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北海道教育大学教職大学院・学部提供科目「特別教職実践演習Ⅰ」の実践 : 2019年度に札幌校で実施した初回実践報告

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Academic year: 2021

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(1)Title. 北海道教育大学教職大学院・学部提供科目「特別教職実践演習Ⅰ」の実 践 : 2019年度に札幌校で実施した初回実践報告. Author(s). 井門, 正美; 梅村, 武仁; 小野寺, 基史; 川俣, 智路; 小沼, 豊; 野寺 , 克美; 姫野, 完治; 松橋, 淳. Citation. 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 : 教職大学院研究紀要 , 11: 109-121. Issue Date. 2021-03. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/11670. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 第11号. 自由投稿論文. 北海道教育大学教職大学院・学部提供科目 「特別教職実践演習Ⅰ」の実践 ─ 2019年度に札幌校で実施した初回実践報告 ─ 井門 正美*1・梅村 武仁*2・小野寺基史*3・川俣 智路*4 小沼 豊*5・野寺 克美*6・姫野 完治*7・松橋 淳*8. 1.はじめに 本学では、2019年度学部入学試験(札幌校)において、AO入試型の「教員養成特別入試」を実施 した。この入試では、その名の通り教師を強く志望する人材、すなわち「子どもたちとのふれあいを 大切にする人間性と学校教育現場における様々な課題に対応できる幅広い教養と学力、そして地域社 単なる知識量やペー 会に積極的に貢献したいという強い志を持っている人」 を求めている1。それゆえ、 パーテストだけでは測定できない側面、すなわち思考力、判断力、主体性、協働性など、受験者のこ れまでの活動や学習の成果を含めて、総合的な能力を丁寧に確認する。入試は9月~12月にかけて、 出願書類(調査書、志望理由書等)による第1次検査、講義に基づくグループ討議、レポート、面接、 実技等による第2次検査を行い、通過した者は、その後、翌年1月に実施される大学入試センター試 験の成績を加えて、合否判定がなされるという手順となっている。 この特別選考の初回入試(2019年度)は、札幌校のみで実施され、第一期生として10名の学生が入 学した。この入学者に対して、教職大学院札幌校は学部に提供する初の科目として、1年次に「特別 教職実践演習Ⅰ」と3年次に「特別教職実践演習Ⅱ」 (各2単位)を開設した2。各々のシラバスにつ いては、表1及び表2として示す。 本稿では、2019年度に札幌校で初めて実施(2020年2月4日~7日)した特別教職実践演習Ⅰにつ いて、その成果と課題を示したい。このことにより、2020年度より実施した旭川校や釧路校における 同講義科目の実施結果も交えて、2021年度からの新教職大学院における本講義科目Ⅰ及び当年度に開 講予定の特別教職実践演習Ⅱの在り方についての検討材料になるものと考える。. ───────────────────── *1. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)札幌. *2. 元北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)札幌. *3. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)札幌. *4. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)札幌. *5. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)札幌. *6. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)札幌. *7. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)札幌. *8. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)札幌. 109.

