第3章 消費者行動
ミクロ経済学 講義資料
unit 7 効用と無差別曲線
効用(1)
効用:財・サービスを消費することから得られる満足度
ミクロ経済学では,消費者は効用を最大にするように消費をすると
考える → 効用最大化の前提
効用は次の3つの性質を満たす
(1)
財の量が多いほど効用は高くなる(選好の単調性)(2)
AよりBの方が好きで,BよりCの方が好きならば,AよりCの方が効 用が高い(選好の推移律)(3)
ある財の消費量が増えると,他の財に比べて,徐々に効用の増加分 が小さくなる(限界代替率が逓減する→後述)効用(2)
効用関数: ある消費者の効用を財の組み合わせの関数として
表したもの(教科書p.88の図7-1)
→ どんどん高くなっていくドームの屋根のようなもの
ミクロ経済学では財が2つのケースを扱うので,効用関数は3次元
のグラフになる.
山の形状を調べるのに,3次元のグラフは描きにくいし,必ずしも
わかりやすいとは言えない
→ 地図が役に立つ!
効用関数の地図に相当するものを無差別曲線と呼ぶ
4
無差別曲線(1)
無差別曲線: 同じ効用水準をもたらす財の組み合わせを
結んだ線(教科書p.89の図7-2)
地図の等高線に相当する.しかし,効用関数には山のような頂上が
ないため,無差別曲線は等高線のように輪につながることはない
無差別曲線は無数に描くことができる.なぜなら,どのような財の
組み合わせの点に対しても,その点と同じ効用をもたらす点を結べ
ば,それが無差別曲線になるから(もしピンと来なければ,地図の
等高線に置き換えて考えてみよ)
無差別曲線(2)
無差別曲線と等高線は似ている
山
等高線
6
無差別曲線の性質(1)
スライドNo.3の効用の3つの性質を無差別曲線の性質として言い
換えることができる
(1) 財の量が多いほど効用は高くなる(選好の単調性)
無差別曲線は右下がりで,右上(東北)方向にある
無差別曲線ほど効用が高い
x
1x
2A
点Aより高い効用を もたらす点の集合
点Aより低い効用を もたらす点の集合
点Aと無差別な点の集合
(無差別曲線)は北西およ び南東方面を通過する
無差別曲線が右下がりである理由
無差別曲線の性質(2)
8
x
1x
2東北方向(右上)に位置する無差別曲線ほど効用水準が高い
無差別曲線の性質(3)
(2) A よりBの方が好きで,BよりCの方が好きならば,AよりCの
方が効用が高い(選好の推移律)
無差別曲線は互いに交わらない
無差別曲線の性質(4)
10
無差別曲線が交わらないことの証明
【背理法】
(1) 2本の無差別曲線U1とU2が点Cで交わっているとする (2) 点Aと点Cはともに同一の無差別曲線U1上にあるので, 同じ効用水準をもたらす.
(3) 点Bと点Cはともに同一の無差別曲線U2上にあるので, 同じ効用水準をもたらす.
(4) したがって,推移律より,点Aと点Bは無差別になる はずである
(5) ところが,点Bは点Aより東北方向に位置しているので, 点Bの効用は点Aの効用より高い
(6) これは矛盾なので,(1)の前提が誤っていることになる
教科書の説明(P.91-92)と 少し異なるが,本質は同じ
無差別曲線の性質(5)
x1 x2
U2 U1
A B
C
(3) ある財の消費量が増えると,他の財に比べて,徐々に効用の
増加分が小さくなる(限界代替率が逓減する)
無差別曲線は原点に対して凸
無差別曲線の性質(6)
12
unit 8 限界代替率
限界代替率とは(1)
限界代替率: ある財を増やした(減らした)とき,効用水準を
一定のままにするためには,もう一方の財をどれ
だけ減らさなければ(増やさなければ)ならないか
→ 図の上では,限界代替率は,無差別曲線の接線の傾き
の絶対値によって表される
14
点Aの状態の消費者から第1財を1単位取り上げたとす る.このとき消費者が消費する財の組み合わせは点Cと なる.第1財を取り上げられるのだから,消費者の効用 は低下する.
しかし、第1財の代わりに,この消費者に第2財を3単 位与えて消費の組み合わせを点Bにしてやると,効用は 点Aの水準に戻る.
