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主債務者が中小企業者の実体を有しないと判明した場合における信用保証協会の錯誤

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主債務者が中小企業者の実体を有しないと

判明した場合における信用保証協会の錯誤

野 口 大 作

最高裁第 ₁ 小法廷平成₂₈年₁₂月₁₉日判決(平₂₇(受)第₁₃₉₄号、不当利得返還請求事件) (判時₂₃₂₇号₂₁頁、判タ₁₄₃₄号₅₂頁、金判₁₅₀₈号₂₈頁・₁₅₁₃号₄₈頁、金法₂₀₆₆号₆₈頁、集民 ₂₃₂₇号₂₁頁) (第 ₁ 審:金沢地裁平成₂₅年₁₁月₁₄日判決、第 ₂ 審:名古屋高裁金沢支部平成₂₇年 ₅ 月₁₃日 判決)  本件は、信用保証協会 X が、金融機関 Y との信用保証契約に基づき、主債務者 A 社 の借入金債務を代位弁済したところ、A は B に事業譲渡を行い、保証契約締結時には融 資保証の資格である中小企業者の実体を失っていたため、XY 間の保証契約は民法₉₅条 の要素の錯誤により無効であると主張して、Y に対して、不当利得返還請求権に基づき 代位弁済金等の返還を求めた事案である。最高裁は、最判平成₂₈年 ₁ 月₁₂日を引用した 上で、①本件のような場合に保証契約を一律に無効とすると、金融機関が中小企業者へ の融資を躊躇し、金融の円滑化という信用保証協会の目的に反する事態を生じかねない こと(政策的理由)、② X と Y が、主債務者が中小企業者の実体を有しないことが後に 判明すれば保証契約を無効とすることを前提としていたとはいえない以上、A が中小企 業者の実体を有するという X の動機は、表示されていたとしても、保証契約の内容とは なっていなかったとして、₉₅条の要素の錯誤による無効を否定した。しかし、本件事案 は、₁ 月判決の事案とは異なり、主債務者が中小企業者の資格を有することが保証契約 の当事者の前提となっていたと言える事案であり、その結論については反対せざるをえ ない。 《事実の概要》  Y 銀行と X 信用保証協会は、昭和₃₈年 ₉ 月、信用保証に関する基本契約を締結して取引 を開始し、その約定書には、Y が保証契約に違反したときは、X は保証債務を免れるとの免 責条項を定めたが、保証契約締結後に主債務者が中小企業者の実体を有しないことが判明し た場合等の取扱いについては定めていなかった。  Y は、平成₁₆年~₁₇年に、牛乳等の小売業を営んでいた A 社から保証委託を受けた X と の間で各々₄ 回保証契約を締結し(機関経由保証)、A に合計₆₉₃₀万円を貸し付けた(本件 貸付時点での残債務は、₂₇₆₈万円₂₀₀₀円)。その後、Y は、平成₂₀年 ₈ 月、再度 A から融資

