• 検索結果がありません。

自然科学総合実験のこれまでの取り組みと新しいオンライン理科実験の試み

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "自然科学総合実験のこれまでの取り組みと新しいオンライン理科実験の試み"

Copied!
9
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

自然科学総合実験のこれまでの取り組みと新しいオ

ンライン理科実験の試み

著者

中村 教博, 関根 勉, 田嶋 玄一

雑誌名

東北大学高度教養教育・学生支援機構紀要

7

ページ

357-364

発行年

2021-03

URL

http://hdl.handle.net/10097/00131244

(2)

─  357  ─ 東北大学 高度教養教育・学生支援機構 紀要第 7 号 2021

1 .はじめに

「自然科学総合実験」は,初年次の理科系学生1,650 名が受講する融合型の理科実験科目で,2020年で開講 17年目を迎えた.2020年は新型コロナウィルスの感染 拡大を受け,開講後初めて,対面での実験をとりやめ, インターネットを介した遠隔での理科実験をおこなう こととなった.ここでは,科目の設立経緯からこれま でにおこなってきた実験科目の運営・実施体制の改善 を,学生による授業評価アンケートの結果とともに振 り返り,コロナ禍において実施した遠隔での理科実験 を紹介することとする.

2 .設立経緯と実験科目のこれまでの改善

本実験科目は,従来までの物理・化学・生物・地学 に分かれて実施されていた実験科目を融合し,「同じ 現象を違った側面から実験し,複雑な自然現象を論理 的に整理し,記述することを学べる」ように設計され た(須藤, 2005, 2009).この科目の目標は,論理的思 考能力・新しいことに挑戦する意欲・科学的文章能力 を獲得することとして,初年次の理科系学生が身につ けるべき“自然科学学修の姿勢”を確立することを目 的としている.ここでは学生の授業評価アンケートに 基づき,これまでの改善の取り組みを振り返る. 東北大学の全学教育では,学生による授業評価が実 施されており,授業への学生の取り組みの自己評価, 授業内容・方法の評価,授業の全般的な評価を 5 段階 で評価するものである.図 1 は2004年度から2020年度 1 学期までの学生による授業評価アンケートの総合評 価の経年変化である.なお,2013年度から評価項目が 修正されている(東北大学 教育情報・評価改善委員会,  2013).

【報 告】

自然科学総合実験のこれまでの取り組みと

新しいオンライン理科実験の試み

中 村 教 博

1)*

, 関 根   勉

1)

, 田 嶋 玄 一

1) 1 )東北大学高度教養教育・学生支援機構 *)連絡先:〒980-8576 仙台市青葉区川内41 東北大学高度教養教育・学生支援機構 [email protected] 自然科学総合実験は2004年度の開講から10年目頃まで,学生からの授業評価は上昇し続けていた.その後,授業 評価が下降に転じ,より丁寧な指導を行うための改善を始めた.2015年から実験レポートの書き方演習・実験レポー ト評価におけるルーブリックを導入し,一言コメントと評価点を記したレポート評価チェックシートを返却してい た.そんな中,新型コロナウィルスの感染拡大により,インターネットを介した遠隔での理科実験を実施すること となった.遠隔授業のためGoogle Classroomを利用し,オンライン上で評価点とコメント付きのレポート本体を返 却したことで,学生と教員との双方向コミュニケーションがのべ3,000件(2020年度前期)にも達した.これらの施 策により,2019年度以降,学生からの授業評価が改善しはじめた.本報告では,自然科学総合実験に関するこれま での改善の歴史とオンラインでの理科実験配信について概説し,改善された点と残された課題について記す. 東北大学 高度教養教育・学生支援機構 紀要第 7 号 2021

【報告】

自然科学総合実験のこれまでの取り組みと

新しいオンライン理科実験の試み

執筆者名

(12pt)【空欄のまま】

所属機関名(10pt)【空欄のまま】 1. はじめに 「自然科学総合実験」は,初年次の理科系学生1650 名が受講する融合型の理科実験科目で,2020 年で開講 17 年目を迎えた.2020 年は新型コロナウィルスの感 染拡大を受け,開講後初めて,対面での実験をとりや め,インターネットを介した遠隔での理科実験をおこ なうこととなった.ここでは,科目の設立経緯からこ れまでにおこなってきた実験科目の運営・実施体制の 改善を,学生による授業評価アンケートの結果ととも に振り返り,コロナ禍において実施した遠隔での理科 実験を紹介することとする. 2. 設立経緯と実験科目のこれまでの改善 本実験科目は,従来までの物理・化学・生物・地学 現 じ 同 「 , し 合 融 を 目 科 験 実 た い て れ さ 施 実 て れ か 分 に 象を違った側面から実験し,複雑な自然現象を論理的 に整理し,記述することを学べる」ように設計された (須藤, 2005, 2009).この科目の目標は,論理的思考能 力・新しいことに挑戦する意欲・科学的文章能力を獲 得することとして,初年次の理科系学生が身につける べき“自然科学学修の姿勢”を確立することを目的と している. 東北大学の全学教育では,学生による授業評価が実 施されており,授業への学生の取り組みの自己評価, 授業内容・方法の評価,授業の全般的な評価を5 段階 で評価するものである.図1 は 2004 年度から 2020 年 度1 学期までの学生による授業評価アンケートの総合 自然科学総合実験は2004 年度の開講から 10 年目頃まで,学生からの授業評価は上昇し続けてい た.その後,授業評価が下降に転じ,より丁寧な指導を行うための改善を始めた.2015 年から実験レ ポートの書き方演習・実験レポート評価におけるルーブリックを導入し,一言コメントと評価点を記 したレポート評価チェックシートを返却していた.そんな中,新型コロナウィルスの感染拡大によ り,インターネットを介した遠隔での理科実験を実施することとなった.遠隔授業のためGoogle Classroom を利用し,オンライン上で評価点とコメント付きのレポート本体を返却したことで,学生 と教員との双方向コミュニケーションがのべ 3000 件にも達した.これらの施策により,2019 年度以 降,学生からの授業評価が改善しはじめた.本報告では,自然科学総合実験に関するこれまでの改善 の歴史とオンラインでの理科実験配信について概説し,改善された点と残された課題について記す. 図1. 2004 年度〜2020 年度1学期までの学生の 授業評価アンケートにおける総合評価の結果. 評価は5点満点で, 図中の 1 つのポイントあた りの調査人数は800 人程度である. 黒丸が 1 学 期,白丸が2 学期の結果である. 年度 図 1 .2004年度〜2020年度 1 学期までの学生の授業評 価アンケートにおける総合評価の結果. 評価は 5 点満点で, 図中の 1 つのポイントあたりの調査人数は 800人程度である. 黒丸が 1 学期,白丸が 2 学期の結果である. 

