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グリーンサステイナブルケミストリーを指向したアルコール空気酸化によるアルデヒドおよびケトンの合成

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Academic year: 2021

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1

グリーンサステイナブルケミストリーを指向した

アルコールの空気酸化によるアルデヒドおよびケトンの合成

張 丹洪

・大屋 優樹

・挾間 祥平

・鈴木 俊彰

†,‡

Aerobic Oxidation of Alcohols to Aldehydes or Ketones

Directed to Green Sustainable Chemistry

Danhong, ZHANG, Yuki OHYA, Syohei HASAMA, Toshiaki SUZUKI

Abstract:

The selective oxidation of primary and secondary alcohols to the corresponding aldehydes and ketones, respectively, is a ubiquitous and pivotal reaction in organic synthesis and the chemical industry. Zerovalent ruthenium complex, Ru(cot)(dmfm)2 (cot = 1,3,5-cyclooctatriene, dmfm = dimethyl fumarate), which is synthesized originally by our group,

showed high catalytic activity and high selectivity for a simple and practical aerobic oxidation of alcohols to aldehydes or ketones under 1 atm of O2 or air. Our original novel ruthenium(0) complexes, Ru(cot)(dmfm)(N–N) (N–N =

2,2’-bipyridine or 1,10-phenanthroline) and Ru(cot)(dmfm)(N–N) (cod = 1,5-cyclooctadiene) also showed the catalytic activity for these oxidations.

1.はじめに

グリーンサステイナブルケミストリー(green sustainable chemistry, GSC)とは,「人と環境にやさしく,持 続可能な社会の発展を支える化学」であり,より具体的には,「有害な化学物質をできるだけ使用せず,無 駄な廃棄物を出さないように物質や反応を設計し,有用な化学物質を作ること」である。 20世紀には,大 量生産・大量消費により,日本経済は目覚ましい発展を成し遂げたが,21世紀においては,自然と共存で きる循環型社会を構築する必要があり,経済的合理性をもちつつも,環境,安全,健康にも配慮した取り組 みを進める必要がある。本研究では,グリーンケミストリーの12箇条1を念頭に,アルコールの分子状酸素 による酸化反応の設計と実践を行った。 また,グリーンケミストリーの観点から,有機合成反応においては触媒の使用が不可欠である。しかし, 多種多様な有機金属錯体が合成されているものの,その反応性や触媒活性については未知の錯体も多い。そ ここで,本研究では合わせて,一連の新規ルテニウム(0)錯体(Scheme 1)の反応性および触媒活性について も検討した。 2.アルコールの酸化反応 第一級および第二級アルコールのアルデヒドおよびケトンへ選択的酸化反応は,有機合成においてきわめ て重要な反応である。従来,クロム酸CrO3,二クロム酸カリウムK2Cr2O7,過マンガン酸カリウムKMnO4, 二酸化マンガンMnO2等の金属酸化物による量論的な酸化反応が知られている。しかし,これらの酸化剤に † 横浜国立大学教育学研究科 横浜国立大学教育人間科学部

(2)

2 よる酸化コストは高く,使用モル数,使用質量ともに多く,消費される酸化剤は副生成物(廃棄物)となる。 例えば,高等学校で使用されている「化学」の教科書には,「アルコールを硫酸酸性下で二クロム酸カリウ ム K2Cr2O7を用いて酸化するとアルデヒドやケトンが生成する」と記載されているが、この方法でアルコー ルを酸化する(eq. 1)と,アルコール 1 mol(エタール CH3CH2OH (R1 = CH3, R2 = H)であれば 46 g)を酸化 するのに,二クロム酸カリウムK2Cr2O7だけでも約100 g 使用し,1000 円程度のコストがかかり,硫酸クロ ムCr2(SO4)3も約130 g 副生する。また,用いる硫酸は劇物であり,二クロム酸カリウムは劇物,かつ,第一 類危険物(酸化性固体)に指定されている。 近年,グリーンケミストリーの観点から有機合成が見直され,多くの優れた手法が考案されている。その ひとつに分子状酸素を酸化剤として用いる酸化反応がある。地球は大気に覆われ,その大気の21%は酸素で ある。この酸素を酸化剤として用いることができれば,極めて経済的で,クリーンな酸化法となる。しかし, 分子状酸素の酸化能力はあまり高くないため,触媒を用いることが必要である。テトラ n-プロピルアンモニ ウムペルルテナート Prn 4NRuO4 (TPAP)2,ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(Ⅱ) RuCl2(PPh3)3/ヒドロキノン/炭酸カリウムK2CO33,RuCl2(PPh3)3/2,2’,6,6’-テトラメチルピぺリジン N-オキ シル(TEMPO)4,ルテニウムサレン錯体(Chloronitrosyl[N,N'-bis(3,5-di-tert-butylsalicylidene)-1,1,2,2-tetramethyl-