このことは,点Aの組合わせを保有する消費者にとって 第1財の1単位と第2財の3単位は同等の価値を持つと いうことを意味する.
つまり,点Aにおいて第2財で測られた第1財の相対価 値は第2財3単位分に相当することを意味する.
点Bを点Aに極限まで近づけて測られたものが限界代替率 である.
点Aにおける限界代替率は,点Aにおける無差別曲線の接 線の傾きの絶対値に等しい.
限界代替率とは(2)
x
1x
2A
B
C
限界代替率1単位 3単位
限界代替率逓減(1)
点Aと点Bで示される財の組み合わせは,同じ水準の効用を与 えるという意味で消費者にとって無差別である.
しかし,第1財と第2財に対する価値観は各点で異なる.点A は第2財に偏った財の組合せであり,このとき消費者にとって は,あまり保有していない第1財の価値はすでにたくさん保有 している第2財の価値に比べて相対的に高いものとなる.すな わち,限界代替率(第2財で測った第1財の相対的価値)は大 きい.
一方,点Bは第1財に偏った財の組合せであり,このとき消費 者にとっては,すでにたくさん保有している第1財の価値はあ まり保有していない第2財に対して相対的に低いものとなる. すなわち,限界代替率(第2財で測った第1財の相対的価値) は小さい.
このように、無差別曲線に沿って第1財の消費量が増加するほ ど限界代替率は逓減する.
以上より,ある財の消費量が増えると,他の財に比べて,徐々 に効用の増加分が小さくなる,と言える.
x1
x2
A
B
16
限界代替率が逓減することは,図の上では無差別曲線が原点に対
して凸であることによって表される
x1
x2
限界代替率逓減(2)
原点に対して凸とは, 原点に向かって突き出ている
ということ
unit 9 予算制約と効用最大化
予算制約(1)
ハトヤマ君は今日が利用期限最終日のお食事券2400円を握りしめ,
「今日はこれを使い切るぞ!」と財布を持たずに居酒屋へ向かった
ビール1杯 300円
焼き鳥1本 100円
ハトヤマ君が直面する問題:何をどれだけ注文するか?
ハトヤマ君は予算2400円を超えて注文することはできない
→ 予算制約
ビールの杯数を ,焼き鳥の本数を とすれば,ハトヤマ君の予算
制約は と表される
問題を単純にするため,ハトヤマ君は予算を使い切ると仮定すれば,
予算制約は となる.これを予算制約式,
そのグラフを予算制約線と呼ぶ.
演習:ハトヤマ君の予算制約線を描け.
一般に,所得を ,第1財の価格と数量を および ,第2財の
価格と数量を および で表せば,予算制約式は
となる.(予算を使い切らない場合を考慮すれば
一般的な予算制約線はどう描けるか?
予算制約(2)
)
20
予算制約(3)
予算制約式は と書き直すことができる
予算制約線の傾きは である
第1財をまったく購入しない場合(すなわち のとき),
第2財は だけ購入可能 → 縦軸の切片
第2財をまったく購入しない場合(すなわち のとき),
第1財は だけ購入可能 → 横軸の切片
横軸に ,縦軸に をとりグラフを描けば図のようになる.
予算制約(4)
予算制約式 を変形すると となることに留意せよ
x
1x
2予算制約線
O
22
予算制約線の傾きの絶対値 は2財の価格比を表し,第1財の第2財に対する 相対価格と呼ばれる
予算制約線上では予算をちょうど使い切っている
予算制約線より内側(原点側)は予算内で購入可能な組み合わせ
予算制約線より外側(原点と反対側)は予算をオーバーする組み合わせ
予算制約(5)
x1
x2
予算内で購入可能な領域
O
予算制約線は,予算(所得)と財の価格が与えられれば描くこと
ができる
→ 所得と財の価格が変化したら予算制約線も変化する
所得が変化した場合 (財の価格は変化しないとする)
所得の変化により,財の相対価格は変化しない.つまり,
予算制約線の 傾きは変化しない所得が から に増加(減少)すると,予算制約線の縦軸切片は
から へと増加(減少)する.つまり,所得が増加(減少)すれば予
算制約線は上方(下方)にシフトする予算制約線の変化(1)
24
予算制約線の変化(2)
所得が増加(減少)すれば,予算制約線は傾きを変えずに上方(下方)に シフトする
x
1x
2所得が m から m’ へ増加
O
予算制約線の変化(3)
第1財の価格が変化した場合 (第2財の価格および所得は変化しない
とする)
所得および第2財の価格が変化しないので,予算制約線の縦軸切片
は変化しない第1財の価格が から に下落(上昇)すると,予算制約線の横軸
切片が から へと増加(減少)する.つまり,第1財の価格が下
落(上昇)すれば,予算制約線の傾きが緩やかに(きつく)なる26
予算制約線の変化(4)
第1財の価格が下落(上昇)すれば予算制約線は縦軸切片を中心に反時計 回り(時計回に)に回転する
x
1x
2O
第1財の価格が から へ下落
消費者はどのようにして効用最大化を達成するのか?
