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帝王切開分娩後に症状が劇的に改善した特発性脳脊髄液減少症の1例

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Academic year: 2021

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(1)209. 2021 ( 令和 3 ) 年 5 月. 症例報告. 帝王切開分娩後に症状が劇的に改善した特発性脳脊髄液減少症の1例 (令和 2 年 11 月 1 日受付) (令和 3 年 2 月 5 日受理) 独立行政法人国立病院機構九州医療センター臨床研究センター産科婦人科. 林 魅里 藤原ありさ 田浦裕三子 杉浦多佳子 松本 恵 蓮尾 泰之 Key words idiopathic cerebrospinal fluid deficiency pregnancy cesarean section. 概要 妊娠後期に特発性脳脊髄液減少症を発症した 1 例を経験した.39 歳,G 1 P 0,妊娠 33 週 4 日に突然の強い頭 痛で発症し,入院管理した.臨床症状から脳脊髄液減少症と診断し保存的治療を行った.症状は改善せず,妊娠 38 週 2 日に硬膜外麻酔下での帝王切開分娩を行った.硬膜外麻酔時に一時的な呼吸抑制をきたし,術後の頸椎単純 MRI 検査で C 7 付近に硬膜穿孔を疑う所見を認め,診断を確定した.児は 3 , 006 g の女児で,Apgar スコア 1 分後 8 点, 5 分後 9 点であった.母体は術後 1 日目に頭痛が軽快し,育児に支障なく退院した.同疾患の妊娠合併例での管理 に具体的な指針はなく,保存的治療で改善しない場合は症例毎に治療方針を検討し,選択することが必要である.. 緒言. 自然妊娠成立後,当院で妊婦健診を行った.妊娠 20. 特発性脳脊髄液減少症は原因のわからない低髄圧も. 週 6 日に上腹部痛が出現し,胆石症の診断で妊娠 22 週 3. しくは脳脊髄液の漏出によって引き起こされる起立性. 日に全身麻酔管理下で腹腔鏡下胆嚢摘出術が行われた.. 頭痛を特徴とし,著しく QOL を低下させる稀な疾患で. 術前検査の HbA 1 c が 6 . 2%と高値であり,75 gOGTT. ある.急性期の主症状は起立性頭痛であるが,病状の. 検査で血糖値が空腹時:106 mg/dL,1 時間値:242 mg/. 慢性化に伴って複数の症状が出現するため,診断に難. dL,2 時間値:228 mg/dL といずれも基準値を超え,. 渋することもある.妊婦での報告は少なく,妊娠が発. 妊娠糖尿病と診断した.妊娠 29 週 3 日からインスリン. 症あるいは増悪因子になりうるとは一般に考えられて. を導入した.児の発育は週数相当で羊水量は正常であ. いない.妊婦の場合は,確定診断に必要な検査は侵襲. った.妊娠 33 週 4 日に突然強い頭痛が生じ,同日当院. 性が高いため行われず,また頭痛以外の諸症状が妊婦. を受診した.頭痛以外の症状はなく,バイタルサイン. に一般的に起こりうる症状と類似しているため,非妊. に異常を認めなかった.血液検査で炎症反応の上昇は. 時より診断に時間を要する可能性がある.また,周産. なかった.アセトアミノフェン内服として帰宅したが,. 期予後に配慮しての治療介入が必要になる.今回,妊. 翌日(妊娠 33 週 5 日)頭痛が増強し体動困難となったた. 娠 33 週に発症し,保存的治療で改善せず,妊娠 38 週. め,入院管理とした.. に硬膜外麻酔下での帝王切開術を選択し,術後に症状. 入院時,意識清明でバイタルサインは体温 36 . 9 度,. が劇的に改善した一例を経験した.妊娠中の発症例は. 脈拍数 85 bpm,血圧 127 / 79 mmHg であった.頭痛に. 2000 年から報告されており,13 例検索し得たため,文. より体動困難であったが,項部硬直を認めず,髄膜炎. 献的考察を含め報告する.. を示唆する所見はなかった.頭痛は前頭部の痛みで,. 症例. 立位や座位で増悪し,臥位で軽快した.視覚,聴覚異常,. 39 歳,155 cm,非妊娠時体重:82 kg,BMI:34.. 麻痺などの神経学的異常を認めなかった.血液検査,. 妊娠分娩歴:G 1 P 0.既往歴:なし.アレルギー:なし.. 尿検査では明らかな異常所見を認めず,妊娠高血圧症. 手術歴:39 歳(妊娠 22 週)腹腔鏡下胆嚢摘出術.. 候群は否定的であり,頭部単純 CT 検査で頭蓋内病変. 独立行政法人国立病院機構九州医療センター臨床研究センター. Department of Obstetrics and Gynecology, National Hospital. 産科婦人科. Organization Kyushu Medical Center, Clinical Research Institute. 〒 810 - 8563 福岡県福岡市中央区地行浜 1 丁目 8 番 1 号. 1 - 8 - 1 Jigyohama, Chuo-ku, Fukuoka City, Fukuoka 810 - 8563 , Japan.

