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河川堤防の浸透性破壊を対象とした段階安全診断に関する研究

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河川堤防の浸透性破壊を対象とした段階的安全性診断に関する研究

2012 年 3 月

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目次 第 1 章 序論 1.1 研究の社会的背景 ……… 1 1.2 研究の目的と実施内容 ……… 9 1.3 段階的安全性診断とは ……… 10 1.4 本文の構成 ……… 12 第 2 章 流動地下水探査法を用いた河川堤防の基盤漏水検知 2.1 概要 ……… 13 2.2 各物理探査の概要 ……… 14 2.3 流動地下水による自然電位特性検証模型実験 ……… 19 2.4 実河川堤防を対象とした現地観測 ……… 27 2.5 まとめ ……… 36 参考文献 ……… 38 第 3 章 非 Newton 流体表現を取り込んだ VOF 法による高濃度土砂流の解析手法 3.1 概要 ……… 39 3.2 数値解析手法 ……… 40 3.3 非 Newton 流体モデルの概要 ……… 46 3.4 提案した計算手法の妥当性 ……… 49 3.5 防災科学技術研究所大型降雨実験による検証 ……… 57 3.6 まとめ ……… 59 参考文献 ……… 60 第 4 章 結論 ……… 61 謝辞……… 63

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第 1 章

序論

1.1 研究の社会的背景

近年の水災害の頻発によって,河川構造物の安全性に対する関心は極めて高まっている. 治水的視座からみ見た最重要社会基盤施設は河川堤防であり,この河川堤防の安全性とそ れによってもたらされる河川周辺域の安全性を如何に確保するかが河川工学上の至上命題 であると言って良い. しかし,河川堤防の特性は未だに十分な工学的解明に至っておらず,地震や出水等の外 力による破壊過程に関しても未解決の課題が多く残されている. 我が国の河川堤防は土堤原則に則り,盛土構造物として構築される.土堤であることは, 材料を確保し易い,補修が容易であるなどの利点がある一方,降雨や河川水の浸透による 構造不安定化や,流水の洗掘による変形をきたし易く,また地震時には液状化による被災 も懸念される.更に,圧密による経年変化や地震・出水といったイベントを繰り返し経験 することによる状態変化が想定されるため,その機能維持については不断のモニタリング を必要とすることとなる. 国土交通省河川局によって作成され,ホームページ上で公開されている「河川堤防設計 指針」(最終改正,平成19年3月23日版)には,河川堤防の具体的な設計指針が示されている が,その中で,モニタリングについても記載されている.「機能維持のためにモニタリン グ」についての記載を抜粋すると, --- 6.機能維持のためのモニタリング 堤防は延長の長い線状の形態を有し,歴史的な経緯を経て構築されてきた構造物である ことから,洪水および地震に対する堤防の信頼性を維持し高めていくためには,堤防の保 持すべき個々の機能に着目したモニタリングが不可欠である.モニタリングにより機能の 低下や喪失が認められた場合,あるいはその恐れがあると判断された場合には,直ちにそ の復旧や予防措置を講ずるとともに,必要に応じて堤防の構造,材料や設計の妥当性につ いて再検討することも重要である. モニタリングとしては,堤防の各部分に変状や劣化が生じていないか,降雨終了後も長 期間にわたり水が滲み出していないか,澪筋や河床高に変化がないかなどについて,日常 の巡視や調査等により把握するとともに,出水時に堤体及び堤防周辺の地盤の挙動,樋門 等の構造物周辺の漏水,あるいは堤体内の浸潤面の発達状況等を監視,計測すること等が 重要である. モニタリングの方法としては,目視によることのほか,堤防の個々の機能に応じて計器 を設置するなどして,出水時に生じた変化などを把握することが望ましい.堤防が洪水あ

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2 るいは地震により被害を受けた場合には,入念な調査により被害の原因やメカニズムを把 握して対策を行うことが重要である. --- とあり,機能維持には「モニタリングが不可欠である」こと,また「堤防の個々の機能に 応じて機器を設置するなどして,出水時に生じた変化などを把握することが望ましい」と 明記されている.あくまで設計指針であるため,個別に詳細な記載が為されないことは頷 けるが,当該設計指針の前半部における設計および安全性の診断基準の記載に比して,具 体的なモニタリング手法への言及が少ないのは,発生する現象の理解に始まり,その現象 をモニタリングするための機器およびモニタリング手法,ひいてはモニタリング結果の診 断手法といった各項目が,現在においても十分整理されていない状況にあるという背景も 垣間見える. 河川堤防に関する研究はこれまで様々な取り組みが為されてきており,その豊富な実例 からその現状と課題について総合的に論じられている.しかし,多岐に亘る河川堤防に関 する技術課題が統括的・系統的に論じられることは稀であり,発生する素過程としての現 象から,そのモニタリングや点検による異常の検知,そして最終的な補修・改修といった 一連の維持管理における取り組において,どのような技術的課題が存在し,喫緊の課題は 何であるのかについては,近年になって,その議論の端緒についたところである.図1.1は, 「破堤回避」という視点から見た河川堤防に関する現象の寄与の程度をまとめたものであ る.侵食・浸透・地震といった破堤要因は,水位上昇によって破堤の危険度が増大し,大 規模な堤防であるほど,その発生危険度が増大する.越流性破堤は計画高水位を超えた場 合に発生するが,大規模で堤高の高い堤防では発生し難く,昨今の傾向をみても,越流性 破堤は主に中小河川堤防において発生している.発生侵食・浸透は計画高水位以下で,出 水や降雨による先行浸透の影響はあるものの,出水とは無関係に発生する.一方,越流性 破堤は計画高水位を超えた場合に発生するなど,各破堤要因毎に想定されている外力が異 なっている. また,河川堤防の安全性は,2次元断面,桶門等を対象とした3次元領域および連続長大 線形構造物としてなど,その捉え方によって,技術課題も様々なものがある.表1.1に,河 川堤防の取り扱いと,破堤要因毎の技術課題を示し,浸透・地震・侵食および越流の各破 堤要因毎に技術課題を表1.2~表1.5に示した.従来の河川堤防に関する検討は,堤体および 基盤の横断面を対象としたものがほとんどであり,前述の河川堤防設計指針においても横 断面に対する検討が為されているのみである.3次元数値シミュレーションを行うことが実 務上でも可能な環境となってきているが,3次元的検討が業務上の必要検討事項とされるこ とが稀である背景から,基本的に横断面での検討に終始しているのが現状である.

