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資産の売却・分配の会計 : 基本概念の再検討

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(1)資産の売却・分配の会計 ──基本概念の再検討── 大 雄 智. 1 はじめに. 離等の会計処理を検討し,それとともに近年の 会計基準の特徴を明らかにする.. 本稿の目的は,資産の売却・分配の会計処理. アメリカの会計基準や国際会計基準では,支. をとおして,利益認識のタイミングを決める概. 配の観点が強調され,それが利益認識のタイミ. 念および株主資本の範囲を決める概念を検討す. ングだけでなく株主資本の範囲にも影響を与え. ることである.具体的には,子会社株式の一部. ている.支配の獲得・喪失が資産の変動を生じ. 売却や事業分離等を題材として,連結会計上の. させ,資産の変動が損益を生じさせるとすれば,. 利益認識および株主資本の変動がどのような観. 支配の獲得・喪失を伴わない財産の変動は資本. 点・概念に支えられているのか検討する.利益. に影響させるしかないということであろう.後. 認識のタイミングは,従来,とりわけ日本の会. 述のとおり,支配の喪失を伴わない子会社株式. 計基準において,投資の継続・清算という概念. の一部売却などは,そうした観点から資本取引. にもとづいて判断されてきた(企業会計基準第. として処理されることになっている.この傾向. 7 号 , 第 71 項) .ただし,問題は,企業の投資. は,2013 年 1 月 に 企業会計基準委員会 か ら 公. が継続しているとみるか清算されたとみるかの. 表された企業結合会計基準等に関する複数の公. 判断規準であり, これについては,支配の保持・. 開草案にもみられ,それが本稿の動機となって. 喪失という観点と持分の継続・清算という観点. いる.. の 2 つを考えることができる. 本稿では,支配と持分を以下のように定義す. 2 子会社株式の一部売却. る.支配とは,企業に将来キャッシュ・フロー. 本節では,子会社株式の一部売却の実質を,. をもたらす経済的資源を使用する排他的な力で. 支配と持分の 2 つの観点から判断し,それぞれ. あり,一方,持分とは,企業に生じる将来キャッ. に応じた会計処理を明らかにする.ここでの支. シュ・フローに対する権益または請求権であ. 配とは,子会社の資産に対する支配であり,子. る.企業が経済的資源に対する支配を喪失した. 会社に将来キャッシュ・フローをもたらす経済. ときに投資が清算されたとみて売却益を認識す. 的資源をどのように使用すべきか指揮する排他. るのが支配の観点であり,一方,株主が企業の. 的な力である.また,持分とは,子会社に生じ. 将来キャッシュ・フローに対する持分を清算し. る将来キャッシュ・フローに対する権益または. たときに投資が清算されたとみて売却益を認識. 請求権である.支配の主体は親会社であり,持. するのが持分の観点である.本稿では,これら. 分の主体は子会社の株主,すなわち親会社(支. 2 つの観点から子会社株式の一部売却や事業分. 配株主)および非支配株主である.なお,子会.

(2) 2. (172). 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 3 号(2013 年 9 月). 社株式の一部売却には,売却後も投資先企業が. (子会社株式 の 取得原価)を I0,時点 0 の 子会. 子会社であるケース,売却後に投資先企業が関. 社資本(子会社の株主資本)の簿価を E(=I , 0 0). 連会社となるケース,売却後に投資先企業が子. 時点 1 の そ れ を E1 と し,売却 に よ る キャッ. 会社でも関連会社でもなくなるケースがある.. シュ・インフローを M1 とする.売却された子 会社株式の簿価は αI0 であり,また,子会社資. 2. 1 売却後も投資先企業が子会社であるケース. 本の簿価の増分 E1-E0 はすべて利益剰余金の. まず,子会社株式の一部売却後も投資先企業. 増分とする.. が子会社であるケースを考えよう.子会社株式. このとき,連結会計上は,子会社資本のうち. を 売却 す る と,親会社 は 子会社 の 将来 キャッ. αE1 が親会社持分から非支配株主持分に振り替. シュ・フローに対する請求権を喪失するととも. えられ,M1-αE1 の子会社株式売却益が計上さ. に,売却した子会社株式の公正価値に相当する. れる.前述のとおり,設立後に子会社で実現し. 現金を獲得する.子会社株式の公正価値には子. た利益 E1-E0 がすでに親会社の投資成果とみ. 会社に生じる将来キャッシュ・フローの期待が. なされて連結利益に加算されているため,E1-. 反映されているはずであるから,子会社株式の. E0 のうち売却された子会社株式に対応する分 α. 売却 に よ り,親会社は子会社に期待した将来. (E1-E0)が 個別損益計算書上 の 子会社株式売. キャッシュ・フ ローを 現実 の キャッシュ・フ. 却益 M1-αI0 から控除されるのである.連結損. ローに転換し,投資のリスクから解放される1).. 益計算書上の子会社株式売却益の計算過程は以. すなわち,子会社株式の売却は,親会社にとっ. 