Nile virus、以下 WNV)は、ともにフラビウイルス科フラビウイルス属日本脳炎血清型群のウイルスであり、エ ンベロープを有する直径約 50 nm の一本鎖球状(+)RNA ウイルスである。ウイルスそのものの抵抗性は弱 く、環境中ですみやかに不活化されるが、いずれも蚊によって媒介され、重篤な脳炎を引き起こす。日本脳炎 (JE)は JE ワクチンによって制御されているが、現在も国内においてその流行が高齢者を中心に継続してお り今後も対策が求められる。近年 WNV の分布域は拡大しているが、ヒト用ウエストナイル(WN)ワクチン は開発されておらず、WNV 感染症の流行地域に渡航する場合は媒介蚊対策等の感染予防が必要である。 Key Words:日本脳炎、ウエストナイル熱、ウエストナイル脳炎、フラビウイルス、コガタアカイエカ
はじめに
近年蚊によって媒介されるウイルス感染症の流行 域が急速に拡大し、新興・再興感染症として世界的 規模で問題となっている。節足動物媒介性ウイルス (アルボウイルス)のうち、ヒトに病気を起こすウイ ルスは約 80 種が知られており、その多くは人獣共 通感染症である。日本における急性脳炎のサーベイ ランス対象疾患のうち、蚊によって媒介される四類 感染症には、日本脳炎(Japanese encephalitis、以下 JE)、ウエストナイル熱・脳炎(West Nile fever/ encephalitis、以下 WNF/WNE)、西部ウマ脳炎、 東部ウマ脳炎、ベネズエラウマ脳炎、リフトバレー 熱が指定されており、当該疾患を診断した医師、当 該感染症をヒトに感染させるおそれが高い鳥類に属 する動物またはその死体において WNF を診断した 獣医師、さらに鳥類に属する動物の所有者は、獣医 師の診断を受けない場合において、当該動物が WNF にかかり、またはかかっている疑いがあると認めた ときは、保健所を経由して都道府県知事に届出を行 わなければならない。日本脳炎ウイルスとウエストナイルウイルス
JE および WNF は、それぞれ日本脳炎ウイルス (Japanese encephalitis virus、以下 JEV)およびウ エストナイルウイルス(West Nile virus、以下 WNV) の感染によって生じる中枢神経感染症である。JEV および WNV は、クンジンウイルス(Kunjin virus、 以下 KUNV)マレーバレー脳炎ウイルス(Murray valley encephalitis virus:MVEV)、セントルイス 脳炎ウイルス(St. Louis encephalitis virus:SLEV) とともにフラビウイルス科フラビウイルス属日本脳 炎血清型群に分類されている。これらのウイルスに よる感染症は脳炎を主症状とし、ウイルスのエンベ ロープを形成するE蛋白質のアミノ酸配列の相同性 が高いことが知られている1,2)。わが国は JE の流行 地域であるが、現在日本脳炎の大規模な患者発生は 乾燥細胞培養日本脳炎ワクチン(JE ワクチン)の 定期接種等により制御されている。WNF の流行地 は、アフリカ、中東、ヨーロッパ、アメリカ大陸、 オーストラリアである。日本ではこれまでに WNF の国内流行例は報告されていない。 国立感染症研究所ウイルス第一部第二室(〒162-8640 東京都新宿区戸山 1-23-1)フラビウイルスの性状
フラビウイルスはエンベロープを有する球状の直 径 40〜50 nm の一本鎖プラス RNA ウイルスである。 一本鎖 RNA 上には約 100 塩基の 5L非コード領域に 続いてC蛋白質、prM 蛋白質、E蛋白質の種類の 構造蛋白質がコードされており、さらに非構造蛋白 質である NS1、NS2A、NS2B、NS3、NS4A、NS4B、 NS5 の種類の蛋白質と 400〜700 塩基の 3L非構造 領域が存在する。ウイルス RNA は宿主因子によっ て一本の約 3,400 アミノ酸からなるポリ蛋白質とし て翻訳され、宿主因子と非構造タンパク質によって 切断され、各ウイルス蛋白質となる。フラビウイル スのコアは直径 25〜35 nm であり、塩基性蛋白質 である約 12kDa のC蛋白質により構成される。