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フィリピン映画、理想と現実が映し出す世相 (特集 途上国のエンターテイメント事情)

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Academic year: 2021

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フィリピン映画、理想と現実が映し出す世相 (特集

途上国のエンターテイメント事情)

著者

知花 いずみ

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

203

ページ

10-11

発行年

2012-08

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00003898

(2)

●映画∼庶民の貴重な娯楽

  フィリピン人にとって、映画は 貴重な娯楽のひとつである。マニ ラ首都圏には数多くの映画館があ り、ハリウッド産、国産を問わず シーズンを通して新作映画が公開 される。週末はショッピングモー ルで買い物や食事をし、映画を見 て楽しいひとときを過ごす人々の 姿がよく見られる。ハリウッドの 新作映画は日本に先駆けて公開さ れる。これは字幕への転換に手間 を取られない分、公開時期に時差 が生じないことによる。料金も日 本円で五〇〇円程度と比較的手軽 に楽しめる設定だ 。 人気のある ジャンルはアニメ、恋愛、家族も の、アクション、コメディなど多 岐に渡るが、なかにはナショナリ ズム、歴史、宗教、少数派の人権 保護といった社会性の高いテーマ を扱う作品も少なくない。

●根強い﹁スター文化﹂

  映画人気を支えているもののひ とつに﹁スター文化﹂がある。そ れはかつて昭和の日本人が銀幕の スターに対して抱いていた憧憬に 似ていて、観客は自分の夢や希望 を投影してファンタジーの世界を 楽しむという点でも共通してい る。映画ファンに根強い人気を誇 るのは、ヘラルド・アンダーソン 氏に代表される AmBoy ︵ American Boy の略︶と称されるかつての統 治者を彷彿とさせる俳優達であ る。キャスティングは興行成績の 明暗を大きく左右するため、制作 会社はより集客力の高い俳優の登 用に専心する 。ひとたび作品が ヒットすれば、カップリングされ た俳優陣はシリーズ化された作品 に出演し続ける。こうした往年の 映画俳優に、フェルナンド・ポー Jr.氏やビルマ・サントス氏などが いる。層の厚い支持を集めた彼ら は、時代のアイコンとして、新し い文化やライフスタイルを提示す る役割を果たしてきた。

●映画スターから政治家へ

  フィリピンでは芸能界で成功を 収めたスター達が、高い知名度を 活かして政界に転身するケースが 少なくない。 この傾向はジョセフ ・ エストラダ元大統領、リト・ラピ ド上院議員 、ビルマ ・サントス ・ バタンガス州知事などの存在感の 大きさにも現れている。とくにエ ストラダ氏やラピド氏は、ワーキ ング・クラスのヒーロー役を演じ る機会が多かった。このため、貧 困層の人々を伝統的な支配階級に よる圧政から救い出し、屈従から 解放する庶民の味方というイメー ジが強く、これが後の政界進出の 後押しとなった。選挙活動に多額 の資金を投入せずとも予め全国区 で顔が知られているという強み は、政治家を直接投票で選出する 政治制度の下では簡便な集票シス テムの代替となるのである。

●世相を反映する国産映画

  明朗な国民性のイメージがある ためか、フィリピンではエンター テイメント性の高い映画が主流な のかと尋ねられることがたびたび ある。しかし、実際には各時代の 世相を丁寧に映し出した社会性の 高い佳作も多い。 ⑴一九七〇年代の作品   フェルディナンド・マルコス元 大統領が政治家として台頭し始め た一九七〇年代の作品には、マニ ラ市内の貧困地区に住む母子家庭 の軋轢に焦点を当てた “INSIANG ” ︵一九七六年︶ 、アメリカ支配の継 続性に疑問を抱いた女性団体が現 状を打破しようと社会運動を立ち 上 げ る 背 景 を 描 い た “MINSA, Y ISANG GAMU-GAMO ” ︵一九七六 年︶ 、メイドなどインフォーマル セクターに属する労働者の権利を 扱った “A TSA Y” ︵一九七八年︶ など が公開された。