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3 破堤の要因となる要素現象(各要素現象に応じて堤防の機能がある) 地 震 「破堤回避」から見た堤防に関する現象の寄与 浸 透 越 流 侵 食 計画高水位以下でも発生 計画高水位を超えて発生 大堤防 小堤防 箇 所 の 課 題 〔 堤 防 の 規 模 に よ る 整 理 〕 シ ス テ ム の 課 題 大 氾 濫 量 の ポ テ ン シ ャ ル 小 破堤に結びつくような各現象の生起頻度(危険度)のイメージ 小 水位上昇に伴う現象の安全への影響度(危険度) 大 堤防の 機能と 安全の 関係 箇所における被災・損傷・破堤の工学的定義(機能損失と施設変形の関係) 線状構造物、水系全体としての施設の安全(破壊確率)の評価 小 大 大 小 小 大 図1.1 破堤回避の視点からみた河川堤防に関する現象の寄与 表1.1 河川堤防に関する技術課題 時間的・空 間的な安 定 堤防に関する技術課題の整理 区間~水系 堤体 盛土内部 浸 透 地 震 越 流 (河岸浸食※) 侵 食 (堤体表法侵食) •植生耐侵食 •護岸安定性 •流速評価 •堤防材料と浸食速度 ・河道形状(湾曲・砂州 等)を考慮した河岸侵 食・局所洗掘の推定法 ・横断構造物周辺の河 床変動推定法 ↓ ■低水路法線形・河床 変動に関する河道計 画手法 ・堤防防護ラインの設定 ・河岸防護ラインの設定 •浸透流解析精度向上 •堤防~基礎地盤系の安定評 価手法の高度化 •破壊現象のモデル化 •3次元の浸透流モデル ■個別の断面、箇所を一体的に取り扱い連続構造体(氾濫防御システム)として安全性を評価する技術 ・連続堤防の信頼性解析(侵食も含む) •クラック等の変状点検手法 •地下水位等観測技術 •植生管理 •モグラ等損傷対策 (点検・補修?) •護岸、鋼矢板点検 •洗掘深観測 ■連続構造物である堤防 の弱部を効率的かつ的確 に評価するための調査手 法の確立 ■各断面・箇所における現 象毎の手法の統合化 ■各外力に対し安全性が 高められ、修復性を堅持 した統合的な堤防構造、 強化対策 共通課題 経時変化点検(モニタリング)技術(表面、堤体内部、基礎地盤の劣化・変状と安全率)=既往技術の改善、物理探査、リモセン等の新技術の導入 点検(モニタリング)の効率的な記録、評価技術 持続可能なモニタリングシステム(地域協働等)の整備 歴史的な築造経緯等を反映した断面・土質パラメータ設定手法(不均質な構造とその物性把握の効果的方法) 既往調査・点検等を踏まえたより効果的な調査箇所選定手法 安全評価に係る調査項目(堤体物性値等)の再整理と調査手法の改善、効果的な点検手法 対策工の点検技術の開発 •被災、損傷、破堤の工学的定義(機能損失と施設変形の関係) • 堤防機能確保において総合的な観点からの安全度の評価技術 •施設の安定性を実洪水によって確認した結果を信頼性評価結果に反映する(取り込む)技術 •点検による損傷発見の確実性および損傷の程度と機能低下の関連づけ (→維持管理の信頼性向上に関する定量的評価=維持管理水準とフラジリティ・カーブ変化の関係) ※河岸侵食の課題は堤防に直接的に関連したものに限り取り上げ ている。 個々の変状と安定の関係=変形と安全との関係、性能の評価、強化対策手法 対策工の耐劣化、補修技術の開発 修復性の高い応急復旧・補修対策 効果的・持続的な水防技術 各々の破壊進行プロセスの解明 被災履歴等を踏まえた安全性の評価 照査手法の精度向上、高度化 堤防の機 能と安全の 関係 断面の 安定 箇所の 安定 連続構造 体の安定 堤体自体の経時変化と安定との関係 詳 細 は 別 紙 現象 現 象 の 主 な 対 象 範 囲 物性の経時的変化(沈下、洪水・地震履歴などによる累積的な劣化・ゆるみ、及び維持管理の効果)の評価手法 物性変化、変形、安定性変化という連成系の評価技術 •堤体・基盤浸食対策手法 •すべり安定性 •地震時変形解析手法の改良 •堤体内水位観測技術 •ドレーン工等対策工法の評価 •対策時の変形解析手法 •堤体内水位の低下対策手法 調査 段階 照査 段階 対策段階 維持管理段階 旧河道等、地盤の不均質性の評価手法 樋門樋管周辺・特殊堤との取り付け部・坂路等の不連続部の評 価技術

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4 表1‐2 浸透に関する技術課題 • 内部構造・物性 • 土質調査、物理探査、履歴調査などによって堤防の内部構造を把握する技術の高度化、照査モデルへの反映 • 土羽部の評価、高水護岸の透水性評価といった部材の物性評価 • 堤防の内部構造をモデル化する際に、解析・検討上満たすべき精度水準 • 基礎地盤の微地形、旧地形、地層構成、地盤高変化などを反映した地盤の断面モデル化と一連区間細分 • 降雨・洪水時等の状態としての物性(強度、透水性)の適正な試験・評価法 • 圧密沈下や降雨・洪水・地震などの外力履歴によって、累積的に堤防内部、基礎地盤に生じる劣化やゆるみなどの評価 • 調査体系 • 地盤工学的知見を反映した常時、洪水時の巡視、点検の検討 • 杭基礎、柔構造基礎形式の樋門・樋管周辺堤防における浸透弱部形成の違いと影響程度の調査、評価 • 調査箇所の選定及び弱点箇所の抽出技術 • 浸透に対する安全性の検証や、リアルタイムに評価できるモニタリング技術の構築 調査 •要求性能 •要求性能と限界状態の整理 •解析技術 • 安全性照査手法(中間土やレキ質土における土質強度の設定手法、飽和-不飽和特性設定技術、初期堤体内水分量の設定技術等)の向上 • 土、水、空気の3相系がもたらすエアブロー等の現象の堤防に与える影響の評価 • 設計超過外力に対する安全性照査方法の検討 • 浸透と変形の連成解析等を活用した堤防変状評価技術の検討 • 評価 • 実際の堤防における開削調査や浸透挙動観測に基づく解析技術の検証 • 堤防の縦断方向、三次元的な安全性評価の高度化 • 堤防の被災を示す評価指標(すべり安全率、局所導水勾配、G/W)の代表性の検証 照査 • 設計 • 個別対策技術の適用性、効果の確認と設計手法の体系化 • 維持管理の容易さ、修復性、超過外力への耐性を総合的に備えた浸透対策工法 • 樋門等構造物周辺堤防におけるグラウト等による応急的対策より効果が持続する対策あるいは樋門止水工設計技術 • リリーフウェル • 維持管理 • ドレーン工等の長期的な効果の確認と構造の改良 • 照査結果(評価指標)の経年的な変化の評価 • 樋門等構造物周辺堤防における空洞、ゆるみに対するグラウト等応急対策の施工管理、効果確認技術 対策 検討 3 表1‐3 地震に関する技術課題 • 調査手法 • 堤体内閉封飽和域の液状化、基礎地盤の液状化に関する簡便な調査法の確立 • 地震による堤防、基礎地盤の損傷程度、損傷範囲の把握技術(応急対策優先度の高い被害の抽出技術) • 地震による堤防の被災メカニズム調査技術 • レーザースキャナなどを活用した被災形状等の迅速な把握技術 • 地震後の樋門及び周辺堤防点検手法の高度化 • 調査体系 • 地震計、間隙水圧計などを用いたモニタリングシステムによる被災検証 調査 • 要求性能 • 要求性能と限界状態の整理 • 解析技術 • 堤体の液状化の変形解析技術の開発及び統合的な変形解析技術の開発 • 堤防の耐震照査に用いる解析技術の高度化 • 地震による堤防の被害程度予測(閉封飽和域と基礎地盤の液状化) • 評価 • 地震動の設定 • 河川水位、液状化評価に関わる堤体内水位、基礎地盤水位設計値の設定 • 地震による被害堤防の安全性(耐浸透・耐侵食機能の残存)評価及び復旧の容易さの評価=照査基準の再検討 • 機能損失と被災範囲・程度の関係の明確化、地震による被害程度の指標化 照査 • 設計 • 浸透対策機能などの原機能を損なわず、経済的で急速施工可能な復旧工法 • 現地の多々な施工条件に対応できる復旧技術、施工技術 • 浸透対策などと統合した耐震工法 • 維持管理 • ドレーン工等の長期的な効果の確保(浸透と同様) 対策 検討 4 表 1.2 浸透に関する技術課題 表 1.3 地震に関する技術課題

