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女性就業・少子化

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女性就業・少子化

樋口美雄 佐藤一磨

要 旨

本稿の目的は,バブル経済以降,労働市場における女性の役割がいかに変 わってきたかを,労働の需要と供給,両面から考察し,今後への課題につい て検討することにある.とくに景気変動との関連を検討するとともに,女性 の就業促進や仕事と家庭の両立支援を目的としたわが国の諸施策に注目し, その効果について検証を行う.

その結果,労働市場における女性の果たす役割は質量ともに拡大しており, 男性雇用者が 1998 年以降減少傾向にあるのに対し,女性雇用者はその後も, 一貫して増加を続けていること,しかし雇用形態別に見ると,増加している のは非正規雇用者で,正規雇用については減少していることが示される.

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1

はじめに

バブル崩壊や 1997 年の金融危機などによる長期的な不況を経て,わが国の 労働市場は大きな変化を経験してきた.そのなかでもとくに注目されるのが, 女性就業である.歴史的に見ればこれまでも家族従業者や自営業主が減り, 企業で勤める女性雇用者数は一貫して増えてきた.しかし男性雇用者が,人 口の変化と同時に長期経済低迷や産業構造の変化の影響を受け,90 年代な かごろ以降,減少に転じたのに比べ,女性雇用者はこの間も増え続け,人数 的に女性労働者が企業で果たす役割は以前にも増して格段に増加している. ましてやサービス経済化が進展し,長期継続就業者が増えるにつれ,質的に も女性の労働市場で果たすべき役割の拡大が期待されるようになった.

しかし,なぜ男性雇用者数が減少しているのに,女性雇用者数は増加を続 けているのであろうか.かつては景気が後退し,良好な雇用機会が減少した 途端,求職活動を諦める女性が増え,女性の労働力率は下がった.しかしこ うした「就業意欲喪失効果」は近年,薄らいできている.男性の労働力率が, 高齢者や若年層を中心に不況下で低下しているのとは対照的である.こうし た変化の背景には,第 3 次産業の進展に見られる産業構造の変化や企業行動 の変化があるのかもしれない.あるいは若年層を中心に,家計における性別 役割分担の変化があるのかもしれない.さらにはこれを支える制度の変更や 法律改正の影響があるのかもしれない.本稿では,バブル経済以降,女性の 労働市場における役割がいかに変わってきたかについて,労働の需要と供給, 両面から考察し,今後への課題について検討していくことにする.

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次世代育成支援対策推進法など,近年女性の就業や仕事と家庭の両立支援を 目的とした法律が施行されてきた.これらの政策が効果を発揮し,不況期に おいても女性の就業が促進されてきた可能性がある.また,長期的な不況に よって従来の企業活動や女性の就業形態が変化し,それによって女性の雇用 者数が継続的に増加するようになった可能性も考えられる.これらの効果が 本当に存在したのかどうかについて,先行研究を整理することを通じて確認 していく.そしてこれら法制度と景気が女性の就業の意思決定にどのような 影響を及ぼしたのかを実証分析を通じて検証していく.

本稿の構成は以下のとおりである.まず,第 2 節では公表統計のデータを 用い,近年の女性就業の現状について概観していく.続く第 3 節ではこれら の女性就業に影響を及ぼしたと考えられる制度変更や法律改正の効果につい て検討していく.第 4 節では先行研究を整理することを通じて,法律および 景気が女性の就業および出産にどのような影響を及ぼしたのかを明らかにし ていく.第 5 節では近年利用可能となったパネルデータを用い,法律や景気 が女性の就業に及ぼす影響をさらに詳細に検討していく.そして第 6 節では 結論と今後の課題について述べていきたい.

2

女性雇用のバブル景気以降の変化

2.1 女性雇用者数の動き

女性雇用をめぐる最近の動向について,まず見ておく.図表 14 1 は 1990 年以降の雇用の動向を男女別に示したものである.男女で雇用者数は大きく 異なるため,男性は左軸の目盛りで女性は右軸の目盛りでとっているが,変 化人数は比較できるように,両軸の目盛り幅は同じ 100 万人単位にしてある. これを見ると,男性の雇用者数は金融危機のあった 97 年をピークに減少し, 2006 年までの間に 115 万人減った.他方,女性雇用者数はこれとは対照的 に,この間も拡大を続け,98 年以降,153 万人増加した.

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女性比率を見ると,サービス業における女性比率の上昇が,女性雇用の増加 をもたらした.雇用就業者に占める女性比率の変化を産業構成比の変化要因 と各産業における女性比率の変化要因に分解してみると,図表 14 2 のよう に 1985 年から 2007 年にかけ雇用就業率は 5.70%上昇したが,このうち 3.73%は各産業における女性比率の上昇によって説明され,1.97%が女性比 率の高い産業の構成比が上昇したことによって説明される.

しかし図表 14 1 からもわかるように,女性雇用者数の増加は常用雇用者 2,300 2,400 2,500 2,600 2,700 2,800 2,900 3,000 3,100 3,200 3,300

男性雇用者・常用雇用者数(万人) 女性雇用者・常用雇用者数(万人)

1,400 1,500 1,600 1,700 1,800 1,900 2,000 2,100 2,200 2,300 2,400

90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06(年) 男性雇用者数 男性常用雇用者数

女性雇用者数 女性常用雇用者数

図表 14 1 男女別雇用者数と常用雇用者数の推移

出所) 総務省統計局『労働力調査年報』.

−1.00 0.00 1.00 2.00 3.00 4.00 5.00 6.00 7.00 5.70 1.97 3.73 2.74 1.03 1.16 2.10 −0.09 0.76 3.60 0.10 (%)

1985 2007年 うち1985 1997年 うち1997 2007年 誤差

各産業における女性比率の上昇による全体の女性比率の上昇分 産業構成比の変化による女性比率の上昇分

雇用就業者に占める女性割合 (全体の女性比率上昇分)

図表 14 2 雇用就業者に占める女性比率の変化率に関する要因分解(1985 2007 年)

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の増加によってもたらされたわけではない.1997 年から 2004 年にかけて, ほぼ横ばいであり,この間,増えたのは有期契約に基づく臨時雇用者であっ た.事実,企業の呼称に基づき雇用形態を正規雇用と非正規雇用に分けると, 非正規雇用はこの間,一貫して増え続けているのに対し,正規雇用者数は金 融危機をきっかけに景気が一段と厳しさを増した 98 年以降,大きく減少し ている(図表 14 3).

500 1,200

1,100

1,000

900

800

700

600

1988 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 2000 01 02 03 04 05 06 07 08(年) (万人)

正規の職員・従業員(女性) 非正規の職員・従業員(女性)

図表 14 3 正規・非正規職員・従業員数(女性)の推移

出所) 総務省統計局『労働力調査年報』.

注) 平成 13 年以前は「労働力調査特別調査」,平成 14 年以降は「労働力調査詳細集計」により作 成.なお,「労働力調査特別調査」と「労働力調査詳細集計」とでは,調査方法,調査月などが相 違することから,時系列比較には注意を要する.

0 10 20 30 40 50 60 70 80

20 24 25 29 30 34 35 39 40 44 45 49 50 54 55 64 (%)

(年齢) 1985年 1990年 1995年

2000年 2006年

図表 14 4 女性における配偶関係別雇用就業率(総数)

(7)

それでは雇用者比率の推移を年齢や配偶関係別に見たらどうだろうか.図 表 14 4 は配偶関係を無視した全体の女性人口に占める雇用就業者割合であ る.25 29 歳,30 34 歳においてとくに大きな伸びを示しているが,それよ りも上の年齢層においても上昇は確認される.その結果,現在でも依然とし て M 字型が残っている.図表 14 5 は未婚女性に限定した雇用就業率である. もともと未婚者の雇用就業率はわが国でも高かったが,さらに 10%ポイン ト以上の上昇を示している.他方,図表 14 6 は有配偶女性の雇用就業率を 示しているが,25 29 歳,さらには 45 49 歳,50 54 歳においてとくに大き

0 10 20 30 40 50 60 70 90 80

20 24 25 29 30 34 35 39 40 44 45 49 50 54 55 64 (%)

(年齢) 1985年 1990年 1995年

2000年 2006年

図表 14 5 女性における配偶関係別雇用就業率(未婚)

出所) 総務省統計局『労働力調査年報』.

