音楽鑑賞領域における情動変化に関する研究
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第55巻 第1号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.55,No.1. 平成16年9月. September,2004. 音楽鑑賞領域における情動変化に関する研究. 大場 公博・戸田須恵子. 北海道教育大学釧路校教育心理学研究室. はじめに. 音楽は我々の生活に当たり前のように存在する.その音楽が現在「音楽療法(MusicTherapy)」として 用いられている.音楽療法は「身体の健康と心の健康のために,音楽を用いる治療」で,最終的にクライエ ント(対象者)を健康な日常生活に復帰させる事を目的とするものである.音楽が楽しいものであって,誰 に対しても平等に与えられるものであり,音楽療法の基本的精神が「人間性の尊重」であるという点から音 楽が治療として用いられるのであろう(村井,1998;アルバン,1989).そして同時に,音楽療法のこういっ た精神が,学校教育においても生かされるべきではないかと考える.音楽という教科は豊かな人間性を育む ための素晴らしい素材のひとつであると言えるだろう.櫻林(1978)は,「人間にとって音楽が,療法的存 在として機能的に理解される限り,音楽教育は療法的音楽教育として学習され,音楽の療法的活用が学校の 場において実践されなければならない.」と述べている.そして音楽教育の中でも鑑賞の領域で考えた場合, 子どもたちが音楽によっていかに心が動かされるのかが重要であると言えるのではないだろうか.本研究は, そういった音楽の人間に及ぼす情動的な側面に着目し,音楽聴取によって喚起された情動的変化を見た. 音楽が情動に与える影響について多くの研究がなされいる(Asmus,1985;Hevner,1936;川原・野波, 1977;中村,1983;谷口,1995;Trehub,1993).Trehub(1993)は4歳から8歳までの子どもと大人に音 楽を聴かせ,その感じを顔の表情で調査し,幼児でも調性の弁別を理解していることを報告している.しか し,音楽の人間に及ぼす感情的な側面に注目した場合この方法では情動的変化を明らかにすることは難しい. 音楽作品やその聴取によって喚起される情動を測定する手段として形容語を用いた質問紙法があり,代表的 なものにHevner(1936)の形容語チェックリスト法がある.Hevnerは66の形容語を8つの群に分類して いるが,Farnsworth(1954)は,Hevenerのチェックリストは内的一貢性に欠けるとして50の形容語を 選びだしている.日本においても聴取から喚起される感情について多面的に研究されている(管・梅本, 1983;宮原・守田,1995;谷口,1991a,1991b;寺崎・古賀・岸本,1992).谷口(1995)は,Hevner(1936) の研究を基に大学生を対象に音楽作品の感情的側面を形容語から測定する単極評定尺度を作成し,高揚,親 和,強さ,軽さ,荘重の5因子を抽出した.川原丁野波(1977)や中村(1983)も同様に形容語を用いた研 究を行い,川原・野波は感情,早さと強弱,質量,感触,性状の5因子を抽出し,中村は快い弛媛,陽気さ, 抑うつ,緊張・力働性の4因子を抽出している.しかし,これらの因子はどゐような楽曲を聴取するかで異 なることは明らかである.彼等の研究では,被験者に対し楽曲を聴いてもらい,形容語の評価によって情動 変化を測るという手法であるが,被験者の情動反応についての測定は行われているものの,その具体的な要 因,個人差などの調査についてはほとんど行われていない.. 音楽鑑賞で情動を喚起させる要因には,聴取者のそれまでの音楽経験の有無,聴取者の楽曲に対する知識 が大きく関係することが考えられる(東,1970).音楽経験の有無に関しては,佐藤(1994)が音楽経験の 違いが聴取の仕方に影響を及ぼすことを明らかにしている.又,楽曲に対する知識に関して,杉山(1995). 133.
(3) 大場 公博・戸田須恵子. は,聴取直前にそれぞれの楽曲についての簡単な説明をしたグループと説明しないグループに分け比較した ところ,説明ありグループの方が意欲的に聴いてみたいという反応を示したことを報告している.しかし, これらの研究は,被験者のどういった情動がそのような反応を導いているのかについては言及していない. そこで本研究では,音楽聴取によって喚起される情動変化とその要因について検討することを目的\とした. ここでは,被験者がどのような感情状態になったかをこれらの先行研究を基に,形容語を用いて実験的に比 較する.本研究では音楽聴取によって喚起された情動が,音楽的経験の有無,楽曲に対する知識の有無で違 いがあるかを検討した・ここで音楽的経験や楽曲に対する知識に焦点を当てたのは,音楽を聴取する際には,. 認知的な要素と知覚的な要素が関係していると考えたからである(阿部,1987;星野,1985;三雲,. 1990).. 従って本研究では評価尺度に加え,これまでの音楽経験の有無,知識の違いによって楽曲を好んで聴けたか, またもう一度聴いてみたいと思うかについての情報を得ることとした.先行研究等から以下の仮説を設定した. 1)音楽経験のあるものとそうでないものとでは,音楽聴取における情動変化に違いがあるだろう. 2)曲のジャンルによって音楽聴取における情動変化に違いがあるだろう. 3)音楽に聴き入るレベルが深いほど,そして好みであればあるほど情動変化に違いが現れるだろう. 4)楽曲に対する知識があるかないかで,音楽聴取における情動変化に違いがあるだろう.. 予備調査. 予備調査の目的は,音楽聴取における情動評価についての尺度を構成することである. 方 法 被験者:教育大学釧路校学生35名(男16名 女19名).年齢は18歳から24歳であった. 手続き:実験は2002年12月に集団で実施した.場所は教育大学釧路校で,所用時間は20分程度であった.被 験者は,1曲ずつ聴き終わってから形容語によるSD評定を3曲分行った.評定は,SD7段階評定であっ た・また,各楽曲の好き嫌いについても,1曲ずつ聴き終わった後,適当な形容語を選んで○をつけるとい. う方法を用いた.なお,聴かせる音楽は市販のCD(コンパクト・ディスク)を使い,VictorのMX−MD77 を用いてスピーカー再生した.大橋(1990)は,「周波数が20,000ヘルツを超える超音波にこそ人間に感動 を与える効果がある」と主張し,CDではリラックスした時の脳から発生するα波が減少するということを. 明らかにしている.今回の調査でも20,000ヘルツ以上をカバーしてあるアナログレコードやLPを用いた かったが,今回の調査の目的への影響について考慮した上で,また設備的な問題も含めCDを使うことにした.. 質問紙:前述したHevner(1936)t,谷口(1995),川原・野波(1997),中村(1983)などの先行研究を参 考にして,音楽聴取により情動を評価する形容語をできるだけ偏らないように選出し,21個のSD対を作成 した(岩下,1983).聴取に対する回答は3曲それぞれ7段階のSD評定とした.又∴曲の好き嫌いについ ての回答は5段階評定(非常に嫌い,やや嫌い,どちらともいえない,やや好き,非常に好き)とした.. 聴取音楽:1.モーシァルト「そりすべり」ドイツ舞曲,K.605第3曲 2.ショパン エチュード 作 品10第3番 「別れの曲」 3.ビゼー “カルメン’’第2組曲より 「Habanera」. 結 果 得られたデータをもとに1曲ずつ因子分析(主成分分析 バリマックス回転)を行ったところ,各曲5因 子ないし6因子が抽出された・それぞれの楽曲の各因子に属する項目について,因子負荷が高く,しかも各 楽曲に共通して含まれている(2曲以上)形容語対を引き出し29項目選出した(Tablel).. 134.