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5 表1‐4 堤防表のり面の侵食に関する技術課題 • 堤防形状・土質特性・護岸状態 • 堤防形状と流水特性の影響評価 • 土質や護岸状態による耐侵食性の調査 • 河道の流下能力照査のための断面形,植生調査 • 河道形状・粗度状況・堤防法線形状に応じた堤防近傍流速の算定手法 • 護岸,根固めブロック配置状況 • 表面の植生と断面の材料特性など堤防の耐侵食性評価 • 低水路河道,低水路と堤防間の距離などの河道の経年変化 • 調査体系 • 侵食形式の整理法面侵食と堤脚部侵食 調査 • 要求性能 • 要求性能と限界状態の整理 • 侵食継続時間と破堤の整理 • 侵食破堤過程の解明と破堤進行性過程における治水効果の整理 • 解析技術 • 堤防近傍の洪水外力の評価 • 洪水による河岸侵食量,護岸前面の局所洗掘推定 • 護岸,根固めブロックの流れ,洗掘,吸出しにかんする外力推定と安定性照査 • 洪水外力による堤防侵食量の推定 照査 • 設計 • 河道の洗掘対策(護岸,根固めなどの直接防護,水制などの間接防護) • 表面植生などの堤防の耐侵食性向上、植生管理技術 • 腹付けなどの粘り強さ向上 • 維持管理 • 法面の点検手法 • 出水時の画像等による監視技術 対策 検討 5 表1‐5 越流に関する技術課題 •堤防形状・越流特性 •堤防の縦断高さ •天端形状,越流侵食の基点となる凹凸形状の有無、堤体内空気の排気機能 •裏法表面の勾配および形状,裏法小段の影響やガリー侵食の誘因となる凹凸の有無 •裏のり尻の構造(水叩きの有無) •背後地の状況(舗装道路、田畑等) •天端および裏法面の耐洗掘性能 •土質・圧密状態からの耐越流性能 •越流水深と法面に作用するせん断力の関係整理 •複合的視点 •先行降雨等による越流発生前の堤体裏法面の強度低下 •堤体内浸透による裏法尻等への浸透流の到達による強度低下 •土質・植生等の不均質性による耐力の変動の大きさの把握(締め堅め、植生状況により越水耐力は大きく変化→照査の仕方、対策の考え方に影響) 調査 • 要求性能 • 要求性能と限界状態の整理 • 越流継続時間と破堤の整理 • 解析技術 • 現状河道の洪水流下能力の総合的な評価(越水深・越水継続時間の縦断分布、洪水の非定常性,断面形,抵抗の縦断変化,河道貯留を含む) • 洪水外力による堤防侵食量の推定 照査 • 設計 • 表面植生などの堤防の耐侵食性向上 • 腹付けなどの粘り強さ向上 • 裏法肩および裏法尻部の改良河川管理区間外となる土地利用が制御できないことを念頭に置いて • 越流堤防・アーマー・レビーの効果の定量的評価、位置付けの整理 • 裏のり尻への水叩き工の設置 • 堤体内空気抜き工の設置 • 維持管理 • 天端や表面形状の凹凸点検 • 植生の剥がれ等の点検 • 出水時のカメラ画像監視 対策 検討 6 表 1.4 堤防表のり面の浸食に関する技術課題 表 1.5 越流に関する技術課題

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6 しかし河川堤防は,霞堤など一部の特殊堤を除き,線形構造物として上流から下流まで 連続的に河川水を遮断して始めて機能する構造物であり,ほとんどの区間で機能維持がで きていたとしても,一部区間であっても弱点箇所が存在すると,そこから破堤・氾濫に至 り,広域に亘る治水機能が失われ,周辺居住域に甚大な被害をもたらすことになる.しか し,河川堤防の延線は関東圏内の主要河川堤防に絞ったとしても,左右岸併せて400km超と 長大であり,その全区間で均一な品質を維持することは極めて困難である. いまひとつ,河川堤防の取り扱いを困難にしている要因は,堤体内部および基盤構造の 不均質性である.河川堤防はそもそも流水の自然作用によって生成される自然堤防を基と して嵩上げ・腹付などを繰り返して構築されてきた,いわば半自然構造物であり,時代毎 に構成材料および施工方法が異なることから,現状における堤体の内部構造は,完全に施 工し直した堤体を除けば,一般的には不均質である.土質力学に則った各種解析手法が高 精度化され,河川堤防の諸問題が高精度に解析出来るようになっているが,解析の元とな る内部の土質特性が得られなければ実用的な解析結果を得ることができず,この実堤防内 部の土質特性をいかに精密に取得できるか,が重要課題となっている.堤体内部の土質特 性を把握するためには,最終的にはボーリング調査を行って採取されたサンプルから判断 するしかないが,一般的に河川堤防を対象にボーリング1本打つと100万円弱の費用がかか るため,費用的制約から高密度に実施することは不可能である.このため一般的には,1本 程度のボーリングと物理探査の結果を比較検討しながら堤体内部の土質想定図を作成し, それを元に各種解析を実施することとなる.しかし,前述のように元々不均質な状態であ るため,点データから面的な解釈に利用しようとした際のボーリングデータの代表性はほ とんど無いものと考えられるため,広範に適用することは危険である.河川堤防に関する 各種検討が,堤体の断面を対象とした検討がそのほとんどを占めているという背景には, この広範囲での不均質土質特性を高精度に取得することが困難であるという理由もある. 2004年,新潟・福島豪雨,福井豪雨および台風第23号出水と連続して水災害が発生し, 河川堤防の破堤による激甚な被害発生が続発した.表1.6にそれら水害の概要を示す.これ をひとつの契機として,我が国初の,全国一斉河川堤防詳細点検が実施され,1km間隔で複 数本のボーリング調査と,それに基づく数値解析による安全性診断が為された.これまで も,特定区間を対象とした検討は為されてきていたが,全国一斉に,一定の基準に則って 安全性の診断が為されたのはこれが初であり,換言すると,極近年まで,河川堤防の安全 性が全国的な規模で評価されたことが無かったことを意味しており,費用的・労力的にも, また技術的にも,非常に困難な事業であることが窺える.診断結果は随時公開されており, 新聞紙上に再三取り上げられる(写真1.1(a)および(b)参照)など,水害の頻発という背景もあ り.一般国民の関心も極めて高まってきているといえる.新聞紙上の「36%強度不足」や「3 割点検不足」といった数値は必ずしも実態を表しているものではないが,まずは全国的に 統一診断を行い,数値的結果を示したという点で大きな成果であったと考えられる.

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7 表1.6 2004年主要な破堤水害の概要 新潟・福島豪雨災害 福井豪雨災害 台風第23号災害 日時 7月12~13日 7月17~18日 10月19~20日 主因 梅雨前線による豪雨 梅雨前線による豪雨 台風第23号による豪雨 概況 ① 13日の日降水量が新 潟県栃尾市で421mm ② 長岡・三条地域一帯で 最大日降水量の記録 更新 ① 18日の福井県美山町 で1時間に96mm ② 総降水量は7月の平均 月降水量を上回った ① 四国地方・大分で総降 水量500mmを超える ② 総降水量は7月の平均 月降水量を上回った 破堤 ① 五十嵐川(新潟県管理 1級河川) ② 刈谷田川(新潟県管理 1級河川)で6箇所 ① 足羽川(福井県管理1 級河川) ① 円山川(直轄1級河川) ② 出石川(直轄1級河川) 死者・行方 不明者 16名 5名 97名* 土木施設 被害総額 845億円 323億円 404億円* *土砂災害等,水害以外の被災分も含む 写真1.1 新聞紙上での河川堤防の安全性診断結果に関する記事 (読売新聞朝刊,(a)左:平成18年9月25日,(b)右:平成20年10月3日よりそれぞれ抜粋)

