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実践的指導力を育む「中学校数学科教育法Ⅳ」の試み

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Academic year: 2021

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(1)Title. 実践的指導力を育む「中学校数学科教育法Ⅳ」の試み. Author(s). 早勢, 裕明. Citation. 釧路論集 : 北海道教育大学釧路校研究紀要, 第46号: 89-98. Issue Date. 2014-12. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/7759. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 釧路論集 −北海道教育大学釧路校研究紀要−第46号(平成26年度) Kushiro Ronshu, - Journal of Hokkaido University of Education at Kushiro - No.46(2014):89-98. 実践的指導力を育む「中学校数学科教育法Ⅳ」の試み 早 勢 裕 明 北海道教育大学釧路校 学校カリキュラム開発専攻 算数グループ. A Trial of “Mathematics Teaching in Junior High School Ⅳ” Class Aimed at Development as a Teacher’s Practical Ability Hiroaki HAYASE Hokkaido University of Education Kushiro Campus. 要旨  学生は3年での教育実習Ⅰを経て,授業に関する自身の課題を痛感し意欲も高まるが,3年後期には授業づくりを中心 に扱う授業はない。また,4年での教育実習Ⅱや教員採用選考検査に向けた模擬授業などの取組を経て,「自分は4月か ら教壇に立って授業ができるのだろうか」という不安を強くする学生にも多く出会った。算数グループでは,平成23年度 から,「中学校数学科教育法Ⅳ」を4年後期に実質開講して,幾分でも学生の不安を軽減し,教育実習等を通してつかん だ算数・数学科の授業に関する各自の課題意識に応えるべく実践的指導力を育む取組を行ってきた。  学生のレポートから,模擬授業を中核に据えた大学教員のTTによる「中学校数学科教育法Ⅳ」の授業の取組について 概ね効果が窺えた。あわせて,授業の開講時期,マイクロティーチングや授業カンファレンスなどを取り入れた模擬授業 と研究協議の充実について,改善の示唆を得ることができた。. 1.はじめに. 数学科教育法Ⅳ」を4年後期に開講し,幾分でも学生の不.  平成25年度から,4年後期に教職実践演習が必修となる. 安を軽減するとともに,小・中学校での教育実習等を通し. など,教員養成課程として,これまで以上に学生の実践的. てつかんだ算数・数学科の授業に関する各自の課題を再確. 指導力を育成することが求められている。. 認させ,4月からの授業実践に直結する力を高める取組を.  学校カリキュラム開発専攻算数グループとしては,これ. 行ってきた。. までも学生が算数・数学科指導のプロとなるべく,数学専 門の力はもとより,子ども達が「算数・数学がわかった」 「算. 2.研究の目的と方法 本研究の目的と方法については,平成27年度入学生か. 数・数学の学習って楽しい」と感じる授業ができるような 力を養うため,必要に応じてTT(ティーム・ティーチング). らの新しいカリキュラムの構想も視野に, 次の通りである。. を取り入れた授業を行いっている。 (早勢,2012). ⑴ 目的.  私が釧路校に勤務してからの3年間,学生は3年での教.  平成23年度から取り組んできた「中学校数学科教育法. 育実習Ⅰ(小学校)を経て,授業に関する自身の課題を痛感. Ⅳ」の成果と課題を振り返り,学生の実践的指導力を育む. し,大学での学びに対する意欲も高まる様子が窺えた。. ための方策を探る。.  ただ,3年後期には「中学校数学科教育法Ⅱ」,4年前. ⑵ 方法. 期に「中学校数学科教育法Ⅲ」と「高等学校数学科教育法.  授業中の学生の発言,授業感想,レポートの記述から成. Ⅰ」の授業はあるが,いずれも指導内容についての理解を. 果と課題を考察する。. 主にねらうもので,授業づくりを中心に扱う授業はなく, 学生が痛感した課題意識にダイレクトに応えることができ. 3.算数・数学科教育関連科目の構造 まず,平成25年度段階の釧路校における,算数グループ. ない状況を感じている。  さらに,4年での教育実習Ⅱ(中学校)や教員採用選考検. 学生の算数・数学科教育関連科目のねらいと内容構成〔図. 査に向けた模擬授業などの取組を経て,「自分は4月から. 1〕について述べ,実践的指導力の育成の視点から改善点. 教壇に立って授業ができるのだろうか」という不安を強く. 等に触れたい。. する学生にも多く出会ったのである。. ⑴  「算数の基礎」について.  そこで,算数グループでは,平成23年度から, 「中学校.  専攻科目「算数の基礎」は,算数グループの学生は必修. − 89 −.

