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バリ・チューバアンサンブルに関する一考察(その1) ―日本の吹奏楽事情と個人レッスンを中心に―

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Academic year: 2021

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1.はじめに

現代のバリ・チューバアンサンブルはユーフォニアム(Euphonium)とチューバ(Tuba)で編成され ている。その形態は、二重奏から十重奏に至るまで様々である。特に四重奏は最も多く見られ、作曲 されている数も他の重奏のものと比較して極端に多い。筆者は今まで、奏者、時には指導者として様々 なバリ・チューバアンサンブルの形態、楽曲を演奏、指導してきた。その中で感じたことは、バリ・ チューバアンサンブルの楽曲は、他の管楽器アンサンブルのそれに比べ、数が少ないということであ る。近年、邦人作曲家がバリ・チューバアンサンブルの作品を残すようになった。しかし、それでも まだ少ないのが現状である。その背景に、音域が低いがために、音の輪郭が明確になりにくく、倍音 が大きいという楽器学的特徴があることは否定できない。故に、アンサンブルの形態そのものの印象 が薄いのではないかと考えられる。 筆者はこれらの現状を改善、発展させるべく、新潟県のあるユーフォニアムとチューバの愛好家が 集合した社会団体の団員4人と共に13年間研究、対策をし続けてきた。その結果バリ・チューバ四 重奏で西関東アンサンブルコンテストにおいて金賞を受賞するにまで至ることができた。その経緯を 振り返りながら、奏法的、技術的視点からいくつかの事項を取り上げてみる。

2.社会団体の実績

13年間、筆者が音楽監督として指導してきた新潟県の社会団体が収めてきた成績は以下の表に示 す通りである。

バリ・チューバアンサンブルに関する一考察(その1)

日本の吹奏楽事情と個人レッスンを中心に

A consideration on The Bari-Tuba Ensemble(1):

Some cases of wind orchestra and private lessons in Japan

髙島 章悟

TAKASHIMA Shogo

表1 アンサンブルコンテスト 年度 県大会成績 西関東大会成績 年度 県大会成績 西関東大会成績 1998 出場せず 2005 金賞 1999 銀賞 2006 出場せず 2000 出場せず 2007 金賞(県代表) 銀賞 2001 金賞(県代表) 銅賞 2008 出場せず 2002 金賞(県代表) 銅賞 2009 金賞(県代表) 銀賞 2003 金賞 2010 金賞(県代表) 金賞 2004 金賞 2011 出場せず

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また、この団体は2001年の成績を機に自主公演を企画し、同年 1st Concert を開催。筆者もソリ スト・音楽監督として出演した。さらに2003年、2006年、2008年と計4回開催された。 2011年3月12日(土)には 5th Concert が開催される予定であったが、東日本大震災の翌日であっ たため開催中止となった。

3.バリトンとユーフォニアム

ここでバリトンホーン(Baritone Horn(写真1)とユーフォニアム(写真2)の違いについて述べてお く。 バリ・チューバのバリとはバリトンホーンのことである。しかし日本の吹奏楽ではユーフォニアム を使用することが主流となっており、バリトンホーンは英国式ブラスバンドで主に使用されている以 外、特殊楽器として扱われているといえる。管の長さは両方とも同じ長さのB♭管である。最大の特 徴は、円錐管の広がり方とそれによる音色の違いにある。写真を見ると分かるようにユーフォニアム の方が広がり方が大きく、管そのものも太い。従って非常に丸く、柔らかい音色を持っている。一方 バリトンは管が細くベルの開き方も狭い。よって音色が直線的で明るいのが特徴である。  吹奏楽の楽譜には Euphonium の担当するパートに Baritone と書かれているものが多数あるが、実際 にバリトンホーンが使用されることは極めて稀である。これはアメリカでは「Baritone = Euphonium」 という位置づけが一般的であり、その考えがそのまま日本に取り入れられたためである。一方イギリ スでは英国式ブラスバンド(金管バンド)の編成形態から、バリトンホーンとユーフォニアムはそれ ぞれが独立した楽器として位置づけられている。 バリ・チューバアンサンブルの場合、太い管は低音域、細い管は高音域を得意とする性質から、八 重奏以上の編成において、ユーフォニアムの高音上にバリトンホーンがしばしば使用されている。

