音楽科教員の養成・採用・研修 ―その現状と課題
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(2) 特集★音楽科教員の養成・採用・研修 ─ その現状と課題 ─ 座談会. いないけれどスタンスは違うわけです。それが,. 知識をいっぱい持っていればいいんじゃなくて,. まず一つ大きなことだと思います。. 個別の知識をどうやって自分がつなぎ合わせて. それと,もう一つは全ての子どもたちに必要. 概念化していくか,それぞれの教科でどうやっ. な教育ということです。普通教育としての音楽. て授業の中でつなぎ合わせて概念化していく力. 科教育と,専門教育としての音楽教育というの. を育てられるのかということです。技能につい. は分けて考えなきゃいけないと思います。当然. ても,訓練を繰り返して,一定の技能を身に付. どこかでつながってはいるんですけれども,両. けることは,製造業が日本を支えていた頃には. 者は違うんですっていうことですよね。例えば. ある意味とても重要であったけれども,その頃. これまで,自分たちも含め,習い事をやったり. の正確で速い技能は,今は機械がやっています。. 部活動をやったり大学に行ったりして,音楽の. 人間が持っていなければならない技能は,目的. 先生は専門教育の軸の中でずっと動いてきて,. と手段がきちっと明確になりながら身に付けて. 教員になった途端にぽんと普通教育の世界に放. いくものです。音楽の学習でも,そういう方向. り込まれるわけです。教職に関する学びが不十. 性を持って技能を習得する。思考力,判断力,. 分なまま,普通教育と専門教育の違いが分から. 表現力等についても未知の状況に対応できる力. ずに,自分の経験ベースで授業をしてしまうと,. を身に付けましょうということです。. 普通教育を受けたい人に専門教育しか知らない 人が授業してるってことになってしまう。. 3 「伝える」から「引き出す」へ. ですから,普通教育現場でやるものとして何. 菅 石上先生は長い間,現場の先生方もご覧に. が必要かということです。大学の専門教育の中. なってますし,大学での教員養成を見てらっ. で音楽の専門をやってるだけでは駄目で,そこ. しゃるんですが,専門教育の中で育ってきた音. に音楽教育担当の先生方が今まで教育に関する. 楽の先生の課題について,先生はどのようにお. ことを一生懸命やっていたんだけれども,もっ. 感じになっていらっしゃいますか。. と,それを専門の先生方にも, 「この人たちは. 石上 教育学部を出てきたからといって子ども. 普通教育現場に行くんです」っていうことを分. たちとの関わりがうまくいってるかというと,. かって指導していただくっていうことが,たぶ. そういうことでもないし。そのとき,どう学ん. んこれからもっと求められるでしょう。. できたか,そこの現場に立ったときに自分がど. 中教審の答申で指摘されている, 「生きて働. ういうスタンスでやっていけるかっていうこと. く知識・技能」を例に考えてみましょう。例え. がすごく大きい,個人的なものが大きいと思い. ばたくさん,いろんな知識を持っていたけど使. ます。全体的に見て. い道がない,しかも,それを何のために身に付. みると,学びを深め. けたかというと, 「テストのためです」 , 「受験. ていらっしゃる先生. のためです」ということになった場合, 「ここ. は問題ないと思うん. から先は,テストがありません」とか, 「ここ. だけど,専門を子ど. から先,受験がありません」という人は,それ. もに伝えようってい. 以降勉強しないわけです。本当に学び続ける人. う意識がすごく強. は育てられてなかったのではないかという指摘. いっていうのはすご. があるわけですよね。. く感じますね。子ど. これだけ世の中が変わっていくんだから,ど. もの中から何か引き. 石上 則子. んどん学び続けていく人を育てなきゃいけない。. 上げて,子どもと一. (元東京学芸大学准教授). Japanese Journal of Music Education Practice vol. 17 2019 43.
(3) 特集★音楽科教員の養成・採用・研修 ─ その現状と課題 ─. 緒につくり上げていくっていうのが若干,弱い. する場合もあるのかなと思います。去年あまり. ところがあるかなとは思います。ただ,その方. 深く考えずに,自分が学び手の立場を大学院で. も経験を積んでいけば,だんだん子どもから. 2 年間,味わったので,子どもたちがどうやっ. 引っ張り出していけるように,教員としての成. たら,これ面白いと思うかなとか,私が子ども. 長が見られるので,その人のスタンス,これか. の側に座っていたら,どう感じるかなというの. らどうやって教育していくかという自分自身の. をすごく考えながら授業を組み立てられたのか. 意識の問題だと思います。. なと思います。. 東京学芸大学では,実は教育学部でも専門教. 6 年生の鑑賞教材に《木星》がありますが,. 育を行っています。その中で「私はピアノの門. 多分,全部,聞くと 8 ∼ 9 分ぐらいかかる曲で. 下でやってる」という意識も結構あるので,相. す。大体,主題が幾つあるから,楽譜を手でた. 当,音楽教育のほうに意図的にこちらが引き付. どらせてとか,どういうふうに変化してるか. けないと,教育についての考え方ができない. なって,最初,2 拍子だったのが途中から 3 拍. なっていうのは感じています。 「こっちを向き. 子になってるねとか,その主題部分をちょこっ. なさい」みたいな感じで,舵を取るっていうこ. と聴いてとか,全部通して聴くのはそのときの. とをしています。そうすると意識が高まってく. 児童の実態次第だったんです。でも自分が好き. るという感じはしました。. な曲を子どもたちに聴いてもらいたいというこ. 菅 今度は,現職の先生方にお伺いしたいので. とや,私がこの曲を楽しんでることが子どもた. すが,今,現場でもいろんなことが起きていて,. ちに伝わったようで「全部,通して聴きたい」っ. 子どもたちも多様化してます。外国人の児童が. て子どもたちのほうから言ってくれたんです。. 増えているとか,あるいはインクルーシブ教育. 自分の計画とちょっと違ったんですけど,そう. が行われるようになったりとか,あるいは最近. いう気持ちを引き出せてあげられた。 「先生, 《木. では LGBT への対応ということもありますね。. 星》って曲があるってことは《火星》とかもあ. そういった変化の中で今,先生方が現場で必要. るんですか」っていう声が子どものほうから出. だと感じている,あるいはこれから先生になる. てきたりして,私がすごく授業を楽しんだこ. 後輩たちに求められる力とは,どういうものか. とが子どもたちに伝わったのかなと思いました。. についてお話しください。. それが,臼井先生がさっきおっしゃった「学び. 赤坂 私はどちらかというと, 結局, これま. ました。テストはありません。もう終わり」じゃ. で担任のほうが多く. なくて,21 人のうち何人かは組曲「惑星」っ. て,専科もやらせて. て,他にどんな曲があるんだろうなって聴きた. もらったときもあっ. くなったりとか,真ん中のメロディーのところ. たんですが,そうす. は歌にして歌手が歌ってるのもあるから,それ. ると,専門的に専科. を聴いて, 《木星》っていう曲だったなってい. をずっとやってらっ. うふうに思い出してもらったりとか。それが生. しゃる先生ってすご. きる力じゃないですけど,授業でとどまらない,. い な, そ の 方 た ち. 知識としてとどまらないっていうふうになるの. にはかなわないな. かなって思ったりしました。. と思っていたんです。. 赤坂 朋子. 私,教職大学院に行く前は, 《木星》の鑑賞. でも,あまり専門性. (埼玉県杉戸町立. であれば短く聴かせて,最初に主題をつかませ. がないことが功を奏. 泉小学校教諭). てとか,子どもたちがワークシートにこういう. 44 音楽教育実践ジャーナル vol. 17 2019.
