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「教養」を高める「する,みる,支える,知る,伝える」かかわりのある授業実践: 茨城大学機関リポジトリ

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豊かなスポーツライフを実現する保健体育授業の創造

~「教養」を高める「する,みる,支える,知る,伝える」かかわりのある授業実践~

木谷晋平*・日下裕弘** (2017 年 8 月 31 日受理)

Health and Physical Education Classes Aiming

at the Realization of Abundant Sport Life ;

Class Practices of "Do, See, Support, Know, Communicate"

involvement to Improve

Cultural Qualities

Shinpei Kitani* and Yuko Kusaka* (Accepted August 31, 2017)

はじめに

茨城大学教育学部附属中学校では,平成26年から平成28年までの3年間をかけて,「21世紀を 生きるための『教養』を高める学びの創造」を研究主題に,様々な「公開研究会」を行ってきた。 その主題を具現化した我々「保健体育」分野のテーマは「豊かなスポーツライフを実現する保健 体育授業の創造」であり,この3年間,このテーマの理論的枠組みの中に,生涯にわたるスポーツ ライフの多様な諸局面,すなわち,「する・みる・支える・知る・伝える」および「セルフワーク・ チームワーク・クラスワーク」の諸視点を取り入れ,研究と考察を続けてきた。

本研究は,21世紀を生きる未来の子どもたちの生きる力=「教養」のひとつとして「生涯スポー ツ文化」を挙げ,豊かな生涯スポーツ文化を実現する多様なスポーツ参与の形態(する・みる・支 える・知る・伝える)とスポーツ行動の在り方(セルフワーク・グループワーク・クラスワーク)を, 3つの研究授業の実践を通して検証することを目的としている。

       

*茨城大学教育学部附属中学校保健体育(〒310-0056 水戸市文京1-3-32 ; Physical Education, Attached Junior High School, Faculty of Education, Ibaraki University, Bunkyo 1-3-32, Mito, Ibaraki, 310-0056 Japan).

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研究の枠組み

(1)21 世紀を生きる未来の子どもたちの生きる力(「教養」=「文化」) <茨城大学教育学部附属中学校の授業研究の理念>

茨城大学教育学部附属中学校では,21世紀を生きる子どもたちの生きる力を「教養」=「文化」 としてとらえ,それを「いかに時代が変化しようとも揺るがない判断・行動の基準となる理念をも ち,自己の生き方の基軸となるものを構築すること,つまり『自己の確立』である」と定義した。

<本校保健体育科における「教養」の捉え方>

新しい学習指導要領では,義務教育段階で育成を目指す資質・能力を「体育や保健の見方・考え 方を働かせ,課題を発見し,合理的な解決に向けた学習過程を通して,心と体を一体として捉え, 生涯にわたって心身の健康を保持増進し豊かなスポーツライフを実現するための資質・能力」とし た1)。しかしながら,現在行われている保健体育の授業に目を向けると,単に技能向上のための反 復練習が行われていたり,優劣がはっきりしている技能を形式的に評価したりするなど,先に挙げ た目標を達成しようとしているようには見受けられない。梅澤(2016)2)は「個々人の身体能力を 向上させることや効率的に技をできるようにさせることを教育方法の中心に捉えれば捉えるほど, 体育という教科だけが21世紀型の教育方法からかけ離れていく」と言っている。いわゆる20世 紀型の伝統的な教育方法(例えば,運動内容に関わらず全員一斉の形式的な準備体操をしたり,技 能や体力の向上のみを求めたりする授業など)は,現在でも日常的に行われている。

そこで,本校保健体育科では,単に,技能の向上のみを目指したり,ICT機器を効果的に使いこ なすことが主となる問題解決的な授業を展開するのではなく,幅広い「かかわり合い」の中から「豊 かなスポーツライフを実現する保健体育授業」を掲げてきた。つまり,する,みる,支える,知る, 伝える「かかわり」のある学習によって,「教養」を高めることを主眼としてきた。

(2)スポーツ文化と豊かなスポーツライフの実現 <スポーツ文化>

文化には,生活をより豊かにするために人間が創造してきた総ての生活様式が含まれる。スポー ツ文化には,①豊かな生活の理念的・観念的局面としてのスポーツ精神文化,②その精神を現実の 行動に実現する行動的・制度的局面としてのスポーツ行動文化,そして③スポーツ精神と行動を物 質的な局面から支えるスポーツ物質文化がある。スポーツ精神の中核は,「スポーツを楽しむこと」 「スポーツのおもしろさを追究すること」である。ただし,それは,フェアプレイとスポーツマンシッ

(4)

する遊戯価値,②「ワザ・技能」を追究する競争価値,③スポーツに関わる「人間の望ましい在り 方」に関する倫理価値,④「健康と体力」を保持増進させる身体価値などが含まれる。3)4)5)