(3) 井門 正美・梅村 武仁・小野寺基史・川俣 智路・小沼 豊・野寺 克美・姫野 完治・松橋 淳. 2.特別教職実践演習Ⅰ並びにⅡの概要紹介 まず、特別教職実践演習はⅠ及びⅡか. 表1 特別教職実践演習Ⅰのシラバス(抜粋). ら構成される。これらの科目は学部の研. 科目番号. 究発展科目に位置付けられている。これ. 18030. らの講義は、表1及び2の授業概要にも 記しているように、教員養成特別入試に. 授. 授業形態 講義・演習. 科目区分. 研究発展科目. 授業概要. この授業は、教職特別選考で入学した学生を主な対象として、教職大学院の教員が中心と なって行う演習科目で、受講した皆さんが「教師になりたくなる」授業を行います。本演習 Ⅰ(本講義)は「教職の魅力を知る・探る」をテーマとし、講義では、教職大学院の講義スタ スル(講義とワークショップ)による授業を行います。また、学部で開設されている関連講義 科目との連携を図って、この講義は3年生の前期の「特別教職実践演習Ⅱと対にして開講し ました。これらの演習により、教職の魅力と意義を知り、皆さんの教職実践力の基礎を培い ます。 本講義では、教職大学院の教員が語る教職の魅力、学生の魅力的な教師・なりたい教師等 について語り合い、教職の魅力を知り、その重要性を理解します。その上で、「授業づくり と実践の魅力を探る」として、まず、学生の皆さんが思い出に残る授業について語り合った 上で、教職大学院の教員が自身の授業づくりと実践事例を模擬授業として紹介し、授業づく りと実践の魅力について語ります。学生の皆さんは模擬授業を通して、授業づくりや実践の 方法・技術について学びます。. 対応するディ プロマ・ポリ シー. 到達目標. く、教員採用試験を受けない学生も増加 授業計画. 本講義科目では、実務経験がある研究者 教員、また、ない場合でも実務と密接に 関わる研究者教員、そして、実務家教員. 担当教員 井門正美ほか8名. 2.教職における使命感、責任感を身につけ、教育的愛情をもって子どもを理解しようとす る。 4.現代の学校教育現場の多様な課題を理解し,適切な対応を考えることができる。 ・学校や授業で経験・観察したことを分析的に理解できる ・教育実践者や教育研究者が提示する、教員に必要な資質・能力の重要性を理解する ・教育実践の理論や根拠が的確なものであるかを検討することができる ・どのような教員になりたいか、そのモデルをイメージすることができる 第 1回 第 2回 第 3回 第 4回 第 5回 第 6回 第 7回 第 8回 第 9回 第 10 回 第 11 回 第 12 回 第 13 回 第 14 回 第 15 回. の教師になることを断念する学生も多 してしまった。このような現状に鑑み、. 単位 2単位. 集中. 員養成課程では、これまで、教職の重要. のために、教員養成課程に入学したもの. 英語科目名 Special Practical Seminar to Teaching Profession Ⅰ. 曜日・時限. 員が中心となって当講義を担当する。教. える講義や演習を行いがちであった。そ. 目. 開講期. 科目である。対象学生は、強い教職志望. 性を理解させようと、教職の厳しさを訴. 科. 2019 年度. よる入学者を主な対象とした講義・演習 を有しているので、教職大学院の専任教. 業. 特別教職実践演習Ⅰ. オリエンテーション(講義の概要、ゲーム的自己紹介等) 思い出に残る教師・魅力的な教師について語り合おう―学生― 思い出に残る児童・生徒について語る―教員― 物語やドラマに見られる教師・教職から、その魅力を探究する 時代が反映される教師像(教師・教職の不易と流行) 今日求められる教師・教職とは 思い出に残る授業について語り合おう―学生― 思い出に残る授業はどこに特色があったのか話し合おう 教職大学院の教員による模擬授業1(国語、社会) 教職大学院の教員による模擬授業2(算数・数学、道徳) 模擬授業について語り合おう―学生と教員による討議― 授業づくりのコツと授業分析について 先人の授業に学ぶ授業づくり―著名な実践家とその授業― 今日求められる授業とは―アクティブラーニング、ICT 教育など― まとめ~自らの学びをふり返り共有する. の集合体である教職大学院専任教員が、 表2 特別教職実践演習Ⅱのシラバス(抜粋). 講義と演習を担当することとした。強く 教員を志す学生に、まずは、「教師って いいなぁ」と実感させる授業を実施する。 特別教職実践演習Ⅰでは「教職の魅力を 知る・探る」をテーマとし、講義では、. 科目番号 18031 開講期 2021 年度前期. 科目区分. 教職大学院の講義スタイル(アクティブ ラーニング)による授業を行う。学生の. 授業概要. 体験的・協働的で問題解決的な学習を促 進する教育内容と教育方法で実施する。 Ⅰは、1年次の後期、Ⅱは、3年次の前 期に集中講義で実施することとした。. に残る授業」を紹介してもらった上で 「教 110. 目. 英語科目名 Special Practical Seminar to Teaching Profession Ⅱ. 特別教職実践演習Ⅱ 曜日・時限. 授業形態. 集中. 講義・演習. 単位 2 単位. 担当教員 札幌校教員 *当年度より新教職大学院体制. 研究発展科目 この授業は、教員養成特別入試で入学した学生を主な対象として、教職大学院の教員が中 心となって行う演習科目で、受講した皆さんが「教師っていいなぁ」と実感できる授業を行 います。本演習Ⅱ(本講義)は「子ども理解と学級づくり」をテーマとし、講義では、教職大 学院の講義スタスル(講義とワークショップ)による授業を行います。また、学部で開設され ている関連講義科目との連携を図って、この講義は1年生の後期の「特別教職実践演習Ⅰと 対にして開講しました。これらの演習により、教職の魅力と意義を知り、皆さんの教職実践 力の基礎を培います。 本講義では、子どもの発達や成長、こころの理解の方法、特別支援教育等について、講義 や学校訪問を通して学びます。次に、教職大学院を訪問し、実際に大学院の講義を受講しま す。あわせて大学院生の支援を受けて授業づくりの模擬体験をします。 演習ⅠとⅡを通して、より善き教師や学校について考究します。. 到達目標. ・子どもの学習意欲を高めるための授業方法や教材研究の方法を理解する ・授業を対象化するための視点や方法論を習得する ・子どもたちの深い学びを促す上で、教材や授業を探求することの重要性を理解する ・教育実習に向けて自らの課題を発見する. 授業計画. 第 1回 第 2回 第 3回 第 4回 第 5回 第 6回 第 7回 第 8回 第 9回 第 10 回 第 11 回 第 12 回 第 13 回 第 14 回 第 15 回. なりたい教師」等について語り合い、教. の魅力を探る」として、「学生の思い出. 科. 3.教育に関する専門知識及び技能を身につけている。 6.教育に関する理論及び方法を生かし、教育実践を展開する基礎を身につけている。. 語る教職の魅力」 「学生の魅力的な教師・. もらう。その上で、「授業づくりと実践. 業. 対応するディ プロマ・ポリ シー. Ⅰでは、まず、「教職大学院の教員が. 職の魅力を知り、その重要性を理解して. 授. ガイダンス (演習Ⅰとの関連 本講義の概要 ゲーム的自己紹介) 子どもの発達や成長に関する最新研究について学ぶ 具体的事例を通して子どもの心を理解する方法や技術を学ぶ 特別支援教育の必要性やその理論について学ぶ 附属小学校と附属中学校を訪問し、学びを活かして具体的指導場面を考察する 附属小・中学校での参観に基づいた通した話し合いを行う 特別支援教室・学校での参観に基づいた話し合いを行う 子どもの発達や理解に基づく学級経営について考える 教職大学院で模擬授業を体験する1(教職大学院案内、授業開発分野) 教職大学院で模擬授業を体験する2(経営分野、生徒指導・教育相談分野) 教職大学院での模擬授業について話し合う 教職大学院の院生の支援を受けて学習指導案を基に授業を実践する1 教職大学院の院生の支援を受けて学習指導案を基に授業を実践する2 授業実践に基づき大学院生と授業づくりについて語り合う まとめ―教職の魅力と意義―.

(4) 北海道教育大学教職大学院・学部提供科目「特別教職実践演習Ⅰ」の実践. 職大学院の教員が自身の授業づくりと実践事例を模擬授業」として紹介する。学生は、模擬授業も受 けて授業づくりと実践の魅力について確認し合い理解した上で、授業づくりや実践の方法・技術につ いて学ばせる。 「特別教職実践演習Ⅱ」では、 「子どもの発達や成長」 「こころの理解の方法」 「特別支援教育」等 の内容を核としてシラバスを構成した。講義では根幹となる内容について話をした上で、学生には、 本学附属の小学校や中学校、特別支援学校の訪問を通して、各々の学校の様子や児童・生徒の実態を 把握させる内容としている。最後に、教職大学院の大学院生に開講している講義に倣った模擬授業を 参観してもらう。本院では、内容的な専門領域は学校・学級経営、生徒指導・教育相談、授業開発の 3つの分野から構成されているので、これらの授業を参観した上で、学生には授業づくりを体験して もらう。特に、大学院生の支援を受けて指導案作成を行うなどする。 以上のような学習を通して、Ⅰ及びⅡの目標に到達させる。. 3.特別教職実践演習Ⅰの講義概要紹介 本講義には、学生12名(一般入試2名を含む)が参加した。ここでは、まず講義の様子を内容のま とまりごとに紹介し、それらに対する学生の学びや感想は彼らに配布した受講記録カード(紙媒体・ Wordファィル)の記述を中心に取り上げ、必要に応じてレポートの記述も合わせて考察したい。学 生には任意に①~⑫の番号を付し、引用にはその番号を括弧書きで記す。また、講義のコマごとに受 講者人数を示す。 ⑴ オリエンテーション(第1コマ、井門ほか、札幌校教員) 〈11/12名〉 オリエンテーションは、 札幌校の全教員が揃って、 簡単な教員の自己紹介を行った。次に学生には、 「自己紹介ゲーム」 (自己紹介を個別にし合い、全体では他の人を紹介するゲーム)を実施した。参 加者がリラックスした後で、主担当の井門から、シラバス(教育内容と担当者)や日程を紹介し、引 き続き大学院の紹介・大学院案内を行った。 学生の受講記録カードには、本院が4校から編成され、視点音声追尾型双方向遠隔授業システムで 講義を実施していること、夜間開講で現職教員を受け入れていること、2021年度からは新教職大学院 に再編されることなど、本院の特色が記されていた。 特に、教職大学院で受講できる第1回受講生として「来年度以降に向けて良いモデルになれるよう に頑張ろうと思った」 (⑨)と記した学生のように、学生が本講義に期待を持ち前向きな姿勢で臨ん でいることが確認できた。なお、導入部分での自己紹介ゲームでリラックスし、打ち解けることができた とする記述もあり(6名) 、 実際に授業に当たっていた私たち教員から見ても和やかな雰囲気だった。 ⑵ 思い出に残る教師・魅力的な教師(第2コマ、野寺) 〈12/12名〉 この授業部分については、学生に事前課題「思い出に残る教師・授業」を出していた。このコマで は、課題の「教師」に関する部分を扱った。担当の野寺は、まず、自身の小学校入学前のエピソード を語った。幼稚園や保育園に行かなかった野寺にとって、小学校入学は全く未知の世界。それでも、 姉が通っている学校に自分も行けるという嬉しさから、ランドセルに教科書代わりの新聞紙を詰め込 んで部屋の中を歩き回って、入学を心待ちにしていた、という話である。この話を聞いた学生は「走 り回っていた野寺先生が可愛らしい」 (④) 、 「野寺先生の思い出が素敵だった」 (⑤)と記していた。 111.