0 10 20 30 40 50 60 70

20 24 25 29 30 34 35 39 40 44 45 49 50 54 55 64 (%)

(年齢) 1985年 1990年 1995年

2000年 2006年

図表 14 6 女性における配偶関係別雇用就業率(有配偶)

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な上昇が見られる.わが国では全体の就業率が大きく上昇していないのを見 て,有配偶女性の労働市場参加はさほど活発化していないといわれることが あるが,これは自営業主や家族従業者が減ったことによって起こっているの であって,企業に勤める雇用者に限れば,この図が示すように大きく増加し ている.各年齢層における雇用就業率の上昇は,未婚,有配偶,それぞれに おけるこの比率の上昇によって生じているが,これに加え,従来から雇用就 業率の高かった未婚者が,晩婚化や非婚化によって増加したことによっても たらされたといえよう.

ただし図表 14 7 を見ると,有配偶女性,とりわけ子どもをもつ有配偶女 性の雇用就業率の上昇は,正規雇用の増加によってもたらされたわけではな いことがわかる.正規雇用は 1997 年から 2002 年にかけて,減ることこそあ れ,増えてはいない.有配偶女性の雇用率の上昇は,もっぱらパート労働者 等,非正規雇用の増加によってもたらされている.

2.2 女性活用と継続就業率・男女間賃金格差の動き

企業に女性活用を推進する上での問題点を尋ねると,女性の勤続年数の短 さをあげるところが多い.2006 年の厚生労働省『女性雇用管理基本調査』

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90

総数 歳

未満 歳 歳 11歳1214歳1517歳18歳以上 未満歳 歳 歳

11歳1214歳1517歳18歳以上 総数

(%)

夫婦と子供から成る世代 夫婦,子供と親から成る世代

有業者(1997年) 雇用者(1997年) 正規の職員・従業員(1997年)

有業者(2002年) 雇用者(2002年) 正規の職員・従業員(2002年)

図表 14 7 世帯の家族類型,末子の年齢,妻の就業状態別就業割合

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によると,42.5%の企業が女性の平均勤続年数の短いことが女性の活用を阻 害していると指摘する.わずかながらこれをあげる企業割合は,近年,下 がってきているが,それでも家庭責任を考慮する必要があることと並んで, 女性の勤続年数の短さが企業の女性活用を難しくしていると考えている企業 は多い.

女性に経験を積ませ,人的投資を行っても,人材として活躍してもらおう と思ったときには会社を辞めてしまう者が多いと企業経営者は考えている. このことは採用の段階においても,企業の将来を担う人材を採ろうとすると きに,女性を不利にさせている.経済学では,個々人の特性が容易にわから ないとき,その人の属する集団の平均的特性に基づき判断することが,経費

を削減させ,合理的であるという統計的差別理論を展開させてきた(Phelps

[1972],Aigner and Cain[1977]).たとえば女性の平均勤続年数は男性に比べ て短いとすると,女性のなかにも長く勤めようとする人がいるにもかかわら ず,その人が女性であるということにより,不利に扱われてしまう.そうし た扱いをすることがたとえ企業にとっては合理的であっても,長く勤めよう と思っている女性にとっては差別されているのにほかならず,個人ではなく, 集団に着目した採用は,法律により禁止されるべきである.しかし同時に女 性全体の離職率を引き下げることは,企業のそうすることの合理性を失わせ ることになり,平均勤続年数を延ばしていくことも重要である.

それを実現することは,女性の雇用条件の改善にもつながる.図表 14 8 は男女間賃金格差の推移を示している.労働時間の違いを考慮し,さらには 雇用形態の違いに配慮するため,各年の男性一般労働者の時間当たり所定内 給与を 100 とした場合の女性一般労働者,男女パート労働者の時間当たり賃 金を示している.これを見ると,男性の一般労働者とパート労働者の賃金格 差は長期的に拡大傾向にある.他方,女性のパート労働者の賃金は近年,若 干縮小しているが,長期的にはほぼ横ばいである.男性にしろ,女性にしろ,

一般労働者とパート労働者の賃金格差の拡大が目立つ1)

これに対し一般労働者の男女間賃金格差は過去 20 年間で 10 ポイント弱縮 小した.だが,それでも依然として 30%以上の大きな差が存在する.欧米

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諸国の場合,男女格差は 5 10%であり,これに比べ,わが国の男女間賃金 格差は大きいといわざるをえない.その 1 つの理由は,やはり勤続とともに 賃金が大きく上昇するといったわが国の賃金体系の特徴と,男女間の平均勤 続年数の違いにある.図表 14 9 は転職経験をもたず,高校卒業後,1 つの 企業で勤め続けてきた「標準労働者」と,中途採用者を含む一般労働者の平 均賃金について,それぞれ男性を 100 としたときの比較を示している.勤続

40 45 50 55 60 65 70 75

1988 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 2000 01 02 03 04 05 06 (%)

(年)

女性一般労働者 男性短時間労働者 女性短時間労働者

図表 14 8 労働者の 1 時間当たり平均所定内給与格差の推移 (男性一般労働者=100 とした場合の給与水準)

出所) 厚生労働省『賃金構造基本統計調査』.

50 55 60 65 70 75 80 85 90 95

18 19 20 24 25 29 30 34 35 39 40 44 45 49 50 54 55 59 (%)

(年齢) 2006年標準労働者

2006年一般労働者平均 図表 14 9 標準労働者と一般労働者における年齢階級別所定内給与

(男性=100,高卒)

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年数が等しい標準労働者について,45 49 歳における男女間格差を見ると, 25%程度に過ぎないが,中途採用者を含めた平均値では 40%に拡大する. それだけ平均賃金格差には男女の勤続年数の違いが大きく影響しているとい えよう.

以上のことから,男女間格差を縮小させ,女性の職場における活躍を促進 していくには,処遇や昇進における年功管理を見直すとともに,女性の定着 率を高め,勤続年数を延ばしていくことが不可欠である.女性の場合,とく に家庭責任を考え,結婚や出産を契機に会社を辞める人が多い.政府は女性 の継続就業を促進しようと,いろいろな法的手段を講じてきたが,はたして こうした政策に効果はあったのか.次節では,どのような法的手段が講じら れてきたかを振り返り,第 4 節以降で,その効果について,実証分析を行う.

3

わが国の女性雇用に関する法律の変遷

2)

3.1 男女雇用機会均等法関連

わが国で「男女雇用機会均等法」につながる最初の法的な動きは,1972 年に成立し,施行された「勤労婦人福祉法」であった.同法は,女性の地位 向上を求める国際的な動きを受けて,その後,1985 年に全面的に改正され, 「男女雇用機会均等法」(以下,均等法と呼ぶ)となり,86 年 4 月から施行

されることになった.この法律では,募集・採用,配置・昇進については努 力義務とされながらも,女性差別が禁止され,妊娠・出産を理由とする解雇 が禁止された.

均等法が施行された当時は,国民の女性就業に対する差別禁止の意識も薄 く,啓蒙的役割を担うことになったが,時間の経過とともに企業の取り組み も進み,男女雇用機会均等を強化すべく,97 年に同法は改正され,99 年 11 月から全面施行された.この改正では,募集・採用,配置・昇進についての 差別の禁止規定化がなされ,女性労働者に対するセクシャルハラスメントの 防止の配慮義務規定が創設されるとともに,ポジティブ・アクション(積極 的格差是正措置)に取り組む事業主に対する国の援助規定が設けられた.ポ

(12)

ジティブ・アクションは,男女間の差別を解消し,働く意欲と能力のある女 性が活躍できるように,雇用慣行等においてそれを阻害している要因を調べ, 企業が自主的に取り除こうとする行動のことを意味する.これにより,それ までは企業の従来からの雇用慣行や人材活用方法等に合わせることのできる 男女について差別を禁止してきたものを,企業自らが差別につながりやすい 要因を積極的に是正していくことが推進されるようになった.

