氏
生年月日
名学位論文審査結果の報告書
本籍(国籍)
学位の種類
四Ξ1少・平成6 3年3月3日
学位記番号
学位授与の条件
(博士の学位)
論文題目浅井智紀
大阪府 博生第 42
学位規程第5条該当
士(工学)
カンキツの傷害応答に伴う代謝変動に関する研究
審査委員
号 (主査)(副主査)
(副主査)(副査)
(副査)
梶山慎一郎
秋田求阿野貴司
松川哲也
⑳
告.シ
植物生育時における物理的傷害は、外部環境からもたらされる脅威のーつであり、植物の生存に大 きく関与する要因のーつである。動物や昆虫による直接の食害、暴風雨など気象条件によって起こ る傷害は、放置すれぱ病原菌の侵入や壊死の広がりを許し、結果的には個体の死を招くことになる。 そのため、植物はこれらの脅威に対し、種々の傷害応答機構を発達させることで生存の可能性を高 めてきた。ーつには、傷口を修復するための癒傷反応が挙げられ、 suberinのような細胞壁の修復
に関与する物質(schreiberet al,,2005)や、傷口周辺の細胞のカルス化を誘導する(Liu et al., 2016)。または、外敵に対する防御物質として、食害昆虫に摂食障害を引き起こすProteinase inhibit硫(PDを誘導したり(sunetal.,2011)、病原菌に対して毒性を示す化合物であるファイトア レキシンを誘導する(chassotet 凪.,2008)。このような防御反応の誘導にはセカンドメッセンジャ ーとしてジャスモン酸(JA)やサリチル酸(SA)といった植物ホルモンが関わってぃることが知られてぃ る。このうち、JA は傷害応答との関連が研究されており、植物に傷害を与えると一過的なJA の誘 導が引き起こされ(Glauseretal.,2008)、それに続く傷害応答関連遺伝子の発現を誘導することが示 唆されている(cree1血anetal.,1992;pennincbetal,,1996)。一方、 SAはJA と捨抗的に作用す ることが知られており、 JA とは異なる防御応答反応に関わっていることが報告されてぃる(Loake and Gtant,2007)。 このような傷害応答機構の理解は、有用作物における環境ストレス耐性に優れた品種の育種ヘの貢 献が期待できる。しかしながら、防御応答反応におけるセカンドメッセンジャーなどのシグナル伝 達経路についての研究は、シロイヌナズナやタバコといったモデル植物を含む草本性植物を中心とし て進められてきた。一方で、木本性植物における傷害応答機構や、それに関わるセカンドメッセン ジャーについての知見の蓄積は少なく、防御に関与する二次代謝物質にっいても未だ発見されてぃな いものが多く存在するすると考えられる。このような背景の中、申請者は有用果樹作物のーつであ るカンキツ類における傷害応答研究を行ってきた。カンキツ類植物はアジアを起源とし、世界各地 に生育、栽培される果樹である。果実は多くの機能性成分を含有するため、生食用としての需要に 限らず、加工品や医薬品として利用される商業的価値の高い園芸植物である。しかし、商業利用の ための機能性物質の探索が進められるなかで、カンキツの防御応答機構などの生理にっいては不明な 点が多い。近畿大学附属の湯浅農場では日本固有の種を含む200種を超えるカンキッ系統が保存され ており、これらの遺伝資源はカンキツの生態を理解するための研究材料として有用であると考えられ
る。申請者は湯浅農場に保存される日本在来種および外来種の複数のカンキッ系統を対象とし、傷
論 文 内 の 要 旨 容害応答反応における代謝物の変動解析を行った。本研究では、葉ヘの傷害ストレスが代謝に与える 影響を調査し、ストレス応答反応における特徴的な化合物を見出すことを目的とした。 まず第2章において、カンキツの傷害応答反応における糖、有機酸、アミノ酸などの一次代謝物 質の代謝変動解析を行った。対象として、日本在来種であるウンシュウミカン(C動ruS如S丑iu)、キ シュウミカン(citrush力okUむ1)、ブンタン(citruS冒'raむd1谷)、ノ\ツサク(ciた・ushassaku)および外来 種であるオレンジ(C彪rusS1力e口S1谷)、レモン(cjtrush血0む)、グレープフノレーツ(citrusparad1谷力を 用いた。