<豊かなスポーツライフ>

体育・保健体育の究極の目標は,「健康で,楽しく,明るく,豊かで,活力ある生命・生活・人 生」である。この目標の達成のためには,「多様で,豊かなスポーツライフの実現」が重要な鍵と なる。平成30年度(幼稚園),平成32年度(小学校),平成33年度(中学校),平成34年度(高 等学校)にそれぞれ全面実施される「新学習指導要領」でも,「豊かなスポーツライフの実現」の 本質は,幼稚園から高等学校までの保健体育教育に通底する主要な内容である。

スポーツとは,遊技性,競争性,身体運動性,組織性の4つの要素をもった「身体能力・運動能力・ ワザの卓越性を求めての努力」である。6)ハンス・レンク(1984)7)は,それを「身体による独創的 達成を通じての生の充実」と定義した。

スポーツ文化は,人間のこの卓越性を求めての楽しく・おもしろい努力や独創的達成による生の 充実の諸過程を通じて洗練され,多様で,豊かに発展してきた。「豊かなスポーツライフ」とは, 多様なスポーツ文化の価値を「ライフ」(生,生活,人生)に取り入れ,「望ましいライフ」を創造 していくことである。

<する・みる・支える・知る・伝える> 

2010年8月,文部科学省は,「新たなスポーツ文化の確立」を目指し,「すべての人にスポーツを! スポーツの楽しみ・感動を分かち,支え合う社会へ」をスローガンに,「スポーツ立国戦略~スポー ツコミュニティ・ニッポン~」を公表した。そこでは,スポーツへの多様な関わりを「する人」「観 る人」「支える(育てる)人」に分類している。8)

これより先,J.W.ロイ・B.D.マクファーソン・G.ケニオンら(1978)9)は,スポーツへの社会的 関わりの形態を,一時的スポーツ参与(primary oport involvement)と二次的スポーツ参与(secondary sport involvement)に分け,前者の例として,アスリート・コンテスタント・プレイヤー・勝者・敗者・ スターター・補欠・スーパースターを挙げている。また,後者を,「生産者」と「消費者」に分類し, 「生産者」の例として,「直接的生産者」(道具的リーダー:コーチ・マネージャー・プレイしないキャ

プテン,判定者:審判・アンパイヤー・レフェリー,ヘルスサービス者:医者・トレーナー・ウォーター ボーイ等)と「間接的生産者」(起業家:製造業者・オーナー・プロモーター・スポンサー,表現リーダー: チアリーダー・バンドリーダー・マスコット,技術者:アナウンサー・写真家・レポーター・スコ アキーパー,サービス人員:売店員・グラウンドキーパー・プログラム売り・セキュリティガード等) を挙げている。さらに,「消費者」を,「直接的消費者」(アクティブな観衆等)と「間接的消費者」 (見物人・テレビやラジオの視聴者等)に分類している。

2011年の「スポーツ基本法」と2012年の「スポーツ基本計画」は,こうしたスポーツと国民の 関わりを「する」「みる」「ささえる」と明示し,さらに,2016年8月と12月の中央教育審議会は, 新しい額指導要領の改訂に向けて,これらに「知る」「伝える」を加えた。

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という体育実技本来の在り方を忘れてはならない。

<セルフワーク・チームワーク・クラスワーク> <セルフワーク>

「セルフワーク」とは,個人の態度,ワザの習得,思考・表現活動における主体的な努力の過程 のことである。例えば,金子明友10)11)12)にれば,ワザ(コツとカン)の体得は次のような段階を 経て行われる。

① 始まりの「受動性」

 「コツ」と「カン」は,意識下の深い層にある「なじみの地平」の受動的な「感じ」「雰囲気」 から始まる。それは,全身の状態感であったり,気分であったりする。天気が良く,気分がいい ときは自然に歩きたくなる。それは,受動的に始まる。ものに誘われる(アフォーダンス)。 ② 「探索」

 やがてある目的を持つ(「志向性」をもつ)動感が生まれる。新しい動感を求めて,自ら触手 を出し,その足音に手を伸ばし始める。目当てを求めて,探りを入れ,新しい動感を予感する。 ③ 「まぐれ当たり」

 偶発的にできた「まぐれ」の動感は,やがて,練習をくり返すことによって「能動的なまぐれ 当たり」の動感に変化する。「出来そうな気がする」。「いい感じ」に向かって能動的に,期待を持っ て反復練習し始める。

④ 「形態」の形成・洗練・修正

 「まぐれ当たり」の動感は,やがてひとつのしっかりした「形態」をもつ動感に変化する。「い つでもできる」ように,しっかりした「かたち」を形成する。いつでも同じような動感メロディー が流れ,秩序ある行為パターンが「図式」として形成される。この身体図式・運動図式は,やが て洗練・修正され,わざ幅を拡大させる。危機を克服しながら発展する。

⑤ 「自在」

 動感は,最期に,わざの最高の極地に至る。それは,「どんな状況の変化に合っても,自ら動 くのにまったく何の心身の束縛もなく,まったく思うように動いて,すべて理にかなっている」 という「自在」の境地である。そこでは,「わたし」という存在をも無い。最高度のこの美的な「質」 の高まりは,我が国では「空」や「無」と言い表される。