(2) 210. 日本周産期・新生児医学会雑誌 第 57 巻 第 1 号. A. B. 図 1 頸椎単純 MRI 検査 T 2 強調画像 A.矢状断(拡大写真) B.横断(拡大写真). 硬膜外腔,くも膜下腔は T 2 強調画像で高信号,硬膜は T 2 強調画像で低信号. 脳脊髄液減少に伴い,第 3 頸椎以遠〜第 5 胸椎のくも膜下腔の狭小化と硬膜外腔の拡大,くも膜下腔と 硬膜外腔の間の膜(=硬膜)を認める.横断面像では第 7 頸椎レベルの硬膜の内部に限局した液貯留を認 め,脳脊髄液減少の責任病変となる硬膜瘻孔からの流入と考えられる.. や骨折を認めなかった.アセトアミノフェンやペンタ. 娩中の怒責による症状の増悪を懸念し,分娩様式は帝. ゾシンでの疼痛コントロールは不良であり,片頭痛を. 王切開術とした.当院では通常脊椎くも膜下麻酔と硬. 考慮しゾルミトリプタンを投与したが,効果は乏しか. 膜外麻酔を併用しているが,本症例の麻酔方法は麻酔. った.外傷のエピソードはなかったが,立位や座位で. 科と協議し,脊椎くも膜下麻酔による硬膜の損傷が症. 頭痛が増悪することから脳脊髄液減少症を疑った.頭. 状の増悪をもたらす可能性があるため,硬膜外麻酔の. 部単純 MRI 検査では梗塞性病変などの頭蓋内病変を認. みで管理をする方針とした.妊娠 38 週 2 日に硬膜外麻. めなかった.また脳脊髄液減少症に特徴的とされる小. 酔管理下で帝王切開術を行った.麻酔は L 2 / 3 に硬膜. 脳扁桃の下垂や下垂体腫大の所見はなく,撮像の範囲. 外カテーテルを留置し,1%メピバカイン塩酸塩 3 mL. 内で硬膜も確認できなかった.脳神経外科と協議し,. をテスト注入後,仙骨硬膜外麻酔を 1%メピバカイン. 漏出部位の特定や確定診断に必要な脊髄造影 MRI 検. 塩酸塩 12 mL にて行った.大腿部で冷覚低下がないこ. 査,RI 脳槽シンチグラフィーや CT ミエログラフィー. とを確認後に硬膜外カテーテルより 2%メピバカイン. などは胎児への侵襲性が高いため,産褥期に施行する. 塩酸塩 12 mL,フェンタニルクエン酸塩 2 mL を追加注. 方針とした.画像検査で診断確定に至らなかったが,. 入した.その直後に意識レベルが低下し,呼吸が停止. 臨床的には脳脊髄液減少症の症状と一致しており,同. した.直ちにマスク換気を行い気管挿管を試みたが,. 診断として保存的治療を開始した.. 数十秒後には自発呼吸が再開し,意識レベルも回復し. 頭痛と嘔気で食事摂取は困難であり,輸液(1 , 500 -. たため挿管を中止した.呼吸停止から 8 分後に術野の. 2,000mL/日)と臥床安静で経過観察した.入院6日目(妊. 無痛を確認して手術を開始した.子宮下部横切開によ. 娠 34 週 3 日)に食事摂取は可能となり,入院 7 日目(妊. り 頭 位 で 児 を 娩 出 し, 児 は 女 児 で, 体 重 3 , 006 g,. 娠 34 週 4 日)に座位や洗面は可能となったが,日常動. Apgar ス コ ア 1 分 後 8 点 / 5 分 後 9 点, 臍 帯 動 脈 血. 作で頭痛と嘔気が再燃するため,輸液を継続した.. pH 7 . 208 であった.術中の疼痛管理は良好で手術自体. 一般的に推奨される硬膜外自己血注入に関して麻酔. は問題なく終了し,総出血量は 217 g であった.. 科と検討したが漏出点が不明であり,手技による感染. 術後に本人へ確認したところ,硬膜外への薬剤注入. や癒着のリスクを考慮して行わない方針となった.妊. 後に手指の動かしにくさと呼吸困難感が出現し,足は. 娠 37 週になっても頭痛は継続し,立位や座位の保持は. 動かすことが可能であった.マスク換気で呼吸困難感. 困難であった.分娩体位をとることが難しく,経腟分. は消失し,また気管挿管を試みられたことを記憶して.