4.個人レッスン

4 − 1 アンブシュア アンブシュアとは、管楽器を吹くための口の形、またはその機能のことである。詳しくは、演奏者 の唇、舌、歯、顎、頬の筋肉が、ある特殊な機能を持った状態を意味する。呼吸法と同様に演奏者が 身につけるべき基本的な技術である。音程、音色、音域の跳躍などをコントロールするために、適切 なアンブシュアを身につけることは、必要不可欠である。 筆者は、アンサンブルを始める前に、個々の演奏技術の向上を目指し、奏者としての基礎知識、吹 奏感を確認した。 写真 1 バリトンホーン 写真 2 ユーフォニアム

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アンブシュアに関して、唇の形が人それぞれ異なることは言うまでもない。従って個人差はあるが、 ここでは基本的な形(理想的な形)について、中音域(図1、図2)低音域(図3、図4)高音域(図5、 図6)に分類して記しておく。 図で示したアパチュアとは、金管楽器を吹いている時に唇の中央にできる空気の通る穴のことであ る。低音域の時は大きくなり、高音域へ進むにつれ小さくなる。この穴が塞がってしまうと空気の通 り道は断ち切られ、音が出ない。そのようなことにならないために図の矢印のように筋肉を使うこと が大切になる。それによって、一定の空気が通過し、唇の振動も一定になり、ロングトーン(楽器で 一つの音を一定に長くのばす基本奏法)の原点になる。 図 1 基本形(中音域)前から見た場合 図 2 基本形(中音域)横から見た場合 図 3 基本形(低音域)前から見た場合 図 4 基本形(低音域)横から見た場合 図 5 基本形(高音域)前から見た場合 図 6 基本形(高音域)横から見た場合

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4̶2 4人の奏者におけるアンブシュアの状態 4 − 2 − 1 ユーフォニアム奏者A(29歳女性)の場合 顎の筋肉はしっかり支えられていたが、唇の両脇と下の部分が 基本形と逆方向に伸びていた(図7)。そのため、唇が振動しても アパチュアが塞がる方向になるため、楽器に空気を入れる時に空 気の圧力が唇自体にかかり、必要以上に負荷がかかった状態になっ た。その結果、楽器の音色にノイズ(雑音)が混じってしまった。 低音域になると筋肉がほぐれてくるため対応できたが、高音域に なると左右に引き合う力が強くなりすぎ、唇の振動が抑えられて しまった。 4 − 2 − 2 ユーフォニアム奏者B(28歳男性)の場合 唇の両脇と下の部分は寄っていたが、顎の部分を下に張ることができず、逆に唇の方向に上がって しまっていた。空気を入れると、口の中に空気が溜まり、頬が膨張してしまった。高音域になると頬 の膨らみが減少し、顎を下に張って演奏できていたが、低音域に向かうにつれ、図8のような形に徐々 に変化し、行き場のない状態になり、図9のように顎を下に引いて演奏していた。そのため、音色に 斑ができ、低音域に至ってはぼやけた音色になっていた。 4 − 2 − 3 チューバ奏者A(28歳男性)の場合 図 7 図 8 図 9 図 10 図 11