コツとカンは,生き生きとはたらいている。それは,直感でしかとらえられない。無限の充実指 向性をもつ,絶え間なき変化と成長の過程である。それはやがて,一定の「形態」(その子どもな らではの「かたち」)をもつ。それは,多様な素材を中心的な意味核(“いい感じ”)のもとに統一 した実質合理的で,個性的な形態(かたち)(内側の動感としては「○○ちゃん独自の“いい感じ”」。 外側から他者が見れば「○○ちゃんらしい個性的な“フォ-ム」。)を生成する。

「カン」とは,「観察」と「読み」である。カンで手の動きを読み,待ち受ける。それは「伸びる」。 情況とのかかわりの中で,「絶対ゼロ点」(身体の中心)から伸びる。例えば,「シュートのカン」「ボー ルの落下点のカン」「車巾のカン」「杖先のカン」などがある。「カン」には,2つある。すなわち, ①「予描先読み」(あらかじめ読むカン)と,②「偶発先読み」(とっさに読むカン)である。

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互隠蔽)である。すなわち,コツを実現するためには,頭の中だけで仮想した机上の空論ではない, コツにつながった読み(カン)が必要である。この実践的なカンがコツの実現を意識下の「引き出 し」として支えている。同様に,カンが生きてはたらくためには,実践的なカンにつながっている コツをすでに体得し,「引き出し」としてそのコツを潜在させていなければならない。したがって, 体育授業におけるセルフワークにおいては,コツとカンの同時的練習・体得が必要不可欠になる。 コツだけの練習・体得とか,カンだけの練習・体得といった学習過程は存在しえない。ワザ(コツ とカン)の学びは,同時並行的に行わなければ意味がない。真正な学びにはならない。

<チームワーク>

<グループ活動におけるチームワークの構造>

一般に,「グループ活動」とは,集団内の役割がもつ機能連関のことをいう。「チームワーク」 は,グループ活動の中でも特に,具体的,限定的な目的をもつゲームのためのグループ活動であ り,チームメンバー同士の連携と協働によって創造された「集団のワザ」である。例えば,バスケッ トボールの場合,最も基本的なチームワークは,1対1のパス,そしてその協働にボールを持たな いプレイヤー1人が加わった三角形のチームワークである。Bavelas,Aら(1953)13)は,チークワー クの構造を,主としてコミュニケーション行動の観点から図1のように分類している。一般的には, 課題遂行の速さや技術的側面をより重視し戦績を強く意識する「車輪型」,集団維持機能や人間的 側面を重視し社交にウエイトをおく「サークル型」が代表的である。「車輪型」は,コミュニケーショ ンの要路がはっきりして,課題遂行機能が高くなる。中心にリーダーが位置し,すべての情報収集 と再伝達が処理されることが可能である。この構造は,集団を構成するプレイヤー1人1人が自 分たちの集団構造を認知してはいるが,メンバーの満足度は低く,集団維持機能は真の機能を果た していない。それに対して「サークル型」構造を持つスポーツ集団は,1人がコミュニケーション の要路を独占しているとは言えず,コミュニケーションの流れも一貫性をもたない傾向がある。し かし,メンバーの満足度は高く,様々な模索のうちに自分たちの目標を追求している姿が見えてく る。

<チームワークにおける身体・運動図式の共有>

さらに,チームワークにおいては,メンバー全員の意識下における「身体図式・運動図式の共有」 (「相補的同調・共振」「非中心化」)が不可欠である。チームプレイを行う際,誰もが,仲間や道具

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チームとしての連携動作を共に学び合い,同じく体得することが必要になる。

これらの「相補的同調」「共振」「非中心化」は,「図」としての意識的な,単に知識として知る レベル(顕在的同調)から,練習やトレーニングを積み重ねたころによる「地」としての意識下の より深いレベル(潜在的レベル)の「身体知」に至るまで様々な段階がある。(図2)14)

<クラスワーク>

「クラスワーク」とは,スポーツにおける「セルフワーク」「グループ・チームワーク」「ゲームの流れ」 を創造しつつ,スポーツを「する」「みる」「支える」「知る」「伝える」保健体育学級全体にかかわ る諸役割とその活動システムのことをいう。この概念は,総合型地域スポーツクラブなどに不可欠 の「クラブワーク」にヒントを得ている。未来の子どもたちの豊かなスポーツライフには,「主体的, 協働的,総合的」な地域のスポーツクラブが重要な位置を占めるものと考えられる。その基本理念は, 「住民の住民による住民のための活動」であり,荒井貞光(1987)13)は,そのためのマネージメン

ト活動を「クラブワーク」と呼んだ。例えば,地域のスポーツクラブにおけるテニスコートの「コー トの中」は,テニスを「する」「ハラハラ・ドキドキ」空間であるが,「コートの外」は,テニスの ゲームを「みる」「応援する」,あるいは「クラブハウス」で「雑談をする」「ホッとする・ヤレヤレ」 空間である。「コートの中」の個人的,集団的プレイ(チームワーク)を超えたこの「コートの外」 における「チーム間の連携・調整」「安全管理」「環境整備」「審判」「指導者」等の「クラブ内の諸 マネージメント」および,「クラブを超えた外部集団との連携・調整」など,いわば,クラブ全体