(4) 特集★音楽科教員の養成・採用・研修 ─ その現状と課題 ─ 座談会. ワードを書いてきたらいいなというのを持って. し,表現するという一連の過程を重視した学習. た気がするんですよね。でも,自分が学び手を. をしなければいけないんだということが前回の. 経験したことで,そういうことをいい意味で取. 改訂の際に大切にされ,その一連の過程をどう. り払えたというか。例えば《ラバースコンチェ. 創造していくかというところに〔共通事項〕が. ルト》の器楽合奏でも,今回, 「自分たちでで. 非常に大きく関わっていた。. きる楽器とか,バランス考えて選んでごらん」っ. 〔共通事項〕が出てきたのは平成 19 年の『学. て言ったのですが,そんな突拍子もないものを. 校教育法』の改正で三つの学力が出て,その中. 持ってきて遊んじゃうってことは意外にないん. で思考力,判断力,表現力等というのがどうも. ですね。それまでずっと「このパートはこの楽. 非常に重要になるだろうという話になって,そ. 器で演奏するといいよ」って自分が教えること. れらを育成するためにはどうするかというと. の方が多かったんですが,この曲をこうアレン. きに,子どもはどうやって思考するのかって. ジしたいっていう気持ちを高めておいてあげれ. いうことがいろいろ議論されました。その結. ば,子どもたちが自分たちで楽しめる。ぐちゃ. 果,やっぱり人間というのは主に言葉を使って. ぐちゃにならないように, 「もう一回,合わせ. 思考するであろうということで,思考力,判断. ようよ」とか, 「どっちの楽器が合うかな」っ. 力,表現力等を育成するためには言語活動の充. てなって。この楽器は「使っちゃ駄目」とか, 「こ. 実ということが非常に重要なんだろうというこ. れだと合わないね,曲に」とか私が言わなくて. とになりました。そして各教科で,言語活動を. もよかった。今まで,割と自分の, 「この中で. どう充実させるかを考えたときに,音楽科では. やってほしいな」という思いが強くて,あまり. 結局,言葉を使おうとしたときに話すことがな. 子どもたちを信じて任せてやってこれなかった. いと誰も何もしゃべれないので,話すこととし. ように思います。. て重要なものって何かを考えた。一つは自分が. 菅 今,お話を伺っていて思ったことなのです. どう感じたのか。もう一つは事実関係として何. が,平成 20 年の指導要領で〔共通事項〕が出. が起きているかということを言葉にするという. てきましたね。あれはすごく画期的で, 〔共通. ことが重要だろうと。これが,いわゆる知覚・. 事項〕で音楽を切っていくと,ある程度,誰で. 感受ということになって, 「だんだん速くなっ. も,授業の内容を明確化できるツールだと思う. てるね」とか, 「わくわくする感じがするね」っ. んです。でもその一方で,今,赤坂先生がおっ. ていうようなことを,話すこととして持たせる. しゃったように,ワークシートに知ってること. ことが思考力,判断力,表現力等を育成する言. 聴き取ったことをとにかく書かせていくような. 語活動の充実ということにつながる。. タイプの授業も,そこから生まれてきたような. さらに〔共通事項〕のイは,用語や記号が専. 気がします。そのあたり,臼井先生はどのよう. 門用語として使えるようになって,みんなで共. にお考えになりますか。. 通の言語となって, 「ここのスタッカートがこ. 臼井 授業って教師が教える時間でもあるとと. うだよね」みたいに言えたりすると,またより. もに,子どもが学ぶ時間であるわけですから,. 一層いいでしょう。このような背景があって新. 普通教育は子どもの学びの過程が勝負だと思い. 設されたのが〔共通事項〕ア,イだと思います。. ます。専門というのはある意味,結果勝負のと. 前回の改訂では, 〔共通事項〕の新設について,. ころがあるわけです。結果に責任を取らなきゃ. このような文脈で伝わり切れていなかった面も. いけない。それに対して普通教育は過程勝負。. あったと思います。要するに, 「思考力,判断力,. ねらいを明確にして,子どもたちが思考,判断. 表現力等の育成」と「言語活動の充実」と「 〔共. Japanese Journal of Music Education Practice vol. 17 2019 45.
