-(51)-集団記述における“kinematical interaction”について 東京教育大学物理学教室 高野文彦 (1957年2月28日受理) 多体問題における集団記述の際,集団座標が余分の変数として入る場合が多い.この場合 いつも自由度のことが問題になる.つまり自由度がふえたための影響をどう処理するかである. 普通はたとえばBohm-Pines1)のように補助条件をおくことによつて形式的に避けている が,補助条件の形では取り扱かいに不便で,実際,補助条件を正確にみたす波動函数を見出し た例はない.そこでこの自由度の過剰を処理するもつと便利な方法を考えようというのがこの ノートの目的である.この問題はDyson2)spin waveの理論で“kinematical interaction”と呼んだものに相当するわけで,こゝの結果はある意味ではDysonの 得た結果の一般化になつている.またこゝで述べることは本誌2月号の論文3)でも少し触れて いることであるが,投稿后もつとスマートな取扱いがでることが判ったので,重複する 所もあるかもしれないが,追加の意味でこのノートを出すことにした. さてn粒子系を考え,各粒子の座標X1…Xnを変数とする波動関数を|α>とかき 粒子座標X1…Xn以外に集団座標ξ1(X1,…,Xn),ξ2(X1,…,Xn),… ξ3(X1,…,Xnを独立変数として含む波動函数を|α>とかくことにする.波動函数|α> の作るヒルベルト空間をV|α)の作る空間をU(前には“ひろい”空間と呼んだ)と呼ぶ ことにする.Uに属する|α)からνに属する|α>を作るoperatorをPとかき,P|α> =|α>とする.Pを実際作るにはUに属する函数ψ(X1…Xn;ξ1…ξl)に対し て Pψ(X1…Xn;ξ1,…,ξl)=ψ(X1…Xn;ξ1(X1…Xn)…ξl(X1…Xn)(1) とすればよい.(1)の意味はξ1,…,ξlはψの中で独立変数として取扱われているが Pがoperateするともはや独立変数でなくX1…Xnの函数お見なされ.PψはX1…, Xnのみの函数になるということである. さて次のような性質をもったUの部分空間U1を考える.すなわちU1における完全直交 系規格|α1),|α2)、…からP|α1)≡|α1>,P|α2)≡|α2>,…を作ると, Vでの完全直交規格系|a1>,a2>|…との間に一対一の対応がつくられ,|αi>はV
-(52)-における完全系を作るものとする.かくてVに属する任意の函数は 1>=Σi|αi>Ci(2) で展開でき係数Ciは任意に定まることになる. この|αi>は完全ではあるが一般に直交していない[(αi|αj)=δijではあるが <αi|αj>=(αi|P|αj)はδijになるとは限らない]そこでVにおける固有値問題 およびTraceの計算をこの非直交函数で実行することを考える.結果は極めて簡単でV における任意のoperatorAに対して A|αi>=Σj|αj>Aji(3) と書くと(Aij=<αj|A|αi>にはならない)Aの固有値aは |Aji-ajδji|=0(4) なるsecular equationより定まり.また TrA=ΣiAii(5) と書ける.このことは行列の変換の性質から|αj>が直交していなくても当然のことであり. 別に証明する必要はないかもしれないが,念のため附録に証明しておく. 次にVにおけるoperatorAに対し AP=Pδ(6) に従つて作られるUにおけるoperaterδが物理量Aに対応しているものとする.(種々の 集団記述の方法におけるハミルトニアンはこれと矛盾していないはずである.)すると(3)は P{δ|αi)-Σj|αj)Aji}=0 (7) となる,一般δ|αi)は|αj)だけでなくU1に直交する成分|β)も含んでいるはず であるが,(4),(5)ではその成分は不要になる.ともかくこうしてδを定義すれば(4)は |αj|δ-a|αj)|=0 (9) という普通の行列式に,また(5)は TrA=Σi(αi|δ|αi) (10)
-(53)-という形になる。こゝで注意しなければならないのは|αi)はU1における完全直交規格系 でU全体の完全系ではないことである。すなわちハミルトニアンの対角化にしろ,状態和の計 算にしろU1の中に話を限つて進めなければならない。 そこで問題は上に述べたようなU1をどのようにして作るかになる。一般の場合にそれを 示すのはむづかしいので,例としてBose系で,集団座標として密度をとつた場合を考える。 ρk=1√NΣei〓〓j;0<|〓|〓kc (11) まずUにおけるoperatorを作るにはVでのoperatorは全て〓j,〓jだけの凾数だか ら,〓j,〓jに対応するoperatorを作ればいいことになる。〓jに対しては 〓jPψ(〓j;ρk)=〓jψ(〓j;ρk(〓j))=P〓jψ(〓j;ρ〓) だから別にかき直す必要はない。