チェーン型 <字型 車輪型

連鎖型 サークル型 コムコン型

図1.スポーツ集団とコミュニケーションの要路(%DYHODV,$ )

チームとしての連携動作を共に学び合い、同じく体得することが必要になる。

これらの「相補的同調」「共振」「非中心化」は、「図」としての意識的な、単に知識として知るレ

ベル(顕在的同調)から、練習やトレーニングを積み重ねたころによる「地」としての意識下のよ

り深いレベル(潜在的レベル)の「身体知」に至るまで様々な段階がある。(図2)1)

<クラスワーク>

「クラスワーク」とは、スポーツにおける「セルフワーク」「グループ・チームワーク」「ゲーム

の流れ」を創造しつつ、スポーツを「する」「みる」「支える」「知る」「伝える」保健体育学級全体

にかかわる諸役割とその活動システムのことをいう。この概念は、総合型地域スポーツクラブなど

に不可欠の「クラブワーク」にヒントを得ている。未来の子どもたちの豊かなスポーツライフには、

「主体的、協働的、総合的」な地域のスポーツクラブが重要な位置を占めるものと考えられる。そ

の基本理念は、「住民の住民による住民のための活動」であり、荒井貞光()1)は、そのため

のマネージメント活動を「クラブワーク」と呼んだ。例えば、地域のスポーツクラブにおけるテニ

スコートの「コートの中」は、テニスを「する」「ハラハラ・ドキドキ」空間であるが、「コートの

外」は、テニスのゲームを「みる」「応援する」、あるいは「クラブハウス」で「雑談をする」「ホッ

とする・ヤレヤレ」空間である。「コートの中」の個人的、集団的プレイ(チームワーク)を超えた

この「コートの外」における「チーム間の連携・調整」「安全管理」「環境整備」「審判」「指導者」

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を「支える」「マネージメントする」活動を総称して,荒井は「クラブワーク」と呼んだのである。 このクラブワークを保健体育学級にあてはめて,「クラスワーク」と命名した。ここでは,「クラブ」 概念が内包している基本理念から導き出される「クラスワーク」の外延を例示しておこう。すなわ ち,分析枠組みとしては,

①クラスは,メンバー全員が「主体的」に活動する「自立」した保健体育「学習」集団である。 ②クラスは,スポーツを「する」(セルフワーク・チームワークなど),「みる」(観察,模倣,など),「支 える」(準備・後かたづけ,BGM,応援,記録,審判など),「知る」(聴く,調べる,身体知 など),「伝える」(学び合い,教え合い,言語的・身体的コミュニケーションなど)諸活動を, 分担し,協働して行う。

③クラスは,学習集団の興味・関心やレベルに応じて当該スポーツのルールを設定・修正する。  (新しいルールができれば,新しいスポーツのゲームが展開されることになる。)

④クラスは,指導者を選定できる。 

⑤クラスは,クラスワークの成果を全員で共有する。(その内実は,主として協力・協働・支援・ ケアリング,インクルージョンなどの諸価値であろう。)

⑥クラスワークの成果は,クラスの雰囲気を含めたクラスそのものの在り方やクラスの他の学習 活動に転移し得る。

などが考えられる。

図2.類似した身体図式(運動図式)の共有(相補的同調,共振,非中心化)

等の「クラブ内の諸マネージメント」および、「クラブを超えた外部集団との連携・調整」など、い わば、クラブ全体を「支える」「マネージメントする」活動を総称して、荒井は「クラブワーク」と 呼んだのである。このクラブワークを保健体育学級にあてはめて、「クラスワーク」と命名した。こ こでは、「クラブ」概念が内包している基本理念から導き出される「クラスワーク」の外延を例示し ておこう。すなわち、分析枠組みとしては、

①クラスは、メンバー全員が「主体的」に活動する「自立」した保健体育「学習」集団である。

②クラスは、スポーツを「する」(セルフワーク・チームワークなど)、「みる」(観察、模倣、など)、 「支える」(準備・後かたづけ、BGM、応援、記録、審判など)、「知る」(聴く、調べる、身体 知など)、「伝える」(学び合い、教え合い、言語的・身体的コミュニケーションなど)諸活動を、 分担し、協働して行う。

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研究授業とその考察

これまでの諸理論に基づく概念をふまえ,豊かなスポーツライフを実現する保健体育授業の創造 をめざした。それらを実現させる手立ては次のとおりである。(表1)

