• 検索結果がありません。

特別支援学級における社会科学習の実践

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "特別支援学級における社会科学習の実践"

Copied!
4
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

− 265 −

宇都宮大学教育学部教育実践紀要 第2号 2016年8月1日

特別支援学級における社会科学習の実践

†

松島 清香

*

・司城紀代美

**

宇都宮市立陽南小学校

*

宇都宮大学大学院教育学研究科

** 概要 特別支援学級の在籍児童数増加に伴い、新たに特別支援学級の担任となる教員が増え特別支援学級で どのように授業を進めるかは大きな課題となっている。本実践では、国語や算数よりも抽象度が高まる社会 科の学習でも、児童の実態に応じた単元構成や教材の工夫を行うことで理解を深め、興味関心を持って学習 できるのではないかと考え、社会科授業の実践と、授業の中で児童が抽象的な事象をどのように理解したか についての考察を行うこととした。授業の中では児童が自分の経験をもとにしながら抽象的な概念を理解す る様子が観察され、難しいと思われるような課題や児童同士でのやり取りも教師側の工夫で、可能となる力 を児童は持っていることがわかった。  キーワード:特別支援学級の授業 談話分析 抽象的概念の理解  児童数の増加とともに、毎年、新たに特別支援学 級の担当者となる教員が増えていることがわかる。 専門性が特に必要な特別支援学級の担当者が、初め てこの分野を任されて、戸惑いながら日々の教育活 動にあたる場合が増えていることが伺える。 Ⅱ 特別支援学級での社会科学習の目的  Ⅰで述べたように、特別支援学級の在籍児童数増 加に伴い、新たに特別支援学級の担任となる教員が 増え、経験が浅い中で、様々な困難を抱えている児 童と向き合わなければならない状況では、やむを得 ず国語や算数のドリル的な学習が中心となりがちで ある。  しかし、社会や理科の学習には、生活に密着して いる事象が多く、生活体験や興味・関心の幅が狭く なりがちな児童に対して、新しい気付きや経験の幅 を広げることができるのではないかと考える。  また、特別支援学級の教科学習では個別学習が中 心になりがちであるが、社会や理科の学習では、小 集団での学びを積極的に取り入れやすい。小集団で の学習を意図的・効果的に取り入れることにより、 日常生活の中では人とスムーズに関わることが難し い児童も教材や学習活動を媒介にして、友達と関わ る機会が増えることが期待できるのではないかと思 われる。 Ⅰ はじめに  宇都宮市では、近年特別支援学級の学級数及び在 籍児童数が、年々増加している(「宇都宮市の特別 支援教育−平成26年度の状況−」宇都宮市教育委 員会編)。また、特別支援学級に在籍している児童 の人数の増加とともに、児童の困難さの度合いがそ れぞれ異なっていたり、障害が重なり合っていたり と、教育活動における支援の在り方が多様になって きていることも伺える。  特別支援学級在籍児童数の増加とともに担当して いる教員数も増加している。担当している教員の経験 年数を見ると(「宇都宮市の特別支援教育−平成26 年度の状況−」宇都宮市教育委員会編)、宇都宮市 の小学校における特別支援学級・通級指導教室担当 者135人のうち、経験年数0∼5年が63人、5∼ 10年が26人、10∼15年が22人、15年から 20年が4人、20年以上が20人となっている。   Sayaka MATSUSHIMA*, Kiyomi SHIJO**:

Social Study Lessons in the Special Needs Class

Keywords : Lessons in the Special Needs Class,Discourse Analysis,Understanding of the Abstract Concept

 * Yonan Elementary School

** Graduate School of Education, Utsunomiya University

(2)

