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杜甫「春望」の「国」について

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(1)Title. 杜甫「春望」の「国」について. Author(s). 後藤, 秋正. Citation. 札幌国語研究, 14: 1-11. Issue Date. 2009. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/2507. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 杜甫﹁春望﹂. はじめに. の. ﹁国﹂について. する説︶ の二説があることを紹介したうえで、﹁異同の論拠﹂. において、﹁本稿では、この詩はまず第一句で国家全体の状況. を大きく提示し、次の第二旬で画面をクローズアップして、作. の意味︵B説によれば、﹁国﹂字の連想観念︶の方を重視した。﹂. 者自身が現に直面している長安の情景を措いたと考え、﹁国家﹂. 杜甫の五律﹁春望﹂︵﹃杜詩詳注﹄巻四。以下、﹃詳注﹄と略称︶. は、唐・粛宗の至徳一一載︵七五七︶ 三月、反乱軍占領下の長安. と述べている。小論も結論としてはこの見解に同意することに. まず、﹃唐詩解釈辞典﹄ がA説を代表するものとして引く吉川. 国破山河在 国破れて山河在り. で帯かれた。時に杜甫は四十六歳である。. 幸次郎﹁杜甫詩注﹄第三冊︵筑摩善房、一九七九︶から見よう。. なるが、確かに我が国における解釈は大きくは二分されている。. という冒頭の句はとりわけ人口に脾灸している。とはいえ、﹁国. 城春草木探 城春にして草木探し 破れて山河在り﹂の﹁国﹂とは何を指して言っているのか、と. 国家の組織の破滅を ︹国破る︺ということ、早く北宋人. の旧注が引くように、﹁文選﹂二十五、晋の将軍の劉梶が、. いう点についてはまだ議論を追加する余地があるようである。. 西晋の破滅のなかで、同志の親戚の後輩通話に与えた書簡. ﹁国破れ家亡ぶ﹂にもとづく。その文をやや長く引けば、. ていう、⋮=ム﹁や﹁国破家亡、親友凋残、杖を負いて行吟. 旬奴の酋長劉曜の侵売に対し、孤軍奮闘の劉現は、述懐し. ﹁国﹂に関する諸説について簡潔に整理して述べているのは 松浦友久編﹃校注唐詩解釈辞典﹄ ︵大修館普店、l九八七。﹁春. すれば、則ち百憂倶に至り、塊然と独り坐すれば、則ち哀. 望﹂ の執筆者は宇野直人︶ である。同書は﹁国﹂について、A 説 ︵﹁国﹂を﹁国家﹂とする説︶と、B説︵﹁国﹂を﹁国都Lと.

(3) しみと憤りと両つながら集まる﹂。この詩における杜の境. ていたから、﹁国﹂も一義的には国都長安をさし、その破滅は. 広がって国土全体を意味しても用いられた。唐は天下を統一し. 地域。⑥狽家郷。⑦専指与帝王戎皇室有閑的︵人物・事件︶。. ①国家。②国都。③建同。④古代王・侯的封地。⑤地方、. 十二に分類している。. 確かであり、﹃漢語大詞典﹄を例にとれば、これを次のように. そもそも﹁国﹂ ︵﹁園﹂︶ に多様な意味が含まれていることは. へ・・︶. 天下の破滅と意識されたのである。﹂と述べる。. 涯も、同じであった。 また、B説の代表として引く前野直彬編﹃唐詩鑑賞辞典﹄︵東 京堂出版、一九七〇。﹁春望﹂ の項の執筆は高橋稔︶ は次のよ うに言う。 春秋・戦国時代に﹁国﹂といえば、まず国都のある町が は唐帝国一つであり、外国は属領にすぎない。だから、こ. 指代表国家的。⑫姓。. ⑧指本朝的。⑨国中最好的或最美的。⑲指中国特有的。⑭. 意識され、続いて国土全体に及んだ。唐代においても天下 この﹁国﹂もー義的には同部長安をさすのであり、その破. ﹁上旬、写国都長安被叛軍所採欄、⋮⋮。﹂. ④陶道恕主編﹃杜甫詩歌賞析集L ︵巴萄書社、一九九三︶. 苦難、也暗面国都長安残破的景象。﹂. ﹁¶国破﹄ 二字、語意双関、既指国家政局的残敗、時代的. ③夏松涼﹃杜詩聖賞﹄ ︵遼寧教育出版社、一九八六︶. ﹁国破指安禄山攻破長安。﹂. ②徐放﹃杜詩今訳﹄ ︵人民日報出版社、一九八五︶. 池残破、⋮⋮。﹂. ﹁﹃国破山河在、⋮⋮。﹄開篇即写春望所見。