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の依頼を受け、先の既存借入金の借換え及び追加融資として₅₀₀₀万円の貸付けについて、同 年₁₂月₁₁日、X に信用保証を依頼したところ、資金繰り円滑化借換保証制度の要件を具備し ていなかったことから、セーフティネット保証制度1に変更し、A は、同制度利用に必要な 小松市長による認定を同月₁₆日に受けて、A が作成した信用保証委託申込書のほか、Y 作成 の信用保証依頼書及び認定権者欄に指定業種(飲食料小売業)・兼業無と記載した認定申請 書(いわゆる、認定権者である小松市長の証明のある認定書)を添付して、同制度を X に 申し込んだ。そこで、同月₂₉日、XA 間では信用保証委託契約、XY 間では信用保証契約が 締結され、平成₂₁年 ₁ 月 ₉ 日に、Y は、A 社に対して₅₀₀₀万円を貸し付けた。  ところが、A は、保証契約に先立つ平成₂₀年₁₂月₁₈日、事業を B に₇₃₂万円で譲渡する契 約を締結し、B は同日手付金₁₀₀万円を払った後、₂₆日には残代金のうち₅₃₂万円を支払い、 事業譲渡手続の大部分については完了したにもかかわらず、Y 及び X は、本件保証契約の 締結(₁₂月₂₉日)及び貸付け( ₁ 月 ₉ 日)の時点でその事実を知らなかった。  A は、平成₂₁年 ₇ 月以降、Y に弁済をしなかったため、X は、平成₂₂年 ₃ 月、保証契約の 履行として、Y に₄₉₂₅万₉₂₄₅円を代位弁済したが、後に、A が保証契約締結当時、信用保証 の対象となる中小企業者の資格を失っていたことが判明し、信用保証契約締結の意思表示に は要素の錯誤があるとして保証契約の無効を主張し、Y に対して、不当利得返還請求権に基 づき代位弁済金等の返還を求めた。  第 ₁ 審は、本件保証契約は、セーフティネット保証制度に基づくものであり、特定業種の 事業者が一定の要件を満たす場合に、市町村長から中小企業信用保険法第 ₂ 条 ₄ 項 ₅ 号の規 定による指定を受けることを前提としていたことから、中小企業者が市町村長から指定を受 けた事業者であることは、信用保証協会が保証契約を締結するための重要な要素であり、本 件保証契約の締結及び貸付けの時点では、A は事業譲渡によって牛乳小売事業者としての実 体を失っていたことから、本件保証契約は、X においてその重要な部分に要素の錯誤があっ たとして、保証契約の錯誤無効を肯定した。なお、裁判所は、本件の弁済受領と貸付契約が 錯誤により無効との Y による主張を認めたうえ、既存貸付金の残債(₂₇₆₈万₂₀₀₀円)にお ける保証債務と X の不当利得返還請求権(₄₉₂₅万₉₂₄₅円)の相殺の抗弁を認めて、残額 ₂₁₅₇万₇₂₄₅円の請求のみ認容したところ、X が控訴し、Y が附帯控訴した。  原審は、保証契約における錯誤について、₁ 審判決理由をそのまま引用し保証契約の錯誤 無効を肯定したが、本件保証契約と貸付に係る金銭消費貸借契約、既存貸付に係る金銭消費 貸借契約又は既存保証契約は、相互に法的には別個の契約であり、経済的に一部関連してい るとはいえ、本件保証契約の錯誤無効は他の契約の無効を来さないとして、X の Y に対す る不当利得返還請求の全額(₄₉₂₅万₉₂₄₅円)を認めた。Y が上告受理を申立。 1  全国的に業況の悪化している一定の業種に属する事業を行う中小企業者に対し、通常の信用保証とは別枠で 信用保証を行う制度であり、経営安定関連保証制度ともいう。事業者が信用保証協会のセーフティネット保証制 度を利用して金融機関から融資を受けるに当たっては、法人の場合には、登記上の住所地又は事業実体のある事 業所の所在地の市町村の長から中小企業信用保険法第 ₂ 条 ₄ 項 ₅ 号の規定による認定を受ける必要がある。

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〔関係図〕 《判旨》破棄自判  「信用保証協会は、中小企業者等に対する金融の円滑化を図ることを目的とし(信用保証 協会法 ₁ 条)、中小企業者等が金融機関に対して負担する債務の保証等を業務としている(同 法₂₀条 ₁ 項)。したがって、信用保証協会が保証契約を締結し、金融機関が融資を実行した 後に、主債務者が信用保証の対象となるべき中小企業者でないことが判明した場合には、信 用保証協会の意思表示に動機の錯誤があるということができる。意思表示における動機の錯 誤が法律行為の要素に錯誤があるものとしてその無効を来すためには、その動機が相手方に 表示されて法律行為の内容となり、もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしな かったであろうと認められる場合であることを要する。そして、動機は、たとえそれが表示 されても、当事者の意思解釈上、それが法律行為の内容とされたものと認められない限り、 表意者の意思表示に要素の錯誤はないと解するのが相当である(最高裁平成₂₆年(受)第 ₁₃₅₁号同₂₈年 ₁ 月₁₂日第三小法廷判決・民集₇₀巻 ₁ 号 ₁ 頁等参照)。  本件についてこれをみると、本件保証契約の締結前に、本件会社が事業譲渡によって本件 制度の対象となる中小企業者の実体を有しないこととなっていたことが判明していた場合に は、これが締結されることはなかったと考えられる。しかし、金融機関が相当と認められる 調査をしても、主債務者が中小企業者の実体を有しないことが事後的に判明する場合が生じ 得ることは避けられないところ、このような場合に信用保証契約を一律に無効とすれば、金 融機関は、中小企業者への融資を躊躇し、信用力が必ずしも十分でない中小企業者等の信用 力を補完してその金融の円滑化を図るという信用保証協会の目的に反する事態を生じかねな い。そして、Y は融資を、X は信用保証を行うことをそれぞれ業とする法人であるから、主 債務者が中小企業者の実体を有しないことが事後的に判明する場合が生じ得ることを想定で き、その場合に X が保証債務を履行しないこととするのであれば、その旨をあらかじめ定 めるなどの対応を採ることも可能であったにもかかわらず、本件基本契約及び本件保証契約 等にその場合の取扱いについての定めは置かれていない。これらのことからすれば、主債務 者が中小企業者の実体を有するということについては、この点に誤認があったことが事後的 に判明した場合に本件保証契約の効力を否定することまでを Y 及び X の双方が前提として いたとはいえないというべきである。このことは、主債務者が本件制度の対象となる事業を 行う者でないことが事後的に判明した場合においても異ならない。  もっとも、金融機関は、信用保証に関する基本契約に基づき、個々の保証契約を締結して

