平成 15 年7月2日
迅速な骨再生が起きる新しい人工骨補填材の実用化
厚生労働省より医療用具製造承認を取得・製品化 大阪大学大学院 独立行政法人物質・材料研究機構 東芝セラミックス株式会社 株式会社エム・エム・ティー〔新材料の特徴〕
1. 新骨補填材は、生体親和性の高いハイドロキシアパタイトからできており、
今までにない微細気孔の三次元的な連結構造を制御することに成功し、セ
ラミック素材の内側深部にまで新生骨
(注1)を伝達できる。
2. 適度な強度を持ち、取り扱いが容易であり、また、さまざまな形状に加工
できる。
3. 良性骨腫瘍・骨折・炎症性関節疾患などの骨疾患の治療に効果的である。
4. 前臨床試験(動物実験)および臨床治験で「迅速な新生骨の形成」を実証
した。
5. 骨・軟骨の再生医療にも応用が期待される。
〔概 要〕 大阪大学大学院器官制御外科学吉川秀樹教授と独立行政法人物質・材料研究機構(理 事長:岸 輝雄)生体材料研究センター(センター長:田中順三)、東芝セラミックス ㈱(本社・東京都新宿区、取締役社長 鈴木紘一)と㈱エム・エム・ティー(大阪市中 央区、取締役社長 真崎 修)は平成 11 年から新しいコンセプトの技術を用いて人工 骨補填材の共同研究開発を進め、生体親和性の高いハイドロキシアパタイトの三次元連 結構造を持った骨補填材を開発した。新しい人工骨は均一な球状の気孔を有しており、 気孔径(150∼200μm)は新生骨の形成に最適な大きさに、気孔と気孔の連通部は細胞 や血液が侵入しやすい大きさに精密に制御してあることが特徴である。生体組織が容易 に材料内部に侵入し、骨が再生されるため、治癒期間が従来の人工骨に比べ大幅に短縮 される。 実験動物を用いた前臨床試験により人工骨としての有効性を確認した後、平成 12 年 4 月∼平成 13 年 3 月にかけて臨床治験(大阪大学医学部付属病院など 4 施設)を実施 し、良性骨腫瘍・骨折・炎症性関節疾患などの骨疾患に適用した。その結果、本製品は迅速かつ良好な骨伝導能(注2)を示すことが実証された。 本材料は平成 15 年 6 月 17 日に厚生労働省より医療用具製造承認を取得しており、現 在神奈川県に申請中の製造業許可取得後、東芝セラミックス㈱(本社・東京都新宿区、 取締役社長 鈴木紘一)が製造、㈱エム・エム・ティー(大阪市中央区、取締役社長 真 崎 修)より販売する予定である。 〔開発の背景・経緯〕 既存骨補填材の問題点: 人体の骨や歯の主成分であるハイドロキシアパタイトは安全性が高く、多孔質人工骨 として医療機器企業数社から販売されている。しかし、いずれの製品も強度が十分でな く、患部埋入後の新生骨は材料表層部に限定して起こることから、傷病の治癒の期間が 長くなるという欠点がある。そのため患者の肉体的・精神的及び経済的な負担が大きい。 既存人工骨を埋入後の骨折破損は、4∼5%の症例に見られる。 新規骨補填材の特徴: 今回の研究開発は、生体組織が速やかに骨補填材の内部に入り、そこに新生骨を迅速 に形成するというコンセプトのもとに進められた。開発した新材料は均一な球状の気孔 を有しており、気孔径(大きさ 150∼200μm)は気孔内に骨が形成されやすい大きさに 精密に制御してある。特に、気孔を互いに三次元的につなげたこと、しかも連通部分の 径を 10μm 以上にしたことにより、容易に材料内部に細胞や生体組織を侵入させること に成功した。これにより、材料表層部のみならず材料の内部まで新生骨が形成される。 さらに、多孔体を支える壁は緻密な焼結体であるため強度が高く、手術中や術後の機械 的負荷に対して十分な強度を持っている(添付写真−1、2)。 新しい人工骨は、生体組織が容易に材料内部に侵入し、骨が再生されるため、治癒期 間が従来の人工骨に比べ大幅に短縮され、術後の骨折破損が激減することが見込まれる。 