(4) 音楽鑑賞領域における情動変化に関する研究. Tablel.全曲を通して構成した尺度 静と動の因子. 淋しい一にぎやかな(3),落ち着いた一括発な(2),沈んだ一うきうきした(3),生気のない− 生き生きした(2),悲しい−うれしい(2),暗い一明るい(2). 高揚と抑鬱の因子 陽気な一陽気な(2),楽しい一憂うつな(2) 性状の因子. 厳しい⊥やさしい(2),激しい一おだやかな(3),荒い一級細な(3). 性格の因子. どっしりした⊥浮かれた(2),きまじめな−ユーモラスな(3). 感性の因子. 鋭い一鈍い(3),勇ましい−かよわい(2). 質量の因子. 重い一軽い(3). ※()は共通して含まれていた楽曲数. 本調査. 本調査の目的は,予備調査で作成した尺度を用い,音楽聴取における情動琴化の要因について検討するこ とである.ここではその要因について,①音楽経験による違い,②楽曲についての知識による違いの2点に 着目した.. 方 法. 被験者:大学生及び社会人80名(男38名 女42名)で,年齢は18歳から26歳であった.また,音楽経験者に っいては習い事の経験者が13名(ピアノ10名,エレクトーン3名),学校での部活等での経験者が19名(合 唱9名,吹奏楽6名,器楽3名,鼓笛隊1名)であった.. 手続き:実験は2003年10月から12月にかけて複数回実施した.場所は教育大学釧路校で,所用時間はそれぞ れ30分程度であった.楽曲は6曲用いた.はじめの3曲については1曲ずつ聴き終わってからそれぞれ評定 を行うことを教示し,後の3曲については実験者の楽曲ついての説明後に楽曲を聴取し,1曲ずつ聴き終わっ. てからそれぞれ評定を行う上とを教示した.なお,楽曲の聴取順に関しては,2つのパターンに分け,それ ぞれ3曲ごとに順序を変えた.このようにして音楽聴取における形容語による単極評定を6曲分評定しても らった.また,①各楽曲を聴いたことがあるか,②各楽曲の好き嫌い,③今後も聴いてみたいと思うかとい う質問についても,1曲ずつ聴き終わった後に回答してもらった.この際,判断に多少の困難を感じても, 第1印象で曲全体を把握したうえで評定してもらうようあらかじめ指示した.なお,聴かせる音楽は予備調 査と同様に市販のCD(コンパクトディスク)を使い,VictorのMX−MD77を用いてスピーカー再生した. 質問紙:予備調査で作成した尺度の中から,負荷の高かった項目を29個選出した.この際得られた6個の因 子の項目がそれぞれ偏らないように留意した.なお,本調査では予備調査で用いたようなSD法ではなく, 5段階の単極評定法を用いた.単極評定法に関しては,谷口(1998)も述べているように,単語対の対極性 を保証する必要がないことや,1尺度について1語の意味のみを理解すればよいので被験者の負担が少なく,. より被験者の情動変化を測ることができるという利点が挙げられ,本研究では単極評定を用いることとした・ また調査用紙では各項目を,ランダムに配置し,それぞれ5段階の単極評定項目とした.さらに曲を聴いた ことがあるかの選択項目(はい,いいえ),曲の好き嫌いについての5段階評定(非常に好き,やや好き, どちらともいえない,やや嫌い,非常に嫌い),今後も聴いてみたいと思うかの5段階評定(完全にあては まる,ややあてはまる,どちらともいえない,ややあてはまらない,完全にあてはまらない)も形容語尺度 29項目とともに提示した.このようにして作成した質問紙を6曲分,フェイスシートには性別,年齢,音楽 経験について,好きな音楽のジャンルについての記述欄を作成した.なお,音楽経験については,学校教育. 135.
