手術室看護師の倫理的感性と看護行為の関連
The Correlation between Ethical Sensitivity and
Nursing Practice among Operating Room Nurses
西田 文子
1),中村美知子
2) NISHIDA Fumiko , NAKAMURA Michiko要 旨
手術室看護師の看護行為の実施状況,看護行為と倫理的感性の関係から患者を尊重した看護行為の展開と 課題について検討することを目的として,手術室看護師 54 名を対象として,The American Nurses Association の Code of Ethics for Nurses に基づき,Association of periOperative Registered Nurses が推奨 する手術室看護師の看護実践項目から抽出した看護行為 58 項目と Moral Sensitivity Test 日本版 34 項目を用 いて調査を行った。その結果,実施が高値であった看護行為は,「患者の観察」「羞恥心への配慮」「安全な物 理的環境の整備」であり,低値であった看護行為は「患者への情報伝達」「人的環境の整備」であった。【患者の 理解】は「患者への情報伝達」と有意な正相関があった。【患者の理解】を重んじる認識を高めることが「患者へ の情報伝達」につながり,患者への説明責任を果たし,倫理的看護行為につながることが示唆された。
Purpose: To investigate both the development of nursing practices among operative nurses which was founded on respect for patients, and the relationship between nursing practices and moral sensitivities.
Method: Fifty-four operative nurses were surveyed using 34 items from the Japanese version of the Moral Sensitivity Test (MST). The nurses’ practices’ and target attributes, which were advocated by the Association of Peri-Operative Registered Nurses (AORN), and based on the American Nurses Association (ANA) Code of Ethics for Nurses (1985) were targeted by the survey.
Results & Conclusions: The current status of operative nurses’ nursing practice is such that “understanding the patient’s condition”, “consideration of a sense of shame” and “establishment of a safe physical environment” received high scores, while “accountability to the patient” and “management of human environments” received low scores. The fact that there was a signifi cant correlation between matters related to patient understanding and “accountability to the patient” showed that, as a trait of operative nurses, deepening patients’ understanding in order to fulfi ll ones’ responsibility for explanations led to moral practices.
キーワード 手術室看護師,倫理的感性,看護行為
Key Words Operating Room Nurses,Ethical Sensitivity,Nursing Practice
受理日:2011 年 8 月 9 日
1) 山 梨 大 学 大 学 院 医 学 工 学 総 合 教 育 部:Department of Human Health Care Interdisciplinary Graduate School of Medicine and Engineering, University of Yamanashi 2) 山 梨 大 学 大 学 院 医 学 工 学 総 合 研 究 部( 臨 床 看 護 学 ):