(3) 211. 2021 ( 令和 3 ) 年 5 月. いた.退室時に呼吸困難感はなく,離握手可能で,硬. などがあげられる 4).. 膜外カテーテルは抜去した.術後 1 日目に頭痛は完全. 今回帝王切開分娩後に症状が改善した病態について. に消失し,歩行可能であり,また育児も可能であった.. は,治療法の 1 つである硬膜外腔生理食塩水持続注入. 術後 3 日目の頸椎単純 MRI 検査で脳脊髄液減少症と矛. と同様の機序が働いた可能性がある.これは硬膜外腔. 盾しないくも膜腔の狭小化と硬膜外腔の拡大,硬膜の. にチューブを挿入し,生理食塩水を持続的に 20 mL/ 時. 描出,及び C 7 付近に穿孔部を疑う所見を認めた(図 1).. 間で 48 〜 72 時間注入する方法であるが,ほかに生理. 同所見より特発性脳脊髄液減少症と診断し,産褥期に. 食塩水を EBP のように 1 回 10 〜 20 mL 投与し,漸増す. 計画していた諸検査は行わないこととした.その後も. る方法もある 1)〜 4).硬膜外麻酔による硬膜外腔への麻. 頭痛の再燃はなく,術後7日目に退院した.産褥31日目,. 酔薬の複数回投与が硬膜外腔圧を上昇させ,硬膜嚢へ. 60 日目,90 日目も無症状で,経過は良好である.. の圧迫効果及び脳脊髄液圧の正常化に働いた可能性が. 考察. ある.また,分娩により腹圧が低下して髄液の漏出量. 脳脊髄液減少症は脳脊髄液の減少により起立性頭痛. が減少したこと,交感神経の緊張が緩和し髄液産生を. を初めとする種々の症状が出現し,脳脊髄液圧の正常. 促したことも複合的に作用したと推察した.. 化により改善する疾患である.特発性はその原因がな. 日本脳神経外科学会,日本神経学会,日本頭痛学会. く発症するものとされ,頻度は 1 / 2 万〜 5 万人で,30. などでは,まず安静と輸液による治療を 1 〜 2 週間を. 〜 40 代の女性に多いとされる.本疾患は画像診断で明. 目安に行い,症状が改善しなければ薬物療法を検討し,. らかに検出される場合と,疑い所見を含め,その臨床. 硬膜外腔生理食塩水持続注入や EBP に移行するという. 治療経過をもって総合的に判断される. 指針が示されている.. .厚生労働. 1)〜 3). 省研究班の画像診断基準には,脊椎/頭部 MRI 検査,. 薬物療法はプレドニゾロン(40 mg/ 日),テオフィリ. 脊椎ミエログラフィー,CT ミエログラフィー,脳槽ミ. ン徐放性製剤(300 mg/ 日)が有効であったとの報告 5). エログラフィーなどがあげられるが,病態や時間の経. があり,これらは妊娠中の使用が許容される薬剤であ. 過によっては陽性率が低いと考えられる検査もある. るものの至適量及び投与期間は定まっていない.硬膜. .. 1)2). その中で MRI 検査での硬膜肥厚は特異的な所見とさ. 外穿刺後頭痛(post-dural puncture headache:PDPH). れる.CSFJAPAN(cerebrospinal fluid JAPAN)では. は特発性脳脊髄液減少症と同様の症状を呈し,病態が. 1)起立性増悪傾向のある頭痛をはじめとする症状の存. 