ethylenediaminato]ruthenium (IV))5,酢酸パラジウム(Ⅱ) Pd(OAc)

2/ピリジン C5H5N/モレキュラーシーブ

MS3A6,Pd(OAc)

2/炭酸水素ナトリウム NaHCO3/ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide, DMSO)7,

Pd(OAc)2/バソフェナントロリンジスルホン酸(4,7-bis(4-sulfophenyl)-1,10-phenanthroline)8などの遷移金

属錯体を用いる触媒系が報告されているが,触媒系が複雑である,反応基質が限定されている,反応圧力が 高い,特殊な溶媒を用いる,光照射が必要などの問題も残されており,さらなる改良が必要である。

3.新規なルテニウム(0)錯体

ルテニウム(0)錯体はその触媒活性について注目されているものの,(1,5-シクロオクタジエン)(1,3,5-シク ロオクタトリエン)ルテニウム(0)錯体 Ru(cod)(cot) (cod = 1,5-cyclooctadiene, cot = 1,3,5-cyclooctatriene)やドデ カカルボニル三ルテニウムRu3(CO)12などわずかであり,新たな触媒の開発が望まれている。そのような中,

鈴木らは,Ru(cod)(cot)とフマル酸ジメチルの反応により,新規なルテニウム(0)錯体,(1,3,5-シクロオクタト リエン)ビス(フマル酸ジメチル)ルテニウム(0)錯体 Ru(cot)(dmfm)2 (1, dmfm = dimethyl fumarate)の合成に成功

した9。この錯体1 は,温和な条件下での 2,5-ノルボルナジエン(bicyclo[2.2.1]hepta-2,5-diene)の炭素-炭素結 合の切断を伴う二量化によるペンタシクロ [6.6.0.02,6.03,13.010,14]テトラデカ-4,11-ジエンの合成に高活性かつ 高選択性を示し,このことは世界的にも注目された。錯体1 の錯体レベルでの反応性に関する研究は,鈴木 らにより精力的に行われ,例えばScheme 1 に示すように,2,2’-ビピリジルや 1,10-フェナントロリンとの反 応により錯体2a,b10が,モノアミンとの反応により錯体411が得られるなど,種々の新規錯体が合成された12 一方,Ru(cod)(cot)と 2,2’-ビピリジルや 1,10-フェナントロリンを,フマル酸ジメチル存在下で反応させると, 錯体3a,b が得られ10,また,錯体1 と水との反応により新規な( 3-オキソ)四核ルテニウムクラスター5 が得 られている13 錯体1 の触媒活性については,アミノアルケンの分子内環化反応14や,アルキンやアルケンの共二量化・ 共三量化反応15などが報告されているに過ぎない。さらに,錯体2a,b および錯体 3a,b に関しては,触媒と しての利用は全く検討されてこなかった。一方,錯体5 は,オキソ配位子を有するため,酸化反応の触媒と しての機能が期待され,アルコールの空気酸化について報告されている(eq. 2)16。このような経緯から,

