年をとるとどうして聞こえが悪くなり耳鳴りがするの?
―難聴・耳鳴りのしくみと対処法―
植田広海
愛知医科大学耳鼻咽喉科講座
日常会話は困らないが数人との会話でまわりが騒々しいと相手の話が聞き取りにくいと感
じることがありませんか。これが、大部分の人の聞こえの老化の始まりの自覚症状です。中耳
炎などによる外耳・中耳が原因の難聴は伝音難聴と言い、治療により改善する可能性のある難
聴です。一方老化による難聴は、内耳(音の振動を神経に伝える場所)の変化が主体ですが、
音を言葉として理解する機構を担う脳幹や大脳からも生じます。これを感音難聴と呼びます。
残念ながら、この感音難聴は治療で治すことは出来ません。加齢とともに、聞こえは高周波数
域から両耳そろって悪化していきます。そのため、高周波数域の聴力が必要な無声子音が最初
に障害されますが、母音は最後まで残る傾向がありそのため聞き間違えが生じます。また、人
間の耳はたくさんの人がそれぞれ雑談していても、自分が聞きたい話を自然と聞き取る能力
(カクテルパーティ効果と言います)があります。この効果は、両耳の内耳で正確に音が神経
に伝えられて脳が正常に機能している場合にのみ、雑音と語音を聞き分けることで可能となり
ます。残念ながら、現在の医学ではこれらの機能をまとめて全部を改善する方法はありません。
加齢性難聴の予防としては、動物実験ではカロリー制限、ポリフェノール、コエンザイム Q10
などの有効性が示されていますが、まだ人間に対しての有効性は証明されていません。
現在の感音難聴に対する対処法は、補聴器と最重度難聴に対する人工内耳です。補聴器は、
雑音がしてうるさいとの批判が多く聞かれますが、その原因の多くは、ハウリング(補聴器の
イヤホンとマイクが近いために音が循環して大きくなる)と環境音が急に大きく聞こえるよう
になるためです。また、正確な周波数情報が脳に伝達されないためことばがひずんで聞こえる
こともしばしばあります。補聴器を有効に使うためには、購入したら終わりとせず正確な使用
法の知識と補聴器の適切な調整およびその音に馴れる訓練が必要となります。また、難聴者は
認知症が進行しやすいとの報告もあります。補聴器装用により認知症の進行を遅らせることが
出来る可能性があります。
耳鳴は、難聴者の多くが自覚するものであり、最近の研究では内耳からの音情報の入力低下
を補うように聴覚中枢が異常興奮しさらに聴覚中枢以外の脳にも悪影響をおよぼし耳鳴をよ
り苦痛にさせると言われています。先述したように、老化による難聴は現在の医学では治せま
せん。そのため、耳鳴を苦痛と感じさせないような工夫および訓練が必要です。補聴器装用に
より、音情報を聴覚中枢に多く入力して聴覚中枢の異常興奮を低下させること、あるいは、川
のせせらぎの音・深い森の音などのヒーリングミュージックを小さく聴き続けることにより、
中枢をリラックスさせて耳鳴を無意識の音として中枢に認識させることが有効とされていま
す。
人工内耳は、補聴器を使用しても言葉として聞こえない最重度の難聴の人に適応となります。
手術で、内耳に電極を挿入して音を電気信号に機械で変換させて内耳神経に伝達する方法です。
中枢は正常である必要がありますが、現在日本でも 1 万人以上の人が使用してその有用性が証
明されています。
現在難聴や耳鳴でお困りの方は、通販や補聴器店で直接補聴器を購入するのではなく、一度
耳鼻咽喉科専門医に相談されることをお勧めします。