氏 名 上條 優子 博士の専攻分野の名称 博 士 ( 看護学 ) 学 位 記 番 号 医工農博甲 第 3 号 学 位 授 与 年 月 日 平成 31 年 3 月 20 日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 専 攻 名 ヒューマンヘルスケア学専攻
学 位 論 文 題 名 Spirituality and associated factors among cancer patients undergoing chemotherapy (化学療法を行っているがん患者のスピリチュアリティとその関 連因子) 論 文 審 査 委 員 委員長 教 授 水野 恵理子 委 員 教 授 田辺 文憲 委 員 教 授 浅川 和美 委 員 教 授 山縣 然太朗 委 員 教 授 宮 村 季 浩
学位論文内容の要旨
(研究の目的) 本研究は、外来通院で化学療法を行っているがん患者のスピリチュアリティの現状把握と、スピリ チュアリティと身体的な痛みの関連、さらに、スピリチュアリティとクオリティオブライフ(QOL)の 関係を明らかにすることである。本研究では、スピリチュアリティとは、その人らしく生きること、 つまり、生きる意味や生きる目的を感じ心が穏やかな状態を保ち、信念による強さや安寧を感じてい ることとした。 (方法) 1. 研究協力者 2011 年 5 月から 9 月に、A 病院で通院治療室に来院していたがん患者全員の中から以下の条件を満 たす者とした。①病名が告知されている、②20 歳以上、③診断から 1 か月以上経過している、④質 問紙への回答および同意書記入に耐えうる身体状態である、⑤重篤な精神障害や認知症がない、⑥が んの進行期・治療期である、⑦スクリーニング検査で痛みの可能性があると判断されたもの、とした。 また、除外基準として手術による痛みと区別するために手術目的の入院後でないこととした。期間中 に同意の得られた患者に質問紙を配布し、郵送または治療室近くに箱を置き質問紙を回収した。 2. 調査内容 属性として性別、年齢、がんの種類、病期、患者の日常生活の制限の程度を示す performance status、同居家族の有無、婚姻歴、職業形態を質問紙および診療録から調査した。
身体的な痛みやその他の自覚症状については、緩和ケア普及のための地域プロジェクト OPTIM プロ ジェクト(Outreach Palliative care Trial of Integrated regional Model)による「生活のしや すさに関する質問票」(OPTIM Project, 2011)というスクリーニングシートを使用した。痛みの評価 は visual analog scale (VAS)を使用した。痛み以外の症状は、ねむけ、息切れ、吐き気、せき、口 内炎、便秘、腹部膨満感、食欲不振、倦怠感、発熱、不眠であり、困っている症状のあり・なしで調 査した。
患 者 の ス ピ リ チ ュ ア リ テ ィ に つ い て は Functional assessment of chronic illness therapy-spiritual well-being scale(FACIT-Sp-12)を使用した。がん患者の QOL は Functional assessment for cancer therapy: general(FACT-G)を使用し調査した。
本研究の主要評価項目は、スピリチュアリティを示す FACIT-Sp-12 のサブスケールである「生き る意味・平穏」8 項目の合計得点、「信念/信心」4 項目の合計得点とした。 (結果) 1. 研究協力者 研 究 の 同意 の 得ら れ た患 者 215名 に 調 査 票を 配布 し 185名 か ら 回 答が あり( 回収 率 86.0%)、 欠 損 値 のな い 176名 を 解析 し た 。平 均 年齢 60.2歳 (22歳 か ら 88歳 )、男性 25% 、病 期 Ⅰ 10.8% 、 Ⅱ 11.9% 、 Ⅲ 19.3% 、 Ⅳ 56.3% で あ っ た 。 が ん 種 は 乳 が ん 、 婦 人 科 が ん 、 肝 臓 ・ 膵 臓 ・ 胆 管 癌 、 腸が ん 、胃 が ん、 肺 が ん等 で あっ た 。 2. スピリチュアリティとの関連 年齢が若い人はスピリチュアリティが低く(P<0.01)、病期Ⅰの人は病期Ⅳと比べるとスピリチュ アリティが低い(P<0.05)傾向がみられた。困っている症状では、食欲不振のある人はスピリチュアリ ティが低かった(P<0.05)。 痛みに関してはQOLと強い相関があったが(P=0.002)、ス ピ リチ ュ アリ ティ と は 関連 が みら れ な か っ た (P=0.427)。 