(5) 大場 公博・戸田須恵子. 以外での習い事の経験と,学校での部活動等での経験の有無についての質問をした.また,好きな音楽のジャ ンルは杉山(1995)を参考にし,クラシック,ジャズ,日本のロック・ポップス,海外のロック・ポップス, 歌謡曲,映画音楽,アニメソング・コマーシャルソング,演歌,日本の民謡,邦楽とし,好きなものをいく. つでも回答できるようにした.. 聴取音楽:楽曲は6曲用い,、ピアノ曲,交響曲,撃曲をそれぞれ2曲ずつ選んだ.曲は,1.ベートーヴェ ン 『悲憤』 2.ドリーブ 『ジー. グ』 3.宮城道雄 『春の海』 4.ショパン 『ワルツ 第16番. 変イ長調(遺作)』 5.ベートーヴェン 『「アテネの廃墟」よりトルコ行進曲』 6.宮城道雄 『瀬音』 である.. 結 果 1.好きな音楽のジャンルについて. 今回の研究における被験者の好きな音楽のジャンルについての結果は以下の通りであった. ・クラシック 38.8%・ジャズ 32.5%・日本のロック,ポップス 96.3% ・海外のロック,ポップス 82.5%・歌謡曲 38.8% ・映画音楽 68.8%・アニメソング,コマーシャルソング 40.0% ・演歌 7.5%・日本の民謡,.邦楽10.0% 上記に示した結果から,日本のロック,ポップス,海外のロック,ポップスを比較的好んで聴いているこ. とがうかがえる.それに比べ,演歌,日本の民謡,邦楽はあまり好まれていないようである.. 2.各楽曲の情動因子について. 「悲恰」について因子分析(主成分分析 バリマックス回転)を行ったところ,9因子が抽出された.し かし各因子内での項目に統一性を見出せなかったため,因子数を5から8まで変化させて因子分析(主成分 分析 バリマックス回転)を行ったところ,7因子抽出すると,かなり共通した因子項目が出現した(累積 因子寄与率63.3%).因子については,それぞれ項目内容を考慮して「高揚の因子」,「穏和の因子」,「重さ の因子」,「軽さの因子」,「性格の因子」,「動の因子」,「抑鬱の因子」と命名した.因子得点を見ると,「蓉恰」 は穏和的な情動を受けやすい楽曲であった(Table2). 「ジーグ」について因子分析(主成分分析 バリマックス回転)を行ったところ,7因子が抽出されたが,. 各因子内での項目に統一性が見出せなかったため,再度因子分析(主成分分析 バリマックス回転)を行い, 6因子を抽出した(累積因子寄与率64.8%).因子については,項目の内容を考慮してそれぞれ「高揚の因子」, 「荘重の因子」,「抑鬱の因子」,「動の因子」,「重さの因子」,「静の因子」と命名した.因子得点を見ると,「ジー グ」は高揚的な情動を受けやすく,抑鬱的な情動を受けにくい楽曲であった(Table3). 「春の海」について因子分析(主成分分析 バリマックス回転)を行ったところ,8因子が抽出されたが, 各因子内での項目に統一性が見出せなかったため,再度因子分析(主成分分析 バリマックス回転)を行い. 5因子を抽出した(累積因子寄与率60.4%).因子については,項目内容からそれぞれ「高揚の因子」,「重 化に差のでやすい楽曲であった(Table4).. ,. さの因子」,「静の因子」,「穏和の因子」と命名した.因子得点を見ると,「春の海」は個人によっで情動変 「ワルツ」について因子分析(主成分分析 バリマックス回転)を行ったところ,8因子が抽出されたが,. 各因子内での項目に統一性が見出せなかったため,再度因子分析(主成分分析 バリマックス回転)を行い 6因子を抽出した(累積因子寄与率67.8%).因子については,項目内容からそれぞれ「高揚の因子」,「浮. 136.
(6) 音楽鑑賞領域における情動変化に関する研究. の因子」,「穏和の因子」,「軽さの因子」,「抑鬱の因子」,「性状の因子」と命名した.因子得点を見ると,「ワ ルツ」は抑鬱的な情動,性状的な情動を受けにくい楽曲であった(Table5). 「いレコ行進曲」について因子分析(主成分分析 バリマックス回転)を行ったところ,ち因子が抽出さ れた(累積因子寄与率68.2%).因子については,項目内容を考慮しそれぞれ「高揚の因子」,「抑鬱の因子」, 「重さの因子」,「動の因子」,「穏和の因子」と命名した.因子得点を見ると,「トルコ行進曲」は穏和的な 情動を受けにくい楽曲であった(Table6).. 「瀬音」について因子分析(主成分分析 バリマックス回転)を行ったところ8因子が抽出されたが,各 因子内の項目間に統一性を見出すため再度因子分析(主成分分析 バリマウクス回転)を行い5因子を抽出. した(累積因子寄与率66.9%).因子については,項目内容からそれぞれ「抑鬱の因子」,「穏和の因子」,「動 の因子」,「高揚の因子」,「重さの因子」と命名した.因子得点を見ると,「瀬音」は個人によって情動変化 に差のでやすい楽曲であった(Table7).. 3.経験が情動変化に及ぼす影響について. 仮説1,2を検証するために,音楽経験の有無が,音楽聴取における情動変化にどのような影響を与えて いるのか,各楽曲の各因子を従属変数として一要因分散分析を行った.. 「悲憤」については,Table2に示した通り7因子のうち5因子について有意差および有意傾向が認め られた.「高揚の因子」については有意傾向が認められた(F(1,78)=3.92,p<.10).非経験者は,経 験者に比べ高揚的な感情(楽しい,明るい)を抱きやすいということが示唆される.「穏和の因子」につい ては有意差が認められた(F(1,78)=8.07,p<.01).経験者は,非経験者に比べ穏和的な感情(おだ やかな,落ち着いた)を抱きやすいようである.次に「重さの因子」について有意差が認められた(F(1,78) =3.64,p<.01).経験者は,非経験者に比べ重さ的な感情(勇ましい,鈍い,重い)を抱きやすいとい うことが示唆される.次に「軽さの因子」について有意差が認められた(F(1,78)=8・44,p<・01)・ 非経験者は,経験者に比べ軽さ的な感情(うきうきした,軽い)を抱きやすいということが示唆される・次 に「性格の因子」について有意差が認められた(F(1,78)=26.26,p<.001).経験者は,非経験者に 比べ性格的な感情(活発な,ユーモラスな)を抱きやすいということが示唆される.なお「動の因子」,「抑 鬱の因子」については有意差が認められなかった.『悲憤』は穏和的な性格をもった楽曲であったが,音楽 経験のあるものの方がより穏和的に感じているという結果であった. Table2.「悲憤」の各因子と経験者,非経験者との分散分析の結果 乎 均 値(SD) 因. 子. F. 値. 経 験 者. 非 経験者. Fl(高揚の因子). 2.03(.22). 2.23(.48). 3.92+. F2(穏和の因子). 4.78(.25). 4.54(.40). 8.07**. F3(重さの因子). 3.44(.63). 3.21(.46). 3.64**. F4(軽さの因子). 1.54(.46). 2.00(.75). 8.44**. F与(性格の因子). 2.00(.35). 1.60(.32). 26.26***. F6(動の因子). 2.73(.29). 2.77(.32). .26. F7(抑鬱の因子). 3.68(.39). 3.67(.82). .01. +p<・10 *p<・05 **p<・01***. p<・001. 137.