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基本のアンブシュアはしっかりしており(図10)、中音域から高音域への移行(図11)は、スムー ズであった。しかし、逆に高音域から中音域、低音域へと下降させようとすると、一度張った筋肉を ほぐしにくくなり、緊張した状態であった。そのため低音域に対して苦手意識を持っていた。 4 − 2 − 4 チューバ奏者B(26歳男性)の場合 チューバ奏者Aと同様、基本のアンブシュアはしっかりし ていた。しかしこの奏者の場合、中音域から高音域へ移行す ると、図12のように唇の両脇の引きが強すぎて音色が潰れ そうな状態になっていた。そのため高音域に対して苦手意識 を持っていた。中音域から低音域へは引きが元に戻り、筋肉 の緊張もほぐれていき、大きな振動が生まれ豊かな音色と響 きを出していた。 4 − 3 4人の奏者への対処方法とその成果 4 − 3 − 1 ユーフォニアム奏者Aの場合 リップスラー奏法(バルブを動かさず、空気の速度と唇の振動の変化のみで音程を変える奏法)の 上行形(譜例1)を用いて、唇の両脇を寄せながら上唇と下唇が閉じない様に近づける練習を提示し た。その際、唇の振動が止まらない様に意識することにより、1ヶ月程度で型が決まってきた。さ らに、高音域へ音を上げてみる様に提示すると、オクターヴ上の音程まで安定させることができた(譜 例2)。 図 12 譜例 1 譜例 2

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4 − 3 − 2 ユーフォニアム奏者Bの場合 まず、顎を下方に引かない様、クロマティック・スケール(半音階)の下降形(譜例3)を演奏し、 下唇を徐々に前方に突き出していく様に提示した。その結果、頬の膨らみは残ったが、顎を下に引く 力が弱まっていき、ぼやけた音が解消されてきた。次に頬の圧迫感を柔らかくするため、口の中を立 てた玉子のような形にするようイメージしながらリップスラー奏法の下降形(譜例4)を演奏する様 に指示した。これは3ヶ月程度の時間を費やした。結果、ぼやけた音は殆ど聴かれなくなった。 4 − 3 − 3 チューバ奏者Aの場合 低音域を出す際、筋肉の緊張のため唇が振動しにくい状態になっていたため、低音域を中心とした インターバル奏法(演奏学的には一つの音程を基準として上方や下方へ音程の幅を広げていく奏法) の下方形(譜例5、譜例6)を提示し、下唇を前方へ移動させながら、振動しているかどうかを確認 した。最初は音程を切り替えた瞬間、唇の振動が止まり、楽器内での呼吸の流れが途切れがちな状態 であったが、スラーを「音と音を繋げる」と理論的に解釈せず「音程が切り替わっても唇を振動し続け る」と演奏学的に解釈することにより、音程と振動が一致するようになり、その結果、滑らかなスラー 譜例 5 譜例 6 譜例 3 譜例 4

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を演奏できるようになった。このような解釈で、3週間程度反復して練習するよう提示し、1ヶ月後 のレッスンでは改善されていた。 4 − 3 − 4 チューバ奏者Bの場合 ユーフォニアム奏者Aと方法は似ているが、チューバはユーフォニアムと比べ1オクターヴ分、音 程が低く、その分、管も長いことから、インターバル奏法の上行型(譜例7)を提示し、音程の幅を 半音ずつ上方へ広げながら、下唇の前方から後方への移り変わりと唇の両脇の寄せ具合を確認した。 唇の振動が止まらず滑らかになったら、上方型のリップスラー奏法(譜例8)により、譜例7で確認 した内容を再度確認するよう提示した。その結果、高音域に移行した時でもアパチュアが保たれた状 態で演奏できるようになった。

5.マウスピース

5 − 1 マウスピースの名称と特徴 マウスピースには5つの部分にそれぞれの名称があ り、メーカーによってカップの深さ、リムの厚さ、全体 の重さ、型が異なる。それらの違いは、音色や響き、吹 奏感に影響する。 ・リム(rim) 奏者の唇にあたる部分である。その厚さや形状は様々 である。リムが厚いもの・平坦なもの、リムの内側のエッ ジが比較的鋭角なものは、音程が安定しやすく長時間吹いても疲れにくい傾向があり、リムが薄いも の・表面の丸みが強いもの、リムの内側のエッジが丸みを帯びたものは音程の跳躍が容易な傾向があ 譜例 8 図 13 譜例 7

