民事上訴制度の研究
著者
花村 治郎
号
30
発行年
1987
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じム ロ ・︾ イ ● う π P ろ 自 昼 学 位 の 種 類 学 位 記 番 号 学 位 授 与 年 月 日 学位授与の要件法
学
博
士
法
第30号
昭 和62年12月16日 学 位 規 則 第5条 第2項 該 当 学 位 論 文 題 目 論 文 審 査 委 員民事上訴制度の研究
(主 査) 教授 林 屋 禮 二 教授 廣 中 俊 雄 教授 太 田 知 行論
文
内 容
の
要
旨
本 論 文 の構 成 は、 以 下 の とお りで あ る 。 第 一章 上 訴審 の審 理構 造 第 二章 審 級 の利 益 一 民訴 法388条 につ いて 一 第三 章 控 訴審 の裁 判 一 控 訴審 判 決 の 主 文 に つ い て 一 第 四章 上告 理 由一 廃 止法 令 違 背 第 五章 上 告 審 の適 用法 令 一 控 訴 審 判 決 後 の 法 令 変 更 一 第 六章 上 告 審 に お け る 独立 当 事 者 参 加 附 章 イ ギ リス の 上訴 制 度 に つ い て 本 論 文 は 、 ま ず 、 第 一 章 で 、 「上 訴 審 の 審 理 構 造 」 につ いて 概 観 す る。 こ こで は、 提 出者 は 、 民 事 訴 訟 制 度 の 目的 との 関 係 で 、 控 訴 審 ・上 告 審 と もに 、 「紛 争 の解 決 」 を 共 通 の 目 的 とみ る見 解 を 支 持 す る。 その う えで 、 「控 訴審 の審 理 構 造 」 につ いて は、 控 訴 審 は現 行 民 訴 法 上 事 実審 で あ り続 審 と され て い るが 、審 理 の 実 際 は覆 審 的 で あ り、 そ の結 果 と して 訴 訟 の 遅 延 を 導 い て い る の で 、 控訴 人 か ら控 訴 理 由 を 明 らか に させ て 、 審 理 を重 点 的 に行 な え る よ 法20うに す る必 要 が あ る と して 、 控 訴 理 由書 提 出 強制 の制 度 化 の提 唱 に 賛 意 を 示 す 。 ζれ に対 し、 「上 告 審 の審 理構 造 」 との関 係 で は、 上 告 審 は事 後 審 な の で理 由 書 提 出 強制 主 義 が と られ て い る が 、 こ こに は ま た別 の問 題 が あ る とす る。 す な わ ち、 上 告 審 は 法 律審 で あ るが 、 事 実 問 題 と法 律 問題 の区 別 が 明確 で な く、 しか も、 判 例 ・学 説 が経 験 則 違 反 を 上告 理 由 と して い る た め に、 事 実 認 定 の誤 りを 経 験 則 違 反 と構 成 して 上 告 す る場 合 が か な り多 い とい う問 題 で あ る。 この点 に つ いて 、 提 出 者 は、 この経 験 則 違 反 を含 めて の事 実 認 定 に つ い て の不 服 で破 棄 され る事 件 は実 際 上 年 間僅 か二 、三 件 にす ぎ な い か ら、 訴 訟促 進 の 見 地 か らは 、 第 二 次 大 戦 後 の 処 置 と して 設 け られ た い わ ゆ る民 事 上 告 特 例 法 の失 効 が 改 め て 惜 しまれ る とす る。 そ し て 、.この民 事 上 告 特 例 法 が 採 っ て い た裁 量 調 査 制 は実 質 的 に は 上告 許 可 制 で あ るが 、 イギ リ スで は第 一 審 判 決 に対 す る上 訴 は1回 が 原 則 で 、2回 目 の上 訴 に は 裁判 所 の 裁量 に よ る許 可 が 必 要 で あ り、 ア メ リカで もこれ に類 似 した裁 量 的 上 訴 制 度 が 採 用 され て い る ほ か 、 西 ドイ ツで も上 告 が 制 限 され て い るの で 、 こん この 問 題 と して は、 わ が 国 で も、 こ う した制 度 の 採 用 につ いて 一 考 が 必 要 で あ る と主 張 す る。 