(7) 大場 公博・戸田須恵子. 「ジーグ」については,Table3に示した通り6因子のうち5因子について有意差が認められた.まず「高. 揚の因子」について有意差が認められた(F(1,78)=5.99,p<.05).非経験者は,経験者に比べ高揚 的な感情を抱きやすいようである.次に「荘重の因子」について有意差が認められた(F(1,78)=8.10, p<.01).非経験者は,経験者に比べ荘重的な感情(きまじめな,楽しい,厳しい)を抱きやすいというこ とが示唆される.次に「抑鬱の因子」について有意差が認められた(F(1,78)=4.れ p<.05).非経 験者は,経験者に比べ抑鬱的な感情(悲しい,淋しい)を抱きやすいということが示唆される.次に「動の 因子」について有意差が認められた(F(1,78)=29.24,p<.001).経験者は,非経験者に比べ動的な 感情(うきうきした)を抱きやすいということが示唆される.次に「重さの因子」について有意差が認めら れた(F(1,78)=8.79,p<.01).経験者は,非経験者に比べ重さ的な感情を抱きやすいということが 示唆される.「静の因子」については有意差が認められなかった.『ジーグ』は高揚的な性格をもった楽曲で あったが,音楽経験のないものの方がより高揚的に感じているようである. Table3.「ジーグ」の各因子と経験者,非経験者との分散分析の結果. 平 均 値(SD) 因. 子. F. 値. 経 験 者. 非 経験者. Fl(高揚の因子). 4.64(.25). 4.44(.40). 5.99*. F2(荘畢の因子). 1.80(.24). 2.02(.36). 8.10**. F3(抑鬱甲因子). 1.13(.17). 1.29(.34). 4.80*. F4(動の因子). 4.72(.30). 4.28(.36). 29.24***. F5(重さの因子). 3.77(.43). 3.38(.60). 8.79**. F6(静の因子). 3.16(.ね). 2.92(.72). 1.89. *p<・05 **. p<・01***p<.001. 「春の海」については,Table4に示した通り5因子のうち2因子について有意差が認められた.まず「高 揚の因子」について有意差が認められた(F(1,78)=7.28,p<.01).非経験者は,経験者に比べ高揚. 的な感情を抱きやすいということが示唆される.次に「重さの因子」について有意差が認められた(F(1,78) =6.03,p<.05).非経験者は,経験者に比べ重さ的な感情を抱きやすいということが示唆される.なお「抑 鬱の因子」,「静の因子」,「穏和の因子」について有意差は認められなかった.『春の海』は感情的性格のつ かみにくい楽曲であったが,有意差が認められなかった情動因子においては,経験者,非経験者共に同じよ. うに感じられたということである. Table4.「春の海」の各因子と経験者,非経験者との分散分析の結果. 平 均 値(SD) 因. 子. F. 値. 経 験 者. 非 経験者. Fl(高揚の因子). 2.04(.41). 2.47(.77). 7.28**. F2(抑鬱の因子). 2.26(.37). 2.43(.59). 1.96. F3(重さの因子). 2.96(.85). 3.44(.81). 6.03*. F4(静の因子). 3.54(.84). 3.33(.65). 1.4由. F5(穏和の由子). 3.89(.49). 4.00(.38). 1.36. *p<・05 **p<.01***. 138. p<.001.
(8) 音楽鑑賞領域における情動変化に関する研究. 「ワルツ」にっいては,Table5に示した通り6因子のうち4因子について有意差および有意傾向が認 められた.まず「浮の因子」について有意差が認められた(F(1,78)=5.53,p<.05).経験者は,非 経験者に比べ浮的な感情(浮かれた)を抱きやすいということが示唆される.次に「穏和の因子」について 有意差が認められた(F(1,78)=5.24,p<.05).非経験者は,経験者に比べ穏和的な感情を抱きやす いようである.次に「軽さの因子」について有意傾向が認められた(F(1,78)=3.64,p<・10)・経験 者は,非経験者に比べ軽さ的な感情を抱きやすいということが示唆される.次に「抑鬱の因子」について有 意差が認められた(F(1,78)=5.79,p<.05).経験者は,非経験者に比べ抑鬱的な感情を抱きやすい ようである.「高揚の因子」,「性状の因子」について有意差は認められなかった・ 『ワルツ』は抑鬱的な性格をもたない楽曲であるが,音楽経験のあるものの方が抑鬱的に感じやすいよう である.. Tab】e5.「ワルツ」の各因子と経験者,非経験者との分散分析の結果. 平 均 値(SD) 因. 子. F. 値. 経 験 者. 非 経験者. Fl(高揚の因子). 4.12(.. 3.91(.66). 1・86. F2(浮の因子). 3.51(.35). 3.23(.57). 5.53*. F3(穏和?因子). 1.85(.38). 2.14(.60). 5.24*. F4(軽さの因子). 4.17(.34). 3.98(.47). 3.64+. F5(抑鬱の因子). 1.12(.2亭). 1.31(.36). 5.79*. F6(性状の因子). 1.35(.39). 1.41(.38). .35. +p<・10 *p<・05 **p<・01***. p<・001. 「トルコ行進曲」については,Table6に示した通り5因子のうち4因子について有意差が認められた・. まず「高揚の因子」について有意差が認められた(F(1,78)=6.99,p<.01).経験者は,非経験者に 比べ高揚的な感情を抱きやすいようである.次に「抑鬱の因子」について有意差が認められた(F(1,78) =8.95,p<.01).非経験者は,経験者に比べ抑鬱的な感情(楽しい,明るい)を抱きやすいということ が示唆される.次に「重さの因子」について有意差が認められた(F(1,78)=4.52,p<・05)・経験者は, 非経験者に比べ重さ的な感情を抱きやすいということが示唆される.次に「動の因子」について有意差が認 められた(F(1,78)=16.44,p<.001).経験者は,非経験者に比べ動的な感情を抱きやすいというこ とが示唆される.「穏和の因子」について有意差は認められなかった.『トルコ行進曲』は穏和的な性格をも Table6.「トルコ行進曲」の各因子と経験者,非経験者との分散分析の結果 平・均 値(SD) 因. 子. F. 値. 経 験 者. 非 経験者. Fl(高揚の因子). 3.77(.64). 3.26(.88). 6.99**. F2(抑鬱の因子). 1.40(.27). 1.77(.62). 8.95**. F3(重さの因子). 4.64(.31). 4.40(.56). 4.52**. F4(動の因子). 4.30(.38). 3.94(.37). 16.44***. F5(穏和の因子). 1.65(.36). 1.54(.40). 1. *p<.05**p<・01***p<・001. 139.
