三島由紀夫『潮騒』論(平成十四年度卒業論文要旨集)
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(2) 三島由紀夫﹃潮騒﹄論. 近代文学研究室. 九〇六二. 酒井. 幸. 従来の研究は、作品を恋愛の成就を措いたハッピーエンディ ングの恋愛小説ととらえている。しかし作品の最後の段落には、 新治と初江の認識の違いを明らかにする記述があり、従来のと らえ方で作品を読むことは不自然であると考えた。そこで、作 品のさまざまなモチーフの分析を通して、恋愛以外のテーマを 導き出すことをねらいとした。 甲板見習先の嵐の場面で大仕事を成し遂げることで、新治は 大きな成長を遂げた。それまで、初めての恋愛に翻弄され自分 を見失っていた新治が、自らの力で勝ち取った成功は、結婚を 認められたという恋愛の成就以上に、海で働く男として一人前 と認められたという、男の成長を意味していたのである。仕事 への情熱が、恋愛の熱を越えた瞬間であった。 作品最後の段落で、自分の写真が新治を守ったと考える初江 に射し、新治が眉を聾やかしたのは、自分の気力と体力によっ て成功をおさめ、大きな成長を遂げた新治の自尊心の表われで あったと考える。 肉体と知性の調和に憧れていた作者が﹃潮騒﹄という作品で 健やかな肉体を持つ新治の成長を描いたのには、知識に偏った 都会の人間に、肉体の充実とそれによってもたらされる人間性 の豊かさの意義を投げかける意図があったのだと考える。. −72−.
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