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8 そしてその一方で,現状の課題が改めて浮き彫りとなった.断面毎に3~5本程度のボー リング調査を行って数値解析を行うと,各断面につき500万円程度の費用がかかる.これを 1km間隔,必要に応じて更に詳細に実施し,左右岸の堤体を対象とすると,巨額の費用を必 要とする.このため,1km間隔では局所性の高い堤体の土質を調査するには粗過ぎるという 実態はあるものの,これ以上密なデータの取得は,全国共通という木場では不可能であり, 更には,今次の全国一斉詳細点検と同密度の調査であったとしても,今後の実施は難しい 状況であると考えられ,現状況に立脚した効率的な維持管理手法の確立が必要となってく る. 効率的な維持管理手法の確立が急務となっているいまひとつの背景に,行政の維持管理 予算の低下と施設の老朽化問題が挙げられる.高度経済成長期に設置された河川施設の多 くが経年劣化により補修を必要とする状況にあり,今後その数が増大すること,更には, 河川施設の維持管理費の縮減によって,従来のような投資余力が期待できないといった背 景からも,やはり河川構造物の効率的な維持管理手法の確立が喫緊の課題であるといえる. 河川堤防の安全性診断には,ボーリング調査等による現地観測と,それによって得られ るデータに基づく数値解析的検討が重要である.ボーリング等の土質調査は,直接的に現 場の土質データを取得するものであり,各種解析はこれらデータに基づいて実施される. しかし,あくまで点データであるため,断面あるいは 3 次元的な一定区間の解析を行う場 合,何がしかの方法で補完せざるを得ない.堤防横断面を考える場合,断面内の複数のボ ーリングデータを元に,施工履歴等の既存資料や土質学的観点を取り入れながら土質図を 想定し,解析の基とする.この際に,面的な情報としての場を補完する有効な手法が物理 探査である.物理探査には土質構造を推定するための表面波探査や土中の含水状態を推定 するための電気探査など各種存在するが,いずれの探査も S 波速度や比抵抗,温度や電位 といった物理因子の振る舞いを観察しているものであるため,直接的に工学値を示さない. このため,物理探査の結果は,ボーリング調査などの結果との整合性の検証が為されたう えで用いられることが一般的である.物理探査の結果からは面的な詳細情報が得られるた め,正しく用いれば極めて有効なアプローチとなる.しかしながら不適切な状態での実施 や適用限界を超えて使用されるケースが散見され,結果として物理探査の有効性が疑問視 されてしまう場合がある.土質想定図や物理探査によって,断面あるいは 3 次元空間的な 土質構成が得られると.それに基づく数値解析的検討が為される.広域な河川堤防を対象 とする場合,数値解析は強力なツールとなる.土質工学に立脚した各種数値解析手法は堤 防の耐震性や堤体内部の浸透問題など多くの現象に対して極めて高精度に解析することが 可能となってきている.このため,高精度な解析を実施できるかどうかは,立脚する現場 の土質データをどれだけ忠実に取得できるか,にかかっている部分が大きい. 河川堤防における課題に対する数値解析手法のうち,土質工学に立脚する諸問題につい ては,その発展は目覚ましい.また,堤外地側堤脚部や法面の侵食問題など,土は掃流砂 として捉えることが可能で,基本的には流体力学に立脚した検討が可能となる諸問題など

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9 も同様に従来,様々な研究がなされてきた.しかし,地震による破壊を除き,流水あるい は浸透水による河川堤防の破堤過程における諸現象の本質は,土質工学と水工学の学際的 な現象であり,その取扱いの困難さ故にこれまであまり検討が為されてこなかった. なかでも浸透性破壊は,本質的に堤体表面での現象である越流や洗掘といった破堤形態 と異なり,構造の複雑な堤体およびその基盤部における不均質浸透場であり,現象の把握 が比較的困難である.前述したとおり,破堤実績として最も多いのは越流性破堤であるが, これは,堤高の比較的低いことによって越流が発生し易い中小河川堤防を対象としたもの がほとんどであり,堤高が 10m ほどの利根川堤防などの大規模河川堤防では発生する可能 性は低い.逆に,利根川堤防のような大規模河川堤防では,長時間に亘って高水位が継続 するため,堤体内への浸透時間が長くなる.このため,大規模堤防であるほど浸透性破堤 に対する検討を十分に行わなければならないといえる.実際,利根川堤防では毎年のよう に大規模な堤体および基盤漏水被害が発生しており,平成 13 年 9 月の台風 15 合出水の際 には埼玉県加須市大越地先(利根川右岸 139km)にて大規模なボイリングによる基盤の空洞 化が発生している.特に利根川のような大河川の右岸が決壊すると,氾濫流は関東平野の 勾配に沿って首都圏に至ることが想定され,その被害総額は 34 兆円とも試算されている. これら被災実態を背景に,国土交通省関東地方整備局利根川上流河川事務所では「首都圏 氾濫区域堤防強化」として数々の事業を実施しているが,現象の解明およびその対策共に, 未解決の課題が山積している状況にある.

1.2 研究の目的と実施内容

以上のような背景をふまえ,本研究では,取り扱いの難しさから比較的取り組みの遅れ ている浸透性破壊を対象として,「河川堤防の維持管理の現場において実施可能な安全性診 断手法の構築」および「堤体浸透による高濃度土砂流化に伴う流動変形過程の数値解析」 の 2 つの視点から検討を行うことより,段階的に河川堤防の安全性診断することを目的と した.「河川堤防の維持管理の現場において実施可能な安全性診断手法の構築」は,流動地 下水探査法という物理探査を用いた検討を試みる.流動地下水探査法は竹内によって開発 された比較的簡便且つ安価に流動地下水を検知することができる物理探査であり,河川堤 防のような高密度に且つ広域に探査する必要がある対象には適している.また,「堤体浸透 による高濃度土砂流化に伴う流動変形過程の数値解析」は,高濃度土砂流状態の再現手法 として一定の有効性が報告されている Bingham 流体を中心とした非 Newton 流体モデルを用 いた解析手法の開発を試みる.高濃度土砂流化した状態で流動する高濃度土砂流現象は, その含水状態によって,土構造物としての振る舞いと流体としての振る舞いが混在した現 象であり,このため土質力学と流体力学の学際的な取り組みが必要となる.しかし本研究 では,土構造物として振る舞う間の土質力学的な検討は行わず,流体として流動現象を開 始する時点から,再停止するまでの流動‐再停止過程を対象として解析手法を開発するこ ととする.

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1.3 段階的安全性診断とは

本研究の題目である「河川堤防の浸透性破壊を対象とした段階的安全性診断に関する研 究」の段階的安全性診断とは 1 次診断,2 次診断,3 次診断および数値解析に分けられる. まず,浸透性破壊の主要因である流動地下水の存在の可能性が高い箇所を物理探査である 1 次診断,2 次診断で特定する.次に 3 次診断として,その特定した箇所においてボーリング 調査を行い,流動地下水の存在の有無の確認および土質データを採取する.最後にボーリ ング調査で得られた,流動地下水の存在している状態(流動方向や規模等)および土質デー タから数値解析を行い,総合的に河川堤防の安全性を診断するものである.上述した段階 的安全診断の解析フローを図 1.2 に示す.例えば,図のように流動地下水(漏水)が存在して いると,段階的安全診断手法は以下のようなアプローチをとる.表 1.7 に各物理探査の作業 費用を示す. ① 1 次診断(1m 深地温探査,自然電位法)・・・地盤の温度変化,電位変化により流動地 下水が存在している可能性が高い箇所の検知を試みる.図では 2 箇所で異常値が検出され, 流動地下水の存在の可能性を示している. ② 2 次診断(微動アレー探査)・・・1 次診断で異常値が検出された箇所において,微動ア レー探査を用いて地盤の内部構造を推定することにより,さらに流動地下水が存在してい る可能性が高い箇所を絞り込む.図では 2 箇所に微動アレー探査を行い,そのうちの 1 箇 所において,流動地下水の存在している可能性が高い地盤構造であることが分かった. ③ 3 次診断(ボーリング調査)・・・1 次,2 次診断の結果から,流動地下水の存在してい る可能性が高い箇所に対してボーリング調査を行い,流動地下水の有無の確認,土質デー タを得る.図ではボーリング調査の結果,その特定された箇所で流動地下水が確認し,土 質データを採取した. ④ 数値解析(VOF,FEM 法)・・・ボーリング調査から得られた,流動地下水の存在して いる状態(流動方向や規模等)および土質データから数値解析を行い,河川堤防の安全性を 検討する.

