPR&Dをめぐる配分思考 : R&D支出の処理との整合性問題を中心に
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(2) 90. (530). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 4・5 号(2012 年 1 月). の会計上の性格を明らかにすることを目的とし. 際会計基準審議会 に よって 共同 で 公表 さ れ た. て,現行制度上におけるそれぞれの支出の処理. 「会計基準のコンバージェンスの加速化に向け. の違いついて配分の観点から検討を加える.配. た取組みへの合意」いわゆる「東京合意」に基. 分の観点を論文の基軸に採用した理由は,費用. づくものである.以降,2007(平成 19)年 12. 処理するか資産計上するかという処理の違い. 月の「企業結合会計の見直しに関する論点の整. は,原価ないし支出額を費用化する時期の違い. 理」および「研究開発費に関する論点の整理」. に由来しており,その根底には配分の概念が存. の公表を皮切りに,一連の基準改正が行われる. 3). 在していると考えたからである .すなわち,. こととなった.. 支出額を支出した期に全額配分する手続きが費. 企業結合および研究開発費に関連する基準の. 用処理であり,一方で支出額を支出した期以降. 公表とその改正経緯をまとめると表 1 のように. の複数の会計期間にわたって配分する手続きが. なる.. 資産計上である.貸借対照表に計上される資産. 2003(平成 15)年 10 月 31 日に企業会計審議. の評価額は未費消の原価として捉えられ,いず. 会から公表された「企業結合に係る会計基準」. れ費用化されるという意味においては,両者は. (以下, 「平成 15 年企業結合会計基準」 )で は,. 軌を一にしているといえる.. 取得企業が取得対価の一部を R&D に割り当て4). 以下 で は ま ず,基準改正の経緯とその背景. たときには,当該金額を割り当て時に費用処理. につ い て 概観 す ることから始める.次いで,. することとされていた(平成 15 年企業結合会. IPR&D 取得後における原価配分について整理. 計基準,三の 2 ⑶ ).これは研究開発費等会計. し,そこに内在する問題点を指摘するととも. 基準における R&D の処理との整合性を重視し. に,取得後に継続して研究開発が行われる場合. て採られた処理であった.. の「開発費」の取り扱いについて,簡単な数値. 一方,国際会計基準ないし国際財務報告基準. 例を設定し検討する.そしてその処理の違いが. (以下,IAS/IFRS)に お い て は,社内開発費. 示す意味を明らかにしていく. 2.基準間整合性と国際的コンバージェンス. について資産の定義及び認識要件を満たすもの は資産計上することが要求されている(IAS38, para. 42).この立場は,無形資産の定義及び認. 企業会計基準委員会および国際会計基準審議. 識基準を満たす限りは,取得の形態によってそ. 会によって現在進められている共同プロジェク. の取り扱いを異にすべきではないとの考えに基. トの中で,2008(平成 20)年までの短期コン. づいていると考えられる.企業結合時に受け入. バージェンスプロジェクトの項目のひとつとし. れたその他の資産の取り扱いとの整合性を重視. て, 「企業結合により受け入れた研究開発途中. することによって,IPR&D の資産計上を求め. 段階の成果の会計処理等」すなわち IPR&D が. るものである.. 含まれている.周知のように,これは 2007(平. そ こ で,企業会計基準委員会 は 国際的 コ ン. 成 19)年 8 月 に 企業会計基準委員会 お よ び 国. バージェン ス に 鑑 み,平成 20 年改正企業結合. . 3)配分 と は「原価 を 複数 の 会計期間 に 配分 し て費用化すること」 (『会計学辞典(第 5 版)』468 頁) を意味している.一般には「資産の取得原価を当 期と次期以降の期間に配分すること」(同)とされ ている.ここにおいて,損益計算書に配分される 部分 は 当期 の「費用」で あ り,貸借対照表 に 配分 される部分は未費消の原価たる「資産」となる.. 会計基準において,企業結合の取得対価の一部 を R&D に割り当てた場合の費用処理を廃止す . 4)同基準内では「配分」という語が用いられ ているが,本稿では「原価配分」との混同を避け るため「配分」の代わりに「割り当て」という表 現を用いる..
(3) IPR&D をめぐる配分思考(光澤). (531). 91. 表 1 各基準の設定および改正経緯 企業結合に関する公表物. 研究開発費に関する公表物. 1997(平成 9 )年 6 月. 「研究開発費に係る会計処理基準の検討に当たっ ての論点の整理」. 12 月. 「研究開発費等に係る会計基準の設定に関する意 見書(公開草案)」. 1998(平成 10)年 3 月. 「研究開発費等に係る会計基準の設定に関する意 見書」 「研究開発費等に係る会計基準」および「注解」. 2001(平成 13)年 7 月. 「企業結合に係る会計処理基準に関する論点整理」. 2003(平成 15)年 8 月. 「企業結合に係る会計基準の設定に関する意見書 (公開草案)」. 10 月. 「企業結合に係る会計基準の設定に関する意見書」 「企業結合に係る会計基準」. 2007(平成 19)年 12 月. 「企業結合会計の見直しに関する論点の整理」. 2008(平成 20)年 6 月. 「企業結合に関する会計基準(案)」. 10 月. 「企業結合に関する会計基準」. 12 月. 「研究開発費に関する論点の整理」. 「『研究開発費等に係る会計基準』の一部改正」. る こ と に なった(101 項) .こ れ に よって,研. 当時も意見が分かれるところであった6).すな. 究開発費等会計基準の「六 適用範囲」に「企. わちかねてより,成功した R&D に関連する支. 業結合により被取得企業から受け入れた資産. 出までも費用として一時に処理をすることにつ. (受注制作,市場販売目的及 び 自社利用 の ソ フ. いて疑問を呈する声も多かったのである.今回. トウェアを除く. )については適用しない」 (企. の企業結合会計基準や研究開発費等会計基準の. 業会計基準第 23 号『 「研究開発費等に係る会計. 一部改正が,開発費の資産計上問題に大きく作. 基準」の一部改正』 ,2 項)との規定が追加され,. 用することが推察できる.. IPR&D は 研究開発費等会計基準 の「例外的 な. 以上 か ら,R&D と IPR&D の 処理 は 密接 に. 取り扱い」 (同,6 項)と位置づけられたので. 関連していることが明らかであるが,それは基. ある. そして現在,社内における開発費の資産計上 の可能性について, 「論点整理」の中で検討が 行われ,IAS/IFRS とのコンバージェンスを図 るべく,社内開発費の資産計上が提案されてい る.開発費を含めた R&D については,研究開 発費等会計基準設定の際,将来の便益獲得の不 確実性や資産計上の要件設定における実務上の 困難性および企業間の比較可能性の担保を理由 に,全額発生時に費用として処理することと結 論した5)のであるが,この取り扱いについては, . 5)「研究開発費等に係る会計基準の設定に関す る意見書」三の 2.. . 6)R&D に投じた支出を,一括して期間費用と することは,発生主義会計の観点から問題がある と の 批判 も あ る.例 え ば,黒澤[1975] (304 頁) や清水[1986] (336 頁)を参照.同様に,岡田[1989 ] も「発生の原則の当然の帰結」として R&D 支出の 資産化を認めるべきと述べている(257 頁) . ま た,企業間 の 比較可能性 に つ い て,例 え ば, 北村[1989]は,減価償却 に お け る 定額法 と 定率 法の選択など, 「経理自由の原則が存在する限り企 業間の比較可能性を追求することは難しく,研究 開発費の選択的資産計上に固有の問題ではない. 」 と指摘しており,さらに「将来の効用の可能性を 持つことが明確になった時期,すなわち研究開発 計画の途中の時点以降に発生した部分だけを資産 計上することに対して,問題は生じないと思われ る. 」と述べ,選択的資産計上の方向の検討を排除 していない..