(5) 特集★音楽科教員の養成・採用・研修 ─ その現状と課題 ─. 通事項〕 」を,一連の流れで,いわばセットで 理解しておく必要があったわけなんですが,そ. 4 同僚との対話の重要性. れが,セットとして伝わり切らなかったがため. 菅 今度は阿部先生にお伺いしたいんですけれ. に, 「感じたことは何?」 「気付いたことは何?」. ども,先生は中学校の先生をされているので一. 「みんな,いろいろ感じて,いろいろ気付けて よかったわね」みたいなことになってしまって,. 度はレッスン中心の教育を受けて先生になられ たんだと思うんですけど,そういう教育を受け. 「音楽表現の創意工夫」であるとか「鑑賞の能力」. て,そしてその後教職大学院を出られて,現場. というような, 「思考力,判断力,表現力等の. でお仕事されてみて,今,この時代において教. 育成」のところにつなげることがうまくできな. 員に必要な力というのはどういうものだとお考. かった面もあったわけです。重箱の隅をつつく. えになるか,また,そのためにどういう養成を. ような授業やってみたりとか,必然性の薄い流. するべきなのかということについて,お考えを. れの中で子どもが一生懸命書いてるとか。それ. お聞かせください。. が言語活動の充実であるとか,何のためにやっ. 阿部 本当に初任者の方は,見ているとゆとり. てるか分かんないけど,とにかく書かせてみる. というか余裕が全然なくて,書類の山とか研修. とか,そういうことが起きてしまった。. ですね。初任者研修. でも,これは学校現場の問題ということでは. と か 3 年 次・5 年 次. なくて,行政側,つまり文科省や教育委員会の. 研修とか,とにかく. 責任もあるわけです。行政側が打ち出した施策. 追われていて,現場. をきちっと伝え切れてなかったとも言えるわけ. の教員同士も話すこ. です。ですから,現場の先生方が振り回されな. とがままならない,. いようにしなきゃいけないっていうことは,そ. そういうことがあり. のときの反省から文科省も非常に強く持ってい. ます。. る。そういう本来の趣旨を踏まえたときに,今. 私は教職大学院. 回の資質・能力で分けていったとき,前回は音. に, 現 場 に 出 て 10. 楽の学習の全ての支えとして〔共通事項〕があ. 年ちょっとしてから. るという位置付けをしましたけど,今回は資. 行ったんですけど,. 質・能力別にしないと指導事項には立てられな. 自分のそれまでの. いという方針でしたので, 〔共通事項〕のアと. 教員生活はどうだったかなというように立ち止. いうのは思考力,判断力,表現力等を支える資. まって振り返る期間として,すごく落ち着いた. 阿部 みどり (東京都杉並区立 阿佐ヶ谷中学校教諭). 質・能力として位置付け, 「知覚したことと感. 1 年間を過ごせたと思います。そして,音楽だ. 受したこととの関わりについて考えましょう」. けじゃなくて,教育全体のことですね。例えば,. ということを付け加えました。用語や記号の理. どういう問題があるのか,今の課題は何なのか. 解の方は知識事項として, 「音楽における働き. とか,どうやったらファシリテーターになれる. と関わらせて理解しましょう」と示し,ア,イ. のかとか。. ともに明確に資質・能力として位置付けたとい. いわゆるストレートマスター,そのまま学部. うことになります。. を卒業して大学院に入学した学生さんが学芸大 学では 25 人,現職の大学院生は 25 人。その 50 人が 8 人ぐらいのグループに常に分かれて協働 するんです。これが楽しくて,毎回,どんな授. 46 音楽教育実践ジャーナル vol. 17 2019.
(6) 特集★音楽科教員の養成・採用・研修 ─ その現状と課題 ─ 座談会. 業でも分かれて考えたり,いろんな意見を出し. と教科教育の連携をとりなさいということが言. たりしました。あるときは八王子市の教育委員. われてますが,今,大学にどういうことが求め. 会の方がお見えになって, 「こういうところで. られてるとお考えですか。. 困ってるんだけど,それぞれのグループでそれ. 石上 私は大学の課程が変わる過渡期にある授. ぞれ考えてアイデアを出してくれないか。その. 業をやらせていただいたので,毎年,持つ科目. 中からいいのを採用する」って言ってもらった. が違っていました。例えば,最初の年はカリ. りして,すごく楽しかったですね。ですから,. キュラム論というのがあったんです。だから,. 年齢もだいぶ違うので,若い方がどういうこと. 指導要領のことを勉強したり,歴史的なことも. を考えてるかとか,話し方もそうだと思うんで. そこで学んだりし,そういうものも私は必要だ. すけど,キャッチボールができることがとても. と思います。その次は授業実践演習みたいなも. いい機会だと思いましたね。. ので,実際の授業と関わらせて,どう考えるか. 大きい枠で捉えて,何が足りないとか,専門. という授業ということだったので,実際の授業. に特化したことだけではなくて,教育委員会が. を見て,今日の授業はどうだったのかって,グ. どういうことをして,政策はどうできるとか,. ループごとに討論して,どんなふうに感じた. そういうことも学びますし,あとは論文の書き. かっていうのをレポートに書くようにしました。. 方や研究の仕方みたいなことも教えてもらった. 私は中学校の勉強をするんだったら小学校の. りしました。そういうものも含めてすごく視野. ことをちゃんと見ておいてほしいと思います。. が広がったと思いますね。. せめて見ておいて,どんなことをやってるんだ. 私は,日本の音楽をどうやったら身近に子ど. ろうということが分かって中学校のことをやる. もたちが感じられるのか,そのことを小中連携. のとじゃ全然,意味が違うと考えて,中等の学. でどうやっていけたらいいかっていうことを課. 生にも小学校を見せに行ったんです。そしたら,. 題として研究していました。そういうことも含. 「初等も取っておけばよかった」っていう学生. めて,いろんな先生にいろんな意見をもらい. が何人もいて。そういうことを実際に見たり聞. ました。カウンセラーみたいな先生もいらっ. いたりすると,すごく違うなっていうものがあ. しゃって特別支援のことも含めながら,本当に. るので,そういう,できるだけ実践的なことを. 幅広く教えてもらって,行ってよかったなって,. やったり,そこから「自分だったらどうするの. すごく思ってます。. か」を考えたりとか。学芸大学の学生は,真面. 菅 例えば教職大学院でのファシリテーターを. 目なので,批判しちゃいけないと思うらしいん. 育てるような対話的な学びをくぐり抜けてこら. ですよ。例えば,阿部先生の授業を見て, 「課. れて,これまでの音楽の授業と今の音楽の授業. 題だな」と思ったことだってきっとあると思う. と,先生の中で変わりましたか。. んです,あの人たちにしてみれば。でも「それ. 阿部 変わったと思います。いろんな所に取材. は言っていいんですか」みたいな。. にどんどん行ってます。いろんな方が助けくだ. 阿部 いいのに。. さって。例えば,お祭りでやりたい日本の民謡. 石上 だけど,それは言わないと,お互いに。. なんかを教材化したりして,どうやったらうま. 「これからどうしていったらいいのかというの. くいくかなとか,歌を授業に取り入れたりとか,. が分かんないから,いいよ」って言ったら,だ. そういうことを今やっています。. んだん言えるようになってくるというようにし. 菅 石上先生,今度は教員養成の立場として,. て,必ず, 「自分だったらどうするだろう」っ. これからの教員を育てていくときに,教科専門. て視点を持ってやっていこうということを授業. Japanese Journal of Music Education Practice vol. 17 2019 47.