さ らにコアは約 8kDa の膜蛋白質(M蛋白質)と約 53kDa の糖蛋白質(E蛋白質)の種類の蛋白質 から構成されるエンベロープによって被われてい る。特にE蛋白質は宿主親和性、細胞吸着、毒性、 赤血球凝集反応等にかかわっており、フラビウイル スに対する防御免疫を誘導する主体となる蛋白質で ある。感染細胞内の未成熟のウイルス粒子はM蛋白 質の代わりにその前駆体である prM 蛋白質(約 18〜20kDa)を有しているが、ウイルス粒子が宿主 細胞より放出されるときには prM 蛋白質がフリン によって切断されM蛋白質となることにより成熟粒 子となる3,4)。フラビウイルスは外部環境に対する抵 抗性は弱く、有機溶剤、ホルマリン、ヨード剤、紫 外線、ガンマー線等によって容易に不活化される。日本脳炎
.近年の日本脳炎ウイルスの動向 JE は日本、中国、韓国等の東アジア、アフガニ スタン、インド、スリランカ等の南アジア、フィリ ピン、ベトナム、タイ、カンボジア、ラオス等の東 南アジア、パプアニューギニア、オーストラリア北 部にかけて 24 の国と地域で流行している(図 1)5,6)。 WHO の推計によると毎年 JE 患者が世界で、約 67,900 人発生し、このうち 51,000 人は 15 歳未満の 小児であるとされる。特にインドおよび中国におい て多くの患者が報告されているが、JE ワクチンの導 入により患者数は減少傾向にある。近年ではフィリ ピンでの患者報告数が増加しており、2013 年には 25 人であった JE 患者報告数は定点観測開始後、2016 年には 312 人、2017 年には 361 人と増加した。2019 年には乳幼児に対する JE ワクチンの定期接種がフィ リピンにおいて導入された6)。ところで JEV にはイ ンドネシアを起源としてⅠ型(GI)〜Ⅴ型(GV)ま でのつの遺伝子型が存在する7)。特にわが国では その分布が 1990 年代初めまでは現行の JE ワクチン 株と同 じ GIII が主であったが、1990 年代初頭以降 GI の JEV がブタから分離されるようになり、GIII はむしろほとんど検出されなくなった8,9)。これは日 本だけでなく東アジア地域でみられる傾向である。 さらに近年、中国や韓国では上記の遺伝子型とは異 図 1 日本脳炎ウイルスとウエストナイルウイルスの分布 世界の広い地域でフラビウイルス脳炎が流行している。わが国においても流行 しているJEV は南アジア、東南アジア、東アジアから西太平洋、オーストラリア 北部まで流行している( )。アフリカと中東およびヨーロッパにおいて流行して いた WNV 感染症は 1999 年以来アメリカ大陸においても広い範囲で流行している ( )。WNV のサブタイプであるクンジンウイルスはオーストラリアを中心に分布 している( )。わが国では毎年数千人の JE 患者が 1966 年まで 報告されていた。1924 年には 6,125 人(死者 3,797 人)の日本脳炎の流行が記録されている。JEV は 1935 年に初めて死亡例の脳組織から分離され、さら に 1938 年にはコガタアカイエカから分離されてい る。1954 年にはマウス脳由来不活化日本脳炎ワク チン(Nakayama 株)が開発され、1966 年の 2,017 人をピークに 1967 年のワクチン接種における特別 対策以後患者数は減少し、1972 年以降では 100 名 前後となった。1989 年にワクチン株が Nakayama 株から Beijing-1 株に変更されるとともに、1992 年 以降の患者の発生数は毎年 10 人前後となった。 2009 年には Vero 細胞由来の乾燥細胞培養日本脳炎 ワクチン(Beijing-1 株)が導入され、2018 年には 初めて日本脳炎の報告数が症例となった。しかし ながら 2019 年には、高齢者を中心に 10 例の患者が 発生しており、今後も日本脳炎に対する警戒が必要 である。 .日本脳炎ウイルスの感染環 JEV のおもな媒介蚊は C. tritaeniorhyncus であり、 日本ではおもに蚊と増幅動物であるブタの間で JEV の感染環が形成されている(図 2A)。