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差分変動率法を用いたブラックホール天体
LMC X-3 の長時間変動の解析
13s1-088
明星大学 理工学部 総合理工学科 物理学系
吉田 行秀
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要旨
全天観測X 線監視装置「MAXI」が観測を行ったブラックホール天体 LMC X-3 のアーカ イブデータを使用し、差分変動率法を用いて、Low intensity-hard spectral state(LHS)と High intensity-soft state(HSS)の2状態それぞれの長時間変動の特徴を調べた。解析デー タには「MAXI」の地球公転周期(約90分ごと)の変化を観測した orbit-data と orbit-data を1日にまとめたday-data を使用し、差分変動率法を用いて 2,4,8,16 ビンごとの時間幅か ら、2-4keV(L バンド)、4-10keV(M バンド)、10-20keV(H バンド)ごとの時間幅ビン依存 性(差分変動関数)を求めた。
さらに、これらの結果を、明星大学 2015年度 修士論文 大枝克弥「差分編率法 を用いたブラックホール天体Cyg X-1 の長時間変動の解析」による結果と比較した。
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目次
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X 線天文学
1.1 X 線で見た宇宙 1.2 全天観測 X 線監視装置「MAXI」2
X 線連星
2.1 近接連星系 2.2 ブラックホール連星 2.3 降着円盤 2.4 X 線スペクトル LHS・HSS 2.5 LMC X-33
LMC X-3 の解析
3.1 LMC X-3 のデータ 3.2 全データの図示 3.3 LHS、HSS の区分 3.4 誤差率 3.5 差分変動率 3.6 解析結果 3.6.1 解析したデータ 3.6.2 LMC X-3 の変動率 3.6.3 変動率の比較 3.7 HSS の L バンドと M バンドの相関 3.7.1 最小二乗法 3.7.2 2成分の独立性4 考察
5 参考文献
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1 X 線天文学
1.1 X 線で見た宇宙
X 線は生活をしていくなかで必要不可欠な存在になっている。病院などで使われるレント ゲン写真はX 線の高い透過力を利用して写真を撮影する技術である。人間が肉眼で見るこ とのできる光は「可視光」と呼ばれる領域であり、普段生活をしている上では支障はない。 しかし、光の波長は様々なため、肉眼で確認できるものはごく一部に限られてくる。我々 が夜空を見上げた際に見える星は可視光でしか確認できなかったが、今では技術は発達し 可視光以外でも星(天体)を捉えることのできる時代になった。 光は、電波、赤外線、可視光、紫外線、X 線、ガンマ線など波長やエネルギーによって領 域と性質が異なる。また、物体には温度がないものは存在しないことから表面温度に応じ た電磁波を発している。つまり、物体の表面温度として出している光の波長に関係がある ということから、天体の出している波長が分かれば、遠方からでもその温度やエネルギー を測ることが可能である。 図1.1 光の波長ごとの領域(ASTRO-H X 線天文学の世界)5
1.2 全天観測 X 線監視装置「MAXI」
図:1.2 ISS に接続された実験棟きぼう(JAXA) 全天X 線監視装置 MAXI(Monitor of All-sky X-ray Image)