→ 効用を最大化する財の組み合わせを「最適な消費」と呼ぶ
最適な消費は無差別曲線と予算制約線が接する点で表される
→ 下図でこのことを検証してみよう
最適な消費(1)
一本の予算制約線は無数の無差別曲線と交わっている.ただ し,予算制約線と交点を持たない(つまり予算制約線より右 上に位置する)無差別曲線(たとえば図の破線)は購入不可 能な財の組み合わせに対応している.
予算制約線の右端から出発し,点Cから点Bというように予算 制約線上を中心に向かって移動していくと,より高い効用を もたらす無差別曲線と交わるようになる.予算制約線の左端 から出発しても同様である.
無差別曲線と交わらなくなる点(点A)が最適消費点である.
x1 x2
A
B C
28
最適な消費(2)
最適消費点では無差別曲線と予算制約線が接している
言い換えれば,最適消費点では以下が成り立っている
限界代替率 = 相対価格
無差別曲線の接線の傾きの絶対値 予算制約線の傾きの絶対値 x2
予算制約線 x2 無差別曲線
最適な消費(3)
ある点で限界代替率と相対価格が異なっているとき,主観的な評価が相対的に
高い財の消費量を増やして,限界代替率が相対的に低い財の消費量を減らすと
効用を高めることができる
x1
x2
A B
O
相対価格
左図の点Bにおいては,限界代替率>相対価格となってい る
このとき,この消費者にとっては第2財に比べて第1財 の方が相対的に主観的評価が高い(第1財の方が希少) したがって,予算制約線上に沿って第1財の消費量を増 やし,第2財の消費量を減らすことによって,点Bより高 い効用をもたらす財の組み合わせを購入することができ る(このとき,限界代替率は逓減していく)
そして,点Aまで移動したときに,最も効用水準が高くな る(逓減した限界代替率が点Aにおいて相対価格に等しく なる)
30
unit 10 所得効果と代替効果
32
最適消費の変化
最適な消費は無差別曲線と予算制約線が接する点で決まる
消費者の所得や財の価格が変化すると予算制約線が変化する
予算制約線の変化に伴って,最適な消費がどのように変化するだろうか
x1
x2
O
財の価格は一定で,消費者の所得だけが変化したとする
所得が増加(減少)すれば,予算制約線は
傾きを変えずに上方(下方)にシフト
所得の変化に伴う最適消費の変化のことを
所得効果という
さまざまな所得水準に対応する最適消費点の軌跡のことを所得消費曲線
という[教科書p.112の図10-1]
当初の最適消費を点Aとする.所得が増えれば点Bに,所得が減れば点Cに移動する
所得の変化(1)
x1
x2
所 m からm’
O
所得の変化(2)
所得の変化に伴ってある財の需要がどのように変化するかを描いた
グラフをエンゲル曲線という
(所得消費曲線と似ているが軸の変数が異なる ことに注意せよ!)[教科書p.122,Check 2のグラフはエンゲル曲線] x
O m
エンゲル曲線
34
所得の増加に伴って消費量が増える財を上級財(または正常財)という
[教科書p.113の図10-2右]
→ 上級財のエンゲル曲線は右上がり
所得の増加に伴って消費量が減る財を下級財(または劣等財)という
[教科書p.113の図10-2左(リンゴは下級財,ミカンは上級財)]
例:カップラーメン,インスタントコーヒー,軽自動車など
(ただし,何が上級財で何が下級財かは消費者の選好によって決まる)
→ 下級財のエンゲル曲線は右下がり
所得の変化(3)
所得が変化したときに需要がどれだけ変化するかを測るための概念が
需要の所得弾力性(income elasticity of demand)である
需要の変化率( )
所得の変化率( )
=
=
需要の変化分
変化前の需要量
所得の変化分
変化前の所得
= 変化前の所得
変化前の需要量 ×
需要の変化分
所得の変化分
= 変化前の所得
変化前の需要量 × エンゲル曲線の傾き
所得の変化(4)
需要の所得弾力性( )
需要の価格弾力性と異なり,需要 の所得弾力性の定義にはマイナス の符号がつかない(何故か?)