同じであることから同疾患に対する薬物療法も検討す. 在,2)他疾患を想定しての治療が無効,またはほかに. べきである.PDPH の薬物療法は小規模研究を多数認. 想定される疾患がない,3)臥床安静+水分摂取療法が. め,経口カフェインの使用頻度が高く,妊娠例での報. 有効,などがそろえば脳脊髄液減少症と診断するべき. 告も認めた.米国ではブタルビタール(バルビツール. としている .本症例では原因不明の起立性頭痛を認. 酸系催眠鎮静薬)-アセトアミノフェン-カフェイン. め,安静と輸液で症状はある程度軽減した.画像所見. 合剤やアセトアミノフェン-カフェイン合剤が使用さ. は術後の頸椎単純 MRI 検査でくも膜下腔の狭小化と硬. れている 6).本邦では非ピリン系感冒剤顆粒(PL顆粒 ®). 膜外腔の拡大,脳脊髄液が減少したときに描出される. が著効したとの報告もある 7).漢方薬の五苓散による. 硬膜が同定される所見及び髄液漏出の孔を示す所見を. 48 時間以内の頭痛の改善率が 83 . 3%との報告があり 8),. 認め,以上より脳脊髄液減少症と診断した.また妊娠. これは妊娠中に使用しやすい薬剤であることから一考. 中に発症起点となるエピソードはなく,特発性と判断. の余地はある.. した.帝王切開術の硬膜外麻酔時に生じた麻痺は C 7. 非侵襲的な治療で症状に改善がない場合は,一般的. 領域から出現して広がっており,頸椎単純 MRI 検査で. にEBPが検討される.本症例でも麻酔科と検討したが,. は漏出孔を C 7 に認めていることから,硬膜外に注入. 国内での妊婦に対する EBP 報告例がなく,EBP 後に帝. した局所麻酔薬の一部が頸椎の硬膜損傷部からくも膜. 王切開分娩となった場合に硬膜やくも膜の硬化で麻酔. 下腔に流入した結果,麻痺が生じたと推察した.. 手技の難易度が上昇するという意見や EBP による感染. 特発性脳脊髄液減少症の治療は,. や癒着性神経障害の報告 9)も検討して行わなかった.. ①髄液の漏れを止める:臥床安静,硬膜外自家血パッ. EBP ではなく,硬膜外腔生理食塩水持続注入が EBP 複. チ(epidural blood patch:EBP),硬膜外腔生理食塩水. 数回失敗例に対して有効との報告もあることから 10)11),. 持続注入,フィブリン硬膜外注入,第 XIII 因子の静注. 硬膜外腔生理食塩水持続注入も検討に値する.. ②髄液産生を促す:阻害因子(睡眠障害,胃腸障害,. 本症例は妊娠中及び産褥期の頭部単純 MRI 検査で,. 脱水,栄養障害,ストレス,寝たきり)を除くための. 典型とされる下垂体の腫大や小脳扁桃の下垂は認めな. 良質な睡眠,規則的な食事,水分摂取,適度な運動,. かった.頸椎単純 MRI 検査を有症状時に撮影すること. 輸液. で妊娠中に診断できた可能性もあるが,重症度や発症. ③髄液の補充:人工髄液髄注. 時期と所見の程度は相関するとはされていない.硬膜. 1).