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融資を実行するのに先立ち、主債務者が中小企業者の実体を有する者であることについて、 相当と認められる調査をすべき義務を負うというべきであり、Y がこのような義務に違反 し、その結果、中小企業者の実体を有しない者を主債務者とする融資について保証契約が締 結された場合には、X は、そのことを主張立証し、本件免責条項にいう金融機関が「保証契 約に違反したとき」に当たるとして、保証債務の全部又は一部の責めを免れることができる と解するのが相当である(前掲最高裁平成₂₈年 ₁ 月₁₂日第三小法廷判決参照)。  以上によれば、本件会社が中小企業者の実体を有することという X の動機は、それが表 示されていたとしても、当事者の意思解釈上、本件保証契約の内容となっていたとは認めら れず、X の本件保証契約の意思表示に要素の錯誤はないというべきである。」 《研究》 1 .はじめに  本件における主な争点は、信用保証協会が、主債務者がセーフティネット保証制度を利用 できる資格を欠くに至ったにもかかわらず、その資格を有すると誤認したことは、保証契約 における動機の錯誤か、動機の錯誤としても、民法₉₅条の要素の錯誤に該当するかである。 信用保証協会と金融機関の間における信用保証契約における錯誤については、本判決が引用 しているとおり、すでに最判平成₂₈年 ₁ 月₁₂日民集₇₀巻 ₁ 号 ₁ 頁(以下、「 ₁ 月判決」という) が下されていることから、両者を比較しながら検討する2。なお、本件においても、₁ 月判決 と同様、本件保証契約が要素の錯誤で無効でないとしても、信用保証の基本契約上の免責条 項に該当するかが問題となるはずであるが、本件では、₁ 月判決とは異なり、X が免責条項 該当性を正面から主張していないことから、争点とはなっていない(ただし、本判決は、判 旨において、いわゆる傍論として ₁ 月判決を引用している)。 2 .民法95条の錯誤該当性判断に関する検討 ( 1 )主債務者が中小企業の実体を有するとの誤認は、動機の錯誤に該当するか  本件は、保証人である信用保証協会が、主債務者はセーフティネット保証制度を利用でき る資格を有すると誤認した場合であり、主債務者の身分や資産の誤認、主債務者が反社会的 勢力ではないとの誤認と同様、主債務者に関する事情(属性)の誤認であって、本判決が、 人の性状に関する錯誤としてあくまで動機の錯誤にすぎないとしたのは正当である。 ( 2 )動機錯誤の民法95条要素の錯誤該当性判断 ①本件事案と 1 月判決事案の比較  まず、両事案とも、当事者が金融機関と信用保証協会であり、前述のとおり、主債務者に 関する事情(属性)の誤認として動機の錯誤が問題となっている点では共通している。しか し、本件では、問題となっている保証契約における動機は、「セーフティネット保証制度の 利用資格を有する中小企業の実体を有する会社」(肯定的動機)であり、他方、₁ 月判決の事 2   ₁ 月判決の判例研究については、野口大作「主債務者が反社会的勢力であると判明した場合における信用保 証協会の錯誤と保証契約免責条項該当性の判断」末川民事法研究 ₂ 号₇₃頁を参照。