(3)

中村 教博,関根 勉,田嶋 玄一・自然科学総合実験のこれまでの取り組みと新しいオンライン理科実験の試み 開講して10年目ごろまでは,受講生の本科目に対す る興味・関心は高く,学生の授業評価アンケートにお ける授業の総合評価の指標は, 1 学期が低く, 2 学期 が高い傾向があるものの,両学期とも上昇していた(図 1 ).10年間の立ち上げ期間において,理科実験教育 室(現在の自然科学教育開発室)のメンバーが中心と なり,運営体制の確立・新しい実験プログラムの開発 と改善・学生実験棟の改修(関根, 2011)・ファカル ティーディベロップメット(FD)の導入・「出席・成 績情報システム」の開発(田嶋ほか, 2012)と学生支援・ 国内外の理科実験調査などありとあらゆる改善を実施 していたことが,高評価の原因である(関根, 2015). また,猪股ほか(2009)や関根(2015)では,2004年 〜2011年度の授業評価アンケートの結果から“理解し やすさや”と“総合評価”を表す指標が相関している ことを報告している.これは教員が受講生にわかりや すく伝えようと努力した結果,受講生が“理解しやす い”と考えたときに総合評価として“よい・非常に良 い”と回答していると考察されている.したがって, 授業を実施する教員と科目を運営する教員の熱意が伝 わったのであろう. 2013年度から2018年度にかけての総合評価は下落し ている.そこで2004年度から2020年度 1 学期までの授 業の理解しやすさと総合評価の指標とを比較した(図 2 ).図 2 は,関根 (2015)が指摘している通り,授 業の理解しやすさと総合評価を表す指標がそれぞれ相 関していることを示している.しかし,2014年度以降 はこれまでと異なる傾向が現れている(白丸).図中 の2本の黒矢印は2013年の 1 学期と 2 学期の結果で, 2012年までの傾向から外れている.また,図中の波線 矢印で示した白丸は2020年 1 学期(遠隔での理科実験 実施学期)の結果で,2014年度以降の傾向から外れ, 理解しやすさの指標が低いにもかかわらず,総合評価 の指標が高いという特徴がある.図 2 からは,2014年 以降は授業全体が理解し易くなっていて,総合評価の 指標がこれまで以上に理解しやすさに鋭敏に反応して いることがわかる.では一体,総合評価の下落は何に 起因しているのであろうか? 自然科学教育開発室では,全学教育の授業評価アン ケートに加えて,独自のアンケートを開講当初から実 施し続けている.このアンケートでは,学生による授 業評価アンケートよりも詳しく時間外学習時間を聞い ている.この独自アンケートによる時間外学習時間と 総合評価の指標を比較したものが図 3 である.図 3 は, 時間外学習時間が増加するほど総合評価が下落してい ることを示している.詳細をみると,2012年度までは 時間外学習時間は減少傾向が見られ,総合評価も上昇 著者名・タイトル 評価の経年変化である.なお,2013 年度から評価項目 が修正されている(東北大学 教育情報・評価改善委員 会, 2013). 開講して 10 年目ごろまでは,受講生の本科目に対 する興味・関心は高く,学生の授業評価アンケートに おける授業の総合評価の指標は,1 学期が低く,2 学期 が高い傾向があるものの,両学期とも上昇していた(図 1).10 年間の立ち上げ期間において,理科実験教育室 (現在の自然科学教育開発室)のメンバーが中心とな り,運営体制の確立・新しい実験プログラムの開発と 改善・学生実験棟の改修(関根, 2011)・ファカルティ ーディベロップメット(FD)の導入・「出席・成績情報 システム」の開発(田嶋ほか, 2012)と学生支援・国内 外の理科実験調査などありとあらゆる改善を実施して いたことが,高評価の原因である(関根, 2015).また, 猪股ほか(2009)や関根(2015)では,2004 年〜2011 年度 の授業評価アンケートの結果から“理解しやすさや” と“総合評価”を表す指標が相関していることを報告 している.これは教員が受講生にわかりやすく伝えよ うと努力した結果,受講生が“理解しやすい”と考え たときに総合評価として“よい・非常に良い”と回答 していると考察されている.したがって,授業を実施 する教員と科目を運営する教員の熱意が伝わったので あろう. 2013 年度から 2018 年度にかけての総合評価は下落 している.そこで2004 年度から 2020 年度 1 学期まで の授業の理解しやすさと総合評価の指標とを比較した (図2).図 2 は,関根 (2015)が指摘している通り, 授業の理解しやすさと総合評価を表す指標がそれぞれ 相関していることを示している.しかし,2014 年度以 降はこれまでと異なる傾向が現れている(白丸).図中 の2 本の黒矢印は 2013 年の 1 学期と 2 学期の結果で, 2012 年までの傾向から外れている.また,図中の波線 矢印で示した白丸は2020 年 1 学期(遠隔での理科実 験実施学期)の結果で,2014 年度以降の傾向から外れ, 理解しやすさの指標が低いにもかかわらず,総合評価 の指標が高いという特徴がある.図2 からは,2014 年 以降は授業全体が理解し易くなっていて,総合評価の 指標がこれまで以上に理解しやすさに鋭敏に反応して いることがわかる.では一体,総合評価の下落は何に 起因しているのであろうか? 自然科学教育開発室では,全学教育の授業評価アン ケートに加えて,独自のアンケートを開講当初から実 施し続けている.このアンケートでは,学生による授 業評価アンケートよりも詳しく時間外学習時間を聞い ている.この独自アンケートによる時間外学習時間と 総合評価の指標を比較したものが図3である.図3は, 図2. 2004 年度〜2020 年度1学期における学期 ごとの学生アンケート結果. 評価は 5 点満点で, 図中の1 つのポイントあたりの調査人数は 800 人 程度である. 黒丸は2013 年までの結果, 白丸は 2014 年以降の結果である. 黒矢印は2013 年の結 果で相関からやや外れている. 波線矢印は 2020 年 度1 学期の結果である. 図3. 2013 年度〜2018 年度における学生アンケー トの総合評価と自然科学教育開発室独自アンケー トのレポート作成時間の指標の関係. 横軸のレポ ート作成時間は1 点を 1 時間以内,5 点が 7 時間 以上となっている.図中の1 つのポイントあたり の調査人数は800 人程度である. 図 2 . 2004年度〜2020年度 1 学期における学期ごとの 学生アンケート結果. 評価は 5 点満点で, 図中の 1 つのポイントあたりの調査人数は 800人程度である. 黒丸は2013年までの結果, 白丸は2014年以降 の結果である. 黒矢印は2013年の結果で相関からやや外れてい る. 波線矢印は2020年度 1 学期の結果である.  評価の経年変化である.なお,2013 年度から評価項目 が修正されている(東北大学 教育情報・評価改善委員 会, 2013). 開講して 10 年目ごろまでは,受講生の本科目に対 する興味・関心は高く,学生の授業評価アンケートに おける授業の総合評価の指標は,1 学期が低く,2 学期 が高い傾向があるものの,両学期とも上昇していた(図 1).10 年間の立ち上げ期間において,理科実験教育室 (現在の自然科学教育開発室)のメンバーが中心とな り,運営体制の確立・新しい実験プログラムの開発と 改善・学生実験棟の改修(関根, 2011)・ファカルティ ーディベロップメット(FD)の導入・「出席・成績情報 システム」の開発(田嶋ほか, 2012)と学生支援・国内 外の理科実験調査などありとあらゆる改善を実施して いたことが,高評価の原因である(関根, 2015).また, 猪股ほか(2009)や関根(2015)では,2004 年〜2011 年度 の授業評価アンケートの結果から“理解しやすさや” と“総合評価”を表す指標が相関していることを報告 している.これは教員が受講生にわかりやすく伝えよ うと努力した結果,受講生が“理解しやすい”と考え たときに総合評価として“よい・非常に良い”と回答 していると考察されている.したがって,授業を実施 する教員と科目を運営する教員の熱意が伝わったので あろう. 2013 年度から 2018 年度にかけての総合評価は下落 している.そこで2004 年度から 2020 年度 1 学期まで の授業の理解しやすさと総合評価の指標とを比較した (図2).図 2 は,関根 (2015)が指摘している通り, 授業の理解しやすさと総合評価を表す指標がそれぞれ 相関していることを示している.しかし,2014 年度以 降はこれまでと異なる傾向が現れている(白丸).図中 の2 本の黒矢印は 2013 年の 1 学期と 2 学期の結果で, 2012 年までの傾向から外れている.また,図中の波線 矢印で示した白丸は2020 年 1 学期(遠隔での理科実 験実施学期)の結果で,2014 年度以降の傾向から外れ, 理解しやすさの指標が低いにもかかわらず,総合評価 の指標が高いという特徴がある.図2 からは,2014 年 以降は授業全体が理解し易くなっていて,総合評価の 指標がこれまで以上に理解しやすさに鋭敏に反応して いることがわかる.では一体,総合評価の下落は何に 起因しているのであろうか? 自然科学教育開発室では,全学教育の授業評価アン ケートに加えて,独自のアンケートを開講当初から実 施し続けている.このアンケートでは,学生による授 業評価アンケートよりも詳しく時間外学習時間を聞い ている.この独自アンケートによる時間外学習時間と 総合評価の指標を比較したものが図3である.図3は, 図2. 2004 年度〜2020 年度1学期における学期 ごとの学生アンケート結果. 評価は 5 点満点で, 図中の1 つのポイントあたりの調査人数は 800 人 程度である. 黒丸は2013 年までの結果, 白丸は 2014 年以降の結果である. 黒矢印は2013 年の結 果で相関からやや外れている. 波線矢印は 2020 年 度1 学期の結果である. 図3. 2013 年度〜2018 年度における学生アンケー トの総合評価と自然科学教育開発室独自アンケー トのレポート作成時間の指標の関係. 横軸のレポ ート作成時間は1 点を 1 時間以内,5 点が 7 時間 以上となっている.図中の1 つのポイントあたり の調査人数は800 人程度である. 図 3 . 2013年度〜2018年度における学生アンケートの総 合評価と自然科学教育開発室独自アンケートのレポー ト作成時間の指標の関係. 横軸のレポート作成時間は 1 点を 1 時間以内, 5 点が 7 時間以 上となっている.図中の 1 つのポイントあたりの調査人数は 800人程度である.