(1)実践事例 球技「バスケットボール」(第 2 学年) <学ぶ意欲を喚起する「課題」>

これまで保健体育科の授業における「課題」は,「今できる技でマット運動に挑戦しよう」や,「で きる技を組み合わせて,演技しよう」といった活動を主としたものが多かった。しかし,本単元で はバスケットボールの本質に迫りながら,他者,他チーム,クラス全体が多様にかかわり合える「問 い」を生みだすことをねらった。「失点を最小限に抑えるには?」という課題に対して,マンツー マンディフェンスのやり方を学んだり,ゾーンディフェンスの動き方を理解したり,リバウンドの 技能を高めることを徹底するなど,各チーム様々なアプローチの仕方で学習した。そして,「クラ スワーク」におけるシェアリングでは,ジグソー法の要領で別々のチームの仲間が集まり「課題」 について話し合った。シェアリングの中でさらに新しい「問い」が生まれるなど,意欲的な学びの 支えとなる「課題」を授業で創り,次につなげることを期待した。(写真1)

  

①学ぶ意欲を喚起する「課題」 ②学びの見通しをもつガイダンス ③能動的な学びを創る「探究的な学び」 ④自己の学びを支える「協同の学び」 ⑤一人一人を伸ばす「指導と評価」

表1 授業実践の手立て

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<学びの見通しをもつ「ガイダンス」>

シーデントップが提唱したスポーツ教育モデルを参考に,12時間の単元を設定した。「セルフワー ク」「チームワーク」「クラスワーク」という言葉やねらいも共通理解を図り,誰もが「みる」「支える」 かかわり活動に取り組みながら,「附中バスケットボール大会」を創造していくことを目指した。

また,指導と評価についても,技能習得のものさしとなるルーブリックを生徒と共につくり,一 人一人が目標をもって「セルフワーク」に取り組むことができるようにした。学習カードを使って, 本時のめあて→学習内容→授業のふりかえりを共有した。(写真2・3)

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バスケットボールの授業の単元計画は以下の通りである。(表2)

10

表2 バスケットボールの単元計画

1 時 □ねらい ・学習活動 ○学習課題 関 思 技 知 評価 方法

は じ め 3 時 間

・「みる」「支える」役割を果たす意義について考えよう。 ・ボール操作,ボールを持たないときの動きの練習を考えよう。

観察 1

活動Ⅰ ガイダンスを通して,学習の進め方を知ろう。

・学習のねらい,進め方,学習カードの使い方,チーム編成,係の役割 1

2 活動Ⅱ 基本的な技能を復習し,確認しよう。

・【ボール操作の動き】・・ハンドリング,シュート,ドリブル,パス ・【ボールを持たない時の動き(鬼ごっこ)】空間を作る・使う,空間埋め

る,マンツーマンディフェンス,スクリーンプレイなど

3 1

な か 7 時 間

・セルフワークで個人の課題を解決しよう。

・クラスワークでバスケットボールの楽しさを知ろう。

活動Ⅰ ボール操作,ボールを持たない時の動きをゲームに生かそう。

○ドリブル攻撃,パス攻撃はどちらが効果的か? ○どのようなシュートが確立が高いか?

4 ① 2

① 観察

カード

5 ①

6 ①

活動Ⅱ 基本的な戦術を学び,課題解決に向けたゲームを行う。 ○どうすれば,失点を最少限に抑えられるか?

○どうすれば,効果的に得点に結びつけられるか? ・チームワークでグループの課題を解決しよう。

・クラスワークでバスケットボールの特性を共有しよう。

② 観察

クラス

ノート

7 2

○8 ②

9 3 ②

10 ② ②

ま と め 2 時 間

活動 附中バスケットボールカップを開催しよう。

○バスケットボール大会で誰もが楽しめるにはどうすればよいか。

○バスケットボールの魅力とは何か。

・自己やチームの課題に応じて練習方法を工夫しよう。

・「行う」「みる」「支える」かかわりを活用して,バスケットボール大

会を開催しよう。

② 観察

クラ

スノ

ート 1

1

1

2

① ③

<能動的な学びを創る「探究的な学び」>

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<能動的な学びを創る「探究的な学び」>

第1学年の体育理論において「する」「みる」「支える」かかわりを学んだ。本校では,それらを 最大限に生かすことができる授業を考え,実践してきた。本単元では,運営係や記録係,メディア 係,コーチ係など,「クラスワーク」の時間を利用して自分たちで授業を支え,創造していく単元 を構想した。(写真4・5・6)

<自己の学びを支える「協同の学び」>

「協同の学び」には,かかわりが大切である。中学生の体育の授業を見ていると,チーム内の話 合いが活発になることは多いが,チームをこえて学び合う姿はあまり見ることができない。さらに, 球技などの団体種目の場合は,チームの勝利を考えるあまり,他チームを敵対視してしまう場面も 見受けられる。だからこそ,これからの体育の授業には学級や学年で体育の授業を創っていく「ク ラスワーク」の考え方が必要となってくる。本単元における「クラスワーク」では,チームを解体 して様々なチームが異なる考えを対話する場として設定した。また,それらの考えを全体で共有し, また,他クラス,他学年への発信の場として「学びの掲示版」も活用し,「伝える」かかわりも重 視した。

「セルフワーク」では,スポーツと自分自身がより深くかかわることを目的としている。音楽に 合わせ,ストレッチングやボールハンドリングをしたり,鬼ごっこやシュート練習をしたりするな ど,バスケットボールの特性に触れる動きを,それぞれが目的をもって取り組む時間である。その 際,個と個とが対話し合える雰囲気作りが大切である。