(7) 特集★音楽科教員の養成・採用・研修 ─ その現状と課題 ─. で進めてきました。そういう授業がこれから必. 教育のニーズということが,これだけ言われる. 要になるのかなって私は思ってやってきたんで. ようになったんでしょうか。. す。ある意味,大学の学びっていうのは,すぐ. 臼井 これは僕,分からないです。僕ら初等中. に実践につながるだけのものじゃなくて,そう. 等教育局なので,その経緯というのは全然,僕. じゃないものも実は学んだことによって生かせ. たちは。すみません,全然,知らないので。. ることもたくさんあると思うんですね。. 菅 臼井先生ご自身は,教員養成における教科. それから,今,事前・事後指導っていうのが. 教育のニーズについてどのように思われますか。. あって,教育実習に行くために土曜日にわざわ ざ時間割いて。現場も即,実践力を求めるじゃ ない。でも,初めて来た学生に即,実践力なん てあり得ないし,大学で学んだことを生かすに は熟成する期間が必要だと思うんです。そうい うものが,お互いにゆとりがないというか。だ から,大学のとき,私,ピアノの演奏とか,大 学院の演奏会とかって自分たちで企画するの, すごくいいと思うの。それって自分が技能を高. 臼井 学校の先生って教職の専門家として音楽. めたり,そういう音楽が好きだったりっていう. を担当するっていうときと,音楽の専門家とし. だけじゃなくて,それを企画する力が必ず,現. て教職現場にいるっていう考え方とあって,場. 場で役立つと思います。だから,現場でどう教. 面によって両方,求められるわけですね。普段. えるかっていうことだけを学ぶんじゃなくて,. は,教職の専門家として音楽を担当してる人っ. 自分が今できる力で,どういうふうに今をより. ていうのが,これが多分,基本的なスタンスで. 良くしていくかという,今を楽しくしていくか. すよね。ですから,教職に関することをしっか. とか,自分たちの力でどう協働していくかとい. りやらなきゃいけないし,そこで音楽を担当す. うことですよね。それが今,できることはすご. ればいいんだけど,でも,地域とか学校の中と. い力になっていくんだから大事にしなさいって。. か,いろんな担任からの要望だとか,いろんな. そういう力があって,現場はどうなってるのか. ことに応えていくときにはマルチな音楽の専門. なって見る視点を持てる。両方が教育学部なん. 性というのが必要で,学校にいるときには「私. だから,それが必要かなと思って,それを大事. はピアノ専門なので歌のことは一切,知りませ. にしてきたつもりなんです。. ん」というわけにはいきません。非常にマルチ. 5 教科専門と教科教育の連携. な音楽の専門性というものを持って学校現場に いることが期待されます。学校は,昔から地域. 菅 宮崎大学は教職大学の先発組で,平成 20. の文化センターだっていわれることもあり,田. 年の発足当初はあまり教科を前面に出さないよ. 舎に行けば今でももちろんそうで,そこでは村. うに,教科を超えて対応する力を付けなさいと. 唯一の音楽の専門家かもしれないわけです。そ. いう話だったんですけど,新しく出てくる教職. うすると,その教科を担っている音楽の専門と. 大学院は,むしろ教科教育についてのニーズに. いう力はないってわけにはいかないですよね。. 応えなさいということが言われているわけです。. だから,どういうスタンスで専門を学ばせる. これは臼井先生にお伺いするのが適切かどうな. かということだと思うんです。例えば音楽でい. のか分からないのですが,どういう文脈で教科. えば,専門ばっかりやってたら学校の先生にな. 48 音楽教育実践ジャーナル vol. 17 2019.
(8) 特集★音楽科教員の養成・採用・研修 ─ その現状と課題 ─ 座談会. るつもりがなくなっちゃったみたいな人は困り. だけど,子どもたちの前で歌って, 「おー」っ. ますよと。だから, 「学校の先生としてちゃん. となれるようにするためには先生としての力が. とやりましょう」ということを目指していたの. ないと,実はならない。教員としての力が足り. だと思います。教職大学院も。だけど,その中. ないと,例えば子どもの前で「わー」って歌うと,. で教科の専門を,学校の先生という立場におい. 逆に〈どん引き〉されるっていうのはいくらで. て,専門は専門として高めなければ子どもの前. もありますよね。. に立ったり,地域の前には出れませんよと。そ. 阿部 あります。. ういうことだと解釈すれば,教職大学院で教科. 赤坂 それを勘違いしてる場合もありますね。. 専門のこともやりましょうということが出てき. 自分ができるっていうのを見せるだけの音楽の. ているというのも,ある意味,当然かなという. 先生も中には……。そこは本当に気をつけなく. 感じはしますけどね。. てはいけないなって思うんですけど。. 菅 赤坂先生が先ほど,自分は,他の先生のよ. 臼井 だからね,音楽の専門性が高いことはす. うな音楽的な専門性とは違う養成を受けていた. ごく大事なんだけど,それが学校で有効に使え. という話がありましたけども,いわゆる音楽の. るかどうかは教職としての,教員としての力が. 専門性ということの必要性について,先生の目. ないと使い道がない。むしろ,逆効果になって. から見て,どう思われますか。. る人っているんです。. 赤坂 一回,大きい学校で専科をやらせていた. 菅 阿部先生は,今お話にあった教科の専門性. だいたときに,専門性を高めたいと思って,通. ということと,あるいは教職の専門性との統合. 信教育で中学校の 2 種免許を取ったんですね。. ということについてどのようにお考えですか。. そのときに,ピアノとか歌を本当に専門的に教. 阿部 私は教職大学院に行ってるときに,でき. えてもらうのが,すごく楽しいなと思いました。. るだけいろんな先生方の授業を見せてもらおう. 自分があこがれた先生が本当に歌も上手でピア. と思って,とにかく,いっぱい行ったんですね。. ノも弾いてくれて,お箏とかも弾いてくれる先. ちょうど近くに,私の子どもが習ってる先生が. 生だったんです。特に音楽なんかは先生がすて. 日本音楽の専門の先生で,そこでカルチャー. きに歌ってみせたり,ピアノですてきな伴奏し. ショックが起きて,そこからなんです。だか. てくれたりしたら,楽しいなとか自分もやって. ら,三味線も習いに行き始め,お箏も和太鼓も. みたいとかって思うじゃないかなって。小学校. 習い始め,やることが楽しいって思えるように. はもちろん担任が音楽を教えるように免許は. なったのも,そのときからでした。書類書いた. 取ってるので,もちろん,CD だっていいんで. り,部活やったりとか,吹奏楽ばかりしてたの. すけど,でも,先生がすてきにそういう技術を. で,自分で学ぶっていうことが楽しい。ある程. 見せてくれると,やってみたいなとか,あこが. 度,やらないと駄目だと思います。先生方が. れとかっていうのが引き出されていく,そうい. 習ったことだけで教えるのは無理だと思います。. う影響力が高い教科なのかなっていうふうに思. 自分自身が,例えば和楽器だったら和楽器,絶. いますね。. 対やりたいじゃないですか。それは自分がやっ. 臼井 僕,いろんな研修してね,特に中高の先. てないと教えられないって思います。ですから,. 生方,特に高校は専門性の高い方が多いので,. そういうふうにやっていくことの大切さってい. そのたびによく言うのは,例えば歌の専門の先. うことをまずは専門性を高めることの大事,大. 生が「わー」っと歌ってくれて,子どもたちが. 切さが一番,核のところにあるってことが気付. 「おー」ってなることってあるじゃないですか。. きましたね。. Japanese Journal of Music Education Practice vol. 17 2019 49.