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11 図 1.2 河川堤防の段階的安全診断フロー 表 1.7 各物理探査の費用 物理探査名 1m 深地温探査 自然電位法 微動アレー探査 費用 100 万円/km 50 万円/km 200 万円/km ※1m深地温探査,自然電位法は 5m間隔で計測した場合である. ① ② ③ ④ 3次診断

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1.4 本論文の構成

本論文の構成を以下に示す. 第 2 章では,本研究で用いる 1m 地温探査,自然電位法および微動アレー探査の概要を示 す.次にその探査手法の一つである自然電位法について行った 2 の模型実験について述べ る.実験を行った理由については,自然電位法は流動地下水検知に関して即時性に優れて いるが,測定状況,測定環境および流動地下水自身の規模,流速の影響を受けやすく,安 定性に欠ける問題があることが分かっているためである.そこで 1 つ目の模型実験では, 人工流動地下水を作製し,流動地下水に対する接地位置の違いによる電位変化を検証した. 2 つ目は浸透流の定常状態の簡易モデルを作り,その勾配を変えることによって生じる流速 変化が電位変化に与える影響を検証した. 3 つの物理探査を用いて現場計測を行った.現場計測は国土交通省関東地方整備局渡良瀬 川河川事務所管内である川崎サイトと福富サイトで行った.2 つの計測現場は全国一斉で行 った河川堤防の安全性の診断により,その安全性が懸念せれている区間である.その区間 において,1m 深地温探査,自然電位法および微動アレー探査を行い,その計測データを検 証・考察することによって,河川堤防の基盤漏水の危険個所を特定した. 第 3 章では,非 Newton 流体表現を取り込んだ VOF 法による高濃度土砂流の解析手法を 試みる.地震・集中豪雨が引き起こした液状化による堤体破壊は随所に確認されている. 高含水率の堤体においては,崩壊までは飽和・不飽和浸透流解析を行えるが,せん断降伏 点を超える高流動となり,水工学的な解析が必要になる.水工学では一般的に Newton 流体 の取り扱いが主であるが,このような現象には非 Newton 流体解析が有効で,液状化による 堤体の崩壊過程は非 Newton 流体の一つである Bingham 流体の挙動に近似することが分かっ ている.そこで本研究では,既存の VOF 解析に時空間的に変化するひずみ度に対応して粘 性係数を変化させることで,堤体の流動変形し,内部の高粘性によって再停止するといっ た進行性の破堤過程の解析手法を構築する.解析手法の構築後,計算結果を理論解と比較 して精度検証を行ったうえで,防災科学技術研究所の大型降雨実験施設で実施した,人工 降雨による土砂崩壊実験の結果と比較し,高濃度土砂流の移動から停止までの流動過程を 再現し,その精度検証を行う. 第 4 章では,本論文で得られた成果をまとめる.

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第 2 章

流動地下水探査法を用いた河川堤防の基盤漏水検知

2.1 はじめに

2004 年に,新潟・福島豪雨,福井豪雨および台風 23 号により,破堤を伴う洪水災害が多 数発生したのを機に,河川堤防の全国一斉調査が開始された.その結果,安全性に問題が あると診断された区間が多数存在することが発表されている.これらの背景を受け,河川 堤防の安全性に対する関心は,河川管理者のみならず,周辺住民においても極めて高まっ ている.しかしながら,河川堤防がどの程度安全であるかを診断する手法は現在において も十分確立されているとは言えず,その確立が急務となっている状況にある.河川堤防の モニタリングシステムの確立が困難である主な理由は以下の 3 点であると考えられる. ①河川堤防が長大な構造物であることで,その全域をカバーしきれるモニタリング手法の 構築が困難であった.②構成材料施工方法などが様々で,内部構造に関して極めて局所性 が高い.③河川整備の予算が縮減されてきており,高度経済成長期の様な潤沢な投資余力 が見込めないことによる. 近年では,社会基盤施設の劣化の問題が挙げられる.1955 年から 1973 年辺りの,所謂高 度経済成長期に施工された社会基盤の多くが,施工から 50 年近く経過したことになり,そ の多くが経年劣化によって補修を必要とする状況となってきている.図 2.1 に,河川施設を 例にとった,河川整備に対する予算の経年変化および施工後 50 年を超える河川施設数の経 年推移を示す.行政としても,その必要性を把握していながらも,社会基盤の点検・補修 を十分に行うことができない状況にある. そこで本研究では,長大且つ局所性が高い河川堤防を対象とし,維持管理費減少の状況 下であっても十分に実施可能な観測項目を選定した.破堤の形態としては,浸透性破壊に 対する安全性の検討を念頭におき,堤体における浸透水に注目した.計測手法としては地 下水探査手法として有効性が認められ,既に実務で用いられている 1m 深地温探査,自然電 位法を行い,この 2 つの物理探査により異常値が確認された箇所について微動アレー探査 を行った.計測現場は国土交通省関東地方整備局渡良瀬川河川事務所の管轄区間である川 崎サイト,福富町サイトであり,その河川堤防を対象として流動地下水の検知を試みた.

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14 図 2.1 河川施設費と維持管理費

2.2 各物理探査の概要

a) 1m 深地温探査の概要 河川堤防の地質調査にはボーリング調査などが実施されるが,広域をカバーしようとする場合, 費用的制約から密な調査間隔での実施は困難である.全国一斉堤体調査においても平均的には 1km 間隔が限界であり,その土質データを元に F.E.M.解析等による検討が為されているのが現状 であるため,堤体の安全性の診断もこれらデータを元に判断されている.大局的に傾向を掴む目 的において,これらの手法は有意義であると言えるが,実際の河川堤防の維持管理する上で有用 な知見であるとするには疑問がある.それは,破堤の引き金となる堤体の劣化は極めて局所的で あると考えられ,1km 間隔でのボーリング調査ではカバーしきれない.従って,更に密な計測が 可能であり,なお且つ費用的に実現可能な調査手法が要求されている. そこで本研究では,堤体の状態を診断する上で重要な要素である堤体内の浸透水の状態を計測 項目とし,その計測を 1m 深地温探査によって行うことを試みた.1m 深地温探査は竹内によって 開発され,地すべり地や斜面崩壊現場,貯め池における漏水や一部の河川堤防を対象として,地 下水探査あるいは流動浸透水の挙動把握において膨大な現地観測の結果から,その有効性が確認 されている手法である.1m 深地温探査は元々,地下水が層状に帯水しているのではなく,極め て局所的・選択的に流動している,所謂「自然地下水」として自然環境下において存在している ことを前提として,その不規則且つ複雑な地下水の状態を調査する為に開発されたものである. 写真 2.1 に切り取り斜面の自然地下水状態で流動する地下水の路頭を示す.部分的に黒く見える

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15 領域が地下水流動のある領域で,防災上の観点から見た,比較的浅い深度においては,層状に存 在する地下水の方が稀であり,その多くは自然地下水状態で存在している.河川堤防は,その内 部構造が複雑であるため,同じく局所性の高い浸透流状態が予測されるため,その調査手法とし て 1m 深地温探査は有効な手法であると考えられる.1m 深地温探査の計測手順は以下の通りであ る.また 1m 深地温探査おける計測機器一式を写真 2.2 に示す. ① 径 3cm 程度杭を 1m の深さまで打ち,孔を穿つ. ② 先端に測温体を設置したセンサを孔に挿入し,測温体が地温に馴染むまで 5~10 分待って温 度を計測する. ③ ①,②の作業を適当な間隔(1m~5m)で連続的に行い,その温度変化から流動地下水の検知を 試みる 写真 2.1 斜面切り取り部の流動地下水の路頭 写真 2.2 1m 深地温探査計測道具一式