Interdisciplinary Graduate School of Medicine and Engineering (Clinical Nursing),University of Yamanashi
Ⅰ . はじめに
手術中患者は麻酔により意識が明確でないことが多 く,自己決定や安全確保が困難な状況である。患者は隔 絶された環境の中で,医療者に身体の安全性,心地よい 環境の提供を期待し,医療者を信頼して,判断や行動に 身をゆだねている。手術室看護師は,意思決定や自律性 の低下した患者の擁護者としての責任を持ち,できるだ け患者の意思を尊重して行動することが期待されている。手術室看護師と患者との関係は一時的かつ短時間で あり,信頼関係を構築することが困難であること,手術 中速いペースで患者の状況が変化し予測困難な状況で1) 迅速な判断と行動を求められることから,多く葛藤場面 に直面している2)∼ 4)。しかし,悩みや困難を表出した り葛藤解決を論議する機会は少ない。 専門職者を対象とする既存の倫理綱領は,専門職とし ての信念や価値,期待される行動基準を示しており,実 際の行動の解決策を見出す指針となる。内外の看護師の 倫理綱領には,「看護師の倫理綱領」(国際看護師協会: International Council of Nurse:ICN,2005),「看護者の 倫理綱領」(日本看護協会,2003),「精神科看護倫理綱領」 (精神科看護技術学会,2004),「救急医療領域における
看護倫理ガイドライン」(日本救急看護学会,2007)等が ある。手術室看護師の倫理的行動指針は,周手術期看護 師協会(Association of periOperative Registered Nurses :AORN)が米国看護師協会(The American Nurses Association :ANA)の看護規律(ANA,1985)に基づい て看護実践を推奨している5)が,わが国では,手術室看 護師の倫理的行動指針を示すものは未だなく,看護師個 人の判断に委ねているため,手術という特殊環境で患者 の権利や安全を守る独自の倫理的行動指針の必要に迫ら れている。 Fry らは,倫理的感性は価値や価値の対立を認識する 能力であり,自らの価値を知り他者の価値を尊重できる ことが倫理的な意思決定に重要である6)と述べている。 Lützèn らは,道徳的感性は,経験に影響され,患者の ために決断する葛藤場面での対人態度として表われるも のであると定義し,Moral Sensitivity Test を開発し た7)∼ 9)。中村らは,わが国の臨床看護師の倫理的感性 の 傾 向 を み る 尺 度 と し て Lützèn(1994)の Moral Sensitivity Test の日本版(以下,MST)を開発し,信頼性・ 妥当性を検証している10)∼ 12)。倫理的感性は所属病棟に よる違いがあり13),筆者らの手術室看護師(n=74)を対 象とした MST を用いた調査では,手術室看護師は,外 科病棟看護師より,患者の言動から患者を理解しようと する認識が低く,患者の思いを察知することが課題で あった14)。AORN が推奨する看護行為から,倫理的感 性を反映した看護行為を示すことは,従来の器械出し看 護師と外回り看護師という機能的な看護体制から脱し, 手術室看護師が目指す患者を尊重した看護につながると 考える。 そこで,本研究では手術室看護師の倫理的感性と看護 行為の実施状況との関係から,手術室看護師の倫理的看 護行為の展開と課題を考えることとした。
Ⅱ . 目的
ANA(American Nurses Association)の看護規律に基 づき AORN(Association of periOperative Registered Nurses)が推奨する手術室看護師の看護行為の実施状 況,倫理的感性と看護行為の関係から,手術室看護師の 倫理的看護行為の展開と課題について検討する。
Ⅲ . 用語の操作的定義
倫理的感性:看護師個人が葛藤状況においてどのよう に意思決定をするかという道徳的な考え方,認識,感受 性であり,【患者の理解】,【責任/安全】,【葛藤】,【規 則遵守】,【患者の意思尊重】,【忠誠】,【価値/信念】,【内 省】,【正直】,【自律】,【情】の 11 要素で構成される。 看護行為:手術室看護師が看護の目的のために患者, 医療者,環境に働きかける行為であり,要素として『患 者への行為』,『医療者への行為』,『環境(人的・物的)を 整える行為』を含む手術室看護師の看護行為をさす。Ⅳ . 研究方法