(3) 早 勢 裕 明. 科目である。1年前期の時期に,高等学校までの算数・数.  15回の授業で,目標論,評価論,内容論,授業論,方法. 学を学ぶ立場から,教える立場に立つということを認識し. 論について,小学校学習指導要領解説算数編をテキストと. てもらいたいというのが授業の大きなねらいである。. して,6社の教科書や資料を提示し,具体例を基に理解を.  授業では,小学1年の算数科の教科書をテキストとし. 図るよう努めている。. て,学生にとっては「あたりまえ」のことをどう教えるの.  しかし,3年前期終了直後の「教育実習Ⅰ」や「教員採. か。そして,その指導内容の背景にはどのような専門数学. 用選考検査」を考えると,小学校各学年での指導内容につ. や心理学,教育学がかかわっているのかを扱っている。. いての理解を図るために,どうしても内容論に時間の多く.  学生には,算数グループに所属し,大学で学んでいく専. を割かれてしまい,授業づくりに直結する授業論や方法論. 門数学と数学教育学の意義を理解してもらいたいと願った. に十分な時間が当てられないというのが実際である。. 授業科目である。.  ② 算数科授業研究. ⑵ 小学校算数科教育関連科目について.  そこで,教育実習が終了し,学生が各自の課題を意識し.  ① 小学校算数科教育法. たタイミングである3年後期に,単位にはならない自由科.  算数科教育に関する卒業要件の科目は「小学校算数科教. 目「算数科授業研究」を開設し,希望する学生とともに模. 育法」だけである。算数グループは3年前期に配当されて. 擬授業を通して,算数科の授業づくりについて実践的に学. いる。. ぶ授業を行うことで,「小学校算数科教育法」で扱う授業.  学生にとっては,1年前期以来の算数・数学教育に触れ. 論や方法論の補充・深化に努めている。ただ,自由科目で. る授業となる。. あることもあり,受講者数は毎年5∼10名程度である。. − 90 −.

(4) 実践的指導力を育む[中学校数学科教育法Ⅳ」の試み ⑶ 数学教育学関連科目について. で, 「B図形」領域と「D資料の活用」領域の指導内容を扱っ.  教科又は教職に関する科目である「数学教育学」は,3. ている。. 年前期にⅠ,3年後期にⅡを開設している。.  なお,「中学校数学科教育法Ⅱ」では,実地指導教員を.  ① 数学教育学Ⅰ. お願いして,教材・教具を活用した授業とその開発につい.  「数学教育学Ⅰ」では,「教育実習Ⅰ」をも見据え,算数. ても扱っている。. 科の授業を分析的に捉え,指導目標の設定や具体的な評価.  ③ 中学校数学科教育法Ⅳ. 方法,1単位時間の授業の各段階の構築,子どもの反応の.  4年後期になると,学生は各都道府県教育委員会が行う. 予想,教師の発問や板書,机間指導等について,具体例を. 公立学校教員採用候補者選考検査も終え,卒業研究に没頭. 通した演習と模擬授業を含めた授業に努めている。. していく。比較的時間の余裕が生まれたこともあろうが,.  1単位時間の授業についてじっくり考えることで,卒業. 翌年4月から教壇に立つという現実を前に,「このままで. 研究のテーマを具体的に探ってほしいという願いである。. 授業ができるのだろうか」との不安を強くしていく者に出. また,直前に控えた「教育実習Ⅰ」での授業実践の素地を. 会うことも珍しくない。. 育むことにも繋がると考えている。.  主免実習である小学校での教育実習Ⅰは5週間で,授業.  ただ,模擬授業については,4名程度のグループで1つ. も多く経験しているが,副免実習の中学校での教育実習Ⅱ. の授業をつくりあげ,全員が授業者にはなることができな. は2週間しかなく,授業回数も多くはないことから,学生. いという現実がある。. の不安にも十分に共感できる。.  ② 数学教育学Ⅱ.  また,教員採用選考検査の二次検査に向けて模擬授業の.  「数学教育学Ⅱ」では,「教育実習Ⅰ」で学生がつかんだ. 