2009年7月に打ち上げられた国際宇宙ステーション(ISS)に搭載された、実験棟船 外実験プラットフォームきぼうにあるX 線観測装置である。ガススリットカメラ(GSC) とソリッドステートカメラ(SSC)の2種類のスリットカメラを用いて全天を観測する装置 である。以下に、MAXI の諸元をまとめる。 大きさ 1.85m×0.8m×1m 質量 520kg 高度 400km 観測範囲 160°×1.5°(FWHM) 公転周期 約90 分 搭載機器 GSC(ガススリットカメラ) SSC(ソリッドステートスリットカメラ) ガス比例計数管を用いたガススリットカメラ(GSC)は広い面積を持つため、暗い天体 や広い範囲のエネルギーを持つX 線天体の観測に適している。一方、X 線 CCD カメラを用 いたガススリットカメラ(SSC)は、観測できる範囲は GSC より狭いが高い精度で天体の X 線スペクトルを調べることができる。GSC と SSC は長い視野を持っているため、宇宙ス テーション(MAXI)が地球を1周することで全天を常に監視することが可能となった。
6 以下に、GSC と SSC の諸元をまとめる。 ガススリットカメラ(GSC) ソリッドステートカメラ(SSC) X 線検出器 一次元位置感応型比例計数管(12 台) Xe(99%)+CO2(1%) X 線 CCD(32 枚) 各CCD25mm 角、1024×1024 ピクセル X 線エネルギー帯域 2-30kev 0.5-12kev 全検出面積 5350𝑐𝑚2 200𝑐𝑚2 エネルギー分解能 18%(5.9kev) <150eV(5.9keV) 視野 160 度(長さ)×1.5 度(半値幅) の視野を2方向に持つ 90 度(長さ)×1.5 度(半値幅) の視野を2方向に持つ 空のカバー率 瞬時瞬時に監視する空の領域は 全天の2% 1観測周期ごとに全天の90~ 98%を走査 瞬時瞬時に監視する空の領域は 全天の1.3% 1 観測周期ごとに全天の最大 70%を走査 スリット部の開口面積 7.1𝑐𝑚2(検出器1台あたり) 1.35𝑐𝑚2 位置分解能(検出器上) 1mm 0.025mm(ピクセル) 位置決定精度 0.1 度 0.1 度 時間分解能 0.1 ミリ秒 5.8 秒
7 速報能力 リアルタイムデータ 全観測時間の50%以上の間、デー タを即座位に地上に転送。 X 線天体が視野を横切ってから地 上でのデータ解析を経てインタ ーネットで速報するまでに要す る時間は30 秒以下。 機上蓄積データ リアルタイムに提供されなかっ た残りのデータはいったん機上 に蓄積される。 X 線天体が視野を横切ってから速 報までに要する時間は20 分~3 時間。 ユーザー利用 速報受け取り 突発的な光度変化を起こした天 体の情報を一般ユーザーにイン ターネットを通じて速報 データ利用 一般ユーザーはWeb ブラウザを 通しインターネット経由のX 線 天体や空領域の「画像・エネルギ ースペクトル・光度曲線」を取得 表1.1 MAXI の2つのカメラの基本仕様
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X 線連星
2.1 近接連星系
連星系は2つ(以上)の星が重力的に束縛され、お互いの周りをまわっている系のこと をいう。そのうち、2つの星の感覚が星の半径ほどまで接近している系を近接連星系と呼 ぶ。図2.1 のように𝐿1点を通る、2つの袋をつなげたような形の面をロッシュローブと呼ぶ。 連星系のポテンシャルを、連星系とともに回転する系(回転系)でみると、2つの星の重 力ポテンシャルと遠心力ポテンシャルを加えたものになる。これをロッシュポテンシャル と呼ぶ。距離を2つの星の間隔a が規格化し、星1は座標の原点、星1と星2を結ぶ直線 をx 軸にとると、ロッシュポテンシャルψは次のように書ける。 ψ ≡ 𝑎Ψ 𝐺(𝑀1+ 𝑀2)= − 1 − 𝜇 √𝑥2+ 𝑦2+ 𝑧2− 𝜇 √(𝑥 − 1)2+ 𝑦2+ 𝑧2− 1 2(𝑥2− 2𝜇𝑥 + 𝑧2) ここでμはケプラーの運動側より星2に対する全質量との質量比。このポテンシャルの 和の関係を表したのが図2.1 で、図 2.1 の L はラグランジュ点である。L1、L2、L3 の点は 不安定平均点、L4、L5 の点は安定平均点を指す。 図2.1:2つの星のロッシュローブを表した図 ●:星(左:星1、右:星2)×:連星の重心9 このロッシュローブを用いることで近接連星系は3つに分類することができる。2つの 星ともロッシュローブの中にあるものを分離型、片方の星がロッシュローブを満たしてい るものを半分離型、両方の星ともロッシュローブを満たし共通の外層を持っているものを 接触型と呼ぶ。 図2.2:近接連星の3つのタイプ 高密度天体(ブラックホールなど)はサイズが小さいため、連星系の中にあってもロッ シュローブを満たすことはできず、分離型あるいは半分離型に属する。線や点線の内側は 星の重力が優勢となり質量が落ち込み、その外側は遠心力が効く領域である。連星系は公 転しているため、ガスは主星に対し角運動量を持っている。そのため、ガスは主星にはま っすぐ落ちず、主星の周りをまわりながらガスが広がり降着円盤となる。これにより、内 側のガスと外側のガスとの摩擦が生じ、内側のガスと外側のガスがもつ運動量の輸送が行 われ、運動量を失った内側のガスは星へと落下する。