36
需要の所得弾力性 > 0 → 上級財
[所得が増加したとき需要が増加する]
1 > 需要の所得弾力性 > 0 → 必需品
[所得が増加した割合に比べ需要の増加する割合が小さい]
需要の所得弾力性 > 1 → 奢侈品
[ 所得が増加した割合に比べ需要の増加する割合が大きい]
需要の所得弾力性 < 0 → 下級財
[所得が増加したとき需要が減少する]
所得の変化(5)
支出 所得
必需品 所得
支出
奢侈品
所得
支出
支出額に占める食費の割合のことをエンゲル係数という
食料品は一般に必需品と見なすことができるので,「所得が増加する
と食料品に対する支出の割合が減少する」と言える(エンゲルの法
則)
→ 食料品需要の所得弾力性は1より小さい
→ エンゲル係数を比較することによって,所得水準(生活水準)の
違いを見ることができる
所得の変化(6)
38
消費者の所得は一定で,財の価格だけが変化したとする
第1財の価格が下落(上昇)すれば,
予算線は縦軸の切片を中心にとして
反時計回りに(時計回りに)回転する
さまざまな価格水準に対応する最適
消費点の軌跡のことを価格消費曲線
という[教科書p.117の図10-4]
当初の最適消費をA点とする.価格が上昇すれば点Bに,価格が下落すれば点C に移動する
x1
x2
O
第1財の価格が から へ下落
価格の変化(1)
価格の変化(2)
ある財の価格の変化に伴ってその需要量
がどのように変化するかを描いたグラフ
が需要曲線である
(価格消費曲線と似ているが, 軸の変数が異なることに注意せよ! よく知られて いる需要曲線は,実は,このようにし無差別曲線と 予算制約線を用いて導出されるのである)図10-4において,第1財(リンゴ)の価格が下落するに伴って,予
算制約線が反時計回りに回転する.その結果,最適消費が点Aから点
C に移動して,第1財の需要量が増加する.つまり,「価格が下落す
ると需要量が増える」という右下がりの需要曲線が導かれる.
p
O x
需要曲線
40
価格の変化に伴う需要量の変化の要因を詳しく見てみる.
第1財の価格が下落して最適消費が点Aから点Cに移動する(図1)
点Aから点Cへの移動を,点Aから点B,点Bから点Cへの移動に分解す
る(図2,3)
価格の変化(3)
x1
x2
O
A
C
x1 x2
O
A
B
C
x1 x2
O
A
B C
図1 図2 図3
第1財の価格が下落したことにより,
第1財と第2財の相対価格が変化する.
その結果,予算制約線の傾きが緩やか
になる.点Aから点Bへの移動は,もと
の効用水準を保ったまま(つまり,も
との無差別曲線に沿って)予算制約線
の傾きだけが緩やかになる様子を描い
ている[黒色の予算制約線は,灰色の予算制約線と傾きが等しくなる
まで,無差別曲線状に接したままクルッと回転する]
このように,変化前の効用水準を保ったまま,相対価格の変化により
最適な消費点が変化することを代替効果という
x1 x2
O
A
B
C
価格の変化(4)
42
x1 x2
O
A
B
C
価格の変化(5)
第1財の価格が下落したことにより,
変化前の消費の組み合わせを買おうと
すると予算が余る.つまり,第1財の
価格の下落により,消費者の所得が実
質的に増えたことになる.点Bから点C
への移動は,変化後の相対価格を所与
として,所得のみが増加したときの所
得効果を表している[青色の予算制約線は赤色の予算制約線に平行移動
する]
予算制約線,クルッと回って平行移動
価格変化の効果
= 相対価格の変化による代替効果 + 実質的な所得変化による所得効果
このように価格変化の効果を2つの効果に分解することをスルツキー
分解と呼ぶ
Eugene Slutsky
(1880-1948)
価格の変化(6)
44
unit 11 価格の変化の効果
46
当該財の価格変化の効果(1)
財の価格変化の効果を,当該財の価格変化と他の財の価格変化に分け
て詳しく見てみよう
まず,当該財の価格が変化したとする
ある財の価格が下落(上昇)したとき,代替効果によってその財の需要は必ず増 える(減る)
→ 代替効果はその財の価格の変化と逆の方向に働く
《スルツキー分解》 価格変化の効果
= 相対価格の変化による代替効果 + 実質的な所得変化による所得効果
ある財の価格が下落(上昇)したとき,実質所得は増加(減少)する.すな わち,実質所得はその財の価格の変化と逆の方向に働く
問題は,実質所得が増減したときに所得効果がどう働くか. 所得効果は,そ の財が上級財か下級財かによって異なる.
