91 年報体育社会学 2:91-92,2021 はじめに,書名である『パラスポーツ・ボラ ンティア入門』について少し調べてみた.国立 国会図書館サーチ(NDL サーチ)の 本 の ジャンルで「ボランティア入門」を検索してみ たところ,56件が書名にその文言を用いてい た.主にターゲットを絞った中学生や高校生, シニアのためのボランティア入門や,分野や活 動を特定した福祉ボランティア入門,手話・点 訳ボランティア入門などが多くみられた.障害 者スポーツやパラリンピックに焦点をあてたボ ランティア入門書は見当たらず,本書が唯一の 存在であることを改めて認識した. また,本書を手にして大いに関心を持ったの が,編者のお二人(松尾哲矢氏と平田竹男氏) である.過去のお二人の著書を何冊か拝読させ ていただいているが,これまで共著で出版され たことは無く,分野的にも近いとは感じていな かった.それが,2020年のオリンピック・パ ラリンピック東京大会を前にしてお二人の想い がひとつとなり,本書が誕生したと解釈した. そんなお二人が,どの様な書籍を創り上げられ たのか,とても興味深いし,皆さんにご紹介で きるこの機会を大変光栄に感じている. まず前提として,本書では「パラスポーツ」 「パラスポーツ・ボラティア」を次のように定 義されていることを申し上げたい.「パラス ポーツとは,パラリンピック種目も含め広く障 がい者を対象としたスポーツを意味します.そ してパラスポーツ・ボランティアは,スポーツ ボランティアの一領域であり,パラスポーツの 重要な担い手といえます」(p12).すなわち, 東京2020大会で実施されるパラリンピック 22競技以外も,そして現在パラリンピックへ の参加が認められていない聴覚障がい者や精神 障がい者なども含めた,あらゆる障がい者のス ポーツ推進を考える入門書になっているという ことである. 本書は,編者の2名の他,12名の執筆者が 担当し6章で構成されている(①はじめの一歩, ②ボランティア体験を語る,③パラリンピック を知る,④パラリンピックをつくる,⑤支援を 通して見方は変わる,⑥パラスポーツ・ボラン ティア実践する). 各章ごとに概要を紹介したい.「①はじめの 一歩」では,編者の松尾氏からスポーツボラン ティアに関する現状や認識などの解説があり, 本書の目指すものは何かが明確に述べられてい る.もう一人の編者の平田氏からは,2度目の パラリンピックを迎える日本だからこその,共 生社会の実現に向けた具体的な取組みが,写真 や図などを用いてわかりやすく解説されている. 「②ボランティア体験を語る」では,3名の 執筆者が担当している.堀池桃代氏は,大学3 年次に経験した2016年リオデジャネイロ大会 でのボランティア経験について,当時の現場の 興奮が伝わる写真と共に紹介.2020年東京大
工藤 保子
パラスポーツ・ボランティア入門:
共生社会を実現するために
松尾哲矢・平田竹男 編
旬報社
2019 年 大東文化大学 〒 355-8501 埼玉県東松山市岩殿 560 連絡先 工藤保子Daito Bunka University
560 Iwadono, Higashimatsuyama-shi, Saitama 355-8501 Author Yasuko KUDO
92 会都市ボランティアでの活動が決まっている明 石光子氏は,自身が既に行っているボランティ アやガイドの経験を踏まえて都市ボランティア の魅力を紹介.伊藤数子氏は,2003年のパラ スポーツとの出会いを含め,スポーツボラン ティアの魅力について紹介している. 「③パラリンピックを知る」では,ゴール ボール日本女子代表の若杉遥氏,元車いす陸上 日本代表の千葉祗暉氏,元競泳の視覚障害クラ ス代表で,日本人初の「パラリンピック殿堂」 入りを果たした,日本パラリンピアンズ協会会 長の河合純一氏の3名が,パラリンピックへ 挑戦した経験,パラリンピックや障がい者を取 り巻く日本の現状,そしてパラリンピックの可 能性について,当事者自身の言葉で伝えてくれ ている.「共生社会」の扉を開くためのヒント や気づきが数多く語られている. 「④パラリンピックをつくる」では,松尾氏 からパラリンピックの歴史とフィロソフィーを, 荒井秀樹氏からは1998年の長野パラリンピッ ク冬季大会に向けて始まった選手強化の取組み と日本の課題を,櫻井誠一氏からは長年障がい 者の水泳指導に関わった経験から求められる支 援力と受援力について,中澤公孝氏からはパラ リンピアンの脳を科学すると題して,それぞれ 解説している.4名の報告や取組みについて読 んでいると,2020年東京パラリンピックまで の道のりが,とてつもない努力によって成り 立っていることを改めて痛感させられる.櫻井 氏が紹介した「2019年度兵庫県選手権水泳競 技大会」に,健常者とともに障がい者が参加し 競技できた事例のように,欧米では既に行われ ていることが,日本全国でも当たり前になるた めには,これまでの県民大会・市民大会の在り 方や構造を再考するきっかけに,東京2020大 会がなることを切に願いたい. 「⑤支援を通して見方は変わる」では,メ ディアの立場で太田慎也氏(WOWOW『WHO I AM』チーフプロデューサー)と結城和香子 (読売新聞編集委員)が担当している.太田氏 か ら は, 有 料 の 衛 星 放 送 局 のWOWOWが IPCと共同でパラリンピックを題材に5年をか けてドキュメンタリーシリーズに取組んだ目的 や得られた知見を紹介.結城氏は,取材をはじ めた2000年シドニーパラリンピックからの取 材に裏付けられた知見を紹介.この2人だか らこその内容が多数盛り込まれており興味深い. 最後の「⑥パラスポーツ・ボランティア実践 する」は,編者の松尾氏が述べるところの,本 書の後半部分に該当する.パラスポーツ・ボラ ンティアに着目し,その意義と可能性,文化と しての広がりとその方策を整理し,提示してい る.さらにボランティア活動の具体的な実践方 法を,視覚障がい者(白 ユーザー)と身体障 がい者(車いすユーザー)の日常生活編・ス ポーツ編に分けて,イラストでわかりやすく解 説している. 本書の価値は,単なるボランティアの入門書 ではなく,パラリンピックや障がい者スポーツ を通じて,すべての人が自分らしく生きていけ る共生社会を実現するために,ボランティア文 化を醸成することにあると私は考える. 最後に,本書の帯にはマラソンのオリンピア ンであり,(公財)日本障がい者スポーツ協会 の評議員で,(一社)日本パラ陸上競技連盟の 会長も務める増田明美氏が,次のような言葉を 寄せている.「スポーツを支える力は,社会を 支える力になる!この本には,あなたの力で社 会を変えるヒントがいっぱいあります」と. 2020年の東京パラリンピックのレガシーと して,本書が目指す「パラスポーツ・ボラン ティア文化」が育まれ,共生社会の実現に向 けて社会が一層動き出すことを,『スポーツを 支える力』に期待したいと強く思わせる一冊 である.