国都倫陥、城. ①﹃唐詩璧賞辞典﹄ ︵上海辞書出版社、一九八≡︶. ているのだろうか、この点を管見の範囲で確認しておこう。. 次に、中国においては﹁春望﹂ の﹁国﹂はどのように訳され. ︵クエ 義性に由来しているのであろう。. ﹁国﹂に解釈の違いが生ずるのは、これが本来有していた多. 滅はすなわち天下の破滅と意識されたのである。 このほかいくつかの指摘を見ておくならば、以下のようなも のがある。 鈴木虎雄﹁杜詩﹄第二冊 ︵岩波文庫、一九六三︶ は、﹁国都 は賊に破壊されたが⋮⋮。﹂と言い、鈴木修次﹃漢詩﹄ ︵学燈文 一説に、国家の意にとってもよいとするが、当時﹃国﹄といえ. 庫、学燈社、一九六三︶は﹁国﹂の注に、﹁国都の長安を指す。 ば、国都の行政機構を主として指していった。﹂と述べる。小 野忍・小山正孝・佐藤保訳柱r杜甫詩選︵一︶﹄ ︵講談社学術文 庫二一二﹁一九七八︶は、﹁国﹂を﹁国都、つまり長安のこと。 国家の意味ではない。﹂とし、また黒川洋一﹃杜甫﹄ ︵鑑賞中国 の古典一七、角川書店、一九八七︶ は、﹁国破﹂ について﹁国 家の組織が破滅すること。﹂と言い、横山伊勢雄﹃政治と戦乱♭. ママ. ︵中国古典詩宋花一、小学館、一九八四︶の﹁国破﹂の注は、﹁国. 家が破壊する。国は古代にあっては、国都のある町を意味し、.

(4) ﹁国都巳然倫陥而昔日的山河依旧在眼、⋮⋮。﹂. ⑤韓成武等一社甫詩全訳﹄ ︵河北人民出版社、一九九七︶ ⑥卒寿松・季翼雲﹃全社詩新釈﹄ ︵中国書店、二〇〇t一︶ ﹁国破、指首都長安陥落。国、国都。﹂. ③が国に二種の含意を認めるほかは、すべて国を国都、首都 の意味で捉えていることが見てとれる。﹃唐詩解釈辞典ヒ の分 類に従えばB説が大勢となっていると言えよう。 それでは、﹁国破﹂について諸注釈はどのような典拠を挙げ ているのであろうか。. 親友凋残。﹂︵家国は破亡し、親友は凋残す。︶という一文を引く。. これはすでに吉川幸次郎¶杜甫詩注﹄ に指摘があったとおり、. このごろ. くる. 劉堀﹁答慮詣詩一首井序﹂ に見える、﹁自頃観張、困於逆乱。. れ家亡びて、親友も洞残す。︶という一文を踏まえたものである。. 国破家亡、親友凋残。﹂ ︵自頃 掛張して、逆乱に困しむ。国破. 李善は﹁国破﹂ の部分に、以下のような注を付している。. 峯鴻前趨録H、劉聡僧即位子平陽。又日、聡遣従弟曜攻. いつわ. 晋、破洛陽。又日、遺子粂攻長安、陥之。. 雀鴻の前超録に日う、劉聡 僧りて平陽に即位すと。. 又日う、聡 従弟の曜を遣りて晋を攻めしめ、洛陽を破る と。. と。又日う、子の粂を遣りて長安を攻めしめ、之を陥とす. ﹃杜詩詳注﹄ だけは他の注釈とは異なり、﹃斉国策﹄ の﹁王 し 燭日、国破君亡、吾不能存。﹂ ︵王燭目く、国破れ君亡して、吾. ⋮⋮秀雄戟於河津之上、再戟而再勝秦。⋮︰・四戦之後、趣亡卒. 張儀の発言として、﹁斉与魯三戦、而魯三勝、国以危、亡随其後。. はっきりしない。. 機に瀕していることを言っているとも受けとれるのであって、. いると考えたようにとれるが、西晋王朝が全体として滅亡の危. 長安が前進の劉聡が派遣した軍によって陥落したことを指して. この用例を見る限りでは、李華は劉棍の﹁国破﹂が、洛陽と. 存する能わず。︶ という一文を引く。ただし ¶戦国策﹄ にこの. 数十万、耶郡僅存。錐有勝春之名、而国破英。﹂ ︵斉 魯と三た. さてそれでは、杜甫の詩における﹁国﹂はどのような意味を. ままの一文は見えず、類似した用例としては¶戦国策﹄巻八に、. び戦って、魯 ≡たび勝ち、国 以て危うく、亡ぶること其の ほとり. 有するものとして用いられているのであろうか。唐詩における. ・つしな. 素に勝つ。⋮⋮四戟の後、遺 草数十万を亡い、耶郡僅かに. 杜詩においては﹁国破﹂の用例は﹁春望﹂にしか見られない。. 二. る﹁国﹂について検討することにしたい。. ﹁国破﹂ の用例についても視野に入れながら、﹁春望﹂におけ. 後に随うと。⋮⋮秦・遇 河津の上に戦い、再び戦って再び. 存す。秦に勝つの名有りと錐も、国破れぬ。︶ と見えている。 護の国都である耶郡は辛うじて残っても、結局のところ同は亡 びたというのであるから、後者の国は明らかに国家を意味する。. ︵ユ︶. このほか、﹃九家集注杜詩﹄巻十九などをはじめとして、出 典を示すほとんどの注釈は、﹁劉越右云﹂として﹁家国破亡、.