練習に取り組むことで,本気で授業づくりに正対すること. 課題や子どもの実態を踏まえ,数学教育研究の方法の理解. となり,自身の教育実習での課題を強烈に再認識するのか. や文献研究の仕方について扱い,実際に卒業研究に繋がる. もしれない。. 文献研究に取り組むことを行っている。.  学生の声に応えるべく,算数グループとして,学生の不. ⑷ 中学校数学科教育関連科目について. 安を幾分なりとも払拭するとともに, 数学科教育法Ⅰ,Ⅱ,.  中学校教諭2種免許に必要な 「中学校数学科教育法Ⅰ」 ,. Ⅲでは十分に扱い切れてはいなかった内容論としての「数. 1種免許に必要な「中学校数学科教育法Ⅱ」と「中学校数. 学的活動」と方法論としてのその充実,さらには,我が国. 学科教育法Ⅲ」については,これまでも開講し学生の受講. が諸外国から注目されている「授業研究の方法」 について,. も多くあった。「中学校数学科教育法Ⅳ」については,い. 卒業前にある程度の理解を図り経験させることが,今日,. わゆる免許状取得には関係ない科目との捉えから学生の受. 強く求められている実践的指導力の素地を育むことに有効. 講がなかったが,平成23年度から学生の要望に応えて実体. ではないかと考え「中学校数学科教育法Ⅳ」の実質的な開. 化している。. 講に踏み切ったのである。 (J・W・スティグラー他,2002).  ① 中学校数学科教育法Ⅰ.  そこで,「中学校数学科教育法Ⅳ」では,現行学習指導.  受講学生の全員が1種免許を目指して「中学校数学科教. 要領で明確に内容として位置付けられた「数学的活動」を. 育法Ⅱ」と「中学校数学科教育法Ⅲ」も受講するのであれ. 重点的に取り扱い,指導案作成と模擬授業,研究協議を通. ば, 「中学校数学科教育法Ⅰ」については授業論と方法論. して,生涯継続していく「授業研究」の実感的な理解を図. に大きくウエイトを置いて授業計画をつくることができる. り,実践的指導力の素地を育むことをねらった。. が,実態はそうとは限らない。.  他の算数・数学科教育関連科目との違いは,受講学生全.  そこで,目標論,評価論,授業論,方法論とあわせて,. 員が1人で指導案を作成して模擬授業をする。そして,授. 中学校学習指導要領解説数学編を概観するためポイントを. 業後の厳しい研究協議を経験するという点である。. 絞って内要論も扱っている。学生にとっては,ややハード.   「中学校数学科教育法Ⅳ」の実体化によって,学校カリ. な予習・復習が強いられる授業になっている。. キュラム開発専攻算数グループのポリシーである「算数・.  地域学校教育専攻の教員で中学校数学を指導してきた,. 数学指導のプロを目指す」ということを,所属学生に具体. 教育行政の経験をお持ちの教員にも適宜,TTで授業に加. 的な指導の1つとして対応できると考えている。たとえ,. わっていただき, 学生に対するアドバイスをもらっている。. 小学校での採用を目指している学生でも,「中学校数学科.  ② 中学校数学科教育法Ⅱ・Ⅲ. 教育法Ⅳ」を通して得られるものは,算数科の授業実践に.  「中学校数学科教育法Ⅱ」と「中学校数学科教育法Ⅲ」. 必ず生きるはずである。. では主に内要論を扱い,中学校数学科の指導内容について. ⑸ 算数・数学科教育関連科目の構造の課題. 背景となる専門数学にも触れながら,可能な限り詳細な理.  ① 中学校数学科教育関連科目の学年配当について. 解を図るように努めている。.  中学校数学科教育関連科目については,Ⅰで総論と学習.  3年後期に開設する「中学校数学科教育法Ⅱ」 において,. 指導要領解説の概観を扱い,Ⅱ・Ⅲで各領域の内容につい. 「A数と式」領域と,A領域と関連が強い「C関数」領域. て理解を深め,Ⅳで数学的活動の充実を図るための授業の. の指導内容を扱い,4年前期の「中学校数学科教育法Ⅲ」. 実際を扱うという構造ができると考えられる。. − 91 −.