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2.2 ブラックホール連星
ブラックホールは当初、理論研究の対象でしかなかったが、1971~1972 年に観測的にそ の存在が実証された。X 線源である、はくちょう座 X-1(Cyg X-1)の観測から、これが連 星であり、その一方の高密度天体が太陽の質量の約10倍の質量をもつブラックホールが あることがわかった。白色矮星、中性子星、ブラックホールなどの高密度天体をコンパク ト天体といい、X 線を代表的な1つに、コンパクト天体が連星系を成している X 線連星が ある。 ブラックホールは光が出てこないため直接観測することは出来ない。観測している対象 が連星系で、2つの星の距離が十分に小さい場合、ブラックホールはペアの恒星(伴星) のガスを剥ぎ取る。このとき、ガスは角運動量をもっているためブラックホールにまっす ぐ落ちず、その周りを回転しながら徐々に落ち込み、降着円盤が形成される。円盤内では 回転するガス同士の摩擦によって熱(X 線)を発生させるため、これを観測することでブラ ックホールを確認することができる。 しかし、降着円盤は中性子星でも形成されるためブラックホールとの区別にはX 線スペ クトルから確認する。中性子星にはイオンと電子からなる表面をもっている。ガスがたく さん落ちるとき(明るい状態)、中性子星の場合、最後にはガスが勢いよく中性子星の表面 にぶつかる。その結果、中性子星表面は降着円盤よりも2倍ほど高い温度のX線を放出す る一方、中心天体がブラックホールの場合、落ちてきたガスはそのままブラックホールに 吸い込まれ、高い温度のX線は出ない。 このように、X線スペクトルを詳細に解析することで両者を区別することができる。 (図:2.3 参照)ブラックホールの周りに降着円盤が形成された場合には、図 2.4 のような 3つの状態があることが知られている。次節で述べる、「標準円盤モデル」は、図2.4 の(b) の場合、「高温降着モデル」は(C)の場合に対応する。11
図2.3:ブラックホールと降着円盤のイメージ
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2.3 降着円盤
高密度天体の周辺にあるガスは、重力に引かれて落ち込んでいく(降着)。一般に降着す るガスは角運動量を持っているので、高密度天体の周りをケプラー回転しながらゆっくり 落ちていくことで降着円盤を形成していく。一般に、質量 M、半径rの点元のまわりを円 運動する粒子は、重力と円運動による遠心力がつりあいの式より回転速度𝑣𝑘、角速度Ω𝑘、 角運動量𝑙𝑘は𝑣
𝑘= √
𝐺𝑀
𝑟
rΩ
𝑘2=
𝐺𝑀
𝑟
2→ Ω
𝑘≡ √
𝐺𝑀
𝑟
3𝑙
𝑘≡ 𝑟𝑣
𝑘= √𝐺𝑀
𝑟 である。 速度、角速度とも、中心に近づくほど大きく、角運動量、逆に外側ほど大きい。内側ほ ど速くまわっている回転円盤において粘性が働くと、内側のリングに対し回転方向にトル クを及ぼす。これにより、角運動量は内から外へ輸送され角運動量を失ったガスは内側へ と降着する。また、隣り合うガスとの摩擦によって熱が発生することによって円盤内の温 度が上がり、放射エネルギーとして円盤は明るく光り続けることができる。 降着円盤は2つのモデルで議論されてきた。 ・標準円盤モデル ガス降着に伴って解放された重力エネルギーが効率よく放射エネルギー(黒体放射)に 転化されるため、放射によって冷めるため圧力が下がり、円盤は明るく光り幾何学的に薄 く、密度の高いゆっくりとした降着をする特徴を持つ。 ・高温降着流モデル 放射が非効率なため、高温で低密度、標準降着モデルと比較すると放射を出さないため 放射冷却が効かないため高温になる。高温になると、粘性が大きくなり、角運動量の輸送 効率が高まるので、降着速度は大きくなる。重力エネルギーの解放によって発生した熱は この輸送によって中心天体に運ばれる。13