− 266 −

 例えば、社会科の目標として、学習指導要領の中 で、「社会生活についての理解を図る」ということ が文頭に述べられ、さらに「人々が相互に様々なか かわりをもちながら、生活を営んでいることを理解 するとともに、自らが社会生活に適応し、地域社会 や国家の発展に貢献しようとする態度を育てること を目指すものである。」(「小学校学習指導要領解説 社会編」平成20年8月)と記されている。  特別支援学級に在籍している児童は、これから将 来にむけて、地域社会の中でさまざまな人々とかか わりあいを持ちながら、時に支援を受けながらも自 分でできることを進んで行い、共に生活していくこ とが望まれる。そのためには、自分がどのような状 況の中で生活をしているのか、周りにいる人達はど んなことをしているのか、社会にはどんな仕事や役 割があるのかなどを、能力に応じて知る必要がある。 学習を行い、知識を得ることで、児童の視野が広く なったり、自分の身の回りに対する興味・関心をも てるようになったりするのではないかと考えた。  そこで本実践では、国語や算数よりも抽象度が高 まる社会科の学習でも、児童の実態に応じた単元構 成や教材の工夫を行うことで理解を深め、興味関心 を持って学習できるのではないかと考え、社会科授 業の実践と、授業の中で児童がどのようにして抽象 的な事象について理解をしたかについての考察を行 うこととした。 Ⅲ 方法 1 対象者 宇都宮市内小学校 特別支援学級 4年生 3名(男子1名 女子2名) 5年生 1名(男子1名) 6年生 1名(男子1名) A児 4年生 与えられた学習に対して、こつこつ と取り組むことができる。言葉でのやり取りもでき るが、自分の言いたいことを話すと、それに対する 応答は、よく聞いていない姿も見られる。気になる ことがあると、繰り返したずねる。 B児 4年生 学習に対して、黙々と取り組む。ゆっ くりではあるが、繰り返すことで学習内容を身に付 けることができる。穏やかに人と接する。 C児 4年生 自分の課題に取り組む姿勢は身に付 いているが、気になることがあると注意がそれてし まう様子が、時折見られる。話をすることが好きで、 教師の質問にもすぐに反応する。 D児 5年生 学習にこつこつと取り組むことがで きる。考えが言葉として出ていることが多い。教師 の質問に、話が終わらないうちに反応する時もある。 E児 6年生 集団の中で、他の児童と共に活動を することが難しい。学習内容は、すぐに理解できる ので、興味がある課題には取り組み、すばやく解決 できる。簡単なことであれば教師との間で、言葉で のやり取りができる。 2 本単元の構成 題材名 地図を使って勉強しよう。 (1)小学校の周りを調べてみよう(2時間) (2)宇都宮市の地図で調べてみよう(2時間) (3)栃木県の地図で調べてみよう(2時間) 3 授業記録の分析  授業の様子を撮影し、その様子をすべて文字にお こして記録を作成した。その後、児童の発言をもと に談話分析を行った。 Ⅳ 単元を通しての考察 観点:学習課題を考えるときに何を手がかりとして いるのか。  本単元では、地図の中から様々な場所を見つけ、 基準からの距離や方角を確認するという学習活動を 行った。児童は、この学習活動を通して、様々な手 がかりをもとに、場所の見当をつけて見つけたり、 見つけた場所について基準から遠い・近い、北・南 など抽象的な事象に気づいたりしている。  場所を見つける活動では、児童は、まず、教師か ら見つける場所の写真を提示される。児童は、写真 をみると、口々にその場所で自分が体験したこと、 その場所について知っていることなどを話す。体験 や経験を話しながら、または教師の発言や他の友達 と教師とのやり取りを聞くうちに、そこまでの道中 のこと(時間がかかったのか、否か、どんな交通手 段で行ったのか、その場所の周りには、何があり、 どんなことをしたのか)などを思い出し、話す。そ の結果として、時間がかかった→遠い、たまにしか 行かない場所→遠い、電車や新幹線で行く場所→遠 い、いつも通る場所・よく行く場所→近いと、とら え方は児童さまざまであるが、抽象的な言葉を感覚 的にとらえている。

(3)