→ 上級財なら実質所得と同じ方向に需要が変化する 下級財なら実質所得と逆の方向に需要が変化する
以上をまとめると
価格が下落(上昇)すると, 上級財なら所得効果によりその財の需要は 増える(減る)
価格が下落(上昇)すると, 下級財なら所得効果によりその財の需要は 減る(増える)
当該財の価格変化の効果(2)
48
代替効果と所得効果を合わせると・・・
上級財の場合,価格が下落すると,代替効果も所得効果も需要を増やす方向 に働く
→ 総合的な効果として,価格が下落すると需要が増える
下級財の場合,価格が下落すると,代替効果は需要を増やし,所得効果は需 要を減らす方向に働く
→ もし「代替効果 < 所得効果」なら,総合的な効果として,価格が下落 すると需要が減る
常識的な結果
反常識的な結果!
当該財の価格変化の効果(3)
これまでの考察をまとめると下表のようになる
代替効果 所得効果 総合効果
価格上昇
上級財 価格上昇
下級財 価格上昇
下級財
価格下落
上級財 価格下落
下級財 価格下落
下級財
減 減 減
減 増
「代替効果>所得効果」なら減
減 増
「代替効果<所得効果」なら増
増 増 増
増 減
「代替効果>所得効果」なら増
増 減
「代替効果<所得効果」なら減
ギッフェン財
当該財の価格変化の効果(4)
当該財の価格変化の効果
50
当該財の価格変化の効果(5)
ギッフェン財とは, 価格が下落(上昇)すれば需要が減る(増える)財のこと で,これは下級財のうち所得効果が代替効果を上回るために生じる現象である
→ 教科書p.126の図11-1およびp.127の図11-2を参照
ギッフェン財は現実にはほとんど存在しないかあるいは極めて例外的な財である
教科書p.128に記載されているアイルランドのジャガイモ飢饉の例は有名であるが,その後の 研究でこのときのジャガイモは実はギッフェン財とは言えないことが統計的に示されている. その他に,家庭の暖房用灯油やわが国の焼酎などがギッフェン財の候補として挙げられたこと があるが,どれも統計的な証拠が不十分である.
きわめて例外的な場合を除いて,「ある財の価格が下落(上昇)すればその需要 が増加(減少)する」という“需要法則”が成り立つことがわかった.つまり,需 要曲線は一般に右下がりであることが裏付けられたことになる
【演習】図11-2を参考にして,リンゴがギッフェン財である場合の,リンゴ価格が上昇 したときのスルツキー分解を図示しなさい
他の財の価格変化の効果(1)
次に,他の財の価格が変化したとする
他の財の価格が下落(上昇)したとき,代替効果によって価格が変化しない財の 需要は増えることもあれば減ることもある
他の財の価格が下落(上昇)したとき需要が増える(減る)財を補完財という 例:コーヒーとミルク
→ コーヒーの価格が下落するとコーヒーの需要が増え,コーヒーの需要が増 えるとそれに伴ってミルクの需要も増える
他の財の価格が下落(上昇)したとき需要が減る(増える)財を代替財という 例: ペットボトル入りの緑茶とウーロン茶
→ 緑茶の価格が下落すると,ウーロン茶の需要の一部が緑茶へとシフトする ため,ウーロン茶の需要が減る
52
他の財の価格変化の効果(2)
ここで疑問・・・代替効果とは下図の点Aから点Bへの変化のこと.この図は 第1財の価格が下落したケースであり,代替効果により第1財の需要が増加し ている.そして,それに伴い第2財の需要は減少している.このように,2財 モデルにおいては,他の財の価格が下落(上昇)したとき,代替効果によって 価格が変化しない財の需要は必ず増える(減る)のではないか?