(4) 92. (532). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 4・5 号(2012 年 1 月). 準間の整合性の担保への回帰と捉えることが出. 開発費等会計基準」に準じて,発生時の費用と. 来うる.当初 R&D の費用処理を出発点として,. して処理される.当初認識以後の処理について. 基準間の整合性を保つように IPR&D の処理が. は,企業会計基準委員会より公表されている企. 決定し,そこへ国際的コンバージェンスという. 業会計基準適用指針第 10 号「企業結合基準及. 外的要因によって IPR&D の取り扱いが変更さ. び事業分離等会計基準に関する適用指針」(以. れ,現在一時的に国内基準間である種ねじれの. 下,「適用指針第 10 号」)によれば,IPR&D を. ような状態が生じている.. 資産として識別した場合,その使用実態に基づ. ではそもそも,R&D と IPR&D は基準間で整. き,有効期間にわたって償却されることになる. 合させるべき性格のものなのであろうか.R&D. (「適用指針第 10 号」367─3 項).ただし,その. に対する支出と IPR&D に対する支出の現行の. 開始は,当該研究開発が完成した時点であるた. 処理の違いは,理論上不整合といえるのであろ. め(同),上記の設例では第 2 期末から償却手. うか.この点について,次節では企業買収によ. 続きが開始されることになる.5 年間で均等償. り IPR&D を取得するケースを想定し簡単な数. 却と仮定すれば,各期の償却額は 300 である7).. 値例を用いながら,配分の観点から検討を加え. こ こ で,買収企業 B 社 に よって 取得 さ れ た. てみることとする.. IPR&D は,製品 a 完成までの 1 年間(すなわ. 3.IPR&D の配分上の問題点の検討 以下では簡単な数値例を用いて,仕掛中の研 究開発を買収により獲得後,自社において継続. ち図 1 の tB,1),償却されることなくそのまま繰 延べられることになる.ただし,この期間中に 減損の兆候が見られた場合には減損の対象とな る(「固定資産の減損に係る会計基準」(以下,. するケースについて,その問題点を検討するこ. 「減損会計基準」)一).例えば tB,1 期中に減損が. ととする.問題点とは,企業を買収した際に計. 認められ,当該資産の回収可能価額8)が 500 で. 上された IPR&D の当初認識以降の処理に関す るものである. ⑴ 数値の設定とその処理 A 社 は あ る 製品 a の 研究開発 の み を 行 う 企業である.B 社は第 1 期首において,この A 社を 1,500 で取得するものとする.B 社は IPR&D 取得後に 1 年間,追加の R&D 支出を 1,000 行 い,第 2 期首 に 研究開発 が 完了 し た とする.製品 a は完成時よりその後 5 年間利 用可能で,当該製品 a より得られる収益は毎 期 2,000 であると仮定する.簡略化のためB 社はその他の営業活動を行っていないものと 仮定する. こ の と き,B 社 は「平成 20 年改正企業結合 会計基準」に基づき,IPR&D を資産として計 上することになり,その額は 1,500 である.ま た,追加 さ れ た R&D 支出 1,000 は 当然「研究. . 7)この設例では,完了後において毎期 2,000 の 収益が獲得されるので,tB,1 から tB,6 における各期の 利益額はそれぞれ次のようになる.すなわち,tB,1 は △ 1,000(= 0-1,000),tB,2 か ら tB,6 は 1,700(= 2,000-300)である. ところで,改正前の基準すなわち「平成 15 年企 業結合会計基準」に基づけば,取得された IPR&D に割り当てられた額はその期の費用となるので,図 1 に お け る tB,1 で は IPR&D の 1,500 と R&D 投資額 1,000 のあわせて 2,500 が費用として計上され,当該 期間の利益は△ 2,500 となる.一方で,完了後につ いては,費用は発生しないので利益は毎期 2,000 ず つ計上される.すなわち,IPR&D について割り当 てられた金額をその期の費用とする以前の処理は, 取得時の費用負担を大きくし当該期間の利益の額を 押し下げる.そのため当然のことながら,IPR&D を資産計上後一定期間にわたり償却する場合に比較 して,利益の変動幅が大きくなることが分かる. 8) 「減損会計基準」によれば,回収可能価額は, 正味売却価額と使用価値のいずれか大きい方とし て 定義 さ れ て い る(注 1) .ま た 正味売却価額 は, 時価(公正価値)か ら 処分費用見込 み 額 を 控除 し た金額であり,使用価値とは見込まれる将来キャッ シュフローの現在価値と定義される(注 1) ..
(5) IPR&D をめぐる配分思考(光澤). (533). 93. ࠙A ♫ࠚ. t A,1 1,000㸦㏣ຍ R&D ᨭฟ㸧 ࠙B ♫ࠚ. tB,1. tB,2. tB,3. tB,4. tB,5. tB,6. 2,000. 2,000. 2,000. 2,000. 2,000. 300. 300. 300. 300. 300. 1,700. 1,700. 1,700. 1,700. 1,700. ྲྀᚓ 㸦IPR&D 1,500㸧. 㸦┈㸧. 0. 㸦IPR&D ൾ༷㈝㸧 㸦┈㸧 ڹ1,000. 図 1 現行基準に基づく IPR&D の資産計上とその後の処理. あると見積られた場合,tB,1 期に計上される減. 上し,回収可能価額で評価替えすることになる. 損損失は 1,000 であり,製品完成以降の各期の. (図 2(ウ)).規則的償却が行われている場合. 償却費は 100(= 500 ÷ 5)となる.. でも,減損の兆候が見られれば同様に減損損失. IPR&D を取得して以降の手続きの流れを整. を計上することになる(図 2(エ)).これらを. 理したものが,図 2 である.. マトリックスにまとめると表 2 のようになる. なお,当該研究開発の失敗が確定した場合に. ⑵ 問題点とその検討. おいては,直ちに IPR&D 資産として計上され. ① IPR&D の減損に関する問題. ている帳簿価額の全額を費用として処理するこ. 資産として計上された IPR&D は,研究開発. とになる.また,いったん減損損失を計上した. 活動が完了した時点すなわち研究開発活動が成. 後に回収可能価額が回復したと見込まれた場合. 功した時点で償却手続きが開始され,IPR&D. にあっても,減損損失の戻入れは認めていない. の 取得原価 は 製品 a の 原価(製品原価)と し て 配分 さ れ る こ と に な る(図 2(ア) ) .期中 において研究開発活動が完了しなかった場合, IPR&D は次期に繰述べられることになるが, 前述したように減損の対象であるため期末にお いて減損テストを実施する.減損の兆候がなけ れば取得原価のまま繰延べられ(図 2(イ) ) , 減損の兆候が見られた場合には,減損損失を計. 9) (「減損会計基準」三の 2) .. さて,ここで問題になるのは,減損処理にお . 9)こ れ は「減損 の 存在 が 相当程度確実 な 場合 に限って減損損失を認識及び測定することとして いること,また,戻入れは事務的負担を増大させ るおそれがあること」といった理由による( 「固定 資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」 (以下「減損会計基準意見書」 )四の 3 ⑵ ) ..