1. 対象 術前訪問を実施している山梨近郊の大学病院・総合病 院 5 施設の手術室における看護師経験年数 1 年以上の手 術 室 看 護 師 97 名 を 対 象 と し た。85 部 を 回 収( 回 収 率 88%)し,回答に欠損の無い 54 部(56%)を分析対象とし た。 2. 調査期間:2008 年 8 月∼ 12 月 3. 調査内容 1) 対象者の基本属性:年齢,性別,通算臨床経験年数, 手術室看護師経験年数,職位,最終看護基礎教育歴。 2) 倫理的感性:倫理的感性は,Lützèn(1994)の Moral Sensitivity Test8)を中村らが日本語訳し,信頼性・ 妥当性が検討された MST10)∼ 12)を用いた。要素と して,【患者の理解】,【責任/安全】,【葛藤】,【規 則遵守】,【患者の意思尊重】,【忠誠】,【価値/信念】, 【内省】,【正直】,【自律】,【情】(以下,【 】は倫 理的感性を示す)を含む 34 項目で,“全然思わない” ∼“全くそう思う”の 6 段階の順序尺度で,評点は 順 に 1 ∼ 6 で あ る。 本 調 査 に お け る MST の Cronbach’s α係数は,0.87 であった。 3) 手術室看護師の看護行為(以下,看護行為):周手 術期看護師協会(Association of periOperative Registered Nurses :AORN)が米国看護師協会(The American Nurses Association :ANA)の看護師の規律(Code of Ethics for Nurses,1985)11 項目のう ち,人として尊重する,安全確保,守秘,責務の 4 項目に基づいて推奨する看護実践をもとに,『患者 への行為』『医療者への行為』『環境(人的・物的) を整える行為』(以下,『 』は看護行為を示す)の 3 要素で構成する 60 項目の質問項目を作成した。項 目の内容妥当性と表現の明瞭性を確保するために, 手術室看護経験年数 6 年以上の手術室看護師 3 名, 看護教員 2 名,計 5 名と討議し修正を加えた。評 価は,“全くしない”,“ほとんどしない”,“しばし ばする”,“いつもする”の 4 段階とし,評点は順に 1 ∼ 4 とした。手術室看護経験年数 5 年以上の看護 師 2 名に対してプレテストを実施し,回答困難な 項目がないことを確認した。回答の安定性の確認 は,全対象者 97 名に 3 回(2 週間間隔)で行い,有 効回答 34 名の各回答者 3 回の評点の級内相関係数 を算出した。その結果,No.39,No.44 は有意な相 関(p < 0.05)がなく安定性が低い項目であったため 削除し,58 項目を分析対象とした。本調査におけ る Cronbach’s α係数は,全 58 項目 0.93,それぞ れの要素は 0.81 ∼ 0.84 であった。 4. 調査方法 当該病院の施設長および看護部長の研究協力・承諾を 得た後,手術室師長を通して対象者に自己記入式質問紙 を配布し,2 週間の留め置き法で回収箱にて回収した。 5. 分析方法 対象者の基本属性は,平均値,標準偏差を算出した。 手術室看護師の看護行為は,4 段階評価“いつもする”, “しばしばする”“ほとんどしない”,“全くしない”の全 対象者に対する回答者の割合を算出し,“いつもする”, “しばしばする”の合計を実施群,“ほとんどしない”,“全 くしない”の合計を非実施群とし,2 群に区分した。さ らに,実施群のうち“いつもする”,“しばしばする”の合 計が全体の 75 ∼ 100%を高実施群,50 ∼ 75%を中実施 群,50%未満を低実施群と 3 群に区分した。MST と看 護行為の関係は Spearman 順位相関係数を算出した。 6. 倫理的配慮 本研究は山梨大学倫理委員会の承認(No.457)を得て実 施した。対象者へ調査の主旨,内容,方法,参加は任意 であり拒否・中断が可能であること,拒否・中断にて職 務上の不利益は生じないこと,匿名性を確保しプライバ シーを遵守することを文書で説明し,調査の協力・同意 が得られた者について同意書の署名を得て実施した。
Ⅴ . 結果
1. 対象者の背景 性別は,男性 2 名(4%),女性 52 名(96%)であった。 平均年齢 30.7 ± 7.2 歳,通算臨床経験年数 8.3 ± 5.8 年, 手術室看護師経験年数 6.5 ± 5.1 年であった。職位は主 任または副師長が 7 名,スタッフ看護師が 47 名であった。 看護基礎教育歴は,3 年課程専門 31 名(57%)が最も多く, 次いで,3 年課程短期大学 8 名(15%),4 年制大学 6 名 (11%)であった。 2. 看護行為の実施状況(表 1) 1) 高実施群の看護行為 高実施群の看護行為は 41 項目であった。