x1 x2
O
A
B
C
他の財の価格変化の効果(3)
答え・・・2財モデルでは確かにそうなる.つまり,世の中に財が2種類しか なければ,原点に対して凸な無差別曲線を想定する限り両財は必ず代替財であ る.これに対して,補完財という概念は財が3種類以上存在する状況を想定し て初めて登場する.教科書p.129-30の紅茶,コーヒー,レモンの例を用いて説 明しよう.世の中に紅茶とレモンしか存在しないなら,紅茶の価格が下落すれ ば消費者は紅茶の需要を増やすので,以前と同じ効用水準を保つためにはレモ ンの需要を減らさざるを得ない.ところが,コーヒーが加わることによって事 情は変わる.すなわち,紅茶の価格が下落すれば消費者は紅茶の需要を増やす が,以前と同じ効用水準を保つために,今度は少なくともコーヒーあるいはレ モンどちらかの需要を減らせばよい.この消費者がレモンティーを好むのであ れば,紅茶の需要とともにレモンの需要を増やして,なおかつコーヒーの需要 を以前と同じ効用水準を保つのに必要な分だけ減らすことが可能である.
ちょっと難しいかな?
54
他の財の価格変化の効果(4)
代替財は補完財かは代替効果のみで判断することに注意せよ!
所得効果も含めて他の財の価格変化による需要の変化を判断する場合は, 粗代替財および粗補完財という言葉を用いる
「粗」という言葉は,代替効果だけでなく所得効果を加えて総合的に 見るという意味が込められている.
粗代替財: 代替効果及び所得効果を考慮した場合,他の財の価格の 下落(上昇)によって需要が減少(増加)する財
粗補完財: 代替効果及び所得効果を考慮した場合,他の財の価格の 下落(上昇)によって需要が増加(減少)する財
他の財の価格が変化したときの代替財に関するスルツキー分解を図示する
第2財の価格が下落した
代替効果により第1財の需要は減少
第1財が下級財であるなら(第2財は上級 財),所得効果により第1財の需要は減少 総合的に見て,第2財の価格が減少したとき に第1財の需要は減少しているので,第1財 は粗代替財である
他の財の価格変化の効果(5)
x1 x2
O
A B
C
第1財が上級財であるなら,所得効果により 第1財の需要は増加
「代替効果>所得効果」であるなら,総合的 に見て,第2財の価格が減少したときに第1 財の需要は減少しているので,第1財は粗代 替財である
他の財の価格変化の効果(6)
x1 x2
O
A B
C
56
「代替効果<所得効果」の場合には,総合的 に見て,第2財の価格が減少したときに第1 財の需要は増加しているので,第1財は粗代 替財ではない
他の財の価格変化の効果(7)
x1 x2
O
A
B C
代替効果 所得効果 総合効果
他の財の 価格下落
下級財 他の財の
価格下落 上級財 他の財の
価格下落 上級財
他の財の 価格上昇
下級財 他の財の
価格上昇 上級財 他の財の
価格上昇 上級財
減 減 減
減 増
「代替効果>所得効果」なら減
減 増
「代替効果<所得効果」なら増
増 増 増
増 減
「代替効果>所得効果」なら増
増 減
「代替効果<所得効果」なら減
粗代替財でない 他の財の価格変化の効果(代替財の場合)
他の財の価格変化の効果(8)
以上より,代替財に関する他の財の価格変化の効果は次のようにまとめられる
58
他の財の価格変化の効果(9)
同様に,補完財に関する他の財の価格変化の効果は次のようにまとめられる
代替効果 所得効果 総合効果
他の財の 価格下落
上級財 他の財の
価格下落 下級財 他の財の
価格下落 下級財
他の財の 価格上昇
上級財 他の財の
価格上昇 下級財 他の財の
価格上昇 下級財
増 増 増
増 減
「代替効果>所得効果」なら増
増 減
「代替効果<所得効果」なら減
減 減 減
減 増
「代替効果>所得効果」なら減
減 増
「代替効果<所得効果」なら増
粗補完財でない 他の財の価格変化の効果(補完財の場合)