(6) 94. 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 4・5 号(2012 年 1 月). (534). ᴗ⤖ྜࡼࡾ IPR&D ࢆྲྀᚓ. IPR&D ࢆ㈨⏘ィୖ. 㸦㸧. 㸦ྲྀᚓཎ౯㸧 ⥅⥆. 㸦㸧 . つ๎ⓗൾ༷. άືྰ 㸦ྲྀᚓཎ౯㸫ൾ༷⣼ィ㢠㸧 ᮍ ῶᦆೃ࡞ࡋ. ῶᦆೃ࡞ࡋ ῶᦆࢸࢫࢺ. 㸦࢘㸧. ῶᦆࢸࢫࢺ. ῶᦆೃ࠶ࡾ. ῶᦆೃ࠶ࡾ. 㸦࢚㸧. ῶᦆᦆኻࢆィୖࡋࠊ ,. ῶᦆᦆኻࢆィୖࡋࠊ ,. IPR&D ࢆィୖ. IPR&D ࢆᅇྍ⬟౯㢠. 㸦ᅇྍ⬟౯㢠㸧. ࡛ィୖᚋൾ༷. 図 2 IPR&D 取得後のフローチャート 表 2 IPR&D の配分手続 研究開発活動 完了 減損兆候. 未完了. なし. 償却…(ア). 非償却…(イ). あり. 償却+減損…(エ). 非償却+減損…(ウ). ける回収可能価額の採用と償却手続きの理論的. る.. 整合性である.. これに対し回収可能価額は,正味売却価額と. 言うまでもなく, (減価)償却手続きは,一. 使用価値のいずれか大きい方であると定義付け. 年を超える長期にわたって使用する意図を持っ. られている( 「減損会計基準」 (注 1) ) .したがっ. て取得された資産について,その取得原価を使. て,売却することによって得られると見込まれ. 用する期間にわたり費用として配分する手続き. る正味の収入,もしくは使用することによって. である.したがって,ここでベースとなってい. 得られると見込まれる将来の収入の割引現在価. るのは,資産の取得に要した過去の支出額であ. 値の総額を意味している.すなわち,回収可能.
(7) IPR&D をめぐる配分思考(光澤). (535). 95. 価額はいずれにせよ将来のキャッシュインフ. らかである.. ローに基づいた金額を意味している.. つまり,IPR&D について減損を認識し回収. したがって,回収可能価額を用いて減損損失. 可能価額で計上したのであれば,それ以降は償. を認識する立場では,減損処理後の固定資産の. 却せず,継続して回収可能価額による評価を行. 帳簿価額は売掛金や受取手形のような債権と同. わなければならない.換言すれば,その後将来. 様の測定属性を有するものと理解できる.その. の収入額の増加が認められる場合が生じたら,. ため, これら債権を減価償却しないのと同様に,. むしろ減損の戻入れをする必要が生じてくるこ. 回収可能価額で認識した IPR&D についてその. とになる.測定属性として回収可能価額を採用. 後償却を継続する(エ)の手続きは理論的に合. することと,減損処理後に償却を継続する手続. 10). 理的な説明が出来ないことになる .. きは理論的に整合しているとは言いがたいので. 仮に減損損失を,耐用年数の変更あるいは残. ある.. 存価額の修正に基づく追加償却としての臨時償. ②追加 R&D 支出に関する問題. 却と同質のものとして捉えれば,原価の配分手. 次に,IPR&D 取得後に取得企業によって行. 続きの一環の中で,原価の一部が費用化した部. われる追加の R&D 支出について,図 1 の設例. 分と見ることができる11).このような理解に基. を用いて検討を加える.tB,1 において行われる. づけば,減損処理後の帳簿価額は未費消の原価. 追加の研究開発支出 1,000 は,現行の基準では. を表すことになり,その後も償却手続きが継続. 当期の費用として処理されているが,この点に. 12). して行われることは当然の処理といえる .そ. ついてまずソフトウェア制作費との関連におい. してこの場合は,減損認識の測定属性として未. て考察していく.. 費消の原価すなわち過去の支出額に基づく額が. 「研究開発費等会計基準」で は,一部 の 市販. 使われており,回収可能価額ではないことは明. 目的のソフトウェア制作費について資産とし. . 10)減損処理後の減価償却の意味について,齋 藤[2007]は取得原価主義会計の観点から次のよ うに指摘している.すなわち,「回収可能価額を用 いて,減損損失の大きさを決定する処理は,…(中 略;筆者)…支出額をベースとして行われていた 資産の評価を,収入額をベースとした評価に変換 することを意味」(44─45 頁)していると考えられ る こ と か ら,「回収可能価額 を 用 い て 減損処理 を 行った後に,過年度から引き続き減価償却を行う こ と は,将来収入額 に 基 づ い た 減価償却 の 意味, ないしは原価配分を将来収入額に基づいて行う必 然性が説明されない限り,理論的に整合性のある 処理ではないように思われる」(45 頁)と. 11)事実,「減損会計基準意見書」に お い て も, 固定資産の減損処理は「金融商品に適用されてい る時価評価とは異なり,資産価値の変動によって 利益を測定することや,決算日における資産価値 を貸借対照表に表示することを目的とするもので はなく,取得原価基準のもとで行われる帳簿額の 臨時的な減額である」と述べている(「減損会計基 準意見書」三の 1). 12)し か し な が ら,「減損会計基準意見書」は また,「臨時償却とは,減価償却計算に適用されて. て計上することを要求しているが13),資産と して計上される支出額は,製品マスター完成 以降に支出したものであって,具体的には「機 能の改良・強化を行う制作活動のための費用」 を指している14)(「研究開発費等に係る会計基 準の設定に関する意見書」三の 3).最初の製 品マスターが完成されるまでの制作活動は研 . いる耐用年数又は残存価額が,予見することので きなかった原因等により著しく不合理となった場 合に,耐用年数の短縮や残存価額の修正に基づい て一時に行われる減価償却累計額の修正であるが, 資産の収益性の低下を帳簿価額に反映すること自 体を目的とする会計処理ではないため,別途,減 損処理に関する会計基準を設ける必要がある」と して,減損処理と臨時償却との相違を強調してい る(「減損会計基準意見書」三の 2). 13)受注制作のソフトウェアの制作費は,請負 工事の会計処理に準じて処理する( 「研究開発費等 会計基準」四の 1) . 14)ただし,著しい改良に要した費用は研究開 発費として費用処理される..
(8) 96. (536). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 4・5 号(2012 年 1 月). 究開発活動 と さ れており,したがって,これ. 外部からの取得およびその資産計上という観. らの支出は研究開発費として費用処理される. 点から類似性を探れば,完成品のソフトウェア. ことになる(「研究開発費等会計基準注解」 (注. を外部より取得する場合が考えられる.外部か. 3)).また,資産として計上された支出額は無. ら完成品を取得したときには,その利用により. 形固定資産として区分計上され(「研究開発費. 将来の収益獲得又は費用の削減が確実であると. 等会計基準」四 の 4),そ の 額 は「見込販売数. 認められる場合には,資産として計上される. 量に基づく償却方法その他合理的な方法によ. (「研究開発費等会計基準」四 の 3).し か し な. り償却」される(同,四の 5).. がらこの場合には,取得したソフトウェアはす. 一方,制作途中のソフトウェアについて,そ の 制作費 は 無形固定資産 の 仮勘定. 15). でに完成しており,期末においてはその利用に. として計. 応じて償却を行うことになろう.やはりいずれ. 上することとされている( 「研究開発費等会計. にせよ現行基準とは不整合が生じているようで. 基準注解」 (注 4) ) .もちろん,ここに含まれ. ある.. る額は「機能の改良・強化を行う制作活動のた. では,当該支出を資産として計上する場合,. めの費用」であり,最初に製品化された製品マ. どのような問題が生じてくるだろうか.. スターの完成以降の支出額をいう16).仮勘定と. 追加支出 を 資産計上 す る 場合,IPR&D に 追. して計上された資産については,当然のことな. 加して計上する方法と,IPR&D と分けて「開. がら償却の対象とならない.これは,建設途中. 発費」と し て 計上 す る 方法 が 考 え ら れ る が,. の建物を表す「建設仮勘定」の金額を減価償却. IAS/IFRS では IPR&D に追加して処理する方. しないのと同じ論理である.. 18) 法が採用されている(IAS 38, para. 43(c) ) .. これを IPR&D に援用するならば,研究開発. IAS/IFRS で 上記 の よ う な 手続 き が 採用 さ れ. 活動が未完了の IPR&D の取得原価ないし回収. . 可能価額は,制作途中の項目たる無形固定資産 の仮勘定として捉えることができよう.なぜな ら,IPR&D の償却については前節で確認した ように,完了まで繰延べられるからである.こ のように,資産計上される制作途中のソフト ウェアと IPR&D には,償却の開始時点の観点 から類似性が認められる17). . 15)例えば「ソフトウェア仮勘定」などといっ た勘定科目を用いる( 「研究開発費及びソフトウェ アの会計処理に関する実務指針」 ;以下「実務指針」 , 第 10 項) . 16)期末の表示に関しては,重要性が高いもの を除き,制作途中か完成品かを区別することなく 一括して無形固定資産として表示することとなる ( 「実務指針」,10 項).そ の 一方,制作途中 の ソ フ トウェアで重要性の高いものについては,完成品 と区分して表示することになる. 17)ただし両者には大きな違いがある点に注意し なければならない.すなわち,資産計上される製作 途中のソフトウェアは,製品マスター完成以降の追 加支出そのものであって,製品自体は過去に一度は. 完成しているのである.それに対し,資産計上され る IPR&D は取得時においてはまだ途中段階であっ て未完成なのである.もちろんこのとき,IPR&D を完成させるために追加的に支出した R&D 支出は, 研究開発費等会計基準に準じて費用処理される. 18)ただし,para. 57 に示される(a)から(f) の 6 つの要件を満たす開発支出でなければならな い.すなわち, (a)使用又は売却できるように無 形資産を完成させることの,技術上の実行可能性, (b)無形資産を完成させ,さらにそれを使用又は 売却するという企業の意図, (c)無形資産を使用 又は売却できる能力, (d)無形資産が蓋然性の高 い 将来 の 経済的便益 を 創出 す る 方法.と り わ け, 企業は,無形資産による産出物又は無形資産それ 自体の市場の存在,あるいは,無形資産を内部で 使用する予定である場合には,無形資産が企業の 事業に役立つことを立証しなければならない. (e) 無形資産の開発を完成させ,さらにそれを使用又 は売却するために必要となる,適切な技術上,財 務上及 び そ の 他 の 資源 の 利用可能性, (f)開発期 間中の無形資産に起因する支出を,信頼性を持っ て 測定 で き る 能力.こ れ ら 6 つ の 要件 を 満 た さ ない開発支出である場合には費用として処理する (IAS38, para. 43(b) ) .ま た,研究支出 で あ る 場 合には費用として認識する(IAS38, para. 43(a) ) ..