(5) 早 勢 裕 明  しかし,「中学校数学科教育法Ⅳ」が4年後期でよいの. 具体的な事例を通して理解し,教材研究や教具作成の方. かという点については,あまりにもギリギリの感が残る。. 法,指導案作成や模擬授業,授業分析の仕方を習得するこ. そもそも,教員採用選考検査で授業について切実に考える. とを目指す。 ③ 到達目標. のでは,その後の時間が少なすぎるのではないか。. ・数学的活動とはどのような活動か,具体例を示して説.  また,〔図1〕からも分かるように,2学年に算数・数. 明できる。. 学科教育関連科目が何もないことも,1年前期の「算数の. ・数学的活動を充実させるための教師の働きかけについ. 基礎」で扱った「学ぶ立場と教える立場の違い」の認識が. て具体例を挙げて説明できる。. トーンダウンしかねない。4年間を通して,専門数学の科 目では数学の学び方や数学の楽しさを獲得しつつ,数学教. ・数学的活動を充実させた学習指導案を作成できる。. 育の科目で「どのように教えるか」を意識し続けることが. ・数学的活動を工夫した模擬授業を行うことができる。 なお,評価についてはレポートと指導案,模擬授業,模. 大切と考えるのである。  小学校算数科教育法は釧路校全体のカリキュラム編成と. 擬授業や研究協議への参加の状況を総合して行っている。. もかかわるため,容易に2年に移行するなどはできないか.  〔図2〕は,1回目の授業でのオリエンテーション資料. と思われることから,「中学校数学科教育法Ⅰ」を2年後. である。1∼4回目では,数学的活動の充実について学習. 期に移行することで,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳも半期ずつ前倒しができ,. 指導要領解説数学編で確認し,授業DVDや附属中学校の. 4年前期で「中学校数学科教育法Ⅳ」 を扱うことができる。. 授業参観を通して数学的活動を充実させる手立てについて. そうすれば,3年の教員実習Ⅰを通して獲得した課題意識. 実際の授業から学んでいる。さらに,中学校で数学の授業. を比較的新鮮に感じたまま,直前に迫る教員採用選考検査. を実践してこられた地域学校教育専攻の教員に講師を依頼. への意識も手伝い,一層効果的なのではないかと考え,平. し,数学的活動を充実させる授業として 「問題解決の授業」. 成26年度から「中学校数学科教育法Ⅰ」を2年後期に配. づくりのポイントを学生に対する模擬授業を交えながら教. 置することとしている。. えていただいている。.  その結果,4年後期が空白になるが,教職実践演習や全 学で検討中の卒業前実践研究,あるいは,学生の自主ゼミ 等で対応できると考えられる。  ② 小学校算数科教育関連科目について  小学校算数科教育関連科目については,教育実習Ⅰを終 えた学生の課題意識やモチベーションを維持するために も,自由科目として開講してきた「算数科授業研究」を専 攻科目又は研究発展科目として位置付けることで,単位と してもカウントでき,少なくとも算数グループの学生の ニーズに応えることができると考える。他専攻からの受講 希望学生にとっても同様と考える。  ①と②のことで,専門数学と数学教育の科目がほぼ並行 して配置でき,学生の学びの意識が持続できると思われ る。また,3年での「教育実習Ⅰ」 ,後期の「算数科授業 研究」 ,4年前期の「中学校数学科教育法Ⅳ」 「教育実習Ⅱ」 , と1年間以上にわたって「算数・数学科の授業」の在り方 について考え続ける時間にできるのではないだろうか。 4.「中学校数学科教育法Ⅳ」のねらいと指導体制  平成23年度から継続してきた「中学校数学科教育法Ⅳ」 のねらいと指導体制について述べていく。 ⑴ シラバスについて  シラバスの記載事項は次の通りである。  ① 授業内容  中学校数学科における「数学的活動」について,教材研 究,指導案作成,模擬授業,授業分析など,具体的な演習. 〔図2〕中学校数学科教育法Ⅳオリエンテーション資料. を通して理解を深めていく。  ② 授業の目標.  5・6回目は,学生の指導案作成に当て,適宜,大学教.  中学校数学科における「数学的活動」の充実について,. 員にアドバイスをもらう時間としている。. − 92 −.

