Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
歯科的個人識別
Author(s)
笠原, 典夫; 中村, 安孝; 橋本, 正次
Journal
歯科学報, 119(1): 37-39
URL
http://hdl.handle.net/10130/4802
Right
Description
―――― カラーアトラス ――――
歯科的個人識別
かさ はら のり お笠 原 典 夫,
なか むら やす たか中 村 安 孝,
はし もと まさ つぐ橋 本 正 次
東京歯科大学法歯学・法人類学講座カ ラ ー ア ト ラ ス の 解 説
はじめに 大規模災害の犠牲者における身元確認に歯科的情 報が用いられた歴史は古く,1897年フランスで発生 したチャリティバザールの会場で124名が亡くった 事故まで遡る1) 。本邦においては,1985年の日本航 空機123便墜落事故の犠牲者身元確認において,歯 科的情報が用いられたことにより,広く社会に認知 されるようになった。それ以来,様々な事件・事故 の身元確認作業に歯科的情報が用いられ2),2013年 に発生した東日本大震災における身元確認におい て,多くの歯科医師・法歯学者が犠牲者の身元確認 に貢献したことは記憶に新しい。 一般に大規模災害時の身元確認作業において,指 紋・歯科的情報・DNA の3つが利用されている。 この3つの情報にはそれぞれ特徴があり,大規模災 害の種類や犠牲者の数,災害発生の地域などによっ て,主として利用される情報が異なる。歯科的情報 による個人識別は,安価であり,その運用が簡便で ある上,迅速な個人識別が可能であり,特別な器具 や施設すら必要としないという指紋や DNA にはな い大きなメリットがある。つまり,インフラが破壊 された環境下でも,歯科的個人識別の知識を持った 専門家さえいれば,身元確認作業が可能である。一 方,検査対象となる歯は,歯科治療痕や歯の形態学 的特徴,歯列の状態など,個人特異性の高い情報を 保持したまま,個体の死後も長時間にわたり残り続 ける組織である。比較の対象となる歯科医療情報も 法律の定めにより保存が義務付けられていること で,個人を識別するための情報を得ることが比較的 容易である。これらのことから,歯科的情報を個人 識別に用いることは非常に理に適ったことであると 言える。 歯科的情報を用いた個人識別の手順 一般に,歯科的情報を用いた個人識別は生前記録 の作成,死後記録の作成,照合作業の3つのプロセ スに大別される。本学では学生実習用模型を用いて 大規模災害を想定した歯科的個人識別の実習を実施 している(図1および図2)。 生前記録 生前記録は歯科診療録や診療時のエックス線写真 等を基に作成される。得られた情報から歯型の模式 図,すなわちデンタルチャートを作成する。デンタ ルチャートは国際刑事警察機構(Interpol)書式(図 3)ものと,日本歯科医師会が推奨する書式(図4) の2つが本邦で用いられている。いずれのデンタル チャートも治療痕を2次元平面図に描き,充填物や 補綴物の種類を32本の各歯について記入することで 作成される(図5および図6)。 死後記録 死 後 記 録 は 遺 体 を 検 査 し,そ の 所 見 を デ ン タ チャートに記載する。チャートの構成は生前記録の ものと大きく変わりがない。そのため,生前記録は 黄色い用紙(図3)を,死後記録はピンク色の用紙(図 4)を使用し,両者を区別するのが一般的である。 チャートの記載方法は生前記録と同様であるが, 遺体より死後記録を採取する際,二人一組で交互に 口腔内所見を取ることが推奨されている。これは遺 体から記録用紙への感染を予防するためと,死後記 録の正確性を期すためであり,双方が主体性をもっ て口腔内所見を作成する。 照合作業 照合作業は,作成された生前および死後の2種類 のデンタルチャートを基に,同一人か否かについて 精査する。具体期には,生前記録と死後記録に記載 された32本の各歯について比較していく。生前記録 と死後記録に相違が認められた場合,その相違が説 明の付けることのできる相違であるか否かが重要と なる。例を挙げて説明すると,生前記録で欠損歯と なっていたものが,死後記録では健全歯あるいはイ ンレー修復となっていた場合は,通常の歯科治療の プロセスでは起こりえないことである。この場合, 特段の事情が無ければ別人と判断することとなる。 一方,生前記録ではインレー修復であったものが, 死後記録では全部金属冠や部分床義歯であった場合 は,説明の付く相違となり,両者の異同識別に大き な影響を与えない。つまり,歯科治療にはインレー やレジン充填などの治療から全部金属冠や義歯など の大きな補綴物等へ移行するという方向性があると いうことである。歯科的情報は指紋や DNA と異な り,終生不変ではなく,治療により変化するもので ある。しかし,歯科治療には一定の方向性があるこ とから,生前と死後の歯科的情報を比較することに より,両者の異同識別が可能である。 文 献1)Xavier R : Dr. Oscar Amoedo Y Valdes(1763−1945), founding father of forensic odonotology. J Forensic Sci & Criminal Inves, 2017;3⑸:555623.DOI:10.19080/ JFSCI.2017.03.555623.
2)Petju M, Suteerayongprasert A, Thongpud R, Hassiri K : Importance of dental records for victim identification following the Indian Ocean tsunami disaster in Thailand. Public Health, 121:251−257,2007.