2.4 X 線スペクトル LHS・HSS
ブラックホール天体や中性子星などのX 線連星は、伴星からのガスを剥ぎ取ることで降 着円盤を形成し、そのガスが中心に落ち込む際に重力エネルギーが解放され、X 線を放出す る。X 線は、波長の長い(エネルギーが低い)X 線(≳ 10−9𝑚)を軟 X 線(soft X-ray)、 短いX 線(エネルギーが高い)(≲ 10−9𝑚)を硬 X 線(hard X-ray)という。 ブラックホール天体では、ハード状態(low-hard-state)とソフト状態(high-soft-state) という2つの状態を遷移することが知られている。 ハード状態(LHS と略す)では、硬 X 線が多く、X 線強度が低い。 ソフト状態(HSS と略す)では、柔 X 線が多く、X 線強度が高い。 X 線のあるエネルギーごとにどのような強度を持っているのかを示すものを、X 線スペク トルと呼ぶ。ソフト状態の場合、質量降着率が高いため効率的に熱放射(黒体放射)が行 われるため比較的光度が明るい。この状態では、幾何学的に薄く光学的に厚い標準降着円 盤モデルで表される。ハード状態の場合、質量降着率が低いため、標準降着円盤に比べて 放射効率が悪く比較的暗いときに見られる。この状態では、幾何学的に厚く光学的に薄い 高温降着流モデルで表される。14
図2.5:エネルギーの割合からみた LHS・HSS(縦軸:エネルギーフラックス、横軸:全エネルギー)
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2.5 LMC X-3
距離 約18 万光年(約 50Kpc) 赤経 05h25m.7 赤緯 -68°58’ 等級 0.5 等(写真等級) 質量 BH→6.98±0.56M☉ 伴星→3.63±0.57M☉ 軌道周期 1.7 日 軌道傾斜角 64-70° 表2.1:LMC X-3 の諸元 LMC X-3 は太陽系から 18 万光年離れたところに位置する、大マゼラン雲にあるブラッ クホール連星である。大マゼラン雲は、小マゼラン雲とともに不規則銀河であり、南半球 の空に見えるため日本からが観測できない。1520 年、史上はじめて世界一周の公開を成し 遂げたポルトガルの探検家・マゼランが見つけたことからこの名がつけられた。銀河系の 近傍にある星雲であり、銀河系の伴銀河の一つである。実視等級0.9 等と明るいため有史以 来より存在が知られていたが、かつては銀河系に最も近い星団かと思われていたが、観測 と研究により、更に近傍にもいくつか星団があることが明らかとなっている。実際の大き さは銀河系の1/10 程度と推定されている 図2.7:大マゼラン雲の可視光像16
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LMC X-3 の解析
3.1 LMC X-3 のデータ
使用データ 理化学研究所が公開しているMAXI のアーカイブデータ 期間 55058~57464MJT データ点 day-data(1日を1点) Orbit-data(MAXI の軌道周期を1点) 解析手段 Excel 図3.1:MAXI のアーカイブデータ(MAXI)17
3.2 全データの図示
MAXI が観測した LMC X-3 の 2-20keV(A バンド)、2-4keV(L バンド)、4-10keV(M バンド)、10-20keV(H バンド)の領域ごとに光子数を観測日の時間軸に並べ図示した。 縦軸:X 線強度(
Photons/s/𝑐𝑚
2)
横軸:修正ユリウス日
図3.2:MAXI により観測された LMC X-3 day-data の各エネルギー領域の X 線強度(Photons/s/𝑐𝑚2)の時間変化
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3.3 LHS、HSS の区分