(6) 実践的指導力を育む[中学校数学科教育法Ⅳ」の試み 7∼15回目は,各学生による模擬授業と事後の研究協議. のような流れで行っている。全体の進行役は,次回の授業. をくり返していく。毎回,授業者は研究協議を踏まえて改. 者の学生が行うことにしている。また,模擬授業と研究協. 善した指導案を作成し,授業者以外の学生は授業の改善点. 議,助言はすべて録画して,授業者に提供している。. をまとめレポートを作成する。(坪田,2004)  16回目は,パネルディスカッション風に,大学教員が考 えを述べて学生と意見交換をし, 「15回の授業からの収穫」 をまとめる。 ⑵ 大学教員の指導体制等について  授業担当は杉山と早勢であるが,同じ時間帯に授業が重 なっていない算数グループの和地先生,黒川先生と地域学 校教育専攻の西村先生にも都合がつく範囲で研究協議での 助言者〔表1〕を担っていただいている。.  研究協議は,改善点を中心に出し合うことを基本として.  まず, 授業者が本時の授業にかかわり, 「本時の目標」と,. いるため,学生が気付かない多くの示唆を得ることがで. 前時や前単元での既習事項について説明する。本時の指導. き,極めてありがたい体制となっている。. 案は,授業者の意図に応じて,この段階で配付する場合も.  西村先生には,豊富な中学校での数学指導と小学校教員. あるが,模擬授業終了後に配付する場合が多い。できるだ. の経験,北海道教育委員会指導主事としての経験を生かし. け新鮮な感覚で生徒役の学生が授業を受けられるようにす. た助言をいただいている。和地先生には,代数学の大学教. るための配慮からである。. 員として数学専門の見地と,高等学校数学科教育法Ⅰの授.  模擬授業がスタートすると,生徒役の学生は授業者の発. 業担当者として助言をいただいている。黒川先生には,工. 問等に対応しながら,同時に,率直に感じたり気付いたり. 業高等専門学校数学教員の経験から高校数学との接続も含. したことを「よさ(黄)」と「課題(赤) 」の別に付箋紙に. め,解析学の大学教員として助言をいただいている。杉山. メモしていく。1枚の付箋紙には1つのことを書くように. 先生は,中学校と高等学校教員の経験や,長く大学での数. している。(新算研,1999)これは,ワークショップ型の. 学教育担当としての豊富な蓄積から,さらには附属釧路中. 研究協議にも対応できるようにする意図がある。. 学校長として現在,中学校にも身を置き,様々な視点から.  授業後に指導案を配付し,周囲の学生同士で若干の時間. の助言をいただける。早勢は,小学校教員の経験から,算. 交流した後,全体での協議に入る。. 数の指導内容等との関連,指導主事として小・中学校訪問.  授業者が指導案の意図や授業反省を述べた後は,質問と. で得た授業の実際等を勘案して助言に努めている。. 意見を取り混ぜて改善点を中心に協議していく。学生は,.  学生にとっては,小学校,中学校,高等学校,高等専門. 付箋のメモをもとに発言するため,発言しなくてはならな. 学校,大学の各学校種の助言者からアドバイスを受けるこ. いという雰囲気になっているようである。意見が対立して. とになるのである。助言内容は否応なく小・中・高等学校・. まとまらないときなどには,進行役は助言者に発言を求め. 大学の連携,接続に関するものにもなる。緊張感をもって. ることもある。. 授業をし,研究協議で多くの指摘を受けることになるが,.  協議の終末では,助言者が1人3∼5分程度で指摘事項. 教壇に立つ前に,勤務してからの数年分の授業研究に値す. や改善へのアドバイスを述べていく。. る貴重な学びの場になっていると考えている。.  最後に,次回の授業者である進行役が,次回の授業につ いて,持参してほしいものや準備しておいてほしいことが ある場合には知らせて90分の流れを閉じる。. 5. 「中学校数学科教育法Ⅳ」の授業の実際. なお,〔表2〕の時間については,模擬授業の進行状況. 次に,9回にわたって行う「模擬授業と研究協議」の授 業について,具体的に述べる。. や研究協議での発言数,当日の助言者の数によって柔軟に. ⑴ 授業の流れについて. 対応している。. 7∼15回目の模擬授業の授業については,概ね〔表2〕. − 93 −.