フィリ

理想

出す世

いづ

特 集

途上国の エンターテイメント 事情

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⑵一九八〇年代の作品   マルコス政権の戒厳令下のこの 時期は、社会的基本単位としての 家族的価値を主題とした “AG U IL A” ︵一九八〇年︶ 、当時の社会でフラ タニティが果たした役割を描いた “BA TCH ’81” ︵一九八二年︶ 、アメ リカに出稼ぎに行ったフィリピン 人看護婦を主役に国外に流出せざ るを得ない人々の悲哀を描いた “MERIKA ” ︵一九八四年︶ などが公 開されている。一九八七年に再民 主化が図られた後は、エドサ革命 の一連の動きをドキュメンタリー 形式で撮影した “REVOL UTIONS HAPPEN LIKE REFRAINS IN A SONG ” ︵一九八七年︶ や 、 戒厳令解 除後の社会を宗教的見地から観察 し、当時の社会的葛藤をあぶり出 すことを試みた “ORAPRONOBIS ” ︵一九八九年︶ が制作された。 また、 在比米軍基地の存在によって引き 起こされた社会問題を取りあげ 、 反対派が基地撤退のために一致団 結 す る 様 子 を 描 い た “SA KUKO NG A GILA ” ︵一九八九年︶ なども代 表作となっている。 ⑶一九九〇年代の作品   再民主化の旗手となったコラソ ン・アキノ元大統領から、積極的 な自由化政策を主軸に経済発展を 図ったフィデル・ラモス元大統領 に政権が移行した一九九〇年代 は、アンドレス・ボニファシオ氏 とエミリオ・アギナルド氏という 歴史的英雄の軍人二名を主役に据 えた “BA Y ANI ” ︵一九九二年︶ 、 植 民地化を主題にアメリカ統治期の 比 米 関 係 を 扱 っ た “BONTOC EUL OGY ” ︵一九九五年︶ 、 米軍が駐 在したオロンガポ市に住む女性達 の暮らしぶりを通して比米間系を 再 考 証 し た “CONTINUINGLIVES: WOMEN OF THE BASES ” ︵一九九 六年︶など、歴史物を扱う映画が 公開された。 ⑷二〇〇〇年代の作品   二〇〇〇年代は、違法賭博疑惑 を契機に退陣に追い込まれたエス トラダ政権の後を継ぎ、 グロリア ・ マカパガル・アロヨ氏が政権の座 に衝いていた時期である。この頃 は、ミンダナオ地方のイスラーム 教徒が直面している紛争問題の実 態 に 迫 っ た “BA GONG BUW AN ” ︵二〇〇一年︶ 、反政府勢力を押さ え込むための軍事化が地方の住民 に 与 え る 影 響 を 扱 っ た “RED SA GA ” ︵二〇〇四年︶など 、人々 の個人的な暮らしに焦点を当てた 作品が公開された。また、この時 期のヒット作には、貧困および教 育の欠如ゆえに犯罪に手を染めざ るを得なかった一〇代前半の子ど も達が、収監された刑務所で成人 の囚人達とどのように共存してい くかといった社会問題を取りあげ た “BUNSO ” ︵二〇〇四年︶ がある。 二〇〇〇年代は、貧困削減と経済 発展を目指しながらも、住民の暮 らしにおいて実際に生活向上の実 感を得ることが難しい現状に着目 した作品が目立った。

●時代を超える教科書として

  筆者が観たフィリピン映画のな かで近年とくに印象深かった作品 に 、 二 〇 一 〇 年 に 公 開 さ れ た “DONOR ” がある 。マニラのキア ポ地区を舞台とする本作は、貧し さゆえに臓器売買を決意する主人 公が、移植を合法化するために臓 器移植を希望するアラブ人との偽 装結婚を選択するという内容であ る。いつもの景色のなかで暮らす 人達が生活の糧を得るためにくだ すひとつひとつの決断が、当事者 の大きな身体的犠牲をともなうも のである点が印象的な物語であ る。貧困のなかで生き延びようと する登場人物の思考回路に、先進 国の物差しにはない発想がちりば められている点について、改めて 考えさせられた一作である。時間 にも可動範囲にも体力にも限界が あるなかで、時代を超えてフィリ ピン人の暮らしぶりや精神性を知 ることができる映画は、エンター テイメントというジャンルを超え て様々なことを教えてくれるツー ルのひとつで、フィリピンを丸ご と理解しようとする試みの一助と なっている。 ︵ちばな   いづみ/アジア経済研究 所  新領域研究センター︶ マニラ首都圏内のシネマ・コンプレックス(撮影:フォト・ジャーナリスト 村山幸親氏)

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参照

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