(9) IPR&D をめぐる配分思考(光澤). (537). 97. た 背景 に は,基準内で の 整合と 有用な 情報提. らも自社の活動として行われる支出であるが,. 供という観点が存在している.すなわち,も. 後者がもし IPR&D に追加した上で完成までの. し追加 R&D 支出を費用として処理したならば. 間非償却となるのであれば,両者の間の違いは. 「IPR&D プロジェクトが取得されたものか,社. 何であろうか.. 内で開始したものかによって,研究開発に係る. そ こ で 次 で は,R&D 支出 と IPR&D 支出 お. 事後(subsequent)の 支出 の 会計処理 が 異 な. よ び 追加 R&D 支出 の 性格 を 明 ら か に す る た. ることになる」 (IAS38, para. BC88)ため, 「そ. め,委託研究を例にとり,活動主体と支出の負. のような支出の全てが,一貫した方法で会計処. 担者の関係から考察していく.. 理されれば,より有用な情報が財務諸表の利用 者に提供される」 (IAS38, para. BC89)として,. 4.R&D と IPR&D の性格. 特に,企業結合において取得されたその他の無. 企業は,社内で研究開発活動を行う場合だけ. 形資産の事後的な支出の取り扱いとの整合性を. でなく,自社で保有していない設備やその他の. 重視したのである.. 経営資源を外部に依存し,委託研究を行う場合. 仮に IAS/IFRS にしたがって,追加 R&D 支. がある.以下ではまず,自社とは連結関係にな. 出を IPR&D に追加計上するならば,おのずと. い外部機関への研究委託(「グループ外委託研. その償却開始時期は完成後ということになる.. 究」と呼ぶこととする)のケースと,連結関係. すなわち,IPR&D および追加 R&D を含めた. にある子会社への研究委託(「子会社委託研究」. 無形固定資産は完成するまで償却を待つことに. と呼ぶこととする)のケースを設定し,両者の. なる.. 相違点を明らかにした上で,R&D 支出の処理. 翻って,IPR&D 取得以前 に,被取得企業 に. が異なるのか否か,異なるのであればどのよう. よって費やされた研究開発費について考える. に異なるかを確認する.. と,このうち資産計上の要件を満たす支出につ. 次いでこの結果を踏まえ,グループ外委託研. いてはすでに無形固定資産として計上されてお. 究のケースにおける委託者が受託者を買収する. り,償却は開始されている.それに対し,取得. 条件を加えて,このような条件の変更が委託研. 以降に支出された R&D では,資産計上の要件. 究に対する支出の認識にどのような変化を与え. を満たすものについて,IPR&D に追加して資. る の か 検討 し,R&D 支出 と IPR&D 支出 の 性. 産として計上される.すなわち,同種の資産計. 格を明らかにする.. 上の要件を満たす開発費が,一方ではすでに償 却されて費用として配分され,他方では完成ま. ⑴ R&D 支出の認識時点. で費用として配分されないという不整合が生じ. 委託研究のための支出は,自社内で行う場合. ている.. と同様「研究開発費等会計基準」に準じて処理. 社内研究開発活動に対して投じられる R&D. されることになる(研究開発費等会計基準,六. 支出は,もちろん自社の研究開発活動に対して. の 1).すなわち,委託研究支出を費用として. の支出である.それに対し,IPR&D は他社が. 処理することになるが,ただしその認識時点は,. 行っていた研究開発活動に対して,評価し買収. 現行基準では,委託研究の成果についての検収. 価額の一部を割り当てたことは前述の通りであ. を行った時点である.. る.しかし,取得した研究開発活動を継続する. 簡単な数値例を設定してみる.. 際の追加支出である開発費は,自社の研究開発 活動に対する支出となる.社内研究開発の開発 費と IPR&D の追加支出である開発費は,どち.