(4)

─  359  ─ 東北大学 高度教養教育・学生支援機構 紀要第 7 号 2021 していたが,2012年度以降から時間外学習時間の指標 が上昇しはじめるとともに,総合評価が下落している. 長時間かけて作成したレポートに,教員からの改善点 の指摘がなく,評価も知らされないために,どのよう に改善すればよいかわからず,モチベーションを保て なくなり,総合評価が下がることになっているのであ ろう.学生側からの要望としては,より丁寧にレポー トを評価し,その評価点を知らせてほしいことを示し ているのだろう.一方,教員側の視点に目を移すと, 2015年度12月に学務審議会において,全学の理系学部 の教務委員長宛に「全学教育科目“自然科学総合実験” のアンケート調査」を依頼し,各学部からの要望を収 集した.その結果,各学部からのさまざまな要望のう ち,要望の多かった「レポートの執筆力を付けて欲し い」との意見が出ていた.これら両者の要望に注目し て,改善を試みることとした.そこで,2016年度より, 丁寧なレポート指導とそれによるレポート執筆にかか る時間外学習時間の削減,さらにレポート評価を学生 にフィードバックするために以下の改善を始めた. 1) レポート作成演習 開講から2013年度までは,レポート作成に関する一 般的な解説はせず,実験テキストに記載のレポートに 関する概略と各実験後に説明されるレポートの書き方 を参考に,受講生はレポートを執筆していた.しかし, 受講生の変化に伴って,レポートの構造やパラグラフ ライティングといった一般的なレポート作成に関する 解説が必要と考え,2013年の後期から学期開始時のガ イダンス後にレポート作成演習が始められた.さらに 2014年度からはSLA(Student Learning Advisor)シ ステム(現  学習支援センター)と連携して,受講生 が抱えている課題を教員にフィードバックすることも 始めた.一方,個々のレポートにおけるフィードバッ クについては,2016年度まではレポート内容に不備が ある場合,受講者にはより良いレポートになるように 口頭で修正点を伝えてレポートを返却し,再提出させ ていた.しかし,レポートに不備がない場合,受講者 には何らフィードバックがないという問題があった. 2017年度からは,第 1 回目のガイダンスのあとに, 1 回あたり300名の受講生を対象として,レポート作 成演習Ⅰを開始した.そのなかで,レポートの基本的 構造(目的・原理・実験方法・結果・考察・結論・引 用文献)とそれぞれの項目で書くべき内容を説明し, 実験内容のまとめ方を講義した.また同年から東北大 学にクォーター制が導入されたことから,奇数クォー ターと偶数クォーターの区切りの時期にレポート作成 演習IIを実施し,数回のレポート執筆した経験ののち に生じた課題や問題点を受講生からアンケートで抽出 し,さらに評価者である教員からもレポートにおける 気になる点について意見を収集した.これらのアン ケートで明らかになった受講生が持つ問題点や課題を 解決できるような内容に関する資料を作成し,受講者 と教員双方の意見を紹介することを主眼において実施 した. 2) ルーブリックの導入 レポートを作成する受講生とそのレポートの評価に 携わる多数の教員にとって, レポートを作成し,評価 するための共通の達成度指標(ルーブリック)があら かじめ提示されていると,教員も受講生も達成するべ き目標が定まり,共通の認識を保つことができる.ま た,詳細は中村ほか(2019)を参照いただきたいが, 2017年度からレポートの各項目に達成度を設定してい る.この指標は,自分で思考し,自分の言葉で記述す る点に重きを置いている.受講生は主体的にレポート 執筆に向き合うことになり,また担当教員はこのルー ブリックに基づくレポートの評価と改善点等に関する コメントを記したレポート達成度チェックシートを, レポートごとに作成した.このチェックシートを受講 生一人一人に電子的に返却することで,レポートの良 い点や改善点をフィードバックすることとした.この 返却には東北大学のオンライン学習支援システム (ISTU)を活用し,年間 2 万通ものチェックシートを スキャナで読み取り,PDFファイルとして返却でき るシステムを構築した. 3) レポート評価点の開示 レポートの良い点や改善点を記したレポート達成度 チェックシートを返却するものの,受講者が執筆した レポートの評価点がわからないことと,レポート本体 が返却されない点は問題であった.手元にレポートが 返却されなければ,具体的にどの部分を改善して良い か把握しづらく,また項目ごとの評価がチェックシー