ヒトは JEV に感染した蚊に吸血されることで感染する。 ヒトやウマは脳炎を発症するが終末宿主であり、 JEV に感染しても高いウイルス血症を示さない2,6)。 ブタは一般的に JEV に感染しても無症状に終わる ため養育豚には JE ワクチンが接種されない。した がってブタの抗 JE 抗体保有調査(感染源調査)特 に抗 JEV 特異的 IgM 抗体の証明は、ブタの JEV 感染時期の特定に欠かせない。この調査から、ウイ ルスの各都道府県における浸淫状況を知ることがで き、JE 流行予測の指標となっている。現在も毎年 行われている各都道府県の JEV 感染源調査ではブ タの抗体価は毎年夏季に全国的なレベルで上昇して おり、依然として国内における JEV の存在が強く 神経系障害を示唆する症状(筋強直、脳神経症状、 不随意運動、振戦、麻痺、痙攣、病的反射等)、昏 睡が現れ、死にいたる2)。脳炎から回復しても精神 神経学的後遺症は生存者の 45〜70%に残り、小児 では特にパーキンソン病様症状や痙攣、麻痺、精神 発達遅滞、精神障害等の重度の障害を残すことが多 い。また経胎盤による母子感染による流産も報告さ れている。日本脳炎は特に乳幼児と高齢者において 重篤化する傾向にあり、その死亡率は 20〜40%で、 幼少児や高齢者では死亡の危険が大きい。アジア各 国では患者の多く(85%)は 15 歳以下の小児、学 童であるが、日本では近年高齢者に多い。 .日本脳炎の予防法 JE に対する特異的治療法はない。感染の進行と ともに現れる発熱、脳浮腫、脳圧亢進、痙攣、呼吸 障害に対する対症療法と合併症の予防が主体であ る。したがって、JE は予防が最も大切な疾患であ る。わが国ではヒト用 Vero 細胞由来の組織培養不 活化日本脳炎ワクチンが使用されている。JE ワク チンの有効性は高く、ワクチン接種を行うことに よって発症を防ぐことが可能である。
ウエストナイルウイルス感染症
.近年のウエストナイルウイルスの動向 WNV は 1937 年にウガンダのウエストナイル地 方で発熱した女性から初めて分離されたウイルスで ある14)。その後 WNF はアフリカ、中東、ヨーロッ パ、中央アジア諸国で流行を繰り返してきたがいず れも小規模で散発的であった。しかしながら 1996 年のルーマニアでの流行以降、比較的大きな流行が ヨーロッパから中東、ロシア、アフリカにかけてヒ トやウマにおいて報告されている15−18)。また 1999 年夏には米国東海岸のニューヨーク市で西半球にお いて初めて WNF が発生した。ニューヨーク市で分離された WNV はイスラエルのガチョウから分離 された株と遺伝子相同性が 99.8%と非常に高く、 ニューヨーク市で流行した WNV 株はイスラエル から侵入したと考えられている19)。ニューヨーク市 で始まった北アメリカ大陸における WNF の流行は 拡大し、その状況はカナダ、メキシコ、カリブ海諸 国、南米コロンビア、アルゼンチンなどの周辺諸国 にも広がった。米国における 2018 年までの患者数 は 50,747 人、そのうち死者は 2,306 人となってい る(表 1)。また 2018 年にはヨーロッパ 15ヵ国で 2,000 症例以上の大流行が発生した20)。中国におい ても新疆ウイグル自治区においてその流行が報告さ れている21)。さらにオーストラリアには WNV に近 縁の KUNV が存在し、近年も散発的な流行が続い ている(図 1)22)。 .わが国におけるウエストナイル熱 わが国においては、2005 年 10 月日に輸入症例 図 2 日本脳炎ウイルスおよびウエストナイルウイルスの感染環 A 日本脳炎ウイルスの生態:日本ではおもにコガタアカイエカと増幅動物で あるブタの間で日本脳炎ウイルスの感染環が形成されている。日本脳炎ウ イルスはブタの体内で大量に増えて、その血を吸った蚊が感染し、ヒトは 日本脳炎ウイルスに感染した蚊に吸血されることで感染する。ヒトで血中 に検出されるウイルスは一過性であり、量的にもきわめて少なく、ヒトか らヒトへの感染はない。 B ウエストナイルウイルスの生態:ウエストナイルウイルスは、おもにトリ の体内で大量に増えて、その血を吸った蚊が感染し、ウイルスを排出する。 ヒトはウエストナイルウイルスに感染した蚊に吸血されることで感染する。 ヒトで血中に検出されるウイルスは一過性であり、量的にもきわめて少な く、ヒト−ヒト感染はない。 A B
