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ジャガイモ疫病菌の動きをさぐる

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Academic year: 2017

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図1 ジャガイモ疫病の初期症状

ジャガイモ疫病菌の動きをさぐる

大学院農学研究院 ・大学院農学院 講師

秋野

聖之

(農学部生物資源科学科)

専門分野 : 植物病理学

研究のキーワード : 農業,作物保護,植物資源,菌類,微生物

HP アドレス : http://www.agr.hokudai.ac.jp/rfoa/res/res1-4.html

何を目指しているのですか?

日本ではジャガイモの伝染病の一種である「疫病(病名)」の被害は1900年(明治33年) に北海道で最初に報告されました。それ以来、病原菌である微生物ファイトフトラ・イン フェスタンス(Phytophthora infestans)はジャガイモ生産の大きな脅威として日本の畑 に存在し続けており(図1・2)、現在でも疫病対策は重要な課題の一つとなっています。 私たちの研究室ではこれまで良くわかっていなかった日本のジャガイモ疫病菌の遺伝学 的・生態学的特徴について1980年代から調べており、それらの知見を生かした効果的な防 除法の確立を目指して研究を続けています。

この研究にはどのような背景があるのですか?

もともとこの菌はメキ

シコやペルーなど、野生 のジャガイモが生えてい た地域で生じたと考えら れ て い ま す 。 こ れ ら は ジャガイモ栽培が世界中 に広まったのにともなっ てジャガイモとともに海 を越えて渡ってきました。

日本にいたことがわかっている最も古いタイプの疫病菌は「US-1」と呼ばれており、1970 年代以前にアメリカ大陸から全世界に広がったものです。この菌にはいくつかの有効な抵 抗性のジャガイモ系統があったのですが、1980年代にそれらの系統が罹病する例が見いだ され、調査の結果新たな「JP-1」というタイプの菌が見つかりました。その後1990年代と 2000年代にも抵抗性品種の罹病化が見いだされ、これと同時に疫病菌にもそれぞれ「JP-2

JP-3」・「JP-4」という新しいタイプが見つかりました。現在はこの「JP-4」が各地の 畑で優占しています。これらのタイプは私たちの研究室で複数のDNAマーカーを用いて 明らかにされ、発表されたものです。

これまでに何がわかったのですか?

新しいタイプの菌がなぜ古いものにとって代わるのかが不明でした。いずれのタイプも

出身高校:山形県立鶴岡南高校 最終学歴:北海道大学大学院農学研究科

食料生産

図2 疫病菌の寒天培養

農学

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「ファイトフトラ・インフェスタンス」という 同じ種に属しており作物でいえばちょうど「品 種」どうしのような関係に相当するものです。 その後各地の疫病菌を採集して検討したところ

(図3・4)、タイプごとに生育や胞子形成数、 さらに殺菌剤への感受性が異なっていることが わかってきました。これらの性質は菌が病気を 起こす能力に大きく関わっており、これが菌集 団の交代の原因である可能性があります。さら に、タイプごとの違いに応じた防除法を用いる 必要があることがわかってきました。 なぜこのような新しいタイプの菌が出現してくるのでしょうか。私たちの研究室では数 年にわたりDNA上の複数の遺伝的マーカーを用いて疫病菌のタイプ間の類縁関係を調べ てきました。その結果「JP-1」や「JP-2」は類似するタイプが海外にも存在しているため、 海外から日本に侵入してきたのではないかと考えられました。さらに「JP-4」も中国とヨー ロッパの菌との共通点が多いことがわかりました。その一方で「JP-3」は菌の国内での交 配の結果生じたものであることがわかってきました。日本が生のジャガイモの輸入を禁止 していることを考えると、その病原菌がこれほど海外のものと密接な関係を持っているこ とは予想外の結果でした。日本にいる疫病菌集団は海外から侵入したものがもとになって、 日本国内でさまざまに変化を起こした結果でき上がったものであると考えられたのです。

今後の課題は何ですか?

これまでに何度も海外から日本への疫病菌 の侵入が起こっていたとすると、同じことが 今後も起こる可能性があります。これらの菌 がどのような経路で日本に侵入してきたのか を明らかにしなければなりません。現在海外 では病原性の高いタイプの菌が分布を広げて おり、このまま対策を立てなければ将来日本 に侵入してくる可能性があります。その結果 として防除にかかるコストの上昇、さらには 国内での新たな交配によって菌の性質の変化 が加速されることの影響が懸念されるのです。

また、以前に比べて疫病菌の種類が増えたことが関係しているのか、その防除も難しさを 増しています。それぞれの畑の中で疫病菌がどのように越冬し、増殖・移動しているのか を各種DNAマーカーを用いて明らかにしていく必要があります。現在も各方面で防除法 の改良に向けての努力が行われており、私たちの研究室でも関係各位の御協力のもとでこ の問題について取り組んでいるところです。

図4 病原性を調べる接種実験 図3 ジャガイモ畑で疫病を探す

農学

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