(5)

トで判明してもレポートの評価点がわからなければ不 安であろう.そこで,これらを解消するべく検討した が,レポートは手書きで執筆して提出していたため, 採点後のレポートを返却することは現実的でなかっ た.一方,レポートの評価点を開示することは,チェッ クシートの返却システムを活用することで解決するた め,2018年度から実施した.また,2019年度からはレ ポート執筆にワープロの使用を解禁し,さらにチェッ クシートのコメントだけでは伝わりにくい改善点を口 頭で説明する機会を設けることもおこなった.これら の取組はすぐに結果として現れた(図 4 ).図 4 は 2013年度から新しく付け加えられた知識・技能は獲得 できたかと評価方法は適切かに関する結果を示してい る.特に,2018年度以降の評価方法に関する指標値は, 学期に関わらず上昇し,約 9 割の受講生が適切である と回答している.2018年度以降の評価方法の上昇は, 同年からの総合評価の上昇とも関連しているようにみ える. 一方,レポート執筆にかかる時間外学習時間は2018 年度以降も減少することなく伸び続けているものの, 総合評価が高い傾向になっている.これは,丁寧なレ ポート指導,わかりやすい授業と明確な評価を実施す ることで,レポート執筆は大変ではあるものの,総合 的には良いという判断を受講生がしていることが想像 できる.

3 .オンライン理科実験の設計

2019年度までは対面実験により,12の実験テーマを 実施していたが,2020年度前期は新型コロナウィルス 感染拡大防止のために,オンラインでの理科実験を改 めて設計することとなった.実験科目委員会下の実験 計画委員会と実験実施委員会が合同で検討した結果, これまでの実験テーマから 3 つ削減して, 9 つの実験 に限定して実施することとなった.この決定を受け, 各実験テーマのテーマ責任者からなる実験計画委員会 が主体となり,オンライン教材が 1 ヶ月で作成された. 一方,自然科学教育開発室の構成員からなる実験実施 委員会は,教材作成作業と並行に, 9 つの実験テーマ で約800名の受講者を受け入れるためのスケジュール の策定,教員・TAの役割の策定,さらにはオンライ ン教材を運用するGoogle社のGoogle Classroom(以 下,Classroomとする)の操作マニュアル作りをおこ なった.東北大学の電子メールシステムがGoogle  Suite for Educationで運用されているため,レポート の提出・採点・返却に際し,Google経由で個人認証 ができ, 受講者も教員も「いつでも・どこでも」レポー トを提出し採点できる利点がある.また,他大学(北 海道大学・慶應義塾大学・京都大学・大阪大学・九州 大学)の対応状況も調べた結果,本学と同様に調査し た全ての大学で実験に関する動画を配信し,動画を視 聴することでレポート作成することで科目を運営する ことが判明していたものの,本学では受講者がより主 体的に実験に参加できる工夫を取り入れることとした. 本来であれば,学生実験棟内の実験装置を自分で取 り扱い,実験データを取得してレポートを執筆すると いう体験知を涵養することが大切であるが,今般のコ ロナ禍で学生実験棟に集団で集まり,実験することは できない.そこで,受講生は実験の様子を撮影した動 画をClassroom経由で視聴することで,実験を擬似体 験し,実験テキストとオンライン教材(実験動画とパ ワーポイント教材)も参考にして,与えられたデータ 著者名・タイトル レポートの評価点がわからないことと,レポート本体 が返却されない点は問題であった.手元にレポートが 返却されなければ,具体的にどの部分を改善して良い か把握しづらく,また項目ごとの評価がチェックシー トで判明してもレポートの評価点がわからなければ不 安であろう.そこで,これらを解消するべく検討した が,レポートは手書きで執筆して提出していたため, 採点後のレポートを返却することは現実的でなかった. 一方,レポートの評価点を開示することは,チェック シートの返却システムを活用することで解決するため, 2018 年度から実施した.また,2019 年度からはレポー ト執筆にワープロの使用を解禁し,さらにチェックシ ートのコメントだけでは伝わりにくい改善点を口頭で 説明する機会を設けることもおこなった.これらの取 組はすぐに結果として現れた(図4).図 4 は 2013 年 度から新しく付け加えられた知識・技能は獲得できた かと評価方法は適切かに関する結果を示している.特 に,2018 年度以降の評価方法に関する指標値は,学期 に関わらず上昇し,約9 割の受講生が適切であると回 答している.2018 年度以降の評価方法の上昇は,同年 からの総合評価の上昇とも関連しているようにみえる. 一方,レポート執筆にかかる時間外学習時間は2018 年度以降も減少することなく伸び続けているものの, 総合評価が高い傾向になっている.これは,丁寧なレ ポート指導,わかりやすい授業と明確な評価を実施す ることで,レポート執筆は大変ではあるものの,総合 的には良いという判断を受講生がしていることが想像 できる. 3. オンライン理科実験の設計 2019 年度までは対面実験により,12 の実験テーマ を実施していたが,2020 年度前期は新型コロナウィル ス感染拡大防止のために,オンラインでの理科実験を 改めて設計することとなった.実験科目委員会下の実 験計画委員会と実験実施委員会が合同で検討した結果, これまでの実験テーマから3 つ削減して,9 つの実験 に限定して実施することとなった.この決定を受け, 各実験テーマのテーマ責任者からなる実験計画委員会 が主体となり,オンライン教材が1 ヶ月で作成された. 一方,自然科学教育開発室の構成員からなる実験実施 委員会は,教材作成作業と並行に,9 つの実験テーマ で約800 名の受講者を受け入れるためのスケジュール の策定,教員・TA の役割の策定,さらにはオンライン 教材を運用するGoogle 社の Google Classroom(以下, Classroom とする)の操作マニュアル作りをおこなっ た.東北大学の電子メールシステムがGoogle Suite for Education で運用されているため,レポートの提出・採 点・返却に際し,Google 経由で個人認証ができ, 受講 者も教員も「いつでも・どこでも」レポートを提出し 採点できる利点がある.また,他大学(北海道大学・ 慶應義塾大学・京都大学・大阪大学・九州大学)の対 応状況も調べた結果,本学と同様に調査した全ての大 学で実験に関する動画を配信し,動画を視聴すること でレポート作成することで科目を運営することが判明 していたものの,本学では受講者がより主体的に実験 に参加できる工夫を取り入れることとした. 本来であれば,学生実験棟内の実験装置を自分で取 り扱い,実験データを取得してレポートを執筆すると いう体験知を涵養することが大切であるが,今般のコ ロナ禍で学生実験棟に集団で集まり,実験することは 図4. 2013 年度から学生による授業評価アンケー トに新たに加わった“知識技能は獲得したか”と “評価方法は適切か”に関する結果. 評価は5点 満点で, 図中の1つのポイントあたりの調査人数 は800 人程度である.知識・技能は約8割の受講者 が獲得したと回答している.評価方法は,2018 年 度を境に学期の違いなく,指標は増加し,約9割の 図 4 . 2013年度から学生による授業評価アンケートに新 たに加わった“知識技能は獲得したか”と“評価方法 は適切か”に関する結果. 評価は 5 点満点で, 図中の 1 つのポイントあたりの調査人数は 800人程度である.知識・技能は約 8 割の受講者が獲得したと回 答している.評価方法は,2018年度を境に学期の違いなく,指 標は増加し,約 9 割の受講者が評価方法は適切であると回答し ている.