傷害処理およぴストレス応答反応に関連する植物ホルモンであるJAおよびSA処理を行っ た葉より、 methanoV夏20/chloroformの混合溶媒を用いて代謝物の抽出を行った。抽出物の誘導体 化処理を行った後、試料を GOMS 分析に供した。得られた分析データを多変量解析(N血C如凪 Component analysis; PCA、 hierarchical cluster analysis; HCA および orth0宮onal partia11east Squares'磁SCHminant analysis; OPLS・DA)に供し、ストレス応答に関与する代謝物を抽出した。 HCAでは、同一の合成経路上に含まれる Phenylalan血eやtwptopban などのアミノ酸で構成され
るクラスターが形成されており、それらのアミノ酸は類似したストレス応答性を示すことが示され た。また、 OPLS'DA により、 tryptophan は種間に共通して傷害、 JA処理により増加する傾向 にあり、一方でSer血eは全てのストレス処理により減少する傾向にあることが示された。そのため、 カンキツのストレス応答反応において、アミノ酸はカンキツに普遍的なマーカー物質であることが示 された。 第3章において、カンキツの傷害応答反応における V01肌ile0熔aniccompound(VOC)の動向を調 査するため、 VOC類の網羅的な代謝変動解析を行った。試験対象として、第2章と同様の7種を 用いた。葉ヘの傷害処理およびストレス応答反応に関連する植物ホルモンであるJAおよびSA処理
を行った後、 beadspace solid'pbase microeX捻action (HS・SP入廻)法により VOC 類を抽出し、 GOMS分析に供した。得られた分析結果をPCAおよびOPLS・DAに供した。 PCAおよびOPιS、DA の結果、各ストレス処理に対するVOC類の代謝変動は用いた7種の間で大きく異なってぃることが 明らかとなった。中でも Ch血onおよびCk血ok如iでは傷害、 JA、 SA処理区がそれぞれ独立し たクラスターを形成したことから、各々の処理に対する応答反応は独立して制御される可能性が示唆 された。また、 OPLS"DAの結果から、 CS血enSおやCga口dおにおいて、全ての処理でVOC
類の全体的なレベノレの低下が見られるのに対し、 bexana1やtrans・2・hexen凪などの C6Volat丑e類の
みは増力口していた。さらにα"farnesene は C。 hassakU を除く全ての系統において傷宝もしくは
JA処理によって誘導され、さらに C U口S五i'U、 c k血okuniにおいては全ての処理において誘導さ
れていた。そのため、これらの化合物がC辻NSの環境ストレス応答反応におけるバイオマーカー候 補となりうる可能性が示唆された。 次に第4章では、物理的傷害に対する代謝変動をHPιCにより分析した。複数のカンキツ系統に 対し傷害処理を行ったところ、 C丑assakUにおいて顕著に誘導される2種の化合物(傷害誘導性物質 1および2)が見出された。これらの傷害誘導性物質を同定するため、順相オープンカラムクロマト グラフィーおよぴ逆相HPLCにより2種の傷害誘導性物質を単離した後、 LOMSおよびN入皿分析 により化学構造を詳細に解析した。その結果、傷害誘導性物質1はカンキツ類に豊富に存在する h部Perid血のアグリコンである besperetinであると同定された。一方、誘導物質2はプレニノレ基を 有するフロフランリグナンであることが明らかとなった。本研究により単離されたりグナンは、過 去にナツダイダイより単離されたプレニル化桂皮アルコールである CitNsn血・A が二量体化した構造 であることが推測された。しかし、過去に同一の化学構造を有する化合物の報告例は見られず、新 規のりグナンであることが示唆されたため、本化合物をbiscitruS血n・A と命名した。