(5) そこで杜詩において単独で﹁国﹂が用いられる例について概観. 国帯爛塵色 国は帯ぶ爛塵の色. ︵﹁奉漢中王手札﹂、﹃詳注﹄巻一五︶. 王今叔父尊 王は今叔父の尊なり. 丈夫誓許国 丈夫 誓って国に許す. しておこう。主な例は以下の通りである。. 兵張虎豹符 兵は張る虎豹の符. ︵﹁別蘇襖﹂、﹃詳注﹄巻一人︶. 憤椀復何有 憤慨 復た何ぞ有らん. すべか 国須行戦伐 国須らく戦伐を行うべし. ︵﹁前出塞九首﹂︵其三︶、﹃詳注﹄巻二︶. 決決泥汚人 決決として据は人を汚し. 人情止或擬 人は曳鍵を止めんことを憶う. 巻二一︶. ︵﹁奉賀陽城郡王太夫人恩命、加部同大夫人﹂、﹁詳注﹄. 国与大名新 国は大名と新たなり. 郡依封土旧 郡は依る封土の旧. 一九︶. ︵﹁秋日襲府詠懐、寄鄭監李賓客一百韻﹂、﹃詳注﹄巻. 祈析国多狗 祈析として国に狗多し ︵﹁大雲寺賛公房四首﹂︵其四︶、﹃詳注﹄巻四︶ ことごと なんじなか. 微爾人尽非 爾微りせば人尽く非ならん 於今国猶括 今に於いて国猶お清く さゝご. ︵﹁北征﹂ ﹃詳注﹄巻五︶. いず. 向倭国不亡 向に国をして亡びざらしめば. 故国、故郷というほどの意味で用いられ、﹁別蘇篠﹂ の例は蘇. また、﹁為農﹂と﹁通泉駅、南去通泉県十五郷山水作﹂ の例は. これらの例のうち、﹁九成宮﹂は腸帝の隋王朝を指している。. こ 卜宅従茹老 宅を卜して去れより老いん とお. ︵﹁九成宮﹂、﹃詳注﹄巻五︶. 焉為巨唐有 焉くんぞ巨唐の有と為らん. 為農去国姶 農と為りて国を去ること験し. 篠が赴任する湖南二帝を指して、南国というほどの意味で用い. の例は荊南節度使であった陽城郡王・衛伯玉の母親が封じられ. られる。さらに、﹁奉賀陽城郡王太夫人恩命、加部国太夫人﹂. ︵﹁為農﹂、﹃詳注﹄巻九︶. 貴国同王粂 国を去ること王粂に同じ. 此又足驚町 此れ又驚拝するに足れり. 国家法令在 国家 法令在り. ちなみに杜諸には﹁国家﹂ の語が三例が見られる。. べて唐の国家、あるいは唐王朝を指して用いられている。. ることになった称号の部国を指して言う。これら以外の例はす. 傷時悦孔父 時を傷むこと孔父に悦じ. ︵﹁通泉駅、南去通泉県十五郷山水作﹂、﹃詳注﹄巻一一︶. 国待賢良急 国 賢良を待つこと急に. 君当抜擢新 君 抜擢に当たること新たなり ︵﹁送陵州路傍君之任﹂、﹃詳注﹄巻一二︶. 国有乾坤大 国 乾坤の大なる有り.