ただしΣjei〓〓jの形でまとまつているものがあれば,そ れはρkとしてもΣji〓〓jのままでもどちらでもかまわない。従つてそれだけの不定さは 残るのだが,それは(6)だけではUにおけるoperatorを作る条件として十分でないことを 示すものである。(実際Bogolyubov & zubarev4)の補助変数の方法ではこの不定さ は残つてしまう) 次に〓jに対しては ∂∂〓jPψ(〓j;ρ〓)=P(∂ψ∂〓j)+PΣ〓∂ρ〓∂〓j(∂ψ∂ρ〓) だから ∂∂〓jP=P(∂∂〓j+Σ〓∂ρ〓∂〓j∂∂ρ〓) となる。実際こう書き直して得られるUにおけるハミルトニアン〓が,〓jの方を適当に ρ〓におきかえるとBohm-Pines1)が得たものに同じになることは,前の論文で示した。 次にU1であるが,それは次のように作ればよい。Uでのexcitationはρ〓と粒 子のexcitationがあるが,|〓|〓kcではρ〓のexcitationのみをとり,粒 子のexcitationは|〓|>kcに限られるものとする。(こうしないとP|αj)がVにお いて一次独立でなくなる)次に全excitationの総数はnをこえないとする。こうすれ ばP|αj)がVにおける完全系になることは,次のように一対一の対応をつけられることか ら判る。 ρ〓は調和振動をし,粒子は事由粒子で近似することにすると,任意のexcited state
-(54)-|αj)はground stateをρ0とかくと, m〓i=〓ρ〓iΨ〓1,…〓lψ0 (12) とかける。たゞし|〓i|〓kc,|〓i|>kcで〓〓1,…Klは粒子が波数〓1,…, 〓lにexciteしている状態を表わす平面波のpermanentである。これに対しVでの 完全系として平面波のpermanentをとり,(12)に対応するものとして Ψ〓1,…〓m,〓1,…〓l (13) をえらぶ。すると(12)と(13)はたしかに一対一に対応する。ただしexcitationの総数 m+lがnをこしたものは(13)にはない。これがexcitationの総数がnをこえない ようにする理由である。 以上はρ〓が集団座標で調和振動をし,粒子の方は自由粒子的としたが,それがどういう 運動をしても,またρ〓以外のものを集団座標にとつても同じことが成立する。かくてBose 系に関する限り,変数が増したための補助条件はexplicitに考える必要がなく,Dyson のいわゆる“kinematical interaction”は完全に処理され,後は上に作つたU1内 でハミルトニアンを対角化し,それから状態和をつくればよいことになる。こゝで注意しなけれ ばいけないことは普通行われているようにU全体でハミルトニアンを対角化しようというのは ground stateに近い所ではそう悪くないにしても正確ではないことである。 以上のようなことをFermi系に対して適用しようとすることは簡単にできそうにない。 これがHe4とHe3の性質のちがいの主な原因のように思われる。 附録(4)(5)の証明 (4),(5)は行列の変換に際してのtrace行列式の不変性を示すもので,自明のこと かもしれないが,とくに(5)は余り知られていないようなので一応の証明をしておく。 (4)の証明:Aの固有凾数を1>,固有値をaとして A1>=a1> (A・1) 1>を|αj>で展開して 1>=ΣCj|αj> j これを(A・1)に入れて(3)式A|αj>=jΣ|αj>Ajiを用いると
-(55)-Σi,j|αi>AijCj=Σj|αj>aCj |αj>は一次独立だから各々の係数を等しいとおいて ΣjAijCj=aci 全てのCjが0でない解をもつための条件として(4)が出る。 (5)の証明:|ai>を完全直交規格系として T〓A=Σi<ai|A|ai> (A・2) |αi>|ai>を互に他で展開して |ai>=Σj|αj>Cji (A・3) |ai>=Σj|aj>Dji (A・4) 〈ai|aj〉=δijだから(A・4)より 〈aj|αi〉=Dji (A・5) また(A・3)を(A・4)に入れると |αi>=Σj,k|αk>CkjDji となるが|αi>は一次独立故 ΣjCkjDji=δki (A・6) (A・3)を(A・2)に入れて(3)を用いると T〓A=Σijk<ai|αk>AkjCji =ΣijkAkjCjiDik こゝで(A・6)を用いると(5)が出る。
-(56)-文献 1)D.Bohm&D.Pines Phys.Rev.92.609(1953) 2)F.J.Dyson. Phys.Rev.102.1217(1956) 3)高野 物性論研究 105.27(1957) 4)N.Bogolyubov&N.Zubarev. J.Exp.Theor.Phys.U.S.S.R. 28.129(1955)