(4) 212. 外腔への麻酔薬注入や分娩が髄液量や髄液圧を回復さ. 日本周産期・新生児医学会雑誌 第 57 巻 第 1 号. 麻酔科と併診の上で検討し,決定する必要がある.. せたと考えており,これらが硬膜外腔の拡大や硬膜の. 結語. 描出,硬膜内部の液貯留描出につながった可能性はあ. 本症例は妊娠 33 週で特発性脳脊髄液減少症を発症. る.. し,保存的治療で症状は消失せず,硬膜外麻酔管理下. 特発性脳脊髄液減少症合併妊娠を Pubmed,医学中. での帝王切開分娩を選択した.術後症状は劇的に改善. 央雑誌を用いて検索し,2000 年から 2020 年までの期間. したが,その要因として硬膜外腔への麻酔薬注入や分. に 13 症例の報告を確認した(表 1)3)12)〜 18).保存的治. 娩が髄液量や髄液圧を回復させたと推察した.妊婦に. 療で 5 症例が改善し,8 症例は EBP により軽快した.. 起立性頭痛という特異的な症状を認めた場合,早期に. 分娩までの詳細を確認できた症例では,妊娠中に症状. 疑って保存的治療を開始し,治療が長期化する場合は. が改善した 9 症例のうち 5 症例は経腟分娩で,3 症例は. 麻酔科と協議を繰り返しながら,分娩まで含めた治療. 患者が分娩様式の説明を受けた上で帝王切開分娩を選. 計画を立てることが必要である.. 択し,1 症例は既往帝王切開術及び横位の適応での帝 王切開分娩であった.周産期予後は良好で再発も認め. 今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態は. なかったが,1 症例(症例 3,4)は次回妊娠時に再発し. ありません. た. .本症例と同様に症状が改善しないまま分娩に至. 14). った 1 症例(症例 13)は,本人の希望により経腟分娩し,. 著者役割. 症状は産褥 6 カ月目に改善した 3).諸報告の中で,積. 藤原ありさ,田浦裕三子,杉浦多佳子,松本恵,蓮尾. 極的に EBP を施行する理由として,ベッド上安静によ. 泰之:論文の執筆に関与. る軽快には平均 3 〜 4 週間要し,その間に静脈血栓症 などのリスクが増大するのに対し,EBP は施行後 1 〜 5 日程度で症状が消失し,少なくとも 1 週間後には身体 運動が可能になるまで改善し,早期退院が可能となる 利点を述べている 13)16)17).また頭痛や嘔吐などの症 状は EBP では完全に消失するが,保存的治療では一部 残存するという報告も見受けられた 16). 本症例のような頭痛症状を有したままでの分娩様式 や帝王切開術の麻酔方法について検討した報告はなか った.治療として妊娠中の EBP も検討したが,麻酔科 の同意が得られず,保存的治療を継続した.分娩様式 は帝王切開希望の 3 症例を除き産科適応で決定され, 帝王切開術を推奨した報告はなかった.今回,正期産 期になっても頭痛が持続し体位の保持が困難であるこ と,初産婦で分娩に時間を要し,怒責により症状の増 悪が懸念されることから帝王切開術による分娩の方針 とした.麻酔方法は硬膜外麻酔を選択したが,局所麻 酔薬を通常量で注入したことにより薬剤がくも膜下腔 に流入し,一時的とはいえ呼吸抑制が生じたことは今 回の反省点となった.時間をかけて少量ずつ麻酔薬を 投与し,麻酔の広がりを確認することで避けられた可 能性がある.脳脊髄液減少症の硬膜外麻酔の際に起こ しうる合併症として念頭におくべきである.なお脊椎 くも膜下麻酔は硬膜損傷による症状の増悪を懸念し今 回選択しなかったが,症例 6 では選択されていた.脳 脊髄液圧を直接測定するため腰椎穿刺が本疾患の診断 手段の 1 つに含まれており,実施も可能と考えられた. 全身麻酔には上記のような合併症や懸念を回避できる 利点がある.有症状での分娩報告はわずか 2 症例であ り,保存的治療で症状が改善しない場合の治療方法及 び分娩様式や麻酔法の選択については個々の症例毎に. 文 献 1) CSF JPAN:脳脊髄液減少症ホームページ <http:// csf-japan.org/>(取得日 2021 . 2 . 5) 2) 橋本洋一郎:脳脊髄液減少症の診断と治療.自律神 経 2020;57:51 - 55 3) 加藤雄一郎,溝口冬馬,谷垣佳子,ほか:妊娠中に 特発性脳脊髄減少症を発症した一例.日本周産期・ 新生児医学会雑誌 2019;55:1052 - 1057 4) 篠永正道:脳脊髄液減少症の診断と治療の実際.新 薬と臨牀 2018;67:62 - 67 5) 荒井元美:特発性低髄圧液症候群が疑われた連続 56 症例の臨床的および画像的診断的特徴と転帰.臨床 神経学 2015;55:623 - 629 6) Basurto Ona X,Osorio D, Bonfill Cosp X: Drug therapy for treating post-dural puncture headache. Cochrane Databade Syst Rev 2015;7:CD 007887 7) 里元麻衣子,長澤実佳,小澤純子,ほか:硬膜外穿 刺後頭痛(PDPH)を生じた術後患者に PL 顆粒 ® が著 効した 2 例.臨床麻酔 2019;43:1505 - 1506 8) 浅井明倫,杉浦健之,藤掛数馬,ほか:帝王切開術 の脊椎くも膜下麻酔に伴う硬膜穿刺後の頭痛に対す る五苓散の有効性に関する後ろ向きの検討.日本ペ インクリニック学会誌 2020;27:108 - 109 9) 長谷川宇希,実藤洋一,神田知枝,ほか:脊椎くも 膜下麻酔後に生じた耳鳴の改善に硬膜外麻酔が有効 であった 1 例.