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案における動機は、「反社会的勢力ではないこと」(否定的動機)であり、動機の種類は異なっ ている3  次に、本件では、基本契約及び保証契約書等に、主債務者が中小企業者の実体を有しない ことが事後的に判明した場合には、信用保証協会は保証債務を履行しないなどとする定めは なく、₁ 月判決の事案でも、主債務者が反社会的勢力であることが事後的に判明した場合に は、信用保証協会は保証債務を履行しないなどとする定めはなかった点で共通する。しかし、 本件では、貸付に際して、通常の信用保証ができないために、わざわざ別枠の特別なセーフ ティネット保証制度に変更し、主債務者が同制度を利用するためには、市町村長から中小企 業信用保険法 ₂ 条 ₄ 項 ₅ 号の規定による指定を受けなければならず、主債務者である A は、 その指定を受けて、認定権者欄に指定業種・兼業無との記載のある認定申請書(認定書)を 信用保証依頼書(金融機関 Y が作成)に添付していた。A は、この₁₂月₁₆日付の認定書が なければ、セーフティネット保証を受けられなかったのであり、この認定書が、金融機関 Y が作成した信用保証依頼書に添付されることよって、A はセーフティネット保証制度を利用 できる資格を有することが明示されていた。これに対して、₁ 月判決の事案においては、信 用保証依頼書等には、未だ反社会的勢力排除条項はなく4、主債務者が反社会的勢力ではな いとする誓約書等の書類の添付もなかったのであり、少なくとも、書類上は、主債務者が反 社会的勢力ではないことを明確に表示するものは、ほとんど存在しなかったといってよい。 ②本判決判旨と 1 月判決判旨の比較  まず、両判決とも、動機の錯誤について、大審院以来の、動機の錯誤と要素の錯誤を峻別 し、一定要件を充たす場合についてのみ、例外的に民法₉₅条の錯誤として無効とする判例準 則(二元論)を踏襲している。すなわち、大審院及び最高裁は、大判大正 ₃ 年₁₂月₁₅日(民 録₂₀輯₁₁₀₁頁、抵当権家屋価格錯誤事件)以来、大判大正 ₆ 年 ₂ 月₂₄日(民録₂₃輯₂₈₄頁、 受胎馬錯誤事件)を経て、次の ₄ 要件(①~④)を維持しつつ、事案によって、₄ 要件のう ちのいずれかを重視して判断してきたと言ってよい。 ₄ つの要件とは、①動機の表示(明示 または黙示)、②法律行為(契約)の内容化、③動機の主観的重要性(因果性)=「錯誤が なかったならば、表意者は、その意思表示をしなかったであろう」、④動機の客観重要性(合 理性)=「錯誤がなかったならば、通常人においても、その意思表示をしなかったであろう」 (取引通念に照らしても合理的だと認められる場合)である5 3  前者は、中小企業者の資格を有するから貸付を行う、保証するなどといった積極的動機といってよく、動機 は表示されやすいといえようが(特に、本件では、セーフティネットという特別融資であることから、動機の表 示は認定しやすい)、他方、後者は、反社会的勢力ではないから貸付を行う、保証するといった消極的動機といっ てよく、一般的に融資の対象である主債務者の多くが反社会的勢力ではないことから、動機がとりたてて表示さ れることは少ないと言ってよいのではないか。 4  ただし、₃ 回目の貸付における主債務者と信用保証協会間の信用保証委託契約書には、委託者または保証人は、 現在、暴力団・暴力団関係企業等のいずれにも該当しないことを表明し、かつ将来にわたっても該当しないこと を確約するとの反社会的勢力排除条項が存在していた(民集₇₀巻 ₁ 号₆₂・₆₆頁)。なお、₁ 月判決における信用 保証契約の締結は、金融機関からの保証依頼書による保証依頼及び信用保証委託契約の締結日から ₂ 週間後に行 われている。 5  野口・前掲注 ₂ )「 ₁ 月判決判批」₇₇頁の本文及び注 ₅ ~ ₇ 。なお、野口大作・髙森八四郎「空クレジット契 約・空リース契約における連帯保証人の錯誤―最高裁平成₁₄年 ₇ 月₁₁日第一小法廷判決を中心にして―」関法₅₃ 巻 ₄・₅ 合併号₂₀₅頁以下も参照されたい。