大枝による Cyg X-1 の解析では、図 3.3(左)に示されるような、(L+M)(横軸)に対 する(M/L)(縦軸)の分布で、LHS と HSS の区分が行われた。そこで、LMC X-3 に対し ても、同様の図を作成したところ図3.3(右)のような図になった。 Cyg X-1 の場合、LHS と HSS の領域がはっきりと区分されている。 LMC X-3 の場合、Cyg X-1 に比べて距離が遠いため、比較的全体の(L+M)(横軸)の 値が低い。そのため、(M/L)の誤差が大きく、LHS と HSS の区分がハッキリしていない。 図3.3: 左:Cyg X-1 右:LMC X-3横軸:2-4keV(L バンド)と 4-10keV(M バンド)の強度(L+M)
(
Photons/s/𝑐𝑚
2)
縦軸:2-4keV(L バンド)と 4-10keV(M バンド)の強度比(M/L) 0.01 0.1 1 10 0.001 0.01 0.1 1 10 (M/L) (M/L) (L+M) (L+M)19
3.4 誤差率
(M/L)の誤差が大きいことを見るため、横軸が2-4keV(L バンド)と 4-10keV(M バンド)の強度(L+M)と縦軸が2-4keV(L バンド)と 4-10keV(M バンド)の強度比(M/L) から強度比の誤差D(M/L)の比をとった図を作成した。Cyg X-1 のものが図 3.4、LMC X-3 のものが図3.5 である。図3.5 から読み取ると、(L+M)(横軸)が約0.13(Photons/s/𝑐𝑚
2)を 下回るあたりから誤差の比が1よりも大きく上回るようになった。原因として、LMC X-3 はCyg X-1 と比べて約12万光年離れていることから統計不足によるためだと考えられる。 図3.4:Cyg X-1 の誤差率 図3.5:LMC X-3 の誤差率 これらのことから、以下の解析は(L+M)の数値が大きい HSS の状態のときに対してのみ行 った。 0.01 0.1 1 10 100 1000 -0.1 -0.05 0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.01 0.1 1 10 100 0 1 2 3 4 5 (L+M )(
Photons/s/𝑐𝑚
2)
𝐷(𝑀/𝐿) (𝑀/𝐿) 𝐷(𝑀/𝐿) (𝑀/𝐿) ( L+M )(
Photons/s/𝑐𝑚
2)
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3.5 差分変動率
ある時間ビン幅の一連のデータにつき、隣り合う2ビンのデータについて「差の絶対値 の平均」の「和の平均」に対する比をとる。 ある時間幅の時系列観測データ:{𝑥𝑖}(i = 1,2,3 … … … . . N)について ∑𝑁/2𝑗=0|𝑥2𝑗− 𝑥2 2𝑗+1| ∑𝑁/2𝑗=0𝑥2𝑗+ 𝑥22𝑗+1 を計算したものが差分変動率である。 最少時間幅のデータから倍々となっていく時間ビン幅ごとに、2ビンずつデータをまと めて差分変動率を計算。時間幅が最少から最大にわたって近似的にパワースペクトルを求 めたことになる。 MAXI データの2ビンずつの時間スケール Orbit 単位(約 1/16 日):1/8,1/4,1/2,1日 Day 単位:2,4,8,16 日 差分の平均値はこの波長のフーリエ成分の振幅を求めることに相当する。 図3.6:隣り合うデータの差分のフーリエ成分21
3.6 解析結果
3.6.1 解析したデータ
今回の解析においては、3.4 節で述べたように、LHS の期間のデータは誤差が大きいた め解析を省くこととした。そして、はっきりとHSS の状態にあることがわかる2区間を選 び、それらの期間のデータを解析した。その2つの期間は図3.7 に示される。 図3.7:今回の解析で用いたデータ。 はっきり HSS とわかる赤の矢印の区間のデータを使用した。 第 1 区間:55186.72-55425.41 MJT 第 2 区間:55995.5-56281.5 MJT 55186.72 55425.41 55995.5 56281.5 修正ユリウス日(MJT) X 線 強 度 (P
hotons/s/
𝑐𝑚
2 )22
3.6.2 LMC X-3 の変動率