下のようになる.. て持分の清算であり投下資金の回収である. ただし,子会社株式の売却によるキャッシュ・ インフローと子会社株式の簿価との差額が連結 損益計算書上の売却益になるわけではない.親. 子会社株式売却益=(M1-αI0) -α(E1-E0) = M1-αI0-αE1+αI0 = M1-αE1. 会社の子会社株式への投資は,形式的には有価 証券への投資であるが,その実質は,むしろ子. このように,子会社株式の売却を親会社持分. 会社資産(子会社の事業を構成する資産)への. の清算とみると,売却によるキャッシュ・イン. 投資である.だからこそ,連結貸借対照表では. フローと清算された親会社持分の簿価との差額. 子会社株式が子会社資産に置き換えられるので. が実現利益として認識される.また,売却され. ある.したがって,子会社株式の取得日以降に. なかった子会社株式に対応する親会社持分は,. 子会社で実現した利益が,親会社の投資成果と. 従来の簿価(前述の例では(1-α) E1)のまま. みなされて連結利益に加算される.このように,. 繰り越されることになる.これが,現行の日本. 子会社株式の取得日から売却日までの子会社事. の会計基準による処理である(企業会計基準第. 業の成果がすでに親会社の実現利益として認識. 22 号 , 第 29 項).. されているため,それを売却益から控除しなけ. それに対して,子会社株式の一部売却を支配. ればならないのである.. の観点からとらえると,別の会計処理が考えら. いま,親会社が時点 0 で 100% 子会社を新設. れる.子会社株式の売却後も投資先企業が子会. し,そ の 後,時点 1 で そ の 子会社株式 の う ち. 社であるということは,親会社が子会社資産に. 100α% を 売却 し た と す る.子会社 へ の 出資額. 対する支配を喪失しないということである.こ. . 1)ただし,売却されずに残存する子会社株式 への投資のリスクからは解放されない.. の観点によれば,売却後も親会社の投資は完全 に継続していると判断され,たとえ親会社持分 の簿価を超えるキャッシュ・インフローが生じ.

(3) 資産の売却・分配の会計(大雄). (173). 3. ていたとしても,それを売却益として認識する. る.現実には,親会社の株式と子会社の株式が. ことはできない.この場合,売却益相当額を未. それぞれ存在するだけであり,連結事業体の株. 実現利益として連結貸借対照表の純資産(株主. 式というものは存在しないが,それを仮想して. 資本以外)に直接算入しておき,親会社がさら. 連結事業体の所有者の観点から処理をするのが. に子会社株式を売却して支配を喪失したとき. この考え方である.そこでは,支配の観点をと. に,それを連結損益計算書の純利益に組み替え. ることに付随して,連結事業体に対する株主持. る処理が考えられる .そうすれば,持分の観. 分という概念が創出され,その観点から取引の. 点をとるか支配の観点をとるかは,利益認識の. 実質が判断されることになる.. 2). タイミングの違いに帰着する. しかしながら,近年のアメリカの会計基準 (ASC 810-10-45-23)や国際会計基準(IFRS 10,. 2. 2 ‌売却後 に 投資先企業 が 関連会社 と な る ケース. pars. 23 and B96)で は,前述 の 売却益相当額. こんどは,子会社株式の一部売却後に投資先. が連結貸借対照表の株主資本として処理される. 企業が関連会社となるケースを考えよう.この. ことになっている.その背景には,株主資本の. ケース で も,持分 の 観点 か ら は,取引 の 実質. 変動が資産の変動に依存し,資産の変動が支配. が親会社持分の清算とみなされ,売却による. の獲得・喪失に依存する概念フレームワークが. キャッシュ・インフローと清算された親会社持. あるといってよい.そして,ここでの子会社株. 分の簿価との差額が実現利益として認識され. 式の一部売却のように支配の喪失を伴わない取. る.ただし,売却後も投資先企業が子会社であ. 引は資産の売却とはみなされず,それによる財. るケースと異なり,このケースでは,売却後に. 産の増加はそのまま株主資本の増加として処理. 投資先企業が連結の範囲から除外される.した. される.親会社が支配する資産の範囲によって. がって,投資先企業の個別貸借対照表を連結貸. 連結会計上の株主資本の範囲が決められ,その. 借対照表から除外し,売却されずに残存する株. 支配が継続するかぎり,親会社と非支配株主と. 式(関連会社株式)を持分法による評価額に修. の取引は資本取引とみなされるのである.. 正しなければならない(会計制度委員会報告第. ま た,子会社株式 の 一部売却 が 連結事業体. 7 号,第 45 項).個別財務諸表の合算を前提と. (親会社と子会社を合わせた企業実体)とその. する連結(完全連結)を中止し,持分法(一行. 所有者(親会社の株主と子会社の非支配株主). 連結)による評価を行うわけである.ただし,. との取引とみなされることもある.その解釈に. 連結も持分法もいずれも事業投資の成果を測定. よれば,清算された親会社持分の簿価を超える. する方法であるから,残存株式への投資の利益. キャッシュ・インフローは子会社の非支配株主. 測定の基礎は継続することになる.. から連結事業体への資本の拠出として処理され. それに対して,支配の観点をとると,この取. . 