− 267 −

 さらに、遠いや近いを自分の体験したことからと らえた後、地図に目を落とすと、近い場所→長さが 短い、遠い場所→長さが長いことが見て取れ、実際 の場所の遠い・近いを地図上の基準からの長短に変 換して、理解していると考えられる。  この一連の学習活動の中で、学習活動①(地図の 中から示された場所を探す)では、教師から提示さ れた写真や地図を見て、自分の経験を話すことから 始まる。児童の話は、実際にそこに行ったこと、そ こで体験したこと、その場所について今までに見聞 きしたことなど様々である。話しつつ他者の経験を 聞くと、また違う出来事を思い出し、それがまた他 者の発言につながり、やり取りとなる。教師はその やり取りの中で、児童に気づいてほしいことや課題 へ近づくように、付け加え・簡単な説明・言い換え や質問などを行ったり、視覚的な資料を示したりな どの働きかけを行う。さらに、やり取りをする中で、 児童同士、児童と教師の発言が積み重なり、これを 繰り返すことで、結果、学習課題の解決に至るので はないかと思われる。  日常生活の中では、児童同士1対1ですら、共通 の話題で会話を続けることが難しい。しかし、学習 という枠組みの中で、問われていることが明らかで、 かつ、問われている場所で同じ経験したことを話す 状況では、的外れなことを話す児童はいなかった。 知的な面やコミュニケーションに困難があっても、 学習が媒介となり、限定的な場面では、周囲の児童 や教師の発言を聞いて、言葉をやり取りすることが 可能であることが考えられる。  個々の中の経験を言葉として表に出し、他者とや り取りをすることが、学習課題を思考するための手 がかりとなり、解決や理解へつながると考えられる。  学習活動②(地図の中で、位置を確かめた場所が 基準となる場所(自分たちがいる宇都宮市)から遠い・ 近い、どちらの方角なのかを知る)では、児童は、遠 い・近いという言葉、宇都宮からの位置関係を調べ る場所の名前(那須町、小山市、日光市などの市町 名)については知っている。ただし、それらは、ひと つひとつ切り離された単語として理解しているに過ぎ ない。そのため、学習活動の中で、抽象的な言葉の 意味づけを行うことが理解への手がかりとなるのでは ないかと考えられる。  遠い・近いは、目に見えるものではないので、前 述した経験をもとにやり取りをしながら考えていくこ ととなる。教師は、遠い・近いといった概念へ児童 が近づいたり、気づいたりするよう、やり取りを行う。  例えば、実際の地図に児童の指を置き、場所を移 動して指し示し、その状態を言語化する。すると、 児童からは、実際に体験したこと、地図上での動き が重なり合って「遠い。」という言葉が自然と発せ られる。また、別の観点から、交通手段に着目させ、 教師が「新幹線で行ったから・・・。」と質問する ことで、児童から、「遠い。」が発せられる。その後 は、地図を使い、遠いと理解した宇都宮・那須間を 基準として児童は、「益子は、近いかな。」と、他の 場所の距離を理解していく姿が見られた。  「遠い・近い」を言葉の意味として、単に説明し たのでは、理解するのは難しいが、教師側が児童の 経験してきたことを少しずつ、段階を踏みながら、 抽象的な言葉とつなぐことが手がかりとなり、困難 と思われる抽象的な言葉の理解へつながるのではな いかと思われる。  知的な面やコミュニケーションに困難がある児童 であっても、教師が積極的に児童の言葉を引き出す ことや引き出すための工夫(言葉をイメージしやす いように教材等を視覚化するなど)を行うことで、 児童たちが自分の力で抽象的と思われる学習活動も 分かる、できる喜びをもって、取り組むことができ るのではないかと思う。  今回の実践について、ヴィゴツキーの障害学から 考察する。教師は、知的な困難を抱えている子ども たちに対して思い込みやそれまでの経験から、スキ ル的なことや簡単なことを中心に学習課題を組まな ければならないと考えている場合も多い。しかし、 ヴィゴツキーは、「子どもの行動における抽象的思 考の機能は、どのような『直観的』手法にも替える ことのできないものであって、私たちがもっぱら具 体的・直観的な表象だけを操作しておれば、抽象的 な思考の発達にブレーキをかけ、困難にしてしまう。 まさにそのために、障害児は抽象的な思考を行うこ とが困難なのであり、学校は、この能力を可能な限 りの手段をつくして発達させねばならない。」(ヴィ ゴツキー「障害児発達・教育論集」2006,P162)、「本 能的・習慣的反応が止まるところ、習熟その他の自 動的な行動形態が必要な適応を実現できないところ で、思考の欲求が生じるのであり、新たな状況、変 化してゆく諸条件に対する適応、すなわち困難の克 服が、知能・思考の精神的機能なのである。」(ヴィ

(4)