(9) 特集★音楽科教員の養成・採用・研修 ─ その現状と課題 ─. 石上 今,学校でも 10 年研というのがあって,. らい採ったらいいかの判断が難しいですよね。. 10 年の頃ってちょうど,今までやってきたこ. 教育委員会もすごく難しくて,ぎりぎりのとこ. とはよかったのかなって教員として思うときな. ろで採用人数を決めてるので,そこでちょうど. んです。10 年やってきて,一応,自分もこれで. いい人が大学院に行きたいんですけどって言わ. やっていけばいいのかなと思う反面,振り返っ. れても,本音では「ちょっと勘弁してくれ」っ. てみたらどうだったんだろうっていう,ちょう. ていうことも現実問題としてあるのではないか. どそういう時期だと思うので。. と。それこそ採用・研修・養成が一体となって. 阿部 その時間は必要ですよね,絶対に必要。. 考えていかないと,いい体制がつくれない。こ. 石上 忙しい中でやってるから,なかなか現場. れから,それぞれの関係者が集まって,行政,. にいたのでは難しい。それが教職大学院に来る. 大学,学校が一緒に考えていかなければできな. ことで,大体,10 年か 20 年ぐらいの人が,そ. いと思います。いろんなそれぞれの立場のとこ. ういうふうに自分を振り返ったりね。他の方は. ろが連携して考えていくとか,連携して考えて. どうしてるのかなっていう,視野がまた広がっ. いけるような組織をつくるとか,機会をつくる. てくる時期だから。. とかっていうことをしないと,なかなか,現実. 赤坂 立ち止まれますよね,自分が。現職の最. 的には難しいところもあろうかと思います。. 初の課題がそれでした。教員になってから今ま. 菅 先ほどの話に戻りますが,教科,音楽の専. でのことをナラティブモードで書いて,それを. 門性ということ,それから教職としてのいろん. 読み合うっていうのがありました。. な面での対応力や実践力を,統合的に育ててい. 臼井 立ち止まる機会を 10 年目ぐらいでつく. かなければいけないわけですけど,有識者会議. るって,すごく大事なことですよね。でも学校. 報告書の中でも,教科専門の実技の先生と教科. 現場は今,そういう立ち止まらせたいなってい. 教育の先生の間であんまり連携ができてないん. う人を,教職大学院に出す余裕がない。今はも. じゃないかというようなことが指摘されていま. う講師も見つかりにくいので,そのまま欠員に. す。石上先生,これから学部での音楽科教員養. なる恐れというのがあって。音楽の場合,欠員. 成,あるいは教科教育に資していく教職大学院. になってしまうとね,一人しかいない教科なの. での養成の在り方,そこで,教科教育と教科専. で授業がそもそもできないっていうことになる。. 門の先生との連携ということも含めて,どう. 例えば,教員採用に関してどういうふうに教育. なっていかなければいけないと思われますか。. 委員会が考えるのかとか。教職大学院で教員を. 石上 ピアノの先生と話すときに,ピアノの専. 受け入れますといったときに,それに対して教. 門的なことを勉強するのも,すごくいいし,素. 育委員会がどのような見通しをもって策を打つ. 敵なんだけど,伴奏法とかそういうのもやりた. のか。何人ぐらいは行かせてあげたい,その分,. いですよねとかって,そういうのって,昔は. フォローするにはどうするかとか。でもその人. あったんだけど,そういった教員同士のコミュ. たちが戻ってきたらフォローに入れた人は浮い. ニケーション,連携をしていくっていうのはす. ちゃうから,次にどうするとかっていう,何年. ごく私は必要だと思うし,学生も今いろいろ問. 間も先を見たときに教員が浮かないように,足. 題を抱えていて,突然,学校来なくなっちゃっ. りなくならないように。今が一番,難しい時期. て,教育実習に行けるのかなと思ったから,指. ですね。大量退職で抜けていってしまう。若い. 導教官の先生と話ししてどっちが連絡取ると. 人を入れなきゃいけないけれど,子どもは減る. かって言いながら,わざわざ電話かけるとかっ. から学級数は減る。同じ数は必要ない。どのぐ. ていうようにしていかないといけない学生もい. 50 音楽教育実践ジャーナル vol. 17 2019.