「チームワーク」では,チームの友達やスポーツ特有の戦術や作戦とかかわり,課題解決に向け て練習をしたり,ゲームをしたりする時間である。授業共通の「課題」はあるが,アプローチの仕 方はチーム毎に異なる。そのため,授業開始前には,練習計画をキャプテンやコーチ係を中心に考 えている。従来の「タスクゲーム」や「メインゲーム」はこの「チームワーク」の時間に含まれる と考える。

「クラスワーク」は,学級や他クラスとかかわり,スポーツの特性に様々な視点から迫ることを ねらいとしている。課題解決に向けて異なる活動をした生徒が集まり,その情報を共有することを 目的としている。また,様々な「みる」「支える」人とのかかわりによってゲームが運営されてい ることも,「クラスワーク」の大きな特徴といえる。「クラスワーク」の時間を設定することにより, チームの勝敗に楽しさを求める「技能」中心の授業から,自分たちが授業を創る楽しい学びに変わっ ていった。(写真7・8・9)

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(2)「陸上競技(長距離走)」・「体育理論(多様なかかわり方)」(第1学年) <学ぶ意欲を喚起する「課題」>

どちらかと言えば意欲の低い単元になりつつある長距離走の授業において,生徒一人一人の意欲 を喚起するために「附中駅伝」という目標に向けて,セルフワーク,チームワーク,クラスワーク それぞれにおいて課題を設定して単元を進めた。

「セルフワーク」では,個人の目標を設定し,グループで駅伝を行うとともに,個人の記録の向 上を目指したり,自分に合ったウォーミングアップやペース,練習方法を見つけたりする時間にし た。

「チームワーク」では,駅伝の良さである応援や並走することなどを考えた。また,チームの目 標を設定したり,ウォーミングアップや練習内容などにチームの特色を出すことを賞賛した。また, 所属感を醸成するために,写真撮影やチーム目標を掲載した附中駅伝大会プログラムを作成した。 個人とは別にチームの課題も,生徒一人一人の意欲を喚起できるように考えた。

「クラスワーク」は,単元の最後に附中駅伝を設定したことにより,一人一人が役割をもつ組織 的な受業のマネージメントができるようになった。チームとは別に,係ごとに集まって運営をして いくかかわりが生まれ,学年全体の駅伝大会開催に向けて,大会を「みる」「支える」「知る」「伝 える」様々な課題が設定された。

<学びの見通しをもつガイダンス>

長距離走は,運動領域の中では生徒の意欲はあまり高くない内容である。しかし,箱根駅伝の人 気やジョギング人口の増加など,近年長距離走に対する関心は高まっているのが現状である。それ らの特性を踏まえ,本単元では,運動領域である「陸上競技(長距離走)」と「体育理論(多様な かかわり方)」とを意図的に組み合わせた。また,スポーツ教育モデルを参考にしながら,単元の 最後に設定された「附中駅伝」に向けて,一人一人が自分の役割(「行う」「見る」「支える」かか わり)を責任もって果たすことにより,長距離走の醍醐味に迫ることができるように計画した。(表3)

写真7

【セルフワーク(ハンドリング)】

表3 長距離走の単元計画 写真8

【チームワーク(鬼ごっこ:マンツーマン)】

写真9

【クラスワーク(係話合い)】

1 2 3 4 5 6 7 8

領  域 長距離走 長距離走 体育理論 体育理論 長距離走 長距離走 長距離走 長距離走

学習内容 ガイダンス タイムトライアル

駅伝競走 ①

多様な かかわり方

附中駅伝 準備

附中駅伝 練習

駅伝競走 ②

附中駅伝 練習

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<能動的な学びを創る探求的な学び:「体育理論(運動やスポーツへの多様なかかわり)」>

体育理論では,「運動やスポーツには,すること,みること,支えることなどの多様なかかわり 方があること」を理解することが目標であり,「する」「みる」「支える」というキーワードを身近 なところから考えることにした。主な活動としては,「スポーツの楽しみ方」をテーマにブレイン ストーミングを行い,「する」「みる」「支える」という視点から分類するようにした。その中で, 自分たちの活動にどう生かせるかを考えさせ,「附中駅伝」をみんなで楽しむ計画を立てるように した。(写真10・11)(表4)

<自己の学びを支える「協同の学び」:「附中駅伝を開催しよう! 8/8 時間目」>

「体育理論」で「する」「みる」「支える」などのかかわり方を学習してから,応援や準備,片付 けを率先して行う生徒が増えてきた中で「附中駅伝」を行った。見所がとても多く,駅伝プログラ ムやコマーシャル,開・閉会式,自転車による先導,給水コーナーなど,生徒が考えたアイデアの 世界でイベントを楽しもうとする積極的な姿が見られた。「支える」かかわりの中には,「知る」「伝 える」活動も多く含まれており,学年全体が協同する姿が見られた。(写真12・13・14)(表5)