そして 2006 年にはもう一歩,これを進めるために,「男女雇用機会均等 法」を改正し,翌 2007 年 4 月から改正法が施行されることになった.この 改正では,男女双方に対する差別が禁止されるとともに,間接差別の禁止な ど性差別禁止の範囲の拡大がなされた.従来の均等法では,直接的な差別は 禁止されていたが,応募者や労働者に一定の要件を課すことにより,結果的 に一方の性が不利になる間接差別についてはその対象となっていなかった. これを 2006 年改正により禁止事項として含めることになったわけである. この他,妊娠・出産等を理由に不利益な取り扱いがなされることが禁止され, 男女労働者に対するセクシャルハラスメントの防止対策の措置を企業に義務 化することになった.

3.2 育児・介護休業法関連

「育児休業法」は,育児を担う労働者の職業生活と家庭生活との両立が図 られるよう支援することによって,その福祉を増進するとともに,あわせて わが国の経済および社会の発展に資することを目的に 1991 年に制定され, 92 年 4 月から施行された.これにより,労働者は申し出により,子が 1 歳 に達するまでの間,育児休業を取ることができ,事業主は 3 歳未満の子を養 育する労働者について,勤務時間の短縮等の措置を講じなければならず,3 歳から小学校就学前の子を養育する労働者について,育児休業の制度または 勤務時間の短縮に準じた措置を講ずるよう努めなければならないことなどが 法制化された.他方,95 年には要介護状態にある対象家族を介護するため の休業制度の導入を企業に努力義務として求め,99 年にはこれを義務化し た上で「育児・介護休業法」が立法化された.

(13)

時間短縮等の措置の対象子供年齢を引き上げるとともに転勤についての配慮 を織り込んだ改正がなされた.また 2004 年には育児休業・介護休業の取得 対象者の範囲を一定の条件を満たす有期雇用者にも拡大し,育児休業期間を 最長 1 歳から 1 歳 6 カ月に延長するとともに,育児休業の取得回数の制限を 緩和し,子の看護休暇を新設した改正がなされ,05 年 4 月から施行された.

企業は育児休業中に給与を払う義務はないが,企業に代わって休業中の雇 用保険被保険者に一定の給付金を支給することによって育児休業を取得しや すくするとともに,その後の円滑な職場復帰を援助・促進し,職業生活の継 続を支援するため,1995 年に「育児休業基本給付金」と「育児休業者職場 復帰給付金」の制度が設けられた.これにより休業中に給与の 20%,復帰 後 5%が支給されることになった.2001 年からは休業中が 30%,復帰後 10%に引き上げられ,さらに 2007 年より休業中 30%,復帰後 20%に引き上 げられた.また 1995 年 4 月より育児休業中の健康保険・厚生年金の被保険 者に対し,社会保険料が免除されるようになり,2000 年からは厚生年金の み事業主も免除され,2001 年からは健康保険も免除されるようになった.

3.3 次世代育成支援対策推進法

政府は 2003 年に,わが国における急速な少子化の進行と家庭および地域 を取り巻く環境の変化に鑑み,次世代育成支援対策に関し基本理念を定め, 国,地方公共団体,事業主の責務を明らかにするとともに,行動計画策定指 針に基づき,それぞれに行動計画の策定を求める「次世代育成支援対策推進 法」を制定した.これにより,市町村や都道府県,さらには 301 人以上の常 用労働者を雇う一般事業主は,職業生活と家庭生活の両立の推進,その他の 次世代育成支援により達成しようとする目標や支援の内容,実施時期等を明 記した行動計画を策定し,提出することが義務づけられ,300 人以下の事業 主は努力義務化された.

3.4 パートタイム労働法関連

パートタイム労働者は女性に限られているわけではないが,やはり女性が 多数を占めていることから,これに関する法律についても見ておきたい.

(14)

ことから,その適正な労働条件の確保および教育訓練の実施,福利厚生の充 実その他の雇用管理の改善に関する措置などを講じることによって,パート タイム労働者がその有する能力を有効に発揮できるようにし,もってその福 祉を増進することを目的に「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法 律」(パートタイム労働法)が 1993 年に施行された.そして 2003 年には, 「パート労働法指針」の改正が行われ,通常の労働者との均衡を考慮した処 遇が新たに促進されることになった.そして 2007 年 6 月には,「指針」で求 められてきた均衡処遇の確保を強化するため,通常の労働者と同視すべき短 時間労働者に対する差別的取り扱いを禁止するとともに,通常の労働者への 転換を推進するための措置を企業に義務づけ,通常の労働者との均衡のとれ た待遇を確保することを事業主の責務とすることを明記した「パートタイム 労働法改正法」が成立した.

4

女性就業に関する先行研究

ここでは第 3 節で見た各法律が女性の就業にどのような影響を及ぼしてき たのかをいままでの先行研究を踏まえながら検証していく.なお,法律の効 果とともに女性の就業の意思決定に大きな影響を及ぼす景気の変動について も注目していきたい.

4.1 景気変動と女性就業

まず景気の変動が女性の就業にどのような影響を及ぼしたのかについて, これまでの研究を整理する.ここではとくに女性労働者の就業意欲喪失効果 の変遷についてくわしく見ていきたい.

(15)

ことが指摘されてきた.

たとえば,樋口・清家・早見[1987]は,不況期に新規に労働力化するフ ローが減少し,非労働力化するフローが増加する傾向にあることを明らかに している.また,黒坂・浜田[1984]などの研究は,わが国の就業意欲喪失効 果の大きいことが指摘されている.このような就業意欲喪失効果は,バブル 崩壊前までわが国の女性の労働市場において見られた 1 つの大きな特徴であ ることが確認されてきた.

しかし,バブル崩壊後の 90 年代以降,この就業意欲喪失効果が減退して

いることを示す研究が多数存在するようになった.たとえば厚生労働省(旧

労働省)[1999]は,『労働力調査』のフローデータを用い,1970 年代後半以

降,女性の就業意欲の高まりを背景に景気後退局面での労働力率の低下が小

さくなっていることを示した.また,厚生労働省(旧労働省)[1999]は,女

性の離職した場合に諦めて非労働力化する割合(就業から非労働力化へのフ ロー)は時系列的に低下してきている一方,離職後仕事を探している割合 (就業から失業へのフロー)は次第に上昇し,かつ変動幅が大きくなってい ることを示した.このような『労働力調査』を用い,就業意欲喪失効果を検 証した分析として黒田[2002]や太田・照山[2003],桜[2006]などをあげるこ とができる.いずれの分析においても女性の就業意欲喪失効果が低下してい ることを示唆している.

では,なぜこのように就業意欲喪失効果が減退するようになったのだろう か.これにはいくつかの理由が考えられるが,大きな要因として,⑴産業構 造の変化による女性に就業機会の上昇,⑵バブル崩壊後の長期不況による家 計の経済状況の不安定化,そして,⑶晩婚化・非婚化といった 3 つをあげる ことができる.

まず,⑴についてであるが,第 2 節で見たとおり,女性の就業しやすい サービス業の比率が上昇してきており,女性の就業機会は拡大している.そ の結果,不況期においても以前より,よい仕事につくことができる可能性が 高まった.また,女性の大学進学率が上昇しており,より高い人的資本が蓄 積され,失業による機会費用の大きい女性が増加していることも就業意欲喪 失効果の減退に寄与していると考えられる.

(16)

などの研究によって検証されている.樋口・阿部[1999]は,夫の所得を一時 所得と恒常所得にわけ,分析を行っており,恒常所得のみが妻の就業の意思 決定に有意な影響を及ぼすことを明らかにした.この考えに従うと,バブル 崩壊以降,長期的な不況により夫の恒常所得が低下しているため,妻の就業 意欲喪失効果よりも夫の所得の減少を補おうとして妻が追加的に就業しよう とする効果が上回った可能性が高いことになる.また,小原[2007]は,夫や 家族の失業が妻の就業に関する意思決定に及ぼす影響を分析しているが,こ の研究において家族の失業によって妻の労働供給が促進されることを明らか にしている.この結果も 1990 年代以降の追加的労働者効果の上昇を示唆す るものとなっている.