(5) 井門 正美・梅村 武仁・小野寺基史・川俣 智路・小沼 豊・野寺 克美・姫野 完治・松橋 淳. 始まったばかりの講義だが、野寺の語りで我々教員に対する学生の緊張感もほぐれたようだった。 学生各自は思い出に残る教師について、授業の冒頭で話し合った。心温まるエピソードが多くある 一方、中には反面教師的な事例も紹介された。魅力的な教師では、 「精神的サポート」 「頑張る力を与 えてくれる」「生徒に寄り添う・尊重する」 「信頼や情が厚い」 「熱心さ」等が挙げられ、反面教師と しては「権威的」 「厳しすぎる」 「忘れ物で部活停止にする」といったものが挙げられた。互いにエピ ソードを語る中で、 「自分自身は熱心な部活の教師を良い教師と思っていたが、辞めていった仲間か らすれば、逆だったのかも知れない」という趣旨の記述があった(②③⑦⑨⑩) 。こうした気づきは、 学生の自省作用を促進し、自身の教師像を追究する上でも大切な気づきとなる。 野寺は、学生一人ひとりの話を聞いた後で、あるクラスを担任した時の経験を語った。3学期の終 業式に学級経営に満足できた野寺は、40名全員にどんなことでもいいからと感想を聞いた。その時、 2人の男子児童が、野寺の指導に対する不満を述べた。この経験から野寺は「教師は全員に好かれる ことはできず、中には相性の悪い子もいるが、全員を好きになる努力はできる」と語った。野寺の話 は「良い教師」とは何かをさらに問うものだったが、 この言葉に学生は感銘を受けていた(②③⑤⑫)。 魅力的な教師について語り合うことで自分の出会った教師との思い出を振り返り、これから自らが どんな教師を目指していきたいかを改めて考える機会となり、併せて、子どもを理解することの大切 さを多くの学生が再認識していたことが確認できた。 ⑶ 思い出に残る児童・生徒(第3コマ、井門、梅村、小野寺、野寺、松橋) 〈11/12名〉 3コマ目では、本院の実務経験のある教員が、自身の教職経験(小中学校、特別支援)の中で思い 出に残る児童生徒について語った。梅村は「H君のこと」と題し、中学時代に不安定だったH君との 様々な関わりを大事にしたところ、彼を中心に退職の会を開いてくれた話をした。小野寺は「F君の こと」というテーマで自閉症の子どもの指導について映画『RAIN MAN』を例示して話した。野寺 は「Y君のこと」という題で、問題を起こしがちな児童が学級で賞賛された社会科授業について話し た。ここでは紙面の都合上、井門の「菊を切ったW君」を紹介する。 問題を起こすことが多かった生徒Wが、技術科の授業で各自が栽培していた大輪の菊をナイフで 切ってしまった。理由は、自分と同様、皆んなもいい加減に育てていると思って、面白半分でやった という短絡的なものだった。井門は郷土の作家星野富弘氏の『風の旅』3をWに読ませ、反省文を書か せた。星野氏は群馬県の小学校教員(体育専科)だった方である。放課後、体育館での空中転回に失 敗し、首から下が不随になってしまったが、その後、口に絵筆を咥えて絵を描き続け、素晴らしい絵 画を制作し、数多くの詩歌集等を出版している。この本を読んだWは 「 (星野さんは) 花の絵を書いて、 悲しみをのりこえたのだと思う。そういう力を持った花をオレは傷つけてしまった。今度は、こんな 事をしない様にして俺も星野さんみたいにさみしい時、悲しい時は花を見て心を落ち着かせたい。あ と、花の美しさ、大切さを何年かかっても知りたいと思う」と深く反省していた。 この後、Wは無事卒業を迎えるが、卒業式が終わった彼は、サングラスに黒シャツ・黒ズボンで井 門のところに現れた。井門が 「何だその格好、 落とし前か」 と言うと、 「先生には世話になったからさぁ」 と、手に握ったものを握らせてきた。それはしわくちゃの3千円だった。 「バカ!現金握らせる奴が いるか。こういう時は、 ネクタイとか渡すもんだ」と話すと、 「うん。じゃぁ、 そうする」と言って帰っ ていった。後日、 井門が職員室に行くと机の上に包が置いてあった。中には銀ラメの輝くダークグレー のネクタイがあった。この年度を以て退職する井門は、市教委の辞令式にこれを着用して臨んだ4。 井門は、この話を語った後で、着用していたそのネクタイを学生に紹介した。学生からは、 「頭ご 112.

