第9 回 アミ ノ 酸代謝( 1 )
日紫喜 光良
アミ ノ 酸、 ペプチド 、 タ ンパク 質
• アミ ノ 酸
– タ ンパク 質中に存在する2 0 種類のアミ ノ 酸
– 非タ ンパク 質性のアミ ノ 酸
• ペプチド と タ ンパク 質
– アミ ド 結合( ペプチド 結合)
– ジスルフ ィ ド 結合
アミ ノ 酸の分類
• 脂肪族アミ ノ 酸
– 中性アミ ノ 酸
• グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、 アスパラギン、グルタミン
– 酸性アミ ノ 酸
• アスパラギン酸、グルタミン酸
– 塩基性アミ ノ 酸
• リシン、アルギニン
– 含硫アミ ノ 酸
• システイン、メチオニン
• 芳香族アミ ノ 酸
– フ ェ ニルアラ ニン、 チロシン
• 異環アミ ノ 酸
– ト リ プト フ ァ ン
– ヒ スチジン
–
必須アミノ酸
L- アラ ニン (Ala, A)
CH3
H2N H
COOH
S 配置
L体
アスパラ ギン( Asn, N )
COOH
H2N H
CH2-CO-NH2
システイ ン( Cys, C )
COOH
H2N H
CH2-SH
S
グルタ ミ ン( Gln, Q )
COOH
H2N H
CH2-CH2-CO-NH2
グリ シン( Gly, G )
NH2-CH2-COOH
イ ソ ロイ シン( Ile, I )
COOH
H2N H
CH
CH3 CH2-CH3
必須アミ ノ 酸
ロイ シン( Leu, L )
COOH
H2N H
CH2-CH-(CH3)2
メ チオニン( Met, M )
S
CHO
H2N H
CH2-S-CH3
フ ェ ニルアラ ニン( Phe, F )
COOH
H2N H
CH2
必須アミ ノ 酸
プロリ ン( Pro, P )
COOH
H HN
CH2-CH2-CH2
セリ ン( Ser, S )
COOH
CH2-OH
H2N H
ト レオニン( Thr, T )
COOH
H2N H
OH H
CH3
必須アミ ノ 酸
ト リ プト フ ァ ン( Trp, W )
H2N
COOH
H
CH2
N
必須アミ ノ 酸
チロシン( Tyr, Y )
COOH
H2N H
CH2
OH
バリ ン( Val, V )
COOH
H2N H
CH(CH3)2
必須アミ ノ 酸
分岐鎖アミノ酸
アスパラ ギン酸( Asp, D )
COOH
H2N H
CH2-COOH
酸性アミ ノ 酸
グルタ ミ ン酸( Glu, E )
H2N H
COOH
CH2-CH2-OH
酸性アミ ノ 酸
アルギニン( Arg, R )
COOH
H2N H
CH2-CH2-CH2-NH-CNH-NH2
塩基性アミ ノ 酸
ヒ スチジン( His, H )
COOH
H2N H
CH2
N N
H
塩基性アミ ノ 酸
リ シン( Lys, K )
COOH
H2N H
CH2-CH2-CH2-NH2
塩基性アミ ノ 酸
非タ ンパク 質性のアミ ノ 酸の例
γ - アミ ノ 酪酸( G A B A )
ペプチド の形成: アミ ド 結合
カルボキシル基
アミノ基
N末端:結合していないアミノ基
C
ペプチド ( タ ンパク 質) の表記
バリン
イソロイシン
グリシン アルギニン プロリン アルギニン
ヒスチジン グルタミン グリシン
(カツオ節ペプチド) N末端
C末端
IVGRPRHQG
アミ ノ 酸配列の検索方法( 例)
タンパク質の名前(の一部)
NCBI Entrez
(http://www.nncbi.nlm.nih.gov/) Geneを検索
疾患の名前(の一部)
NCBI EnrezからOMIMを検索
遺伝子を特定
Allelic Variantsを特定 遺伝子の情報
EMBL Ensembleデータ ベースへのリンクをたど り、Transcriptを特定
ペプチド 鎖どう し の固定: ジスルフ ィ ド 結合
イ ンスリ ン
システイ ンの -SH どう し がジスルフ ィ ド 結合