次の⑶についてであるが,これは黒田・山本[2007]によって検討されてい る.黒田・山本[2007]は,女性の労働供給関数を多項ロジット推計を行うこ とによって,就業意欲喪失効果は未婚者ではなく,既婚者についてのみ観察 されることを明らかにした.このことは晩婚化によって労働市場全体の就業 意欲喪失効果が減少した可能性があることを示唆する分析結果となっている.

以上から,わが国の労働市場の特徴の 1 つとして観察されてきた女性労働 者の就業意欲喪失効果はバブル崩壊以降,減退してきている可能性があると いえよう.この背景には長期的な不況や産業構造の変化および晩婚化・非婚 化といった人口動態における変化が寄与していると考えられる.

他方,最近では玄田[2007]で指摘されるように,男性の若年層を中心とし て景気後退期に非労働力化する層が見られるようになってきている.樋口 [2008]は若年男性のみならず,60 代の男性高齢者層においても景気後退期 に労働力率が低下する傾向が見られると指摘しており,就業意欲喪失効果は 女性で相対的に弱まり,男性において強くなってきている可能性がある.

4.2 男女雇用機会均等法と女性就業

(17)

賃金面での格差が拡大してしまうこととなることを指摘している.このよう に統計的差別理論が示すところに従えば,たとえ企業にとっては平均値に基 づき,各個人について調べる情報コストを節約でき,合理的であっても,女 性のなかにも長く継続就業しようとする人もいるわけであり,個々の女性に とって差別であることは間違いない.こうした状況を解消しようとして均等 法が施行されたと指摘できる.

この均等法が 1986 年に施行されて以降,いくつかの研究がその影響に検 証を試みてきた.しかし,女性の就業や企業の雇用管理には均等法以外の法 律や景気変動,産業構造・人口動態の変化といったさまざまな要因が働いて おり,それらを均等法の効果と分離することは困難であるといった問題が生

じた(三谷[1996]).しかし,こうした厄介な問題は,近年整備が進んでいる

マイクロデータの利用によって多少なりとも解消されつつある.これを使っ た研究の結果によると,均等法は,女性の勤続年数の長期化をうながし,男 女間賃金格差の縮小に寄与したことが示される一方,女性就業率の上昇には あまり寄与していないか,もしくは,景気の方が女性就業率に影響を及ぼし ている可能性が高いことが明らかにされてきた.

(18)

このように均等法が女性の就業率上昇に寄与したといったことを示す明確 な研究は見当たらず,むしろ景気による影響が大きいことを示す分析結果が 多い.ただ,先行研究ではパネルデータの期間が短く,サンプル数も比較的 小さい時点での分析であるため,均等法の影響を適切に検証できていない可 能性がある.また,均等法は 1997 年に改正されており,それが女性就業率 に影響を及ぼした可能性も考えられる.そこで,この均等法や景気が女性の 就業率に及ぼした影響について,第 5 節でさらにくわしく実証分析していく ことにする.

4.3 税・社会保障制度と女性就業

女性の労働供給を促進することを目指した政策がある反面,結果的に女性 の労働供給を抑制してしまう政策もある.たとえば,配偶者控除の拡大や配 偶者特別控除の新設,そして,国民年金の第 3 号被保険者制度の導入は,片 働き世帯で収入の少ない専業主婦世帯を優遇することによって,逆に妻が働 き共稼ぎ世帯になることを相対的に不利にし,妻の就業を抑制してきた可能 性がある.樋口[1995]は,1990 年の『パート労働者総合実態調査』を用い, 配偶者控除および配偶者特別控除の両者から控除を受けている世帯ほど夫の 所得は高く,控除を受けていない世帯ほど夫の所得が低いことを明らかする ことによって,世帯単位で見た場合,逆進的になっている可能性があること を指摘した.そして同時に,この制度が導入されたことにより,妻の労働供 給は抑制されていることを指摘している.

(19)

おり,配偶者控除の世帯を単位とした所得格差の是正効果が縮小してきてい る可能性が高いことを指摘している.大石[2003]は,妻が第 3 号被保険者で ある世帯は,配偶者控除の場合と同様に夫の所得が高い世帯の割合が高いこ とを明らかにした.

では,もしもこれらの制度がないとしたら,既婚女性の労働供給はどのよ うに変化するのだろうか.この点について赤林[2003]は,1990 年と 1995 年 の『パートタイム労働者総合実態調査』を用いた推計結果を利用し,シュミ レーションを行っている.分析の結果,第 3 号被保険者制度を廃止した場合, 有配偶女性の労働供給は 0.4%増大し,配偶者控除のみを廃止した場合は約 2%,そして第 3 号被保険者制度と配偶者控除の両方を廃止した場合には約 3%増大するが,その影響は小さいことを示した.これに対して,坂田・ McKenzie[2005]は,実際に 2004 年に配偶者特別控除の上乗せ分(最高 38 万円)が廃止されたときのパネル・データを利用し,その制度変更が有配偶 女性の労働供給へ及ぼした影響を分析している.その結果,女性の就業する か,しないかの意思決定には,この制度は有意な影響を与えていなかったが, 労働時間についてはこれを増やす効果があることを指摘している.このよう に配偶者特別控除の一部廃止は,女性の労働供給にわずかしか影響を及ぼし ていないことが示されているが,それは,今回の廃止の額が小さすぎたため に起こっている可能性が考えられる.

4.4 育児休業法・保育サービス・児童手当と女性就業・少子化

育児休業制度と女性就業

まず,育児休業制度の効果分析について展望していこう.1992 年 4 月に 育児休業法が施行されて以来,さまざまな実証分析が行われ,育児休業制度

が継続就業を促進することが明らかにされてきた(樋口[1994b],樋口・阿

(20)

女間賃金格差の縮小に効果があることを示している.

しかし,いくつかの研究から,コーホート間で比較を行ってみると,出産 後の継続就業率は育児休業法の施行後においてもそれほど上昇していないと いった指摘がなされている.たとえば,新谷[1998],岩澤[2004]は女性の就 業行動の変化を結婚した年を基準に作成した結婚コーホートを用いて分析を 行っているが,この分析結果では,育児休業法施行後の結婚コーホートにお いても,出産後の正規雇用就業率は上昇しておらず,むしろわずかながら低 下傾向にあることを明らかにした.

以上から,育児休業制度は,利用者の出産後の継続就業率を促進する効果 をもっているが,世代間に及ぼす影響を比較した場合,その効果は必ずしも 一方的に拡大しているとはいえないと考えられる.

他方,森田[2005],脇坂[1999]は育児休業制度が企業の労働需要に及ぼす

効果を検証している3).育児休業制度は女性の出産時の機会費用を減少させ

る反面,女性労働者にかかる労務コストを増加させる側面をもつ.このコス トは企業が負わなければならず,これを回避するために企業の女性労働者に 対する需要が削減される可能性が理論上考えられる.森田[2005]は,厚生労 働省の「雇用動向調査」を用いて,この点を検証している.分析の結果, 1995 年の育児休業法改正により新たに適用となった 30 人未満の事業所にお いて,35 44 歳の女性の新規雇用が減少していることが明らかになった.脇 坂[1999]においても,育児休業制度を導入した企業の方が,従業員の女性比 率は低く,女性の採用を抑制している可能性があると指摘している.

育児休業制度と出産

育児休業制度が女性の出産に及ぼす影響に関する論文を見ると,多くの研

究において,育児休業制度が出産を促進するといった結論を得ている(樋口

[1994b],駿河・西本[2002],駿河・張[2003],山口[2004],滋野[2006],坂爪・

川口[2007]).とくに近年ではマイクロデータを用いた研究が多くなってき

(21)

ており,推計手法もプロビット・モデルや就業と出産の同時性を明示的に考 慮したバイバリエイト・プロビット・モデル,サバイバル分析,離散時間ロ ジットなどのイベント・ヒストリー分析といったように多様化している.