(6) 北海道教育大学教職大学院・学部提供科目「特別教職実践演習Ⅰ」の実践. なしに叱るのではなく、読書を通して自然の恵みを理解しようとする態度を育てる効果的な指導と感 じた」(②)と感想があった。 各教員のエピソードについて、ある学生は「何年経っても忘れられない子どもたちの存在が、それ 以後の教職人生で大きな力となっているのだ」 (⑨)と記していた。 ⑷ 「教師・教職から、その魅力を探究する」 (第4コマ、小沼、姫野) 〈11/12名〉 第4コマ目では、 「物語やドラマに見られる教師・教職像」 (小沼) 「教師と教師の卵の学びの軌跡」 、 (姫野)の2つのテーマで講義を行った。 小沼の担当部分では、戦後を年代ごとに分け、社会情勢の特徴と物語やテレビドラマで描かれてい る教師像を考察して、学生自身の描く教師像の理解を深めるという内容である。1960~’70年代(『こ れが青春だ』『青春ど真ん中』等)では、スポーツ、部活、熱血で形容される教師が主人公だったが、 1990~2000年代(『GTO』 『ごくせん』等)は常識に囚われない教師へと変化した。過去の教師像を 捉えながら、今日の求められる教師像(教職に対する熱い情熱、専門家としての確かな力量、総合的 な人間力)を示しつつ、学生に今日求められる教師像を踏まえて「どんな教師になりたいのか」と投 げかけた。 姫野は、教師の学びと成長の多面的考察を通じて、学生にこれからの大学生活、教職生活を送る基 盤構築をさせることをねらった。まず、各学生に教師の成長と発達のイメージをライフラインの曲線 で描かせた。右肩上がりで描いた者、40歳頃まで上昇し、 その後下降に転じる曲線を描いた者など様々 だった。次に、姫野の研究「現職教師や教職志望学生の学びや成長・発達の軌跡」を紹介し、 「学ぶ」 に対して意欲的な「開いた教師」と消極的な「閉じた教師」がいることを紹介した上で、前者でも環 境の変化で学びに閉じてしまうことや、後者であっても、学校での適切な配置で学びに開くようにな ることも伝えた。最後に、教職から離脱する事例も加えて、教師になったことで満足せず、学び続け る教師・学びに開かれた教師になって欲しいとエールを送った。 講義後、小沼の講義ついては、 「 『物語やドラマに見られる教師・教師像』の内容は面白いと感じた」 (②)と書いた学生をはじめ、近年の学園ドラマ( 「中学聖日記」2018、「先に生まれただけの僕」 2017、「みさきナンバーワン」2011)など例示する者もおり、生まれる前の時代の青春ドラマと比較 する記述が見られた(②③⑤) 。その中に「今は尊敬が無くなった」 (②) 、 「 『熱血』だと生徒に嫌わ れてしまうのはなぜだろう」 (⑤)と記して、 今という時代や教師像(流行)に思いを馳せる記述もあっ た。逆に、時代を超えて「教師が人と真剣に向き合おうとするのは同じ」 (⑪)と不易について記し た学生もいた。「(ドラマ「GTO」を指して)私は型破りなことができる教師になりたい」 (⑥)とす る学生もいた。 姫野の授業については、まず、 「教師を研究対象とする研究があることを初めて知った」 (⑤)と驚 く学生や、「教師自身の学びに着目した内容に高揚感を覚えた」 (③)とする学生もいた。学び続ける 教師については「継続し続けることが出来るのだろうかと疑問が生じた」としつつも、成長のために も学び続ける教師でありたいと決意を示した学生(⑦)もいた。学びに閉じた教師では「老害」を招 くとした学生(⑥)もいた。 ⑸ 「時代が反映される教師像」 (第5コマ、松橋、小沼) 〈12/12名〉 5コマ目は、「教育・教職の難しさと求められる教師像1」 (松橋) 、 「時代が反映される教師像─教 師・教職の不易と流行─」 (小沼)で構成される。教員間の担当調整のため、松橋の講義後半(教師 113.

(7) 井門 正美・梅村 武仁・小野寺基史・川俣 智路・小沼 豊・野寺 克美・姫野 完治・松橋 淳. 像2)は6コマ目で行ったが、本論稿では1.2をまとめて記す。 まず、松橋の講義は、 「教育・教職の難しさと求められる教師像」と題して、①他の職業とは異な る難しさ、②学生の心に残る「いい先生」 (小学校から高校) 、③民話「大きなかぶ」の授業の3部編 成で実施した。松橋自身の本学で受けた講義が教科専門偏重だったことから、教科教育との両輪で展 開すべきことを訴えた。その上で、教職の難しさとして人が人を教えること、成果が直ぐに現れない こと、多感な時期の子どもを教えること、学校の常識に安住しやすいことを挙げた。併せて、教職の 良さとして、児童生徒を望ましい方向に変容させ、可能性を引き出すこと、子どもから学び、自身も 成長できることを示した。この後、教師の仕事は教科と学級の経営力であると語り、学生から思い出 に残る「よい先生」を挙げさせ、社会状況も踏まえつつ、今日求められる教師像を話し合った。最後 に、民話「大きなかぶ」や大村はまの「仏様の指」5の授業を取り上げ学生に討議させて、一人ひとり の子どもを生かす教師の指導について考えさせた。 次に小沼の講義は、先の4コマ目で最後に扱った中教審答申「新しい時代の義務教育を創造する」 (2005年)を再提示し、あるべき教師像の3つの要素(前述⑷)を示して、対話的な議論を通じて理 解を深めた。次に、小沼の研究成果に基づき、教師間相互の援助体制の在り方について話した。教師 は、子どもの様々な問題や課題(不登校、いじめ、暴力行為、学業不振など)に直面し、心身に支障 を来してしまうケースがある。20代、30代の新任期教員(若手教員)における休職率(精神疾患が理 由)が増加傾向にあることに鑑み、被援助志向性・援助要請に関する研究成果を提示し、問題意識の 共有化を図った。悩みを抱えやすい新任期への対応も含め、学校組織は被援助志向性・援助要請を高 めていくこと、教師は自身で援助要請できることが求められていることなど、学生の理解を深めた。 松橋の講義については、 「教科経営と学級経営が密接に関係するという話もとても興味深かった」 (③)、 「(感銘を受けた言葉) 『100知って、 1教える』 『子どもに好かれようとしないことが必要』 」 (⑦、 関連④)、「(よい先生は)子どもとの信頼関係が非常に重要になってくるのだと実感した」 (⑤) 、「こ どもたちのことを理解している言葉はこどもたちに響く」 (⑩)などの記述があり、講義のねらいを 捉えるものだった。小沼の講義については、特に援助要請研究に関心を示す学生が多かった。 「援助 要請研究に関する先行研究が極めて少ないことを知った」 (②) 、 「 (教職はブラックと言われているの で)安心して教職に就けるような『援助体制』が増えて欲しい」 (④) 、 「 『援助要請』という言葉を今 日初めて耳にした」 (⑤)などの記述があった。 二つの講義を通して、教育や教職は専門や子ども理解を極めようとすると際限が無く、限度設定が 難しいことで、教員の質のばらつきや働き過ぎも出てしまうという点を指摘する記述も見られた (③)。 教員・教職の働き方改革や現状を改革する意識が確認できた。 ⑹ 今日求められる教師・教職とは(第6コマ、井門、松橋) 〈12/12名〉 教職に強い志望をもつ学生は、一般的に学校経験で「良い経験をした」と考える者が多い。このこ とは教員養成機関としては歓迎すべきことではある。しかし、一方で、学校やその教育活動に無批判 で踏襲する教師になりかねないという懸念もある。時代の変化の中で、教育の根底とは何か、何を修 正するのか、未来を見据えた教育はどうあるべきかといった、より望ましい教育を探究する批判的建 設者を育成する必要がある。 このコマを担当した井門は「学校の自己組織性」という観点から講義を行った。自己組織性とは「自 発的秩序形成」とも言われる。学校という社会システムで言うならば「学校が自己の在り方を問い正 し、内部的な力によって、ゆらぎ(対立や問題)を調整してより望ましいシステムに再生すること」 114.