2)後述 の と お り,企業会計基準委員会(2006, 第 3 章第 6─7 項)で は,純資産 が 資産 と 負債 の 差 額として定義される一方,株主資本は純資産のう ち報告主体の所有者である株主(連結財務諸表の 場合には親会社株主)に帰属する部分として定義 されており,純資産の変動が必ずしも株主資本の 変動になるわけではない.そうした構造を前提と するならば,子会社株式の一部売却による未実現 利益を株主資本以外の純資産の要素として繰り延 べることも検討の余地がある.. 引の実質は親会社支配の喪失である.子会社株 式の売却後に投資先企業が関連会社になるとい うことは,親会社が投資先企業の資産に対する 支配を喪失するということである.この観点に よれば,親会社の投資はそこで完全に清算され たと判断され,売却益が認識されることになる. さらに,売却されずに残存する株式への投資に ついても,支配の喪失によって継続性が断たれ たとみなされ,利益測定の基礎が改訂される.

(4) 4. (174). 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 3 号(2013 年 9 月). ( ASC 810-10-40-5; IFRS 10, pars. 25 and B98) .. 式の含み益が実現利益として認識されているこ. すなわち,親会社はいったん子会社株式を全部. とを意味する.すなわち,残存株式は,従来の. 売却したうえで,ただちにその一部を買い戻し たと解釈され,残存株式は新規取得株式として. 簿価(1-α)E1 ではなく,支配喪失日の公正価 値(1-α)I1 で 連結貸借対照表 に 計上 さ れ る.. 支配喪失日(子会社株式売却日)の公正価値で. したがって,残存株式への投資の利益測定の基. 評価されるのである3).. 礎は改訂され,改訂後の簿価を基礎に持分法が. いま,親会社が時点 0 で 100% 子会社を新設. 適用されることになる.つまり,連結から持分. し,そ の 後,時点 1 で そ の 子会社株式 の う ち. 法への連続性が断たれるのである.. 100α% を売却して支配を喪失したとする.子 会社 へ の 出資額(子会社株式 の 取得原価)を I0,時点 0 の 子会社資本(子会社 の 株主資本). 2. 3 ‌売却後に投資先企業が子会社・関連会社 以外となるケース. の 簿価 を E0(=I0) ,時点 1 の そ れ を E1 と し,. つづいて,子会社株式の一部売却後に投資先. 売却によるキャッシュ・インフローを M1 とす. 企業が子会社でも関連会社でもなくなるケース. る.売却された子会社株式の簿価は αI0 であり,. を考えよう.持分の観点からは,この取引の実. また,子会社資本の簿価の増分 E1-E0 はすべ. 質が親会社持分の清算とみなされ,売却による. て利益剰余金の増分とする.さらに,売却日に. キャッシュ・インフローと清算された親会社持. おけるこの子会社株式の公正価値を I1 とする.. 分の簿価との差額が実現利益として認識され. このとき,支配の観点によれば,以下の子会社. る.ただし,このケースでは,売却後に投資先. 株式売却益が計上されることになる.. 企業が非関係会社となるため,投資先企業の個 別貸借対照表を連結貸借対照表から除外し,売. 子会社株式売却益= (M1-αI0) - (E1-E0). 却されずに残存する株式を個別貸借対照表の簿. +(1-α) (I1-I0). 価で評価することになる(企業会計基準第 22. = M1-αI0-E1+ I0. 号 , 第 29 項).すなわち,残存株式の連結会計. +(1-α) (1-α) I1- I0. 上の簿価を個別会計上の簿価(取得原価)に修. = M1+ (1 -α) I1-E1. 正するとともに,連結会計上の利益剰余金を修 正するのである.そこでは,投資先企業への再. 上記の計算過程において,個別損益計算書上. 投資は擬制されず,個別会計上,残存株式への. の売却益 M1-αI0 から子会社資本の増分(利益. 投資の利益測定の基礎は継続する.. 剰余金 の 増分)E1-E0 が 全額控除 さ れ て い る. それに対して,支配の観点をとると,この取. 理由は,親会社がいったん子会社株式を全部売. 引の実質は親会社支配の喪失であり,売却後に. 却したと仮想されているからである.また, (1. 投資先企業が関連会社となるケースと類似の処. -α) (I1-I0)が加算されていることは,残存株. 理が適用される.この観点によれば,親会社の 投資はそこで完全に清算されたと判断され,売. . 3)このような擬制は,株式の段階取得により 関連会社 が 子会社 と な る ケース で も 適用 さ れ る. すなわち,親会社は支配獲得日にいったん関連会 社株式を全部売却したうえで,ただちにそれを子 会社株式として新規取得するとみなされるのであ る.したがって,支配獲得前から保有していた関 連会社株式は支配獲得日の公正価値で評価替えさ れ,差額が損益認識されることになる.. 却益が認識されることになる.さらに,売却さ れずに残存する株式への投資についても,支配 の喪失によって継続性が断たれたとみなされ, 利益測定の基礎が改訂される.すなわち,親会 社 は いった ん 子会社株式 を 全部売却 し た う え で,ただちにその一部を買い戻したと解釈され, 残存株式は新規取得株式として支配喪失日(子.