(6) ︵﹁草堂﹂、﹃詳注﹄巻三一︶. 国家成敗吾山京敢 国家の成敗 吾豊に敢えてせんや. 国家 辛味の初め. 育て唐の実録を読むに. ︵﹁寄韓謙譲注﹂、﹃詳注﹄巻一七︶. J∵J・∵. 色難腹腐餐楓香 色 腹腐を経りて楓香を餐す. 国家辛味初 劉蓑 首として建議し. 嘗読唐突録 劉襲首建議 竜見 尚お躊躇す. ︵﹁別張十三建封﹂、F評注﹄巻二三︶. 竜見尚躊躇. めぐ. 沢国連過旋 沢国 連りて過旋せん. ︵﹁秋日華府詠懐寄鄭監李賓客一百韻﹂、﹃詳注し巻一九︶. ただし、国都を指して言う例が皆無なわけではない。それは. 大師京国旧 大師は京国の旧なり. ﹁東国﹂として用いられる場合である。. 徳業天機乗 徳業 天機を乗る 注﹄巻七︶. ︵﹁西枝村尋置草堂地夜摘賛公土室二首﹂︵其二︶、¶詳. ﹁大師﹂ の句は、もと長安城内にある大雲寺の僧であり、秦. を言う。また、杜詩には﹁旧国﹂の語が三例見られるが、次の. 州・西枝村に寓居している賛公が、都・長安の著旧であること. ︵4︶. これらの例は、杜詩において﹁国﹂とは別に、﹁国家﹂ の語. 郎伯殊方鋲 郎伯は殊方に鎮し. 例は旧都・長安を指して言う。. 京華旧国移 京華は旧国移る. の語があるように、国家は唐王朝と同義である。このほか、杜. が用いられることを示しているが、﹁別張十三建封﹂に﹁唐実録﹂ 諸において﹁○国﹂という構成をとる場合は、次のような語が. このほか、﹁邦国﹂と言った場合は明白に唐の国家あるいは. ︵﹁九日五首﹂ ︵其一︶、﹃詳注﹄巻二〇︶. 旧国霜前自席来 旧国 霜前に自席来る. 殊方円落玄猿実 殊方 日落ちて玄猿失し. ︵﹁江亭王聞州延餞粛遂州﹂、﹃詳注﹄巻一三︶. 春色是他郷 春色 是れ他郷なり. 離亭非旧国 離亭 旧国に非ず. 複して含まれていると考えられよう。. ただし、次の二例の﹁旧国﹂には、都と故郷のイメージが重. ︵﹁元日寄葦氏妹﹂ ﹃詳注﹄巻四︶. 用いられる。うち、﹁水国﹂として用いられる例は三例がある。 一例をあげよう。 そ. 郡杜秋天失職鶴 部杜の秋天 眼鵠を失す. 滞湘水国葬越殿 滞湘の水国 奄竜に弄う ︵﹁追酬高萄州人日見寄﹂、﹃詳注﹄巻二三︶. ﹁江国﹂と﹁沢国﹂も、水の豊かな地方の意味で用いられる。. この﹁水国﹂は杜甫のいる渾州を指す。. ︵﹁泊岳陽城下﹂、¶詳桂一巻二二︶. −︼. 江国股千里 江国 稔ゆること千里 山城近百層 山城 百層に近し 淡交随衆散 淡交 衆散に随い.

