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コロナ禍により求められる生活保護制度での 「日常生活自立」と「社会生活自立」及びその支援過程への評価

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コロナ禍により求められる生活保護制度での

「日常生活自立」と「社会生活自立」及びその支援過程への評価

はじめに

令和2年(2020 年)1月 15 日に日本国内 で最初の新型コロナウイルス感染症(以下、 感染症)の感染者が確認された後、10 月9日 時点で国内感染者数は8万 6000 人を超え、 死者は 1600 人を超えている。その間、4月 7日に新型インフルエンザ等対策特別措置法 に基づく緊急事態宣言により緊急事態措置が 行われ、5月 25 日の解除まで続いた。解除 後の政府は、移行期間を設けながら外出の自 粛や施設の使用制限の要請等を緩和しつつ、 社会経済活動レベルを段階的に引き上げる対 策を実施するとしている。政府は、5月 27 日に令和2年度(2020 年度)第2次補正予算 案を閣議決定し、6月 12 日に本会議にて可 決された。その補正予算のうち、厚生労働省 は感染症との長期戦が見込まれる中で、「国 民のいのち、雇用、生活を守る」としたうえ で雇用調整助成金の拡充として約 7700 億円、 休業期間中の賃金支払いを受けられなかった 中小企業の労働者への休業補償金として約 5400 億円を計上するなど総額4兆 9733 億円 の計上を決めた。また、経済産業省では、企 業の資金繰り対策の拡充、持続化給付金の積 み増し、テナント事業者に対する家賃支給給 付金など総額 15 兆 168 億円を計上した。 そのほかでは、消費需要喚起のための経済 対策が打たれ、観光地や飲食店、商業施設に 徐々にではあるが人が戻っているようであ る。10 月1日には日本への入国制限の緩和 が行われ、中長期の在留資格を持つ外国人の 入国が認められることとなった。これに先 立って、ベトナムや台湾など比較的感染状況 の落ち着いている国との間では企業の駐在員 など長期滞在者の往来を緩和しており、経済 の回復に向けた対応が実施されてきた。 一方で、感染防止対策としては、マスクの 着用、こまめな手洗いや消毒、いわゆる「三 つの密」の回避、人と人との一定の距離の確 保といった「新しい生活様式」の実践が重要 であるとされている。これらの感染予防対策 は全国において個人レベルから企業や自治体 などの組織レベルで実施されているが、緊急 事態措置解除から4ヶ月経過した 10 月時点 においても国内での感染者数は一進一退しつ つ増加し続けている。緊急事態措置に入って からの感染者数は一時落ち着きつつあった が、7月 21 日には1日の国内感染者数が再 び 500 人を超え、621 人となった。続く8月 7日は過去最多となる1日の感染者数が 1594 人に上った。国内に限らず全世界での 八王子市役所 職員 館林 瑛司

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感染者も増加し続けている状況であり、感染 拡大が収束する見通しは立っていない。ま た、各国にてワクチン開発が進められている が、現時点では有効なワクチンを開発したと の発表には至っておらず、それ以外の効果的 な治療方法も見つかっていない現状である。 今後冬場の時期を迎え、再び感染爆発が発生 する危険性は十分あり、予断を許さない。 このように、現時点ではマスクなしでの生 活は想像できない状況であるうえ、感染症へ の明確な解決策が提示されていない中で、感 染症の存在を前提として、感染防止や拡大防 止への対策と社会経済活動の維持の両立を個 人レベル、組織レベルで取り組まざるを得な い状況にあると言えよう。そして、感染症が 人々の生活やいのちに与える影響の大きさ故 に、それらを支える医療や社会保障、社会福 祉分野へも否応なしに環境の変化を突きつけ ている。医療現場では、日々感染と隣り合わ せの状況の中、医師や看護師が治療に従事し ている一方で、感染拡大に伴う外来や入院患 者の減少により医療機関の経営状況は逼迫し ているとも言われている。介護現場では、介 護サービスの提供の有無が利用者の生き死に を左右することになりかねない可能性を持っ ている。社会福祉の現場では、休業や失業に より収入が激減し、明日の暮らしを見通せな い状況に陥る者もおり、今後経済の回復に長 期間を要した場合や再び感染が広がり、経済 活動の停滞を引き起こした場合には生活に困 窮する者が今以上に増加することも予想される。 本稿では、このようなコロナ禍に起因する 環境変化の中で、セーフティネットとして今 後の情勢次第ではより役割を増すであろう生 活保護制度をテーマに扱う。感染症による被 保護者への影響について、感染症の重症化リ スクと対面接触機会の減少、孤立化と社会的 つながりの希薄化へのリスクという視点から 整理した上で、感染症の存在を前提とした上 で自立支援における「日常生活自立」と「社 会生活自立」の必要性とその支援過程への評 価の重要性について考察する。

1.重症化リスクの高い被保護者

厚生労働省の提示している感染症への疑い のある場合の帰国者・接触者相談センターへ の相談目安のうち、「重症化しやすい方」とい う項目がある。「重症化しやすい方」とは、高 齢者、糖尿病、心不全、呼吸器疾患(COPD 等)等の基礎疾患がある者や透析を受けてい る者、免疫抑制剤や抗がん剤等を用いている 者であると紹介されている。確かにこれまで の感染症感染者への調査結果を見てみると、 重症化した患者の中には高齢者や糖尿病患者 といった者が多い。厚生労働省の発表による と 10 月7日時点で感染者全体に占める重症 患者の割合は 1. 7%であるが、60 歳台以上の 感染者に絞ると重症化率が約 4. 4%となる。 50 歳台以下の年齢区分では、1番高い比率で あっても 50 歳台の 1. 5%であるため、4. 4% という数字の示す通り 60 歳台以上の感染者 の重症化率の高さがうかがえる。加えて、感 染者全体に占める死亡者数の割合において は、感染者全体で 1. 9%であるのに対して、 60 歳台では 2. 4% であり、70 歳台では 7. 4% である。80 歳台以上では、17. 7%であり、感 染者の年齢が高齢になるにつれて死亡率も高