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  ₁ 月判決は、上記の判例準則を踏まえ、最高裁の二つの先例6を引用しながら合わせて一 本化した。すなわち、動機の錯誤が要素の錯誤として無効となるためには、「動機が相手方 に表示されて法律行為の内容となり、もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をし なかったであろうと認められる場合」(主に①の表示要件と②の主観的重要性要件を示す最 判平成元年の引用)とし、「動機は、たとえそれが表示されても、当事者の意思解釈上、そ れが法律行為の内容とされたものと認められない限り」(②の内容化要件を重視する最判昭 和₃₇年の引用)、要素の錯誤はないとした。これは、上記の①~④の各要件を全て充足しな ければ、要素の錯誤として保護しない態度を最高裁として改めて明確にしたと評価してよ い7。事案へのあてはめとしては、保証契約の締結前に主債務者が反社会的勢力であること が判明していた場合には、保証契約が締結されることはなかったとして、③の主観的重要性 要件の充足は認めながらも(④の客観的重要性要件には触れていないが、充足すると考えて 問題ないであろう)、①の表示要件については、「動機は、それが明示又は黙示に表示されて いたとしても」と判示して、「動機の明示」の明確な認定はなく、「黙示の表示」についても、 触れていない。②の内容化要件については、ア、保証契約は、主債務者がその債務を履行し ない場合に保証人が保証債務を履行することを内容とするものであり、主債務者が誰である かは同契約の内容である保証債務の一要素となるものではあるが、主債務者が反社会的勢力 でないことは主債務者に関する事情であって当然に契約の内容とはならないし、イ、主債務 者が反社会的勢力でないことが判明した場合には保証契約の効力を否定するとの定めがな かった以上、主債務者が反社会的勢力でないことが契約の前提または内容となっていたとは いえないとして、最高裁は、要素の錯誤を否定している。  本判決も、₁ 月判決を引用していることから、基本的に同じ判断構造であり、動機の錯誤 が法律行為の要素に錯誤があるとして無効となるためには、①の表示要件と③の主観的重要 性の要件(④の客観的重要性の要件も)をともに充足し、かつ②の内容化要件も充足するこ とが必要であり、₁ 月判決と同様に、動機は、たとえそれが表示されても(①の表示要件を 充たしても)、当事者の意思解釈上、それが法律行為の内容とされたものと認められない限 り(②の内容化要件を充足しない限り)、表意者の意思表示に要素の錯誤はないと強調して いる。本件事案へのあてはめとしては、保証契約の締結前に、A が B への事業譲渡によっ てセーフティネット保証制度の対象となる中小企業者の実体を失っていたことが判明してい た場合には、これが締結されることはなかったとして、③の主観的重要性の要件の充足を認 めながらも(④の客観的重要性要件には触れていないが、充足すると考えて問題ないであろ う)、①の表示要件については、₁ 月判決と同様に、「動機は、それが表示されていたとして も」と判示して、「動機の明示」の明確な認定はなく、「黙示の表示」についても、触れてい ない。②の内容化要件の充足については、ア、金融機関による相当な調査が行われたが、主 債務者が中小企業者の実体を有しないことが判明した場合に信用保証契約を無効とすれば、 金融機関は中小企業者への融資を躊躇し、中小企業者等への金融を図る信用保証協会の目的 に反する事態となりかねないこと(政策的理由)、イ、基本契約及び保証契約等において、 6  最判昭和₃₇年₁₂月₂₅日集民₆₃号₉₅₃頁、最判平成元年 ₉ 月₁₄日集民₁₅₇号₅₅₅頁。 7  中村肇「 ₁ 月判決判批」金法₁₅₁₃号₁₁頁は、₁ 月判決について、動機表示構成および内容化重視説に立つこと を明確にしたとし、同₁₂頁では、動機の表示と内容化を峻別した準則と評している。