(10) 98. 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 4・5 号(2012 年 1 月). (538). C♫. ͐◊✲㛤Ⓨࢆ 2,000 ࡛እ㒊ጤク 2ᖺ. ᳨㸻C ♫ࡢ㈝⏝ㄆ㆑Ⅼ. ጤ ク. t1 D♫. t2. ͐◊✲㛤Ⓨࢆ⾜࠺. 図 3 委託研究の例. C 社は D 社に対し研究開発活動を委託して 㸺ᅗ 4㸼 (貸) 現金 2,000 となって,委託費用は資産として計上される. い る.期間 は 2 年間,そ の 委託費用 は 2,000. t1 ᮇᮎ࠾ࡅࡿぶ♫ࡢಶู B/S. の契約である.C 社は t1 期首において委託費. ๓Ώ㔠. 2,000. Ꮚ♫ᰴᘧ. 1,000. 用を全額支払った(図 3 参照) .. その後 t1 期では仕訳は行われず,検収を迎え. ㈨ᮏ㔠 3,000 る t 期に研究開発費を計上することになるか 2. ら,. この場合,C 社が t1 期首(t0 とする)におい 3,000. t2 (借) 研究開発費 2,000 3,000. 行われていないので R&D 費に該当せず,前渡. として,先に計上した前渡金を研究開発費に振. て支払った 2,000 は,この時点ではまだ検収が. (貸) 前渡金 2,000 . t ᮇᮎ࠾ࡅࡿᏊ♫ࡢಶู B/S. 1 金として処理することになる( 「実務指針」 ,第. 替える処理をする.. ⌧㔠 が 単年度 で あ れ ば,検収時 2,200 3 項) .契約期間 に. ๓ཷ㔠 2,000 一方で研究開発を受託する D 社は,「研究開. 属は問題にならないが,設例のように契約期間 3,000. 開発費等に係る会計基準,六の 3,0001),「工事契約. えられる.R&D 費 2,000 が計上されるのは検. することになる.すなわち,t0 で受け取った委. 収時,すなわち t2 期末であり,t1 期に R&D 費. 託金について前受金として処理をし,その後研. は計上されない.したがって,自社で研究開発. 究開発の実績に応じて収益へと振替えることに. ᮍᡂ R&D ᨭฟ 800 認識される R&D 支出の処理について費用の帰 が複数年度にわたる場合,次のような問題が考. ㈨ᮏ㔠 1,000 発費等に係る会計基準」の適用外であり(研究 に関する会計基準」に準じてその委託金を処理. 活動を行う場合と,外部に研究開発を委託する なる(工事契約に関する会計基準,9).収益へ 㸺ᅗ 4̺1㸼 場合とでは,費用計上のタイミングが違ってく の振替え方法には「工事進行基準」と「工事完 t ᮇᮎ࠾ࡅࡿ㐃⤖ B/S 1. ることとなる.つまり,自社で同様の研究開発. ⌧㔠. 2,200. を行えば t1 期末に費用として処理されるはず. ᮍᡂ R&D ᨭฟ. 800. の支出が,外部委託することによって前渡金と. 3,000 いう資産に計上され,t2 期末まで繰延べられる. 成基準」の二つがあるが,「工事契約に関する. ㈨ᮏ㔠. 3,000. 会計基準」に基づけば,その進行途上において. 「進捗部分について成果の確実性が認められる. 3,000 場合には工事進行基準を適用」することになる. ことになる.. が,それ以外は「工事完成基準を適用」するこ. このケースにおける C 社の仕訳は次のよう. とになる(第 9 項).「工事進行基準」を適用す. になる.まず,委託に際し,委託費用を支払っ. るに当たっては,「工事収益総額について信頼. た時点では,. 性を持って見積ることができることが前提」と. t0 (借) 前渡金 2,000 . なっており(第 49 項),また「信頼性を持って. 4.
(11) IPR&D をめぐる配分思考(光澤). (539). 99. B/S(親会社) 前渡金. 2,000. 子会社株式. 1,000. 資本金. 3,000. 3,000 3,000. B/S(子会社) 現金 未成 R&D 支出. 2,200. 前受金. 2,000. 800. 資本金. 1,000. 3,000. 3,000. 図 4 t1 期末における個別 B/S. 工事収益総額を見積るためには,その前提とし. 実際 に 研究開発活動 を 行った D 社 が「工事契. て,最終的にその工事が完成することについて. 約に関する会計基準」に準じ,実際には研究開. の確実性が求められ」ている(第 48 項) .すな. 発活動 を 行って い な い C 社 が「研究開発費等. わち,研究開発の不確実性を前提とした場合,. 会計基準」に準じて R&D 費用を計上すること. 「工事完成基準」を採用することになると考え. になる.すなわち R&D の認識では,研究開発. られる.. 活動に対する支出の事実は必要条件となるが,. したがって,まず D 社が委託金を受け取っ. 実際に自社で研究開発活動を行っているか否か. た時点 t0 における仕訳は以下のようになる.. は必要条件ではないことが分かる.そして注目. t0 (借) 現金 2,000 . すべきは,R&D の認識時点すなわち費用計上. (貸) 前受金 2,000 . のタイミングが,通常自社内で研究開発活動を. また,各期に発生した研究開発支出を 800 と. 行う場合と設例のようなグループ外委託研究と. 仮定すると,D 社における t1 期中の仕訳は以. では異なる点である.. 下のようになる. (t2 期中も同様なので省略す. ここで D 社が C 社の子会社であるという条. る). 件を加えてみる.すなわち当該委託研究が子会. t1 (借) 未成 R&D 支出 800 . 社委託研究であるケースを考える.親会社側お. (貸) 現金 800 . よび子会社側それぞれ個別ベースでは,グルー. このとき,借方の「未成 R&D 支出」勘定は. プ外委託研究の場合と同じ処理が行われる.し. 支出未費用の未決算勘定であり,C 社による検. たがって,t1 期末において,親会社側には子会. 収を終えるまで繰延べられる.その後 t2 にお. 社に対する前渡金勘定が,子会社側には親会社. いて検収を終えた時点で,D社は売上および売. に対する前受金勘定が存在する.親会社の持分. 上原価を認識することになる.. 比率 100%,子会社に対する投資を 1,000 とし, また子会社はその全額を現金で保有するものと. t2 (借) 前受金 2,000 . してそれぞれの個別財務諸表を作成すると図 4. (貸) 現金 2,000. のようになる.(簡略化のため,その他の資産. (借) 売上原価 1,600 . および負債は一切ないと仮定する.). (貸)未成 R&D 支出 1,600. 連結貸借対照表を作成する際は親会社の前渡. 上記 の 設例 に おけるグループ外委託研究で. 金 2,000 と子会社の前受金 2,000 が相殺される. は,実際 に 研究開発活動 を 行 う の は 受託企業. 一方,子会社側で計上されている未成 R&D 支. (D 社)であって,委託している C 社ではない.. 出 800 が計上されることになる(この時点では.
(12) 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 4・5 号(2012 年 1 月). 100 (540). B/S 現金. 2,200. 未成 R&D 支出. 資本金. 3,000. 800 3,000. 3,000. 図 4―1 t1 期末における連結 B/S B/S(修正後) 現金. 2,200. 資本金. 2,200. 図 4―2 t1 期末における連結 B/S(修正後). 研究開発費は計上されていない) .連結 B/S を 作成すれば図 4─1 のようになる.. 上を計上する. (借) 前受金 . この設例においても,実際に研究開発活動を 行うのは D 社であり,先ほどのグループ外委. (貸) 売上 (借) 売上原価 . 2,000 2,000 1,600 . 託研究と変わりない.しかしながら,この場合. (貸)未成 R&D 支出 . C 社と D 社は連結関係にあるため,決算に際. 一方で親会社側では,連結ベースで次のよう. しひとつの企業集団として捉えられるのである. な修正仕訳を行う.. から,委託契約期間の途中(t1 期末)において 連結ベースにした際,当期に発生しているはず の R&D 支出は費用としてその期に処理されな. (借)売上 (貸)前渡金 (借)研究開発費 . 1,600 . 2,000 2,000 1,600 . ければならない.この点について,実務指針等. (貸)売上原価 . に該当箇所を見出すことはできなかったが,現. 親会社側では,研究開発費勘定の t2 期首残高. 行の研究開発費等会計基準に鑑みれば,t1 期末. が貸方 800 であったので,連結ベースで見たと. においては以下のような修正仕訳が行なわれる. きに当期計上される研究開発費は 800 となる20).. ことが考えられる.. ここまでの検討内容をまとめると表 3 のよう. (借) 研究開発費 (貸) 未成 R&D 支出 . 800 800 . これにより,先ほど図 4─1 で示した t1 期末 における連結貸借対照表は図 4─2 のように修正 されることになる19). また,t2 期首において,当該研究開発費は 「未 成 R&D 支出」に振り戻される. (借) 未成 R&D 支出 (貸) 研究開発費 . 800 800 . その後,期中に発生した R&D 支出 800 を加 え,先 ほ ど の 設例 と 同様 に,検収 を 受 け る t2 期末において子会社側では次の仕訳によって売 . 1,600 . 19)資本 の 減少分(800)は,t1 期 の R&D 支出 を費用とした金額に相当する.. . 20)本文から分かるように,連結ベースでは t1 期末および t2 期末において,それぞれ研究開発費 が 800 ずつ認識される.これはもちろん,企業集 団内部で発生した研究開発支出について,通常の 研究開発支出の処理と整合させるための修正であ る.しかしながら実はこの場合,委託研究の費用 認識を検収まで繰り延べるという工事完成基準の 前提と相反していることになる.連結ベースで各 期に費用が認識されれば,実質的には工事進行基 準を採用しているのと同じことになる.そもそも 研究開発支出が発生時に費用処理されたのは,将 来の便益獲得の不確実性の高さが理由に他ならず, それゆえ「最終的にその工事が完成することにつ いての確実性」がないと判断できるため工事完成 基準を採用したにもかかわらず,連結修正によっ て前提が崩れ矛盾が生じるというおかしな状況に なっている..