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くな数る傾向にある。 また、国立感染症研究所による積極的疫学 調査の結果報告にて、重症化した症例のうち の基礎疾患の有無について記述がある。516 の症例を対象とした報告によると、「ICU 入 室例 35 例では、基礎疾患あり 17 例・なし5 例・情報なし/不明 13 例、侵襲的換気(気管 内挿管等)を必要とした 49 例では、基礎疾患 あり 29 例・なし4例・情報なし/不明 16 例、 体外式膜型人工肺(ECMO)を必要とした 18 例では、基礎疾患あり 11 例・なし2例・情報 なし/不明5例(国立感染症研究所 2020)」で あったという。また、これらの基礎疾患につ いて、「侵襲的換気を必要とした 49 例では、 糖尿病 13 例、高血圧 12 例、脂質異常症 10 例、 心血管疾患5例、悪性新生物5例等、ECMO を必要とした 18 例では、高血圧5例、糖尿病 4例、脂質異常症4例、心血管疾患2例等で あった(重複あり)(国立感染症研究所 2020)」 という結果であった。 加えて、東京都が公表した感染者の死亡例 に関する報告によると、基礎疾患の有無が確 認できた 198 人の感染者について分析した結 果、男女問わず死亡者の多くが糖尿病、高血 圧、腎疾患など何らかの基礎疾患を有してい ると判明した。 このように、これまでの感染者の感染状況 を見てみると、高齢者や糖尿病等の基礎疾患 を抱えた感染者が重症化しやすい傾向にあ り、死亡につながる事例も若者や疾患のない 感染者と比較して高い割合を示している。国 内感染者の約 52%を占める 30 歳台以下の感 染者と比較して、60 歳台以上の感染者は約 20%であるため相対的に低い割合であるが、 感染した際の影響は大きいと言える。 一方、生活保護制度の受給状況を見てみる と、7月の被保護者調査(月次調査)におい て、高齢者世帯(※1)は 90 万 4620 世帯であ り、全被保護世帯の約 56%を占めている。ま た、平成 30 年度(2018 年度)被保護者調査で は、平成 30 年(2018 年)7 月末時点での 65 歳以上の被保護者は 104 万 1715 人であり、 全体の約 50%である。このように生活保護 制度では、被保護者のうち感染症に感染する と重症化するリスクの高い高齢者が半数を占 めている。 また、被保護者のうち、医療扶助の適用を 受ける者は全体の 80%を超えており、被保護 者の大半が何らかの疾患により医療機関にて 治療を受けている。平成 30 年(2018 年)医 療扶助実態調査(※2)によると、医療機関にて 患者ごとに作成されるレセプトの入院外での 治療による件数のうち、感染症の重症化リス クの高いとされる糖尿病、高血圧性疾患、虚 血性心疾患、脳血管疾患、慢性閉塞性肺疾患、 新生物(腫瘍)の占める割合は、全体の約 33% となっている。さらに、被保護者数の1番多 い 65 歳~69 歳の年齢階級(19 歳以下と 80 歳以上の年齢階級を除く)では、これらの疾 患が全件数の約 39%を占めている。2番目 に多い年齢階級である 70 歳~74 歳の階級で はさらに高い約 41%となっている。 (※1)男女とも 65 歳以上の者のみで構成されている世帯か、これらに 18 歳未満の者が加わった世帯をいう。 (※2)この調査の客体は、福祉事務所に保管される各年6月基金審査分(4・5月診療分)の診療報酬明細書及び調 剤報酬明細書(以下「明細書」という。)のうち、一般診療(病院・一般診療所)の入院分及び入院外分、歯 科診療分、調剤分について、レセ電仕様明細書の全データを対象とする。ただし、歯科診療の入院分は調査 客体としない。

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ここで指摘できることは、被保護者の中に 重症化リスクの高い基礎疾患を抱える者が一 定数いるということである。さらに、年齢階 級別分布で上位を占める階級の被保護者にて 基礎疾患の保持率が高いということである。 年齢が高くなるにしたがって、これらの重症 化リスクの高い基礎疾患を抱えている被保護 者の割合も比例して高くなっている。このよ うに、生活保護制度の受給状況を見てみると、 高齢被保護者が半数を占めている。つまり、 制度の適用者の半数が感染症の重症化予備軍 であるということである。加えて、被保護者 の中には重症化を引き起こしやすい基礎疾患 を保持している者も一定数おり、その傾向は 年齢が高まるにつれて強まっている。特に、 高齢であり、基礎疾患を持っているという者 は重症化する可能性を重層的に抱えていると 言える。そして、そのような重層的な危険性 を持っている者は決して少なくなく、生活保 護制度は感染症の重症化リスクの高い者を多 く抱えていると言えるのである。

2.コロナ禍による対面接触機会の減少

感染症が社会に対してもたらした大きな影 響のひとつが対面接触機会の減少であろう。 緊急事態措置期間中での不要不急の外出抑制 要請やそれ前後の世間的な外出や活動自粛 ムードにより、人と人が対面でコミュニケー ションを取る機会そのものやコミュニケー ションを取る時間が減少した。休日の外出機 会そのものの減少やスーパー等への食品や日 用品の買い出し時間の短縮、会社へ出社せず に在宅にて行うテレワークの利用が広まっ た。感染防止対策のため、多くの人が外食す る機会を減らしたことであろう。また、街中 では多くの店舗にて営業時間の短縮が実施さ れ、人々の集まる場にも変化をもたらしてい る。感染症の流行以前と比較して、コロナ禍 はこのように人々の対面接触機会に変化をも たらしたのではないだろうか。 一方で、生活保護制度においてもコロナ禍 は被保護者とケースワーカーとの対面接触機 会に変化をもたらした。緊急事態措置が実施 された4月7日付の厚生労働省からの通 知(※3)では、感染拡大防止のための取組みと して、「訪問調査活動、面接等の機会において、 地域における要請の状況等を踏まえ、被保護 者に対して感染拡大の防止のための行動を促 すよう努めていただきたい」と通知している。 被保護者に対しても「三つの密」の回避や外 出自粛の徹底が求められ、福祉事務所へ不要 不急の来所をさせないよう被保護者へ指導し ている福祉事務所もあり、来所する被保護者 の数が減少したようである。 加 え て 同 通 知 で は、い わ ゆ る「局 長 通 知(※4)」における訪問計画に基づく訪問調査 活動にも言及している。通知によれば「訪問 計画に基づく訪問については、当分の間、緊 急対応等最低限度必要なもののみ実施するこ ととされたい。なお、予定されていた訪問を 延期する場合、電話連絡等により生活状況等 を聴取するなど、できる限り生活状況の把握 に努め、臨時訪問の要否についても確認され (※3)新型コロナウイルス感染防止等のための生活保護業務等における対応について(令和2年(2020 年)4月7日 事務連絡厚生労働省社会・援護局保護課) (※4)生活保護法による保護の実施要領について(昭和 38 年(1963 年)4月1日社発第 246 号厚生省社会局長通知)

