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JAIST Repository: 公的研究機関の経済インパクト評価モデルの開発

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JAIST Repository

https://dspace.jaist.ac.jp/ Title 公的研究機関の経済インパクト評価モデルの開発 Author(s) 松本, 光崇; 横田, 慎二; 内藤, 耕; 伊藤, 順司; 市 川, 直樹 Citation 年次学術大会講演要旨集, 23: 732-735 Issue Date 2008-10-12

Type Conference Paper Text version publisher

URL http://hdl.handle.net/10119/7666

Rights

本著作物は研究・技術計画学会の許可のもとに掲載す るものです。This material is posted here with permission of the Japan Society for Science Policy and Research Management.

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2C25

公的研究機関の経済インパクト評価モデルの開発

○松本光崇,横田慎二,内藤耕,伊藤順司,市川直樹(産業技術総合研究所) 概要 本研究は、学術的な研究成果が市場創出経済効果(社会インパクト)を持つまでの過程をモデル化し、そ のインパクトの大きさを定量的に評価する計算モデルを作成することを目標とする。本稿では我々の構 築した研究成果が市場創出経済効果を持つまでの過程の数理モデルを示す。当モデルはその過程を、① 研究成果、②産業連携、②市場化、の三段階でモデル化し、六つの変数によって定式化する。当モデル を構築するにあたって参照した産業技術総合研究所(産総研)の研究成果の経済インパクトの事例を併 せて示す。 1.はじめに 科学技術的イノベーションは国の経済競争力の源泉であるとされ、各国政府によってその促進が図ら れている。公的研究の社会インパクトを理解し評価測定することは科学技術政策を策定する上でも研究 開発の組織マネジメントを行う上でも重要であり、近年国内外で試みがなされている。米国では「エビ デンスに基づく科学技術政策」が提唱され研究開発投資のインパクト評価が試みられており、EUでも リスボンアジェンダに基づき各国の研究開発の投資効果の評価が行われている。OECDの committee for scientific and technological policy でも公的研究の社会インパクト評価を検討している。本研 究もそうした検討と目標を共通にし、公的研究機関を対象にして、学術的な研究成果が社会インパクト を持つに至るまでの過程をモデル化し、そのインパクトを定量的に評価する計算モデルの構築を行って いる。 2.本研究の検討の範囲 公的研究は多様な社会経済インパクトを持つ。Godin と Dore (2006) は公的研究の社会経済インパ クトを 11 の次元に分類した。すなわち、科学、技術、経済、文化、社会、政策、組織、健康、環境、 シンボル、教育、である。Godin と Dore も指摘するとおり、これまでの社会インパクト評価の研究の 大半は経済インパクトを評価の対象にしてきた。本研究も現時点では公的研究の経済インパクトを評価 対象とする。公的研究の経済インパクトはさらにいくつかに分類することができる。少なくとも三つに 分類できる。一つは「市場創出型インパクト」であり、科学技術により新しい製品・サービスの市場を 生み出す市場創出の効果である。第二は「研究開発リスクヘッジ」の効果であり、ある技術や手法がう まくいかないことを証明することで、他者の時間や資源の浪費を回避する効果である。特に公的研究機 関は、リスクが高く、民間企業が手を出しにくい研究開発を行う役割も担っている。第三は「損失回避」 の効果であり、防災や環境計測のように社会的な損害を回避することや、計測標準のように公的機関が 行わなければ各者(社)が自前で実施しなければならないことを回避することなどの経済効果である。近 年公的研究機関への期待が高まっているのは第一の「市場創出型インパクト」であり、本研究は市場創 出型経済インパクトを評価の対象とした。 3.ケーススタディ 我々は産総研の研究開発実績事例の収集を実施している。以下に産総研の研究成果が市場創出経済イ ンパクトをもたらすことに寄与した事例から二事例を示す。 3.1 事例(1) 炭素繊維材料

