科学技術と長寿化に係る社会保障政策
第 7 回キューバ大会の開催
滝沢茂男 NPO 法人国際バイオフィリア リハビリテーション学会理事長 要旨 本年は国際学会のほか、日本との国交 80 周年に当たる記念事業としてキューバ政府の支援を受 け、また外務省の後援事業として外務大臣のご許可をいただき、「科学技術の知と人類の長寿化 に係る社会保障政策」に関し、技術移転や問題探索を中心にワークショップを開催しました。 11 月 24・25 日の大会は、同国唯一の全国紙「グランマ」でも大きく報道されました。学会では 多面的な討議が行われました。癌患者のリハビリテーションなど興味深い報告の中で両国の長寿 研究へのアプローチが明らかになり、また今後の課題について閉会後も昼食会・夕食会や病院視 察を通じて討議されました。また、ワークショップではキューバ政府が 10 年前に設立した、ラテ ンアメリカ諸国からの医学留学生を教育することを目標としているラテンアメリカ医科大学で、 ポーランド科学アカデミー会員のポコロフスキー医学博士と私が 100 人程度の教員、修士課程留 学生を対象に、バイオフィリアリハビリテーション(タキザワメソッド:米国特許と創動運動) の可能性について講演しました。第 1 回大会のサイパン政府との共同開催によってパラオ共和国 にその方法が普及したように、中南米各国への普及の可能性を強く感じました。著作 4 冊を、日 本語著作であっても在日キューバ大使館経由で図書館に配置したいとの希望があったほどでした。 キューバでは一人の医師に対し 179 人の住民と、同 500 人の日本とは大きく異なっており、その 現状を知るのも一つの目的でした。学会ではその現状が報告され、また地域の 1 次診療施設の視 察もしました。私たちは、乳幼児死亡率や長寿に関して共通の認識が基盤にあることを確認しま した。 我々の学会活動は、各国政府との共同開催や昨年の世界保健機関(WHO)の後援に見られるよう に世界各国から期待されています。 誕生から死に至るまでの人の一生を、自然の支配から人の意思の下に移したと理解しました。 死生の自然な仕組みが変質したのであり、胃瘻造設(経口摂取困難患者へのチューブによる栄養 管理処置)による生命維持などのあり方にまで議論が至りました。今後共に研究を進めたいとキ ューバ薬理学会と意見が一致して、来年の同学会における招待講演を依頼されました。 自立社会確立に向けて人々の意識改革も重要と思われます。新たな課題として、生活者自立型 の社会が実現できる社会保障研究へ、多くの研究者の参画を期待しています。 キーワード:社会保障政策、グランマ、乳幼児死亡率、長寿1.
医療先進国キューバ
医療先進国のキューバで 11 月 24・25 日に国際大会を開催しました。学会の開催は大きな反響を 呼び、同国唯一の全国紙「グランマ」でも大きく報道されました。 キューバでは一人の医師に対し 179 人の住民と、同 500 人の日本とは大きく異なっており、そ の現状を知るのも一つの目的でした。 学会ではその現状が報告され、また地域の 1 次診療施設の視察もしました。訪問した 1 次診療 所では、看護師が常駐副責任者になっており、医師の診察の必要が認められた患者さんは移動が 大変な状況でも救急車で速やかに医師のいる 2 次病院へ搬送されます。また 1 次診療所では、弁 護士の紹介や地域の行政情報が地域住民に提供されていました(写真 1)。 私たちは、乳幼児死 亡率や長寿に関して共通の認識が基盤にあることを確認しました。2. ラテンアメリカ医科大学