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たい」と述べられている。ここではこれ以上 の訪問調査活動に関する記載はなく、何が緊 急対応に該当するのか具体的な基準は示され ていないが、計画に基づく訪問調査活動を事 実上控えるよう通知していると解釈できよ う。電話連絡等により生活状況を把握する旨 の記述があるが、中にはそもそも電話を持っ ていない者もいる上、電話がつながりにくい 場合もあり、状況を把握することの難しさを 想像できる。その後、緊急事態措置解除の翌 日である5月 26 日付で出された通知(※5) も訪問調査活動について言及している。「当 該地域の感染状況等を踏まえ、地方自治体に おける組織的判断の下、引き続き同様の対応 をとっていただいて差し支えない」と述べ、 訪問計画に基づく訪問調査活動の再開は各自 治体の自主性に委ねられることとなった。同 通知に基づき実際に各福祉事務所にて訪問調 査活動を再開したかどうか正確なデータはな いが、再開の是非について福祉事務所によっ てばらつきが出ているようである。 訪問計画による訪問調査活動は、年に2回 以上(入院入所の場合を除く)の頻度で行う こととされている。ただし、稼働能力のある 者のいる世帯や保護開始直後の世帯、特に支 援指導の必要な世帯に対しては毎月1回以上 訪問に行く場合や、定期的な見守りがあり、 介護サービスの利用や適切な通院治療を継続 できている世帯に対しては年2回の訪問とす る場合もあり、ケースワーカーが担当被保護 世帯の状況を勘案しつつ計画を立てる。訪問 調査活動は厚生労働省の指導監査において毎 年のように重点課題に掲げられており、「被 保護者の生活状況等を実地に把握するととも に、援助方針に基づき指導援助を行うといっ た、現業事務の基本である(厚生労働省社会・ 援護局 2020d:11)」と述べられている。訪問 頻度の高低に関係なく、訪問調査活動は生活 保護制度上重要な対面接触機会であると言え る。そのため、コロナ禍により訪問調査活動 の回数が減り、それに伴う被保護者とケース ワーカーとの対面接触機会の減少の与える影 響は大きいのではないか。 また、生活保護制度に限らず対面での支援 やサービス提供を前提とする他の社会福祉分 野においてもコロナ禍による対面接触機会の 減少による影響が少なからず出ている。 4月7日付で厚生労働省社会・援護局障害 保健福祉部障害福祉課より通知された障害福 祉サービス事業所の運営に関する事務連 絡(※6)では、「利用者の状況や家族の状況を 踏まえ、可能な場合には通所を控えていただ くことによりサービスの提供を縮小するなど 感染拡大防止のための対応を検討した上で、 支援が必要な利用者に対する支援が提供され るようにすること」と述べ、「なお、利用者等 が感染した場合や地域で感染が著しく拡大し ている場合で、事業所での通所サービスの提 供を縮小して実施することも困難なときは、 休業を検討していただく必要がある」と通知 している。 厚生労働省にて4月 16 日~19 日の期間に (※5)緊急事態宣言の解除後の生活保護業務等における対応について(令和2年(2020 年)5月 26 日事務連絡厚生 労働省社会・援護局保護課) (※6)緊急事態宣言後の障害福祉サービス等事業所の対応について(令和2年(2020 年)4月7日事務連絡厚生労働 省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課)

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実施した全国の障害福祉サービス等事業所へ の休業状況の調査によると、通所系・短期入 所系の事業所では 891 事業所、訪問系では 19 事業所が休業しているとの結果であった。そ のうち、4月7日の緊急事態宣言対象地域で ある7都道府県では、通所系・短期入所系で は休業対応する事業所が 545 事業所あり、全 体の 2. 55% であった。訪問系では9事業所 であり、0. 03% であった。ただし、同調査で は有効回答率は公表されておらず、実際には より多くの事業所にて臨時的な休業を実施し ていた可能性がある。川崎市が5月 26 日に 公表した市内の障害福祉サービス事業所等へ のアンケート調査(回答数 350 件、回答率 28. 6%)では、4月 17 日~24 日の期間で休業し た事業所は訪問系サービスでは6%、通所系 サービスでは1%であった。回答した 350 件 のうち訪問系と通所系の内訳は明示されてい ないが、先述の厚生労働省による調査では神 奈川県で休業した訪問系の事業所は「なし」 と集計されていることから、調査での数字以 上に休業している事業所の存在がうかがえ る。また、通所系事業所では約 70%の事業所 にて 10%以上の利用者の減少がみられると 回答している。 同様に静岡市が実施した調査においても通 所系の事業所のうち約 74%がサービスの縮 小を実施しており、通所支援から在宅支援へ の切り替えを行うなどにより、通所利用者数 の減少が見られた。事業所が臨時休業しなく とも、利用者の利用頻度の抑制や利用者によ る通所自粛によっても対面接触機会の減少に 影響を与えている状況がうかがえる。 さらに、コロナ禍による社会経済活動の停 滞が更なる接触機会の減少に影響を与えてい る実態も指摘されている。障害者の共同作業 所の全国連絡会である「きょうされん」によ ると、会員事業所の直面している状況につい て「新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、 商品の販売先の休業、大規模イベント等の自 粛、委託業務のストップなどの影響により、 障害福祉事業所の生産活動が大幅減収に陥っ ているという状況が報告されている(きょう されん 2020a:1)」と指摘している。「きょう されん」が7月に実施した障害福祉作業所へ のアンケート調査によると、回答した 348 カ 所のうち「前年同月と比較し、4月の作業収 入額が減収となった事業所は 256 カ所(73. 6%)と7割を超え、5月は 282 カ所(81. 0 %)と8割を超えた(きょうされん 2020a: 1)」という。4月の減額率は平均で 32%、5 月には約 37%に上昇したとの結果であった。 特に生活介護と地域活動支援センターの減収 率について、「生活介護は4月 41. 3%、5月 47. 6%と4割を超えており、地域活動支援 センターに至っては4月 50. 8%、5月 61. 4% と5割以上の減収率となっている(きょうさ れん 2020a:1)」と述べ、「障害の重い人が多 い、あるいは経営基盤が脆弱なことから、作 業収入額自体は決して大きくないものの、コ ロナ禍の影響で生産活動に大きなダメージを 受けていることが読み取れる(きょうされん 2020a:1)」と結論づけている。 また、9月 30 日に厚生労働大臣宛に提出 された「新型コロナウイルス感染症に係る障 害のある人及び障害福祉事業所に関する要望 書(第7次)」では、コロナ禍により従来の販 売先の減少や販売活動ができなくなったこと