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る。リムの内径が大きいものは音量が出しやすく、音楽表現の幅が広くなるが、高い演奏技術と深い 呼吸からくる空気の量が求められる傾向がある。一方、リムの内径が小さなものは、高音域が吹きや すいが低音域の音色が細くなる傾向がある。初心者には中程度のマウスピースが奨励されている。 ・カップ(cup) マウスピースの内側のお椀のような形をした部分であり、深さ、容積、形状が、音色や高音域、低 音域の吹きやすさに影響する。形状がV字型に近いほど音色に丸みがあり、U字型に近いほど明るく なるといわれている。 ・ スロート(throat) マウスピースの内側の最も細い部分であり、スロート径が大きいものは低音域が、小さいものは高 音域がそれぞれ出しやすいとされている。 ・ バックボア(back bore) スロートから楽器本体へ向かって広がる、内側の部分である。スロート近くから広がり始めるもの は、音量は出しやすくなるが、息のコントロールが難しくなる。広がりがスロートから遠いものはそ の逆である。 ・ シャンク(shank) 楽器本体との複合部分で、殆どのものは楽器の受け口に合わせてテーパ(先細の形状)が付けられ ており、同じ種類の楽器でもメーカーによって受け口の形状が異なり、シャンクもそれに合わせる。 厚みや角度によって音色や音程のコントロールに微妙な影響を与える。 5 − 2 マウスピースの選択 音色、響き、音の輪郭にある一つの方向性を見いだす為にマウスピースの選択が必要である。マウ スピースはメーカーによって型は様々であるが、大きく分けるとU字型(写真3)、V字型(写真4)、 UV合体型(写真5)に分類されるであろう。筆者は音色、響きは勿論であるが、特に音の輪郭がよ り明瞭なものを中心に選択できるよう試奏させた。 写真 3 写真 4 写真 5

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ユーフォニアム奏者2人の場合、U字型のマウスピースでは、輪郭が程よく明瞭で音色も柔らかく、 響きがまとまっていた。一方V字型では、明瞭な輪郭は出たものの音の反応が速すぎてしまい、音色 が固めになり、響きが薄く感じられた。従ってU字型を選択した。 チューバ奏者2人の場合、U字型のマウスピースでは、輪郭がやや不明瞭になり、音色にまとまり はあるものの、響きが少々ぼやけてしまった。一方V字型は、ぼやけなくはなったものの響きがやや 薄く、音色に固さを感じた。最後にUV合体型を試奏した。結果、若干音色に固さはあるものの、響 きに透明感が出てくるようになり、輪郭が明瞭化された。従ってUV合体型を選択した。 さらにマウスピースは、それぞれのメーカーによって質量、重さ、厚さなどが異なり、それらによっ て音色、響き、音の輪郭の方向性も変わってくることから、数種類のメーカーからユーフォニアム、 チューバそれぞれ同じメーカーのものを選択した。

6.ここまでのまとめとして

今回の4人の奏者に関しては、定期的に個人レッスンを行っている。そこではアンブシュアを中心 とした技術的なレッスンになるわけだが、それだけでは受講者の上達を図ることができないのではな いかと考える。指導者と受講者の関係にある以上、ある程度奏者としての姿勢も指導者として伝えて いかなければならなくなる。それは一重に「聴いてもらう」「聴いて頂く」という姿勢に他ならない。 個人レッスンも受講者が指導者に習いたいと思うのは「聴いてもらう」という姿勢があるからである。 これが上達するために必要な意識である。また、マウスピースの選択においても「聴いてもらう」姿 勢を持って、奏者の吹奏感と聴き手の感想を照らし合わせることができれば、より的確且つ価値のあ る選択ができるのである。

参考文献

稲川榮一 (2004)「管楽器メソード・シリーズ」『チューバ教本』、ドレミ楽譜出版社、p.15-51 佐伯茂樹 (2009)『楽器から見る吹奏楽の世界』、河出書房新社、p.56-57、p120-121

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参照

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