(9) 大場 公博・戸田須恵子. ちにくい楽曲であったが,音楽経験による違いはなかった.. 「瀬音」については,Table7に示した通り5因子のうち1因子について有意差が認められた.「高揚の 因子」について有意差が認められた(F(1,78)=10.25,p<.01).経験者は非経験者に比べ高揚的な感 情を抱きやすいということが示唆される.「抑鬱の因子」,「穏和の因子」,「動の因子」,「重さの因子」につ いては有意差は革められなかった.『瀬音』は,感情的性格のつかみにくい楽曲であったが,「春の海」、と同 様他の楽曲に比べ有意差を示した因子が少なく,高揚の因子以外では経験者,非経験者間に情動変化に差は 認められなかった.. これらの結果は,仮説1「音楽経験のあるものとそうでないものとでは,音楽聴取における情動変化に違. いがあるだろう.」を支持したと言える.音楽経験の有無は「高揚」,「抑鬱」,「重さ」,「軽さ」の因子が情 動変化に影響を及ぼすことが明らかとなった.そして,楽曲のジャンルで比べてみると,日本の肇曲では他 の西洋音楽と比べ,ほとんどの因子に有意差は認められなかった.これは仮説2「楽曲のジャンルによって. 音楽聴取における情動変化に違いがあるだろう.」を支持したと言える. Table7.「瀬音」の各因子と経験者,非経験者との分散分析の結果 平 均 値(SD.) 因. F. 子 経 験 者. 非 経験者. 催. Fl(抑鬱の因子). 2.08(.54). 2.31(.74). 2・1. F2(穏和の因子). 3.90(.44ト. 3.67(.79). 2.00. F3(動の因子). 2.90(.65). 2.83(.71). .21. F4(高揚の因子). 4.16(.47). 3.67(.72). 10.25**. F5(重さの因子). 3.02(.57). 3.27(.69). 2.66. *p<・05 **p<・01***p<.001. 4.楽曲の知識が情動変化に及ぼす影響について ここでは,楽曲を聴かせる際に,その楽曲に対する説明を加えるグループ(説明あり群)と説明なしのグ. ループ(説明なし群)で,被験者の情動変化に違いがあるかどうかを検討した.仮説3を検証するために, グループ別に聴かせた6曲に対し,“今後も聴いてみたいと思うが’という質問をした.説明ありグループ では聴取直前にそれぞれの楽曲についての簡単な説明をした.その結果,楽曲に対する説明のあるグループ の方が説明のないグループよりもかなり意欲的に聴いてみたいという反応を示すことが明らかとなった.こ れらの結果は,仮説3「音楽に聴き入るレベルが深いほど,そして好みであればあるほど情動変化に違いが. 現れるだろう.」を支持したと言える. 続いて,仮説4を検証するために,各楽曲の因子が説明あり群と説明なし群で音楽聴取における情動変化 に違いがあるかどうかを検討するために一要因分散分析を行った.. 「悲憤」についてはTable8に示した通り7因子のうち4因子について有意差が認められた.まず「穏 和の因子」について有意差が認められた(F(1,78)=14.49,p<.001).説明なし群は,説明あり群に 比べ穏和的な感情(おだやかな,落ち着いた) ̄を抱きやすいようである.次に「軽さの因子」について有意. 差が認められた(F(1,78)=13.62,p<.001).説明あり群は,説明なし群に比べ軽さ的な感情(うき うきした,軽い)を抱きやすいということが示唆される.次に「性格の因子」について有意差が認められた. (F(1,78)=9.00,p<.01).説明なし群は,説明あり群に比べ性格的な感情(活発な,ユーモラスな) を抱きやすいということが示唆される.次に「動の因子」について有意差が認められた(F(1,78)=7.98,. 140.