3.5 で述べた差分変動率法を用いて、90 分(1/16 日)周期ごとの orbit-data と1日ごとの day-data を解析した。隣り合う2ビンを順次足していき、倍々になっていくビン幅ごとに 差分変動率を計算した。そうして、求められた差分変動率を隣り合う2ビンの時間幅の関 数として示したものが図3.8 である。Orbit-data から得られた4つの計算結果(1/8 日、1/4 日、1/2 日、1 日の点)と、day-data から得られた 4 つの計算結果(2 日、4 日、8 日、16 日の点)が、同じグラフ上に図示されている。 図3.8:HSS の L バンドと M バンドの変動率 縦軸が変動率、横軸が時間幅 縦軸は各バンドの変動率、下の図は対数で表している 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.1 1 10 100 変 動 率 day L M 0.01 0.1 1 0.1 1 10 100 変 動 率 ( 対 数 ) day23
3.6.3 変動率の比較
LMC X-3 と大枝が解析した Cyg X-1 の差分変動率を比較した。(図 3.9 参照。) LMC X-3 は 3.6.1 で述べたように統計不足のため HSS のみにおける特徴の違いをみた。 全体的な変動では両者とも同じような傾きをしているため、降着円盤の状態は、ほぼ同じ であると考えられる。 図3.9:HSS の各エネルギーバンドの変動率 LMC X-3(1,3番目)Cyg X-1(2,4番目) 縦軸は各バンドの変動率で3,4番目は対数で表している24
3.7 HSS の L バンドと M バンドの相関
次に大枝の解析にならい、L バンドの隣り合う2ビンの差分と、M バンドの隣り合う2 ビンの差分の比例性をみる解析を行った。L バンドの差分、ΔL をxとし、M バンドの差 分、ΔM をyとすると、y = axで近似するときの比例係数 a を最小二乗法で求めた。3.7.1 最小二乗法
(x,y)のデータがあるとする。これを直線で近似y = axしたいとき、誤差の二乗が最小に なる直線が最良近似となる。誤差の二乗の和E(a)は、 E(a) = ∑(𝑦𝑖− 𝑎𝑥𝑖)2 𝑛 𝑖=1 ・・・(1) となる。(𝑥𝑖,𝑦𝑖)は、i 番目のデータで、N はデータの個数である。式(1)は a の2次式でその 係数は正の値なので最小である。誤差E の最小値は、それぞれ偏微分した値がゼロになる ときに得ることができる。 𝜕𝐸 𝜕𝑎= − ∑ 2(𝑦𝑖− 𝑎𝑥𝑖)𝑥𝑖= 0 𝑁 𝑖=1 ・・・(2) すなわち、 𝑎 ∑ 𝑥𝑖2 𝑁 𝑖=1 = ∑ 𝑥𝑖𝑦𝑖 𝑁 𝑖=1 である。 これより 𝑎 =𝛴𝑥𝛴𝑥𝑖𝑦𝑖 𝑖 ・・・(3) となる。25
図3.10:最小二乗法の例
なお、a につく誤差δa は、(3)で求めた a を(1)に代入して求めた E(a)により δa = √(𝑁−1) ∑ 𝑥𝐸(𝑎)
𝑖
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3.7.2 2成分の独立性
3.7.1 より M バンドと L バンドの勾配から比例係数を最小二乗法を用いて求めた。 図3.11:M バンドと L バンドの比例係数 縦軸:M バンドにおける隣り合う2ビンごとの平均の差 横軸:M バンドにおける隣り合う2ビンごとの平均の差 次に比例係数からLMC X-3 と Cyg X-1 の比較をした。 最小二乗法より導き出した2-4keV(L バンド)と 4-10keV(M バンド)の差分の比例係 数が図3.12 である。式(4)により、誤差を計算し、図には誤差の幅も示した。 時間スケールが短くなるにつれて値が小さくなっていることが確認できた。 図3.13 は先行研究(大枝)により求められた、Cyg X-1 の HSS の領域の相関関係図であ る。LMC X-3 同様、時間スケールが小さくなるにつれて値が小さくなり、時間スケールが 大きくなるにつれて値が大きくなっている。このことから、LMC X-3 と Cyg X-1 の降着円 盤のメカニズムにおいても、似通った点を確認することができた。 -0.01 -0.008 -0.006 -0.004 -0.002 0 0.002 0.004 0.006 0.008 0.01 -0.02 -0.015 -0.01 -0.005 0 0.005 0.01 0.015 0.02 M バ ン ド Lバンド27 図3.12:L バンドの差分と M バンドの差分の比例係数 縦軸:比例係数 横軸:時間スケール(day) 赤線:誤差の範囲 図3.13:大枝による Cyg X-1 の L バンドの差分と M バンドの差分の比例係数 縦軸:比例係数 横軸:時間スケール(day) 比 例 係 数 day 比 例 係 数 day