「身体に触れ る」,「顔色や表情を確認する」,「必要な範囲のみ露出す る」,「点滴刺入部の固定を確認する」,「物品の不足がな いよう整える」,「患者の上に不必要な物品を置かない」, 「機械の操作時の不快な音をたてない」「ゆっくりはっき りした声で話す」など 12 項目は,実施群の割合が全対象 者の 100%であり,患者の観察,羞恥心への配慮,安全 で苦痛のない環境を整える行為は,全員が行っていた。 2) 中実施群の看護行為 「除毛の説明をする」,「着用する下着の説明をする」, 「気管挿管中の意思の伝達方法を確認する」という患者へ のケアの説明や情報伝達手段の確認の実施は全対象者の 約 50%,「薬剤の投与量・経路を確認し適切でないとき に指摘する」,「麻酔の方針を麻酔科医に確認する」,「患 者の意識レベルを麻酔科医に報告する」,「手術予定時間 の延長の理由を家族に説明する」,「検体の採取の同意を 同意書で確認する」の実施は,全対象者の約 60%であっ た。 3) 低実施群の看護行為 低実施群の看護行為は 7 項目であった。「術中の写真 やビデオの撮影は患者の承諾を確認する」の実施は全対 象者の 20%で最も低値であり,「手術室に入室する関係 職種・人数を患者に伝え同意を得る」は 30%であった。 「抑制した方法と理由を看護記録に記載する」は全対象の 41%,「手術室に入った人の職種や氏名を正しく記録す る」は 44%,「術後,手術の説明が行われたか患者に確 認する」は 26%,「手術の方針について主治医に確認す る」は 48%であった。 3. 倫理的感性(MST)と看護行為の関係(表 2) MST と看護行為の関係は,特に【患者の理解】と看護 行為間で多くの有意な正相関(r > 0.3,p < 0.05)があっ た。[患者の肯定的な反応は重要]と「挿管中の意思の伝 達方法を患者に確認する」(r=0.484)「膀胱内留置カテー テルを挿入することを患者に伝える」(r=0.458)「除毛表 1 看護行為の実施群の割合 (n=54) 要素 実施群(%) No 問 実施群 (%) 患者へ の行為 (24 項目) 高実施群 (75 ∼ 100%) 27 術中,適宜患者の顔色や表情を確認する。 (100) 40 術中,患者の手を握る,身体に触れるなどで患者の状態を知る。 (100) 42 手術に必要な範囲のみ露出する。 (100) 48 患者が苦痛な体位であるか患者に確認する。 (100) 51 麻酔中の患者へ,丁寧な対応や言葉遣いをする。 (100) 55 患者に聞こえるようにゆっくりはっきりした声で話す。 (100) 35 患者への呼びかけは名前で行なう。 (98) 45 術中,疼痛の部位と程度を適時患者に聞く。 (98) 1 術前訪問は,患者の同意を得て行う。 (96) 3 術前訪問で,予定した手術体位が可能か,麻痺の有無や関節可動域を確認する。 (96) 33 患者を抑制するときは,患者に同意を得て行う。 (96) 2 術前訪問で自己紹介をして,自分が手術中の外回り看護師であることを患者に伝える。 (94) 18 術前に,麻酔導入後,膀胱内留置カテーテルを挿入することを患者に伝える。 (91) 14 術前に,手術部位を患者に確認する。 (89) 38 適時,患者に術中の処置や手術の進行状況を伝える。 (89) 4 術前に,患者の体位固定時の圧迫部位の皮膚損傷の有無を確認する。 (87) 15 装着物(眼鏡,入れ歯,かつらなど)をいつはずすかは,患者の希望にそって行う。 (85) 7 手術体位による皮膚・神経障害を予防するために行う体位固定の方法について患者に説明する。 (83) 6 体温低下を予防するための保温の方法について患者に説明する。 (78) 54 装着物を,保管する場所を患者に説明する。 (76) 中実施群 (50 ∼ 75%) 19 術前に,必要時除毛をすることを患者に伝える。 (57) 21 術前に,手術に応じて着用する下着を説明する。 (56) 17 挿管中の意思の伝達方法について患者に事前に確認しておく。 (54) 低実施群 (0 ∼ 50%) 58 術後,手術の説明が行われたか,患者に確認する。 (26) 医療者へ の行為 (14 項目) 高実施群 (75 ∼ 100%) 29 術中,患者の血圧変動を麻酔科医と適宜確認する。 (96) 25 術中,手術の部位や範囲の変更があったときは,その理由を執刀医に確認する。 (96) 8 術前訪問で患者から得た情報で,必要のあることは,病棟看護師に伝える。 (96) 34 患者の前では,医療者間の私語は行わない。 (87) 47 術中,医療者が不用意に患者に触れていないか確認する。 (85) 28 術中の患者の血圧の変動を執刀医に適宜報告する。 (81) 9 患者が手術方法に対して疑問があるときは,患者に説明を加えるよう主治医に伝達する。 (81) 5 患者が手術をどのように受け止めているかについて,病棟看護師から情報を得る。 (81) 10 術前に,患者が手術に同意していないと感じたときは,主治医に伝える。 (76) 中実施群 (50 ∼ 75%) 59 患者に対する医療関係者の言動にずれがないこと確認する。 (72) 32 薬剤の投与量・投与経路を適宜確認し,適切でないときは指摘する。 (69) 31 術中,患者の意識レベルの変動を観察し,麻酔科医に報告する。 (65) 13 術前に,麻酔の方針について直接麻酔科医に確認する。 (59) 低実施群 (0 ∼ 50%) 12 術前に,手術の方針について直接主治医に確認する。 (48) 環境 (人的・ 物的) を整える 行為 (20 項目) 高実施群 (75 ∼ 100%) 22 術中,点滴刺入部の腫脹や漏れがなく,確実に固定されていることを確認する。 (100) 23 機械の操作や器械類の移動時には不快な音をたてない。 (100) 24 器械や無影灯が患者の目に入らない位置に配置する。 (100) 26 術中,必要な物品を予測し,不足がないように整える。 (100) 50 術中,患者の上に不必要な物品を置かない。 (100) 52 患者の個人情報の伝達は,他者に伝わらないようにする。 (100) 43 摘出した臓器や組織は,他の患者の視野に入らないようにする。 (98) 46 術中,寒暖の有無を患者に聞き,調節する。 (98) 53 下着・肌着をはずすときは,他人の目に触れないようにする。 (98) 41 患者の肌に直接触れるものは温める。 (96) 57 手術に関わった医師・看護師の氏名を正しく記録する。 (94) 30 輸液量,輸血量,尿量,出血量を適時計測し,水分出納バランスを算出する。 (93) 49 執刀や縫合に使う器材が正確に使用されているか確認する。 (93) 中実施群 (50 ∼ 75%) 56 手術予定時間が延長した場合は,その理由を家族に説明する。 (59) 36 検体の採取は,患者が同意していることを,同意書のサインで確認する。 (54) 低実施群 (0 ∼ 50%) 11 患者の家族(または重要他者)が,術中どこで待機しているかを確認する。 (48) 60 手術室に入った人の職種や氏名を正しく記録する。 (44) 37 患者を抑制した方法とその理由を看護記録に記載する。 (41) 20 術前に,手術室に入室する関係職種・人数を患者に伝え,同意を得る。 (30) 16 術中の写真やビデオの撮影は,患者に事前に承諾を得ていることを確認する。 (20) 注:実施群(%)は,各項目の回答の「しばしばする」「いつもする」の合計を,対象者数で除した値(%)である。
表 2 看護行為と倫理的感性 (MST) との関係 (n=54) 要 素 患者の理解 価値 / 信念 自律 責任 / 安全 正直 情 規則遵守 意思尊重 葛藤 忠誠 No. 3 16 1 2 17 9 20 21 18 13 19 12 11 4 24 14 10 34 8 27 31 33 倫 理 的 感 性 ︵ M S T ︶ 患 者 か ら 肯 定 的 な 反 応 を 得 る こ と は 重 要 。 患 者 が 私 を 受 け 入 れ て い る 。 患 者 に 接 す る こ と は も っ と も 重 要 。 患 者 の 理 解 は 専 門 職 と し て の 責 任 。 価 値 観 や 信 念 が 自 分 の 行 動 に 影 響 す る 。 判 断 が 困 難 な と き に 相 談 で き る 人 が い る 。 意 思 決 定 の 少 な い 患 者 は 他 の 患 者 よ り も ケ ア が 必 要 。 葛 藤 が 生 じ た 時 患 者 へ の 責 任 を 優 先 す る 。 良 い か 悪 い か 意 思 決 定 す る 時 に , 実 践 的 知 識 は 理 論 的 知 識 よ り 重 要 。 原 則 的 よ り も 感 情 的 に 患 者 に 望 ま し い こ と を 行 お う と 思 う 。 患 者 が 治 療 を 拒 む 時 , ル ー ル に 従 う こ と は 重 要 。 き び し い 規 則 は 特 定 の 患 者 の ケ ア に と っ て 重 要 。 患 者 に と っ て 難 し い 決 定 は , 病 棟 規 則 や 方 針 に 頼 る 。 患 者 の 回 復 を み な け れ ば , 看 護 の 役 割 の 意 義 を 感 じ な い 。 患 者 の 意 志 を 最 優 先 す る 。 意 思 決 定 し な け れ ば な ら な い こ と に 直 面 す る 。 患者 に と っ て 何 が 良 く て 何 が 悪 い か 知 る こ と は 難 し い 。 看 護 ・ 医 療 の 仕 事 は 個 人 的 に は 適 し て い な い と 感 じ る 。 患 者 に ど の よ う に 応 え る べ き か わ か ら な く な る 。 嫌 い な 患 者 に よ い 看 護 を 行 う こ と は 難 し い 。 患 者 が 薬 を 内 服 し よ う と し な い 時 強 制 的 に 注 射 を し よ う と 思 う 。 