(10) 音楽鑑賞領域における情動変化に関する研究. p<.01).説明あり群は,説明なし群に比べ動的な感情(激しい,陽気な)をr抱きやすいということが示唆 される.「高揚の因子」,「抑鬱の因子」,「重さの因子」について有意差は認められなかった.『悲憤』は穏和 的な性格をもった楽曲であったが,説明なし群の方がより穏和的に感じているようである.本調査による説 明が,楽曲の持つ穏和的な部分を弱めたことが考えられる. Tabte8.「悲憤」の各因子と説明の有無との分散分析の結果. 平 均 値(SD) F. 子. 値. 説 明 あ り. 説 明 な し. FI. 2.20(.48). 2.12(.36). .55. F2(穏和の因子). 4.48(.42). 4.77(.24). 14.49***. F3(重さの因子). 3.34(.50). 3.24(.57). .67. F4(軽さの因子). 2.11(.79). 1.57(.45). 13.62***. F5(性格の因子). 1.62(.41). 1.86(.30). 9.00**. F6(動の因子). 2.77(.42). 2.75(.25). 7.98**. F. 3.46(.78). 3.89(.54). .06. *p<.05 **p<・01***. p<・001. 「ジーグ」については,Table9に示した通り6因子のうち5因子について有意差が認められた.まず「高 揚の因子」について有意差が認められた(F(1,78)=4.60,p<・05).説明なし群は,説明あり群に比 べ高揚的な感情を抱きやすいということが示唆される.次に「抑鬱の因子」について有意差が認められた(F (1,78)=8.44,p<.01).説明あり群は,説明なし群に比べ抑鬱的な感情を抱きやすいということが示 唆される.次に「動の因子」について有意差が認められた(F(1,78)=30.41,p<・001)・説明なし群は, 説明あり群に比べ動的な感情を抱きやすいということが示唆される.「重さの因子」について有意差が認め られた(F(1,78)=24.73,p<.001).説明なし群は,説明あり群に比べ重さ的な感情を抱きやすいと いうことが示唆される.「静の因子」についても有意差が認められた(F(1,78)=7・32,p<・01)・説明 あり群は,説明なし群に比べ静的な感情(繊細な,やさしい)を抱きやすいということが示唆される・なお ったが, 「荘重の因子」については有意差が認められなかった.『ジーグ』は高揚的な性格をもった楽曲であ 説明なし群の方がより高揚的に感じているようである.本調査による説明が,楽曲の持つ高揚的な部分を弱 めたものと考える. Table9.「ジーグ」の各因子と説明の有無との分散分析の結果. 平 均 値(Sb) 因. 子. F 説明 あ り. 値. 説 明 な し. Fl(高揚の因子). 4.42(.43). 4.59(.27). 4.60*. F2(荘重の因子). 2.00(.31). 1.88(.37). 2.73. F3(抑鬱の因子). 1.33(.37ト. 1.14(.18). 8.44**. F4(動の因子). 4.22(.37). 4.64(.31). 30.41***. F. 3.24(.58). 3.80(.42). 24.73***. F6(静の因子). 3.21、(,63). 2.79(.77). 7.32**. *p<.05 **p<・01***. p<・001. 141.
(11) 大場 公博・戸田須恵子. 「春の海」については,TablelOに示した通り5因子のうち3因子について有意差および有意傾向が認め られた.まず「抑鬱の因子」について有意差が認められた(F(1,78)=19.17,p<.001).説明あり群 の場合,.説明なし静に比べ抑鬱的な感情を抱きやすいようである.「重さの因子」については有意差が認め られた(F(1,78)=10.18,p<.01).説明なし群は,説明あり群に比べ重さ的な感情を抱きやすいとい. うことが示唆される.次に「穏和の因子」について有意傾向が認められた(F(1,78)=3.78,p<.10). 説明なし群は,説明あり群に比べ穏和的な感情を抱きやすいということが示唆される.「高揚の因子」,「静 の因子」については有意差が認められなかった.『春の海』は感情的性格のつかみにくい楽曲であったが, 3因子について有意差が見られた.本調査による説明が,楽曲のもつ抑鬱の感情を高め,重さ,穏和の感情 を弱めたといえる. TablelO.「春の海」の各因子と説明の有無との分散分析の結果 平 均 値・(SD) 因. F. 子. 値. 説明 あ り. 説 明 な し. Fl(高揚の因子). 2.43(.58). 2.21(.79). F2(抑鬱の因子). 2.60(.55). 2.13し39). 19.17*、**. F3(重さの因子). 3.00(.90). 3.57(.69). 10.18***. F4(静の因子). 3.35(.56). 3.45(.86). .34. F5(穏和の因子). 3.88(.37). 4.06(.44). 2.02. 3.78十. +p<・10 *p<・05 **p<・01***p<.001. 「ワルツ」については,Tablellに示した通り6因子のうち4因子について有意差および有意傾向が認め られた.「高揚の因子」について有意傾向が認められた(F(1,78)=2.83,p<.10).説明なし群は,説 明あり群に比べ高揚的な感情を抱きやすいということが示唆される.又「穏和の因子」について有意傾向が. 認められた(F(1,78)=2.89,p<.10).説明なし群は,説明あり群に比べ穏和的な感情を抱きやすい ようである.次に「軽さの因子」について有意差が認められた(F(1,78)=49.15,p<.001).説明あ り群は,説明なし群に比べ穏和的な感情(おだやかな,落ち着いた)を抱きやすいということが示唆される.. 次に「抑鬱の因子」について有意差が認められた(F(1,78)=12.40,p<.001).説明なし群は,説明 あり群に比べ抑鬱的な感情を抱きやすいということが示唆される.又「浮の因子」,「性状の因子」について は有意差が認吟られなかった.『ワルツ』は抑鬱的な性格をもたない楽曲であったが,説明の有無が,楽曲 Tablell.「ワルツ」の各因子と説明の有無との分散分析の結果. 平 均 値(SD) 因. 子. F 説 ̄明 あ り. 値. 説 明 な し. Fl(高揚の因子). 3.85(.90). 4.10(.28). F2(浮の因子). 3.、37(.49). 3.28(.55). .61. F3(穏和の因子). 1.94(.63). 2.15(.45). 2.、89+. F4(軽さの因子). 4.32(.28). 3.78(.39). 42.95***. F5(抑鬱の因子). 1.12=(.21). 1.37(.39). 12.40***. F6(性状の因子). 1・甲(・37). 1.44(.39). 2.83+. 1.55. +p<・10 *p<・05 **p<.01***. 142. p<.001.