ペプチド鎖内:ループを形成 ペプチド鎖間:互いに固定
B鎖19番のシステイン
A鎖:21残基
アミ ノ 酸代謝( 1 ) : 概要
• 窒素の処理
• アミ ノ 酸代謝
アミ ノ 酸代謝の特徴
• 蓄積できない
• 必要以上のアミ ノ 酸は分解・ 排出さ れる。
• 発生するアンモニアの処理が問題
• 尿素と し て排出
体を構成するたんぱく 質の量
• 7 0 k g の男性でおよそ1 2 k g
• 「 アミ ノ 酸プール」 への主要な供給源
• 1 日におよそ4 0 0 g のタ ンパク が分解さ れ、 同
じ 量が合成さ れている
– アミ ノ 酸プールは定常状態にある
アミ ノ 酸プールと アミ ノ 酸回転
アミ ノ 酸プール
体のタ ンパク 質
体のタ ンパク 質
400g/ 日
400g/ 日
食餌から の
タ ンパク 質
平均 100g/ 日
(0∼600g/日)
非必須アミ ノ
酸の合成
変動する
含窒素物質の合成
∼ 30g/ 日
ポルフィリン、クレアチン、 神経伝達物質、プリン、ピリ ミジン、その他
変動する
グルコース、グリコーゲン
体重 70kg の男性で
およそ 12kg
90-100g
ユビキチン・ プロテアソ ームによるタ ンパク 質の分解
分解されるタン パクにユビキチ ンが結合
ユビキチンが結合したタ ンパク質をプロテアソー ムが認識して分解する
ユビキチン
プロテアソーム ユビキチン
図19.3
食餌から のタ ンパク 質の消化
胃
膵臓
小腸 肝
ペプシン
ト リ プシン
キモト リ プシン
エラ スタ ーゼ
カルボキシペプチダーゼ
アミノペプチダーゼ
ジまたはトリペプチダーゼf
小腸のタ ンパク 質分解酵素
トリプシン
エンド ペプチダーゼ
キモトリプシン エラスターゼ
カルボキシペプチダーゼA
ト リ プシン ト リ プシン
ト リ プシン
図19.5タ ンパク 質消化不全をおこ す疾患
• 慢性膵炎
• 嚢胞性線維症
小腸から のアミ ノ 酸と ペプチド の吸収
• アミ ノ ペプチダーゼ
• アミ ノ 酸だけでなく 、 ジペプチド またはト リ ペプ
チド も
• 門脈を通っ て肝臓へ運ばれる
• 分岐鎖アミ ノ 酸は肝臓で処理さ れないで、 そ
のまま血流にのっ て全身に運ばれる
細胞内へのアミ ノ 酸の取り 込み
• 血液中のアミ ノ 酸濃度は細胞内より も かなり
低い。
• 細胞膜にはアミ ノ 酸輸送システムがある。
• それら に欠陥があると 小腸なら びに腎臓での
アミ ノ 酸吸収障害がおこ る
シスチン尿症
アミ ノ 酸輸送システムのあるも のは、 シスチ
ンなら びに2 塩基アミ ノ 酸( リ シン、 オルニチ
ン、 アルギニン) を輸送する。
こ のシステムの障害によっ て、 近位尿細
管でのシスチン、 オルニチン、 アルギニン、
リ シンの再吸収ができなく なる。
シスチンから 成る尿結石が尿管にで
きるこ と になる
アミ ノ 酸の代謝のためには
• α - アミ ノ 基の窒素を取り 除く こ と が必要
• 取り 除かれた窒素は
– 他の化合物に取り 込まれて利用さ れる
– 排出さ れる
• 残っ た炭素骨格は、 代謝をう ける
• アミ ノ 基転移反応
• 酸化的脱アミ ノ 基反応→アンモニアと アスパラ ギン
酸を生成
アミ ノ 基転移反応
α ーケト グルタ ル酸
グルタ ミ ン酸
α -アミノ酸
α - ケト 酸
アミ ノ ト ラ ンスフ ェ ラ ーゼ
アミノ基のドナー アミノ基のアクセプター
アミ ノ 基ド ナーに対する酵素の特異性
A: アラ ニンアミ ノ ト ラ ンスフ ェ ラ ーゼ( ALT)
GPT と も いう
B: アスパラ ギン酸アミ ノ ト ラ ンスフ ェ ラ ーゼ (AST)
GOT と も いう
オキサロ酢酸 アラニン
ピルビン酸
アラニンは、アミノ基が外れてピルビン酸になる
アスパラギン酸は、アミノ基が外れてオキサロ 酢酸になる
図19.8
グルタミン酸
グルタミン酸
-
α -ケトグルタル酸