(8) 北海道教育大学教職大学院・学部提供科目「特別教職実践演習Ⅰ」の実践. である。井門は、かつて勤務した大規模中学校での勤務経験から、議論せず報告のみ・難問先延ばし の職員会議(学校経営) 、 受験という短期目標だけの知識伝達型授業(教科指導) 、 決まりの押しつけ・ 休み無く続ける部活(生徒指導)といった象徴的な事例を学校の問題として取り上げた。また、「地 毛証明」「無言膝付清掃」 「万引きしない誓約書」など、本院入試の過去問に出題された今日的問題も 取り上げた。 筆者らが懸念していたように高校時代に地毛証明を提出していた学生は「特に地毛証明を不快だと は感じなかった」 「人権侵害だとは思わない」と記述していた(⑤) 。しかし、この学生は、これを不 快に思う人の存在に気づき、さらには、行きすぎた校則や決まりに疑問を持ち、上の人の言いなりに ならず議論することの必要性も書いていた。この他にも学校の在り方や校則・決まりなどに対して自 省的な記述が多く確認できた(⑤、他7名) 。 また、レポートでは、教師・教育に関する本を沢山読み、考えてきたと内心自負していた学生は、 苅谷剛彦氏の『学校って何だろう』 (2005年)も読んでいたが、井門の「 (校則・生徒指導等が)より 上位の法に反していないかどうか問い正しているのか」という言葉に、自身の読みの甘さを反省し、 大学院進学など更なる学びの意欲を示していた(レポート⑩) 。 この講義を通して、学生が是としてきた学校教育を問い正す姿勢が確認できた。 ⑺ 「思い出に残る授業について語り合おう(第7コマ) 」 「思い出に残る授業はどこに特色があった のか話し合おう(第8コマ) 」 (小野寺、前田) 〈各12/12名〉 第7・第8コマは、内容的に1つなのでまとめて紹介する。この2つのコマでは、学生に「思い出 に残る授業」を語ってもらい(7コマ) 、その上で「良い授業」や「嫌な授業」について各々の共通 項を探る(8コマ)という内容である。 まずは、担当者の前田と小野寺が思い出に残る授業を語った。ここでは前田の経験談を紹介する。 前田は、大学時代の受講経験を取り上げ、①直立、②片足立ち、③屈み込むの動作をして「どれが一 番重いか」と聞いた。1~3のいずれかを選んだ学生もいたが、 「どれも同じ」とする者もいた。こ の最後の回答が正解である。学生には、小学生などにこうした問題に解答させ( 「仮説」をもつ)、討 論し実験・検証するという一連の過程を経ること、さらに系統的な複数の問題に順に取り組ませるこ とで、科学的認識が形成されていく「仮説実験授業」6の意義を伝えた。 この後、3つの班に分けて、学生に「良い授業」の体験談を互いに語らせ(20分) 、その内容を各 班代表者に発表させた(各5分) 。次に、 「嫌だった授業」についても話し合わせ、 「良い授業」と同 様にグループ討議(20分) 、発表(各5分)を行った。最後に、 「思い出に残る授業」 「嫌だった授業」 について全体の振り返りを行い、互いに交流した。続く8コマ目では、前時の2つの種類の授業につ いて掘り下げるため、3つの班で各々の授業について、各自が「キーワード」を書き出し(10分)、 その上で発表し合い(10分) 「良い授業」 、 「嫌な授業」についてグループでまとめた(30分) 。最後に、 「教壇に立った時、自分はどんな教師として、どんな授業ができるか」を学生に考えさせた(20分)。 学生は、7-8コマの時間で、各自の「良い授業」 「嫌な授業」を語り合う中で、両者の相違につ いて「良い授業は児童生徒のことを良く考えている。嫌な授業は自分の都合しか考えていない」 「 、(良 い授業は)子どもの、子どもによる、子どものための授業。 (嫌な授業を)先生の、先生による、先 生のための授業」とまとめていた。 「良い授業」は「生徒思い」 「子ども主体」 「実践的・体験的」「対 話」「能動的」「アクティブラーニング」等、 「嫌な授業」は「受動的」 「教師のやる気なさ」 「独りよ がり」 「情報量多く要点不明」等のキーワードが挙げられていた。後者の事例として「他の教師の悪 115.

(9) 井門 正美・梅村 武仁・小野寺基史・川俣 智路・小沼 豊・野寺 克美・姫野 完治・松橋 淳. 口を言う」「生徒の発言を馬鹿にし嫌みを言う」 「生徒の苦手なところを露見させる」等の記述があっ たが(③)、授業の良し悪し以前に、教師・人として問題となる行為である。皮肉なことだが、学生 は「自分がいやな授業をしないために、反面教師として記憶に刻もう」 (⑪)のように反面教師とす る記述(①⑥⑫)も見られた。 担当者の話については「先生が一人の子どもを責めてしまったら、他の子どももその子を責めても いいと認識してしまう」 (小野寺、⑤) 、 「教育は誰でも受けてきたものだから、誰でも語れる」 (前田、 ③⑥⑩)が印象に残ったと記されていた。子ども理解や教職・教育の特色を表す言葉である。 ⑻ 「教職大学院の教員による模擬授業Ⅰ・Ⅱ」 (Ⅰ:9コマ、梅村、井門、Ⅱ:10コマ、松橋、野寺、 川俣)「模擬授業について語り合おう」 (11コマ、前田、川俣) 〈11/12名〉 9コマ~11コマ目は、内容的に1つなのでまとめて紹介する。9コマ目では、①「バトル方式俳句 鑑賞」(中学校国語、梅村) 、②「秋田のハタハタ漁」 (小学校社会、井門) 、10コマ目では③「質を高 める授業づくりの在り方」 (中学校数学、松橋) 、④「道徳教材文の可能性」 (小学校道徳、野寺)、⑤ 「児童生徒の表出とテクノロジーの活用」 (大学院、川俣)の模擬授業を行った。その上で11コマ目 で「模擬授業について語り合おう」を実施した。ここでは①と⑤を取り上げたい。 俳句の授業では、授業者はそのねらいを「学生が『主体的・対話的で深い学び』の視点からの授業 改善の在り方を、具体的な授業参加体験を通して学習者の立場から考察すること」に置いた。まず、 おおえだ. ひごい. 」 「映りたるつつじに緋鯉現れし(高浜虚子) 」 「ソーダ水 「ゆさゆさと大枝ゆるる桜かな(村上鬼城) つつく彼の名でるたびに(黛まどか) 」の3つの俳句を挙げ、目標「様々な見方、感じ方の交流を通 して、俳句を味わう」を示した。学生はまず全員で3つの句を音読した上で、 4班(内1つは判定団) に分かれた。初めは一人学習で3つの俳句に 「一言感想」 を書く。各班は3つの内から1句を担当し、 その句の面白さ・良さを検討して発表する。発表に対しては各班互いに質疑応答を行う。この質疑応 答を踏まえて班ごとにさらに面白さや良さを追究し、班は全体に対して補足説明をする。 この後、判定団が面白く感じた俳句とその理由を説明し、最後に教師が講評する。 テクノロジーの活用の授業では、テクノロジーの発展が、子ども達の多様な表出を可能にするとい う趣旨で授業を行った。Google Classroom、Slack等のGroup Wareの活用が、Web上での話し合い、 情報共有を可能にし、動画やログ等の記録も残ることから、指導者も学習者も自己評価、モニタリン 7 を使い、 サイトから質問を出し、 グ、形成的評価等に有効であると伝えた。実際にWeb上の「Kahoot!」. 学生にはスマホで回答させる体験をさせた。学生の回答集計は即座にWeb画面に表示され全体で共 有できることを確認するなどした。 以上2つの実践例を示したが、9コマ~10コマ目の学生の記述や11コマの語り合いの記録を紹介す る。まず、俳句バトルの授業では、 「班に分かれて俳句の面白さや良さを追究し、それを全体でバト ル形式で競うことが学習を楽しくし意欲を高める(①②③⑤⑫) 」という記述が見られた。判定団に ついては、学習者による判定を評価する学生(⑩)がいたが、逆に、生徒に任せると、納得しない生 徒とのトラブルを懸念する記述(①)もあった。学習者と教師の両方の視点から授業方法を検討しよ うとする態度が、学生の意識に見られた。ここに注目したい。班や全体での交流を通して鑑賞に多様 な観点があり、理解や味わいの深まりを実感したとする記述が確認できた(①②④⑤⑥⑫) 。 次に、テクノロジーの活用の授業では、こうした技術の活用を意識していなかった学生は「テクノ ロジーがいかに仕事を効率的に、また、授業を効果的なものにするかを学んだ」 (③⑩)と記述し、 また、留学で「Kahoot!」を体験した学生も、子ども達の意欲を高め、効果的な評価もできるこうし 116.