が確認されている23)。患者は 2005 年月に米国か ら帰国した 30 代の男性で、米国に月 28 日〜月 日まで滞在し、帰国前夜から倦怠感を呈し、翌日 から発熱、頭痛、発疹、腰痛症状を呈した。実験室 診断として IgM 抗体検査を行ったところ月 10 日 に採取した血清で弱陽性、月 20 日に採取した血 清で陽性を示した。さらに両血清をペア血清とした 中和試験では、倍以上の上昇がみとめられ、10 月日に検査結果は陽性と確定した。RT-PCR 法 による遺伝子検査は陰性であった。 .ウエストナイルウイルスの感染環 WNV はトリが自然宿主であり、トリと蚊の間 で、感染環が形成・維持されている。トリは WNV に感染後〜日の間に多量のウイルス血症を示 し、そのトリを吸血した蚊は再び WNV に感染し、 感染環が成立する(図 2B)2,18,24)。またカラス等にお いて接触感染および経口感染が報告されている18)。 WNV の媒介蚊はこれまでに 40 種以上が知られて いるが、日本に生息するものではアカイエカ(C. pipiens. pallens)、チカイエカ(C. p. molestus)、ヒ トスジシマカ等がウイルス媒介能をもつと考えられ る24)。これまでに感染が確認された鳥類は 220 種以 上に及び、特にカラス、イエスズメ、アオカケス、 クロワカモメ等において血中のウイルス量が高いこ とが報告されている。ヒトやウマは脳炎を発症する が、WNV に感染しても高いウイルス血症を示さ ず、終末宿主である。特殊な感染経路として、妊娠 中の母親から胎児への感染、母乳による感染、輸血 による感染、臓器移植による感染、針刺し事故によ る感染などが報告されており保健、医療、獣医療関 係者は注意を要する。 .ウエストナイル熱・脳炎の臨床症状 )ヒトのウエストナイルウイルス感染症 ヒトにおける潜伏期間は 2〜15 日で多くは不顕性 感染(80%)に終わるが、WNF を発症すると発 熱、頭痛、背部痛、筋肉痛、食欲不振などの症状が 〜日間続く。約半数で発疹が胸部、背部、上肢 に認められ、リンパ節腫脹、発疹、ギランバレー症 候群用症状を呈することもある。さらに重篤な症状 として感染者の約 150 人に人が激しい頭痛、高 熱、筋力低下、弛緩性麻痺、方向感覚の欠如、意識 低下、眼痛、昏睡、震顫および痙攣などの髄膜炎や 2007 1,227 2,403 3,630 124 (3) 2008 689 667 1,356 44 (3) 2009 386 334 720 32 (4) 2010 629 392 1,021 45 (6) 2011 486 226 712 43 (6) 2012 2,873 2,801 5,674 286 (5) 2013 1,267 1,202 2,469 119 (5) 2014 1,283 839 2,122 85 (4) 2015 1,455 720 2,175 146 (7) 2016 1,309 840 2,149 106 (5) 2017 1,425 672 2,097 146 (7) 2018 1,658 989 2,647 167 (6) 合計 24,593 26,154 50,747 2,306 (5)
脳炎症状を呈する。重症患者は高齢者に多く、髄膜 脳炎を起こした患者の致命率は 3〜15%とされる19)。 ポリオ様弛緩性麻痺も報告されている。検査所見は 末梢血中の白血球数正常あるいは軽度の増加、リン パ球数低下、脳炎患者においては脳脊髄液中のリン パ球数増加、蛋白増加、糖正常である。脳炎症例の MRI では大脳基底核、視床、橋、脳室辺縁部の病 変が示唆されている19)。 )トリのウエストナイルウイルス感染症 WNV 感染鳥は多くは無症状であるが、ひとたび 発病すると死にいたるため死亡鳥の調査は WNV の動態の把握に有効である。したがって死亡鳥を発 見した際はすみやかに最寄りの公衆衛生機関に届け 出ることが望ましい。