(5) 資産の売却・分配の会計(大雄). (175). 5. 会社株式売却日)の公正価値で評価されるので. 格が増資前の 1 株当たり株主資本簿価よりも低. ある.投資先企業が関連会社となるケースと異. いときには,親会社の持分比率が減少するとと. なるのは,その公正価値が金融資産の新規取得. もにその持分額も減少する.以下では,親会社. 原価とみなされる点であるが,いずれのケース. の持分額が増加するケースを前提に議論しよ. でも,支配喪失日に投資の清算と再投資が擬制. う.. されている.. 子会社増資に伴う親会社持分増加額が発生年. 3 子会社の時価発行増資. 度の利益として処理されるとすれば,それは親 会社の保有する子会社株式の一部が発行価格に. ここまでは,子会社株式の一部売却により親. よって評価替えされ,含み益が認識されること. 会社の持分比率が減少するケースを検討してき. に 等 し い(Hand and Skantz, 1997).し か し,. たが,親会社の持分比率は子会社の時価発行増. 前述のとおり,親会社の子会社株式への投資は,. 資によっても減少する.たとえば,子会社が親. 形式的には有価証券への投資であるが,その実. 会社以外 に 対 す る 第三者割当増資 を 実施 す れ. 質は,むしろ子会社資産(子会社の事業を構成. ば,当然,親会社の持分比率は減少する.ただ. する資産)への投資である.したがって,その. し,子会社の新株の発行価格が増資前の 1 株当. 成果は,子会社株式の公正価値の変動によって. たり株主資本簿価を超える場合,親会社の持分. とらえられるのではなく,子会社事業の実現利. 比率は減少するものの, その持分額は増加する.. 益にもとづいてとらえられる.子会社株式の含. こうした持分変動差額が利益として処理される. み益は,投資が継続しているかぎり未実現利益. のか資本として処理されるのか,また,利益と. とされるのである.. して処理されるとすれば,いつ実現利益として. しかしながら,子会社増資によって親会社の. 認識されるのか,それがここでの問題である.. 持分比率が減少することも事実であり,白鳥・. いま,子会社が親会社以外に対する第三者割. 明日山(1979, 102─105 頁)では,親会社がいっ. 当増資を実施するとし,増資前の子会社の発行. たん増資前の持分比率に相当する新株を取得. 済株式数 を N,1 株当 た り 株主資本簿価 を B,. したうえで,ただちにそれを売却すると仮想さ. 親会社の持株数を S,子会社の新株発行数を M,. れている.すなわち,子会社が新株を親会社に. 発行価格を P とする.. も平等に割り当て,そこで割り当てられた新株. このとき,子会社の増資に伴う親会社の持分. がただちに売却されるとみなすのである.そう. 変動差額は以下のように表される.. した擬制のもとでは,子会社株式の「みなし売. S 持分変動差額= ・ (BN + PM) N+M S - ・BN N   M (P-B) =S・ + ・ N M したがって,P > B のとき,すなわち子会社. 却益」が計上されることになるが,それは持分 比率の減少を持分の清算とみなした処理といえ る.なお,このみなし売却益の計算過程を表す と以下のようになる.. 本簿価よりも高いときは,親会社の持分比率が. BN M  P SS BN BN+ PM PM  みなし売却益 みなし売却益 S ・M・ みなし売却益 M M PP  =  P- M M   NN+ NNN M M  SS M ((PPBB)) =S・ NN M ・ (P-B) N + MM 現行の日本の会計基準では,子会社の時価発. 減少してもその持分額は増加する.もちろん,. 行増資に伴う親会社持分増加額は,原則として,. P < B のとき,すなわち子会社の新株の発行価. 発生年度の利益として処理されることになって. の新株の発行価格が増資前の 1 株当たり株主資.