これらの研究のなかで,駿河・張[2003]は,バイバリエイト・プロビッ ト・モデルを用いて継続就業と出産がトレード・オフの関係にあることを実

証している4).また,育児休業制度が利用可能であると出産および継続就業

の両方を促進する効果があることを明らかにした.山口[2004]は,離散時間 ロジット・モデルを用い,妻本人の各経済要因(育児休業制度の有無,企業

規模,収入)が出産意向や出産の意思決定に及ぼす影響を分析し5),育児休

業制度のある企業に勤務する女性ほど出産意向も強く,実際に出産する確率 も上昇する傾向にあることを示した.坂爪・川口[2007]は,育児休業制度を 明示的に取り入れた出産と就業に関する動学的モデルを構築し,育児休業制 度が出産に及ぼす影響を推論し,実証分析した結果,通常の労働時間があま りにも長い場合,育児休業制度の効果は小さいことを明らかにした.このこ とは,出産前の労働時間があまりにも長い場合,育児休業制度があっても, 出産退職や出産をしないことの方が効用水準が高まるといったことを示唆し ている.坂爪・川口[2007]は,出生率を上昇させるには育児休業制度の導入 のみならず,労働時間を短縮させることが必要であるとし,制度以外の就業 環境要因の重要性を強調している.

保育サービスと女性就業

保育サービスが女性就業に及ぼす影響ついてであるが,これまでの研究か ら,保育サービスの充実が女性の就業を促進する効果があること,また,保 育料の上昇は保育サービスに対する利用可能性を抑制し,その結果,女性の 就業率を低下させることが明らかになっている.

永瀬[1997a]は市町村別の横断面データを用い,分析を行った結果,0 2 歳児の保育園入所率が既婚女性の労働供給を促進することを示した.また,

4) このような就業と出産のトレード・オフ関係を分析したものに張・七條・駿河[2001]や馬 [2005]がある.

(22)

保育料の引き上げは,女性の保育サービスの利用を抑制してしまうため,女 性就業率を低下させることを示している.都道府県別データを用いた駒村 [1996]は,保育サービス需要が既婚女性の労働供給に及ぼす影響を分析して いる.その結果,保育サービスに対する親の負担料の低下がフォーマルな保 育サービス需要を促進し,女性就業率を増加させる可能性があることを示唆 している.

また,内閣府が独自集計したマイクロデータを用い,清水谷・野口[2004] は,保育園の利用が女性の労働供給に与える影響を分析している.この分析

の結果,保育負担料に対する労働供給の弾力性は約−0.2 であると推定され,

負担料の 10%の上昇は女性の就業率を 0.2%低下させてしまうことが示され た.清水谷・野口[2004]では,フレックスタイム制度,勤務時間短縮制度, 企業内託児所なども母親の就労確率に有意にプラスに働く分析結果が示され, 勤務先での福利厚生制度充実が女性の労働供給に対して重要であることも指 摘している.

保育サービスと出産

保育サービスが女性の出産に及ぼす影響についてであるが,保育サービス の増加が出産確率を上昇させるということを示す研究と,逆に関連がないこ とを示す研究が混在している.

まず,効果があるとの結論を導いている研究として,加藤[2000],滋野・ 大日[2001]などがある.加藤[2000]は,出生,結婚,労働市場およびマクロ 経済の相互関係を計量モデルによって記述し,政策の変化にともなう出生等 の効果について総合的に分析している.その結果,保育所キャパシティの増 加が出生率の上昇に寄与することを明らかにした.また滋野・大日[2001]は 全国市町村のクロスセクション・データを用いて出産と保育園利用の関係に ついて分析を行っている.

(23)

パネルデータを用い,出生率と保育所の定員数の関係について分析した戸田 [2007]は,固定効果やランダム効果といったパネル推定や GMM を用いた 分析結果により,保育所の定員数増加が出生率の増加に寄与していないこと を示した.このように保育サービスと出生率の関係は依然として明確になっ ていない.

児童手当と出産

児童手当の影響についてであるが,多くの研究では,これが出生に及ぼす 影響を中心に分析を行っている.出産と児童手当の関係について分析した研 究を中心に見てみると,児童手当は出生率の上昇に寄与しているが,その影 響は小さいといった結論に至る研究が多い.

児童手当制度は子育てによって生じるコストの一部を政府が保証する補填 する政策である.これは,子育てに必要となる金銭的コストの増加が出生率 を低下させるといった研究結果を背景としている.たとえば,Ohbuchi [1988]や 1989 年の総務省「家計調査」および総務省「貯蓄動向調査」のマ イクロデータを用いて分析を行った松浦・滋野[1996]の両者とも,出生と子 育て費用の間に統計的に有意な負の関係を見出している.これ以外にも森田 [2004]は,「女性の就労と子育てに関する調査」を用いて,子どもの養育費 や通塾費,そして夫の所得などが女性の出産行動に与える影響を検証し,養 育費や通塾費が高い世帯ほど予定子ども数が少ないことを明らかにした.

(24)

5

女性の継続就業と結婚・出産

6)

5.1 結婚や出産による離職の実態

女性就業を支援するため,上述したような法律が制定・改正され,それに 基づき雇用政策が実施されてきたわけだが,はたしてそれらの効果はどの程 度大きかったのだろうか.また,今後,これらの政策を実施していくうえで, どのような点に留意していく必要があるのだろうか.法律の効果のほかに, 経済や労働市場の状況,さらには個人の特性を考慮に入れた計量経済学モデ ルを推計することによって,これらの点について検討してみたい.なお,こ の節では家計経済研究所が 1993 年から実施している「消費生活に関するパ

ネル調査」7)(以後,「家計研パネル」と呼ぶ)や慶應義塾大学が 2004 年から

6) 本節の分析は,樋口[2007]および佐藤・馬[2007]を基に改定したものである.

7) この調査の経緯や内容についてくわしくは,樋口[1994a],家計経済研究所[1994],樋口・太 田・家計経済研究所[2004]を参照されたい.

図表 14 10 結婚前年に正規雇用者と

結婚後

均等法前世代 正規雇用

就業率 非正規雇用就業率 その他の就業率 無業率 正規雇用就業率

0 年(%) 68.1 6.1 3.4 22.5 68.4

1 年(%) 33.2 11.9 5.7 49.1 39.6

2 年(%) 25.8 10.8 6.8 56.6 29.2

3 年(%) 22.0 10.9 6.5 60.6 26.9

4 年(%) 19.6 13.1 6.4 60.9 24.9

5 年(%) 18.3 13.7 7.7 60.3 24.4

出所) 樋口[2007],図表 14 11 も同じ.

図表 14 11 第 1 子出産前年に正規雇用者と

出産後

均等法前世代 正規雇用

就業率 非正規雇用就業率 その他の就業率 無業率 正規雇用就業率

1 年(%) 21.4 6.5 6.3 65.8 35.1

2 年(%) 20.5 7.8 5.5 66.2 33.0

3 年(%) 20.2 12.5 6.5 60.8 30.4

4 年(%) 19.2 13.6 9.1 58.1 28.6

5 年(%) 20.0 15.6 8.3 56.0 27.9

(25)

実施している「慶應義塾大学家計パネル調査」(KHPS,以後,「慶應パネ ル」と呼ぶ)に基づき,推計を行う.

まず家計研パネルに基づき,初職が正規雇用であった女性のその後の就業

状態の変化を,均等法以前に卒業した世代(75 86 年度卒)8),均等法以後・

バブル崩壊以前に卒業した世代(87 91 年度卒),バブル崩壊後に卒業した 世代(92 年度以降卒)に分け,比べると次のようになっている.卒業後,5 年が経った時点で正規雇用者として継続就業している者は,均等法成立前に 比べ,均等法成立後の方が 62.7%から 72.2%に増えているが,バブル崩壊 後は逆に若干減少し(72.2%→ 67.9%),これに代わって非正規雇用に転じ た者が 10.2%から 15.4%へ増えた.