(7) 他郷就我生春色 他郷 我に就けば春色生ず. ︵﹁上白帝城二首﹂︵其一︶、r詳注﹄巻一方︶. 故国移居見客心 故国 移居 客心を見ん. 国民を指している。 実願邦国括 実に邦国の括せんことを願う. ざまな意味を含むことになる。. 意味を有するということはなく、前に置かれる語によってさま. に﹁○国﹂という語の﹁国﹂ の場合は、当然のことだが一定の. ﹁故国﹂の語の用いられ方からも理解されるように、要する. ︵﹁小至﹂ ﹃杜詩詳注﹄巻一八︶. 教児且覆掌中杯 児をして且つ覆わしむ掌中の杯. 雲物不殊郷国異 雲物殊ならず郷国異なり. また、﹁郷国Lといった場合には明らかに故郷を指す。. 巻l一三︶. ︵﹁風疾舟中伏枕書懐三十六韻奉呈湖南親友﹂、﹃詳注﹄. 群雲惨歳陰 群雲 歳陰に惨たり. 故国悲寒望 故国 寒望に悲しむ. 次の例も同様に長安を指して言う。. ︵﹁淀江﹂、﹃詳注﹄巻一三︶. 如今花正多 如今 花正に多からん. 故国流清酒 故国には清清流る. ことを言う例もある。. また、﹁錦樹行﹂と同じく、渇水の流れる長安の景物を思う. 注﹄巻二一︶. ︵﹁舎弟観赴藍田取妻子到江陵貫寄三首﹂︵其二︶、﹃詳. 聖人筐匪恩 聖人 筐簾の恩 ︵﹁自京赴奉先県詠傾五百字﹂、﹃詳注﹄巻四︶. 巽公柱石姿 巽公 柱石の姿 論道邦国活 道を論じて邦国活す ︵﹁鹿頭山し、﹃詳注﹄巻九︶. 十四例見える﹁故国﹂はどうであろうか。 覧物想故国 物を覧て故国を想う. ︵﹁客屠﹂、r詳注﹄巻一四︶. 十年別荒村 十年 荒村に別る この例は、杜甫が故郷として意識する長安・洛陽を指して言. 故国三年一消息 故国 三年一たび消息あり. う。次の例も、故郷といった意味である。. ︵﹁錦樹行﹂、¶詳注﹄巻二〇︶. 終南満水案悠悠 終南 滑水 薬くして悠悠たり また、﹁故国﹂と﹁他郷﹂とを対にする例も三例あり、次の. 故国猶兵馬 故国 猶お兵馬. 例は、洛陽附近ではまだ戦乱が終息しないことを言う。. 他郷亦鼓撃 他郷 亦鼓琴 ︵﹁出郭﹂、﹃詳注﹄巻九︶. 取酔他郷客 酔いを取る他郷の客. 次の例も故郷の意味である。 相逢故国人 相い逢う故国の人.

(8) 国破西施一笑中 国は破る丙施一笑の中. 愛妃、西施が一笑しているうちに、花森の助力を得た越王勾践. 九︶ 初めの進士。殿中侍御史で終わった。二旬は、呉王夫差の. 楊乗は ﹃唐詩紀事﹄巻四十七によれば、大中︵八四七∼八五. では、﹁国破﹂という表現は唐代にはどのように表れている. 三. のであろうか。﹃全唐詩﹄ からは以下のような例が見出せる。. に呉が滅ぼされたことを言っていて、国は呉を指す。. 那んぞ故更の聞くに堪えんや. 世家曾覧楚英雄 世家 曾て覧る楚の英雄. ③薙陶﹁夷陵城﹂ ︵﹃全唐詩﹄巻五一八︶. 能く蘇武の節を持し. 聞説 征南没すと. きくならく. 那堪故吏閉. 島・自居易らと交流があった。詩題の夷陵 ︵湖北省宜昌市の東. 国破城荒万事空 国破れ城荒れて万事空し. 能拝蘇武節 馬超の勲を受けず. 南︶ は戦国・楚の邑。﹃史記﹄巻四十、楚世家に、頃嚢王・横. の二十一年︵前二七人︶ のこととして、﹁秦将白起逐抜我邪、. 薙陶、字は国釣は成郡の人。大和八年︵八三四︶ の進士。君. 不受馬超勲 国破れて家信無く. 焼先王墓夷陵。﹂ ︵秦将自起 遂に我が鄭を抜き、先王の墓夷陵. 天秋有雁群. 栄えを同じうするも辱めを同じうせず そむ. 同栄不同辱. を焼く。︶ とある。国が楚を指していることは明らかである。. ︵七〇九−七八四︶ のこと。徳宗の興元元年. 呉帖爾来虚檻冷. 憐れむ可し国破れて忠臣死す. 楚江 風急にして遠帆多し. 呉柚 爾来って虚檻冷ややかに. ④許渾﹁姑蘇懐古﹂ ︵﹁全唐詩﹄巻五三三︶. この句は﹁春望Lを意識したものであろう。. 今日 将軍に負けり. 天秋にして雁群有り はすかL. 国破無家信. 聞説征南没. ①戎豆﹁聞顔尚膏陥賊中L ︵¶全唐詩b巻二七〇︶. 以下、これらについて見てみよう。﹃全唐詩﹄の巻数順に挙げる。. 、・Jい. 今日負将軍 顔尚書は額其卿. 八月三日、叛軍の将、李希烈によって、宣慰便として赴いた汝 吏﹂と称しているのは、顔真卿が昇州刺史・漸江西道節度使に. 楚江風急速帆多. 日日 東流 白波を生ず. 州︵河南省汝州市︶ で鮭殺された。戎星が顔真脚に対して﹁故 任じられた時に彼に仕えていたことがあるからだとされる。戎. 目日東流生白披. 可憐国破忠臣死. ㌻ヱ. くともこの時期、戦乱が続いていたとはいえ、国都長安が占領. の外、誰か識らん伍員の忠なるを︶と言っている。つまり、﹁忠. ︵其二︶ の尾聯では、﹁当年国門外、誰識伍貝忠﹂ ︵当年 国門. 許津には﹁重経姑蘇懐古l一首﹂︵﹃全唐詩﹄巻五二七︶もあり、. 畳が顔異郷の計報をどこで聞いたかははっきりしないが、少な. されていた事実はない。. 名帰花森五湖上 名は帰す花森 五湖の上. ②楊乗﹁呉中書事﹂ ︵﹃全唐詩﹄巻五一七︶.