つ い で 、第 二 章 で は 、 控 訴 審 に お け る審 理 との 関 係 で 、 大 阪 高 裁 昭 和53年5月24日 判 決 (判 例 時 報909号59頁)を 素 材 と して 、 「審 級 の 利 益 」 の 問 題 を 、 と くに民 訴 法3弓8条 との 関 係 で 考 察 す る。 そ して 、 上 の判 決 は、 事 実 審 で あ る控 訴 審 で 共 同訴 訟 参 加 を認 め る理 由 と、 事 件 を 第 一 審 に差 し戻 す こ と な く控 訴 審 で 審 判 で き る もの とす る場 合 の 理 由 とを 渥 同 して い る点 で は問 題 を もつ が 、 後 者 の 点 につ いて 、 第 一 審 で す で に実 質 的 に相 当 の審 理 が な され て お り、 しか も、 差 し戻 さず に控 訴 審 で 審 理 す る こ と につ いて 相 手 方 も同意 して い る と きに は 、 民 訴 法388条 に よ って 事 件 を 第 一 審 に差 し戻 す 必 要 は な い と した この判 決 の結 論 は妥 当 で あ る とす る。 す な わ ち 、 民 訴 法388条 の解 釈 と して は、 訴 えが 第 一 審 で実 体 的 に審 理 され て い な い 場 合 の 規 定 とみ る学 説 を 支 持 す べ きで あ って 、 本 条 の 適 用 に つ い て は、 形 式 論 理 に と ら わ れ る こ とな く、 実 質 的 に 「審 級 の利 益 」 を 当事 者 に確 保 す べ き必 要性 の有 無 に よ って 、・合 理 的 な取 扱 い をす べ き こと を主 張す る。 ま た、 第 三 章 で は、 控 訴 審 に お け る審 理 の結 果 と して の 「控 訴 審 の 裁判 」 を扱 い、 控 訴 審 が 事 実 審 で あ る ζ と との関 係 で 、 この控 訴 審 で 訴 え の変 更 が 尽 され た場 合 の判 決 の主 文 の書 き方 を め ぐる 問題 を取 り上 げ る。 す な わ ち、 第 一 審 で 勝 訴 した原 告 が 、被 告 の不 服 申立 て に 基 づ く控 訴 審 に お いて 訴 え を交 換 的 に変 更 し、 控 訴 審 が この新 請 求 に つ いて も認 容 をす る と き に は、 そ の さい の判 決 主 文 を ど の よ うに書 くべ きか の問 題 で あ る。 この点 に つ いて 、・提 出 者 は 、最 高 裁 昭和31年12月20日 判決(民 集10巻12号1573頁)や 同 昭和S2年2月28日 判 決(民 集11巻2号374頁)が 、 従 来 の 一 結 論 が 同 一 で あ る と い う理 由か ら一 民 訴 法384条2項 に よ っ て 「控訴 棄 却 」 と表示 して きた 実務 の方 式 を変 更 して 、 結 論 は 同 じで も、 別 の 請求
と な っ た との 理 由 か ら 第 一 審 と同 一 の 主 文 を 改 め て 掲 げ る方 式 を とる もの と した こ との 是 非 を 検討 し、 この 新 しい判 例 方 式 に対 して 批 判 的 な学 説 の 立 場 に賛 成 をす る。 そ れ は、 同 一 の主 文 を 改 め て記 載 す るの は いか に もぎ こ ち な い と考 え られ る か らで あ り、 このぎ こちな さ を克 服 す るた め に 、提 出 者 は 、 立 法 の 沿 革 にっ い て 考 察 を す る。 そ して 、 立 法 の さい に は 民 訴 法384条 は旧 民 訴 法424条 と同 趣 旨 の規 定 と考 え られ て い たが 、 この場 合 に、 旧民 訴 法 で は 控 訴 審 に お け る訴 え の変 更 が許 され て い な か った の に 対 して 、 現 民 訴 法 で は これ が 許 され る よ うに な った とい う点 を注 意 す べ きで あ って 、 この 変 化 を も考 慮 に 入れ る と き に は、 民 訴 法384条2項 は、 控 訴 審 に お い て 訴 え の 変 更 が あ った さ い に も、 そ の結 論 が 第 一 審 と同 じ場 合 に は 「控 訴 棄 却 」 と表 示 す べ きで あ る とす る趣 旨を含 ん で いた どみ るべ き もの と の解 釈 論 を 展 開 す る。 