(13) IPR&D をめぐる配分思考(光澤). (541) 101. 表 3 R&D 活動の主体と実質的支出負担者の関係と会計処理 社内研究開発. 研究開発活動の種類. 委託研究 委託先:子会社. 委託先:グループ外. 自社. 活動主体. 受託者(子会社). 受託者. 自社. 実質的支出負担者. 委託者(親会社). 委託者. 一致. 活動主体と実質的支出負担者 の関係. 毎期費用処理. 会計処理. (個別上)不一致 (連結上)一致. 不一致. 委託者. 検収まで繰延. 検収まで繰延. 受託者. 資産計上 (請負工事に準じる). 資産計上 (請負工事に準じる). 連結. 費用処理. になる. 自社 に お け る 研究開発活動(社内研究開発). ⑵ R&D と IPR&D の相違点と処理の整合性. においては,当然のことながら活動主体と実質. で は,R&D と IPR&D の 相違点 を 明 ら か に. 的な支出負担者が一致している.この場合,改. するために,先ほどのグループ外委託研究の. めて言うまでもないが,R&D 支出は毎期費用. ケース に,契約期間 の 途中 に お い て C 社 が D. として処理される.. 社を買収する条件を加えて検討を試みる.すな. 一方委託研究における活動主体は,グループ. わち,前節のグループ外委託研究のケースを非. 外委託研究であれば受託企業,子会社委託研究. 完全委託研究のケースへ転換し,表 3 に示した. であれば関連子会社となる.前者は活動主体と. 活動主体と支出負担者の関係と R&D 支出の処. 実質的な支出負担者が一致しておらず,この場. 理との関連性が保たれているかどうかを検討し. 合 R&D 支出はその実質的な支出負担者におい. たうえで,R&D と IPR&D の相違点を明らか. て,検収時点 ま で繰延べる処理を行ない,検. にしていく.. 収が完了してはじめて費用として処理される こととなる.これに対し後者は,連結ベースで. 委託研究期間が 1 年経過した 期末において,. 見れば活動主体と実質的な支出負担者は一致し. C 社は D 社を 3,500 で買収するものとする.. ていることになる.このとき,最終的な費用の 認識について検収時点まで繰延べる処理は前者. D 社 が 研究委託 を 受 け る 直前 の 資本金 が. と変わりないが,契約途中の期における連結財. 1,000 で保有資産は現金のみ,前受金を除くそ. 務諸表の作成においては,子会社側で当該期間. の他の負債が 0 であったとすると,t1 期首すな. に計上された「未成 R&D 支出」資産の金額を. わち,委託を受けた時点における貸借対照表は,. R&D 費用として修正することになる.. 図 5 の通りである.. こ の よ う に,研究開発活動の主体とその実. そして毎期研究開発費として 800 費消される. 質的支出負担者 が 一致 す る か 否 か が,当期 の. と仮定すると,t1 期が終了した時点では,図 6. R&D 支出を費用として処理するかどうかのク. の通りとなる21).. ライテリアとなっていることが分かる.すな. これを 3,500 で買収したとすれば,取得した. わち,活動主体と実質的支出負担者の一致は,. 企業の現金 2,200 を差し引いた 1,300 が IPR&D. R&D 支出が行われた期にタイムラグなく費用 として認識するための必要条件でありかつ十分 条件といえる.. . 21)これは資本金の出資者が異なるだけで,前 節の図 4 における子会社の個別 B/S と同じになる..
(14) 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 4・5 号(2012 年 1 月). 102 (542). B/S 現金. 3,000. 前受金. 2,000. 資本金. 1,000. 3,000. 3,000. 図 5 t1 期首における D 社の B/S B/S 現金 未成 R&D 支出. 2,200. 前受金. 2,000. 800. 資本金. 1,000. 3,000. 3,000. 図 6 t1 期末における D 社の B/S. の評価額として割り当てられることになる.C. 支出との処理の差が生まれていることが理解で. 社において IPR&D として計上される 1,300 の. きる.. 評価額の中には,D 社が研究開発活動に対して. R&D 支出は研究開発活動そのものに対して. 実際に支出した金額(未成 R&D 支出)800 が. 実際に支出されたものであって,活動の主体. 含まれる. (なお,C 社が先に支出した前渡金. ──自社内か外部か,子会社か──を問わず,. 2,000 と D 社の前受金 2,000 は相殺される. ). 実質的な支出負担者のもとで費用として認識. このように,現行の基準の下でも,本来なら. されることは前節で確認したとおりである.そ. ば研究開発費として費用処理される支出を,企. れに対し IPR&D は被取得企業が主体となって. 業結合という手法を用いることで資産として計. 行っていた研究開発活動に対して,取得企業が. 上することも不可能ではないことが示された.. 対価を支払って取得したものである.そしてそ. しかしながら,もともとこの設例は,研究開発. の評価の基礎は企業結合における買収価額の. の活動主体と実質的支出負担者が不一致である. 「割り当て」によるものであり,企業結合の時. グループ外委託研究のケースを,両者が一致す. 点 で 被取得企業 が 行って い た 研究開発活動 に. る子会社委託研究のケースへと転換したもので. 実際にいくらかかっていたかは問題とならな. ある.前節における子会社委託研究の連結上で. い22).さらに言えば,研究開発活動の実質的な. の当該支出の取り扱いは,修正が加えられるこ. 支出負担者が誰かも問題とはなっていない23).. とによって当期の費用として認識されており,. 当該対価の直接的な支出者である取得企業にお. したがって活動主体と実質的支出負担者が一致 することが,当期の R&D 支出を費用として処 理するクライテリアだったことを確認した. これに対し,この設例では,買収した時点で す で に 親会社 の 個別 B/S 上 に IPR&D と い う 資産が計上されており,連結 B/S でも同様に IPR&D が計上されることになる.しかもその 評価額は,前節では費用として処理される 800 を含んでおり,両者の処理に差が生じているこ とが分かる.すなわち,企業結合という経営環 境の変化が所与となって,R&D 支出と IPR&D. . 22)このことは第 3 節の設例(A 社と B 社の例) からも明らかである. 23)ただし,この節における設例では誰が支出 していたかは IPR&D の計上額に影響を与える.す なわち,買収企業(C 社)が研究を委託していた D 社を買収するケースを設定したため, 「未成 R&D 支出」を含めた額 1,300 が IPR&D として計上され ることになるが,D 社が別の E 社から研究を委託さ れていてそれを C 社が買収する場合,C 社の貸借対 照表上に計上されている「未成 R&D 支出」は,契 約に従って完成後に E 社に引き渡さなければならな いことが当然考えられ,その場合の IPR&D の評価 額は「未成 R&D 支出」800 を除いた 500 となる..