研究開発体制: 今回医療用具製造承認を取得した人工骨は、下記の技術連携の下に進めた。 ・臨床医学・基礎医学・・・骨再生医療技術: 大阪大学大学院応用医工学教授、国立相模原病院院長 越智隆弘 大阪大学大学院器官制御外科学教授 吉川秀樹 ・材料工学・・・生体親和性加工技術、高純度粉体技術: (独)物質・材料研究機構生体材料研究センター 田中順三センター長 ・製造メーカー・・・半導体洗浄用多孔体フィルター、泡セラミックス技術: 東芝セラミックス㈱ 技術開発センター 北條顕道上席常務 技術開発センター 相庭吉郎常務
・医療販売企業・・・医療デバイス設計技術: ㈱エム・エム・ティー 真崎修取締役社長 〔医学的効能〕 治験結果: 大阪大学大学院器官制御外科学(整形外科)吉川秀樹教授を治験統括医師として、大 阪大学医学部付属病院などの 4 病院で骨腫瘍、骨折の骨欠損、骨欠損を伴った変形性関 節症、慢性関節リウマチの成人患者を対象に 65 症例の臨床治験を実施した。全ての症 例で移植後の炎症反応は認められず、レントゲン評価によるとわずか 2 ヶ月で半数以上 の症例で移植した部分が骨硬化し、安全性と優れた骨伝導能が実証された(添付写真− 3)。 特に、骨腫瘍などによる骨欠損に適用すると、従来の多孔質人工骨補填材と比べ、速 やかに骨形成がおこることが判明した。強い骨形成が見られるまでに要する期間は、従 来の約1年から約4ヶ月へと大幅に短縮された。また、骨折破損は1例もなかった。そ のため、固定期間、免荷期間が大幅に短縮でき、従来、強固な金属製の内固定や外固定 が必要とされた症例でも不要になるなど、患者の治癒までの肉体的・精神的負荷の大幅 な軽減が期待される。また、入院期間・リハビリテーション期間の短縮により早期社会 復帰が可能となるため、医療費の削減が見込まれる。このように新規人工骨は、現在最 も良いとされている自家骨移植(注3)にせまる性能を示し、新世代の人工骨補填材とし て期待される。 整形外科領域の適用疾患: ① 骨伝導の速さと力学的強度から、外傷、腫瘍、骨折、関節リウマチなどの関節疾患、 脊椎疾患、自家骨採骨部の骨欠損等や変形矯正術、骨間固定術に適用できる。 ② 今まで困難であった骨粗鬆症の患者に人工関節置換術を施す際の母床として応用で きる。(注4) ③ 従来、骨盤から自家骨を採取し移植していた種々の整形外科疾患に広く応用でき、 自家骨移植の術後の痛み・骨折などの合併症を大幅に減らすことにつながる。 ④ 適度の強度を持つため手術時のハンドリングに優れている。さまざまな形状に容易 に加工でき、コンピュータ支援画像解析技術と切削ラピッドプロトタイピング技術 を応用し、骨欠損部にあった形状の作成が容易になる。 〔今後の展開〕 研究会の設立: 新しい人工骨は幅広い応用が可能であるため、大阪大学大学院器官制御外科学講座を
中心に「硬組織再生ネオボーン研究会」を設立し、多くの医学・工学者の参加のもとに 再生医療の進展を一層加速する。 今後の応用: 近年バイオ技術の急速な進歩に加え高齢化が進み、ますます再生医療の進展が期待さ れている。組織の再生や再構築を実現するには、主役としての細胞、舞台としての足場 (scaffold)、そして脇役としての成長因子、この 3 つの主要因が重要である。 新規材料は容易に生体組織が侵入し、優れた生体親和性を持ち、かつ適度な強度がある ため足場材として有用な特徴を兼ね備えており、再生医療や組織工学の足場材として優 れていることから、以下のようなさまざまな応用が期待される。 ① 三次元連通構造を有する多孔体であるため幹細胞・遺伝子・サイトカインを導入す ることが容易であり、骨をはじめ種々の臓器の組織工学研究、再生医療に応用でき る。 ② 抗生物質、抗がん剤等のドラッグデリバリーシステムの担体としても応用可能。 ③ 血管導入により材料内に血管網を構築でき、大型の骨欠損や骨の虚血性疾患に応用 可能。 ④ 歯科領域のインプラントの母床形成に応用可能。 整形外科領域のみならず歯科領域や再生医療、組織工学等で新しい役割を担う医療用 具としての幅広い分野での貢献が期待できる。 新材料の市場: 新材料の売上高は販売開始 3 年後には 50∼100 億円の売り上げを見込んでいる。現在 神奈川県に申請中の製造業許可取得後、東芝セラミックス(株)が製造し、(株)エム・ エム・ティーが商品名ネオボーン(NEOBONE®)として販売する予定である。