そ して 、 第 四 章 で は、 上 告 審 に移 り、`まず 、 法律 審 と して の 上 告 審 に お け る審 理 の結 果 と して 原 判 決 を 破 棄 す る と きの 理 由 で あ る 「上 告 理 由 」 の 「法 令 違 背 」 につ いて 、 と くに、 控 訴 審 判 決 前 に 廃 止 さ れ た 法 令 の 違 反 が 民 訴 法394条 の 「法令 違 背 」 と して 上 告 理 由 と な るか の 問 題 を 考 察 す る。 こ こで は、 最 高 裁 昭 和29年6月29日 判 決(民 集8巻6号1306頁)の 事 案 を 考 察 の 手 が か り と しなが ら、 この点 に つ い て の わ が 国 の 判 例 一 と くに行 政 ・労 働 事 件 の 判 例 一 と学 説 を 詳 細 に検 討 す る とと もに 、 ドイ ツの学 説 ・判例 につ いて も考 察 を 行 な うこ と によ って 、 廃 止 法 令 の 違 反 も上 告 理 由 と して の法 令 違 背 とな る場 合 が あ りう る とす る説 の 根 拠 づ けを 行 な う。 と同 時 に、 上 の最 高 裁 判 決 の事 件 は 、廃 止 法 律 に基 づ いて は い るが 、 原 判 決 が 廃 止 法 律 に違 反 した場 合 で は な いか ら、 この最 高 裁判 決 を 廃 止 法 令 違 反 が 上 告 理 由 と な り う る場 合 の 具 体 例 と して 引 用 す る こと は正 し くな い と して 、 こ う した 引 用 を 行 な う学 説 を 批 判 す る。 これ につ づ い て 、 第 五 章 で は、 控 訴 審 判 決 後 に法 令 の変 更 が あ った 場 合 の 「上 告 審 の 適 用 法 令 」 の 問 題 す なわ ち、 法 律 審 と して の上 告 審 は、 不服 を 申 し立 て られ た 判 決 の 言 渡 し 時 に 効 力 を 有 して い た法 令(旧 法)に 基 づ い て の み審 判 す べ きか の 問 題 一 を 検 討 す る。 そ して 、 ドイ ツで は、 か って は、 判 例 は 旧法 に基 づ くべ し との 立 場 を と り、 学 説 も多 くこれ に 従 った が 、 連 邦 通 常 裁 判 所 の 部 長 で あ った マ イ ス(W.Meiss)が 、 彼 の 論 文 にお いて 、 上 告 審 で 審 査 され るべ き は控 訴 審 の 主 観 的 法 令 違 背 の存 否 で は な く、 控 訴 審 判 決 に客 観 的 法 令 違背 が 存 在 す るか 否 か で あ る と して 新 法 説 を唱 え た こ とが契 機 と な って 、 この 論 文 発 表 の 翌 年 の1953年2月26日 の 連 邦 通 常 裁 判 所 の 判 決 は新 法 説 を採 用 し、 学 説 も この新 法 説 へ 転 換 す る よ う にな った 経 緯 が 、 ドイ ッの 判 例 ・学 説 の詳 細 な分 析 ・検 討 の 下 に考 察 され 、 この 影 響 を 受 けて 、 わ が 国 の 学 説 で も新 法 説 が と られ る よ うに な って い るが 、 この 説 が 妥 当 で あ る 旨 が 述 べ られ る。 法22