(7) 早 勢 裕 明 得していくのである。ただ,そのためには助言者の指摘や. ⑵ 模擬授業について. アドバイスが大きな影響を与えることは言うまでもない。. ① 指導案の作成と授業準備  指導案は基本的に個人の責任で作成しているが,大いに.  ③ 模擬授業の事例. 学生相互に意見交換しながら自分の考えをまとめていくよ.  例えば,次の〔図3〕のような模擬授業があった。. う奨励している。これは,校内研究を進める際も学年団や 教科部会で指導案を検討する協働的な取組に繋がる体験に なるからである。オフィスアワー等での大学教員への相談 は受けるが,指導案の加除修正は行っていない。  なお,授業準備の一環として板書計画についても作成す るよう促している。それは,次のような考えからである。. これらは,教師にとっての基本的な技能であることはも とより,研究協議の際にも貴重な資料となり,特に,生徒 の思考の流れや深まりについて「思考の関連づけ」を意識 した板書に努めて授業を展開していったかが,本時の目標 の達成のポイントとして分かりやすいためである。  ② 模擬授業  「中学校数学科教育法Ⅳ」における模擬授業は, 「本時の 目標が達成されたか」という点を最も重要視して行う。い わゆる教師の表情や声量,姿勢や立ち位置も一定程度は検 討するが,中学校の数学の授業としての成否を問題として いる。  毎年度,模擬授業のはじめのうちの回では,「板書のと きの教師の体の向き」や 「教師の言葉遣い」 「板書の文字」 , , 「表情や声のトーン」などを付箋紙にメモしているが,次 第に次のような観点でメモするようになり,最終回の頃に はかなり厳しくなっていく様子が窺えている。 生徒役の学生の発言の後には,必ず全体に「どう?」と 投げ返すなど,生徒に問い返すことを大切にした授業で あった。  研究協議や助言の概要については,⑶,⑷で述べる。 ⑶ 研究協議について  校内研修における授業研究や授業分析として,研究協議 には次のような効果が期待される。. 多くの模擬授業を経験することで,授業を観る視点を獲. − 94 −.

(8) 実践的指導力を育む[中学校数学科教育法Ⅳ」の試み  「中学校数学科教育法Ⅳ」での模擬授業後の研究協議も 助言者が存在することから同様の効果が期待できる。そし て,研究協議の繰り返しによって,実践的指導力の素地を 育むことができると考えている。  ① 研究協議の形態  研究協議は,次のいずれかの形態で行っている。.  模擬授業には,指導案作成を含め授業者の葛藤の跡が感 研究協議は,〔表2〕のようなオーソドックスなパター. じられる。学生の考えの浅さは否めないにしても,出され. ンだけでなく,授業回数の早い段階では4名程度のグルー. た質問や意見には鋭いものもあり,どの質問や意見も,概. プでメモした付箋を出し合って協議する「ワークショップ. ね数学の授業としての本質的な部分を見据えたものであっ. 型」で行い,比較的意見を出しやすい雰囲気をつくって研. たと捉えている。授業者は苦しい表情であったが,助言者. 究協議に慣れることができるようにしている。. としては,学生達に頼もしさすら感じたのである。.  授業回数の中間くらいでは,模擬授業が早めに終わった. ⑷ 指導助言について. 場合をねらって,録画した模擬授業の映像を再生しなが.  研究協議が一段落し,残り15∼20分くらいになると,進. ら, 「ストップモーション方式」での授業分析も体験でき. 行役の学生が我々に助言を求める。模擬授業と研究協議を. るようにしている。ただ,この手法については時間がかか. 見守りながら,各助言者は自分の専門にかかわり,いわゆ. るため,毎回は行えないと考える。. る「よい助言」をしようと指導助言の内容を考えている。.  また,教科書の同一か所を2名の学生がそれぞれ別々の.  ① 助言者としての留意事項 授業研究会等における「よい助言者の要件」として,次. 指導案を作成して模擬授業し,比較しながら授業研究をす る「授業カンファレンス」も1回はできるよう,学生に促. のような指摘がある。. している。  ただ,特にCやDについては,一定程度のいわゆる痛み が伴うことから,学生への配慮が必要である。  ② 研究協議の事例  〔図3〕の模擬授業後の研究協議では,学生から次のよ うな質問(□)や意見(■)が出された。.  指導内容や教材,指導法,生徒の反応例について,学生 の理解を深めるよう,基本的な用語やフレーズの確認を含 めて指摘とアドバイスをすること,今日の模擬授業をより. − 95 −.