(10) 北海道教育大学教職大学院・学部提供科目「特別教職実践演習Ⅰ」の実践. た方法を活用したいと記述していた(⑤) 。また、 「Web学習における子ども達の個人情報の漏洩」 というデメリットに配慮する記述もあった(③⑥⑫) 。 学生達は、11コマ目でも、5つの模擬授業を語り合うことで、自身が授業をする視点からも教材や 授業づくりへと思いを馳せていた。 ⑼ 授業づくりのコツと授業分析について(姫野、井門) 〈12/12名〉 12コマ目は、学校内外で推進されている授業研究の方法や、様々な授業形態や学習活動をどう捉え 評価するのかという観点から、今後の教育実習や就職後の授業づくりや実践の視点を獲得してもらう 「体験や討論をどう評価するのか」 (井門)の ことをねらいとし、「教師のわざを科学する」 (姫野)8、 2つのテーマで実施した。 まず、姫野は、日本の学校現場では、明治期に現在の学校制度が設けられてから現在まで、教師同 士による授業研究が行われていること、 こうした学校における授業研究に、 諸外国から注目が集まり、 日本式の授業研究は 「Lesson Study」 と呼ばれて世界中に拡大しつつあることを紹介した。その上で、 姫野が研究している、授業中および授業観察中の教師の視線配布に着目した授業研究方法や、現職教 師と教育実習生の見方を比較した研究成果について説明した。最後に、たとえ教材を綿密に分析し、 授業を数多く行ったとしても、それを行う教師の「観」が変わらなければ授業は変わらないこと、だ からこそ学生時代に教師としての信念や価値観を耕すことが重要だと訴えた。 井門は、自身が提唱する「日常的推論分析法」とシンボリック相互作用論者N.Kデンジンの「場の 諸要素」による行為分析9を紹介した。「日常的推論分析法」は、自然言語理論を援用した話し合いや 討論の発話分析法である。討論等における「pならばq、 なぜならr、 d」といった推論やその理由、 さらには根拠となるデータ提示から発話過程の意味内容の連鎖を捉え、構造化する方法である。「場 の諸要素」による分析は、 デンジンによれば、 場(place)は「自己内省的定義者」 「場所・物理的環境」 「社会的対象」 「ルールのセット」 「関係のセット」 「内省的定義の方法のセット」の6つの要素から 構成される。井門はさらに、その場の根底にある「世界観」という要素を加えた。これらを紹介した 上で、テーマパーク建設を巡る討論の把握・評価方法や、生活科の鬼ごっこのルール作りを場の諸要 素から分析し、子ども達の社会化の過程を捉える方法を紹介した。 姫野の講義については、実習生と熟練教師に視点カメラを装着させてその「見え」の違いを比較す る実験研究を紹介したが、実習生は全体を見て、熟練教師はその時々の着眼点からピンポイントで児 童生徒を見ている点に注目していた(①④⑤⑥⑦⑧⑨⑪⑫) 。また、日本のように授業研究によって 教師達が教育方法・技術等を共有化する国が希有である点にも驚く記述が多かった(②③④⑥) 。井 門の講義については、討論、議論、話し合い等の区別に気付けたという記述(①) 、アクティブラー ニングが子どもの出力に重きを置いていることを改めて認識したという記述(②) 、ハタハタの授業 のような地域的課題を捉える授業の重要性の記述(⑤)があった。また、体験や討論も分析方法を通 して評価できることを改めて確認した記述(⑪)や生活科での遊びの分析から教室以外の場所での学 習やその評価方法の重要性について考えたという記述(⑫)もあった。 2つの講義を通して、学生は教師の指導力や授業分析・評価方法についても学んだ。 ⑽ 先人の授業に学ぶ(13コマ、小野寺、野寺、井門) 〈11/12名〉 13コマ目は、 「特別支援教育における『授業づくりの基本のき』 」 (小野寺) 、 「追究する子を育てる ~有田和正氏の実践を通して」 (野寺) 、 「公民教育~大津和子実践『一本のバナナから』 」 (井門)の 117.