(10) 特集★音楽科教員の養成・採用・研修 ─ その現状と課題 ─ 座談会. ます。そういう意味でも学生を通して連携して. の音楽性を高めていく。バランスかなって本当. いくということも,先生たちにとって不可欠だ. に思う。教職としての専門性というのはいろん. と思うんです。. なジャンルのことを知ってなきゃできないって. 今,学芸大学のピアノ,現代音楽を演奏する. いうので,そういう視野も広げてもらえるよう. 先生がいらっしゃるので,その先生にゲストで. な授業が必要なんじゃないかなって。. 来てもらって演奏してもらう活動に取り組んで. 菅 単にスキルが高いとか,歌が歌えるとかっ. いるのですが,喜んでやってくださるわけ。教. ていうことではなくて,もっと広く音楽として. 育実習でしか行ったことないから現場に行って. の理解力ですね。. みたい,そうやって現場の実際の授業の中に関. 石上 例えばピアノ,どの時代のどういう作曲. われたら,すごくうれしいとおっしゃって。実. 家の作品が,どういう価値があって今,つな. 際,みんなはそういうふうに思ってるんですよ. がっていってるのかということを勉強していく. ね。思ってるんだけど,どうしたらいいのか. ことだけで,ピアノがもっといろんなジャンル. 分からないじゃないですか,専門の先生たち. ともつながっていったりとか。. は。だから,そういう意識をみんなで,高めて. 阿部 現場に出て思うのは,事実に基づくとい. もらって,それを結んでいくために,コーディ. うことです。うそは言えないので,調べなきゃ. ネーターを音楽教育の先生がしていかなきゃい. いけないんですよ。膨大な時間がかかっちゃう. けないのかなっていうことを感じています。. んですよね。ですから,どういうルーツで来て. あと,専門教育といってもピアノの専門とか. るのかとか調べたいって思うんだけど,どこに. 声楽の専門とか,ブラス系というか,あとオー. 行っていいか分からなかったり,ネットで検索. ケストラの専門の学生が多いじゃないですか。. することはできますけど,でも,本当なのかな. でも今,学校教育現場では日本の音楽とか,世. とかね。根拠が必要。それこそ本当に大学に求. 界の音楽とかそういうものも求められますよね。. めたいことですね。専門家の先生方とかプロの. だから,音楽といってもジャンルがこんなに広. 方に聞いてみたいなっていうこととかあります. がっていて,専門性といってもいろんな専門,. ね。文献とか,大学の専門の先生のお話を伺っ. 音楽の専門性ってクラシックの専門だけでは成. たりとか,そういうことが卒業後もあるといい. り立たないわけですよね。そういう意味で,広. んじゃないかなと思います。. い視野でいろんな音楽に興味関心を持って,そ. 石上 先生たちが学び続けられるような,そう. の中で自分がやってることってどういう立ち位. いう時間っていうかね。時間の保障ってすごく. 置なのかなとか考えられるような学生も必要だ. 大事じゃないですか。それがないと厳しい。そ. なって私は思っています。ですから,自分の授. れが,ある意味,教職大学院の 2 年間であるっ. 業のときにはアフリカのジェンベの知り合いを. ていうふうにも位置付けられるかなと思います. 呼んできて,一緒にワークショップやっても. よね。現場と全く離れてみて自分が学ぶ側に. らったりとか,芸大の三味線の先生に来ても. 立って,どうしたら,いろんなことを学びつつ,. らって,いろんなことを実際に教えてもらった. また戻って。そしたら,そこから学びがつな. りとかしながら,いろんなジャンルっていうこ. がっていくっていうことね。教員ってずっと学. とを理解してほしくてね。専門性って言われて. び続けないと多分,指導できないですよね。. も広いなって思います。そういうことを勉強し. 臼井 いわゆるピアノなどの専門と教職の連携. ながら,自分が今,学んでいるピアノが好きっ. を大学の中でうまいことやっていこうよという. ていうこともすごく大事なので,その中で自分. 考え方は,学校における芸術教育の文化庁への. Japanese Journal of Music Education Practice vol. 17 2019 51.
(11) 特集★音楽科教員の養成・採用・研修 ─ その現状と課題 ─. 6 つなぐ力を育てる 菅 これまでのお話を伺っていて,今求められ ているのはいろんな分野の知識なり力なりとい うことをどうやってつないでいくか,個人のレ ベルではどうやっていろんな分野の人たちを コーディネートして新しいものを生み出してい くか,そのあたりが非常に重要なキーワードに なっているような気がしました。最後に,そう 業務移管でも大切なことだと思います。要する. いったいろんな分野のものをつないでいったり,. に文化庁が教育に関われるようになった。文化. あるいは人同士のつながりをコーディネートし. 庁は,今までは若手のアーティストを育成する. たりできる教員を育てていくために,もう少し. などの専門を扱ってたので,学校教育と専門の. 具体的なレベルで,どういう経験を積ませれば. ことは行政的に今までは完全に分かれてたわけ. いいのか,あるいは,どういう研修があればい. です。でも,これを一緒にして,去年,10 月. いのかということを先生方にお話を伺いたいと. 1 日から一緒にやろうじゃないかということに. 思います。では,阿部先生から。. なりました。その一つとして今年度,教員研修. 阿部 中学校の授業では,少ない時数で突き詰. やってもらえませんかという文化庁の委託事業. めて教えるなんてことは無理なので,できるだ. を芸術系大学コンソーシアムが受けてください. け間口を広げて,いろんなことを経験させたい. ました。要するに音大とか芸大系とかが集まっ. と思っています。ですから,大学で学んできた. てる組織で,教員研修をやりましょうってこと. ことをもとにいろんな音楽があるってことをい. になったわけです。例えば,これまで学習指導. ろんな先生に知ってもらいたい。音楽のよさを. 要領とはあまり関係のなかった専門の先生方に. 子どもたちに伝えられるような場が授業だと. 今回,教員とのコラボだから学習指導要領も読. 思っているので,そういうチャンスが広がる講. んでみてください,そして研修内容を考えてく. 座,研修がたくさん必要だと思います。そして,. ださい,ということをやることになります。そ. それが気に入ったら,そのものを先生方はぜひ. こで,その専門の先生方も,今の学習指導要領. 自分自身で習いに行くべきだと思います。そう. で求められているような授業を学校の先生がす. じゃないと,専門性は上がらないので,プロ. るときに必要な力のために,私たちにできるこ. としてやっていきたいなって私は思っていま. とは何なんですかということを考える。文化庁. す。そして,自分たちの生活とどう結び付いて. と文科省とやっていきましょうというときに,. いけるかっていうことも重要な視点だと思うの. 本当にお互いスタンスが違うことも,もちろん. で,それをやることでどんな良さがあるのかと. 最初はあって。だけど,それぞれの持ってる強. か,どういうふうにつながってるのかとか,そ. みというのは当然あるので,そこをうまく連携. ういうことも含めて分かりたいなって思ってい. できるようにした文化行政・文化振興をやって. ます。. いこうよと。学校教育も一体となってやってい. 菅 ありがとうございます。では赤坂先生。. こうというような方向です。. 赤坂 さっき,阿部先生がおっしゃった教職大 学院でストレートマスターといろいろな課題に ついて話し合う授業が,私のときももちろんあ. 52 音楽教育実践ジャーナル vol. 17 2019.