(9) 早 勢 裕 明 よくするための代案を提示することが大切と考えて指導助 言をするように努めている。  そのため,模擬授業で観察された事実を取り上げた指導 助言,「例えば」と具体例や代案を示して指導助言を心が けるようにしている。 ② 指導助言の事例 〔表3〕の研究協議の後,各助言者から出された指導助 言の概要は,次のようなものであった。.  授業終了後,教室を出る授業者の学生の表情は,何かす がすがしくもあるのである。  研究協議では,自分の考えと他の考えを比較して新たな 気づきが生まれるが,学生には,その気づきが「本当に正 しいのだろうか」と確信がもてないでいることも少なくな い。助言者の指摘やアドバイス,代案を聞き,納得に至る のである。そして,その経験を積み重ねることで,「授業 を見る視点」や「授業を構想するポイント」を獲得してい くのではないだろうか。 ⑸ 学生のレポートについて 毎回,研究協議や助言の内容を踏まえ,授業者はもとよ り,学生一人一人が自分なりに模擬授業についての改善点 をレポートにすることで,復習として再度,模擬授業につ いて考察し,徐々に自分の考えを確かなものにしていくこ とができる。さらに,各回の模擬授業での改善点に共通な ものが見えたり,たとえ違う指導内容の教材研究について も共通する応用の仕方を見いだしたりすることに繋がると 考えている。  毎回のレポートについては増刷して,全員の分を全員に 配付している。各自がファイルしている様子から,学生に とっても貴重な財産として捉えられているようである。 6.「中学校数学科教育法Ⅳ」の3年間の取組の成果と課 題  最後に,平成23年度から平成25年度までの「中学校数学 科教育法Ⅳ」での取組について,学生の最終レポート等か ら成果と課題を考察する。 ⑴ 取組の成果  各年度の算数グループに所属する4年生の学生数と「中 学校数学科教育法Ⅳ」の受講者数は〔表4〕の通りである。. − 96 −.

(10) 実践的指導力を育む[中学校数学科教育法Ⅳ」の試み  ・西村先生だけでなく,全員の先生の模擬授業を受けて みたい。  ・付箋を使った協議はこれからも使っていきたい。  ・授業の導入だけでも全員が授業をして比較検討してみ たい。  ・他の学生の授業を観たことがなかったので,こんなに 多く観て話し合えたことが楽しかった。  初年度から2年間は,中学校数学科教育関連科目のた.  ・この授業で学んだことを現場で実践し,改善し続ける 覚悟である。. め,小学校での採用を希望する学生が敬遠する傾向が見ら れた。また,中学校での採用を希望する学生も免許所得に.  ・数学の内容が分かっていないことを思い知らされた。. 関係しない科目であることから,積極的な受講に繋がって.   解説書を熟読し,本も沢山読んで勉強します。. いなかった。ただ,初年度から,小学校での採用希望者も.  ・もう一度,模擬授業をやり直せたら,次は,もっとう まくできると思う。. 受講者の半数程度を占めていることは,学生が算数も数学 も授業づくりの基本は同様と受け止めているためと考えら.  ・授業後の話合いが,回を重ねるにしたがって,みんな. れ,嬉しく思っている。平成25年度には受講率が100%と. 「本時の目標の達成」 にこだわるようになっていった。. となり,先輩方からの受講推奨の働きかけがあったようで.   授業を観るポイントが少し分かったように思える。. ある。.  ・よい授業ができる自信はありませんが,ダメな授業に なっていたかは分かるつもりです。.  以下,学生の最終レポートから,特徴的なものを示して 考察する。.  かなり刺激的であった学生もいるが,実践に直結する授.  ① 授業計画にかかわって. 業内容であると捉えられていることが窺える。1人2回授. ・全員が授業をすることが大切なので,模擬授業の回数. 業すること,カンファレンスやマイクロティーチングを取 り入れることへの示唆も得られた。. は確保してほしい。 ・西村先生の模擬授業が現職経験者の説得力があり刺激.  5(3)で示した「教師が自分自身の見方,考え方,接 し方の特徴を知ることができる」と「一つの問題に対する. 的だったので継続してほしい。 ・授業DVDを使って,研究協議の仕方の練習になった. 多様な解釈,指導の在り方を知ることにより,柔軟な思考. が学生が増え回数を確保することが苦しくなったらな. や対処ができるようになる」については,概ね学生にも効. くしてもよい。. 