(6)

─  361  ─ 東北大学 高度教養教育・学生支援機構 紀要第 7 号 2021 を自分自身で解析し,レポートを執筆するという実験 形態となった(表1).一方,2つの実験テーマでは, 従来学生実験棟で行っていた実験をもとにして,身の 回りのものを使って受講生自身が創意工夫して実験装 置を作り,実験データを取得するという新しい形態の 実験を開発した(自作振り子で重力加速度を測定する 実験とペンのインクを用いたペーパークロマトグラ フィーの実験). 2017年度から自然科学総合実験に導入しているルー ブリックをClassroomでも活用し,受講生と教員とで 評価指標を共有し,レポート作成と評価に役立てた. 授業開始直後の時期に 2 回,Google Meetを介して, レポート作成演習を同時双方向(リアルタイム)で実 施し,レポートの構造やパラグラフ・ライティング等 のレポートの書き方とルーブリックについて解説し, 受講生の理解を深めた.これらルーブリックや演習で の知識に基づいて,受講生はレポートを作成すること になる.授業開始後 4 週間は,実験視聴とレポート作 成演習が交互に実施されたため, 2 週間に 1 度レポー トを提出することになった. 5 週目以降は毎週レポー トを提出することとなった(表 2 ).レポートの提出 にあたって, Classroom上にレポート執筆用のテンプ レートを準備しておき,受講生はこのテンプレートを ダウンロードしてレポートを作成し,PDF形式とし てClassroomにアップロードする.Classroomに登録 された教員は,Google経由の個人認証を介して,い つでもどこでもアップロードされたレポートにアクセ スし,ルーブリックに基づいて採点を実施した.採点 後,教員は「限定公開コメント」欄に,レポート執筆 に関する注意点やこれからの課題点についてのコメン トとレポートの評価点を記入して,レポートを返却す ることで,すべての受講生に丁寧なフィードバックが 可能になった.このことで,これまで問題解決が現実 的でなかったコメントと評価点付きレポートの返却や 学生と教員との相互コミュニケーションといった課題 が一挙に解決することとなった.これらの課題解決に より,評価方法に関する指標が上昇している(図 4 ). したがって, これら施策は受講生に受け入れられたも のと考えられる.