(9) の開皇九年 ︵五人九︶ 正月のことである。﹁国﹂は明らかに南. 陳の後主・叔宝が隋軍に捕らえられたのは、隋の文帯・楊堅. ⑤皮目休﹁繰漕﹂ ︵全三四旬。﹃全唐詩﹄巻六一〇︶. 臣﹂は伍子背のこと。従って、﹁国﹂は呉を指すことになる。. 朝の陳を指して言う。. 五湖春水接追天 五湖の春水 邁天に接し. 首唐人絶句﹄巻六五︶. ⑲襲璃﹁開閉城懐古﹂︵¶全唐詩﹄巻七七二、同巻八〇一。﹃万. 前奏を指して言う。. 殺されたのは東晋の太元十年 ︵三八五︶ のことである。ここは. 前案の荷堅が、新平︵陳西省彬県︶ の仏寺で後秦の挑長に綻. 無謀拒諌偽軽敵 謀無く諌めを拒み仇お敵を軽んず とりこはいかん 国破身摘将奈何 国破れ身檎にせらるるも将た奈何せん. ⑨周曇﹁符堅 又吟﹂ ︵¶全唐詩﹄巻七二九︶. 31国破溝亦桟 国破れて溝も亦浅し 32代変革空緑 代変じて革空しく緑なり 詩題の練頂は、呉王が開いて兵を訓練したと伝えられるほり。 第三十一句は、呉国が滅んだあと、使われなくなった練頂は、 ⑥胡曾﹁細腰甘﹂ ︵﹃全唐詩﹄巻六四七。﹁万首唐人絶句﹄巻. 砂泥が堆積して浅くなってしまったことを言う。. 五三︶. 国破城荒覇業空 国破れ城荒れて覇業空し. 楚王辛苦戦撫功 楚王 辛苦し戦って功無く 詩題の細腰苫は呉王が美女を置いたという宮殿。国は呉回を 言う。. 開聞︵前五l四∼四九六在位︶が伍子常に築かせた。呉の郡︵姑. 国破君亡不記年 国破れ君亡して年を記さず 二丁︺ 作者の襲珪について詳細は不明である。開聞城は春秋・呉の. 蘇︶ であり、蘇州の別称ともなっている。五湖は大潮。呉国が. ⑦胡曾﹁房陵﹂ ︵﹁全唐詩﹄巻六四七︶. 国破家亡百恨増 国破れ家亡びて百恨増す. を出典として載せる。そこでは寒食の日に、漠州︵四川省広漠. この詩は﹃太平広記﹄巻三百五十四、鬼三十九に、﹃玉堂閑話﹄. 憫帳又逢寒食天 憫帳として又逢う寒食の天. 家亡国破一場夢 家亡び国破るるは一場の夢. ⑫崇聖寺鬼・紫衣人﹁題壁﹂ ︵¶全唐詩﹄巻八六六︶. かろう。. ことである。この例も呉という国を指していることは間違いな. 夫差の時に越王勾践によって滅ぼされたのは紀l空別四七三年の. 超王一旦到房陵 親王 一旦 房陵に到るも 房陵は湖北省房県の地。秦代以降、諸侯王の流罪地となった。 秦王政 ︵始皇帝︶ の十人年 ︵前二二九︶ のことである。この国. 遭王とは撞王遷のこと。超が趨王遷を奉じて案に降伏したのは は、遇を指して言う。 ⑧王之襖﹁憫慣詩十二首﹂ ︵其四︶ ︵﹃全唐詩﹄巻六九〇。﹃万 首唐人絶句﹄巻八︶. 国破応難保此身 国破れて応に此の身を保ち難かるべし. 隋師戦艦欲亡陳 隋師の戦艦 陳を亡ぼさんと欲し.