用語説明 (注1)新生骨 骨をつくる細胞の代謝により新しくつくられた骨。我々の骨は、骨を吸収する細胞とつ くる細胞の連動により 120 日から 150 日程度でつくりかえられている。 (注2)骨伝導能 骨欠損部の再生を促進すること。形成された骨組織に取り込まれて硬組織量を増加させ る材料に対して用いられる。これと比較して骨欠損部以外(異所性)に骨形成をさせる ことを骨誘導能という。 (注3)自家骨移植 骨の移植が必要な場所に別の場所(例えば腸骨)から採取した自分自身の骨"自家骨" を移植すること。 (注4)人工関節置換術 摩耗、変形、破壊が起こった関節軟骨を切除してそこに金属・セラミックスなどの人工 物でできた関節を埋め込む手術。骨粗鬆症患者の場合、人工関節を埋め込む母床の骨が もろく固定性に問題がある。
【問い合せ先】 ○独立行政法人 物質・材料研究機構 広報室 〒305-0047 つくば市千現1−2−1 tel:029-859-2026 【研究に関する問い合せ先】 ○ 独立行政法人物質・材料研究機構 生体材料研究センター センター長 田中順三 〒305-0044 つくば市並木1―1 tel:029-860-4673 ○ 大阪大学大学院医学系研究科 器官制御外科学(整形外科) 教授 吉川秀樹 〒565-0871 吹田市山田丘2―2 tel:06-6879-3552 【製品に関する問い合わせ先】 ○ 東芝セラミックス(株) IR担当部長 藤本昌憲 〒160-0023 東京都新宿区西新宿 7-5-25(西新宿木村屋ビルディング) tel:03-5331-1843 ○ 株式会社エム・エム・ティー 取締役社長 真崎 修 〒540-0012 大阪市中央区谷町5−3−17 tel:06-6768-2691
迅速な骨再生が起きる新しい人工骨補填材の実用化
従来品との性能比較
従来品A
従来品B
開発品
気孔径
150∼200μm
50∼300μm
150∼250μm
連通部系
(水銀圧入法)
10∼20μm
0.1∼5μm
50∼80μm
気孔率
75%
40∼70%
45∼55%
曲げ強度
圧縮強度
2∼10MPa
4∼8MPa
8MPa
20MPa
4∼15MPa
7∼15MPa
従来品A
従来品B
開発品
気孔径
150∼200μm
50∼300μm
150∼250μm
連通部系
(水銀圧入法)
10∼20μm
0.1∼5μm
50∼80μm
気孔率
75%
40∼70%
45∼55%
曲げ強度
圧縮強度
2∼10MPa
4∼8MPa
8MPa
20MPa
4∼15MPa
7∼15MPa
大連通径、大気孔径
高気孔率、高強度(気孔率75%→圧縮強度20MPa
均一な気孔径構造
細胞・組織の侵入性が高い
大阪大学医学部と物質・材料研究機構で開発 球形気孔 連通孔写真1:ネオボーン(NEOBONE®)の外観。顆粒(手前)と各種形状品。
写真2:ネオボーン(NEOBONE®)の微細構造(走査電子顕微鏡像、80倍)。
ほぼ球形の気孔が互いに隣接しており、気孔と気孔をつなぐ連通孔 が多数見られる。
写真3:ネオボーン(NEOBONE®)の気孔内部の骨形成。ウサギ大腿骨顆部埋入後6週の組織像 (光学顕微鏡像、100倍)。移植したネオボーンの中心部(表面から3mmの深さ)の ほぼ全ての気孔内に旺盛な骨形成が見られる。