4 .オンライン理科実験の実践

対面実験と異なり,オンデマンド型の理科実験では, 「いつでもどこでも」科目履修が可能である反面,教 員やTAが学生と直接質問等で交流することができな い.また,受講生も生活のリズムを保てない可能性が あったため,実験の受講スケジュールを定めるととも に,授業時間における視聴を勧め,受講ペースを作る ことができるように工夫した.動画教材では可能な限 り20分以内にとどめることとし,必要に応じて複数作 東北大学 高度教養教育・学生支援機構 紀要第 7 号 2021 画をClassroom 経由で視聴することで,実験を擬似体 験し,実験テキストとオンライン教材(実験動画とパ ワーポイント教材)も参考にして,与えられたデータ を自分自身で解析し,レポートを執筆するという実験 形態となった(表 1).一方,2つの実験テーマでは, 従来学生実験棟で行っていた実験をもとにして,身の 回りのものを使って受講生自身が創意工夫して実験装 置を作り,実験データを取得するという新しい形態の 実験を開発した(自作振り子で重力加速度を測定する 実験とペンのインクを用いたペーパークロマトグラフ ィーの実験). 課題 番号 実験テーマ 実施方法 1 環境放射線を測る オンライン 3 自作した振り子で重力加速 度を求める 自宅実験 4 物質の電気伝導 オンライン 6 ペーパークロマトグラフィ ーによる色素の分離 自宅実験 8 燃料電池 オンライン 9 弦の振動と音楽 オンライン 10 細胞 オンライン 11 DNA による生物の識別 オンライン 12 生体高分子の形と働き オンライン 2017 年度から自然科学総合実験に導入しているル ーブリックをClassroom でも活用し,受講生と教員と で評価指標を共有し,レポート作成と評価に役立てた. 授業開始直後の時期に2 回,Google Meet を介して,レ ポート作成演習を同時双方向(リアルタイム)で実施 し,レポートの構造やパラグラフ・ライティング等の レポートの書き方とルーブリックについて解説し,受 講生の理解を深めた.これらルーブリックや演習での 知識に基づいて,受講生はレポートを作成することに なる.授業開始後4 週間は,実験視聴とレポート作成 演習が交互に実施されたため,2 週間に 1 度レポート を提出することになった.5 週目以降は毎週レポート を提出することとなった(表2).レポートの提出にあ たって, Classroom 上にレポート執筆用のテンプレー トを準備しておき,受講生はこのテンプレートをダウ ンロードしてレポートを作成し,PDF 形式として Classroom にアップロードする.Classroom に登録され た教員は,Google 経由の個人認証を介して,いつでも どこでもアップロードされたレポートにアクセスし, ルーブリックに基づいて採点を実施した.採点後,教 員は「限定公開コメント」欄に,レポート執筆に関す る注意点やこれからの課題点についてのコメントとレ ポートの評価点を記入して,レポートを返却すること で,すべての受講生に丁寧なフィードバックが可能に なった.このことで,これまで問題解決が現実的でな かったコメントと評価点付きレポートの返却や学生と 教員との相互コミュニケーションといった課題が一挙 に解決することとなった.これらの課題解決により,評 価方法に関する指標が上昇している(図4).したがっ て, これら施策は受講生に受け入れられたものと考え られる. 表2:スケジュール 回数 実験内容 1 ガイダンス (リアルタイム配信) 2 実験動画視聴1 (2 つの班は自宅実験) 3 レポート作成演習 I 4 実験動画視聴2 (2 つの班は自宅実験) 5 レポート作成演習 II 6 実験動画視聴3(2 つの班は自宅実験) 7 実験動画視聴4(2 つの班は自宅実験) 8 実験動画視聴5(2 つの班は自宅実験) 9 実験動画視聴6(2 つの班は自宅実験) 10 実験動画視聴7(2 つの班は自宅実験) 11 実験動画視聴8(2 つの班は自宅実験) 12 実験動画視聴9(2 つの班は自宅実験) 13-14 レポート作成期間 4. オンライン理科実験の実践 対面実験と異なり,オンデマンド型の理科実験では, 「いつでもどこでも」科目履修が可能である反面,教 員やTA が学生と直接質問等で交流することができな い.また,受講生も生活のリズムを保てない可能性が あったため,実験の受講スケジュールを定めるととも に,授業時間における視聴を勧め,受講ペースを作る ことができるように工夫した.動画教材では可能な限 表1:開講実験テーマと実験実施方法表 1 :開講実験テーマと実験実施方法 東北大学 高度教養教育・学生支援機構 紀要第 7 号 2021 画をClassroom 経由で視聴することで,実験を擬似体 験し,実験テキストとオンライン教材(実験動画とパ ワーポイント教材)も参考にして,与えられたデータ を自分自身で解析し,レポートを執筆するという実験 形態となった(表 1).一方,2つの実験テーマでは, 従来学生実験棟で行っていた実験をもとにして,身の 回りのものを使って受講生自身が創意工夫して実験装 置を作り,実験データを取得するという新しい形態の 実験を開発した(自作振り子で重力加速度を測定する 実験とペンのインクを用いたペーパークロマトグラフ ィーの実験). 課題 番号 実験テーマ 実施方法 1 環境放射線を測る オンライン 3 自作した振り子で重力加速 度を求める 自宅実験 4 物質の電気伝導 オンライン 6 ペーパークロマトグラフィ ーによる色素の分離 自宅実験 8 燃料電池 オンライン 9 弦の振動と音楽 オンライン 10 細胞 オンライン 11 DNA による生物の識別 オンライン 12 生体高分子の形と働き オンライン 2017 年度から自然科学総合実験に導入しているル ーブリックをClassroom でも活用し,受講生と教員と で評価指標を共有し,レポート作成と評価に役立てた. 授業開始直後の時期に2 回,Google Meet を介して,レ ポート作成演習を同時双方向(リアルタイム)で実施 し,レポートの構造やパラグラフ・ライティング等の レポートの書き方とルーブリックについて解説し,受 講生の理解を深めた.これらルーブリックや演習での 知識に基づいて,受講生はレポートを作成することに なる.授業開始後4 週間は,実験視聴とレポート作成 演習が交互に実施されたため,2 週間に 1 度レポート を提出することになった.5 週目以降は毎週レポート を提出することとなった(表2).レポートの提出にあ たって, Classroom 上にレポート執筆用のテンプレー トを準備しておき,受講生はこのテンプレートをダウ ンロードしてレポートを作成し,PDF 形式として Classroom にアップロードする.Classroom に登録され た教員は,Google 経由の個人認証を介して,いつでも どこでもアップロードされたレポートにアクセスし, ルーブリックに基づいて採点を実施した.採点後,教 員は「限定公開コメント」欄に,レポート執筆に関す る注意点やこれからの課題点についてのコメントとレ ポートの評価点を記入して,レポートを返却すること で,すべての受講生に丁寧なフィードバックが可能に なった.このことで,これまで問題解決が現実的でな かったコメントと評価点付きレポートの返却や学生と 教員との相互コミュニケーションといった課題が一挙 に解決することとなった.これらの課題解決により,評 価方法に関する指標が上昇している(図4).したがっ て, これら施策は受講生に受け入れられたものと考え られる. 表2:スケジュール 回数 実験内容 1 ガイダンス (リアルタイム配信) 2 実験動画視聴1 (2 つの班は自宅実験) 3 レポート作成演習 I 4 実験動画視聴2 (2 つの班は自宅実験) 5 レポート作成演習 II 6 実験動画視聴3(2 つの班は自宅実験) 7 実験動画視聴4(2 つの班は自宅実験) 8 実験動画視聴5(2 つの班は自宅実験) 9 実験動画視聴6(2 つの班は自宅実験) 10 実験動画視聴7(2 つの班は自宅実験) 11 実験動画視聴8(2 つの班は自宅実験) 12 実験動画視聴9(2 つの班は自宅実験) 13-14 レポート作成期間 4. オンライン理科実験の実践 対面実験と異なり,オンデマンド型の理科実験では, 「いつでもどこでも」科目履修が可能である反面,教 員やTA が学生と直接質問等で交流することができな い.また,受講生も生活のリズムを保てない可能性が あったため,実験の受講スケジュールを定めるととも に,授業時間における視聴を勧め,受講ペースを作る ことができるように工夫した.動画教材では可能な限 表1:開講実験テーマと実験実施方法 表 2 :スケジュール