回 復 す る 見 込 み の な い 患 者 に , よ い 看 護 は 難 し い 。 看護行為 要素 No. 患 者 へ の 行 為 ︵ 17 / 24 項 目 ︶ 40 .300 42 -.313 -.356 51 .391 .324 55 -.333 45 .317 1 -.388 -.377 18 .458 .321 .348 14 .349 .335 38 .302 .396 .331 15 .340 .312 7 .307 .373 .325 .314 .456 .350 -.379 6 .324 .338 .310 .329 .306 54 .306 .311 .403 19 .445 .362 .330 .354 .359 21 .319 .384 17 .484 .390 .305 .373 .318 .484 58 .300 .362 .304 医 療 者 へ の 行 為 ︵ 12 / 14 項 目 ︶ 59 .308 .305 .362 .418 .341 8 .407 .328 25 .309 29 -.307 47 .314 .319 -.313 -.311 -.432 9 .403 .339 .362 .306 .318 28 .311 .334 10 .314 .316 32 .325 31 .325 .313 .348 13 .302 .367 .341 -.418 -.542 12 .416 -.323 環 境 ︵ 人 的 ・ 物 的 ︶ を 整 え る 行 為 ︵ 13 / 20 項 目 ︶ 22 .416 24 .323 26 -.389 52 .331 -.390 43 .326 46 .327 -.309 -.321 41 .325 -.331 56 .313 36 .353 11 .333 .318 .324 .349 60 .420 .332 37 .322 .321 .307 20 -.362 注:看護行為と MST の相関(Spearman 順位相関係数,r > 0.3,r < -0.3,p < 0.05 の項目抜粋)
をすることを患者に伝える」(r=0.445)「患者から得た 情報を病棟看護師に伝える」(r=0.403)との間に有意な 正相関があった。[患者の言動から私を受け入れている と思う]と「挿管中の意思の伝達方法を患者に確認してお く」(r=0.390),[患者に接することはもっとも重要]と「体 位固定の方法を患者に説明する」(r=0.373)「患者が手 術方法に疑問があるときは患者に説明を加えるよう主治 医に伝える」(r=0.362)との間に有意の正相関があった。 [患者の理解は専門職としての責任]と「手術の方針を直 接主治医に確認する」(r=0.416)「麻酔中の患者へ丁寧 な対応や言葉遣いをする」(r=0.391)「挿管中の意思の 伝達方法を患者に確認しておく」(r=0.373)「麻酔の方 針を直接麻酔科医に確認する」(r=0.367)との間に有意 な正相関があった。【忠誠】と看護行為 9 項目は,有意な 負相関(r<-0.3,p<0.05)があった。[嫌いな患者に良いこ とは難しい]と「麻酔の方針を直接麻酔科医に確認する」 (r=-0.418)「術前訪問は患者の同意を得る」(r=-0.388)「体 位固定の方法を患者に説明する」(r=-0.379),[患者が 薬を内服しないとき注射をしようと思う]と「個人情報の 伝達は他者に伝わらないようにする」(r=-0.390)[回復 する見込みのない患者によい看護は難しい]と「麻酔の方 針を麻酔科医に確認する」(r=-0.542)「医療者が不用意 に患者に触れていないか確認する」(r=-0.432)「術前訪 問は患者の同意を得る」(r=-0.377)「必要な範囲のみ露 出する」(r=-0.356)との間に有意な負相関があった。
Ⅵ . 考察
1. 患者の理解と情報伝達について 患者を理解することは,看護職者が対象者に適切な看 護を実施するための基盤である。看護者が自らの実践に ついて患者から理解と同意を得るために十分な説明を行 い,実施結果に責任をもつことを通して信頼を得るよう 努めることは基本的責務である(日本看護協会,2003)。 手術室看護師は医療機器や物品を多く取り扱うため,マ ニュアルに書かれている行動が安全に繋がる場面が多い ため,標準的な看護基準に沿った看護を重視し,患者の 意向に沿った看護実践場面が少ない。本調査結果から, 患者の理解を重視する者ほど患者への情報提供や主治医 や病棟看護師との情報共有をしており , 患者自身や他医 療者とズレなく患者のニーズを捉えて看護を行っている と考えられる。患者の身体抑制や手術室入室者の記録等 の実施は低値(約 40%)であった。身体抑制は二次的な 身体損傷や自尊心を損ねる行為であり,精神保健福祉法 (2000 年)や厚生省令(2002 年)に患者への理由の説明や 記録が義務づけられている。