(11) 井門 正美・梅村 武仁・小野寺基史・川俣 智路・小沼 豊・野寺 克美・姫野 完治・松橋 淳. 3つの授業を紹介した。 まず、①では、小野寺自らの特別支援教育の実践を取り上げた。授業づくりは「教師自身が楽しん でいること」「授業目標が明確であること」 「意欲をそそる授業とその評価」という授業づくりの3つ のポイントを示した。子ども達のやりたい活動や生活実感を持たせることのできる授業は、ヴィゴツ キーの発達の最近接領域や動機付け(外発的→内発的)から学習課題を適切に設定して、子ども達の 学びについては個人間差ではなく個人内差の評価を行う必要性など、具体的事例を示して語った。 次に、②では、野寺が「追究の鬼を育てる」という言葉で著名な有田和正氏の小学校社会科実践を 紹介した。有田氏は「北風と太陽」で教科書通りに教える授業を「北風」 、学習方法が分かり面白い 授業を「太陽」に例えた。前者の授業は「未知→教師伝達→既知」だが、有田氏の提案する後者の授 業は「既知→揺さぶり→未知→追究」という学習過程となっている。さらに学習者は個人研究に向か う。こうした有田氏の授業理論を解説した上で、 「デパートと商店街 (小3) 」10の実践例を取り上げて、 「デパートの食品売り場はなぜ地下にあるの」という発問から、子ども達がその理由を熱く追究する 姿を紹介した。 最後の③では、井門が高校現代社会の大津和子実践を紹介した。大津氏は、教室にバナナ(房)を 持ち込んで、 「クイズ全問正解者にプレゼントします」と宣言して授業を始めるが、授業でバナナが もらえるという意外な事態に生徒は歓声を上げる。しかし、生徒はクイズに回答し大津氏から答えを 聞く中で、多国籍企業によりフィリピンの農園主や労働者が搾取され、農薬に晒される実態を理解す ると真剣な面持ちとなり、さらに南北問題を追究していく11。大津氏は現地調査のスライドを活用し て授業実践を行った。当時(’80年代初頭) 、 始まったばかりの現代社会の在り方に指針を示し、 「白眉」 とも称された。 小野寺の講義には、 「教師が楽しむことで活発な授業になり、 生徒もその授業で成長する」 (①) 「 、『子 供の心に火を灯す教師でありたい』と心から思う」 (③) 、 「行動に意味を持たせて動機付けを促すこ とが大事だ」(④)といった記述があった。野寺の講義には、 「北風と太陽の図であったりと例えを出 すのがうまい」(①、関連④) 、 「追究意欲を引き出すことで能動的な授業ができる」 (⑤) 、 「有田さん の考えは聞いたことはおろか考えたこともなくとてもためになった」 (⑥) 、 「材料と腕の比率が7: 3が適切であることを知った」 (⑧)などの気づきや学びが記されていた。井門の講義については、 「一 本のバナナから様々な視点で物を見ることができて興味深い授業だった。バナナおいしかったです」 (⑤)、「文字通り、一本のバナナで考え方を改めさせられる内容だった」 (⑧) 、 「バナナがどのよう になっているのか想像したりして絵を描いたり、 クイズ形式でバナナについて学ぶことができたりと、 12 (⑫、関連⑩)等、1つのモノを通して世界を理解 アクティブラーニングの良さを体感しました」. させる「グローバルコネクション」に関心を示していた。 ⑾ 今日求められる授業とは(14コマ、井門、梅村、川俣、小沼) 〈11/12名〉 14コマでは、今日求められる教育について、 本院が取り組んできた「命の教育」 (SOSの出し方教育、 アンガーマネジメント教育等)と、役割体験学習論について講義を行った。本院では、組織的研究と 13 に取り組んできた。前者は、いじめ、DV・ して「命の教育プロジェクト」と「Active e-Learning」. 虐待、自殺等、命に関わる深刻な社会問題に対して教育から立ち向かう取り組みである14。当コマの 担当者は道内各地に出前授業「SOSの出し方を学ぼう」を実践してきた。また後者は、井門が提案す る教授学習理論で「役割体験とは、学習者がある役割を体験することを通して対象を理解し、問題を 解決する学習方法である」と定義している15。この理論により、職業体験など直接的現場体験から模 118.

(12) 北海道教育大学教職大学院・学部提供科目「特別教職実践演習Ⅰ」の実践. 擬裁判やバーチャルリアリティなどの仮想体験も含む体験的・問題解決的学習を体系化し、今日、推 進されているアクティブラーニング(AL)の理論にもなる。 命の教育では、困難や命の危険から児童生徒を救うための「SOSの出し方教育」や怒りを適切に制 御して人間関係を調整する方法は重要であり、 こうした最新の教育について講義を行った。ここでは、 「SOSの出し方教育」を取り上げる。この教育は、児童生徒がメンタルヘルス、人間関係上の危機、 トラウマティックなストレスを受けた際に、信頼できる大人に「SOS」を発信する知識と方法を学ば せる教育実践である。講義では、 本実践の理論的な背景、 実際の教育実践のプロセスと実践例の紹介、 児童生徒のアンケートや感想を踏まえた効果等について解説し、公的な信頼できる相談機関(いのち の電話、チャイルドライン等)を紹介した。 16 「役割体験学習論」の講義では、まずALの捉え方について説明した。ALは、中教審答申(2012). で発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習、ディベート、グループ・ワーク等を含むものとし て説明されているが、これらは教育現場で長く活用されてきたものである。ALは言葉としては新し いが、その中身は伝統的な教育方法群である。むしろ、今日必要なことはALを統括する理論であり、 役割体験学習論がその理論になることを具体的事例を示して説明した。特に、 近年の仮想現実(VR)、 拡張現実(AR)といった科学技術により学習空間が拡張していることを指摘し、現場・実地、現実 における体験のみならず、必要に応じてインターネットやコンピュータ、AIを活用するなどした学 習、例えば、ARで今は実在しない城郭、寺社等の史跡をCGで再現したもの(ex.「歴なび多賀城」 ) で学ぶことも可能になっている話をした。 受講した学生からは、 「SOSの出し方教育」については、 「生徒の自己肯定感を日々の関わりの中で 育てていくことで、自分の命を守るという意識が自然と生まれる」という記述のように自尊感情や自 己肯定感の重要性について触れた記述が確認できた(③⑦⑧⑩) 。また、 「SOSを発信できるよう教育 していくことの大切さを学んだ」とする命を守る知識や技能の重要性についての記述も見られた(① ④⑥⑨⑪)。この他、こうした命に関わる教育の少なさを指摘する記述も見られた(③④⑤⑥⑫)。役 割体験学習論については、 「自分が社会的存在であることを認識でき、 理論的で体系的な学習ができる」 (⑤)や「(AL)を意味ある活動にするためには理論の理解が不可欠」 (⑦) 「 『やってみる』だけの(AL) から脱却するための『役割体験学習』 」 (⑧)など、 理論の必要性について記述していた。また、 シミュ レーションやロールプレイング、ゲーム等による学習や仮想現実空間での学習に関心や意義を示す記 述(④⑨⑪⑫)が見られた。. 4.本論稿のまとめ─受講記録カード(15コマ)の記入やレポートを踏まえて─ 以上、1~14コマまでの講義の様子を内容のまとまりごとに紹介した。ここでは、学生の学びを15 コマの「まとめ~自らの学びをふり返り共有する」を中心に考察をしたい。学生の提出したレポート もあるが、これらは受講記録カードをベースに論述したものなので、必要に応じて引用するなどした い。 15コマでは、これまでの学習の振り返りを行い、まとめの時間とした。まず、個別にまとめの記述 をし、次に全体発表を行った。全体発表では、本講義を受講して本当に学びになったと熱く語る学生 が多く、終了時間を超えてしまうほどだった。 学生の4日間の本講義の振り返りには、印象的なコマや個別のテーマについて記しているが、ここ では総合的に評している記述を中心に取り上げる。以下列挙する。 119.