麻酔 2010;59:1254 - 1256 10) 前川紀雅,森本昌宏,森本充男,ほか:脳脊髄液減 少症に対する硬膜外腔への生理食塩液注入法の有効 性.日本ペインクリニック学会誌 2009;16:148 - 52 11) Baysinger CL, Menk EJ, Harte E, et al.:The successful treatment of dural puncture headache after failed epidural blood patch. Anesth Analg 1986;65:1242 - 4 12) Asakura H, Hayashi Z, Sato M, et al.:Spontaneous intracranial hypotension during pregnancy. Obstet Gynecol 2001;97:804 - 805 13) Singh T, Schroeder F, Pereira A, et al.:Antenatal blood patch in a pregnant woman with spontaneous intracranial hypotension. Int J Obstet Anesth 2009;.

(5) 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. 11. 12. 13. 14. Asakura, et al., 2001 12). Singh, et al., 2009 13). McGrath, et al., 2010 14). McGrath, et al., 2010 14). Hashmi, et al., 2014 15). Grange, et al., 2016 16). Ferrante, et al., 2020 17). Ferrante, et al., 2020 17). Ferrante, et al., 2020 17). Ferrante, et al., 2020 17). Ferrante, et al., 2020 17). 瀬戸ら,2000 年 18). 加藤ら,2019 年 3). 林ら,2020 年(自験例). 39. 34. 37. 35. 35. 32. 36. 38. 30. 39. 26. 21. 33. 37. 年齢. 1. 2. 4. 2. 1. 1. 3. 4. 3. 2. 2. 1. 2. 3. 経妊. 0. 1. 3. 0. 0. 0. 2. 3. 2. 1. 1. 0. 1. 2. 経産. 33. 36. 8. 6. 14. 15. 17. 16. 28. 10. 16. 15. 32. 8. 発症妊娠 週数. 38. 39. 記載なし. 37. 37. 39. 38. 38. 36. 記載なし. 記載なし. 正期産. 41. 39. 分娩週数. *症例 3,4 は同一母体.4 は第二児妊娠時.. VD=vaginal delivery, CS=cesarean section, EBP=epidural blood patch. 症例. 報告. CS. VD. 記載なし. CS. CS. VD. CS. VD. CS. 記載なし. 記載なし. VD. VD. VD. 分娩方法. 表 1 妊婦の特発性脳脊髄液減少症発症の治療,分娩報告(2000 年〜 2020 年). 硬膜外麻酔. 記載なし. 記載なし. 記載なし. 有症状 医療者側の選択. 患者の選択. 患者の選択. 患者の選択. 横位 既往 CS. 麻酔. 手術適応. 脊椎くも膜下. 麻酔方法. 起立性頭痛. 起立性頭痛. 起立性頭痛. 起立性頭痛. 起立性頭痛. 起立性頭痛. 起立性頭痛. 起立性頭痛. 起立性頭痛. 起立性頭痛. 起立性頭痛. 起立性頭痛. 起立性頭痛. 起立性頭痛. 主な症状. 安静と輸液. 安静と輸液. 1 カ月安静と輸液. 2 週間後に EBP(25 mL)2 回目. EBP(30 mL)1 回目 → 7 日目に頭痛が再燃,. 20 日間の安静と輸液 → EBP(25 mL)1 回. 16 日間の安静,1 カ月輸液. EBP(30 mL)1 回 → 2 カ月間安静と輸液. → EBP(35 mL)1 回. 16 日間安静と輸液. 2 回(2 週間間隔). 鎮痛剤,制吐剤,EBP(20 mL). 安静と輸液,カフェイン, プレドニン内服. 安静と輸液,鎮痛剤, カフェイン→ EBP(25 mL)1 回. (72 時間間隔). EBP(量記載なし)2 回. →鎮痛剤. 安静と輸液→ 1 週間後 EBP. 輸液と鎮痛剤. 治療. 分娩直後に症状消失. 分娩後徐々に改善し,産褥 6 カ月で 症状消失. 記載なし. 2 回目 EBP 後数時間で症状消失. EBP 後数時間で症状消失. 30 日以内に症状消失. 60 日以内に症状消失. EBP 後数時間で症状消失. 2 回目 EBP 後,48 時間後に症状消失. 4 時間後より徐々に改善し,1 カ月後 に症状消失. EBP 後に症状消失. EBP 後に症状消失. 後に再燃し,3 週間後に症状消失. EBP 後 16 時間で改善したが,数日. 4 週間後に症状消失. 経過. 2021 ( 令和 3 ) 年 5 月 213.