(10) 市︶ の崇聖寺に現れた紫衣の人が壁に書きつけた絶句というこ. 義帝商運路入榔 義帝 商運して路は榔に入る. ごと. れる途中、項羽の命令によって殺されたことを述べていて、国. と言う。前者は楚の懐王 ︵義帝︶ が榔︵湖南省榔州市︶ に徒さ. し. 似向春風訴国亡 春風に向かって国の亡びしを訴うるが似. 年年来叫桃花月 年年 来りて叫ぶ桃花の月. と言い、﹁詠史詩・成都﹂ ︵同︶ では、. 国亡身死乱山探 国亡び身死して乱山探し. ・r−. ⑫宮頼・京昭儀l玉仙﹁冥会詩﹂ ︵﹃全唐詩﹄巻八六六。1万首. とになっている。. 唐人絶句﹄巻六八︶. ︵8︶. 自従国破家亡後 国破れ家亡びて自従り後 随上惟漆芳革新 陳上 惟だ添う芳草の新たなるを. は楚を指すのであろうし、後者の国は、戦国時代の萄の王となっ. ﹃万首唐人絶句﹄はこの詩を﹁吟送酒﹂と題して収録する。 の詩はいずれも国が何を指して言うかはっきりしないが、国都. ただし作者や作詩の背景については一切が不明である。⑪と⑫. た杜宇︵望帝︶ の生まれ変わりとされるほととぎすが、亡国の. ぁわりに. れらはいずれも国都を指すとは考えられない。. 山弧爪. 恨みを訴えるように鳴いていることを言っていて萄を指す。こ. と限定して考える必要はないであろう。 以上の例からすれば、⑪と⑫の例が指すところは判然としな いものの、唐詩における﹁国破L の例からは、国が明白に国都. 唐詩の選集が編まれる場合、杜甫﹁春望﹂を採辞しない例は. 稀有であろう。冒頭に記したように、それらの多くは国を、国. 言う例も少数ながら見出すことができる。例えば開元年間の進. てヱ. を指すという例は見出すことができない。このほか﹁国亡﹂と. 士である李華の﹁詠史十一首﹂︵其九︶ ︵﹃全唐詩﹄巻一五三︶. ゝつになろ、つ。. 今まで述べてきたことを仮にまとめておくならば、以下のよ. 家か国都かのどちらかに重点を置いて解釈している。. 功高名亦尊 功高く名も亦尊し. う意味で用いられることはない。また、﹁○国﹂という場合、. 苛主相諸葛 萄主 詣葛を相とす. には、次のようにある。. 国亡身不存 国亡びて身は存せず. 明白に国都を指すのは﹁京国﹂という場合にほほ限られる。唐. あるが、明白に国都を指すと断定できる用例は見出せない。従っ. 詩の﹁国破﹂という例を見た場合、軽々に判断を下せない例も. 杜詩において国が単独で用いられるときに、これが国都とい 社宮久蕪没 社富 久しく蕪没す これは明白に萄という国家・王朝を指している。胡曾には二 例がある。﹁詠史詩・榔県﹂ ︵﹃全唐詩﹄巻六四七︶ では、.