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主債務者が中小企業者の実体を有しないことが判明した場合には、保証契約の効力を否定す るとの定めがなかった以上、主債務者が本件制度の対象となる事業を行う者でないことが事 後的に判明した場合に保証契約の効力を否定することまでを双方が前提としていたとはいえ ないと判示して、要素の錯誤を否定している。本判決では、₁ 月判決に比して、②の内容化 要件不充足の理由に、錯誤無効としたときの融資制度への社会的影響を新たに追加している が、これは、政策的理由にすぎないし、かつその根拠は浅薄で(後述)、また、錯誤無効を 回避すべきというだけで、②の内容化要件不充足の理由としては全く不十分である。 ③検討  本件で特に注目すべきは、①の事案の比較のところで指摘したように、通常の信用保証が できないために、市町村長の認定が不可欠で特別なセーフティネット保証制度の利用に変更 し、市町村長による信用度の高い公的資格認定書が金融機関 Y 作成の信用保証依頼書に添 付されていたことである。  これは、第 ₁ に、AX 間の信用保証委託契約に関していえば、A が本制度を利用できる資 格を有することを公的証明書で明示していることになり(信用保証委託契約における①の表 示要件は充足している)、また、A が特定業種を営んでいる実体の存在と市町村長によるそ の認定がなければ、本件セーフティネット保証を得られなかった(信用保証委託契約は締結 されなかった)のであり、③の主観的重要性の要件も(併せて④要件も)充足する。②の内 容化要件についても、セーフティネット保証委託契約においては、主債務者である A が自 らの資格を明示し、その資格がなければ本制度が受けられないのであるから(認定書の添付 が必要条件)、両当事者にとって、資格の存在が当然の前提となっていたといってよい。す なわち、信用保証委託契約においては、①~④要件は全て充たされ、要素の錯誤は当然成立 する(同時に、主債務者 A の X に対する詐欺も成立すると考えられる)。  第 ₂ は、X と Y の間の保証契約において、これらをどう評価すべきかである。確かに、 保証委託契約と保証契約とは別個独立した契約であり、通常、一方の無効は他に影響しない と考えられている。したがって、保証委託契約が錯誤で無効となっても、ただちに保証契約 は無効とはならない。しかし、本件保証契約は、金融機関経由保証であること、A が中小企 業の実体を有しかつ市町村の認定を受けた特定事業者であることを、Y 作成の信用保証依頼 書に証明書として添付していること(Y も A に資格があることを根拠として X にセーフティ ネット保証を依頼している)、保証契約書自体に保証委託契約書及び認定書が添付されてい たか、かつ AXY の ₃ 者が同席して両契約が締結されたのか不明であるものの、AX 間の保 証委託契約と XY 間の保証契約は同日に締結されていることなどから、保証契約においても、 上記の ₄ つの要件を充たしているのではないか。つまり、添付された認定書によって、主債 務者がセーフティネット保証の対象である中小企業者であるとの動機が明示されていること から、①の表示要件は当然充たされ、また、中小企業の実体をすでに失っている者に対して 金融機関が融資することはほとんどなく8、信用保証協会がその保証を行うことは中小企業 8  金山直樹「本件判批」私法判例リマークス₅₆号₂₄頁、同「保証人の錯誤問題―諸判決の個別的検討」法学研 究₉₁巻 ₂ 号₂₁₇頁は、セーフティネット保証制度を利用する資格がなかった以上、YA 間の融資契約は当然無効と なり、XY 間の保証契約も、主債務を欠くものとして、目的不存在のゆえ当然無効となるとしている(正確には、 保証契約の付従性であろう)が、YA 間の融資契約が直ちに無効となる理由については、何ら述べられていない。