(13) 井門 正美・梅村 武仁・小野寺基史・川俣 智路・小沼 豊・野寺 克美・姫野 完治・松橋 淳. 「(個性を生かしつつ居場所のある)クラスを作れるよう努力したい」 (①)/「 (関心ある分野だけ でなく)今回新たに知ったトピックに関する本を読んで学びをさらに深めたい」/「私は本講義を聞 き、 『やっと教育大に来た』という心地がした」 (③)/「 『学んでいること』 『知識が増えていること』 を実感できる講義」 (④)/「教職大学院での講義を受けることができ、自分にとって非常に有意義な 時間、 〈中略〉実践的なまさに『アクティブラーニング』を取り入れたような形式で行われていたので、 とても新鮮な気持ちで臨むことができた。教職への意欲を再び掻き立てるような講義」 (⑤)/「理論 的な部分が聞けてさらに経験する部分もとてもいいものであった。VRを使った体験学習はまさに目 からうろこでとても興味深いものであった」 (⑥)/「短い時間だったがとても有意義な時間を過ごす ことができ、そのような時間を用意してくれた先生方に感謝を伝えたい」 (⑦)/「学部の講義では知 ることのなかった、現場の側面や各先生方が授業構成に込める想いなど、教師として働く際の参考書 になるような経験だった」 (⑧)/「非常に濃く、学びが楽しいと思える時間を過ごすことができた。 〈中略〉 (現場経験のある先生方の)実体験をもとにした話が多くあり、教師っていいな、教育に携 わるって素敵だなと改めて思わせてくれた」 (⑨)/「今後もこの仲間たちを大切にして〈中略〉、み んなで高めながら良い教師を追究し、目指していきたい」 (⑩)/「これまでの学びをもう一度整理し 直したうえで、さらなる学びにつなげられるようにしたい」 (⑪)/「貴重な経験のできた4日間をあ りがとうございました」 (⑫) 特別教職実践演習Ⅰは、冒頭にも記したが、教職経験や現場での実践重視の研究者教員や校長経験 や教育行政経験のある実務家教員が、受講者の体験的で協働的な学びを重視し、かつ、学校や教師の 当たり前を問い正す自省的視点(自己組織性)を投入して、カリキュラムを作成した。15コマ目の学 生の学びを列挙したが、彼らは教員による講義を受け、互いの経験を語り、意見を交わすことで、学 びを深めていることが確認できる。レポートにも、学びを通して、 「これからも様々なことに興味を 持ち、努力していきたい」 (①) 、 「 (院の講義を受けて)大学で学ぶことの先にある教育の奥深いとこ ろを学べた」(③) 「講義を受けて『教師になりたい』という気持ちがより一層強くなった」 、 (⑤)、 「こ の講義を受けたことで教職に対する思いがより一層強まった」 (⑨)など、教職への強い意思が記さ れていたことは、本講義の重要な目的・使命を達成したと判断できる。学生は、自身の目指す教師像 についても「生徒の将来までを考えて支援することのできる教員になる」 (③) 、 「私がなりたい教師 は子ども達の心のよりどころになれる教師だ」 (⑦)、 「子どもたちを信じ、子どもたちのパワーを最 大限に引き出せるような教師になりたい」 (⑩)など、明確に示していた。学生の記述には、学部の 講義、フィールドワーク、実習等で、教職の大変さやブラックな側面を目の当たりにして教職への意 欲が減退したという記述(④)や学部では教育観を感じ取れる先生が少ない(⑥)などの、 冒頭で我々 が懸念していた記述も見られた。こうした負の評価についても本院の講義で払拭することができたと 判断する。 学生の講義への取り組み方、受講記録カードやレポートの記述など、非常に熱心な姿勢、教職への 真摯で熱い思いが確認できた。学生のこうした記述を読んで我々も心が震えた。素晴らしい学生達で あり、彼らの更なる成長と発展を期待する。 2021年度からは、学部と新教職大学院の一貫性が問われることになるので、双方の教員が密に連携 して、教職の難しさや厳しさを超えて、学生達がその魅力や奥深さを実感して、本気で教師になろう とするカリキュラムの構築と指導を展開することが必至と考える。本論稿が、ささやかながら、その 礎・契機になればと願っている。 120.

(14) 北海道教育大学教職大学院・学部提供科目「特別教職実践演習Ⅰ」の実践. 謝 辞 共に本講義の計画・実施に関わり、本論稿に実践データやコメントをして下さった前田輪音先生に 感謝します。 【註】 1 北海道教育大学『令和2年度教員養成特別入試のご案内』 (https://www.hokkyodai.ac.jp/files/00004900/00004918/ 20190708133535.pdf) 2 当科目については、当時、大学院長であった井門が、佐川正人理事・副学長からの要請を受けて、理事と構想 を練り、その上で、札幌校の全教員で具体的計画とシラバスを作成した。 3 星野富弘著『風の旅』 (学研プラス、1982年) 4 この話は、1990年3月の話である。今となっては、生徒とのやり取りを批判されるかも知れないが、荒れた学 校の生徒指導ということでご理解いただければと思う。 5 大村はま著『教えるということ』 (共文社、1983年) 6 この授業方式は、板倉聖宣が開発した授業方法である。前田はこの質問は「ものとその重さ」の最初の設問で あることを伝えている。 7 Kahoot! は2013年に公開されたゲーム型授業応答システムである(https://kahoot.com/)。 8 姫野完治・生田孝至編著『教師の技を科学する』(一莖書房、2019年)参照。 9 2つの分析方法については、井門正美著『社会科における役割体験学習論の構想』(NSK出版、2002年) 、「生活 科の遊びにおける子どもの社会化」 谷川彰英編著『筑波大学教育学系社会科教育研究グループ論文集』 (同グループ、 1995年)を参照のこと。 なお、デンジンについては、Norman K. Denzin, (1977), Childhood Socialization: Studies in Development Language Social Behavior and Identity, Jossey-Bass Inc. Publishers, San Francisco, California. を参照頂きたい。 10 有田和正著『有田和正著作集「追究の鬼」を育てる7』(明治図書、1989年)参照。 11 大津和子・教科研授業づくり部会編『社会科=一本のバナナから』 (国土社、1987年) 。大津氏は本学の教員と して長年在職し、理事・副学長も勤めた。 12 バナナの絵は、井門のアイディアとして加えた部分である。食べてはいてもなっている様子は案外知らないも のである。 13 この組織的研究もオリエンテーションで紹介している。本院は開設当初から双方向遠隔授業システムやパーソ ナルポートフォリオシステムを活用しており、ICT教育やプログラミング教育、VR・AR・MR等の今日的課題に も取り組んでいる。そのため、コロナ禍でもいち早くZOOMによる講義を4月から始めることができた。 14 このプロジェクトの詳細は、 『命の教育─命を大切にし、守る─』 (北海道教育大学教職大学院報告書、NSK出版、 2020年3月)や教育雑誌『SYNAPSE №69-73』 (ジダイ社)に掲載した井門正美著「北海道教育大学教職大学院 の挑戦Ⅰ-Ⅴ」 (2019年7月~2020年3月)参照のこと。 15 前掲9参照。 16 中央教育審議会答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて─生涯学び続け、主体的に考える 力を育成する大学へ─」 (2012年8月)参照のこと。. 121.

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参照

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