アミ ノ 基転移酵素に対する
ピリ ド キサルリ ン酸の役割
ピリ ド キサルリ ン酸 (PPT) は、 ビタ ミ ン B6 から
生成さ れる。
PPT
グルタミン酸のアミノ基は、PPTに転移される。 PPTはピリドキサミンリン酸になる。グルタミン酸 はα -ケトグルタル酸になる
ピリドキサミンリン酸からアミノ基がオキサロ酢酸に 移され、アスパラギン酸ができる
図はASTの場合。
アミノトランスフェラーゼはPPTを必要とする。 図19.9
肝障害と 血中アミ ノ 基転移酵素活性
アミ ノ 基転移酵素の多く は肝細胞の
中に存在する。
細胞が傷害をう けると 、 肝細胞中の
アミ ノ 基転移酵素が血中に放出さ れ
る。
肝臓特異性は ALT(GPT) のほう が高
い。
感度と し ては、 AST(GOT) のほう が
高い( 細胞中の量が多いので) 。
ALT
ビリ ルビン
酸化的脱アミ ノ 反応
• 主に肝臓と 腎臓で起きる。
• グルタ ミ ン酸から アミ ノ 基を外す。
– アミ ノ 基の窒素はアンモニアになる。
• アンモニアは肝臓で尿素を生成する原料になる
– 炭素骨格はα - ケト グルタ ル酸になる
• グルタ ミ ン酸デヒ ド ロゲナーゼがおこ なう
グルタ ミ ン酸デヒ ド ロゲナーゼ
グルタミン酸
α -ケトグルタル酸 グルタミン酸デヒドロゲナーゼを介して、NAD+は還元
(NADHになる)され、アンモニアNH3をグルタミン酸から 放出される。
NADPH
「酸化的脱アミノ化」
図19.11
グルタ ミ ン酸デヒ ド ロゲナーゼの調節
• 1 . 基質・ 生成物の濃度関係による
– タ ンパク 質を含む食餌を摂取し たあと は、 肝臓で
のグルタ ミ ン酸の濃度が高いので、 アミ ノ 基を外
す方向にすすむ
• 2 . アロステリ ッ ク 調節
– GPT はグルタ ミ ン酸デヒ ド ロゲナーゼに結合し て
反応を阻害し 、 ADP は結合し て反応を促進する
• 細胞中のエネルギーレベルが低いと きは、 アミ ノ 酸を
こ わし て代謝経路に投入するこ と を促進する。
各組織から 肝臓へのアンモニアの輸送 (1)
グルタ ミ ン酸と アンモニアを反応さ せ、 グルタ ミ ンにし て
血中に放出( 多く の細胞で)
ATP + NH3
ADP + Pi
グルタ ミ ン酸
グルタ ミ ン
グルタ ミ ンシンタ ーゼ
血中へ
肝臓では、 グルタ ミ ナーゼ
でグルタ ミ ンから アンモニア
血液から肝細胞へ
H
2O
NH
3グルタ ミ ン
グルタ ミ ン酸
グルタ ミ ナーゼ
血中グルタミン
肝臓へのアンモニアの輸送 (2)
筋では、 グルタ ミ ン酸デヒ ド ロゲナーゼでアンモニアと α - ケト グ
ルタ ル酸から グルタ ミ ン酸を作り 、 さ ら にアラ ニンアミ ノ ト ラ ンス
フ ェ ラ ーゼでピルビン酸と 反応さ せてアラ ニンをつく る
α - ケト グルタ ル酸+アンモニア
グルタ ミ ン酸
グルタ ミ ン酸デ
ヒ ド ロゲナーゼ
ピルビン酸
アラ ニンアミ ノ ト ラ ンスフ ェ
ラ ーゼ
グルコース 解糖
(図19.13より)
アラ ニンから の糖新生
血液
肝臓では、 アラ ニンアミ ノ ト ラ ンスフ ェ ラ ーゼによっ て、 アラ
ニンと α - ケト グルタ ル酸から グルタ ミ ン酸と ピルビン酸をつ
く る。 ピルビン酸は糖新生によっ てグルコ ースになり 、 血液
に放出さ れ、 筋肉で利用さ れる。 グルタ ミ ン酸はグルタ ミ ン
酸デヒ ド ロゲナーゼによっ てα - ケト グルタ ル酸と アンモニア
を生じ る。
アラ ニン α - ケト グルタ ル酸
ピルビン酸 グルタ ミ ン酸 アンモニア
グルコ ース
糖新生
アラ ニンアミ ノ ト ラ
ンスフ ェ ラ ーゼ
グルタ ミ ン酸デヒ
ド ロゲナーゼ
筋で利用 筋から
(図19.13より)
尿素回路
オルニチン
シト ルリ ン
ミ ト コ ンド リ ア
カ ルバモイ
ルリ ン酸
NH3
CO2