(12) 特集★音楽科教員の養成・採用・研修 ─ その現状と課題 ─ 座談会. りました。黙って座ってずっと先生の話を聞い. く重要だから,自分たちでどんな常時活動がで. てるという授業はほぼゼロだったんです。現場. きるか考えてみようとかっていう。なぜ,それ. に戻って,もちろん,現場でも同僚とか後輩と. をするのかっていうのかな,それがなぜ重要な. 話さないわけではないんですけれども,話しや. のかっていうかな,そういうことを考えていく。. すい雰囲気づくりとか,すてきなファシリテー. 私もワークショップ,先生たち相手にさせてい. ターがいると本当に, 「今日こんなことあった. ただいてますけど,先生ってハウツーが欲しい. んだよ」っていうのが言いやすい雰囲気になっ. んですよね,基本的に。日々の授業ですぐ役立. たりですとか。小学校って,私の個人的な意見. つような,どうしてもハウツー求めちゃう。そ. ですけど,チームっていわれているけど,まだ. れは分かるんですよね,だって,明日の授業に. 交換授業をして,お互い子どもを見合いましょ. 関わるから。でも,ハウツーがなぜあるのかっ. うっていう文化が根付いてはいません。中学校. ていうか,なぜ,こうするといいのかっていう. のように教科担任,いろんな先生がいろんな子. ところが把握できれば,自分で応用できるん. を見てっていうのは小学校でもっと,それがで. ですよね。そこのところの学びを学生のとき. きていいんじゃないか。そうすると,一人,こ. に,なぜそういうふうにあるのかっていう, 「こ. の子,気になるとか,どうにかしてあげたいっ. うやるんだよ,ピアノ弾くんだよ」じゃなくて,. ていう子に対するアプローチが担任である自分. なぜ,自分はこう弾くのかっていうようなこと. だけではなくて,いろんな人がっていうふうに. を学んでいくっていうところをきちっとやって. なると,個々の成長も見ていけるんじゃないか. おくことが必要かな。自分で考える力っていう. なって。だから,大学院の学びはすごく大きく. かな。. て,全部につながっていく。みんなで話して問. それから今やってることはどう,いろんなこ. 題点考えるとか,たわいないことをちょっと. とに結び付いていくのかっていう関連付ける力。. 言うと, 「それってこういうことなんじゃない」. 今,私,文化人類学者の先生と共同研究してい. とか話せる環境づくりですね。. ます。文化人類学者は,すごく小さな民族とか. 菅 協働とか同僚性とか,そういうことですね。. と自分が一緒に生活しながら,その中で音楽は. 阿部 大人がそれを分かってないとね,子ども. どう形成されていくかっていうのを文化人類. に教えられないですよね。. 学,社会学的な立場から研究してるんです。そ. 赤坂 そうですね。できないですよね,話し合. ういうふうにやってるから。結構,私も,社会. えって言ったってね。. 学的に音楽を捉える。社会学としての音楽,文. 菅 石上先生,いかがでしょうか。. 化とか,そういう生活とかっていうレベルから. 石上 話しやすいっていうか,そういう授業は. 音楽を捉える視点というのもいただいて,また,. すごく大事だなって思います。私が一方的にプ. ちょっと視野が広がったかなと思います。そう. レゼンで説明することも,もちろん授業の中で. いう意味で,いろんなところで連携していくっ. はあるんだけど,それをもとにして,あなたた. ていうところが,これからはすごく重要です。. ちはどう考えるのかっていうようなところを. 菅 ありがとうございます。臼井先生,お願い. やったり,それから,学習指導一つにしても,. します。. 自分で調べてみて,それを発表し合おうとかと. 臼井 さっきの赤坂先生の話を聞いてもそうだ. いうふうに,できるだけ学生たちが動くように. けど,一回,学習者になってみるっていうこと. してきたんです。教職大学院でも,音楽って必. でしょうね。それがすごく大事ですよね。僕,. ず音楽あそび的なことが,常時的な活動がすご. 数年前に教員免許更新講習を受けました。講習. Japanese Journal of Music Education Practice vol. 17 2019 53.