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3 本研究では,アルコールの空気酸化とルテニウム錯体1,2 および 3 の触媒活性について検討した。 4.ルテニウム(0)錯体を用いる分子状酸素によるアルコールの酸化反応 ルテニウム錯体1 と水の反応に得られる錯体 5 がアルコールの空気酸化触媒として働く(eq.2)16ことか ら,水H2O 共存下でルテニウム錯体 1 を用いれば,アルコールの空気酸化によりアルデヒドが触媒的に得ら れると考えられる。そこで,まず,ルテニウム錯体1 を触媒として用い,水共存下および無水条件下でのベ ンジルアルコールC6H5CH2OH の空気酸化について検討した(eq. 3)。その結果,ベンジルアルコールの空 気酸化反応において,無水溶媒および蒸留した基質を使用し,乾燥空気雰囲気下で行った完全に無水な反応 系でも空気酸化反応は進行し,水共存下で反応させたときよりも高収率でベンズアルデヒド C6H5CHO のみ が選択的に得られた17。このことから,錯体1 はアルコールの空気酸化に触媒活性を有するが,必ずしも反 応中間体として錯体5 を経由しているのではないということが分かった。 次に,溶媒について検討を行った。錯体5 を用いるアルコールの空気酸化では,溶媒として N,N-ジメチル アセトアミドCH3CON(CH3)2を用いている。しかし,沸点が165 ℃と高いため,生成物の沸点が溶媒の沸点

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4 よりも低い場合も多く,生成物を単離するのには溶媒をすべて蒸留除去したりする必要があるため,実験作 業的にも困難であり,エネルギー的にもグリーンケミストリーの観点からは好ましくない。そこで,沸点の 低い極性溶媒である1,4-ジオキサン O(CH2CH2)2O(沸点 101 ℃)と無極性溶媒であるトルエン C6H5CH3(沸 点111 ℃)を用いて反応を行った(eq. 4)。錯体 1 または 3a を用い,1,4-ジオキサンまたはトルエン中,80 ℃24 時間,ベンジルアルコールの空気酸化反応を行ったところ,錯体 1,錯体 3a のいずれを用いた場合も, トルエン中で反応を行った時の方がベンズアルデヒドの収率が高かった。この理由は,1,4-ジオキサンの方 が反応基質であるアルコールやルテニウム錯体の溶解性が高いものの,1,4-ジオキサンの酸素原子がルテニ ウムに配位し,反応が阻害されるためであると推測される。 Table 1 に種々のアルコールの空気酸化を行った結果を示す。いずれの反応も,生成物はアルデヒドあるい はケトンのみであり,選択的に酸化反応が進行した。 芳香族第一級アルコールであるベンジルアルコールC6H5CH2OH の空気酸化では,錯体 1 の活性が最も高 く,90 ℃で 24 時間反応させると,ベンズアルデヒド C6H5CHO が 92%収率で得られた。反応時間を 48 時間 に延ばすと,収率は97%に向上した。また,80 ℃で 48 時間反応させた場合にも,ベンズアルデヒドは 96% 収率で得られた。錯体2a, 2b, 3a は,錯体 1 よりやや活性が落ちるものの,90 ℃で 48 時間反応させるとそ れぞれ89%,82%,96%収率でベンズアルデヒドが得られた。錯体 3b を用いた場合には,反応を 100 ℃で 行うと収率71%でベンズアルデヒドが得られ,錯体 2b と同程度の活性があるものと推測される。反応温度90 ℃に上げると,錯体 1, 2a, 2b を用いた場合には,収率も向上した。さらに反応温度を 100 ℃に上げる と,錯体 2b および 3a を用いた場合には,収率は低下した。以上より,ベンジルアルコールの空気酸化は 90 ℃で行うのが最適と考えられる。 芳香族第二級アルコールである1-フェニルエタノール C6H5CH(CH3)OH の空気酸化では,錯体 1 の活性が 最も高く,90 ℃で 48 時間反応させると,アセトフェノン C6H5C(=O) CH3が定量的に得られた。錯体2 およ3 は,錯体 1 よりやや活性が落ちるが,高収率でアセトフェノンが得られた。ベンジルアルコールの場合 と異なり,錯体2b および 3a を用いた場合には,反応温度を 100 ℃に上げても,収率は向上した。なお,錯2b を用い,1,3,5-トリメチルベンゼンを溶媒として 140℃で反応させると,アセトフェノンが 99%収率で 得られた。以上より,2-フェニルエタノールの空気酸化は,140 ℃以下の範囲では,反応温度が高い方が収 率が高いと思われる。 脂肪族第一級アルコールである1-オクタノール CH3(CH2)6CH2OH の空気酸化においても,錯体 1 の活性が 最も高く,90 ℃で 48 時間反応させると 1-オクタナール CH3(CH2)6CHO が選択的に得られたものの,収率は 47%であった。収率が低い理由の1つとして,ベンジルアルコールや 1-フェニルエタノールの酸化反応では, 生成物がベンゼン環と共役したカルボニル化合物が得られるのに対し,1-オクタノールの酸化により生成す る1-オクタナールは共役化合物でないということが挙げられる。錯体 2 および 3 は活性が低く,反応温度 80 ~100 ℃,24 時間の反応で得られる生成物の収率は 21~33%と低く,反応時間を 48 時間に延ばしても,収 率はほとんど向上しなかった。錯体2b を用いて 140℃で反応させても,1-オクタナールの収率は 27%と低く, 反応温度を上げても収率の向上は見られなかった。 脂肪族第二級アルコールである2-オクタノール CH3(CH2)5CH(OH)CH3の空気酸化も同様に,錯体1 の活性 が最も高かったが,90 ℃,48 時間の反応で,2-オクタノン CH3(CH2)5C(=O)CH3の収率は40%とあまり高く