他方,結婚前に正規就業していた女性割合は,均等法成立前の 75.8%か ら均等法成立後の 71.4%と若干下がり,バブル崩壊後になると 63.6%へと

8) 74 年以前に卒業した世代はサンプル数が少なかったために分析の対象から除外してある. して働いていた女性のその後の就業状態

均等法後世代 バブル崩壊後世代

非正規雇用

就業率 その他の就業率 無業率 正規雇用就業率 非正規雇用就業率 その他の就業率 無業率

7.2 1.2 23.2 70.2 6.9 0.9 22.0

14.6 3.3 42.5 41.6 13.0 2.4 43.0

15.7 3.1 52.0 31.4 14.4 2.2 52.0

16.2 3.2 53.7 24.0 13.3 3.4 59.2

14.4 3.4 57.4 19.0 15.3 5.6 60.2

16.9 5.0 53.7 18.9 18.0 6.3 56.8

して働いていた女性のその後の就業率の推移

均等法後世代 バブル崩壊後世代

非正規雇用

就業率 その他の就業率 無業率 正規雇用就業率 非正規雇用就業率 その他の就業率 無業率

9.6 3.2 52.1 33.3 11.7 3.3 51.7

9.1 3.4 54.6 27.9 7.0 7.0 58.1

12.7 3.8 53.2 28.6 5.7 8.6 57.1

16.9 3.9 50.7 29.4 14.7 8.8 47.1

11.8 2.9 57.4 25.0 21.4 3.6 50.0

(26)

大きく低下した一方,非正規雇用はバブル崩壊前には均等法成立前が 12.2%,成立後は 14.0%であったのが,バブル崩壊後には 21.4%へ大きく 上昇した.

結婚前,正規雇用であった者に限定し,その後の変化を示したのが図表 14 10 である.結婚後 3 年が経過した時点で見ると,均等法成立前後では正 規雇用にとどまっている者が 22.0%から 26.9%に上昇していたが,バブル 崩壊後は 24.0%に下がっており,その後,この差は拡大している.

第 1 子出産後の正規雇用継続就業率についても,同様な傾向が見られる. 図表 14 11 は第 1 子を出産する前の年に正規就業していた女性について,出 産後の就業状況を示したものである.出産後 2 年目の状況を見ると,正規雇 用を続けている人は均等法前が 20.5%であったのが,均等法成立後は 33.0%に上昇した.しかしバブルが崩壊した後は,この比率は 27.9%に低 下し,就業していない人が増加している.

各世代の就業行動には,法律の施行状況や雇用環境,景気状況,さらには 本人や夫の労働時間・賃金などの処遇が影響している可能性があるが,今後 の施策を考える上で,どれが大きな影響を与えていたかを識別することは重 要である.次項では両パネルデータを用いてモデル推計を行い,これらの点 について明らかにしていくことにする.

5.2 結婚による離職行動の実証分析

近年,学校卒業後,就職した企業をすぐに辞める若者が増えているが9)

やはり女性にとって継続就業の大きな障害になっているのは結婚や出産であ る.まずこの項では,結婚後の女性の離職行動について見てみよう.家計研 パネルの履歴データや調査時点のデータに基づき,結婚した前年の調査にお いて,正規雇用就業していた女性のうち,結婚後 2 年目に正規就業していな

い人の割合(離職率)を見ると10),男女雇用機会均等法が施行される(1986

年)以前に結婚した人では 59%,均等法施行から育児休業法施行(1992 年)

までが 53%,育児休業施行から改正均等法施行(1996 年)までが 58%,改

9) 厚生労働省・職業安定局の調査によると,大学卒業後 3 年以内に初職を辞めた者の比率は 1992 年卒の 23.7%から 2002 年卒の 34.7%に上昇した.

(27)

正均等法施行後が 49%と離職率は時系列的に一貫して下がってきたわけで はない.はたしてこうした離職率に,法律施行による継続就業支援や経済環 境の変化はどの程度,影響しているのだろうか.

法律の効果を検討するには,それが施行される前後における人々の離職行

動の変化がわからなくてはならない.均等法施行(1986 年)による離職率引

下げ効果を知るためには,これが施行される以前からの長期データが必要と なる.ところが家計研パネルでは,この調査が開始された 1993 年以後に結 婚した人については,年々の夫の年間所得(万円)や実労働時間(平日 1 日 当たり),さらには妻自身の 1 年前の賃金率(時間当たり賃金率;円)や実 労働時間(1 日当たり)などの経済変数が調べられているが,それ以前に結 婚した人については調べられていない.そこで個々人の経済変数が離職率に 与える影響については,調査開始以後に結婚したサンプルに限定して分析を 行うことにし,法律施行の効果やマクロ経済の状況変化が与える影響につい て,履歴データを使って均等法施行以前に結婚した人を含むサンプルを用い て推計することにする.

図表 14 12 はここで推計に用いたサンプル(93 年の調査開始以降に結婚 した女性に限定したとき)の基本統計量を示している.これを見ると,正規 雇用だった人の結婚 1 年後の離職率は 40 43%であり,93 年以前に結婚した 人も含めたサンプルの離職率が 54%であったのに比べ低い.

図表 14 13 の推計 1 は,調査開始前に結婚した人を含めたサンプルを用い, 結婚前年に正規雇用者であった人のその後の離職行動について推定した結果 である.被説明変数は結婚後 2 年目に正規雇用就業を続けていればゼロ,辞 めていれば 1 のダミー変数とする.次に説明変数として,各法律施行の効果 を調べるため,結婚時期を 4 つに分け,均等法施行前に結婚した人をレファ レンス(基準)グループとし,これに比べ均等法が施行されて以降,育児休 業法が施行される前に結婚した人,育児休業法が施行されてから改正均等法 が施行されるまでに結婚した人,改正均等法が施行されてから結婚した人の 間で離職率がどう違うかを示す 3 つのダミー変数をとった.

(28)

図表 14 12 結婚後の離職の分析における基本統計量

93年調査以前に結婚 93年調査以降に結婚 (妻本人の出生年あり)93年調査以降に結婚

変数 平均 標準偏差 最小 最大 平均 標準偏差 最小 最大 平均 標準偏差 最小 最大

正規就業からの離職発生ダミー 0.54 0.50 0 1 0.40 0.49 0 1 0.43 0.50 0 1

中高卒ダミー(妻) 0.46 0.50 0 1 0.22 0.41 0 1 0.22 0.42 0 1

専門・短大卒ダミー(妻) 0.43 0.49 0 1 0.49 0.50 0 1 0.49 0.50 0 1

大卒ダミー(妻) 0.11 0.32 0 1 0.29 0.46 0 1 0.29 0.45 0 1

中高卒ダミー(夫) 0.45 0.50 0 1 0.33 0.47 0 1 0.34 0.47 0 1

専門・短大卒ダミー(夫) 0.17 0.38 0 1 0.15 0.36 0 1 0.15 0.36 0 1

大卒ダミー(夫) 0.38 0.49 0 1 0.57 0.50 0 1 0.56 0.50 0 1

均等法施行以前(1986年以前)結婚ダミー 0.21 0.41 0 1 均 等 法 施 行 か ら 育 児 休 業 法 施 行 以 前

(1987 92年)までに結婚ダミー 0.33 0.47 0 1 育児休業施行から均等法改正(1993 96年)

までに結婚ダミー 0.20 0.40 0 1

均等法改正後(97年以降)結婚ダミー 0.26 0.44 0 1 0.61 0.49 0 1 0.61 0.49 0 1

妻の出生年 1970 3.85 1960 1979

失業率 3.31 1.09 2.02 5.36 4.27 0.69 3.37 5.36 4.26 0.70 3.37 5.36

卒業時失業率 2.52 0.49 1.89 5.36 2.52 0.44 2.02 4.10 2.52 0.44 2.02 4.10

夫の年間所得の対数値 6.10 0.32 5.48 7.00 6.09 0.32 5.48 7.00

夫の労働時間 9.77 1.87 1 14 9.78 1.86 1 14

親と同居ダミー 0.13 0.33 0 1 0.13 0.34 0 1

親と準同居・近所ダミー 0.54 0.50 0 1 0.53 0.50 0 1

親は県内外,死亡ダミー 0.33 0.47 0 1 0.34 0.47 0 1

1 期前の妻の企業規模ダミー:99人以下 0.37 0.48 0 1 0.37 0.48 0 1

1 期前の妻の企業規模ダミー:100人以上

999人以下 0.28 0.45 0 1 0.29 0.45 0 1

1 期前の妻の企業規模ダミー:1,000人以

上 0.18 0.39 0 1 0.18 0.39 0 1

1 期前の妻の企業規模ダミー:公務員 0.16 0.37 0 1 0.16 0.36 0 1

1 期前の妻の対数賃金率 7.11 0.36 6.40 8.42 7.11 0.36 6.40 8.42

1 期前の妻の労働時間 6.96 3.10 0 12 6.97 3.08 0 12

(29)