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や、受注作業の仕事が減少したことで利用者 の仕事量の減少や「休み」につながることも あったという。 ここでは障害福祉サービス事業所の状況を 取り上げたが、このような事業所だけでなく、 介護サービス事業所においてもコロナ禍によ り臨時休業や通所介護サービスの停止といっ たサービス縮小対応が行われており、その多 くが事業所判断による自主休業や規模縮小で ある。重症化リスクの高い高齢者自らがサー ビスの利用を自粛することもあるようであ る。また、アルコール依存症などの依存症を 抱える者が参加する AA(※7)などの「ミー ティング」も感染拡大防止のために一時的に 休止する対応をとるといったケースも少なか らずあるだろう。このように、コロナ禍は個 人の活動自粛や社会経済活動の停滞を生じさ せ、対面接触機会の減少を引き起こした。そ して、この機会の減少がさらなる社会経済活 動の停滞や活動自粛を呼び起こすという循環 を生んでいる。これまで休業した事業所の多 くが自主的に休業しており、地域や事業所内 での感染状況によって再度休業する可能性も あることを示唆している。このような通所に よるサービス提供を行う事業所は、単に利用 者へサービス提供を行う場だけではなく、利 用者同士の交流の場となり、彼らの居場所と もなりうる機能を持つ存在であると言え、事 業所の休業や通所抑制、自粛による利用者の 対面接触機会の減少の与える影響は大きいと 言わざるをえない。

3.孤立化や社会的なつながりの希薄

化へのリスク

ここでは前節で整理したコロナ禍による対 面接触機会の減少が被保護者に与える影響に ついて検討していきたい。つまり、対面接触 機会の減少によって被保護者の孤立化や社会 的なつながりの希薄化に影響を及ぼすのでは ないかということである。後述するように被 保護者はそうでない者と比較して相対的に孤 立化や社会的つながりの希薄化につながるリ スクが高いと言える。 平成 30 年度(2018 年度)被保護者調査に よると、全被保護世帯に占める単身世帯の比 率は約 81%であり、数字の示す通り被保護世 帯の大半を占めている。特に高齢者世帯につ いては、全体の約 91%が単身世帯で構成され ており、保護を受給している高齢者世帯の多 くが一人暮らしなのである。 次に、平成 29 年(2017 年)に報告された国 立社会保障・人口問題研究所による「生活と 支え合いに関する調査」によると、単身世帯 では毎日会話する割合が低いと指摘してい る。非単身世帯のうち、毎日会話する割合の 平均は約 93%である。会話頻度が2週間に 1回以下の割合の平均は約 1. 7%である。一 方、単身世帯の場合には、毎日会話する割合 の平均は約 68%にとどまる。さらに会話頻 度が2週間に1回以下の割合の平均は約8% になる。特に単身高齢者世帯では、会話頻度 が低く、約半数の世帯にて毎日会話しない結 果となっている。会話頻度が2週間に1回以 (※7)アルコホーリクス・アノニマス(Alcoholics Anonymous)の略称。アルコール依存症の者を対象とした自助 グループである。参加者はミーティングを通じて断酒を継続し、依存症からの回復を目指す。

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下の割合も約 15%と高い割合を示している。 また、等価可処分所得別の会話頻度を見る と、所得階級が高ければ高い層ほど毎日会話 する割合が高い。それとは反対に会話頻度が 2週間に1回以下の割合は所得階級の低い層 ほど高くなっている。 これらの統計結果が示すことは、複数人世 帯と比較した際の単身世帯に見られる低い会 話頻度傾向であり、生活保護制度はそのよう な会話頻度の低い単身世帯で多く構成されて いるということである。そして、特に会話頻 度の低い単身高齢者世帯が被保護世帯全体の 約半数を占めているということである。つま り、被保護者の会話頻度の低さが他者とのコ ミュケーション機会の少なさに影響し、孤立 化するリスクを発生させていると指摘でき る。そして、コロナ禍による外出自粛が自宅 にて過ごす時間を増加させ、対面接触機会の 減少や会話頻度のさらなる低下を招き、孤立 化するリスクをさらに高める可能性があると 言えよう。 続けて対人関係について見てみると、令和 元年(2019 年)に報告された「家庭の生活実 態及び生活意識に関する調査」によると、一 般世帯(※8)のうち、「別居の家族や親族の中 で親しくお付き合いしている方がいますか」 との問いに対して約 90%が「いる」と回答し た一方で、被保護世帯の場合は約 64%であっ た。加えて、「友人や別居の家族・親族に会い に行きますか」との問いに対しては、一般世 帯では「定期的に行く」が 32%であり、「とき どき行く」は約 55%であった。「ほとんど行 かない」と「まったく行かない」を合わせた 割合は約 12%であった。他方、被保護世帯に おいては、「定期的に行く」が約 14%であり、 「ときどき行く」は約 40%であった。「ほとん ど行かない」と「まったく行かない」を合わ せた割合は約 45%であった。さらに、「まっ たく行かない」のうち、その理由について「行 きたくないから」と「友人や別居の家族・親 族がいないから」という回答がそれぞれ約3 %あり(一般世帯の場合にはそれぞれ 0. 6% と 0. 3%)、明確な意思のもとに関わりを拒絶 している前者と本人の意思に関係なく、会い に行ける環境にいない後者の数値が一般世帯 と比較して高い傾向にあることは特徴的である。 最後に、平成 28 年度(2016 年度)全国ひと り親等調査では、母子世帯のうちの約 20%は 相談相手がいないと回答している。そのう ち、相談相手が欲しいと感じている者の割合 は約 62%であった。相談相手のいない母親 の多くが相談相手を求めており、何か問題に 直面した際、希薄化した社会的なつながりが 問題をより深刻化させる可能性を秘めてい る。一方、父子世帯では母子世帯と比較して 「相談相手なし」の割合が約 44%と高い。し かし、相談相手のいない者のうち、相談相手 を欲しいと回答している割合と必要ないと回 答している者の割合は同程度であった。この ような場合、これまでは相談相手に頼ること なく自らの力で問題解決出来ていたが、ひと 度自力で解決できないような問題に直面した 際には、問題を抱え込み、孤立化する可能性 があると言えよう。被保護者調査では父子世 帯に関する数字はないが、母子世帯は全世帯 の約5%であり、相対的に低い割合である。 (※8)国民生活基礎調査の所得票調査世帯の一部