VAS60以 上 の 痛 み の あ る 人 に 絞 っ て 調 査 し た と こ ろ 、 ス ピ リ チ ュ ア リ テ ィ が 高い 人 は低 い 人と 比 べ 痛み が 強く て も人 生 を 楽し む 傾向 に あっ た ( P<0.001) 。 3. ス ピ リ チ ュア リ テ ィと QOLの 関 係 共分散構造分析によりスピリチュアリティと QOL の関係を探索した。スピリチュアリティは、がん 患者の QOL を高める予測因子として有効であった。また、スピリチュアリティの 2 つのサブスケール である「生きる意味・平穏」と「信念/信心」は精神的ウェルビーイングと機能的ウェルビーイング に直接的な影響を与えていた。スピリチュアリティは身体的ウェルビーイングより精神的ウェルビー イングへの影響が強く、身体的ウェルビーイングには精神的ウェルビーイングを介して間接的に影響 していた。さらに、「生きる意味・平穏」は友人や家族関係に影響することがわかった。 (考察) 米 国 の 大規 模 調査 で は、ス ピ リ チュ ア リテ ィの 高 い 人は 、女 性 、年齢 60-79歳 、人 種( 黒 人 ) 、 が ん 種 (子 宮 が ん )、 結 婚 し て い る 人 で あ っ た 。 本 研 究 で は 年 齢 が 高 い 人 ( 60-79歳 ) の ス ピ リチ ュ アル 得 点が 高 く、若 い人( 20-39歳 )のス ピ リチ ュ アル得 点 は 低か っ た。若い
人 、 働 き 盛 り の 人 、 病 期 Ⅰ の 人 は 、 ま だ 若 い か ら あ る い は 自 分 よ り 重 症 な 人 が い る の で は と 思 い 、 緩 和 ケ ア を 受 け る こ と 、 相 談 す る こ と を 躊 躇 す る 傾 向 が あ る 。 ま た 、 が ん と 診 断 さ れ て 1年 以内 の 人は 緩和 ケ ア が必 要 であ る 。終 末 期 だけ で なく 、すべ て の がん 患 者や サ バ イ バ ー を対 象 に緩 和 ケア 等 が 行わ れ るこ と が望 ま れ る。 ま た 、 人 間 関 係 や 自 律 が 損 な わ れ る こ と 、 生 き る 意 味 の 消 失 、 死 へ の 恐 怖 な ど か ら 生 じ る ス ピ リチ ュ アル ペ イン を 理 解し 、 定期 的 なス ピ リ チュ ア ルア セ スメ ン ト も必 要 であ る 。 (結 論 ) ス ピ リ チュ ア リテ ィ は QOLと 強 い関 連 があ る こと が 認 めら れ た。40歳 未 満 の 若い 患 者、働 き 盛 り の 患 者 、 病 期 Iの が ん 患 者 は ス ピ リ チ ュ ア リ テ ィ が 低 い 傾 向 に あ り 緩 和 ケ ア な ど の サ ポ ー ト が 必 要 で あ る 。 ま た 、 が ん 患 者 の ス ピ リ チ ュ ア リ テ ィ を 良 好 に 保 つ た め に は 、 栄 養 面 の サポ ー トや 、 定期 的 な スピ リ チュ ア ルア セ ス メン ト を行 っ てい く 必 要が あ る。
論文審査結果の要旨
1.学位論文研究テーマの学術的意義 本研究は、外来で化学療法を行っているがん患者のスピリチュアリティ、スピリチュアリティと身 体疼痛の関連、スピリチュアリティとQOL の関係を明らかにすることを目的としている。対象者へ 生活のしやすさに関する質問票、VAS(疼痛評価)、FACIT-Sp-12(スピリチュアルティ)、FACT-G(がん 患者のQOL)への回答を依頼し、176 名の回答を解析した。 その結果、スピリチュアルティはQOL と強い関連があり、若年者、初期病期の者ほどスピリチュ アリティが低い傾向があり、疼痛とQOL との間で強い相関が認められた。また、共分散構造分析に よりスピリチュアリティと QOL の関係を探索した結果、スピリチュアリティはがん患者の QOL 向 上の予測因子として有効であった。 若年層のがん患者、早期病期にある患者のニーズに特化した緩和ケアの必要性を示唆した点は、重 要な知見であり学術的意義は大きい。 2.研究の問題点など 対象者は男性 25%、女性 75%と男女の割合の差が大きいことが全体の結果に影響している点があ ること、データ分析において何が交絡因子であり、どのように交絡しているのかを確認したほうがよ い。層別化して解析する方法も一つである。 3.データの信頼性 研究計画書については倫理委員会で承認され、対象者への説明文書や同意書を用いて、調査を行っ た。得られたデータの分析と解釈については統計の専門家、指導教員からスーパーバイズを受けてい る。4.学位論文の改善点
本論文は英語論文であり、Japan Journal of Nursing Science へ投稿し査読中である。読み手に研究内 容をよりわかりやすく伝えるために、学術誌の規定を確認の上、倫理的配慮やデータを扱う手順を、 詳細かつ具体的に記載するのが望ましい。