2 ATP
+
+
Pi
カルバモイ
ルリ ン酸シ
ンテタ ーゼ
Iオルニチント
ラ ンスカルバ
モイラ ーゼ
シトルリン
アスパラギン酸 アルギノコハク酸
アルギニン
オルニチン フマル酸
リンゴ酸
オキサロ酢酸
-
(ATP利用)
アルギナーゼ
肝だけがもつ 細胞質
尿素
H2O
アルギノ コ ハク 酸リ アーゼ
アルギノ コ ハク 酸シンタ ーゼ
尿素回路の反応
• 1 . カ ルバモイ ルリ ン酸生成
– カ ルバモイ ルリ ン酸シンテタ ーゼI
– N −アセチルグルタ ミ ン酸を要する
• 2 . シト ルリ ン生成
– オルニチン+カ ルバモイ ルリ ン酸
• 3 . アルギノ コ ハク 酸合成
– シト ルリ ン+アスパラ ギン酸
• 4 . アルギノ コ ハク 酸の分解
– アルギニンと フ マル酸
• 5 . アルギニンの分解によるオルニチンと 尿素の生
成
尿素回路の物質収支
• アスパラ ギン酸 + NH3 + CO2 + 3ATP →
尿素 + フ マル酸 + 2ADP + AMP + 2Pi +
PPi + 3H2O
アミ ノ 酸から 尿素までの窒素の流れ
アミノ酸
α -ケト酸
α -ケトグルタル酸 グルタミン酸
NAD+
NADH +
NH3
カルバモイル CO2
オルニチン
シトルリン アルギノコハク
酸
アルギニン フマル酸
グルタミン酸
α -ケト酸
アスパラ ギン酸
オキサロ酢酸
尿素
尿素回路の調節
N-アセチルグルタミン酸 酢酸
グルタミン酸
アセチルCoA
アルギニン
図19.16
グルタ ミ ン酸から 生成さ れる N- アセチルグルタ ミ ン酸が、
カ ルバモイ ルリ ン酸シンテタ ーゼ I を活性化。
タンパク質を多く含む食事 は、グルタミン酸もアルギ ニンも供給するので、尿素 合成速度が上昇。
アンモニアの発生源( 1 )
• アミ ノ 酸から
– アミ ノ ト ラ ンスフ ェ ラ ーゼと グルタ ミ ン酸デヒ ド ロゲナーゼに
よっ て
– 主に肝臓で
• グルタ ミ ンから
– グルタ ミ ナーゼと グルタ ミ ン酸デヒ ド ロゲナーゼによっ て
– 主に腎臓で
– 生成し たアンモニアは NH4+ と し て尿に分泌→酸・ 塩基
アンモニアの発生源( 2 )
• 腸内細菌の作用
• アミ ンの分解
• プリ ン・ ピリ ミ ジンの分解
組織で発生し たアンモニアの輸送
• 尿素と し て
• グルタ ミ ンと し て
– グルタ ミ ンシンテタ ーゼ
• 肝、 筋、 神経
グルタ ミ
ンシンテ
タ ーゼ
グルタミン酸
ATP + ア ンモニア
アンモニア代謝まと め : (1) アンモニアの発生
食餌
体のタ ンパク 質
アミ ノ 酸
α - ケト 酸
α - ケト グルタ ル酸
グルタ ミ ン酸 NAD(P)+
NAD(P)H
アミ ノ ト ラ ンス
フ ェ ラ ーゼ
グルタ ミ ン酸デヒ
ド ロゲナーゼ
NH
3NH
3グルタ ミ ン酸 NH
3
グルタ ミ ンシ
ンテタ ーゼ
グルタ ミ ナーゼ
ATP
図19.19よりアンモニア代謝まと め : (2) グルタ ミ ンの生成
ADP + Pi
NH
3グルタ ミ ン
グルタ ミ ン酸 NH
3
H
2O
グルタ ミ ンシ
ンテタ ーゼ
グルタ ミ ナーゼ
ATP
他の窒素含有化合物の合成
血液中に放出
アンモニア代謝まと め : (3) 尿素回路( 肝)
NADH +
NH3
カルバモイル リン酸
CO2 オルニチン
シトルリン アルギノコハク
酸
アルギニン フマル酸
アスパラ ギン酸
尿素
他の組織で発生し、処理されたアンモニア
グルタ ミ ン酸 + オキサロ酢酸
高アンモニア血症
• 正常では、 血中のアンモニアは 5-10 μ mol/L と 、 き
わめて低濃度
• 高アンモニア血症→意識障害、 死亡
• 後天的
– 肝不全
• 急性: ウイ ルス性肝炎、 肝動脈の梗塞、 肝毒性物質
• 慢性: 門脈シャ ント の形成←慢性肝炎、 肝硬変、 胆道閉塞
– 門脈血が肝臓を通らず静脈に流れる