(6) 6. (176). 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 3 号(2013 年 9 月). い る(企業会計基準第 22 号 , 第 30 項) .た だ. 本以外)に直接算入しておき,親会社が子会社. し,子会社の資本取引による親会社持分増加額. 株式を売却して支配を喪失したときに,それを. は企業集団の業績とは無関係であるとの意見も. 連結損益計算書 の 純利益 に 組 み 替 え る 処理 が. あ り,発生 の 頻度,金額 の 異常性等 を 勘案 し. 考えられる.しかしながら,近年のアメリカの. て,利害関係者の判断を著しく誤らせるおそれ. 会計基準(ASC 810-10-45-23)や 国際会計基準. があると認められる場合には,利益剰余金に直. (IFRS 10, pars. 23 and B96)では,前述の子会. 接算入することになっている(企業会計基準第. 社株式の一部売却のケースと同じく,親会社持. 22 号 , 第 67 項) .いずれにしても,子会社の資. 分増加額が連結貸借対照表の株主資本として処. 本取引による親会社持分増加額は,資本の要素. 理されることになっている.. ではなく,利益の要素として処理されることに. 一方,子会社増資によって親会社が子会社資. なるが,これは,親会社株主による払込資本の. 産に対する支配を喪失するとすれば,そこで親. みが連結会計上の払込資本であり,親会社の増. 会社の投資は完全に清算されたとみなされる.. 資によらない持分増加額は連結会計上の払込資. したがって,子会社株式の一部売却のケースと. 本を構成しないという考え方にもとづいている. 同じように,親会社がいったん子会社株式を全. (企業会計基準第 22 号 , 第 67 項) .. 部売却したうえで,ただちにそれを買い戻した. しかし,子会社の資本取引による親会社持分. と仮想して処理される.すなわち,保有株式(旧. 増加額が利益の要素であるとしても,それがい. 子会社株式)は新規取得株式として支配喪失日. つ実現利益として認識されるのかは別途検討す. の公正価値(旧子会社新株の発行価格)で評価. べき問題である.子会社株式の一部売却と違っ. 替えされ,含み益全額(前述の例では S(P-B) ). て,子会社増資では親会社にキャッシュ・イン. が実現利益として認識される.このように,支. フローが生じない.子会社株式に投下された親. 配喪失日に投資の清算と再投資が擬制されると. 会社資金は回収されず,親会社は子会社株式へ. ころにこの観点の特徴がある.. の投資のリスクを負担しつづける.たしかに子 会社増資によって親会社の持分比率は減少する. 4 事業分離. が,それは親会社の持分が清算された結果では. ここまでは,親会社による子会社株式の一部. ないのである.そうであるならば,親会社の投. 売却や子会社による時価発行増資など,子会社. 資は完全に継続しているとみなされ,子会社株. 事業に対する親会社の持分比率が減少するケー. 式に生じた含み益は未実現利益とされるはずで. スを検討してきたが,ここからは,会社(分離. ある.すなわち,子会社増資による親会社持分. 元企業)が自社事業を分離して他社(分離先企. 増加額はいったん未実現利益として繰り延べら. 業)に移転し,その事業に対する持分比率が減. れ,親会社が子会社株式を売却したときに実現. 少するケースを検討しよう.とりわけ,分離元. 利益として認識される.. 企業の受取対価が現金ではなく分離先企業の株. それに対して,支配の観点をとると,子会社. 式である場合には,事業の移転利益が認識され. の時価発行増資によって親会社が子会社資産に. るかどうかが問題となる.移転利益とは,移転. 対する支配を喪失するかどうかが決定的に重要. 事業の対価の公正価値と移転事業の株主資本相. となる.もし,子会社増資後も親会社が子会社. 当額(簿価)との差額であり,連結会計上は,. 資産に対する支配を保持するならば,親会社の. 移転事業の公正価値と移転事業の株主資本相当. 投資は継続しているとみなされ,親会社持分増. 額との差額に分離元企業の持分減少率を乗じた. 加額は未実現利益とされる.この場合,親会社. 金額(持分増加額)が実現利益として認識され. 持分増加額を連結貸借対照表の純資産(株主資. るかどうかが焦点となる..