(6) 214. 日本周産期・新生児医学会雑誌 第 57 巻 第 1 号. 18:165 - 168 14) McGrath E, Monaghan TS, Alexader M, et al.: Recurrent spontaneous intracranial hypotension i n e a r l y p r e g n a n c y . C a s e R e p 2010;2010: bcr 0520103040 .doi:10 . 1136 /bcr. 05 . 2010 . 3040 . 15) Hashmi M:Low-pressure headache presenting in early pregnancy with dramatic response to glucocorticoids:A case report. J Med Case Rep 2014;8:115 16) Grange J, Lorre G, Ducarme G, et al.:Iterative. epidural blood patch for recurrent spontaneous intracranial hypotension during pregnancy. J Clin Anesth 2016;34:239 - 243 17) Ferrante E, Trimboli M, Petrecca G, et al.: Management of Spontaneous intracranial hypotension during Pregnancy:A Case Series. Headache 2020;60:1777 - 1787 18) 瀬戸真理子,林端成,渡辺昇一,ほか:低髄液圧症 候群合併妊娠の経験.日本産婦人科学会東京地方部 会会誌 2000;49:23 - 25. A case of idiopathic cerebrospinal fluid deficiency being recovered significantly after Cesarean section Misato HAYASHI,Arisa FUJIWARA,Yumiko TAURA, Takako SUGIURA,Megumi MATSUMOTO,Yasuyuki HASUO Department of Obstetrics and Gynecology, National Hospital Organization Kyushu Medical Center, Clinical Research Institute. We report on a case in which the patient, 39 years old, G 1 P 0 , developed idiopathic CSF hypovolemia in late pregnancy. She developed sudden strong headaches at 33 weeks and 4 days gestation, and was hospitalized. The course could not be diagnosed with imaging examination, therefore we examined the clinical condition of the patient which lead to a diagnosis of cerebrospinal fluid hypovolemia, and treated with conservative treatment. The patient’s condition did not improve and we therefore decided to perform a Cesarean delivery using epidural anesthesia at 38 weeks and 2 days gestation. A temporary respiratory depression occurred during anesthesia, but this was improved during the administration of oxygen. Through a postoperative cervical spine MRI examination a potential perforation near C 7 was found, confirming the diagnosis. The baby was a female, weighed 3 , 006 g, with an Apgar score of 8 points at 1 minute and 9 points at 5 minutes. The mother’s headache was relieved on the first day after surgery and both mother and child were discharged from the hospital without any problems. There is no specific guidelines for the management of idiopathic cerebrospinal fluid deficiency in pregnancy women. If the symptoms are not relieved with conservative treatment, we need to consider long-term management and delivery style individually..

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