山梨肺癌研究会会誌 11巻1号 1998
気管、気管支の悪性狭窄に対するExpandable metalic
stentによる治療経験
山梨医科大学 放射線科 塚本達明 大西洋 山ロ元司 荒木力 〈はじめに〉 気管・気管支の悪性狭窄に対してExpandable metalic stent(以下 EMS)を用いることで症状が劇的に改善する事実は知られているが、晩 期合併症については十分検討されていない。さらに、直接死因となるよ うな合併症については報告例がない。今回、気管・気管支の悪性狭窄に 対するEMSの治療効果と合併症についてまとめ、 EMS留置の危険因子に ついて考察したので報告する。 〈対象〉 当科で95年5月から97年4月までに気管気管支の悪性狭窄に対して EMSを用いた拡張術を行った6例で、年齢52−80歳(平均66歳)、全例 男性で、原疾患は肺癌4例(squamous Cell carcinoma3例、 adenocarcinoma 1例)、食道癌リンパ節転移2例であった。 EMS留置 部位は、気管3例、主気管支1例、気管から主気管支にまたがるもの2 例であった。 〈方法〉 使用したEMSはクツク社製のジャイアントルコーZ一ステントを用いた。 サイズは、気管用は直径20−30mm、長さ50mm(2連)、主気管支用は 直径12−15mm、長さ30mm(2連)−45mm(3連)であった。前処置と して硫酸アトロピンとアタラツクスPを使用し、麻酔方法は全例で4% キシロカイン噴霧による局所麻酔のみで施行し、ステント留置前の狭窄 部のバルーン拡張術は特に行わなかった。挿入方法は、気管支鏡下及び 透視下において気管支鏡の側孔からガイドワイヤーを挿入し12から15 フレンチのシースからステントを挿入した。尚、全例で放射線治療をス テント留置前あるいは後に併用した。 一2一平成10年4月1日 〈結果〉 狭窄部の拡張は6例全例で成功し、EMS留置部の末梢肺換気は6例中 5例で改善が認められた。EMS開存期間については、4例で再狭窄は認 められなかった(観察期間3−6カ月)が、2例では3、9カ月後に再狭窄 が認められた。副作用で最も問題となったのは、EMS留置後の嚥下痛で、 6例中3例で食事摂取が困難となるほどのものであった。これらはいず れも気管にEMS留置したものであり、気管支内EMSが気管膜様部を通し て食道を圧迫したためと考えられた。出血、肺炎、咳轍、違和感、血疾 などでは重篤なものは認められなかった。 図1に6例の生存率曲線を示す。いずれも、進行癌のため予後は悪いが、 500日以上生存した症例もあった。死因はEMS再狭窄による呼吸不全 が2例、EMS再狭窄ないが肺癌悪化により呼吸不全が生じた症例が2例、 EMS再狭窄ないが肝転移が生じた症例が1例で、残る1例はEMSの左主気 管支大動脈壁貫通による出血死であった。この症例の詳細を以下に示す。 <症例> 65歳男性。食道癌術後照射後に縦隔リンパ節に再発し左主気管支分岐 部付近の狭窄が認められ(図2)、その狭窄部に再照射後(前回照射と の合計線量74Gy)、狭窄部は拡張したが、再狭窄予防のためにEMSを留 置した。EMSは、左主気管支に直径15mm長さ5cmのものを1個、さら に気管から気管支をまたぐように直径30mm、長さ5cmのものを1個合 計2個留置した。留置時に少量の出血が見られたが、気管支の狭窄は改 善し、一時退院となった。留置後41日目に呼吸困難増強し再入院となり、 留置後48日目頃より血疾増量し、51日目に大喀血により死亡した。死後、 病理解剖が施行され、ステントが大動脈に穿孔したことが確認され、そ こからの出血による窒息死と考えられた。図3はステント留置直後のCT 像で、左主気管支の良好な拡張が認められる。図4はステント留置後41 日目CTで、ステント留置直後と比較するとステントの内腔が拡張してお り、一部大動脈壁に接している。死後解剖の結果このEMS端が大動脈に 穿孔したものと考えられた。また、EMSの刺激に伴うと考えられる胸水 貯留を両側に認めた。 <考察> EMS留置による効果についての文献1)によると、 EMSの悪性気管・気管 一3一
山梨肺癌研究会会誌 11巻1号 1998 支狭窄に対する画期的な効果と安全性が報告されているが、長期留置に おいて生じる重篤な合併症については報告が少ない。本検討の結果から、 EMS留置後の穿孔の危険因子として、強い癌浸潤、大線量の放射線治療、 EMSの大きさ(直径)、stent in stentが重要であると考えられた。ま た、今回大動脈穿孔を来した症例のように、再狭窄の予防的な目的での EMS留置は、利益よりも危険の方が大きくなる可能性があり十分注意が 必要であると考えられた。 <結論> 6例の気管、気管支の悪性狭窄に対してEMS(Z−stent)を留置した。留 置術は安全、簡易に施行可能で、狭窄部の拡張は全例で成功し、劇的な 症状軽快が得られたが、EMS留置後51日目に大動脈穿孔を生じ大喀血に より死亡した1例を経験した。今回示した症例のように強い癌浸潤、大 線量の放射線治療、EMS留置(stent in stent)が重なるとEMSの壁穿孔 の危険性があり、緊急や重症の場合を除いては、待期的に行うべき手技 と考えられた。また、ステントの直径の選択には十分注意が必要である と考えられた。 <参考文献> 1)澤田 敏、藤原義夫、田辺芳雄;気管・気管支に対するステントの応 用;lnterventional Radiology,手技の実際と適応(秀潤社);262− 269,1994. 一4一
平成10年4月1日