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しかし、世帯人数3人以上の多人数世帯に絞 ると全体の約 45%を占めており、その次に割 合の高い約 33%のその他の世帯との間に 10%以上の差がある。このような多人数世帯 が孤立化やつながりの希薄化を招いた場合の 世帯全体に及ぼす影響は大きいと言える。ま た、ひとり親世帯の孤立化や希薄化は子ども の貧困や虐待へも影響しうる可能性を含んで いる。 以上のように、前節ではコロナ禍により社 会全体で対面接触機会の減少が起き、生活保 護制度や社会福祉サービスの分野においても 例外なくその影響を受けていることを指摘し た。そして本節では、孤立化や社会的なつな がりの希薄化に脆弱な被保護者がそのような 対面接触機会の変化により孤立化や希薄化の 発生、深刻化に発展するリスクの高さを指摘 した。次節では、第2節での重症化リスクの 議論も含めて、感染症と日常生活との両立を 前提とした環境において今後生活保護制度が 求められることについて触れていきたい。

4.改めて求められる「日常生活自立」

と「社会生活自立」

では、これまでの議論を踏まえてコロナ禍 において今後生活保護制度にどのようなこと が求められるのであろうか。結論を先に言え ば、生活保護制度における「自立の助長」の うち「日常生活自立」と「社会生活自立」の 重要性がコロナ禍により再度認識されるに至 り、「自立の助長」として強く求められている のではないかということである。 生活保護制度での「自立の助長」にあたり、 その「自立」の指す内容とは「経済自立」、「日 常生活自立」、「社会生活自立」であるとされ ている。「経済自立」は、従来の生活保護制度 にて強く要請されてきた就労等による安定し た収入を得ることにより生活保護制度での最 低生活費基準を上回ることによって達成され る「自立」である。「経済自立」の達成は保護 の受給要件から外れることを意味し、「自立」 の達成イコール保護の廃止となる「自立」で ある。 一方で、「日常生活自立」は「身体や精神の 健康を回復・維持し、自分で自分の健康・生 活管理を行うなど日常生活において自立した 生活を送ること(生活保護制度の在り方に関 する専門委員会 2004)」であると定義されて いる。例えば、傷病を抱える被保護者が医療 機関の指示に従って通院治療を受ける場合 や、支給された生活保護費を浪費せず、公共 料金や家賃の滞納なく適切に金銭管理を行う 場合が挙げられよう。「社会生活自立」は「社 会的なつながりを回復・維持し、地域社会の 一員として充実した生活を送ること(生活保 護制度の在り方に関する専門委員会 2004)」 であるとされている。具体的には、精神障害 を持ち、長期間の入院生活を送っていた被保 護者が障害福祉サービスの利用や通院治療を 継続しながら、在宅やグループホームでの地 域生活を送る場合や、不登校状態にある被保 護者が学校や支援機関のサポートや見守りの もと復学や進学につながっていく場合などと 言える。 このような「日常生活自立」と「社会生活 自立」は「経済自立」と異なり、その達成が 保護の廃止と直結しているわけではない。つ