(13) 特集★音楽科教員の養成・採用・研修 ─ その現状と課題 ─. 内容の中には,自分がそのときに直面している. 置いていけないとかってあったりするけど。置. ことにど真ん中でヒットするような話ではない. いていけるようなシステムにしてあげなきゃい. ものもあったけど,僕はすごく面白かったんで. けないしね。それでも,ちゃんと行く人は勉強. すよ,その話を聞いて。終わった後の休み時間. しにきてるんです。さっき教科の専門性ってい. に, 「あんな話聞いたって,そんなの,明日か. うか,教科教育の大事さってあったけど,一つ. ら何か役立つわけでもないのに……」と不満を. の教科をやっていく,突き詰めると他のものも. もらしている先生もいたわけですが,役立つか. 見えてくるんです。授業の在り方としては方向. 立たないかは,受けている側の問題,受講者が. がそんなに変わらないから,一つの教科を窓口. その情報をどのように受け取ったかの問題で. にきちっと授業研究していくと,どんな授業に. あって。受け取る側のスタンスが間違ってると,. も発言できる素晴らしい先生に,私もたくさん. これはどんな研修やっても無理なんですよね。. 出会ってきてるので。そこもすごく大事じゃな. というふうに考えると,石上先生がおっしゃ. いかなって思います。. るように,ハウツーがどうのこうのじゃなくて, 私たちっていろんな人と接しなくちゃいけない. 7 研究者としての教師. し,いろんな子どもたちもいるし。だから,い. 菅 お話を伺っていて,臼井先生がおっしゃっ. ろんなこと勉強することっていうのが実はすご. た,関連しないものはない,関連付けられるか. く意味があるんですよっていうことです。一見,. どうかは自分次第だという話と,さっき石上先. すごく関係なさそうなことを勉強すると,でも. 生がおっしゃった文化人類学ですね。全く異な. 「これってほら,実は昨日まであなたがやって. るように見える現象の中に実は同じ構造が含ま. た,このことと関係してるでしょ」みたいなこ. れているという,文化人類学の考え方。あと赤. とをかなり初期の段階でまず見せてね。 「これ. 坂先生がおっしゃった,対話的な学びをすると. を知ってるのと知らないとだと明日,子どもの. いうことは一つの物事を複眼的に見ていくとい. 前に立ったときに,例えばこういう違いが出ま. うことですよね。阿部先生もいろんな音楽を体. すよ」 「 1 ヵ月後,こういう違いが出ます」とか,. 験する,そこにつながりを見いだしたり,ある. あるいは, 「新規採用の先生に何か質問された. いは自分が面白いと思うものを深めたりしてい. ときに,こういう違いが出ます」というような. くというお話でした。結局,研究者を育てるこ. ことをやると,一見遠くにあるものも,本当は. とと,すごくよく似ているなと思います。問題. 全然遠くなくて,学校の先生というのは結局,. を立てて,一見異なる物事の中に何か関連性を. 子どもたちだけでなく,その背後には親や地域. 見いだして,そこに自分なりの理論をつくって. があって,結局,世の中全部に対応しなきゃい. いくという,そういう訓練というのはこれから. けない仕事なので,関係ないことって絶対ない. も大学では大事なのかなということを,お話を. はずなんですよ。. 伺っていて感じました。. 自分は学習者として,ここで何を学んでいく. 石上 現場で指導案って作るじゃないですか。. のか。教員である以上,絶対,関係ないことな. 題材について,自分の考えを書くのね。どうい. んかないんだと,社会とつながる仕事してるわ. うふうにその題材を自分なりに捉えて,この授. けだから。そう考えていけば,僕,どんな研修. 業をどう展開していくのかっていうことがしっ. でも先生の役に立つと思うんですよね。. かり書ける人は育っていくんだよね。そこは,. 石上 学校が忙しいと,学校にずっといたりと. 研究者が研究論文を書くのと同じだと思ってい. か,担任を持ってるとなかなか出張も,子ども. ます。自分の子どもと向き合って,どういうふ. 54 音楽教育実践ジャーナル vol. 17 2019.
(14) 特集★音楽科教員の養成・採用・研修 ─ その現状と課題 ─ 座談会. うに,自分だったら, 「ここはこれじゃ無理だ. ます,まさしく。それをどう研究論文にするの. から,こうする」とか, 「もっとできるぞ」と. か,表現するのかっていうことだと思うので。. かってやっていけるのが楽しいんだよね,本当. 臼井 文脈を通して書ける人は,その場で子ど. は。それが教員の研究だし。. もに対応できるんです。文脈が通せていれば,. 臼井 若い先生も学生の皆さんもそうですけど,. 何をやるかは決まってるわけで,授業観さえ間. 学習指導案の各項目は書いているけれど,文脈. 違っていなければ,その場で子どもとやってい. としてつながってないという学習指導案もよく. けると思います。. 見られます。文章書くときでもそうだし,物事. 僕は,いろんな所へ行って,学習指導案って. を見るときでもそうなんだけど,文脈で見てい. 書きますよねって。僕らは省略して指導案って. くっていうことをしないといけない。学習指導. 呼びますねって。それはいいですよねって,僕. 案もそれぞれの項目を書いて埋めました。だけ. も言いますよ。だけど,本当に〈指導〉案になっ. ど,全部,通して読んだときに文脈としてつな. てる指導案は駄目ですよっていう話をします。. がっていますかっていうことをやらないと。そ. 学習というのは子どもが学ぶことであり,指導. の文脈を通していく過程で,だんだんと自分が. は教師が教えることだから。子どもが学ぶこと. 何したいかが見えてくるんです。僕は論文は書. と,教師が教えること,これが両方の関係性の. いたことがないから分からないけど,論文だっ. 中でプランニングされているのが学習指導案で. て,例えば型があって,一応こういう段取りで. す。私がこれをして,次これをして,これをし. いきましょうと。だけど,その文脈が支離滅裂. てっていうことを考えることは大事なんだけど,. なものは駄目に決まってるわけですよね。その. ずっと考えてると,だんだん子どもがお留守に. 項目の中身が,この見出しについて書いてるこ. なってしまって,子どもの学習が見えなくなっ. とは間違ってないにしても,絶対,文脈が違っ. て,私がさせたいこととか,最後の目指す姿だ. たら変なわけじゃないですか。学習指導案もそ. けが固定するみたいなことになると,形として. ういう意味では,同じだと思います。教職大学. は流れますけど。ちょっと生きた授業に見えな. 院で,そういうこともやらせていいと思うんで. くなってきますよね。だから,学習指導ってい. すね。ある程度,経験を積んでるので,ある程. う言葉を使って,学習とは何だ,指導とは何だ. 度の学習指導案というのは書けるわけですね。. みたいな。その二つの言葉がくっついて学習指. けれども,これをきっちりと文脈で見ていった. 導という言葉になっている。学習指導案って何. らどうなるかっていうようなことっていうのも,. を書かなきゃいけないものだったんでしょうか,. すごく大事な力だと思うんですね。それは論文. みたいな。こういうようなところも立ち止まら. 書くときにも役に立つし。. ないと。そんなことを振り返りながらやってい. 菅 それが,もうちょっと大きなレベルでいう. けるといいなと思いますね。. とピアノを練習することと,授業をすることと. 菅 今日は先生方,本当にありがとうございま. の間のつながりみたいなものとして自分で文脈. した。長時間,大変お疲れさまでした。. をつくっていくことですね。 臼井 そうだと思うんですね。最終的には自分 で文脈つくらないと何も使えないですね。 石上 思考をきちっと整理しながらやっていく. * 1 時間半にわたる討論の内容を,再構成して います。 (文責:菅 裕). ということですよね。それ,今,求められてい. Japanese Journal of Music Education Practice vol. 17 2019 55.
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