さ い ご に 、第 六 章 で は、 上 告 審 の審 理 との 関係 で 、 と くに、 「上 告審 に お け る独 立 当事 者 参 加 」 の 問 題 に言 及 す る。 独 立 当事 者 参 加 はわ が 国 独 自 の制 度 で あ る が 、上 の 問 題 を め ぐ っ て は 積 極 説 と消極 説 が 対 立 し、 その 勢 力 も伯 仲 状 態 に あ る に もか か わ らず、 この 問題 を 正 面 か ら取 り上 げ た論 文 が な い と して 、 これ につ いて の 考 察 を こ ころ み る。 そ して、 本 論 文 に っ い て は、 民 訴 法71条 の 参加 と民 訴 法73条 ・71条の 参 加 を 同一 視 して よ い と した うえ で 、従 来 の学 説 ・判例 を 整 理 ・検討 し、 上 告 審 は法 律 審 で あ る か ら、 理 論 的 に は 消極 説 を と るべ き も の とす る。 と と もに 、 積極 説 に よ る と、 上 告 審 で 破 棄 差 戻 し(ま た は 移 送)と な る とき に 、 事 実 審 で あ る 差戻 し審 まで ま って 参 加 人 が 独 立 当 事 者 参 加 を しな くて もよ い と い う利 点 が あ げ られ て い るが、 上告 審 に お け る破 棄 差 戻 しの 件 数 は非 常 に僅 か で あ る し、破 棄 差 戻 し事 件 の審 理期 間、 本 人 訴 訟 の数 、 訴 訟 費 用 の 面 か らみ て も、 消 極 説 を とる こ との ほ うが参 加 人 の 立 場 を考 慮 す る結 果 とな る点 を 、 実 証 的 研 究 を 通 じて 論 証 しよ う とす る。 な お、 提 出者 は、 この論 文 に 、 「イ ギ リス の上 訴 制 度 」 に つ い て の 、 主 と してD.Karlen, AppellateCourtsoftheUnitedStatesandEngland(1963)に よ る紹 介 や 、提 出者 自 身 の イ ギ リス 留学 中 の ロ ン ドンの 王 立 裁 判 所 の傍 聴 印 象 記 な ど を 「附章 」 と して 収 め て い る が 、 これ は、 わが 国の 上 訴 制 度 の研 究 に 当 って も イギ リスの 上 訴 制 度 の研 究 が参 考 に な る と み る 提 出者 の考 え の現 われ で あ る。
論 文 審 査 結 果 の 要 旨
この よ うに して 、 本 論 文 は、 わ が 国 の 民 事 上 訴 制 度 の 中 心 を なす 判 決 に対 す る上 訴 と して の 控 訴 審 お よ び 上 告 審 の 「審 理 構 造 」 の 特 色 、 と く に、 そ の 「事 実 審 」 一一 そ して 「続 審 」 一 と 「法 律審 」 の差 を つ ね に 念 頭 にお きつ つ 、控 訴 審 に つ い て は 「審 級 の利 益 」 と 「控 訴 審 の裁 判 」 を、 ま た 、上 告 審 につ い て は 「上 告 理 由」 と 「上 告 審 の適 用 法 令 」 と 「上 告 審 に お け る独 立 当事 者 参 加 」 の 問 題 を 、提 出 者 が これ まで に発 表 して き た論 文 を基 礎 と して 、 で き るだ け体 系 的 に考 察 せ ん と した もの で あ る。 その 各 章 と も、 す で に学 説 や判 例 の存 在 す る 問 題 に つ い て、 そ れ らを 整 理 し、 また 、 手 が か り と しなが ら、 上 の観 点 か らの提 出者 の 見 解 の 理 論化 を は か った もの で あ るが 、 そ の 過 程 で 、 あ る と き は立 法 理 由 や立 法 の沿 革 を探 り、 あ る と きは実 証 的考 察 方 法 を こ こ ろみ て 、 提 出 者 は、 一 貫 して 、 形 式論 よ り も実 質 論 に よ っ て 具 体 的 妥 当 性 を 確保 しよ う と して い る。 わ が 国 の民 事 訴 訟 法 学 に お け る研 究 は 、第 一 審 手 続 を め ぐ る もの が 中 心 で 、 上 訴 審 手 続 につ いて の もの は ご く近 年 に い た る ま で き わ め て僅 か で あ った だ け に、 民 事 上 訴 制 度 の 重 要 な テ ー マ につ いて 、 この よ うに体 系 的 に考 察 せ ん と し た提 出者 の 努 力 は評 価 す る こ とが で き、 本 論 文 は、 わ が 国 の民 事 上 訴制 度 に対 す る研 究 と して 、学 界 に寄 与 す る もの と認 め られ る。