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まり、保護を受給しながら達成しうる「自立」 であり、稼働能力を持っていない者や年金受 給の見込めない者など、「経済自立」の達成見 込みの有無に関わらず、全被保護者に共通し て求められる「自立」なのである。 そして、この2つの「自立」がコロナ禍に より改めて光を当てられているのではないか ということである。まず第2節では、高齢者 や基礎疾患保持者において、感染症が重症化 しやすい傾向にあることから、被保護者の高 齢化率の高さや基礎疾患保持者の多さを指摘 した。その上で、被保護者の中にはひとたび 感染すると重症化するリスクの高い者が多い と述べた。このような重症化リスクの高い被 保護者への支援にあたっては、第一に感染し ないよう自己防衛させることにある。次に重 症化の原因となりうる基礎疾患への治療や基 礎疾患を引き起こしうる生活習慣の改善であ ろう。被保護者は「医療保険の被保険者等と 比較して、適切な生活習慣が確立していない 者の割合や、生活習慣病の有病割合が高い(生 活保護受給者の健康管理支援等に関する検討 会 2017:4)」という指摘や「生活保護受給者 の内臓脂肪症候群の該当者及び予備群の割合 は、公的医療保険加入者よりも高い(生活保 護受給者の健康管理マニュアルに関するワー キンググループ 2017:10)」という分析結果 もあり、重症化リスクの高さの根底には、基 礎疾患へのリスクの高さが存在している。こ のような被保護者に対して自らの健康の回復 や健康管理を行えるよう支援することは必要 であると言えよう。コロナ禍の現状を想像で きたはずはなかったと思われるが、平成 30 年(2018 年)6月8日に公布された生活保護 法の改正では、令和3年の1月1日よりデー タに基づいた被保護者の生活習慣病の予防や 健康管理支援の取組みを推進する健康管理支 援事業が施行されることになっており、被保 護者の「日常生活自立」の達成を支援する事 業になりうるであろう。 また、感染症への感染防止や拡大防止対策 として、「新しい生活様式」の普及が盛んに叫 ばれている。コロナ禍以前の日常生活とは異 なり、制約のある中でのコミュニケーション や行動を求められる場面が多くなっている。 そのような制約の中であっても自らの生活を 管理できる状態にあることも「日常生活自立」 の達成目標のひとつであろう。広島大学石井 伸弥氏の行った調査によれば、感染症の拡大 下(2月~6月頃)において「約4割の入所 系医療・介護施設、約4割の介護支援専門員 が介護サービスの制限等で「認知症者に影響 が生じた(広島大学 2020)」としており、特に 在宅者では半数以上が「認知機能の低下、身 体活動量の低下等の影響がみられた」(広島 大学 2020)」という。被保護者の中には自ら の意思で適切な生活管理を必ずしも十分に行 えない者もおり、必要なサービスを利用しな がら「自立」を達成できるよう支援する必要 がある。 第3節では、コロナ禍による外出自粛や社 会経済活動の停滞により、対面接触機会の減 少が引き起こされ、生活保護制度や障害福祉、 介護サービスなど対面での支援やサービス提 供を前提とする社会福祉分野においてもその 影響を強く受けていたことを確認した。そし て、第4節ではそのような機会の減少が孤立 化や社会的なつながりを希薄化させうる危険

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性と、被保護者の持つそのリスクの高さを指 摘した。コロナ禍により DV や虐待の発生、 自殺の増加が懸念されており、これらはまさ にその当事者が周囲への相談や周囲からの支 援の不在により孤立していることや社会との つながりが希薄化していることによるもので ある。新型コロナウイルス感染症対策本部が 公表した新型コロナウイルス感染症対策の基 本的対処方針では、重要な留意事項として「政 府は、地方公共団体と連携し、対策が長期化 する中で生ずる様々な社会課題に対応するた め、適切な支援を行う」ことを表明した上で、 その対象に「長期間にわたる外出自粛等によ るメンタルヘルスへの影響、配偶者暴力や児 童虐待」、「社会的に孤立しがちな一人暮らし の高齢者、休業中のひとり親家庭等の生活」 を挙げている。「社会生活自立」の達成への 支援を通じて被保護者の孤立化を防ぎ、社会 的なつながりを維持することがコロナ禍に よってその重要性を増していると言える。 このように、コロナ禍において高齢者や基 礎疾患保持者の重症化率の高さや対面接触機 会の減少により孤立化や社会的なつながりの 希薄化への危険性が明らかとなり、被保護者 はそれらのリスクへ脆弱であることを指摘し た。そして、その脆弱性を克服するために制 度における「自立の助長」として「日常生活 自立」と「社会生活自立」の達成が求められ ると述べてきた。次節では、2つの「自立」 の近年の動きを整理しながら、「自立」への支 援にあたっての課題を論じていく。

5.被保護者への課題認識と主体性醸

成過程への評価

前節冒頭にて、この「日常生活自立」と「社 会生活自立」が改めて求められると述べてい るのは、この2つの「自立」は決して新しい 概念であるというわけではもちろんない上 に、既に生活保護制度の中で実践されている からである。この2つの「自立」は平成 15 年 (2003 年)に設置された生活保護制度の在り 方に関する専門委員会にて議論され、平成 16 年(2004 年)の同委員会の報告書にて初めて 定義された概念である。報告書では生活保護 制度における「自立」概念の捉え直しを行い、 「経済自立」も含めた3つの「自立」の達成を 具体的に支援する方法として自立支援プログ ラムの導入が提起され、平成 17 年度(2005 年度)からスタートした。 導入以降、2つの「自立」に関する動向に ついては、平成 19 年度(2007 年度)からセー フティネット支援対策等事業費補助金のメ ニューとして精神障害者等退院促進事業が創 設され、福祉事務所にて補助金を活用した自 立支援プログラムのメニューとして整備する ことが可能になった。加えて平成 20 年度 (2008 年度)には、健康増進法の検診と保健 指導が市長村事業として実施されることに伴 い、被保護者の生活習慣病予防対策の一環と して、保健指導の実施やレセプトデータの提 供・分析にかかる費用の補助を行うことを目 的とした健康診査及び保健指導活用推進事業 が新たな補助金メニューとして加えられた。 同じく同年度には、被保護者の抱える多重債 務問題の解消を目的として、年度内に全自治