(11) ことは、李華の例を除けば、﹁国亡﹂についても言える。時勢. という表現が用いられるのは中庸以後の詩人に限られる。同じ. は国都のみを指して言うことはない。また、杜甫以外に﹁国破﹂. どちらを指すかと限定して考えるならば、少なくとも直接的に. て、﹁春望﹂ の国は、両者を含意するという見解を除外して、. と説明を加えている。. と意識されていた。人為の秩序の最大の変転である。﹂. 奪われたことをさす。国都の崩壊はそのまま国家の崩壊. る町を国と意識する中国の場合、郡長安が叛乱写の手に. が崩壊してしまったことをいう。具体的には、国都のあ. 山九七八︶ では、三国破﹄れるとは、国家の機構と統一. も、天祐四年 ︵九〇七︶ まで一百五十年ほどの余命を保つ。つ. 李嗣業らの唐軍によって恢復されたのであり、唐王朝はその後. 長安は陥落したが、翌至徳二載九月に至ると長安は僕国情恩、. 至徳元載 ︵七五六︶ 六月、安禄山鹿下の孫孝哲らの軍によって. 最後に臆測をつけ加えれば、次のようなことも考えられよう。. も国家の意味で用いられているのではなかろうか。そう. し。︶ と青い、¶杜律趨註﹄巻上も同様である。この社積. は惟だ山河在るのみ、社稜の蔑んど亡ぶることを見る可. 河在、可見社櫻敗亡。﹂ ︵国は社稗を以て重しと為す、今. のほか明・都債﹃杜律集解﹄が﹁国以社櫻為重、今惟山. ﹁珠日﹂﹁王沫日﹂として同様の一文を引いている。こ. 部詩﹄巻一〇と ﹃分門集註杜工部詩﹄巻二が、それぞれ. ︵3︶ このほか管見に入ったものでは、¶集千家註分類杜工. る見解も根拠は乏しい。. ︵2︶ 第一義的に国︵囲︶ が、都邑、国都を指していたとす. に鋭敏な感覚を有する詩人たちにとって、中庸以降は唐王朝が 確実に衰退に向かっていることが明白に意識されていったこと とも関係しよう。そのような時に国都長安のみが意識にのぼる とは考えにくい。彼らにとって国は国家ないしは官主朝であっ. まり唐代以降の注釈者にとっては、杜甫が﹁春望﹂を詠じた時. いことではない。. だとすると、国都の意味であるとされたのはそれほど古. たのである。. 点では、安史の乱によって唐王朝が壊滅的な打撃を受けていた. 何日﹂ ︵故国 見る何れの日ぞ︶ という句があるが、﹃九. ︵4︶ このほか﹁薄幸﹂ ︵﹃杜詩詳注﹄巻一二︶ に、﹁故国見. とはいえ、滅亡してはいないということはあまりにも当然の事 実であった。そのことが﹁国﹂は唐という国家・王朝、もしく. ﹃旧唐杏﹄巻一二八、本伝による。﹃旧唐吾﹄巻七、. ︵6︶ 博茄環主編﹃唐才子伝枚箋﹄ ︵中華苔局、t九八七︶. 徳宗紀は、貞光元年 ︵七八五︶ のこととする。. ︵5︶. 家集注杜詩﹄巻t一四は﹁故国﹂を﹁旧国﹂に作る。. は国家機構全体を指すのではなく、国都長安を指すという解釈 を生む背景となっていったのでほなかろうか。 注 ︵1︶ 同氏 ﹃唐詩の鑑賞珠玉の百首選−﹄ ︵ぎょうせい、. 10.

(12) による。減維鞋﹃戎畳詩注﹄︵上海古籍出版社、一九八二︶. は、広徳元年︵七六三︶ 八月、顔異郷が荊南節度に任じ. られようとした時のこととしている。 一九九六︶ に、﹁開聞城懐古、又作劉璃。︽才調︾一〇作. ︵7︶ 柊培基編撰﹃全唐詩重山誤収考﹄︵陳西人民教育出版社、. の作として﹁開聞城懐古﹂を含む詩三首を収録する。﹃唐. 劉、︽絶句︾六五誤作襲、︽統妓﹀八六﹂ハ拠︿絶句︾収之。﹂ という指摘があるように、﹃全唐詩﹄巻八〇一には劉瑞. ﹁○国亡﹂という表現もある。羅隠﹁西施﹂︵﹃全唐詩﹄. ﹃万首唐人絶句﹄は、﹁院上﹂を﹁機上﹂に作る。. 才子伝﹄巻二、李季蘭の粂に女流詩人を列挙する中に劉 揺の名が見えている。劉揺とするのが正しいのであろう。 ︵8︶ ︵9︶. 又是れ誰ぞ︶と言い、葦荘﹁謁巫山廟﹂ ︵r全唐詩﹄巻六. 巻六五六︶ には、﹁越国亡来又是誰﹂ ︵越国 亡び来るは 九八︶ には、﹁為雨為雲楚国亡L ︵雨と為り雲と為って楚 国亡ぶ︶とある。これらの例は﹁国亡﹂と言った時の国. が国家を表すことを示唆していよう。 岳﹁西征賦﹂︵﹃文選﹄巻一〇︶に、﹁国滅亡以断後。﹂︵国. ︵10︶ 類似した表現に﹁国滅﹂、﹁国滅亡﹂がある。後者は播 は滅亡して以て後を絶つ。︶ とあって秦国の滅亡を言う. が、両者ともに ﹃全唐詩﹄ には見られない。. 11.

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参照

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