Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
根管充塡時期の判定がよくわかりません。臨床の場でも
学生時代に習った項目と同じでしょうか?
Author(s)
齋藤, 健介
Journal
歯科学報, 113(2): 185-186
URL
http://hdl.handle.net/10130/3038
Right
結論から言うと同じです。ただし,教科書に記載 されている全ての項目に対して検査を行い陰性所見 が得られなければ根管充塡をしてはならない,とい うことではありません。そもそも感染根管治療の目 標は根管内における無菌化で,これは非常に困難な 目標です。そこでいかに菌を減らし,そしてその活 動を抑制するかを考え根管処置を行い,そこで得ら れた環境に対し根管充塡を行うのです。 その目的は 1.清掃終了後の根管内維持 2.除去が困難な起炎因子の封じ込め 3.根尖部閉鎖までの待機 4.外界からの再感染の防止 が挙げられます。 根管充塡前に確認すべき最も重要なことは何かと いうとそれは根管形成が完了していることであると 考えます。学生実習などでしばしば見かける国際規 格のガッタパーチャポイントによるシングルポイン ト充填”は根管形成が行えているとは言い難いので す。しかし根管内細菌を除去するためといい,やみ くもに拡大された根管に遭遇することがあります が,この操作は本当に正しいのでしょうか。通常の ステンレス製ファイルは元の形態に戻る性質があ り,サイズが上がればさらに曲がりにくくなるため 根尖孔の変位を起こしてしまいます(図1)。大きく 破壊された根尖孔部に細菌感染が起こると治癒は困 難になり,外科的な対応が求められる場合もありま す。また根尖部のみの形成ではなく本来の根管形態 を維持したフレアー形成も根管充填時には必要とな りますが曲がらないファイルでは形態を維持するこ とは難しいのです。ではどのような器具を用いて拡 大すればいいのでしょうか?そこから歯冠側にかけ てどのような根管形成が必要なのでしょうか?拡 大・形成時には根管内の洗浄はどのように行うべき なのでしょうか?考えることは山ほど有ります。根 管形成とはただ単純に根尖部までファイルを到達さ
臨床のヒント
Q&A
歯科保存学系
Q&Aコーナーは,東京歯科大学の3病院の臨床研修歯 科医から寄せられた質問に対しての回答です。回答は本 学3施設の専門家にお願い致します。内容によっては基 礎や臨床,あるいは歯科や医科と複数の回答者に依頼す る場合もあります。毎号掲載いたしますので,会員の皆 様もご質問がございましたら,ぜひ東京歯科大学学会ま でeメールかファックスで依頼していただきたいと存じ ます。必ずご期待に添えることと思います。今号は根管 充塡時期の判定に関する質問です。Question
根管充塡時期の判定がよくわかりません。 臨床の場でも学生時代に習った項目と同じでしょうか?Answer
図1 35号のファイルによる根管形成の違い(左:ステン レススチールファイル,右:NiTi ファイル) 器具の材質により形成後の形態に差が現れる 歯科学報 Vol.113,No.2(2013) 185 ― 69 ―せればいいわけではなく,これらの問題を解決する 手立てを考えながら行わなければなりません。臨床 的不快症状の有無が根管充填の時期の判定になるこ とを学生時代に教わったと思いますが,無菌化を図 るために根管の拡大・形成・洗浄が行われて初めて 不快症状の有無があるか判断できるようになるので す。誤った治療が不快症状を発現・継続させる場合 もあることを忘れてはならなりません。 では根管形成について充塡前にチェックする項目は 1.根管口部の規制が取り除けているか。 2.フレアー形成が付与できているか。 3.根尖部に抵抗形態が付与できているか。 4.未処置の根管内壁がないか。 などがあげられます。根管充塡のための器作りを達 成した後に不快症状の有無を含めて根管充塡の可否 について判断できるのです(表1)。 根管形成時も抜髄根管か感染根管かでは対応が変 わりますが,充塡の時期判定においても若干の違い があります。抜髄根管で疼痛が認められる場合は抜 髄創面を含め根尖部周囲組織が炎症状態にあると考 えられ,この状態で充塡を行うと浸出液などの逃げ 場がなくなり症状を悪化させる危険性があります。 また自発痛がなくても浸出液が認められる場合は根 尖部の十分な封鎖を行うことができないために充塡 してはなりません。ペーパーポイントを根管内に挿 入し先端のみに浸出液がつく場合,他に症状がなけ れば充塡を行っても差し支えはありません。この際 必ず作業長にペーパーポイントの挿入位置を合わ せ,根尖部に刺激を与えないようにすること,また 作業長以下の長さに合わせても滲出液を吸湿するこ とができず正確な診査ができないので注意が必要で す。 前回貼薬した綿繊もしくはペーパーポイントが汚 染や変色しているようなら根尖部での炎症が継続し ているか仮封材からの漏洩(コロナルリーケージ)が 疑われるので充塡は行えず,再度根管拡大・洗浄操 作が必要となります。毎回の根管治療時も当然のこ とながら封鎖性の低い仮封材を使用していてはいく ら治療を続けてもその効果が得られないので,ス トッピングのみで仮封を行っている様であれば材料 についても見直さなくてはなりません。 時期判定に記載される細菌培養検査は感染の主体 と言われている嫌気性菌の検出することは難しく, 陰性と検査結果が出ても完全な無菌化が得られたと は言い難いのです。しかし陽性となるようであれば 明らかに前述した項目について達成できておらず, 細菌が生育可能な環境であることが示されていま す。自他覚症状が消失し確認する意味で検査を行も 有意義かとも思いますが,やはり細菌培養検査は通 常の治療を行っても症状が長引く場合に行い原因と なっていると思われる菌を検出しそれに適した薬剤 を選択するために行うことが根管治療を行う上で非 常に有効であろうと思います。一方で培養検査を行 うために日数を要することから充塡時期を逃す可能 性が指摘されることもありますが,検査を行う際も コロナルリーケージを起こさせない環境を作れば回 避できることなので仮封には常に注意する必要があ ります。 今回の質問は,根管充塡の時期判定についてとい うことですが根管充塡の目的,そのための環境整備 について理解してからでないと根管充塡の時期判定 はできません。環境整備が整えば基本的には時期判 定については臨床も教科書も同じですので,根管治 療を一連の流れとして再度整理することをお勧めし たいと思います。 Answer:齋藤健介 千葉県 表1 根管充塡の時期判定 根管内の起炎因子が除去できている 根管形成が終了している 自発痛などの自覚症状が消失している 根尖からの滲出液がない、もしくは軽微 根管からの出血・排膿がない 根尖部歯肉の圧痛がない 綿繊・ペーパーポイントの汚染がない 細菌培養検査で陰性所見が得られる 186 歯科学報 Vol.113,No.2(2013) ― 70 ―