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の救済というセーフティネット保証制度の趣旨からありえないことから、③の主観的重要性 と④客観的重要性は当然充たしている。さらには、②の内容化要件についても、充たしてい るといってよい。なぜならば、セーフティネット保証制度自体が、主債務者に一定の資格を 課しているのであり、それを保証契約の両当事者である Y も X も熟知しているのみならず、 市町村長の信用力ある公的認定書の添付によって、X と Y は、A が中小企業の実体を有す るセーフティネット保証制度の有資格者であることを疑う余地もないほど、XY が当然のこ とと思考している(前提)といえるからである。  ところが、最高裁は、動機の錯誤を₉₅条の要素の錯誤として表意者を保護する基準を自ら 明確に示しているにもかかわらず、具体的事案に関して、その基準を忠実にあてはめて判断 していない。すなわち、③の主観的重要性の要件については、明確に認定しているものの、 ①の表示要件については、前述のように、「動機の明示」または「黙示の表示」の有無を明 確に認定していない9。また、②の内容化要件については、理論的理由として、主債務者 A が中小企業者の実体を有するとの誤認が事後に判明したときに、保証契約の効力を否定する ことまでも XY の双方が前提としていたとはいえないことを挙げているが問題である。判例 の文言をそのまま反対解釈すれば、主債務者 A の資格に関する誤認が事後に判明した場合 に保証契約の効力を否定する旨を契約書等で記載した場合には、双方の前提となることにな るが、これはいわゆる解除条件付の保証契約となるのであって、この場合には、もはや前提 とは異なり10、誤認が事後に判明したならば、ストレートに解除条件の成就によって保証契 約は無効となるのであり、錯誤が入り込む余地はなくなる11。さらには、②の内容化要件の 認定に、信用保証協会の目的を害するという政策的理由をいきなり持ち出してきているが、 この政策的理由もナンセンスである。今回の最高裁判決が基準になるとすれば、信用保証協 会は、すべての信用保証契約において、主債務者が中小企業者の実体を有することを保証契 約締結の条件(停止条件または後に実体がなかったことが判明すれば保証契約を負わないと の解除条件)として付けることになるであろう。そうなれば、金融機関は中小企業への融資 を躊躇することになり、かえって中小企業は融資を受けられにくくなるのではないか12。今 回の事案に対しては、錯誤無効と判断し(すべての類似事案に対して一律に無効とするので はなく、今回の事案を無効とするだけである)、金融機関の調査の強化を促進させるべきで ある。金融機関は、信用保証協会の保証が得られることをよいことに、主債務者に対する詳 9  ただし「本件会社が中小企業者の実体を有することという X の動機は、それが表示されていたとしても、」と いう判旨の文言からすれば、表示はすでに認めていると解する余地はある。実際、検討したとおり、本件では、 表示については、認定書によって明示があったといってよいであろう(なお、₁ 月判決においては、主債務者が 反社会的勢力でないという消極的動機であるから、保証契約における明示の認定は困難であろうが、当時の社会 状況から黙示の認定を認めていると解する余地はある。なお、₃ 回目の融資に対する保証契約においては、保証 委託契約における動機の明示から、保証契約にも明示を認定できるのではないか)。 10 条件は、契約当事者が一定の事実(未来の事実)の発生・不発生が不確実な場合に付加されるものであり、そ の条件に効力が認められて(条件の成就・不成就)、契約全体が有効・無効とされる。他方、前提は、契約当事 者が一定の事実(過去または現在の事実)の存在または不存在を疑いもなく当然確実と思考した場合に付加され るものであり、その欠如(前提欠如)があれば、契約全体が無効とされる附款の合意である(野口=髙森・前掲 注 ₅ )₂₃₂頁)。前提について、より詳しくは、髙森八四郎「錯誤と 「前提」 理論について」植木哲編・髙森八四 郎先生古稀記念論文集 『法律行為論の諸相と展開』(法律文化社、₂₀₁₃年)₁ 頁以下を参照されたい。 11 金山・前掲注 ₈ )「本件判批」₂₄頁、武川幸嗣「錯誤法の意義と限界に関する一考察―保証契約における 「法律 行為の内容化」 を中心に―」法学研究₉₁巻 ₂ 号₁₇頁。 12 金山・前掲注 ₈ )「本件判批」₂₄頁、同・前掲注 ₈ )論文₂₁₅頁は、最高裁の見方は偏っているとし、中小企業 者の資格を有するという条件を契約条項に明文で付した場合と錯誤無効を認めた場合とで融資収縮の影響には変 わりがないと指摘している。