(7) Vx. α (V x  B x ). Bx. 大雄智. 図表. 資産の売却・分配の会計(大雄). (177). Vx. 7. α (V x  B x ). Bx. α. (1  α) 図1. 持分増加額. α. (1  α) 図1. 図 1 持分増加額. 持分増加額. (1  α)(Vy  Vy ). Vy V y*. α. (1  α).  (1  α)(Vy 図 Vy2 のれん相当額 ). Vy. 図2. V y*. いま,X 社(分離元企業)が事業を分離して. (1  α) Y 社(分離先企業)に移転し,その対価として Y 社株式を受け取るとする4).X 社の移転事業. のれん相当額 4. 1 分離先企業が子会社となるケース. α. この事業分離によって Y 社が X 社の子会社 となる場合,現行の日本の会計基準によると,. 図 2 のれん相当額 X 社 の 個別会計上,Y 社 か ら 受 け 取った 対価 の株主資本相当額を Bx,その公正価値を Vx と し,移転事業 に 対 す る 持分減少率 を 100α% と. (Y 社株式)が移転事業の株主資本相当額にも. する.. とづいて評価され,移転利益は認識されない(企. このとき,X 社の移転事業に対する持分増加 株主. 業会計基準第 7 号,第 17 項 ⑴).た だ し,連 株主. 額は α .ま (Vx-Bx)と表すことができる(図 1). 結会計上は,X 社の移転事業に対する持分増加. た,事業分離直前の Y 社の株主資本の公正価値 持分 を Vy とすると,X 社は αVx の価値を Y 社に移. 額 α( Vx-Bx)が 利益 も し く は 利益剰余金 と し 持分 て処理されることになっている(企業会計基準. P社 転するとともに,Y 社から対価として Vy (1-α). P社 S社の 時価発 第 7 号,第 17 項 ⑵).前述 の 子会社. の価値を取得することになる.さらに,Y 社の. 行増資に伴う親会社持分増加額と同じように処. 識別可能純資産の公正価値を Vy* とすれば,の. 理されるのである.また,この事業分離によっ. 支配 株主. ×. 支配. 株主. ×. て XA事業資産 社は Y 社を子会社化するため,X 社の連 れん相当額は (Vy-Vy*)と表すことがで (1-α) A事業資産 B事業資産 B事業資産 持分 持分 結会計上,パーチェス法が適用され,のれん(1 きる(図 2) -α) (Vy-Vy*)が資産として認識される(企業 × P社 S社 会計基準第 7 号,第 17 項 ⑵). 図 3 スピンオフ 支配 こ の 事業分離 ×で は,受取対価 が Y 社株式 で. P社 支配. 4)単純化のため,事業分離前に X 社は Y 社株 式を保有しないものとする.. A事業資産. B事業資産. 図3. あるため,X 社にキャッシュ・インフローは生 1 A事業資産 B事業資産. スピンオフ 1.

(8) 8. (178). 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 3 号(2013 年 9 月). じない.したがって,移転事業を構成する資産. れることになっている(企業会計基準第 7 号,. に投下された X 社資金は回収されず,X 社は. 第 20 項 ⑵ ②).いずれにしても持分増加額は. 事業分離後も投資のリスクを負担しつづけると. 利益の要素であり,移転事業に対する持分比率. いえる.それにもかかわらず,移転事業に対す. の減少が持分の清算,すなわち投下資金の回収. る持分増加額が実現利益として認識されるとい. とみなされるのである.なお,X 社は Y 社株. うことは,移転事業に対する持分比率の減少が 持分の清算とみなされていることを意味する.. 式に持分法を適用することになり, (Vy (1-α) -Vy*)がのれんとして処理される(企業会計. そこでは,X 社が移転事業の対価として Y 社. 基準第 7 号,第 20 項 ⑵ ①).. からいったん現金を受け取り,ただちにその現. 支配 の 観点 に よ る と,こ の 事業分離 に よっ. 金で Y 社株式を取得すると仮想されていると. て,X 社は移転事業の構成資産に対する支配を. いえる.すなわち,分離先企業の株式を受取対. 喪失するため,そこで X 社の投資は完全に清. 価とする事業分離が,①現金を受取対価とする. 算されたとみなされる.したがって,X 社が移. 事業分離と②その現金による分離先企業株式の. 転事業を Y 社に売却したうえで,ただちに新. 取得という 2 つの取引の合成とみられているの. 規投資として Y 社株式を購入したと仮想され. である.. て処理される.すなわち,移転事業の公正価値. それに対して,支配の観点をとると,この事 業分離によって生じる X 社の持分増加額は未. とその株主資本相当額との差額(Vx-Bx)が実 現利益 と し て 認識 さ れ,Y 社株式 は Y 社(事. 実現利益とされる.たしかに事業分離によって. 業承継直後)の 株主資本 の 公正価値(Vy + Vx). 移転事業に対する X 社の持分比率は減少する が,移転事業の構成資産に対する X 社の支配. にもとづいて,(1-α) (Vy + Vx)で評価される. 