− 268 −

ゴツキー「障害児発達・教育論集」2006, P168)と 述べている。  本実践を行うまでは、筆者の中にも、「学習する ことは、難しいのではないか。」という思いがあっ たが、子どもたちは、想像以上に教材と結びつき、 理解を深めることができた。課題解決の場面では、 子どもたちは、じっとただ自分で考えるだけでな く、言葉を発し、友達や教師とやり取りをすること を積み重ねて、抽象的な言葉の理解へと進んだ。こ のことは、一人で学習したのでは抽象的な言葉の理 解を得られなかったのではないかということを示唆 する。  ヴィゴツキーは、「その高次過程は子どもが周囲 の社会的環境との相互作用の過程で習得する協同の 形態を自分自身に移行させることによって、子ど もの社会的発達過程に生じるのだと答えねばならな い。協同の集団的形態は、行動の個人形態に先行し、 個人的形態は集団的形態に基づいて発達する。(中 略)このように、集団的行動から、周囲の子どもた ちの協同から、子どもの社会的経験から、知的活動 の高次機能が発生するのである。」(ヴィゴツキー「障 害児発達・教育論集」2006, P171)と述べている。 今回の実践では、児童同士で、言葉をやり取りする ことなしに学習課題の解決には至らず、不十分でも お互いに言葉をやり取りすることが、ここで述べら れている「周囲の子どもたちとの協同」とつながる のではないかと考えられる。  知的な困難がある児童に対しては、学校では、上 記で述べたようにやさしい課題をスキル的に行うこ とと同様に、個別学習ありきで進められることが多 い。しかし、知的な困難があり、積極的に言葉を使 い考える経験や生活経験が乏しくなりがちな子ども 達であるからこそ、学校が、少し難しいことや抽象 的と思われる教科や課題へも挑戦できる場となるべ きではないかと考える。そのような学習活動におい て、児童は、学習課題を解決するだけに留まらず、 学習を媒介として、コミュニケーションを学ぶなど 様々なことを経験するといえる。  このように充実した学習を積み重ねていくために は、教師がまず、従来からの考え方から脱し、「障 害があるから。」と上限を決めず、障害の有無に関 わらず、子どもは発達していくことを念頭において、 日々の教育活動にあたることが重要なのではないか と思われる。 Ⅴ 今後の学習活動への取り組み  今までは、目の前のことを追うだけで精いっぱい の毎日であった。授業では、児童の方を向いてい るつもりであっても、細やかな視点で児童の成長や 課題をとらえることができたかといえば、不十分で あったというより他はない。授業での児童・教師の 様子をすべて活字として起こすことで、今まで、形 として見ることなく、見過ごしてきてしまった児童 の姿をはっきりと見て取ることができた。ずっと しゃべっていると捉えていた児童が、実は、学習か らはそれていない発言をずっとしていることが分 かったり、教師の言葉が届いていないと思っていた 児童が、しっかり教材とつながり、学習している姿 が見て取れたりした。1時間の授業の中にも児童の 様々な変化があることを実感した。  また、児童からは、授業を通して様々な言葉が発 せられており、日常の場面では、なかなか表現され なくても、児童の中には様々な言葉がはっきりとあ ることが分かった。その言葉を引き出したり、未知 の言葉や出来事と児童の中にある言葉を結びつけた りすることも教師の重要な役割なのではないかと実 感した。予想を超えて児童は、教材と離れることな く、学習活動を行うことができた。同じような流れ で丁寧に学習活動を行うことや、1つの事柄を学習 する上でも複数の段階を考えて教材を準備すること などは、今後の学習活動を展開する中でも続けたい。 今までの自分は、児童の力の上限をどこかで決めて しまっていて、「これは、難しいからきっと理解で きない」と思い、少しの力でできることを課題とし たり、個別での対応に終始したりしてしまったこと を反省する。今回の実践を通して、難しいと思われ るような課題や児童同士でのやり取りも教師側の工 夫や時間を丁寧に確保することで、できる力を児童 は持っていると痛感した。児童の発するひとことひ とことにしっかりと耳を傾け、丁寧に受け答えする ことをすべての礎と念頭に置き、教育活動にあたり たい。 引用文献 ヴィゴツキー,L.S. 柴田義松・宮坂琇子(訳)(2006) ヴィゴツキー障害児・発達論集,新読書社 平成28年 3月31日 受理

参照

関連したドキュメント

ら。 自信がついたのと、新しい発見があった 空欄 あんまり… 近いから。

さらに体育・スポーツ政策の研究と実践に寄与 することを目的として、研究者を中心に運営され る日本体育・ スポーツ政策学会は、2007 年 12 月

   遠くに住んでいる、家に入られることに抵抗感があるなどの 療養中の子どもへの直接支援の難しさを、 IT という手段を使えば

 学部生の頃、教育実習で当時東京で唯一手話を幼児期から用いていたろう学校に配

 学部生の頃、教育実習で当時東京で唯一手話を幼児期から用いていたろう学校に配

意思決定支援とは、自 ら意思を 決定 すること に困難を抱える障害者が、日常生活や 社会生活に関して自

・ 研究室における指導をカリキュラムの核とする。特別実験及び演習 12

 根津さんは20歳の頃にのら猫を保護したことがきっかけで、保健所の