(7)

成するよう工夫したほか,パワーポイント資料ではメ モ欄に説明文とナレーションを加えた.一部は電子書 籍化にも取り組んだ.これらの資料を視聴し,与えら れた実験結果を,自分なりに解析してレポートにまと めることとした. オンライン教材だけでなく,身の回りにあるものを 使って,受講生自身の創意工夫のもと自力で実験装置 を作り,丁寧にデータを取得する実験テーマを新しく 開発し,受講生が実験を真剣に楽しめる工夫をおこ なった. 1 つはこれまでケーター振り子により重力加 速度を測定し,地球内部の密度構造を推定する実験に おいて,ケーターの振り子のかわりに,身の回りにあ る物品を使って振り子を自作して,重力加速度を求め る実験を開発した.実験では,振り子の「長さ」「重さ」 「振れ角」をそれぞれ変化させ,どの精度よく測定す るための要因を決めることだけは指示し,それ以外に ついては受講生の創意工夫に任せることとした.振り 子の重りとして,硬貨・じゃがいも・ガチャガチャの 空きケースなど多種多様なものが利用され,また,振 り子が横揺れしないような工夫をしてみたり,お風呂 場で実験してみたりと,自宅待機のなか,創造力豊か に実験を行っていた様子が,レポートから伺えた.こ のテーマで大切にしたことは,失敗してもその失敗し た原因をレポートで追求するように促したことであ る.ただし,多種多様な創意工夫がおこなわれたため, 教員のレポート評価に長時間費やさなければならない という問題点も浮き彫りとなった. もうひとつの自宅実験は,自宅にあるボールペンや サインペンのインクをコヒーフィルターやペーパータ オルと水を使って分離するペーパークロマトグラ フィー実験である.自宅にあるものを最大限生かして, 実験材料を用意し,ペーパークロマトグラフィーを行 うための手順書を作成した.受講生は手順書に従いつ つも,自分が用意した実験材料を使ってインクの色素 を分離することに注力した.色素を分離するだけでな く,Rf値と呼ばれる溶媒の移動距離と対象色素の移 動距離の相対値を算出するために,不明瞭ながらも色 素の境界を自分で基準を設けて決めるという経験をし た.その結果,物質の極性や構造によってRf値が変 化することを学び,試行錯誤した結果をレポートにま とめていた.これら2つの実験については,学生アン ケートの自由記述欄に「こんな実験がしたかったから, 楽しかった」といった意見が寄せられた. アップロードされたレポートの「限定公開コメント」 欄に,レポート執筆に関する注意点やこれからの課題 点に関するコメントを記入するように教員に依頼し た.その結果,「限定公開コメント」には,実験レポー トへの図の添付方法,実験内容,自身のレポートの課 題点に関する質問など,多岐に渡る質問が寄せられ, これらの質問に対して,担当教員(理学部・薬学部・ 農学部・工学部・生命科学研究科の教員)には非常に 丁寧に対応していただけた.質問のやりとりはのべ 3,000件にも上り,受講者の約60%が利用していた. 教員が丁寧にコメントしたことで,学生が積極的に質 問をし,相互のコミュニケーションが生まれたと推察 される.重複する質問や受講者全員で共有できる質問 等を分類し,良くある質問(FAQ)としてClassroom 上の“お知らせ”で公開することもおこなった.これ により,平易な質問の数は減少することとなった.

5 .オンライン理科実験の課題

これまでの対面による実験では,担当教員やTAが そばにいて,わからないことについて説明し,実験の 大切さを話すことで,実験の意義ややり方を理解し, さらには自分自身でも実験操作で確認しながら体験知 を獲得していたが,これらのコミュニケーションがす べてない状態で,丁寧な教材を作り込んだとしても, オンライン教材を自宅にて 1 人で視聴して, 1 週間に 1 つの実験テーマについてレポートを書くことは大変 であったことが想像される.実験開始当初( 5 月中) はレポートの提出率が高かったが, 6 月に入り,急激 にレポートを提出できなくなる学生が増えた.また, 学生による授業評価アンケートの自由記述欄にも「た いへんだった」との声が寄せられ,医学部独自のアン ケートからも同様な指摘があった.ただし,図 2 の総 合評価と理解しやすさの関係からわかることは,今般 のオンライン教材による理科実験は,ひとりで理解し, 長時間かけてレポートを執筆しなければいけなかった ものの,2014年度からの傾向に沿わず,比較的総合点 が高い値を示していた.これは,ルーブリックにより

(8)

─  363  ─ 東北大学 高度教養教育・学生支援機構 紀要第 7 号 2021 評価方法を明示し,担当教員が丁寧なレポート指導を おこなった結果であると推察できる.しかし,これら のオンラインと対面とを併用した理科実験科目におい ては,実験テーマを減らし,実験動画の視聴からレポー ト作成までの時間に余裕を持たせたスケジュールにす ることは必須である.  修学指導・レポート指導がオンラインであるため, メール以外の連絡手段がとれなかった.Classroomで は,未提出レポートの特定が難しく,支援が必要な学 生を見出すまでに時間がかかる.できるだけ早い時期 に,レポート執筆等で問題を抱えている学生を特定し, 個別の修学指導が必要であった.そこで,レポート提 出状況を把握するために,独自のExcelマクロファイ ルを作成し,毎週Classroomの“すべての成績”から レポートの提出状況を管理した.しかし,取り組みの 時期が 6 月下旬と遅く,もっと早い段階で始めるべき だったという課題がある. 受講生は自宅にて一人で実験に取り組まなければな らなかったため,受講生同士が・対話・交流できる環 境作りが必要であったと考えている.自然科学総合実 験では主体的な深い学びには対応していたものの,こ の“受講者同士の対話”はこれまでの取り入れていな かった.2020年度の小学校から順番に「主体的で対話 的で深い学び」に基づいた教育(中央教育審議会答申,  2016)をうける子供達が,本学に入学した際,この実 験科目を通して“対話”も含めた主体的な深い学びの 質を高めることができるように,一部の実験テーマに 取り入れていくことを検討している. 受講生は,通常の実験を経験できなかったものの, 自宅実験やオンライン教材を介して取得したデータを 解析することを通じて,多くの学生は本科目の目的の 一つである新しい実験テーマに挑戦する機会を経験す ることができた.また,Classroomを通じて,教員が レポート執筆に関する注意点や今後の課題点などをコ メントし,受講者から寄せられた実験内容に関する質 問やレポート評価に関する質問に大変丁寧に対応して いたことにより,受講生は実験結果を論理的に思考し て,科学的な文章にまとめる力が獲得できた可能性が ある.