する みる 支える

・国歌斉唱

・チームのユニフォーム ・走者の紹介(山の神など) ・開会式,閉会式

・賞状,優勝カップの授与 ・選手宣誓 など

・応援道具(小旗,学級旗,メガホン) ・応援団,チアガール

・ルート上,隙間なく応援する人を埋 める

・プログラム作り ・CM作り

・チーム,個人の目標 など

・救護班(担架) ・給水コーナーの設置 ・カメラマン ・実況,解説者

・走り終わった人にタオルをかける係 ・スタートの号砲,ゴールテープ係 ・先導者,最後尾者(自転車)など 写真10 活動の様子(話合い)

写真12 場内アナウンス

表4 生徒から出された多様なかかわりアイデア

写真11 活動の様子(板書)

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(2)実践研究① 第1学年「器械運動(マット運動)」

<学ぶ意欲を喚起する「課題」:「深い学び」を導く学習課題の提示>

マット運動の授業計画は表6のとおりである。

表6 マット運動の授業計画 (2)実践研究① 第1学年「器械運動(マット運動)」

<学ぶ意欲を喚起する「課題」:「深い学び」を導く学習課題の提示> マット運動の授業計画は表6のとおりである。

表6 マット運動の授業計画

時 ○学習課題・学習活動 関 思 技 知 評価

○ オリエンテーション

・単元のねらい・安全面の指導・用具の準備,片付け・評価

・慣れのマット運動(準備ダンス,基本の運動,今できる技の確認)

観察

1 ③

○ どうすれば,大きく美しい演技をすることができるのだろうか?

○ どうすれば,友達の動きと合わせることができるのだろうか?

観 察

学 習 カ ー ド

3 2

4 ① ① 2

2 ③

○ どうすれば,集団マット運動の質を高めていくことができるか? ○ どうすれば,技のコツを友達に伝えられるのだろうか?

本 時

7 ②

○ どうすれば,誰もが楽しいマット運動の時間になるのだろうか?

③ ②

チームワーク・・・新しい技に挑戦しよう。

クラスワーク・・・集団マット運動の楽しさを感じよう。 チームワーク・・・美しい技を身につけよう。

クラスワーク・・・動きを合わせる楽しさを感じよう。

クラスワーク・・・魅せるマット運動ショーを開催しよ

(17)

<学びの見通しをもつガイダンス>

まず,一人一人が単元末のイベントに向けて様々な視点からのかかわり(係活動)を実践してい くようにしたい。単に「技能」の習得・向上のために繰り返し練習を「する」だけではなく,「みる」 「支える」「知る」活動を通して,マット運動本来の特性に触れられる体育の授業を構築し,そのこ

とが,保健体育における<教養>を身に付けることのできる授業になると考えた。そのため,学習 カードには「する」「みる」「支える」かかわりの目標を記載することとした。単元末のイベントと しては,この夏,日本人体操選手チームが活躍したリオ五輪や,最近注目されている男子新体操な どのアクロバティックでかっこいいイメージと共に,シルクドソレイユやアクロバットヨガなどの 体を使った魅せる演出も参考にした。

<能動的な学びを創る「探究的な学び」:「みる」「支える」かかわり活動の充実>

「セルフワーク」「チームワーク」「クラスワーク」といったかかわりを重視した学びの創造である。 まず,「セルフワーク」では,自分とマット運動とのかかわりを大切にしていきたい。非日常的な 動きを楽しいと感じられ,安全に学んでいくために,マット運動と自分について見つめることがで きる活動にしていきたい。「チームワーク」では,主に仲間との学びにより課題を追求していく時 間にした。単元前半はグループで基本的な技を学び合い,単元後半は自分が習得したい技を練習し ていくようにした。最後に「クラスワーク」である。単元前半は,全体で動きを合わせることを学 び,後半は集団演技に向けて技を組み合わせたり,ストーリーを考えるなど,クラス全体で学び合 う時間となるように展開した。(写真15・16・17)

<自己の学びを支える「協同の学び」:「クラスワーク」における「対話的な学び」>

学習の中心が話合い活動にのみかたよらならないように運動量の確保に努めた。すなわち,運動 場面での特性の一つである「体話(身体活動を伴う心と身体の話合い)」を充実させた。タブレッ トPC等はとても便利な教具であることは間違いないのだが,使い方を誤れば本校が大切にしてい る「体話」が軽視されてしまう懸念がある。保健体育の特性を踏まえ「かかわり」とは,補助をし たり,模範演技をしたり,目の前で褒めてあげたりする「直接的なかかわり」のことである。保健 体育における「体話」を重視した授業を目指していきたいと考えた。(写真18・19)

写真15

セルフワーク(準備ダンス)

写真16

チームワーク(集団演技)

写真17

(18)