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16 図 2.2 流動地下水と温度の関係 また計測データの解釈にあたってはいくつかの注意事項がある.図 2.2 は,流動地下水と地温の 関係を示した図である.1m 深地温探査によって地下水検知を行える原理は夏季および冬季にお ける 1m 深における地温と水温の差が安定して計測できる点にある.すなわち,夏季においては 地温に対して低温部が,冬季においては地温に対して高温部が地下水の存在する可能性を示唆す る.他の電気的物理探査に比べてデータの安定性が高いが,春期および秋期の地温と地下水温の 差が顕著に見られなくなる時期においては実施することを勧めていない.また,水温が周囲の地 温に有意に影響を及ぼすのに 1~2 カ月を要するため,必ずしも計測したその瞬間における地下水 流動を捉えているとは限らず,過去 2 カ月程度前から現在における時期に,地下水が存在したこ とを示唆する,ということを意味している.この特性より,1m 深地温探査では,その適用期に おいては定常的な安定した計測結果を得ることができるが速報性に欠けるため,何らかの物理探 査を併用するか,あるいはボーリング等の調査を合わせて実施する場合が多い. b) 自然電位法の概要 竹内らによれば地中には,常時各種の電気が流れている.そこで,適当な間隔で電極を接地し て,その間の電位差を測定することにより,それぞれの場所に応じた電位差を得ることができる. 自然電位法(Self Potential Method,SP 法とも呼ぶ)とは,浅層地下水の流れによって発生する電位 や地表や地下の自然電位分布から地下の情報を取得する物理探査手法の一つである.また,自然 電位法は比較的迅速かつ簡便に観測を行えることから地下水以外に,鉱山探査・温泉脈・などの 流動計測にもしばしば用いられている.換言すると,人体の健康診断として用いられる心電図の ようなものである.これは心臓の鼓動によって,人体に隅無く送り出される血液の流動によって 生じている電位変化を測定している.地中にはその中を移動する流体(雨水,上下水道,温泉な 水ミチ付近(点線で囲まれた領域)は流動地下水の影響 を受け温度が一定に保たれています. 流動地下水 水 地下水面 測定点 地表面 基盤岩 深 度(m ) 温 度( ℃)

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17 ど)が存在し,その流体が流れることによって電荷が搬送されるため地表面ではそれぞれに応じ た電位差が生じることになる.また,自然電位を測定して地下水の流れを把握しようとする場合 は注意すべき点がある.それは流体が存在しない場合においても,鉱床,送電線,金属物体,電 車,工場のモーター等,様々な要因により電位は乱れており,得られた結果にそれらの影響が含 まれているからである.特に都市部において自然電位法測定の適用は難しいと言える. 自然電位法には非分極性電極が使用されており,本研究で用いた電極は日本防蝕工業株式会社 製の硫酸銅電極である.電極間の電位差は分解能 0.1mV 程度の標準的なデジタルマルチメータを 使って測定した.なお,竹内らによれば,長年の蓄積データから,適用範囲は地下深 30mまで測 定可能であるとしている.写真 2.3 は電極の外観であり,写真 2.4 は現場での計測状況である. 写真 2.3 硫酸銅電極(日本防蝕工業株式会) 写真 2.4 現場での計測状況 c) 微動アレー探査の概要 本研究では,2 次診断として微動アレー探査を行った.微動アレー探査の計測方法は簡便であ り,騒音・振動および産廃などを発生させないため,集落や都会の中でも実施できる特長を有し ている.従来,地震基盤など大深度の調査に利用されていたが,最近では土木建築分野などに適 用されている.以下に微動アレー探査の概略を示す. 地表には人為的な振動や自然に起因する波動が常時伝播しており,特に震源を特定できない微 小な振動を微動と称している.この微動は実体波や表面波からなり,この波動現象は発生源,伝 播経路,地下構造などによる影響因子を包含している.微動アレー探査は地表面の分散現象を捉 え,その分散特性から地下構造を推定する技術である.分散現象とは図 2.4 に示すように,周波 数によって速度が異なることである.通常横軸を周波数(波長),縦軸を位相速度で表される.分 散曲線の位相速度は波長の 1/2(~1/6)の地下深度とされ,一般的に低周波の波動が早く到着し, 高周波の波動が遅れるため,伝播距離が長くなるほど波形が分散する.図 2.4 に微動アレー探査 の解析フローを示す.

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18 ① 地表面の微動を観測する 図 2.5 のように,地表面に複数の地震形を中心点と円周上等間隔に配置し微動を観測する. また微動アレーの最少観測点は 3 点必要であり,正三角形の中心と各頂点に地震計を配置し て微動を観測する.この微動には人為的活動や気象などに由来する伝播距離,方向,振幅お よび周波数の異なる波動が複雑に混在している. ② 分散曲線(位相速度)を抽出する.

観測した微動から表面波を空間自己相関法(Spatial Auto Correlation Method ; 略称 SPAC 法)に 基づく FFT 解析により分散曲線(位相速度-周波数の関係)を抽出する. ③ S 波速度構造の推定する. 分散曲線に適合する S 波速度構造モデルを逆解析より推定する. また図2.6に示すように,三角形の微動アレーを連続的に配置すること(チェーンアレーと呼ぶ) により 2 次元の地下構造を求めることができる.本研究ではこのチェーンアレー探査を用いて現 場測定を行った.図 2.7 に微動アレー探査装置の外観及び諸元を示す. 図 2.3 波動の分散現象 図 2.5 地震計の配置例 図 2.4 微動アレー探査の解析フロー 低 周波数 高 - 1 .2 0 1 .2 0 0 .2 0 .4 0 .6 0 .8 1 - 1 .2 0 1 .2 0 0 .2 0 .4 0 .6 0 .8 1 - 1 .2 0 1 .2 0 0 .2 0 .4 0 .6 0 .8 1 - 1 .2 0 1 .2 0 0 .2 0 .4 0 .6 0 .8 1 起振 受振1 受振2 受振3 高 位 相 速 度 低 分散曲線 高 低 低 周波数 高 - 1 .2 0 1 .2 0 0 .2 0 .4 0 .6 0 .8 1 - 1 .2 0 1 .2 0 0 .2 0 .4 0 .6 0 .8 1 - 1 .2 0 1 .2 0 0 .2 0 .4 0 .6 0 .8 1 - 1 .2 0 1 .2 0 0 .2 0 .4 0 .6 0 .8 1 起振 受振1 受振2 受振3 高 位 相 速 度 低 分散曲線 高 低 ① アレー観測 円形(正三角形)配置 アレー半径 浅部探査:3~30m 深部探査:100~600m 周波数 ② 位相速度(分散)検出 空間自己相関法 (SPAC法) に基 づく FFT解析 位 相 速 度 ③ 構造推定(逆解析) 観測分散に適合する モデルを最適化法に より探索 S波速度 深 度 S波速度 深 度 分散曲線の抽出 構造推定 微動観測

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19 図 2.6 チェーンアレー探査と位相速度構造 高感度地震計 記録計 ・地震計型式 MTKV-1C ・周波数範囲 0.13-50Hz(0.02~7 秒) ・固有周期 7 秒 ・感度 0.25volt/mkine(7 秒) ・最小感度 1 マイクロ kine ・チャンネル数 8 ・増幅 10,000 倍 ・アッテネータ 0-48dB ・A/D 変換 16bit 図 2.7 実験で使用した探査装置