(15) IPR&D をめぐる配分思考(光澤). (543) 103. いて,IPR&D 支出が認識され,資産として計. 資産に対する資本的支出という性格を有するた. 上される.企業結合に当たって,被取得企業が. め,IPR&D の処理と整合させて資産計上され. 所有する「作りかけの何か」に対し,買収企業. ているにすぎないからである.. が価値を認めて対価を支払ったのである.. だがその一方で,上記の設例のように実際に. 以上 に 鑑 み れ ば,R&D 支出 と IPR&D 支出. 研究開発活動に支出していた企業(C 社)が途. の処理が異なっていてもなんら不思議なことで. 中で研究を委託している企業(D 社)を買収. はないようにも思われる.異なる経済事象に対. する場合はどうであろうか.買収以前に支出. し,異なる処理が行われるのは当然のことであ. していた R&D 支出と,その後企業結合によっ. る.両者は「研究開発(R&D) 」という共通の. て IPR&D として資産計上し買収以降に追加で. 用語が用いられるため,その当初認識における. 支出する R&D 支出とは,どちらも同一の研究. 評価の問題や資産性の問題─すなわち将来の経. 開発活動に対する同一の企業による支出であっ. 済的便益の蓋然性ないし不確実性─もしばしば. て,実質的に同じである.特殊なケースではあ. 同一視される.しかしながら,IPR&D につい. るものの,支出負担者が一致するこのような. て評価額を割り当てること自体が蓋然性の証拠. ケースで企業結合の前後での整合性──すなわ. となっているともいえる24).すなわち R&D 支. ち,すでに支払った R&D 支出という点におけ. 出と IPR&D 支出はその当初認識において,必. る整合性を担保するならば,両者の処理に違い. ずしも整合させるべき性格のものではないと. があってはならないことになる.もっという. いうことである.ただし,取得した IPR&D に. と,「研究開発活動に対する既支出額」という. 対して行われる追加の R&D 支出に関しては,. 実質的な性格を強調すれば,上記のような特殊. IAS/IFRS が採用するようにこれを資産計上す. なケースでなくとも R&D 支出と IPR&D 支出. ること. 25). が直ちに社内開発費の資産計上につ. の処理は同一でなくてはならないといえよう.. ながるとは言い難いように思える26).なぜなら,. 整合性 を ど こ に 求 め る か は,R&D 支出 と. 追加 R&D 支出は取得した IPR&D という無形. IPR&D 支出の性格を捉えるにあたりどこに力. . 24)IAS38 では企業結合の一部として取得され た無形資産の公正価値について,「資産から生み出 される将来の経済的便益が企業に流入する確実性 に関する期待を反映する」ものであるとし,「たと えその流入の時期又は金額に関して不確実性があ るとしても,企業は経済的便益の流入があると期 待している」ため,企業結合による取得において は無形資産の認識基準のひとつである蓋然性は常 に満たされていると述べられている(IAS38, para. 33).同様 に,IFRS3 で は「取得日 に お け る 観察 可能な対価が,交換にかかわる当事者が研究開発 から将来の経済的便益が生じると期待していると いう証拠になる」として仕掛研究開発の資産性を 認め,個々のプロジェクトの不確実性は公正価値 の測定時に反映されると述べられている(IFRS3, para. BC152). 25)もちろん,開発費として資産計上できる要 件を満たしたものに限るのは前述したとおりであ る. 26)ただしこれは,社内開発費の資産計上その ものを否定するものではない.. 点を置くかという問題に等しく,そしてそれが また,両者の処理の相違を生み出しているとい える. 5.効果の発現と費用配分の期間 IAS/IFRS では,耐用年数が確定できる無形 資産 の 償却開始 は,当該資産 が「使用可能 と なった時点」とされている(IAS38, para. 97). すなわち取得した IPR&D および IPR&D に対 する追加 R&D 支出の償却開始は,その完成時 点ということになる.取得した IPR&D を研究 開発の完了時点まで,償却を行わず取得原価の まま計上する手続きや,IPR&D に対する追加 R&D 支出の繰延べが認められる理由は,その 効果の発現の時期に由来する.もっといえば, 通常の社内開発費に関しても,その資産計上が 認められるものについて,償却開始時点は同.
(16) 104 (544). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 4・5 号(2012 年 1 月). じ く「使用可能 と なった 時点」で あ る.IAS/. IPR&D が完成して使用可能となることにより. IFRS においては通常の社内開発費も,IPR&D. 効果が発現したと考えることができる.これは. に対する追加 R&D 支出も,区別することなく. 「建設仮勘定」や「仕掛品」と いった 製造途中. 「効果の発現」まで繰り延べていることがわか. の有形資産の項目は,その段階では償却の対象. る.. とせず,完成して(使用や販売という形で)利. わが国では,IPR&D の資産計上後の償却開始. 用可能となる時点まで繰延べる手続きと整合し. 時期について, 「研究開発費に関する論点の整. ている.自社で使用する場合には減価償却手続. 理」で「企業結合等により取得した研究開発活. きにより費用配分され,外部に販売する場合に. 動の効果をどのように捉えるかによる」と指摘. は売上原価として損益計算に算入される.. し(87 項) ,使用開始時点や,その利用によっ. さて,現在わが国で検討されている社内開発. てキャッシュフローの獲得に貢献する期間をい. 費は,無形資産の枠組みの中で,その資産計上. かに見積もるかによって変わってくると述べて. の議論が展開されている.社内開発費を無形資. い る(85 項) .そ の 上 で,IPR&D は「生産活. 産として資産計上したとして,その次の問題は. 動等への利用開始時点からその経済効果の及ぶ. 償却開始時点をいつにするかである.IPR&D. 期間にわたって規則的に償却」する実務が一般. に対する追加支出たる開発費が,「効果の発現」. 的であるとしている(85 および 87 項) .具体. を待って償却されることとの整合性を担保する. 的には「実際に生産活動や販売目的への利用が. のであれば,社内開発費についても同様に「効. 開始された時点」が償却開始時点であり,この. 果の発現」を待って償却を開始することになる. よ う な 処理 は IPR&D を「独立 し た 生産要素」. だろう.しかしながら社内開発費は,FASB や. と見ることにより可能となる (76 項)のである.. わが国においてそもそもその高い不確実性によ. また,追加 R&D 支出は,企業結合により取. り費用処理されることとなった経緯がある27).. 得した IPR&D を完成させるために費やされた. すなわち「効果の発現」との関連性が低いこと. 支出であり,IPR&D は完成してはじめてその. をその理由としていたのである.. 効果が発現する.研究途中段階の状態で取得さ. FASB が 社内(研究)開発費 を 費用処理 と. れた IPR&D は,いわば建設途中の有形固定資. し た こ と に つ い て,次 の よ う な 見解 が あ る.. 産たる「建設仮勘定」と同様の性格を持ってい. Anthony et al.[ 1989]に よ れ ば,「 FASB の. るといえ,追加された R&D 支出は建物を完成. こ の 問題(不確実性;筆者)に お け る 決定. させるための建築費と見ることができる.追. は,ある概念の間に存在する固有のコンフリ. 加 R&D 支出を IPR&D の資本的支出として捉. クトの大変興味深い例である.」として,対応. えれば,IPR&D に追加 R&D 支出も含めた全. 概念(matching concept)と 保守主義 の 概念. 体がひとつの資産を構成するため,追加 R&D. (conservatism concept)の対立の構造の中で,. 支出の効果の発現もまた完成時点ということに. FASB は 対応概念 よ り も 保守主義 の 概念 を 重. なる.追加 R&D 支出の償却の開始時点が,こ のように IPR&D の完成後(利用開始時点)か らとされている点から明らかなことは,追加の R&D 支出が IPR&D と一体視されていること, すなわち,ここでの開発費は無形資産として捉 えられていることである. 繰り返しになるが,追加 R&D 支出は IPR&D の 資本的支出 で あ る が ゆ え に,対象 と な る. . 27)FASB[1974]によれば,R&D プロジェク トは通常高い割合で失敗していることが多いこと (SFAS2, para. 39) ,また,プロジェクトがすでに 研究段階を終えた後や,新製品あるいは改良され た製品がまさに市場に出ようとしているもしくは 利用されようとしている状態にあっても,なお失 敗率は高いこと(SFAS2, para. 40)といった R&D 活動の不確実性を論拠にして,全額費用処理を採 用したのである(SFAS2, para. 38) ..