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5 はなかった。この場合も,収率が低い理由の1つは,生成物の2-octanone は共役化合物でないということが 挙げられる。錯体2 および 3 は,活性が低く,反応温度 90~100 ℃,24 時間の反応で得られる生成物の収 率は12~35%と低く,反応時間を 48 時間に延ばしても,収率の向上はほとんど見られなかった。 脂環式第二級アルコールであるシクロヘキサノール の空気酸化においても,錯体1 の活 性が最も高かったが,90 ℃,24 時間の反応で,シクロヘキサノン の収率は30%と低収率で あった。錯体2 および 3 は活性が低く,アルコールの立体障害が大きくなったことが収率低下の原因である

Table 1. Ruthenium complex-catalyzed aerobic oxidation of alcohols to aldehydes or ketones.1)

alcohol Ru cat. yield/%2) 80 ℃ 80 ℃ 100 ℃ 24 h 48 h 24 h 48 h 24 h 48 h benzyl alcohol 1 44 96 92 97 - - 2a 72 - 78 89 - - 2b 52 - 69 82 57 71 3a - - 84 96 41 49 3b - - - - 58 71 1-phenylethanol 1 49 66 81 99 - - 2a - - 52 63 - - 2b - - 80 69 63 94 3a - - 56 - 85 68 3b - - - - 86 - 1-octanol 1 25 34 39 47 - - 2a 29 - 33 34 - - 2b 24 - 25 27 23 26 3a - - 25 - 24 25 3b - - - - 21 - 2-octanol 1 34 38 34 40 - - 2a - - 12 14 15 17 2b - - 20 28 20 24 3a - - 17 - 19 24 3b - - - - 35 33 cyclohexanol 1 26 30 30 - - - 2a - - 16 16 - - 2b - - 16 18 13 - 3a - - 9 - 18 - 3b - - 13 - 15 -

1) Alcohol, 1.0 mmol; Ru complex, 0.020 mmol (2 mol %), toluene, 1.0 mL; 80–100 oC; 24–48 h; in a test tube. 2)

(6)

6 と考えられる。

以上の結果から,空気雰囲気下でのルテニウム触媒のアルコールの空気酸化に対する活性は錯体1 が最も

高く,錯体2 および 3 には大きな差は見られなかった。この理由は,錯体 2 および錯体 3 には窒素二座配位

子である2,2’ビピリジンあるいは 1,10-フェナントロリンが配位しているため,触媒の安定性は高まるものの,

Table 2. Ruthenium complex-catalyzed oxidation of alcohols to aldehydes or ketones.1)