14

女性就業・少子化

497

推計 1 推計 2 推計 3

履歴データを含むサンプル 履歴データを含まないサンプル 履歴データを含まないサンプル

説明変数 限界効果 係数 z 値 限界効果 係数 z 値 限界効果 係数 z 値

妻学歴 専門・短大卒ダミー 0.0004 0.001 0.01 0.06 0.16 0.42 0.01 0.02 0.07

ref: 中高卒 大卒ダミー −0.14 −0.35 −2.58** 0.40 1.06 2.25** 0.44 1.17 2.53**

夫学歴 専門・短大卒ダミー 0.03 0.07 0.7 0.29 0.77 1.74* 0.22 0.55 1.35

ref: 中高卒 大卒ダミー 0.06 0.16 1.83* 0.19 0.55 1.33 0.22 0.57 1.52

法律ダミー

ref: 均等法施行以前に結婚 均等法施行から育児休業法施行以前までに結婚 −0.03 −0.08 −0.71 育児休業施行から均等法改正ま

でに結婚 −0.12 −0.30 −1.9*

均等法改正後結婚 −0.35 −0.90 −3.07*** −0.11 −0.29 −0.54 −0.18 −0.48 −0.83 1 期前の妻の企業規模ダミー 100 人以上 999 人以下 −0.21 −0.63 −1.83* −0.15 −0.41 −1.27 ref: 99 人以下 1,000 人以上 −0.30 −1.02 −2.1** −0.16 −0.44 −1.04

官公庁 −0.43 −1.89 −3.45*** −0.47 −1.82 −3.41***

妻の 1 期前の対数賃金率 −0.94 −2.58 −4.41*** −0.72 −1.87 −3.71***

妻の 1 期前の労働時間 0.00 −0.01 −0.12 0.01 0.03 0.72

夫の年間所得の対数値 −0.04 −0.11 −0.19 −0.11 −0.30 −0.55

夫の労働時間 −0.05 −0.13 −1.41 −0.01 −0.03 −0.31

親との同居 同居ダミー −0.33 −1.29 −2.23** −0.32 −1.01 −1.97**

ref: 県内外,親死亡 準同居・近所ダミー −0.30 −0.83 −2.37** −0.26 −0.67 −2.09**

妻本人の出生年 0.01 0.03 0.57

失業率 0.11 0.27 2.25** 0.13 0.36 0.9 0.19 0.50 1.33

学卒時失業率 0.04 0.11 1.32 −0.15 −0.41 −1.05 −0.02 −0.06 −0.15

定数項 −0.77 −2.07** 20.09 3.07*** −44.95 −0.44

サンプル数 1217 120 122

対数尤度 −827.70 −53.23 −61.13

注) 1.***,**,* はそれぞれ 1%,5%,10%水準で統計的に有意であることを示す.

2.推計 1 は,分析期間は 1974 年から 2006 年までとなっており,履歴データも使用している.

(30)

業を促そうとする.また学校卒業時の失業率も説明変数に加えたが,これは 学校卒業時に雇用情勢が悪化しており,満足のいく企業に就職できなかった 人が多い世代では,その後の離職率が高くなる傾向が見られるとの指摘を考

慮してのことである(黒澤・玄田[2001]).このほかに個人属性を示す変数と

して,本人,および夫の学歴をダミー変数として入れた.推計方法は,プロ ビット推計を用いた.

推計 1 の結果を見ると,妻本人の学歴が大卒であると,中卒・高卒の人に 比べて,離職率は低く,継続就業率は高いことがわかる.また夫が大卒であ ると,世帯主所得が高いことを反映してか,中卒・高卒に比べ妻の離職率は 高い.それでは法律の効果はどうか.均等法施行前に結婚した人に比べ,均 等法施行後に結婚した人の離職率は若干低いが,統計的には有意ではない. しかし育児休業法施行後に結婚した人,さらに改正均等法施行以降に結婚し た人の離職率はそれ以前に比べ有意に低く,法律施行の効果は近年徐々に高 まっているといえよう.

他方,雇用情勢の影響はどうか.これには 2 つの影響が考えられる.1 つ は,先にも述べたように,企業の対応の効果であり,景気が回復すれば労働 者を確保しようとし,引止めにかかることから継続就業しやすい状況が生ま れ,離職率は下がると予想される.もう 1 つは労働者側の行動の影響であり, 雇用情勢が好転し人手不足の状況になれば,一度仕事を辞めてもすぐに再就 職先を見つけられることから,離職のコストは低く,離職率が上昇するとい う効果である.推定結果を見ると,失業率の係数はプラスになっており,失 業率が高いと離職率が有意に上昇することがわかる.このことから 2 つの効 果のうち,前者の企業対応,すなわち人材確保のため継続就業を促進しよう とすることが,強い影響力をもっていることがわかる.失業率の影響を法律 の限界効果と比較すると,改正均等法施行の影響は,失業率が約 3%上昇す ると,相殺されてしまうことになる.女性の継続就業を支援するうえで,法 的な支援とともに,企業の運用面における取り組みが重要であることが確認 された.

労働時間や賃金の効果についてはどうか11).図表 14 13 の推計 2 には,

(31)

人については,これらの情報がないため,均等法や育児休業法の施行前に結 婚したサンプルは含まれていない.

結婚前の雇用条件の影響について見ると,時間当たり賃金率が高い人ほど 継続就業する傾向が強く,離職していない.この効果は統計的にも有意に なっている.他方,労働時間は,本人の労働時間が長ければ長いほど離職す る可能性は高く,また夫の労働時間が長ければ長いほど,やはり離職する可 能性は高い.それだけ妻の継続就業の推進には,夫の労働時間が影響し, ワーク・ライフ・バランスの促進が必要であることがわかる.ただし,これ らの効果は,統計的には有意になっていない.夫の年間所得も高いほど,妻

は離職する傾向にあるが,これもまた有意な効果にはなっていない12).こ

れに対し,妻の勤め先の企業規模の影響は大きく,大企業ほど,さらには民 間企業より官公庁の方が,継続就業支援の制度が整っており,また実際にそ れを利用する人は多く,明らかに離職率は低い.こうした要因をコントロー ルした結果,本人の学歴の効果は先ほどのものから逆転し,大卒の方が離職 しやすいという結果になっている.本人の属性で注目されるのは,親と同居, あるいは準同居している世帯の方が,妻の離職率は明らかに低い.

推計 1,推計 2 が正規雇用を続けているかどうかについての分析であった のに対し,推計 3 は同一企業で勤め続けているかどうかについて推計したも のである.企業規模の影響は縮小しているものの,雇用条件等の影響は推計 2 とほとんど変わっていない.

5.3 出産による離職行動の実証分析

出産を機に仕事をやめる女性は依然として多い.厚生労働省「第 1 回 21 世紀出生児縦断調査」[2002]によると,出産 1 年前に有職者だった女性の第 1 子出産半年後の就業状態は,常勤 23.9%,パート・アルバイト 3.7%,自 営業等 4.5%となっており,仕事をもっている人を合計しても 32.2%に過ぎ ない.この比率は,常勤であった人に限っても 40.2%にとどまっており,

11) ここでは転職をしないかぎり,正規雇用者は労働時間を自分の都合に合わせ自由に選択する ことはできず,企業から指定されたものとして,これを受け入れるか,それを拒否して企業を辞 めるかの二者択一に迫られていると想定する(小尾[1969],樋口[1991]).

(32)

59.8%の人が仕事を辞めている.