(12) 音楽鑑賞領域における情動変化に関する研究. のもつ抑鬱の感情に影響したといえる.. 「トルコ行進曲」については,Table12に示した通り5因子のうち2因子について有意差が認められた.. まず「抑鬱の因子」について有意差が認められた(F(1,78)=19.52,p<.001).説明なし群は,説 明あり群に比べ抑鬱的な感情を抱きやすいようである.次に「重さの因子」について有意羞が認められた(F (1,78)=17.97,p<.001).説明あり群は,説明なし群に比べ重さ的な感情を抱きやすいということが. 示唆される.「高揚の因子」,「動の因子」,「穏和の因子」については有意差が認められなかった.『トルコ行 進曲』は穏和的な性格をもちにくい楽曲であったが,穏和的な感情に説明による違いはなかった.楽曲その もののイメージと説明のイメージが近いものであったといえるだろう. Table12.「トルコ行進曲」の各因子と説明の有無との分散分析の結果 平 均 値(SD) 因. 子. F 説 明あ り. 値. 説 明 な し. Fl(高揚の因子). 3.35(.97). 3.51(.68). .74. F2(抑鬱の因子). 1.39(.24). 1.89(.65). 19.52***. F3(重さの因子). 4.70(.27). 4.27(.58). 17.97***. F4(動の因子). 4.00(.43). 4.13(.38). F5 (穏和の因子). 1.54(.34). 1.62(.44). 1.9 .82. *p<・05 **p<・01***. p<.001. 「瀬音」については,Table13に示した通り5因子のうち2因子について有意差が認められた.「抑鬱の 因子」について有意差が認められた(F(1,78)=41.33,p<.001).説明なし群は,説明あり群に比べ 抑鬱的な感情を抱きやすいということが示唆される.次に「動の因子」について有意差が認められた(F(1,78) =6.87,p<.05).説明あり群は,説明なし群に比べ動的な感情(おだやかな,落ち着いた)を抱きやす いということが示唆される.「穏和の因子」,「高揚の因子」,「重さの因子」について有意差は認められなかっ た.『瀬音』は,感情的性格のつかみにくい楽曲であったが,本調査の説明が,楽曲の持つ抑鬱の感情を弱め, 動的な感情を高めたといえる.. これらの結果は,仮説4「楽曲に対する知識があるかないかで,音楽聴取における情動変化に違いがある だろう.」を支持したと言える.楽曲に対する知識の有無は「高揚」,「抑鬱」,「重さ」,「軽さ」の因子が情 動変化に影響を及ぼすことが明らかとなった. Table13.「瀬音」の各因子と説明の有無との分散分析の結果 平 均 値(SD) 因. 子. F 説 明 あ り. 値. 説 明 な し. Fl(抑鬱の因子). 1.82(.64). 2.62(.47). 41.33***. F2(穏和の因子). 3.65(.88). 3.84(.46). .1.39. F3(動の因子). 3.05(.87). 2.67(.37). .6.87***. F4(高揚の因子). 3.78(.85). 3.89(.48). .‥56. F5(重さの因子). 3.29(.66). 3.08(.64). .2.19. *p<・05 **p<・01***. p<・001. 143.
(13) 大場 公博・戸田須恵子. 考 察 音楽聴取によって喚起される情動変化とその要因について検討することを目的に,被験者が音楽聴取に よってどのような感情状態になったかを形容語を用いて実験した.又,音楽聴取によって喚起された情動が, 音楽的経験の有無,楽曲に対する知識の有無で違いがあるかを検討した.はじめに,6曲の音楽作品につい. て,各楽曲のもつ感情的特性について検討を行った.「悲憤」については,「穏和の因子」で高い得点を示し ているので,「悲憤」は穏和的な情動を受けやすい楽曲であったといえる.「ジーグ」に関しては,「高揚の. 因子」が高い得点を示し,「抑鬱の因子」で低い得点を示した.この2因子は対極を示すものと考えられるた め,「ジーグ」は感情的性格のわかりやすいものであるといえる.「春の海」に関しては,特に際立った得点 を示す因子はなかった.これは「春の海」が他の楽曲に比べ,被験者によって感じ方にばらつきのある楽曲 であったということが考えられる.「ワルツ」に関しては,「抑鬱の因子」,「性状の因子」が低い得点を示し ているので,「ワルツ」は抑鬱的な情動,性状的な情動を受削こくい楽曲であったといえる.「トルコ行進曲」 に関しては,「穏和の因子」が低い得点を示しているので,「トルコ行進曲」は穏和的な情動を受けにくい楽 曲であったといえる.「瀬音」に関しては特に際立った得点を示す因子はなかった.これは「瀬音」が他の 楽曲に比べ,被験者によって感じ方にばらつきのある楽曲であったと言えよう.このように本調査で用いた. 楽曲は比較的性格の異なった6曲であった.しかし,「春の海」,「瀬音」といった日本の挙曲に関しては, 共通して被験者の評定からは性格のつかみにくいものであった.‘‘好きなジャンルの音楽’’についての調査 から,本調査の被験者は普段からこのような音楽に触れることが乏しいといえる.即ち,このことは西洋音 楽とそうでない音楽とで音楽的情報(以下スキーマと呼ぶ)の形成に差があることを示唆している.現在の 小学校学習指導要領において,鑑賞領域では日本歌曲12曲,文部省唱歌17曲が6年間に学習する共通教材と してあげられ,一方,ヨーロッパ音楽については21曲が共通教材としてあげられており,バロックからロマ ン派までの音楽を一通り学習するようになっている.しかし,日本歌曲や唱歌はヨーロッパ音楽に影響され, ヨーロッパ音楽の要素を多く含んでおり,ヨーロッパ音楽に対するスキーマは教育の場から見てもかなりの 量で形成されていることを本調査の結果は明らかにしたと言える.ただ本調査では6曲を1度に評定しても. らったという点で,被験者の疲労等も考慮すべきだろう.また,被験者のその日の気分,状態等で結果は異 なってくる可能性も考えられ,これは今後の課題である. 仮説1「音楽経験のあるものとそうでないものとでは,音楽聴取における情動変化に違いがあるだろう.」. を検証するため,音楽経験の有無と各楽曲の因子について分散分析を行った すべての楽曲における情動変化に影響していることが明らかとなった.全体的に言えることは,情動の「高. 揚」,「抑鬱」「重さ」,「軽さ」に関する因子において音楽経験の有無が比較的影響されやすいということで ある.音楽経験を積むことが,明るい,暗い,軽い,重いといった情動の変化に影響を及ぼすということで. ある.しかし,「春の海」,「瀬音」といった日本の事曲に関しては,他の楽曲ほどの音楽的経験による差は 見られなかった.今回の調査で対象となった音楽経験のある被験者はすべて西洋音楽に関わるものであった. 前述したように,西洋音楽に対するスキーマの形成がこのような結果を生じさせた一要因であったといえる. また,こういった日本の音楽が,単純な形容語で一概に評価することが難しいものであるということもいえ. るだろう.これは,仮説2「楽曲のジャンルによって音楽聴取における情動変化に違いがあるだろう.」を 支持したものと言える.本調査では音楽経験者の人数が十分ではなく,また経験者の全てが西洋音楽に関わ るものであった.琴や挙などの経験者のデータも十分に取れればまた違った結果が生まれていたかもしれな い.又,説明あり群と説明なし群とで,聴取後に今後も聴いてみたいかという質問をしたところ,説明あり 群の方が説明なし群よりもかなり意欲的に聴いてみたいという反応を示した.これは,仮説3「音楽に聴き. 144.