前述のとおり,この観点では,支配喪失日に投. は喪失しない.したがって, この観点によると,. 資の清算と新規投資が擬制されている.. X 社の移転事業への投資は完全に継続してい るとみなされ,持分増加額は未実現利益として. 5 スピンオフ. 処理されることになる.この場合,持分増加額. 支配喪失日に投資の清算が擬制される近年の. を連結貸借対照表の純資産(株主資本以外)に. 国際的な会計基準の傾向は,株主(企業所有者). 直接算入しておき,X 社が Y 社株式を売却し. への非現金資産の分配に関する国際財務報告解. て支配を喪失したときに,それを連結損益計算. 釈指針委員会解釈指針第 17 号(IFRIC 17)に. 書の純利益に組み替えることが考えられる.し. もみられる.前節までの検討対象であった子会. かしながら,近年の国際的な会計基準の動向に. 社株式の一部売却や事業分離(分社型の会社分. よれば,この持分増加額も資本の要素とみなさ. 割)と違い,本節の検討対象はスピンオフ(分. れ,連結貸借対照表の株主資本として処理され. 割型の会社分割)であり,親会社からその株主. ることになる.. への子会社株式の分配である.スピンオフでは, まず分離元企業(親会社)が事業を移転して子. 4. 2 分離先企業が関連会社となるケース. 会社を新設し,それからその子会社株式を配当. こんどは,この事業分離によって Y 社が X. として分離元企業の株主に分配する.いま,分. 社の関連会社となるケースを考えよう.現行の. 離元企業 P 社 が B 事業 を 移転 し て 子会社 S 社. 日本の会計基準によると,Y 社が X 社の子会. を 新設 し,そ の S 社株式 を 自社 の 株主 に 分配. 社となるケースと同じように,X 社の連結会計. するとすれば,図 3 のとおり,P 社は B 事業の. 上,移転事業に対する X 社の持分増加額 α (Vx. 構成資産に対する支配を喪失することになる.. -Bx)が利益もしくは利益剰余金として処理さ. 問題は,配当として株主に分配される S 社.

(9) 資産の売却・分配の会計(大雄). (179). 9. 株主. 株主 持分. 持分 P社. P社. 支配 A事業資産. 支配 B事業資産. A事業資産. ×. S社. × B事業資産. 図 3 スピンオフ. 図3. スピンオフ. 株式の公正価値と B 事業を構成する資産の簿. 1. 事業に対する持分とに区分するものでしかな. 価との差額が実現利益として認識されるかどう. い.ス ピ ン オ フ で は,P 社 が B 事業資産 に 投. かである.IFRIC 17 によれば,P 社は S 社株. 下した資金は回収されず,P 社の株主は投資の. 式の公正価値で未払配当金を測定し,それと B. リスクを負担しつづけることになる.すなわち,. 事業資産 の 簿価 と の差額を,資本の変動では. P 社株主の持分は清算されずに継続し,この観. なく,利益として認識することになっている. 点からは,利益を認識する余地がない.したがっ. (pars. 14, BC 27 and BC 41) .そこでは,支配. て,B 事業資産の含み益およびのれんは,S 社. の喪失によって投資が清算されたとみなされ,. で実現の機会を待つことになる.. 資産の含み益およびのれんが実現利益として認. このように,スピンオフの会計処理について. 識される.. は,現状,アメリカの会計基準と国際会計基準. ただし,IFRIC 17 と違って,現行のアメリ. とで差異がある.それは,概念上,投資の継続・. カの会計基準では,スピンオフによって利益が. 清算の判断規準を,持分の継続・清算にもとめ. 認識されることはない.すなわち,前述の例で. るか支配の保持・喪失にもとめるかの違いと解. は,P 社 が 取得・分配 す る S 社株式 は B 事業. 釈することができる.さらに,会計処理にあたっ. を構成する資産の簿価で評価され,そもそも差. て,企業所有者の観点をとるか企業実体(エン. 額 が 生 じ な い(ASC 505-60-25-2) .た し か に,. ティティー)の観点をとるかの違いとみること. スピンオフによって P 社は B 事業資産に対す. も で き る(IFRIC 17, par. BC 42; 山田,2012,. る支配を喪失するが,それは,新しい会計の基. 169 頁) .たしかに,前節までの議論で明らか. 礎を認識する事象とはみられていないのである. なように,近年の国際的な会計基準では,投資. (AICPA, 1979, par. 31) .支配 の 喪失日 に 投資. の継続・清算の判断,さらには,投資の回収と. の清算を擬制する近年の会計基準とは対照的な. 資本の拠出との区別が,企業の支配に着目して. ルールといってよい.. 行われる傾向にある.しかし,スピンオフの会. こうしたアメリカの会計基準は,支配の観点. 計処理は,そうした観点から現行のすべての会. よりも,むしろ持分の観点から説明することが. 計基準が統一的に説明できるわけではないこと. できる.P 社の株主にとって,スピンオフは,. を示唆している.. P 社に対する持分を A 事業に対する持分と B.