書くことは話すことと同様, 対象者を知るための重要な技能であり,正確に記録する ことは看護師の責務である。患者の状態や身体抑制など 手術中の事実を正確に記録し,患者に正直に伝えること は , 看護師としての説明責任を果たし患者の意思決定を 支えることになると考える。手術室看護師は,既成の看 護基準に沿った短時間の術前術後訪問を行うことで満足 せず,術前術後には個の患者に必要な情報を見極め看護 記録なども用いた訪問を行い,患者との相互理解を繰り 返すことで,患者にとっての最善を判断する感性が養わ れると考える。 2. プライバシーの保護について 患者の権利章典(アメリカ病院協会,1973)は,患者は 自分の診療にまつわる全てのプライバシーに関して万全 の配慮を受ける権利があり,検査や治療は内密にされ, 患者のケアに直接関与しない人たちが同席するために は,患者の許可を得なければならないとしている。しか し,看護師は,写真やビデオ撮影や手術室へ出入りする 者についての患者の同意を確認しておらず,プライバ シーを保護しているとは言えない。写真やビデオ映像は, 手術中の事実を示す情報開示の資料ともなる。患者・家 族の手術中の映像の開示希望や手術内容の理解の程度は 医師の認識よりも高い15)が , 患者が手術を誰にも見せた くない,誰の手術も見たくないという者もあり16),患 者の羞恥心やプライバシーの権利の捉え方には違いがあ る。看護師は,肌の露出だけでなく,医療者であっても 目的のない者の手術室への入室や写真撮影などの行為を 規制し,患者の希望も取り入れた情報開示とプライバ シーの保護を行うことで,守秘義務を果たしていくこと が必要であると考える。 手術室看護師の倫理的葛藤の多くが医師との関係であ る2)3)が,一方で医師に依存する傾向がある14)。従来 , 写真やビデオ撮影や手術に関るスタッフの決定は医師主 導で行っており,本調査結果からも看護師が直接医師か ら手術や麻酔の情報を得ることは少なく,看護師の医師 −看護師関係は上下関係と認識していることが推察でき る。医師−看護師関係は従来のヒエラルキー的関係では なく,相互に尊敬と興味がもてる協働体としての関係が 構築されてきており15),厚生労働省は,医療や看護の 質向上をめざし,看護師の業務拡大やチーム医療を推進 するなど,看護師はチーム医療のキーパーソンとして期 待されている。手術室看護師は,患者の擁護者としての 責務を自覚し,医師と合同のカンファレンスの場を設け , 情報の共有 , 葛藤体験や倫理的問題を討議するなど,患 者の意思を尊重した手術医療のあり方を提言できる存在 となることが望まれる。Ⅶ . 本研究の限界と課題
本研究では,看護行為 60 項目中 20 項目に欠損があり,有効回答が 56%と低値であった。欠損項目は,対象者 に該当する項目でなかったことが考えられ , 項目を洗練 していく必要がある。中村らは,MST は,守秘や患者 擁護の視点での項目がないことを指摘しているため12), 今後は看護行為として重要な“守秘”等の項目を加え,手 術室看護師の倫理的看護行為の精選を行うことが課題で ある。
Ⅷ . 結論
手術室看護師の倫理的感性と看護行為の関連を調査し た結果,以下の特徴が明らかになった。 1. 実施の割合が多かった(100%)看護行為は,「患者 の観察」「患者の羞恥心への配慮」「安全な物的環 境の整備」など 58 項目中 12 項目であった。少なかっ た(50%未満)看護行為は「患者への情報伝達」「人 的環境の整備」など 7 項目であった。 2. 倫理的感性と看護行為の関係は,【患者の理解】と 「情報伝達」に有意な正相関,【忠誠】と「情報伝達」 に有意な負相関があった。特に,患者の理解の[患 者の肯定的な反応は重要]と情報伝達の「挿管中の 意思の伝達方法を患者に確認する」「膀胱内留置カ テーテルを挿入することを患者に伝える」「除毛を することを患者に伝える」「患者から得た情報を病 棟看護師に伝える」間に有意な正相関,【忠誠】の[回 復する見込みのない患者によい看護は難しい]と 「麻酔の方針を麻酔科医に確認する」間,[嫌いな患 者に良いことは難しい]と「麻酔の方針を直接麻酔 科医に確認する」間に有意な負相関があった。謝辞
本調査にご協力くださいました対象者の皆様,病院関 係者の皆様に感謝申し上げます。 文献1) Jackie H.Jones(2010)Developing Critical Thinking in the Perioperative Environment. AORN Journal, 91 (2):248-256. 2) 中村裕美,志自岐康子(2006)手術看護における倫理的課題 . 日
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