(14) 音楽鑑賞領域における情動変化に関する研究. 入るレベルが深いほど,そして好みであればあるほど情動変化に違いが現れるだろう.」を支持したものと 言える.このことから,楽曲に対する説明がかナれば,曲を聴いてから自らイメージをふくらませたり意味 づけすることが困難なことがうかがえる.聴取前の説明の有無は,経験差と同様すべての曲について各情動 因子に影響していたことが明らかになった.この結果は,仮説4「楽曲に対する知識があるかないかで,音 楽における情動変化に違いがあるだろう」を支持したといえる.全体的に言えることは,「高揚」,「抑鬱」,「重 さ」,「軽さ」に関する因子も;おいて,楽曲に対する知識が比較的影響されやすいということである・即ち, 知識の有無が,明るい,暗い,軽い,重いといった情動の変化に影響を及ぼすということである.こういっ た要素で差が生まれるというのは音楽特有のものであるといえるのではないだろうか. 本調査により,音楽的経験,楽曲に対する知識,楽曲の好みが被験者の音楽聴取による情動変化に大きく 影響することが明らかとなった.そして同時に,西洋音楽またはそれに影響を受けた楽曲と,そうでない曲 によって聴き方に違いが生じ,西洋音楽またはそれに影響を受けた楽曲の方がより好まれて聴いているとい うことも明らかになった.被験者の年代等も踏まえると,現代の日本における音楽の流れがヨーロッパ音楽 に大きく影響を受けているということがその大きな要因といえる.ただ,こうした時代の変化は決して悪い ことではないだろうし,無理に変えるべき問題ではないだろう.しかし,だからこそ教育の場において様々 な音楽を工夫して提示し,子ども達に多くのスキーマの種を与える必要性があるのではないだろうか.それ が「豊かな情操を育成する」という音楽科における目標の一つの意味でもあると感じる′.本研究を通し,音 楽鑑賞領域という視点から「豊かな人間性」を育むという意味を見出せたのではないだろうか.. 引用文献. 阿部純一1987 メロディの知覚と予測の過程一終止音導出行為のシミュレーション一心理学研究,58,275−281 アルバン ジュリエット著 櫻林仁・貴行子共訳1989『音楽療法』音楽之友社. Asmus,E.P.1985Thedevelopmentofamultidimensionalinstrumentforthemeasurementofaaffectiveresponsest music.PsychologyofMusic,13,19−30.. 東潔1970 音楽の演奏に対する好みの多次元的分析心理学研究,40,330−336. Farnsworth,P.R.1954AstudyoftheHevneradjectivelist.JournalofAestheticsandArtCriticism,13,97−103・. Hevner,K..1936Experimentalstudiesoftheelementsofexpressioninmusic.AmericanJournalPsychology,48,246− 星野悦子1985単一音高の記憶に及ぼすメロディ“文脈性”の影響心理学研究,56,134−137. 岩下豊彦1983 SD法によるイメージの測定 川島書店 菅千索・梅本勇夫1983 音楽の情緒的意味次元の分析(1)日本心理学会第47大会発表論文集. 川原浩・野波健彦1977 音楽教育研究における実験的研究(Ⅱ)一事受体験におけるイメージの言語化に関する分析一広 島大学教育学部紀要第4部,26,75−85. 三雲真理子1990 メロディの符号化と再認 心理学研究 61,29ト298.. 宮原誠・守田幸徳1995 音質を表現する評価語の調査分析 日本音響学会誌,52,516−522. 村井靖児1998 「音楽はどうして治療になるのか」音楽之友社. 中村均1983 音楽の情動的性格の評定と音楽によって生じる情動の評定の関係 心理学研究,54,54−57・ 櫻林仁1978 心をひらく音楽音楽の友社 佐藤大二1994 情動を喚起する認知的聴取と知覚的聴取の要因の違いについて一中学生に対する印象を中心として一兵庫教 育大修士論文(未発表). 杉山道子1995 『音楽的感性に根ざした鑑賞教材』 広島大学大学院学校教育研究科修士論文抄. 谷口高士1991a.言語課題遂行時の聴取音楽による気分一致効果について 心理学研究,62,88−95. 谷口高士1991b.認知における気分一致効果と気分状態依存効果 心理学評論,34,391−344. 谷口高士1955 音楽作品の感情価測定尺度の作成および多面的感情尺度との関連の検討 心理学研究65,463−470・ 谷口高士1998 音楽と感情 北大路書房. 145.
(15) 大場 公博・戸田須恵子 寺崎正治・古賀愛人・岸本陽一1992 多面的感情状態尺度の作成 心理学研究,62,350−356.. Trehub,S・E・1993Themusiclisteningski11sofinfantsqndyoungchildren.InTighe,T.J.&Dowling,W.J.(Eds.),Psyc. andmusic:Theunderstandingofmelodyandrhythm,LEA.. (大場 公博 釧路校大学院生) (戸田須恵子 釧路校教授). 146.
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