次に、単離さ れた2種類の化合物の生理的意義に関する知見を得るため、植物病原性細菌に対する抗細菌活性試験 を行ったところ、 hespeTetin は Xaat五omonas01アZae および Claν必actermich1召'aむenS1谷に対して活 性を示し、 biscitrusnin'Aはχ01アZaに対し活性を示した。 BiscitNsnin・Aの抗菌活性は、過去に 報告された単量体のCitrusni辻Aの活性よりも低いことが示唆された。ストレス応答におけるりグナ ンの蓄積は、細胞壁の強化の働きを持つことが示唆されてぃるため、 biscitNsn血・Aにおいても物 理的防御の役割を有する可能性が考えられた。プレニル化りグナンが CitruS属の植物より単離され た例は申請者の文献調査のかぎり存在しないが、過去の報告において CitruS 属と同じミカン科 (Rutaceae)に属するZanthowlum属およびHaplopbyⅡUm属の植物より数種のプレニル化りグナンが 単離されている。そのため、プレニル化りグナンはミカン科に特有の化合物群であると考えられ、ま た、本研究において傷害ストレス応答ヘの関与が見られたことから、ミカン科に共通のストレス応 答におけるバイオマーカー候補となる可能性が示唆された。 以上の結果より、カンキツにおける傷害応答反応は種間偏差が大きいことが示唆された。一方、2 章においてはtr即加PhanやSerineなどのアミノ酸が、 3章においてはGLVSやα・farneseneが試験 したカンキツ類に共通の防御応答バイオマーカー物質であることが示唆され、耐病性品種の育種など への応用が期待された。また、 C 丑鹿Ssa殴Uに特異的な傷害応答物質として、新規のりグナンであ る bisC辻rsunin'Aが見出された。本研究により得られた結果は、カンキッの化学防御機構における 新たな知見となるだけで無く,カンキツ優良品種の育種等ヘの応用も期待されるものである。 q
本博士論文は、外的ストレスに対する応答機構や、それに関わる化学伝達物質にっいての知見が
乏しく、生体防御反応に関与する二次代謝物質にっいても未だ不明な点が多い木本性植物とし
て、商用的にも価値の高いカンキツ類を実験材料に選び、その葉における傷害応答反応の舮析を
生物有機化学的に展開したものである。第1章「緒ヨ釦では、植物のストレス応答反応に関し、様々な研究例を挙げ、植物生*時にお
ける物理的傷害が外部環境からもたらされる脅威のーつであり、植物の生才に大きく関与する
事、植物はこれらの脅威に対し種々の傷害応答機構を発達させることで生存の可苛性を高めてお
リ、その代表的な応答反応として、食害昆虫に摂食障害を引き起こす rote血asein11ib't (PD
や、病原菌に対して毒性を示す二次代謝産物であるファイトアレキシンを誘導する場△があるこ
とを示し、外的ストレスが通常生合成されない二次代謝産物の生産を促すことや、その植物全
の一次および二次代謝プロファイルに影響を与えることなどを概説してぃる。また、傷生応答
機構の理解は、有用作物における環境ストレス耐性に優れた品種の育種ヘの一献が期待できるこ
と、さらに、カンキツ類が木本植物の傷害応答反応を研究する実験材料として優れてぃる点を"
摘し、本研究の意義および目的を端的に述ベてぃる。
第2章では、日本在来種であるウンシュウミカン、キシュウミカン、ブンタン、ハ、サ、
よび外来種であるオレンジ、レモン、グレープフノレーツに対して傷生処理およびス
トレス関連ホルモン処理を行った際の一次代謝物質の代謝変動解析にっいて述ベてぃる。この中で、
Phenylalal)ine と twptophanが類似したストレス応答性を示すこと、
tryptophanは種間に共通して傷害、ジャスモン酸(JA)処理により増加する傾向にあり、
Serineは全てのストレス処理にょり減少する傾向にあることを示し、アミノ酸が普遍的なカンキッのストレスマーカーナ
得ることを見いだしてぃる。
第3章では、カンキツの傷害応答反応におけるVolatileorganicc。m 。u d (VOC )の'、
な代謝変動解析を行っている。第2章と同様のカンキッ類7種を用い、葉部に傷生、、
ストレス関連ホルモン処理を施した後、 GOMS により VOCS を検出.