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体で債務整理等の支援に関するプログラム策 定を目指すことが打ち出された。 続けて平成 21 年度(2009 年度)には、家庭 環境に問題のある子どもや引きこもりがちな 子どもの居場所づくり、学力向上、他人と接 する機会を創ることによる社会性・日常生活 習慣の確立を目的として、子どもの健全育成 支援事業の実施が始まり、補助金を利用した 高校進学や学習支援への支援プログラムを実 施可能になった。また、平成 28 年度(2016 年度)には公共料金等を滞納してしまうなど 生活保護費を適切に管理することが困難な被 保護者に対する金銭管理支援を自立支援プロ グラムとして積極的に取り組むよう通知が出 されている。このように、自立支援プログラ ムが導入されて以降、「日常生活自立」と「社 会生活自立」に関する取り組みが展開されて いった。 生活保護制度の自立支援プログラムの展開 と並行して、平成 27 年(2015 年)4月1日に 生活困窮者自立支援法が施行された。必須事 業である自立相談支援事業のほか、就労準備 支援事業や就労訓練支援事業、家計相談支援 事業、子どもの学習支援事業といった「日常 生活自立」と「社会生活自立」の達成を意図 した事業メニューが整備された。生活困窮者 自立支援制度は施行当初から生活保護制度と 重層的に機能させることが想定されており、 例えば就労準備支援事業では、約 57%の自治 体にて被保護者を対象した被保護者就労準備 支援事業と一体的に実施されている。また、 子どもの学習支援事業では被保護者も対象に 含めて運用されている。平成 30 年(2018 年) 6月8日に公布された同法の改正では、生活 困窮者の定義規定を「就労の状況、心身の状 況、地域社会との関係性その他の事情により、 現に経済的に困窮し、最低限度の生活を維持 することができなくなるおそれのある者」へ と見直し、就労準備支援事業と家計相談支援 事業の実施を努力義務化することとされ、2 つの「自立」への支援体制が強化されたと言 える。 しかし、このように「日常生活自立」と「社 会生活自立」への取り組み環境が整備されて いる中でも、依然として課題は残されている。 それは、自立支援プログラムも含めたこれら の支援事業は、事業を利用するか否かが対象 者の主体性に大きく左右されるということで ある。例えば就労準備支援事業では、その利 用状況として想定されるニーズと比較して制 度の利用が進んでいないと生活困窮者自立支 援のあり方に関する論点整理にて報告されて いる。就労準備支援事業を利用すべき者が利 用しなかった理由について、「本人が希望し ない(必要性を理解しない)」が約 59%、「同 (新しい環境に拒否感がある)」が約 33%を占 めている。数字の示す通り、本人の意向が利 用の足かせになっている現状がある。 この「利用すべき者が利用しなかった」と いうことは、就労準備支援事業に限ったこと ではないと思われる。つまり、生活保護制度 の提供する自立支援プログラムは、被保護者 の同意を原則として、被保護者が主体的に利 用することを主旨としており、被保護者に最 終的なプログラムの利用の是非の判断を委ね ている。自立支援プログラム実施の法的根拠 は、生活保護法第 27 条の2(※9)にあるとさ れており、第 27 条(※10)の指導指示とは異な (※9)保護の実施機関は、第 55 条の7第1項に規定する被保護者就労支援事業を行うほか、要保護者から求めがあっ たときは、要保護者の自立を助長するために、要保護者からの相談に応じ、必要な助言をすることができる。 (※10)保護の実施機関は、被保護者に対して、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示をす ることができる。

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り、保護の停廃止といった不利益処分の対象 とならないと解釈されている。また、「日常 生活自立」や「社会生活自立」に対する支援 は稼働能力の活用を目的とした就労支援と違 い、同法第4条(※11)の補足性の原則とも馴 染みにくいと言える。加えて、同法第 60 条(※12)には、被保護者の努めるべき生活上の 義務として能力に応じた勤労や健康の保持及 び増進、適切な金銭管理など生活の維持向上 に努めるよう定められている。ただし、この 規定について「健康管理や金銭管理は、あく まで受給者が主体的に取り組んでいくことが 重要であるため、本規定に定める生活上の義 務を果たさないことだけをもって、保護の停 廃止を行うことは想定していないことに十分 ご留意いただくようお願いする(厚生労働省 社会・援護局 2014:69)」と明記されており、 義務を果たさないことだけをもって不利益処 分の対象にすることはできない。このように 整理すると、保護の停廃止といった不利益処 分の適用を考慮に入れながら「日常生活自立」 や「社会生活自立」の達成支援のために金銭 管理支援や子どもの学習支援、就労準備支援 などの自立支援プログラムの利用を被保護者 へ求めることは原則的に想定されていないと 指摘できる。 そして、この点こそが被保護者の「日常生 活自立」と「社会生活自立」を促す上での課 題であり、ケースワーカーによる支援の実施 にあたって困難を伴うところなのではない か。つまり、この2つの「自立」の達成に向 けた支援プログラムを整備したとしても、被 保護者自身がその必要性を認識し、支援の利 用に主体的に取り組まなければ、支援プログ ラムは絵に描いた餅になり兼ねないというこ とである。そして、この被保護者の必要性の 認識と主体的な利用に繋がるまでには、その つながるまでの期間においても「日常生活自 立」と「社会生活自立」の部分的な達成が求 められるのである。例えば、「ひきこもり」状 態の被保護者を支援する場合、ケースワー カーはまず何度も家庭訪問を実施し、被保護 者との関係を構築することから始めるであろ う。「ひきこもり」状態であった者が定期的 な面会に応じ、見知らぬ者と一定の関係性を 構築出来る時点で、ケースワーカーの訪問予 定に合わせた行動を取ったり、ケースワー カーとコミュニケーションを取ったりするこ とは、「日常生活自立」と「社会生活自立」の 達成プロセスの範疇へ既に入っているのであ る。そして次に、被保護者とケースワーカー との間で現状や課題を共有し、被保護者が支 援プログラム利用の必要性を認識し、利用の 同意に至る。ここにおいても、被保護者自ら の状況や課題の認識、プログラムの利用を通 じて社会との関わりを持とうと決意するに至 る時点で、自らの生活管理を行おうとする「日 常生活自立」や社会との関わりを回復しよう とする「社会生活自立」の部分的な達成を確 認できる。 (※11)保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維 持のために活用することを要件として行われる。 (※12)被保護者は、常に、能力に応じて勤労に励み、自ら、健康の保持及び増進に努め、収入、支出その他生計の 状況を適切に把握するとともに支出の節約を図り、その他生活の維持及び向上に努めなければならない。