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航空機の機体にも用いられている。1970 年代初めから量産が開始され、今日の同材料の市場規模は年間 200 億円強である。このうち日本企業の市場シェアは 7 割を越える。炭素繊維材料は旧大阪工業試験所 (現 産総研 関西センター)で開発された技術が元となっている。 この技術は 1959 年に大阪工業試験所から特許出願がなされた(研究成果に相当)。その後 1965 年から 82 年にかけて 28 の企業に技術指導を行い市場化に向けた努力がされた(技術移転)。最初の市場化は、 特許実施許諾を受けた東レが 1970 年にゴルフクラブや釣竿の用途を開拓して製品化したことである(市 場化)。炭素繊維材料の世界市場はその後拡大し、1988 年に約 400 億円でピークを迎え、90 年代後半以 降 200 億円台で推移している。今後旅客機の機体への導入が本格的に進めば市場規模は再び大きく拡大 することが見込まれている。表 1 にこの技術の研究成果創出から市場化までの時間と市場化後の経済影 響規模の項目をまとめる。 3.2 事例(2) 血圧降下機能性食品 機能性食品とは免疫増強やコレステロール低下等の特定の機能を持つ食品を指し、その市場が今日拡 大している。血圧降下の機能性食品の開発には旧生命工学工業研究所(現 産総研)の研究成果も取り 入れられている。 血圧降下機能性食品に関連する特許は生命工学工業技術研究所から 1981 年に出願がなされた(研究成 果)。その後 86 年から 89 年にかけて企業と共同で研究開発を進め、共同特許出願等が行われた(技術移 転)。1997 年に共同研究相手先の企業が製品販売を開始し(市場化)、血圧降下機能性食品の市場は 2005 年度時点で約 150 億円であり、現在も拡大している。表 1 に市場化までの時間と市場化後の経済影響規 模の項目をまとめる。なお血圧効果機能性食品の技術開発は他の機関でも進められてきており、表 1 に 示す市場規模は売上ベースでの市場全体の規模であり、産総研の寄与率等は考慮していない。 表 1.産総研の二事例からの「時間」と「経済影響規模」の抽出 時間 経済影響規模 研究成果→技術 移転 の年数 技術移転→市場 化 の年数 市場化→ピーク 時 の年数 ピーク時の年間 市場規模 炭素繊維材料 6 年 1959 年:特許出願 1965~82 年: 28 社に技術指導 5 年 1970 年:市場化 18 年 1988 年に一旦ピー ク。今後旅客機へ の導入で再拡大の 可能性あり。 400 億円 血圧降下 機能性食品 6 年 1981 年: 特許出願 1987 年:民間企業 との共同特許出願 10 年 1997 年:製品発売 8 年以上 まだピークに達し ていない 現時点で 150 億円 4.モデル 4.1 問題設定 産総研は年間約 6,000 の論文、約 1,500 の特許出願を行っている(表 2)。本研究はこうした研究機関 の各年の研究成果(研究機関のアウトプット)が将来にわたって社会にもたらす市場創出経済インパク トを推定評価するモデル枠組みを作成することを目標としている。以下に我々が構築したモデルを示す。 表 2.産総研の研究成果 年度 論文 口頭発表 特許出願 2004 5,796 10,622 1,569 2005 6,654 12,108 1,378 2006 6,481 11,505 1,494

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図 1. モデルの構造 4.2 モデルの構造と変数 本研究では前節の二例を含む事例を参照して、公的研究機関による研究成果から市場インパクト創造 までの過程を、①研究成果、②産業連携、③市場化、の三つのステップで捉えた。図 1 にモデルの枠組 みを示す。研究機関では論文や特許出願などの研究成果を創出する。研究機関がk年の一年間に創出す る研究成果の量をACkで表すこととする。ACkが元になり将来にわたり創出される市場創出経済インパク トをMPkとする。ACkとMPkの関係をモデル化する。モデルでは次の 6 つの変数を考える(図 1): 1. τ1 : 研究成果が産業連携に至るまでの時間(年数) 2. p1 : 研究成果ACkのうち産業連携に至るものの割合 3. τ2 : 産業連携が市場化に至るまでの時間(年数) 4. p2 : 産業連携のうち市場化に至るものの割合 5. τ3 : 市場が立ち上がってから市場が継続する時間(年数) 6. S : 創出された市場の市場規模(売上高) 4.3 数理的定式化 これらの 6 つの変数を定数や分布関数で定義すれば、ACkとMPkの関係を数理的に表すことができる。 上記変数を以下のように定義する。 • τ1(t): 時間t の分布関数で定義。(積分を 1 とする: ) • p1: 定数 • τ2(t): 時間t の分布関数で定義。(積分を 1 とする: ) • p2: 定数 • fτ3,S(t): 市場化に至ったものの市場規模の平均的な時間推移 これらの変数の設定には既存の研究を参照することもできる。時間の変数(τ123)に関連する研究 としては NISTEP(1999)等、割合の変数(p1,p2)には Reamer 他(2003)、市場規模の推移(S,τ3 あるい はfτ3,S(t))には Mansfield(1991)等が関連する。 以上の変数を用いると MPk は次のように定式化される: • ACk: 研究機関の k 年の研究成果の量 • TR(t): k+t年(k 年からt年後)に、AC に基づき実施される産業連携の数 1 ) ( 0 1 =