果があったようである。実践的指導力の素地は培えている. ・できれば1人2回授業ができるとよい。(1回目のリ. のではないだろうか。もしくは,研修し続ける意識は一旦 もてたのではないかと考えている。. ベンジができるので。 ) ・短い時間でも1人が数回授業できると比較ができて勉.  ③ その他(開設時期等)  ・なぜ,自分にとっては4年間で一番役に立った授業が. 強になると思う。. 免許や卒業要件に関係ないのでしょうか。. ・多くの模擬授業を体験することが勉強になるので,.  ・4年後期でも現場に出る直前にいい勉強になりました. もっと回数が多くてもよい。. が,もっと早い学年で受けたい。そうすれば,教育実. 模擬授業の経験をできるだけ多くすることの要望がある. 習や教採の不安もいくらかなくなるように思います。. が,授業計画については全員が「模擬授業」を中心とした.  ・教育実習の前には数学教育学Ⅰである程度授業づくり. 現行のものでよいと考えているようである。  ②  授業内容にかかわって. の経験をするので,3年後期にこのような授業をする.  ・模擬授業はとても緊張したが,自分で気づきもしな. べきです。. かったいろいろな意見が聞けてとても勉強になった。.  採用試験のために大学の授業があるわけではないことは.  ・指導法も授業内容もひどいことが改めて分かった。し. 勿論であるが,副次的な好影響を考えてもおかしくはない. かし,それ以前に録画していただいたDVDを視て,. と思っている。. 授業をする姿勢や歩き方,話し方,生徒へのかかわり. ⑵ 今後の課題. 方,どれをとっても見るに堪えないことを痛感し,と.   「中学校数学科教育法Ⅳ」にかかわって,今後,次の点. ても貴重な経験となった。. について,改善充実を検討する必要があると捉えている。.  ・算数・数学の授業づくりや授業の仕方を学ぶ授業がこ.  *Ⅳの開設時期に止まらず,新カリキュラムに向け,中. れまでの学年になく,こういう授業を待っていた。ま. 学校数学科教育関連科目の学年配当を見直す。例え. さに実践的な授業だった。. ば,Ⅰを2年前期にしたことに連動させ,Ⅱ∼Ⅳを半 期ずつ前倒しするなどを検討したい。.  ・先生方の助言は厳しいけれど,現場に出たときに役に 立つことばかりだと感じた。もっともっと具体例を聞.  *オーソドックスな研究協議だけではマンネリ化する恐 れがあるため,カンファレンスやストップモーション. きたい。. − 97 −.

(11) 早 勢 裕 明 を一層取り入れる。  *短い時間での授業構想の経験を増やし,マイクロ ティーチングで複数の授業を比較検討する場を充実さ せるようにする。(飯島,1991) 引用・参考文献 群馬県教育研究所連盟,2001,実践的研究のすすめ方,東 洋館出版社,pp.113. 北海道教育庁網走教育局, 2009,オホーツク学力向上サポー トプラン「授業研究の栞」 ,pp.28-31,pp.38-41 飯島康男,1991,算数・数学教育実践的研究のすすめ方・ まとめ方,東洋館出版社,pp.45-52. J・W・スティグラー,J・ヒーバート(湊三郎:訳),2002,日 本の算数・数学教育に学べ,教育出版,pp.26-30. 河野義章,2009,授業研究法入門,図書文化,pp.142-153. 高橋昭彦,2013,算数科授業研究における講師講評に関す る考察−その役割と講師に求められる資質−,日本数学 教育学会誌数学教育学論究臨時増刊,pp.209-216. 坪田耕三,2004,算数「授業研究」再考,東洋館出版社, pp.18-29. 新算数教育研究会研究事業部,1999,算数科における授業 研究の進め方と実践研究論文の書き方,東洋館出版社, pp.157-158. 全国算数授業研究会,2008, 算数授業研究その不易と流行, 東洋館出版社,pp.266-272. 早勢裕明,2012,「小学校算数科教育法」の授業における ティーム・ティーチングの試み,北海道教育大学釧路校 研究紀要釧路論集第44号,pp.59-68.. − 98 −.

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参照

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