497 創設 30 周年記念特集─歴代会長随想─ 人類の長い歴史の中で,テクノロジーは,人々をさま ざまな束縛や苦痛から解放する役割を担ってきた.しか し,人々は,まだそれほど自由になったわけではない. それどころかますます仕事に束縛されるようになってき ているようにも思える.現代では,サバイバルのためだ けにではなく,より高品質の生活とより大きな快適さ・ 楽しさを供給するために人々に課せられる相互の支えあ いの総量はテクノロジーの進歩による労働削減をはるか に上回り,個々人に課せられる仕事の量がかなり増えて しまった,というところだろう. 仕事は楽しいというが,仕事への束縛も並大抵ではな い.自分の生活をよく見つめ直してみると,仕事のため に犠牲にしていることは膨大である.自分が本当に大事 だと思い,取り組みたいと思っていることに時間を費や す余裕がない,あるいは,そうしたことを頭の奥に追い やって自分を麻痺させなければ,毎日を暮らしていけな い自分に気付く.そもそもそういう境遇にあることに気 付いていないかもしれない. これからの 30 年は AI の躍進でこの構図が大きく変化 するだろう.AI はいよいよ人々を仕事の義務から解放 し,それぞれが真に重要だと思うことに取り組めるよう にしてくれるのではないかという期待感が高まる.そう した中で,これからの AI には,一部の人達には福をも たらすが,残りの人々には災いをもたらすだけ,といっ たものになってほしくはない.どの人にもあまねく自由 と自律をもたらすようなものであってほしい. AIには,おおむね二つの役割が期待される.第一番 目は,人々を等しく支えること,つまり,すべての人々 の生活レベルを引き上げて,自分を切り売りしなくても 一定の自律性を保証する生活が得られるようにすること である.個々人を現代社会の複雑さから解放することや 社会秩序の維持もこの中に含まれる.人々を支えあうこ とが,人間社会で最も重要なことの一つであることは今 後も変わらないと思うが,AI の進展でそれがこれまで のように義務であるのではなく,自発的な意思によって 行われるようになることを期待したい. 第二番目の役割は,物語構築と共有発展の支援により 人々を高めること,つまり,人々が保証された自律性の 中で,相互の学びあいの中から自分独自の世界を築いて, いろいろな人と共有しながら発展できるようにすること である.AI が進展することで,それぞれの人が自分の 人生を価値あるものにできるようになることを期待した い. こうした社会を自発社会と呼ぶならば,従来の義務社 会から自発社会への遷移が円滑に行われるよう工夫を凝 らさなければならない. 西田 豊明(正会員) 1993年奈良先端科学技術大学院大学教授,1999 年東京大学大学院工学 系研究科教授などを経て,2004 年 4 月から京都大学大学院情報学研究科 教授,現在に至る.会話情報学の研究教育に従事.2010 ~ 11 年度本学 会会長.
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