alcohol Ru cat. temp/℃ yield/%

2) 6 h 12 h 18 h benzyl alcohol 1 80 97 100 100 2a 80 76 89 2b 80 65 80 91 3a 80 66 71 76 3b 80 73 83 87 1-phenylethanol 1 80 100 100 100 2a 90 55 64 79 2b 90 45 52 62 3a 90 39 49 58 3b 90 48 54 64 2-phenylethanol 1 90 90 - - 2b 100 96 - - 3a 100 96 - - 3b 100 97 - - 1-octanol 1 90 55 74 76 2a 90 40 42 44 2b 80 29 35 38 3a 80 22 30 32 3b 90 31 36 38 2-octanol 1 90 61 67 75 2a 90 26 36 44 2b 90 21 30 40 3a 90 14 24 34 3b 90 6 16 33 cyclohexanol 1 100 41 45 49 2b 100 22 30 26 3a 100 21 27 29 3b 100 13 20 24

1) Alcohol, 1.0 mmol; Ru complex, 0.020 mmol (2 mol %), toluene, 1.0 mL; 80–100 oC; 24–48 h; in a 50

(7)

7 立体障害によりアルコールがルテニウムに配位できなかったり,触媒の活性サイトを塞いでしまったりする ため,触媒活性が低くなったと推測される。 次に,空気ではなく1 atm の酸素雰囲気下で,種々のアルコールの酸化反応を行った。その結果を Table 2 に示す。ベンジルアルコールおよび1-フェニルエタノールの酸化では,どのルテニウム触媒を用いた場合も, 反応は短時間に進行し,それぞれベンズアルデヒドおよびアセトフェノンが高収率で得られた。2-フェニル エタノールの酸化反応では,生成物は共役アルデヒドではないが,2-フェニルアセトアルデヒドが高収率で 得られた。1-オクタノールおよび 2-オクタノールの酸化においても,錯体 1 を用いた場合には 1-オクタナー ルおよび2-オクタノンが 75%以上の高収率で得られた。シクロヘキサノールの酸化も,空気雰囲気下の時よ りも短時間で進行し,シクロヘキサノンの収率も49%まで向上した。 以上の結果から,酸化反応を酸素雰囲気下で行うと,予測された結果とはいえ,空気中よりも反応が速く, 生成物の収率も高くなることが確認できた。なお,酸素中で行った場合にも,アルデヒドあるいはケトン以 外の生成物は確認できなかったことから,酸化反応は選択的に起こっていることが分かる。また,酸素雰囲 気下で行う場合も加圧せずに1 atm で酸化反応が進行したことは,グリーンケミストリーの観点からも,そ の意義は大きい。 5.分子状酸素によるアルコールの酸化の反応機構 Scheme 2 に分子状酸素によるアルコールの酸化反応の考えられ得る触媒サイクルを示す。錯体 1 と錯体 2 および3 との大きな違いは,錯体 1 では電子不足のフマル酸ジメチルが2分子配位しているのに対し,錯体 2 および 3 ではフマル酸ジメチルは1分子しか配位しておらず,その代わりに電子供与性の 2,2’ビピリジン や1,10-フェナントロリンが配位していることである。触媒活性の違いの要因はここにあると思われる。まず, アルコールがルテニウムに酸化的付加をしてアルコキシ錯体が生成する(step a)。アルコキシ錯体は,電子 求引性配位子により安定化され,電子供与性配位子により不安定化すると推測される。そのため,フマル酸 ジメチルがより多く配位し,窒素配位子の配位していない錯体1 の触媒活性が最も高いと思われる。次いで,

酸素分子がRu–H 結合に挿入し(step b),-水素脱離によりアルデヒドまたはケトンが解離し(step c), 過酸化水素が還元的脱離して触媒活性種が再生する(step d)。脱離した過酸化水素は水と酸素に分解すると 思われる。

(8)

8 6.まとめ 本研究では,グリーンサステイナブルケミストリーを指向したアルコールの空気酸化によるアルデヒドお よびケトンの合成について検討した。我々の研究グループで独自に開発した一連の新規ルテニウム(0)錯体を 触媒として用いて検討したところ,空気中の酸素分子を酸化剤として,第一級アルコールからはアルデヒド を,第二級アルコールからはケトンを選択的に合成することに成功した。反応原料のアルコールに含まれる 原子は,水素2 原子を除きすべて目的生成物中に存在するため,原子効率も高い。副生成物は水だけであり, 極めてクリーンな酸化反応である。 参考文献 1 Anastas, P. T.; Warner, J. C. グリーンケミストリー,日本化学会・科学技術戦略推進機構 訳編,渡辺正, 北島昌夫 訳,p.29 (1999).