トリにおけるおもな臨床症状 は嗜眠、羽毛逆立ち、運動失調、震顫、異常頭部姿 勢、旋回、痙攣、削痩等である。さらに数羽のカラ スにおいては口腔や総排泄口に出血が認められる。 またカラス、アメリカチョウゲンボウ等においては ウイルスがトリの糞便中から検出されている。剖検 所見は頭蓋冠の出血、心筋炎、胃腸の出血、脾腫、 腎炎等が認められ、組織学的には小脳の点状出血、 髄膜炎、血管周囲の細胞浸潤、グリア細胞の結節、 心筋炎、心外膜炎、心内膜炎、全腸炎、脾の壊死、 肝のうっ血、肝細胞の散在性壊死、間質性腎炎等が 認 め ら れ る。ま た 死 亡 鳥 の 脳、腎、心、脾、肝、 肺、小腸、食道、生殖腺、皮膚、眼球からはウイル スが検出される25−27)。 .ウエストナイルウイルス感染症の治療と予防 一般に WNV 感染に対する特異的治療法はなく、 対症療法が中心である。脳炎を発症した場合は脳浮 腫対策、抗痙攣薬の予防投与などを行う。ヒト用ワ クチンは現在実用化されていない。また JE ワクチ ンによる WNV に対する交差防御効果も示されて いない28)。したがって WNV に感染するリスクを減 らすおもな手段は蚊に吸血されることを避けること である。そのためには蚊の防除・駆除および蚊の繁 殖を抑制することが必要である。WNV の浸潤地域 においては蚊との接触を防ぐため肌の露出をさける こと、N,N-diethyl-3-methylbenzamide(DEET: ディート)あるいはイカリジン(ピカリジン)等を 含む忌避剤を適切に使用することなどが重要である。
日本脳炎およびウエストナイル
ウイルス感染症の実験室診断
JE あるいは WNE の多くは不顕性であり、また その臨床症状は、ほかの類似疾患との鑑別が困難な ので、確定診断には実験室診断が必須である2,18,29,30)。 JE および WNE の代表的な実験室検査には、a) 血清や脳脊髄液からのウイルス分離あるいはウイル ス遺伝子の検出を目的とした病原体検査法と、b) IgM 捕捉 ELISA、中和抗体試験、HI 試験、CF 試 験等による抗ウイルス抗体の検出を目的とする血清 学的検査法がある。培養細胞を用いたウイルス分離 法にはアフリカミドリザル腎由来の Vero 細胞やヒ トスジシマカ由来の C6/36 細胞を用いる。細胞変性 (CPE)が観察された時点あるいは日後に培養液 の一部を凍結保存し残りの培養液を用いて特異的抗 体を用いた免疫蛍光抗体法あるいは RT-PCR 法に よるウイルスの同定を行う。ウイルス遺伝子検出検 査は、血清や髄液などから RNA を抽出し、RT-PCR 法、リアルタイム RT-PCR 法を用いて実施する。 しかしながら JE の場合、発病初期の血液・髄液か らのウイルス分離は、まれに成功することがある程 度である。JE および WNE の抗体検査は、血清や 髄液から、各ウイルスに対する抗体を検出する方法 である。抗体測定用血清は急性期(発病後日以 内)および回復期(発病後 14 日以上)に採血を行 い、ペア血清として抗体測定に用いる。中和試験法 は、判定までに時間を要するが、特異性が高い。し かしながら WNV に対する中和試験は BSL3 施設が 必要である。おわりに
わが国において日本脳炎はワクチンによって制御 されているが、高齢者を中心に患者が発生してお り、その感染源調査によりいまだ JEV が国内に広 く分布していることが示されているため今後も引き 続きその対策が必要である。また 1999 年に米国東 海岸に侵入した WNV は 2003 年にはその分布域を 米国西海岸にまで広げており、現在もその流行が続 いている。またその流行域は米国、ヨーロッパ、中 央アジア、南アジア、オールトラリアと広い地域に 及んでいるため今後もその動向を注視する必要があ る。アルボウイルス感染症の発生動向にはヒト、節 足動物、気候、環境等の要因が複雑にかかわり、ウ イルスによってその感染環は異なる。したがって JEV および WNV の動向には十分な注意が必要でそして国立感染症研究所ウイルス第部の皆様に心 より感謝申し上げます。
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