2.3 流動地下水による自然電位特性検証模型実験

本研究で使用する物理探査の一つである自然電位法は,現場測定で多々利用され有効性は示さ れているが,模型実験等で検証された例は少ない.よって本研究では,流動地下水と自然電位法 との相関性を模型実験で検証し,現場測定データの解釈に役立てることを目的とする.模型実験 は 2 種類行う.以下にその詳細を示す. a) 流動地下水と電極の接地位置による自然電位特性の検証 流動地下水の存在下において自然電位の特性を検証するために人工の流動地下水を再現した模 型実験を行った.写真 2.5,写真 2.6 に人工流動地下水模型実験の外観を示す.また図 2.8,図 2.9 および図 2.10 に,それぞれ平面図,縦断側面図および横断側面図を示す.実験土槽は,長さ 4m, 幅 1m,高さ 30cm の透明塩化ビニル製で,粒径 1mm の渓流砂を層厚 20cm まで敷き詰めた.土槽 の中央部に長さ 2m,直径 10cm の半円形水路を設置し,粒径 20mm の玉砂利を敷き詰めた.土槽 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 地震計 位相速度構造 ・・・・・

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20 の勾配は 1/20 に設定し,1.0cm3 /sec の流量を水路の上流端から流入させた.本実験では流動地下 水の特性をより検知できるように,流水は水路外には漏れないようにすることで常に土槽内の渓 流砂は乾燥状態にした.下流端からの流出量が定常状態になった後,電極を接地して自然電位を 測定した.測定は上流端から 150cm 下流の位置を原点として,合計 100cm の区間を流下方向に 25cm 間隔で行った.上・下流側 150cm 間の測定を行わなかったのは,境界条件による撹乱の影 響を受ける可能性があるためである.電極の配置については,写真 2.7,写真 2.8 のように,流動 地下水を等間隔で挟むように左右にそれぞれ 10cm および 45cm の位置に接地した.次に写真 2.9 のように,流動地下水までの距離が左右の電極で異なるように,一方の電極を流動地下水から 10cm,他方の電極を流動地下水から 45cm の位置に接地した.流水の条件としては流水無しの状 態,定常状態で通水した状態,流水を下流端で堰き止めて流動はしていない状態(静止状態)の, 計 3 種類で実験を行った.図 2.11,図 2.12,図 2.13 は測定結果で,横軸は上流端から 150cm 下流 写真 2.5 模型実験の外観 写真 2.6 模型実験の外観

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21 図 2.8 人工流動地下水模型実験平面図 図 2.9 人工流動地下水模型実験縦断側面図 図 2.10 人工流動地下水模型実験横断側面図 側の計測開始点を原点として流下方向にとった距離であり,縦軸は両電極間の電位差である.伊 藤・竹内らによれば,流動地下水探査における自然電位は±5mV を誤差範囲としている.それを 超えた場合に流動地下水が存在する可能を示すものとしているため,各図中に朱破線で±5mV の 位置を示した.各図ともに,3 種類の電極の接地位置における電位の結果を示している.図 2.11 は流水無し条件での測定結果であり,電極接地距離が等間隔でも,異なっていても有意な電位差 が表れなかった.図 2.12 は定常状態で通水した条件での測定結果である.電極が流動地下水から の接地距離が左右で異なる場合に有意な電位差が発生していることが分かる.図 2.13 は流水を下 流端で堰き止め,水路内に湛水させることで,流動していない条件で測定した結果である.流水 なしの条件と同様に,有意な電位差が発生していないことがみてとれる.また図には示していな

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22 いが,埋設した円形水路でも同様の検討を行い,半円形水路と同様の傾向を確認することができ た.これらの結果より,自然電位法による流動地下水探査の特徴として,流水が存在しない場合 では有意な電位差は発生しない.流水が存在し,且つ左右の電極間で流動地下水との距離が異な る場合には±5mV を超える有意な電位差が発生することが分かった.また流水が存在しても,流 動していない静止状態の流水に対しては顕著な電位差は見ることはできなかった.上記の知見は 現場測定結果を考察する上で有益なものとなる. 写真 2.7 電極の接地位置(両電極とも流水から 10cm) 写真 2.8 電極の接地位置(両電極とも流水から 45cm)

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23 写真 2.9 電極の接地位置(電極を流水から 45cm,10cm) 図 2.11 電位計測結果(流水無し) 図 2.12 電位計測結果(流水有り) 距離(cm) 距離(cm) 電 位 差 電 位 差 (mV) (mV) 電極間距離(10cm) 電極間距離(45cm) 電極間距離(45,10cm) 電極間距離(10cm) 電極間距離(45cm) 電極間距離(45,10cm)

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24 図 2.13 電位計測結果(静水状態) b) 浸透流速と自然電位の相関性の検証模型実験 2 つ目に,流動地下水が自然電位に及ぼす影響を定量的に評価する検討を行った.従来自然電 位法は誤差範囲を超えた場合に流動地下水が存在する可能性がある,という定性的なものであっ た.そこで,本実験では定量的な評価をするために,流動地下水の浸透流速とそれによって発生 する電位の相関性についての模型実験を行った.写真 2.10 に検証模型実験の外観を示す.図 2.14 および図 2.15 は,実験模型の平面図および側面図で,長さ 60cm,幅 30cm および高さ 36cm の土 槽である.写真 2.10 のように,不透水層と透過水層を設置するために,土槽の両端に透水性の仕 切り板を設置し,その間に粘性土による不透水層と,粒径 1mm の渓流砂を縦断方向に 2 層設置 した.電極はこの不透水層と透水層の地表面の中央にそれぞれ接地し,透水層下部の浸透流によ 写真 2.10 浸透流と自然電位法の相関性の検証模型実験の外観 距離(cm) 電 位 差 (mV) 電極間距離(10cm) 電極間距離(45cm) 電極間距離(45,10cm)

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25 図 2.14 浸透流速と電位の相関性検証実験模型平面図 図 2.15 浸透流速と電位の相関性検証実験模型側面図 り発生する電位差を測定した.水頭は自由に調整でき,下流端で過剰に貯留した浸透流はポンプ で上流端仕切り板内部に還元され,浸透流が常に循環するようになっている.また土槽を傾斜さ せることで浸透流速を変化させることができるため,これに伴う自然電位の相関性についての考 察を行った.図 2.16 は左右の仕切り板間の水頭差より Darcy 則から求めた浸透流速を横軸,測定 電位を縦軸にとり,その相関性を示したものである.図より,浸透流速が速くなるにつれて測定 電位が一定勾配で低下していることが分かる.今回測定では浸透流速と測定電位の間に強い相関 性があることが明らかとなった.しかし,現場の流動地下水の流速が 10-3 cm/s 程度であるのに対 し,測定結果は 0.6cm/s と非常に高値であった.これは実験条件や設定が現場条件を十分に再現 できていないためであり,この知見を現場計測の結果の考察に直接的に適用できるとは言えない。 しかし,浸透流速と流動電位との相関性が模型実験によって検討された例は過去にほとんどなく, 本実験により得られた知見は,流動地下水と自然電位の相関性について明らかにし,現地観測上 の解釈の一つの指標となると思われる.今後は浸透流速だけでなく,流量の規模と電位差の相関 性についても検証していく必要がある.