2 Markó, I. E.; Giles, P. R.; Tsukazaki,; Chellé-Regnaut, M. I.; Urch, C. J.; Brown, S. M. J. Am. Chem. Soc. 1997, 119, 12661.

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9 Mitsudo, T.; Suzuki, T.; Zhang, S.-W.; Imai, D.; Fujita, K.; Manabe, T.; Shiotsuki, M.; Watanabe, Y.; Wada, K.; Kondo, T. J. Am. Chem. Soc. 1999, 121, 1839.

10 Suzuki, T.; Shiotsuki, M.; Wada, K.; Kondo, T.; Mitsudo, T. Organometallics 1999, 18, 3671. 11 Suzuki, T.; Shiotsuki, M.; Wada, K.; Kondo, T.; Mitsudo, T. J. Chem. Soc., Dalton Trans. 1999, 4231.

12 (a) Shiotsuki, M.; Miyai, H.; Ura, Y.; Suzuki, T.; Kondo, T.; Mitsudo, T. Organometallics 2002, 21, 4960. (b) Ura, Y.; Sato, Y.; Shiotsuki, M.; Suzuki, T.; Wada, K.; Kondo, T.; Mitsudo, T. Organometallics 2003, 22, 77. (c) Shiotsuki, M.; Suzuki, T.; Iida, K.; Ura, Y.; Wada, K.; Kondo, T.; Mitsudo, T. Organometallics 2003, 22, 1332. (d) Ura, Y.; Shiotsuki, M.; Sadaoka, K.; Suzuki, T.; Kondo, T.; Mitsudo, T. Organometallics 2003, 22, 1863.

13 Kondo, T.; Tsunawaki, F.; Suzuki, T.; Ura, Y.; Wada, K.; Yamaguchi, S.; Masuda, H.; Yoza, K.; Shiro, M.; Mitsudo, T. J. Organomet. Chem. 2007, 692, 530.

14 Kondo, T.; Okada, T.; Suzuki, T.; Mitsudo, T. J. Organomet. Chem. 2001, 622, 149.

15 (a) Shiotsuki, M.; Ura, Y.; Ito, T.; Wada, K.; Kondo, T.; Mitsudo, T. J. Organomet. Chem. 2004, 689, 3168. (b) Tsujita, H.; Ura, Y.; Wada, K.; Kondo, T.; Mitsudo, T. Chem. Commun. 2005, 5100. (c) Tsujita, H.; Ura, Y.; Matsuki, S.; Wada, K.; Mitsudo, T.; Kondo, T. Angew. Chem. Int. Ed, 2007, 46, 5160. (d) Kondo, T.; Takagi, D.; Tsujita, H.; Ura, Y.; Wada, K.; Mitsudo, T. Angew. Chem. Int. Ed, 2007, 46, 5958. (e) Kondo, T.; Yamamoto, K.; Takagi, D.; Shen, L.; Yoshida, Y.; Kimura, Y.; Toshimitsu, A.; Kuramoto, M.; Shiraki, Y. ChemCatChem 2010, 2, 1565.

16 Kondo, T.; Kimura, Y.; Kanda, T.; Takagi, D.; Wada, K.; Toshimitsu, A. Green and Sustainable Chemistry 2011, 1, 149.

17 In ref.16, it is described that Ru(cot)(dmfm)2 showed no catalytic activity in either the absence or presence of a

Table 1. Ruthenium complex-catalyzed aerobic oxidation of alcohols to aldehydes or ketones
Table 2. Ruthenium complex-catalyzed oxidation of alcohols to aldehydes or ketones. 1)

参照

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