<一人一人を伸ばす「指導と評価」>

この実践では,単元末のイベントとして「魅せるマットショー」を計画した。単元後半に向けて, 自分たちのアイデアを生かしながら祭典性を高めていけるようにしたいと考えた。そのため,学習 カードにはそれぞれ「する」「みる」「支える」視点からの目標が設定されており,特に「支える」 かかわりについては,単元末に向けてそれぞれの取り組みが見える形で改善されていく様子が如実 に示された。これも,単元末のイベントを設定することにより,ゴールを見据えて学んでいく保健 体育のかかわりの特徴であるといえる。また,学習カードを「する」「みる」「支える」視点から記 述していることにより,単に技能の高まりを評価するのではなく,「みる」「支える」学びの高まり も見取ることができるようになった。本単元の学習カードは枠組みのない自由な形式の学習カード にした。(写真20・21)

写真18・19 保健体育科でしかできない直接的なかかわり(「体話」

写真吉野ら:小学校教員養成における体育科教育法の授業設計21 写真22

写真 枠組みのない自由な形式の学習カード(「する」「みる」「支える」かかわりの具現化)

まとめにかえて

本研究は豊かなスポーツライフを実現する保健体育授業の創造を主題とし、「教養」「スポーツ

文化」「(スポーツを)する・みる・支える・知る・伝える」「セルフワーク」「チームワーク」「クラ

スワーク」の諸概念を理論的枠組みとし、茨城大学附属中学校における3つの授業実践を考察した。

実践事例はバスケットボール体育理論を含めた長距離走およびマット運動でありいずれの

授業においても「学ぶ意欲を喚起する『問い』」「学びの見通し」「『探求』と『協同』の学び」お

よび「一人ひとりを伸ばす指導と評価」を主要な手立てとした。

本論の様々な「エピソード」に詳細に示されているように実践およびその分析と考察から生

徒たちの「主体的なセルフワーク」「対話的なチームワーク」「深い学びのひとつとしてのクラスワ

ーク」の諸活動の中に「する・みる・支える・知る・伝える」といった様々なかかわりの体験が

交差していたことが明らかになった。

こうした関わりの体験そのものが青年期初期のライフステージにある生徒たちの「生涯スポー

ツ」の経験なのである。こうした実感と経験の積み重ねが保健体育授業のねらいである「豊かなス

ポーツライフ」へとつながっていくものと考える。

今後は「探求的・深い学び」により力点を置きこうした実践研究をさらに継続・発展させて

いきたい。

(19)

まとめにかえて

本研究は,豊かなスポーツライフを実現する保健体育授業の創造を主題とし,「教養」「スポーツ 文化」「(スポーツを)する・みる・支える・知る・伝える」「セルフワーク」「チームワーク」「ク ラスワーク」の諸概念を理論的枠組みとし,茨城大学附属中学校における3つの授業実践を考察し た。実践事例は,バスケットボール,体育理論を含めた長距離走,およびマット運動であり,いず れの授業においても「学ぶ意欲を喚起する『問い』」「学びの見通し」「『探求』と『協同』の学び」, および「一人ひとりを伸ばす指導と評価」を主要な手立てとした。

本論の様々な「エピソード」に詳細に示されているように,実践およびその分析と考察から,生 徒たちの「主体的なセルフワーク」「対話的なチームワーク」「深い学びのひとつとしてのクラスワー ク」の諸活動の中に,「する・みる・支える・知る・伝える」といった様々なかかわりの体験が交 差していたことが明らかになった。

こうした関わりの体験そのものが,青年期初期のライフステージにある生徒たちの「生涯スポー ツ」の経験なのである。こうした実感と経験の積み重ねが保健体育授業のねらいである「豊かなス ポーツライフ」へとつながっていくものと考える。

今後は,「探求的・深い学び」により力点を置き,こうした実践研究をさらに継続・発展させて いきたい。

1)文部科学省(2008),中学校学習指導要領解説 保健体育編,東山書房,p.15. 2)梅沢秋久(2016),体育における「学び合い」の理論と実践,大修館書店,p.8.

3)日下裕弘ほか(2015),生涯スポーツの理論と実践~豊かなスポーツライフを実現するために~,大修館書店, pp.109-112.

4)見田宗介(1964),価値意識の理論~欲望と道徳の社会学~,弘文堂,Pp.379. 5)作田啓一(1972),価値の社会学,岩波書店,Pp.450.

6)日下裕弘ほか(2015),前掲書,pp.116-122.

7)関根正美(1999),スポーツの哲学的研究~ハンス・レンクの達成思想~,不昧堂出版,Pp.335. 8)文部科学省(2010),スポーツ立国戦略~スポーツコミュニティ・ニッポン~,Pp.20.

9) John W. Loy, Barry D. Macpherson and Gerald Kenyon (1978),“Sport and Social System; A Guide to the Analysis, Problems, and Literature” Addison-Wisley Publishing Company, pp.16-23.

10)金子明友(2005),身体知の形成 上・下,明和出版,Pp.380,Pp.293. 11)金子明友(2007),身体知の構造,明和出版,Pp.442.

12)金子明友監修(2010),教師のための運動学,大修館書店,Pp.276. 13)体育社会学研究会編,体育スポーツ集団社会学,道和書院,pp.159-179.

表 5 駅伝学習の振り返り

参照

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