定量化して、その結果を多変量解析した結果、
各ストレス処理に対するVOCSの代謝変動は用いた7種の間で大きく異な
つていることを明らかとしている。特にレモンおよびキシュウミカンでは傷害、ストレス関連
ホルモン処理区がそれぞれ独立したクラスターを形成していることに着昌し、各々の処理に対す る応答反応は独立して制御される可能性を指摘している。また、いくつかのVOCSがC辻NSの 環境ストレス応答反応に船けるバイオマーカー候補となりうることを見いだしている。 次に第4章では、ハッサク葉に物理的傷害を与えた際に顕著に誘導される2種の化合物(傷害 誘導性物質1および2)の単敲と構造解析について述ベている。その中で、傷害誘導性物質1は カンキツ類に豊富に存在する hespe亘din のアグリコンである hespere血である事、誘導物質2 はプレニル基を有するフロフランリグナンであり、過去にナツダイダイより単離されたプレニル 化桂皮アルコールである d捻US血n・A が二量体化した新規化合物であることを明らかとし、本化 合物をbiscitruS血n・Aと命名している。また、単離された2種類の化合物の生理的意義に関する 知見を得るため、植物病原性細菌に対する抗細菌活性試験を行い、bisC北rusnin・Aの抗菌活性は、 過去に毅告された単量体の活性よりも低く、 biscitNsn血・A は、直接的に細菌に作用するので はなく、植物細胞壁の強化による物理的防御の役割を有する可能性を指摘している。また、プレ ニル化りグナンが CitruS 属の植物より単離された例が無いことに言及し、過去の報告において
C北ruS 属と同じミカン科(Rutaceae)に属する Zanthoxylum 属およびHaplophyⅡUm 属の植物よ
り数種のプレニル化りグナンが単離されていることから、プレニル化りグナンはミカン科に特有 の化合物群であるとし、本研究において傷害ストレス応答ヘの関与が見られたことから、ミカン 科に共通のストレス応答におけるバイオマーカー候補となる可能性を指摘している。 第5章「総合考察」では、全体を総括し、カンキツにおける傷害応答反応は種間偏差が大きい が、ttyptophanやSerine などのアミノ酸やVOCS、さらには、ミカン科に特有の化合物群である プレニル化りグナンが傷害および防御応答バイオマーカー物質として使用できることを指摘する と共に、本研究により得られた結果は、単にカンキツの防御機構における新たな知見となるだけで なく、優良品種の育種ヘの応用も期待されると結論づけている。 以上のように本論文は、化学的生体防御反応に関する知見の少ない木本性植物のーつとして商 業的にも価値の高いカンキツ類を対象として、傷害処理と代謝の関係を詳細検討し、防御応答の バイオマーカー物質として新規プレニル化りグナン化合物を含む複数の化合物を見いだし、植物 の防御機構の解明だけでなく、優良品種の育種などにも応用可能な重要な知見を与えるものであ リ、博士(工学)論文として価値あるものと認める。 F 1会1一コ"リーー,゛ー'竜ーリーι4り訂'七丘工"ー÷Jゞ寺.ヨニーaJ1C、"三'、、'.4昔1f!,,ー,1司1 ゛ー.ーーーーー ーー゛にーーー、ι