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26 図 2.16 浸透流速と流動電位の相関性 流速(cm/s) 線形近似 SP = -1077.0V+622.8 SP:電位差(mV) V:浸透流速(cm/s) 電 位 差(m V )

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2.4 実河川堤防を対象とした現地観測

前述した 1m 深地温探査,自然電位法および微動アレー探査を用いて,実河川堤防の流動地下 水の検知を試みた.本研究では,国土交通省関東地方整備局渡良瀬川河川事務所の管内の川崎サ イトと福富サイトで現場計測を行った.以下に詳細を示す. a) 川崎サイト 写真 2.11 は渡良瀬川川崎橋サイトの航空写真であり,赤い四角で囲われた地域が本研究で測定 を行った地域である.対象地域は利根川水系渡良瀬川であり利根川合流点より 29km 地点の左岸 側である.国土交通省によって全国で実施された詳細点検の結果,浸透性破壊に対する安全性に 問題があると診断されたエリアであり,今後補強工事が実施される予定である.安全性が懸念さ れていく箇所が既知な現場において,本手法の有効橋サイトで 2009 年 10 月 6,7,28 日の 3 日間, 1m 深地温探査自然電位および微動アレー探査を実施した. 写真 2.12 は現場状況と 1m深地温探査作業中の写真である.表 2.1 に測定諸元を示す.また, 各物理探査の長所および短所を表 2.2 に示す.現場計測は群馬大学,国土交通省関東地方整備局 渡良瀬川河川事務所,河川環境管理財団および地温調査研究会との合同で実施した. 表 2.1 各探査法の測定距離および測定間隔 計測場所 堤外地の法尻 計測方法 1m 深地温探査(10/6) 自然電位法(10/6) 自然電位法(10/28) 微動アレー(10/6) 測定距離 100m 100m 130m 100m 計測間隔 5m 2m 5m 2m 表 2.2 各探査法の長所と短所 1m 地温探査 自然電位法 微動アレー 電気探査 安定性 ○ × ○ ○ 即時性 × ○ ○ ○ 流動地下水 ○ ○ × × 滞水地下水 × × × ○

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28 写真 2.11 渡良瀬川川崎サイト航空写真 写真 2.12 川崎サイト現場状況と 1m 深地温探査の実施風景 写真 2.13 に計測現場の拡大図を示す.図 2.17 に 1m 深地温探査と自然電位法の計測結果を示す. 横軸は計測距離(m),縦軸左は電位(mV),縦軸右は(℃)となっている.1m 深地温探査の結果から, 50m 付近で地下温度が下がり始めているのが分かる.夏秋の地下温度は,流動地下水の影響を受 け付近の地温が平常深地温に比べ下がるため,測定付近に流動地下水がある可能性が高いと思わ れる.次に 10/6 の自然電位法の結果を考察する.自然電位法による流動地下水検知の特徴は以下 である. ① 流動地下水付近になると, 電位変化が極大(小)から極小(大)へと上下に変化する S 字構造を 示す. ② 固有電位を基準に±5mV 以内が誤差範囲となるため,それを超えた値をとる. 以上の特性を踏まえて,自然電位法の結果を見ると,10 月 6 日の結果は黒枠で示した 2 地点にお いて流動地下水が存在する可能性が高い.30m 地点で-13mV(極小),32m 地点で 3mV(極大)と S

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29 字曲線を描いており,誤差範囲の±5mV も超えているため流動地下水が存在する可能性が高 い.70m 地点においても同様の傾向が見られる. 10 月 28 日の測定結果については,全体的に大 きく変動して安定性がないことが分かり,流動地下水検知に関して解釈は難しいため,考察の対象 から外した.降雨等による測定環境が原因だと思われる. 3 つ目に微動アレー探査の考察であるが,微動アレー探査は地質構造を推定する手法であり, 流動地下水を直接検知するものでない.本研究では,推定された地質構造から流動地下水が存在 する可能性が高い地点を特定し,1m 深地温探査と自然電位法の測定結果と比較する.図 2.19 は 微動アレー探査結果である.横軸が測定距離(m),縦軸が深度距離(m),カラーインデックスは位 相速度を表している.土質区分は位相速度の分散現象から S 波速度構造を求め推定する.S 波速 度は粘性土層→砂質土層→礫層の順に速くなる.図 2.18 の左端図は 30m 付近における鉛直方向 の S 波速度構造を示し,横軸は S 波速度(m/s),縦軸は深度距離(m)である.測定結果から,30m,70m 地点の鉛直方向 10m~25m は砂・砂礫層であることが推定された.砂・砂礫層は透水係数が高く 流動地下水存在域である可能性が高い. 3 つの物理探査より,このエリアは 65m~70m 地点において,流動地下水の可能性が高いことが わかった.また,自然電位法及び微動アレー探査では 30m 地点においても流動地下水の可能性を 示した.一般に,1m 深地温探査の深度方向の適用範囲は 15m 程度とされており,30m~40m 付 近の高位相速度域は深度 20m 付近に分布しており,1m 深地温探査の適用範囲外であったと考え られる.一方で 65m~70m 付近の高位相速度域は深度 15m 付近に分布しており,こちらは 1m 深 地温探査の適用範囲内であったと考えられる. 写真 2.13 測定現場の概要(川崎サイト) 提外地 測定長(100m) 堤防

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30 図 2.17 1m 深地温探査及び自然電法の計測データ 図 2.18 微動アレー探査による地下構造推定 位相速度 M/S 120 130 140 150 160 170 180 190 200 210 220 230 240 250 260 270 280 290 300 310 320 330 340 350 360 370 0 10 20 30 40 50 60 70 80 -50 -40 -30 -20 -10 (℃) (mV) (m) 高 高 高 深度(m) S 波速度 (m/s) (m)/s

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31 b) 福富町サイト 現地観測の対象としたのは,渡良瀬川の 30km 地点,右岸の,福冨町一帯のエリアである. 本サイトは,渡良瀬川河川事務所による調査の結果,基盤漏水によってパイピングが発生 する危険性が指摘された.具体的には,堤体の浸透性破壊に関して,30.435km および 30.935km 地点におけるボーリング調査では問題が無く,30.685km 地点におけるボーリング 調査では前述の危険性が診断された.この段階では 30.435km~31.935km の 500m の区間に 補強工事等の対策を必要とする領域が存在する認識となり,その後,危険区間を限定する 目的で 30.835km 地点におけるボーリング調査を追加実施した結果,問題が検出されなかっ た.よってこの時点で 30.435km~30.770km の 335m 区間において安全性が確保されていな い要検討区間という診断となった.しかしながらボーリング調査によってこれ以上の絞り 込みを行うことは費用面から困難な状況であった.図 2.19 に当該区間の概観,写真 2.14 に 福富町サイトの航空写真を示す.本研究では 1m 深地温探査,自然電位法計測および微動ア レー探査を行った.測定により特異点が現れた箇所を A,B および C 区間としている. 図 2.19 自然電位法による基盤漏水調査 写真 2.14 福冨町サイトの航空写真 30.435km 30.685km A 区間 C 区間 B 区間

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32 測線は堤体の裏法尻に沿って設定し,1m 深地温は 3m 間隔で,自然電位法は 5m 間隔で計 測を行うこととした.図 2.20 に 1m 深地温探査の結果(2010/02/10 データ)を示す.横軸が 渡良瀬川の距離標表記とした測線長(km),縦軸が計測地温(℃)である.計測日における平常 地温は 11℃であり,図中に破線で示してある.冬季であるため,地下水流動がある地点で は平常地温よりも高温となる. 図 2.20 1m 深地温探査計測結果(2010/02/10) 図 2.21 1m 深地温探査結果比較 (2010/02/10 および 2010/03/18,30.437~30.647km 拡大)

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33 図 2.22 1m 深地温探査および自然電位法の比較 (2010/02/10 および 2010/03/18,30.437~30.367km 拡大) 図 2.23 微動アレーによる土質構造の推定 調査の結果,30.435km より下流側では平常地温を顕著に上回っている区間は無く,渡良 瀬川河川事務所によるボーリング調査結果と符合する結果である.30.435km より上流側の 内,主に 3 区間で平常地温を上回る結果が確認された.3 カ所の高地温区間を図中に A,B, C として破線円で示した.A 区間では 13~14℃,B 区間では 12~14℃そして C 区間では 12℃ 程度であり,A および B 区間において基盤漏水を起こしている可能性が高い.ただし,本 計測を行った際には河川水位に比べ測定点における比高が高く,この時点では堤内地側か ら堤外地側への流動であると考えられる.ボーリング調査同様,30.435km より上流側にお いて流動地下水が存在する可能性が高いことが確認できたので,30.435~30.635km 区間に

30.437km

30.572km

30.517km

人工構造物

砂礫

A B (m)

図 3.2  セルの分類と Staggered Mesh の設定
図 3.3  自由表面形状の決定
図 3.4  VOF 関数 F の移流方法の取り扱い

参照

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