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細な信用調査を行わず、破産寸前の主債務者に安易に多額の融資を行っているケースがあ り、これを助長すべきではない(本件において、事業譲渡額が₇₀₀万円程度にもかかわらず、 融資額は、既存貸付₆₉₀₀万円、本件貸付₅₀₀₀万円というのは巨額である)。また、下級審に おける類似の事件の多くは、本件と同様、金融機関の不十分な調査と信用保証協会の保証が 盾に取られて、金融機関及び信用保証協会が詐欺にあっているのであり13、これを防ぐ意味 でも、本件のような事案の場合に信用保証協会の信用保証を有効にすべきではない。さらに 言えば、信用保証協会には国民の税金が投入されているのであり、最高裁が、信用保証協会 の保証責任を安易に認めることは、金融機関のモラルハザードを招くとともに、国民の税金 の無駄使いを見過ごすことになるのではないか。本判決において、最高裁は、免責条項を傍 論で持ち出し、過失相殺的に解決でき、モラルハザードを回避しようとしているのであろう が、₁ 月判決の差戻審における免責条項該当性の判断には問題が存在し14、実際に免責約款が 過失相殺的に機能できるかについてはかなり疑問がある。また、本件のように免責事由が争 点にされなければ、全く機能しないのである15 3 .本判決に対する評価  以上、₁ 月判決については、免責条項に関する差戻審の結論に疑問があったものの、内容 化要件を決め手として錯誤を否定する理論構成に関しては、私見と照らしても、賛成できる ところはあった。しかし、本件の事案は、₁ 月判決の事案とは明らかに異なるのであり、本 判決がこれを見過ごして、₁ 月判決と同様、民法₉₅条要素の錯誤を否定した判断については、 極めて疑問であり、私は、本判決に対しては、反対である16。私見では、主債務者の事情(動 機)は、いかなる意味でも保証契約の本質的な効果意思の内容とはならない以上、それが表 示されても、意思と表示の不一致たる錯誤は生じえないが、主債務者の事情が契約書等に明 示されていた場合等には、各当事者の非本質的効果意思の内容として、本質的効果意思の効 力の発生・不発生に影響を与える独立の附款としての条件または前提と合意されているとみ るべき場合があり17、本件では、前提の欠如として、保証契約の無効を認めるべきと解する。 13 融資金詐欺に関する下級審判決の動向については、岩川隆嗣「動機の錯誤のリスク負担―最判平成₂₈年₁₂月₁₉ 日の分析を通じて―」北法₆₈巻 ₆ 号₃₅₂頁に詳しく紹介されている。本件においては、A の欺罔行為が明確であ るため、Y の調査が不十分であったならば、₁ 月判決に比して、第三者詐欺の成立可能性が高いであろう。野口・ 前掲注 ₂ )「 ₁ 月判決判批」₈₁頁を参照。 14 野口・前掲注 ₂ )「 ₁ 月判決判批」₈₀頁。 15  ₁ 月判決や本判決のような場合について、金山・前掲注 ₈ )「本件判批」₂₅頁は、オール・オア・ナッシングで ある錯誤論による解決には限界があるとし、契約締結補助者の理論等で割合的に解決することを主張している (詳しくは、同「保証契約締結前の義務と契約締結補助者の理論」法曹時報₇₀巻 ₄ 号₁₀₃₃頁)。 16 本判決に明確に反対する評釈としては、金山・前掲注 ₈ )「本件判批」₂₃頁がある。このほか、本判決に対する 評釈として、池田真朗・民事判例₁₅(₂₀₁₇年前期)₈₆頁、近江幸治・判評₇₀₇号 ₂ 頁、大木満・明治学院大学法 律科学研究所報₃₄号₂₀₁頁、久保野恵美子・法教₄₄₀号₁₄₈頁、下村信江・金法₂₀₇₃号₃₇頁、竹中悟人・ジュリ ₁₅₁₈号(平成₂₈年度重判)₆₅頁、西内康人・金法₂₀₈₁号₄₆頁、松尾弘・法セ₇₅₁号₁₁₈頁などがある。 17 私見によれば、本件においては、解除条件が付されていないけれども、中小企業の実体を有する有資格者とし ての信用度の高い公的証明書の添付によって、主債務者がその資格を有することについて、両当事者が疑う余地 もなくその資格を有する者と確実視していたといえるから、双方の主観的前提として認めてよいのである。私見 については、野口・前掲注 ₂ )「 ₁ 月判決判批」₇₈・₇₉頁も参照されたい。なお、動機の契約内容化の判断基準に ついて、金山直樹「保証人の錯誤問題―判断基準の探求―」松久三四彦=後藤巻則=金山直樹ほか編・瀬川信久 先生=吉田克己先生古稀記念論文集『社会の変容と民法の課題〔上巻〕』(成文堂、₂₀₁₇年)₄₉₁頁が、従来の学説 における「要素・常素・偶素」概念によって明らかにしようとしている。しかし、従来の ₃ 分法は、確かに有益 ではあるものの、₃ 分法による理解には限界があるが故にこれまで議論が止まったままであったと推察される。 判例や多くの学説が、動機錯誤の保護の要件として契約内容化を論ずるが、意思表示の構造がいかなるもので、

(10)

なお、改正民法₉₅条との関係については、紙幅の関係上から、今後別の機会で詳しく論じた い18 (名城大学法学部教授) 動機がその意思表示の構造のいかなる内容に取り込まれるかについては全く論じていない。それを克服すべく、 我々は、意思表示の構造的内容と動機の顧慮について、野口=髙森・前掲注 ₅ )₂₁₂頁以下において、すでに論 じているのである。髙森八四郎『民法講義 ₁ 総則〔補訂第 ₂ 版〕』₂₇₀頁(法律文化社、₂₀₁₁年)及び髙森・前掲 注₁₀)₁₇頁には、その構造が明確に表として整理されているので、是非参照願いたい。 18 一言するならば、本件では、A が中小企業の実体を有するという動機が保証契約の前提(基礎)となっている と評価できる事案であり、③の主観的重要性と④の客観的重要性の要件、さらには、①の表示要件も認定書に よって明示されていることから、₉₅条 ₁ 項 ₂ 号及び ₂ 項の適用があり、X は、₉₅条の錯誤として取消しできるで あろう。

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