従業員規模 5 人以上の事業所を対象として調査した女性の育児休業取得率

は,1996 年の 49.1%から 2005 年には 72.3%に上昇したという(厚生労働省

「女性雇用管理基本調査」).これに従うかぎり,多数の女性が育児休業を取っ

て仕事を続けているように思える.だが,この育児休業取得率は出産時に企 業で働いていた女性の取得率であり,それ以前の妊娠の段階で会社を辞めて しまった女性は分母,分子,ともに含まれない.出産 1 年前に有職者だった 人のなかには,妊娠中に辞めた人も多く,先の統計でも出産半年後に仕事を もっている人は 32.2%に過ぎない.ましてや出産半年後の有業者のなかに は,育児休業中の女性が多数含まれているから,実際に復職し,その後も仕 事を続けているかどうかを調べるには,1 年後,2 年後の就業状態を見る必 要がある.

そこで家計研パネルにより,第 1 子出産前年に正規雇用就業していた人に ついて,出産後 2 年目における正規雇用就業率を見ると,均等法施行以前に 出産した人では 35%,それ以降,育児休業法施行前に出産した人では 34%, 育児休業法施行後,改正均等法までに出産した人では 27%,改正均等法以 降は 45%となっている.近年,仕事を続ける女性は増えてきたが,一貫し て増加傾向にあるわけではない.しかも,現在でも 55%の女性が出産前に 就いていた正規雇用を辞めていることになる.はたして,女性の出産後の継

続就業にどのような要因が影響しているのか13)

図表 14 14 は第 1 子を出産したと回答した女性のうち,前年の調査で正規 雇用就業していた人にサンプルを絞り,出産後 2 年目に正規雇用を続けてい る人をゼロ,辞めた人を 1 とするダミー変数をとり,被説明変数として推計 したプロビット分析の結果を示している.結婚後の離職についての推定と同 様,ここでも各種の法律の効果を見るため履歴情報を含む長期データと,各 個人の属性や経済変数の効果を見るための調査開始以降に出産した短期デー タの 2 つのサンプルグループに分け,推計を行った.

推定 1 は,長期データに基づく推計結果である.結婚後の離職に関する推

(33)

14

女性就業・少子化

501

推定 1 推定 2 推定 3 推定 4

履歴データを含むサンプル 履歴データを含むサンプル 履歴データを含まないサンプル 履歴データを含まないサンプル 説明変数 限界効果 係数 z 値 限界効果 係数 z 値 限界効果 係数 z 値 限界効果 係数 z 値 妻学歴 専門・短大卒ダミー −0.01 −0.02 −0.17 −0.01 −0.02 −0.17 −0.10 −0.30 −0.77 −0.08 −0.23 −0.61 ref: 中高卒 大卒ダミー −0.26 −0.66 −3.42*** −0.24 −0.61 −3.16*** −0.52 −1.44 −2.72*** −0.45 −1.20 −2.34**

夫学歴 専門・短大卒ダミー 0.04 0.12 0.82 0.04 0.11 0.74 0.00 0.01 0.02 0.08 0.23 0.59 ref: 中高卒 大卒ダミー 0.14 0.39 3.09*** 0.14 0.39 3.11*** 0.19 0.57 1.28 0.15 0.43 1.04 法律ダミー

ref: 均等法施行以前に出産 均等法施行から育児休業法施行以前までに出産 −0.001 −0.003 −0.02 育児休業施行から均等法改

正までに出産 −0.002 −0.005 −0.02

均等法改正後出産 −0.33 −0.86 −2.20** −0.43 −1.61 −2.31** −0.36 −1.21 −1.82*

妻の出生年 0.02 0.05 0.89

ref: 育児休業以前に出産 育児休業法施行後出産 0.56 1.88 2.66***

育児休業法ダミー×失業率 −0.22 −0.59 −2.4**

1 期前の妻の企業規模ダミー 100 人以上 999 人以下 −0.74 −2.40 −3.83*** −0.60 −1.72 −3.36***

ref: 99 人以下 1000 人以上 −0.62 −1.77 −2.84*** −0.48 −1.30 −2.32**

妻の 1 期前の労働時間 0.08 0.23 2.15** 0.08 0.24 2.25**

夫の年間所得の対数値 −0.05 −0.14 −0.28 0.11 0.31 0.67

夫の労働時間 −0.05 −0.14 −1.47 −0.05 −0.15 −1.64

親との同居 同居ダミー −0.42 −1.15 −2.42** −0.38 −1.01 −2.26**

ref: 県内外,親死亡 準同居・近所ダミー −0.19 −0.57 −1.45 −0.11 −0.31 −0.84

失業率 0.09 0.24 1.34 0.12 0.32 1.46 0.45 1.34 2.67*** 0.31 0.90 1.95*

学卒時失業率 0.10 0.28 1.79* 0.08 0.22 1.46 0.07 0.21 0.39 0.29 0.84 1.66 定数項 −0.95 −1.54 −1.01 −1.51 −3.82 −1.01 −97.49 −0.95

サンプル数 664 664 117 117

対数尤度 −414.27 −415.73 −46.32 −52.56

注) 1.***,**,* はそれぞれ 1%,5%,10%水準で統計的に有意であることを示す.

2.推定 1,2 は,分析期間は 1974 年から 2006 年までとなっており,履歴データも使用している.

(34)

計結果と同様,妻の学歴が大卒であると中高卒に比べ継続就業する人が多く, 離職率は有意に低い.夫が大卒であると,逆に離職率は有意に高くなってい る.法律の効果に注目すると,均等法施行前に比べ,均等法施行後に出産し た女性,あるいは育児休業法施行後に出産した女性の離職率は低いが,統計 的に有意な結果にはなっていない.しかし改正均等法施行後になると,離職 率は有意に低下している.他方,失業率の影響を見ると,学卒時にしろ,出 産時にしろ,失業率が高いほど,離職率は高くなっている.

推定 2 では,育児休業法の施行により,それ以前に比べ失業率が同じよう に上がっても,出産後の離職率は抑制されるようになったかを検討するため, 両者のクロス項を説明変数に加えた.これを見ると,育児休業法ダミーはプ ラスの係数をとっているが,失業率とのクロス項の係数はマイナスであり, 失業率が 3.2%を超えると,育児休業法施行後の方が離職率は抑制されるよ

うになったことがわかる14)

推定 3 は調査が開始された 1993 年以降に第 1 子を出産したサンプルを 使って推計した結果である.妻本人の学歴は,推定 1,推定 2 と同様,大卒 の方が離職率は低くなっているが,夫の学歴の効果は,夫の年間収入を説明 変数に加えたことにより,有意ではなくなっている.また結婚後の離職率と 同様,企業規模が大きい方が出産後も離職率は低く,親と同居している方が 低い.

他方,経済変数の効果についてはどうか.夫の年間所得は高く,労働時間 は長い方が離職率は低くなっているが,有意ではない.統計的に有意な結果 を得ているのは,妻本人の労働時間であり,これが短い方が仕事を辞める人

は少ない15).ここでもワーク・ライフ・バランスの重要性が確認される.

法律と失業率の効果を見ると,均等法の改正は女性の離職率を有意に引き 下げたという結果になっているが,同時に失業率はこれを逆に引き上げる効 果をもつことがわかる.推定された係数によると,均等法施行の効果は失業 率が 1.2%上昇すると相殺されてしまう.それだけ労働需給が緩み,企業が 人材の確保に力を注がなくなると,育児休業の制度はあっても,利用しづら

14) 樋口[1994b]は育児休業制度をもっている企業割合の高い産業と低い産業で,離職率にどの程 度の差があるかを検討している.

図表 14 12 結婚後の離職の分析における基本統計量 93年調査以前に結婚 93年調査以降に結婚 (妻本人の出生年あり)93年調査以降に結婚 変数 平均 標準偏差 最小 最大 平均 標準偏差 最小 最大 平均 標準偏差 最小 最大 正規就業からの離職発生ダミー 0.54 0.50 0 1 0.40 0.49 0 1 0.43 0.50 0 1 中高卒ダミー(妻) 0.46 0.50 0 1 0.22 0.41 0 1 0.22 0.42 0 1 専門・短大卒ダミー(妻) 0.43 0.49 0 1 0.4

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