(17) IPR&D をめぐる配分思考(光澤). (545) 105. 要視したのであると言うものである(Anthony. ながらも,それはすなわち,実際に「対応」さ. et al.[1989] , p. 244) .対応概念 の も と で は,. せてはいないことを一方では意味している.収. 「効果の発現」する期間にわたって,原価を配. 益との対応を厳密に考えるならば,当該研究開. 分することになる.これに保守主義の概念をあ. 発が完成するまで,すなわち「効果の発現」が. わせれば, 「効果の発現」する期間を短く見積. 判明するまでその償却開始を待たねばならな. り,できるだけ早期に費用化することを選好す. い.しかしながら,観念的に収益との対応を考. るといえる. 発生時に全額を費用化する処理は,. えれば,将来の経済的効果の発現の時期がいつ. その中でもっとも極端な保守主義概念の適用形. からなのかとか,その効果の持続期間がどれぐ. 態といえる.すなわち, 「効果の発現」する期. らいかは問題とはならないのである.. 間を 1 年未満とし,発生した期間にのみ配分し ているのである.. 6.おわりに. 対応概念をより重視することにより,計上さ. 本稿では,IPR&D 支出の取り扱いが変更さ. れる特殊な資産として繰延資産を挙げることが. れたことによって,社内研究開発費の取り扱い. できる.従来,わが国では研究開発費に類似す. についての検討が行われているという背景を起. る概念として試験研究費および開発費があり,. 点 に,R&D 支出 と IPR&D 支出 の 処理 の 整合. これらを繰延資産として計上することが容認さ. 問題について検討を行った.その目的のため,. れていたことは改めて言うまでもない.無形資. 第 2 節では R&D 支出および IPR&D 支出をめ. 産が,資産負債アプローチに基づく概念である. ぐる会計基準の改正の経緯を概観し,両者の処. のに対し,繰延資産は,発生主義の観点から,. 理が密接に関連していることを確認した.そし. その支出額をもって資産計上が認められている. てそこでは基準間での整合性の担保が関係して. 特定の支出である. すなわち, 収益費用アプロー. いることが指摘できた.. チに基づいた擬制資産である.. 第 3 節では基準間で整合性を担保することが. 特定の支出に対して資産計上が認められる理. 必要かどうかという意識のもと,まず設例を用. 由は,将来の収益との対応(matching)であり,. いて, 「平成 20 年企業結合会計基準」に基づく. 「期間利益の平準化」の観点に他ならない.毎. 処理を IPR&D 支出の配分の観点から整理した.. 期経常的に R&D 支出が行われる場合には,損. その上で,研究開発活動が期末時点において完. 益計算への影響は少ないと考えられるため繰り. 了していない場合,取得原価ないし回収可能価. 延べる必要はない.そのため,資産計上せず,. 額のまま繰延べられ配分が行われない IPR&D. 早期に費用配分する処理(支出した期に全額費. が 貸借対照表上 に 無形資産 と し て 計上 さ れ る. 用処理)が行われるのである.しかしながら,. こ と を 確認 し た.ま た,第 2 項 で は 取得 し た. 特別な R&D 支出の場合,その支出額は明らか. IPR&D を完成させるために支出される追加の. に異常値となり,投資家の投資意思決定に対す. R&D 支出について検討を加えた.ここでは,. る有用性を欠いた情報となりうる.そのため,. 他社から取得した IPR&D の完成のために追加. 支出した期に全額費用配分するのではなく,一. す る 場合 の R&D 支出(追加 R&D 支出)を 資. 度未費消の原価たる資産に配分し,その後の複. 産計上する場合の性格が,現行の「研究開発費. 数期間にわたって徐々に費用化する手続きをと. 等会計基準」で資産計上が認められている開発. るのである.. 費と異なるのではないかという疑念が生じた.. 繰延資産として計上された額は,計上後直ち. これを受け第 4 節では,研究開発活動の活動. に償却を開始して当該資産の耐用年数にわたっ. 主体とその実質的支出負担者の観点から,まず. て費用配分される.将来の収益との対応といい. グループ外委託研究と子会社委託研究の設例を.
(18) 106 (546). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 4・5 号(2012 年 1 月). 用いて検討を行った.その結果,外部に研究委. て両者を区別するのであれば,社内開発費を繰. 託する場合,それが完全に外部の機関か関連子. 延資産として計上しているのと事実上変わらな. 会社かに関わらず,R&D 支出を費用として認. いことになる.無形資産として資産計上するこ. 識するタイミングが自社内で研究開発を行う場. とを前提とする以上,両者を区別しないという. 合と異なることが確認された.ただし,関連子. 選択肢を採るのであれば必然的に「効果の発現」. 会社に研究を委託する場合(子会社委託研究). が認められる時点(すなわち完成時点)まで繰. では,連結ベースで見たときに必要な修正を行. り延べることになる.このときの開発費は「仮. うことによってタイムラグの問題は解消され,. 勘定」の性格を持っている.. その結果,研究開発活動の主体とその実質的支. このように開発費を資産計上する場合,費用. 出負担者が一致することが,R&D 支出を支出. 化の手続き上「効果の発現」を客観的に決定す. が行われた期の費用として処理するための必要. る必要性が生じてくる.換言すれば「効果の発. 十分条件であることが確認できた.. 現」が客観的に決定可能ならば,資産計上して. 次いで,研究を委託している外部機関を買. 繰延処理をすることとなるが,ではそれがなぜ. 収 す る 設例 を 用 い て,そ こ か ら R&D 支出 と. 開発費にのみ適用されるのであろうか.つまり,. IPR&D 支出 の 性格 を 探った.そ の 結果,企. それ以前に,ある研究プロジェクトの存在が. 業結合 と い う 経営環境 の 変化 が R&D 支出 と. あって,研究段階と開発段階に分けた結果,開. IPR&D 支出の処理の差を生んでいること,ま. 発費が存在するのである.一連の研究プロジェ. た,取得 し た IPR&D に 対 し て 行 わ れ る 追加. クトであれば「効果の発現」は同じはずである.. の R&D 支出が資産計上される可能性について. 同じであれば,研究段階における支出も無形. は,当該 R&D 支出 を IPR&D の 資本的支出 と. 資産 の「仮勘定」と し て「効果 の 発現」ま で. 捉えることにより成立するが,そのことが直ち. 繰延べる手続きをとってもよいのではないか. に社内開発費の資産計上にはつながるとはいえ. と考える.研究段階における成功の確実性が. ないことを明らかにした.. 低いとしても,失敗することが判明した時点. さらに,第 5 節では, 「効果の発現」に主眼. で 減損 も し く は 全額償却 し て し ま え ば 済 む.. を置き,R&D 支出を資産計上することの障害. 配分の観点からすれば,いつかの時点で費用. となっている費用配分の期間の決定に関して,. 化するといった意味においては,支出した期. 繰延資産を例に検討を加えた.. に費用化する処理と同じである.投資家の投. もし,資産計上された社内開発費の「効果の. 資意思決定に資する情報を提供する意味では,. 発現」との厳密な対応が確定できないというの. むしろ金額の大きな研究段階の支出こそ収益. であれば,繰延資産のように観念的な対応とし. 費用アプローチに基づいて複数年度にわたり. て捉えることにより,資産として計上後直ちに. 費用配分するべきである.. 償却を開始する手続きをすることになろう.し かしこの場合,IPR&D に対する追加支出たる 開発費の取り扱いとの整合は保てなくなる.社 内開発費を繰延資産としてではなく,無形資産 の枠組みで議論するのであれば, 「社内におけ る開発支出」という意味において実質的に同じ 性格のこの二つの支出の償却開始を峻別するに あたって,正当な理由が明示されなければなら ない.しかしながら,そもそも償却開始につい. 参考文献 Anthony, Robert N. and James S. Reese[1989] , Accounting: Text and Cases(8th edition), Richard D. Irwin, Inc., Illinois. FASB(Financial Accounting Standards Board) [1985] , SFAC (Statement of Financial Accounting Concepts)No. 6 “Elements of Financial Statements”. FASB(Financial Accounting Standards Board) [1974] , SFAS (Statement of Financial.
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