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4 考察
MAXI による LMC X-3 の観測データを用いて、2-4keV(L バンド)、4-10keV(M バンド)、 10-20keV(H バンド)の各領域の X 線強度から差分変動率を求めた。Cyg X-1 の変動率 と比例係数から照らし合わせた結果、非常に似かよった変動をしていることが確認できた。 大きく違う点についてLHS と HSS の区分図 3.3 において、Cyg X-1 の図では LHS と HSS の領域の区分がはっきりしているのに対し、LMC X-3 では LHS の成分で大きなバラ つきが見られた。二つの誤差率 図3.4、図 3.5 で見てみると、Cyg X-1 での誤差は約 0.1 以下に収まっている。しかし、LMC X-3 での誤差は(L+M)が小さくなるにつれて非常に 大きな誤差が生じていることが分かる。原因として、2つの距離LMC X-3 は 18 万光年、 Cyg X-1 は 6 千光年と LMC X-3 のほうが遠い。そのため、統計不足による LHS の領域は 大きくバラつきが出たと考えられる。 しかし、差分変動率法で求めたCyg X-1 と LMC X-3 の変動率は、非常に似かよった変動 をしている。両者とも、1日より短い時間幅での変動率は、時間幅が長くなるにつれて減 少していっているか、1日より長い時間幅になると、ほとんど変わらなくなっている。そ して、LMC X-3 では、1日くらいのところに、小さなピークがあるようにも見え、Cyg X-1 では、もう少し長い 4~8 日くらいのところにあるように見える。これは、LMC X-3 の連星周期が1.7 日、Cyg X-1 の連星周期が 5.6 日であることと関係しているのではない かと考えられる。 先行研究 大枝克弥「差分編率法を用いたブラックホール天体Cyg X-1 の長時間変動の 解析」を参考にすると、Cyg X-1 の相関関係と LMC X-3 の相関関係は、両者とも時間スケ ールが小さくなるにつれて比例係数は小さくなり、時間スケールが大きくなるほど比例係 数は大きくなっている。これは、L バンドの変動に主に寄与する流れと、M バンドの変動 の主に寄与する流れの2層の流れがあり、降着円盤の内側に行くほど2層の流れの相関性 が失われ、独立性が強まっていくからだと考えられる。 これより、LMC X-3 は Cyg X-1 に比べて遠いため、得られる光子数は弱く誤差は大きい が、変動率、相関関係から、非常に似通った降着円盤のメカニズムをしているブラックホ ール天体であると考えられる。
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5 参考文献
・ポピュラーサイエンス「X 線でさぐるブラックホール X 線天文学入門」 北本俊二 著 ・MAS シリーズ8 現代の天文学「ブラックホールと高エネルギー現象」 小山勝二・嶺重慎 ・近接連星における降着流とX 線星 2015 年 12 月 17 日 臨時講義 資料 井上 一 ・明星大学 2015年度 修士論文 大枝克弥「差分編率法を用いたブラックホール天 体Cyg X-1 の長時間変動の解析」 ・Astro-H 「X 線天文学の世界」(http://astro-h.isas.jaxa.jp/challenge/x-ray/) ・JAXA 「X 線天文学とは」(http://www.jaxa.jp/article/special/xray/p2_2_j.html) ・JAXA「MAXI」(http://maxi.riken.jp/top/) ・表1.1 (http://iss.jaxa.jp/kiboexp/equipment/ef/pdf/maxi_2p.pdf) ・図2.4:降着円盤の明るいとき・暗いときのイメージ (http://www.astro.isas.ac.jp/xjapan/asca/3/bhxray/)30