∞τ t dt 1 ) ( 0 2 =

∞τ t dt AC→TR の時間 「論文や特許が出されて から共同研究までの期間 は何年くらいか?」 AC→TR の時間 「論文や特許が出されて から共同研究までの期間 は何年くらいか?」 TR→BM の時間 「研究から、事業化され 市場が立ち上がるまでに 何年くらいがかかるか?」 TR→BM の時間 「研究から、事業化され 市場が立ち上がるまでに 何年くらいがかかるか?」 MPの時間 「市場が立ち上がってから、 拡大して飽和するのに何 年くらい経るのか?」 MPの時間 「市場が立ち上がってから、 拡大して飽和するのに何 年くらい経るのか?」 AC→TR の割合 「論文や特許として発表さ れたもののうち、どれくらい の割合が技術移転される か?」 AC→TR の割合 「論文や特許として発表さ れたもののうち、どれくらい の割合が技術移転される か?」 TR→BM の割合 「技術移転された研究の うち、実際に事業化され て市場が立ち上がるのは どれくらいの割合か?」 TR→BM の割合 「技術移転された研究の うち、実際に事業化され て市場が立ち上がるのは どれくらいの割合か?」 MPの規模 「立ち上がった市場は最 終的にどれくらいの市場 規模を持つか?」 MPの規模 「立ち上がった市場は最 終的にどれくらいの市場 規模を持つか?」 τ1 p1 p2 学術論文 知的財産 共同研究 知財実施 製品化 ベンチャー化 市場創造 インパクト τ2 AC TR BM MP τ S 研究成果 産業連携 (技術移転) 市場化 経済インパクト

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• BMk(t): k+t年(k 年からt年後)に、ACk を元にして実現する市場化の数 (2) • MPk(t): k+t年(k 年からt年後)に、ACk がもたらす経済インパクト(市場化の市場規模の合計) (3) • MPk: ACk がもたらす経済インパクトの合計(k年価値換算) (4) R は将来価値を現在価値に換算するための割引率とする。t年後の価値a の現在価値は で 表される。ACkによってもたらされる経済インパクトの合計MPkは式(4)である。 5.結論と課題 本稿では、研究成果が市場創出経済効果(経済インパクト)を持つまでの過程をモデル化し、そのイン パクトの大きさを定量的に評価する計算モデルを示した。今後、本稿で示したモデルを精緻化し発展さ せていくことを図る。発展の方向性として、第一に、モデルで示した 6 つの変数は本来互いに独立では なく相互依存している可能性が高い。例えば市場化を迅速に行うことは(τ1+τ2を小さくすることは)は 市場規模(S)を大きくする可能性がある。こうした変数の間の相互関係を検討する。第二に、研究成 果が経済インパクトを持つに至るまでの過程では、研究成果を創出した研究機関以外の様々な組織、特 に企業が関与し貢献している。各過程での寄与率を考察することも課題である。また研究成果がもたら す市場創出経済効果の他に、研究成果がもたらすその他の経済インパクトや社会インパクトの評価をす る枠組みを検討していく。 参考文献 [1] 松本光崇,横田慎二,内藤耕,伊藤順司,「公的研究機関の社会インパクト評価の開発に向けた検 討」,研究・技術計画学会 第 22 回年次学術大会 講演要旨集, pp.942-945,2007 年 10 月.

[2] M.Matsumoto, S.Yokota, K.Naito, J.Itoh, "Development of a calculation method estimating science-based innovation impact", Proceedings of the R&D Management Conference 2008, June 2008.

[3] Godin B and Doré, C (2006): Measuring the impacts of science: beyond the economic dimension,

Working Paper, Mimeo

[4] 高松亨,「PAN 系炭素繊維の開発」,技術と文明,pp.1-24, Vol.12, No.1, 2000 年 1 月.

[5] 科学技術政策研究所,「研究開発関連政策が及ぼす経済効果の定量的評価手法に関する調査(中間報

告)」, NISTEP-report No.64, 1999.

[6] A.Reamer, L.Icerman and J.Youtie, “Technology Transfer and Commercialization: Their Role in Economic Development”, 2003. www.eda.gov/PDF/eda_ttc.pdf

[7] E.Mansfield, “Academic research and industrial innovation”, Research Policy, Vol.20, pp.1-12, 1991.

∫ ∫

⎛ ⋅ − ⎟⎞⋅ − ⋅ ⋅ ⋅ = k t t t AC p p d f t d MP 0 0 1 2 2 1 ( ) ( ) ( ) ) ( ϖτ ϑ τ ϖ ϑ ϑ ϖ ϖ dt R d t f d p p AC MP t t k k 1 2 00 0 1( ) 2( ) ⋅ ( − ) ⋅(1− ) ⎝ ⎛ ⎠ ⎞ ⎜ ⎝ ⎛ ⋅ ⋅ ⋅ =

∫ ∫ ∫

∞ ϖ

τ

ϑ

τ

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ϑ

ϑ

ϖ

ϖ

⋅ − ⋅ ⋅ ⋅ = k t k t AC p p t d BM 0 1 2 2 1 ( ) ( ) ) (

τ

θ

τ

θ

θ

t R a ⋅(1− )

図 1. モデルの構造  4.2  モデルの構造と変数    本研究では前節の二例を含む事例を参照して、公的研究機関による研究成果から市場インパクト創造 までの過程を、①研究成果、②産業連携、③市場化、の三つのステップで捉えた。図 1 にモデルの枠組 みを示す。研究機関では論文や特許出願などの研究成果を創出する。研究機関が k 年の一年間に創出す る研究成果の量を AC k で表すこととする。 AC k が元になり将来にわたり創出される市場創出経済インパク トを MP k とする。 AC k と MP k

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