6 .今後の課題

今般の新型コロナウィルスの感染拡大により,自然 科学総合実験の強みと弱みを再確認することができ た.今回の新型コロナウィルスに限らず,ニューノー マルな時代に対応できるようオンラインと対面を両立 したハイブリッド型,さらには米国ですすめられてい る受講生がインターネットを介して対面授業をリアル タイムで受講できるハイフレックス型の体制を確立し て お く 必 要 が あ る. そ の た め に も 学 生 実 験 棟 に Eduroamといった無線LAN環境を整備しておく必要 があろう. 対面の実験では教員と受講生との橋渡しの役割を 担っていたTAが,オンライン授業では業務がなく なってしまい,あらゆる質問を担当教員がうけること となっている.実験テーマ特有の専門的な質問やレ ポートの書き方等の質問は担当教員が担当し,実験の 操作や注意すべき点といった汎用的な質問はTAが担 当するといった棲み分けを取り入れた運営方法を確立 し,  さらにはTAが質問対応だけでなく,教育経験を 積めるような施策を打ち出していく必要がある. 実験テキストは現在紙媒体で販売されている.本学 ではBYOD(Bring Your Own Devise)施策が開始さ れ,入学者はパソコンを持参しているため,このデジ タル環境を生かして紙媒体のテキストに加えて,オン ライン教材も視聴できるようなデジタルテキストも併 用することで,ハイブリッドやハイフレックス型 (Beatty, 2019)の授業構築が可能になる. 今回のコロナ禍を経験したことで,デジタル教材や 新しい試行錯誤を必要とする実験科目を準備すること ができた.これらは英語化も完了し,FGL(Future  Global Leadership)プログラムの留学生(コロナのた め帰国できていない国外の学生も含む)にも対応でき ている.今後デジタル化を取り込んだ新しいテーマを 開発し続けることで,受講生は新しいことに挑戦する ことが可能になる.さらには東北大学の自然科学教育 における体験知獲得の役割を担いつつ,知識獲得型の 講義とのつながりを解説することで,受講生は自然科 学の講義と実験の両面から知識を構築し,論理的思考 力・科学的文章力も含めて習得することができる.自 然科学総合実験が学部専門課程での学修の継続・発展

(9)

につながるよう,これからも改善していきたい. 謝辞 コロナ禍における遠隔での理科実験の実施に協力い ただいた実験科目委員会の先生,オンライン教材の開 発に尽力くださった実験科目委員会・実験計画委員会 の先生にはこころより感謝を申し上げる.また,オン ラインでの理科実験を担当いただいた担当教員にも敬 意を表する.これまでに経験したことのない遠隔での 理科実験の運営を支えてくださった自然科学教育開発 室の教員と,これまで自然科学教育開発室に所属され た多くの教員にも敬意を表する.また,北海道大学の 鈴木久男先生,慶應義塾大学の久保田真理先生,京都 大学の吉田あゆみさま・高木紀明先生・舟橋春彦先生, 大阪大学の廣野哲朗先生,九州大学の中里健一郎先生・ 小林良彦先生にはコロナ禍のご対応でお忙しい時期に 情報提供いただき,感謝申し上げる.最後に滝澤機構 長には様々な面でご支援いただいた.心より感謝を申 し上げる. 参考文献

Beatty,  B.  J. (2019),  Hybrid-Flexible  Course  Design.  EdTech Books.https://edtechbooks.org/hyflex/. 中央教育審議会答申 (2016), 幼稚園,小学校,中学校,高 等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及 び必要な方策等について, 第197号. 猪股歳之, 関根勉, 須藤彰三 (2009), 2007年度「自然科学 総合実験」における授業評価の構造, 東北大学高等教 育開発推進センター紀要, v. 4, pp. 49-56.  中村教博, 関根勉, 田嶋玄一, 須藤彰三 (2019), 東北大学に おける初年次理科実験科目「自然科学総合実験」と 実験レポート作成支援, 工学教育研究講演会講演論文 集, pp. 264-265.  関根勉(2011), 自然科学総合実験と学生実験棟, 東北大学 全学教育広報(曙光)<東日本大震災復興特別号>, v.  32, pp.11-12. 須藤彰三 (2005), 自然科学総合実験:全学教育を目指した 融合型理科実験の導入,  東北大学大学教育研究セン ター年報, v.12, pp. 83-93. 須藤彰三(2009),  全学理科系学生を対象とした“自然科 学総合実験”,工学教育(J. of JSEE), 57-1, pp. 41-44. 田嶋玄一, 芳賀健也, 大場哲彦, 小俣乾二, 小林弥生, 石川 賢一, 保木邦仁, 石山達也, 梶本真司, 橋本克之, 金田 雅司, 中山和之, 縄田朋樹,関根勉,須藤彰三 (2012),  東北大学の初年次学生への理科実験科目「自然科学 総合実験」の運営を支える出席・成績情報システム の構築, 東北大学高等教育開発推進センター紀要, v.7,  pp.89-98. 東 北 大 学  学 務 審 議 会  教 育 情 報・ 評 価 改 善 委 員 会  (2013), 平成25年度奇数セメスター 学生による授業 評価アンケート実施結果報告書, pp.1-55.

参照

関連したドキュメント

グローバル化をキーワードに,これまでの叙述のス

そのような発話を整合的に理解し、受け入れようとするなら、そこに何ら

ても情報活用の実践力を育てていくことが求められているのである︒

これらの先行研究はアイデアスケッチを実施 する際の思考について着目しており,アイデア

9.事故のほとんどは、知識不足と不注意に起因することを忘れない。実験

複雑性悲嘆(Complicated Grief 通常よりも悲嘆が長く、激しく続く 死別した事実を受け入れられなかったり、

これらの実証試験等の結果を踏まえて改良を重ね、安全性評価の結果も考慮し、図 4.13 に示すプロ トタイプ タイプ B

あれば、その逸脱に対しては N400 が惹起され、 ELAN や P600 は惹起しないと 考えられる。もし、シカの認可処理に統語的処理と意味的処理の両方が関わっ