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また、このプログラムにつながる前段階の プロセスは、担当するケースワーカーの担う 部分が大きくなっており、言わばケースワー カー任せになっているという点も指摘でき る。上述のようにケースワーカーは被保護者 への家庭訪問や面談などを通じて被保護者と 現状や課題の共有を行いながら、彼らが主体 的に自身の課題解決に取り組む意欲や姿勢の 醸成を支援する。被保護者からの同意なく始 めから各プログラムの担当支援員に繋いだと しても、被保護者の主体性なくしては、継続 的な支援を実施することは難しい上に、支援 者側のマネジメントやマンパワーの観点から も困難を伴うであろう。そのため、ケース ワーカーはプログラムの利用を通じた2つの 「自立」の達成に先立って、被保護者自身によ る現状や課題の認識と課題解決への主体性と いう「日常生活自立」と「社会生活自立」の 一部を達成するよう支援する必要がある。 ただし、このような現状や課題の認識と主 体性の醸成を支援していくことは一筋縄では いかないことも多い。精神疾患や生活習慣病 を患っている疑いはあるが、病識のない被保 護者への治療支援、「ゴミ屋敷」状態の住居に て生活する被保護者への生活支援、アルコー ル依存症により支給された保護費をすぐに消 費してしまう被保護者への金銭管理支援と いったケースにおいて、一朝一夕では彼らの 課題認識や主体性の醸成に繋がらないことは 想像に容易いであろう。ケースワーカーに とっては肉体的、精神的に労力を費やすこと である上に、このような状況が長期化してい ればいるほど認識や主体性の醸成に至るまで に長期間を要する場合も少なくない。そし て、このようなケースワーカーによる支援は、 池谷の指摘するようにケースワーカーにてど こまでやるのかという基準がないことから、 時間と労力を費やすこの一連のプロセスへの 対応がケースワーカー次第となっているので ある。つまり、「被保護者からみるとケース ワーカーにより、「援助」内容が異なる生活保 護行政の異様さ」(池谷 2011:26)と指摘され るように、ケースワーカー次第で対応が異な り、何をどの程度行うのかばらつきを生じさ せる危険性がある。このような異様さや危険 性は、被保護者の課題認識や主体性の醸成へ の支援の場面に限定されることではないが、 ケースワーカーの担う役割の大きい醸成過程 においてより色濃く現れうると言えるのでは ないか。その結果、「担当が代わった途端に 就労指導がおこなわれる。あるいは担当が変 わった途端に家庭訪問がないということがあ る」(池谷 2011:26)といったことは、被保護 者の課題認識や主体性を無視したケースワー カーの都合による支援になりかねない。 では、このような点を克服するために求め られることは何であるか。重要なことは、 ケースワーカー次第となってきた課題認識や 主体性の醸成プロセスを評価し、見える化す ることであろう。そして、プロセスを評価し、 見える化することで、支援の継続性を担保す ることが可能である。先述したようにこのよ うな醸成過程は、長期間を要する場合や前進 後退あるいは停滞を繰り返す場合もある。そ の間にケースワーカーの交替により、新たな ケースワーカーの裁量によってそのプロセス が中断され、「支援の初期化」を起こさないよ うにそのプロセスがどのような状況にあり、

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これまでどのような過程を踏んできたのか、 そしてどのような成果を生み出しているのか 否かを把握し、評価しなければならないので ある。 このように、自立支援プログラム等の展開 により「日常生活自立」と「社会生活自立」 への支援環境が整備されているが、利用につ ながるかどうかは被保護者自身の主体性に依 るところが大きい。その利用につながるまで の前段階において、被保護者自身による現状 や課題の認識、課題解決に向けた主体性の醸 成が必要である。そして、ケースワーカーは この前段階において課題認識と解決への主体 性という「日常生活自立」と「社会生活自立」 の一部を達成するよう支援する必要がある。 ただし、このような支援においては、ケース ワーカーが何をどこまで行うのかといった基 準はなく、ケースワーカーの裁量に委ねられ る部分が大きい。そのため、継続性の求めら れるこれらのプロセスが、ケースワーカーの 交替により初期化されうる危険性を抱えてい ると言える。そして、コロナ禍により「日常 生活自立」と「社会生活自立」の達成が強く 求められるにあたっては、ケースワーカーに 任せっきりになっていた、言い方を変えれば ケースワーカー次第となっていた課題認識や 主体性の醸成過程を可視化するためにそのプ ロセスを評価することは重要なのではないだ ろうか。

おわりに

本稿では、コロナ禍における生活保護制度 の「自立の助長」をテーマに統計データを中 心としながら現状を分析し、今後の制度運用 にて求められる点を指摘した。 第2節では、感染症の重症化について、高 齢者や基礎疾患保持者に重症化率の高い傾向 があることを前提に、被保護者の高齢化率の 高さや基礎疾患保持率の高さに触れ、感染症 に感染した際の重症化リスクに言及した。 第3節では、コロナ禍による外出自粛や社 会経済活動の停滞により生活保護制度も含め た社会福祉分野において対面接触機会の減少 が発生したことを行政通知や統計データをも とに整理した。 続く第4節では、前節での指摘をもとに対 面接触機会の減少により社会において孤立化 や社会的なつながりの希薄化リスクが発生し ており、特に被保護者においてそのような孤 立化と希薄化リスクの高さを指摘した。 第5節では、それまでの指摘を踏まえてコ ロナ禍において今後生活保護制度で求められ る「自立の助長」にあたり、「日常生活自立」 と「社会生活自立」の必要性を提起した。こ の2つの「自立」の達成を通じて、自らの健 康の回復・維持や生活の管理を行い、感染症 の感染や重症化の防止や「新しい生活様式」 への適応、対面接触機会の減少により高まる 孤立化を防ぎ、社会的なつながりを回復・維 持することが求められると述べた。 そして、第6節では、この2つの「自立」 への支援の取り組み動向を整理しながら、支 援にあたり最初のステップであり、最難関と も言ってよい被保護者自身による現状や課題 の認識及び主体性の醸成過程について触れ、 このプロセスがケースワーカーの裁量に依っ てしまう危険性について論じた。その上で、 ケースワーカーの裁量による「支援の初期化」 を防ぎ、継続性を担保するためにもこのプロ

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セスの評価の必要性を述べた。 「日常生活自立」と「社会生活自立」は「経 済自立」の達成見込みや稼働能力の有無に関 係なく、全被保護者が達成しうる「自立」で ある。コロナ禍によりこの2つの「自立」の 達成を支援することの必要性が高まっている ことを最後にもう一度強調しておきたい。ま た、被保護者が自らの課題を認識し、主体的 にその解決に取り組むことは、「自己決定」や 「自己実現」につながる要素であり、それらの 醸成過程を評価することには意義があると言 える。 (付記)本稿は、令和2年(2020 年)10 月時 点での感染症の感染状況や社会情勢 をもとに執筆されており、現在の感 染状況や社会情勢と異なっている部 分がある。

参考文献

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参照

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