我々の学会活動は、各国政府との共同開催や昨年の世界保健機関(WHO)の後援に見られるよう に世界各国から期待されています。 77本年は国際学会のほか、日本との国交 80 周年に当たる記念事業としてキューバ政府の支援を受 け、また外務省の後援事業として外務大臣のご許可をいただき、「科学技術の知と人類の長寿化 に係る社会保障政策」に関し、技術移転や問題探索を中心にワークショップを開催しました。 ワークショップではキューバ政府が 10 年前に設立した、ラテンアメリカ諸国からの医学留学生 を教育することを目標としているラテンアメリカ医科大学で、ポーランド科学アカデミー会員の ポコロフスキー医学博士と私が 100 人程度の教員、修士課程留学生を対象に、バイオフィリアリ ハビリテーション(タキザワメソッド:米国特許と創動運動)の可能性について講演しました (写真 2)。 第 1 回大会のサイパン政府との共同開催によってパラオ共和国にその方法が普及したように、 中南米各国への普及の可能性を強く感じました。著作 4 冊を、日本語著作であっても在日キュー バ大使館経由で図書館に配置したいとの希望があったほどでした。 学会では多面的な討議が行われました。癌患者のリハビリテーションなど興味深い報告の中で 両国の長寿研究へのアプローチが明らかになり、また今後の課題について閉会後も昼食会・夕食 会や病院視察を通じて討議されました。
3. 社会保障制度を完備した国
科学技術の知は地球環境に影響していますが、我々は医療・衛生・栄養等での科学技術の知の 向上が、両国民の長寿化へ著しい影響を与えている現状を認識しました。 誕生から死に至るまでの人の一生を、自然の支配から人の意思の下に移したと理解しました。 死生の自然な仕組みが変質したのであり、胃瘻造設(経口摂取困難患者へのチューブによる栄養 管理処置)による生命維持などのあり方にまで議論が至りました。今後共に研究を進めたいとキ ューバ薬理学会と意見が一致して、来年の同学会における招待講演を依頼されました。 死生が人の意思によることとなった現代における変化は、社会システムに負担を強いることに つながると危惧されます。特にキューバや日本のように社会保障制度を完備した国ほど影響を受 けることになります。 2005~06 年に行った科学研究費による海外調査「褥瘡(床擦れ)対策未実施減算導入後の褥瘡 に関する研究」で、ドイツでは入所者に介護者の摂食補助による食事を提供しないこと、入所後 1 年半以内で死亡することを確認しました。 現在、厚生労働省でターミナル期の生命維持に関するアンケート調査が行われていると聞きます。 昨年の日本での学会において、参加した内閣府参事官との討論でこの点が取り上げられました が、今後の課題としての議論に至りませんでした。4. 人々の意識改革
死に至るまでの一生が人の意思による場合、介護保険を含め社会保障のあり方がこれまでの認 識と異なってくるのは当然であり、社会保障政策のあり方を再検討するべき時期と考える人が増 えることは自明と思われます。 キューバの国民生活は、いろいろな話や見聞から、経済が破綻状態にあることが分かりました。 隣町へ行くにも、人々はお金を手に持ち、路上で通りかかる車に同乗を求めるのが通常でした。 医療において胃瘻増設による生命維持は行われていませんが、人々は屈託のない様子で平均寿命 77 歳の暮らしを楽しんでいるように見受けられました。 我々は社会的取り組みとして、高齢市民が活躍するための社会技術研究会講演会を藤沢市の後 援を得て 9 月に実施しました。後援ゆえに、市教育委員会を通じ市内の学校、社会教育施設へポ スターを配布し掲示状況を調査しましたが、掲示した学校は 25%でした。これは、現在、健康で 社会の中核を担う人々が、高齢者になることや障害を持つことを自分のこととして考えないとい う課題を示していると思われます。 こうした経験もあり、学会後の討議では「長寿化により年金など既存システムが破綻する危機 に対し問題解決のための提言、具体的な技術、手法について実証まで行う研究開発プロジェク ト」が我々に期待されているとの結論に至りました。 新たに岡山大学病院が研究に参画されることとなり、大きな成果につながると考えています。 78自立社会確立に向けて人々の意識改革も重要と思われます。新たな課題として、生活者自立型 の社会が実現できる社会保障研究へ、多くの研究者の参画を期待しています。 (初出:2009 年 12 月 8 日時事通信「厚生福祉」5689 号 p6-7 に加筆) (写真 1)キューバ 1 次診療所と日本側メンバーと共に (写真 2)ワークショップ会場ラテンアメリカ医科大学で紹介を受ける 79