(10) 10. 横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 3 号(2013 年 9 月). (180). 6 おわりに. ては,たとえば事業分離によって分離先企業が 子会社となるケースのように,支配の保持・喪. 2013 年 1 月 に 企業会計基準委員会 か ら 公表. 失という観点が考慮されていた.ただし,支配. された公開草案では,アメリカの会計基準や国. の観点は利益認識にあたって考慮されていたの. 際会計基準と同じく,支配の喪失を伴わない非. であり,株主資本の範囲を決めるうえでは,む. 支配株主との取引が資本取引として処理される. しろ持分の観点が重視されてきた.親会社株主. ことになっている(企業会計基準委員会 , 2013,. の持分(権益または請求権)と子会社非支配株. 第 28─30 項) .ただし,前述のとおり,アメリ. 主の持分との異質性に着目して,親会社株主に. カの会計基準や国際会計基準の背景には,株主. よる払込資本のみを連結会計上の払込資本とす. 資本の変動が資産の変動に依存し,かつ,資産. る考え方はその証左であろう.したがって,前. の変動が支配の獲得・喪失に依存する概念フ. 述の公開草案は,企業会計における支配の概念. レームワークがあるといえる.支配の喪失を伴. と持分の概念の相対的地位を大きく変化させる. わない取引は資産の売却とはみなされず,それ. 可能性を持っている.. によって生じた財産の増加は株主資本の増加と して処理される.そこでは,親会社が支配する 資産の範囲によって連結会計上の株主資本の範. 付 記. 囲が決められ,その支配が継続するかぎり,親. 本稿 は,日本学術振興会科研費・基盤研究. 会社と非支配株主との取引は資本取引とみなさ. (C)・課題番号 23530571 に よ る 研究成果 の 一. れる.. 部である.. それに対して,従来の日本の会計基準では, 親会社が支配する資産の範囲によって連結会計 上の株主資本の範囲が決められてきたわけでは ない.また,概念フレームワークにおいても, 純資産が資産と負債の差額として定義される一 方,株主資本は純資産のうち報告主体の所有者 である株主(連結財務諸表の場合には親会社株 主)に帰属する部分として定義されており(企 業会計基準委員会,2006, 第 3 章第 6─7 項) ,連 結会計上の株主資本の変動が必ずしも純資産の 変動に依存するわけではないことが示唆されて いる.したがって,支配の喪失を伴わない非支 配株主との取引から生じた純資産の変動も株主 資本以外の要素の変動として処理される余地が あったはずである. それにもかかわらず,その変動が株主資本の 変動として処理されるとすれば,そこでは,支 配の概念が利益認識のタイミングだけでなく株 主資本の範囲まで決めることになる.従来,利 益認識のタイミングは投資の継続・清算の概念 にもとづいて判断され, また, その判断にあたっ. 参考文献 American Institute of Certified Public Accountants (AICPA)(1979) , Accounting Standards Division, Task Force on Consolidation Problems, Issues Paper, “Push Down” Accounting. Financial Accounting Standards Board, Accounting Standards Codification™. Hand, J. R. M., and T. R. Skantz(1997), “The Economic Determinants of Accounting Choices: The Unique Case of Equity Carveouts under SAB 51,” Journal of Accounting & Economics, Vol. 24, No. 2, pp. 175─203. International Accounting Standards Board (2008) , IFRIC Interpretation 17: Distributions of Non-cash Assets to Owners. International Accounting Standards Board (2011) , International Financial Reporting Standard 10: Consolidated Financial Statements. 企業会計基準委員会(2006) ,討議資料『財務会 計の概念フレームワーク』 . 企業会計基準委員会(2008) ,企業会計基準第 7 号『事業分離等に関する会計基準』 . 企 業 会 計 基 準 委 員 会(2008),企 業 会 計 基 準 第.

(11) 資産の売却・分配の会計(大雄). 22 号『連結財務諸表に関する会計基準』. 企業会計基準委員会(2013),企業会計基準公開 草案第 50 号『連結財務諸表 に 関 す る 会計基 準(案)』. 白鳥栄一・明日山俊秀(1979)『新訂実践連結財 務諸表』第一法規. 日本公認会計士協会(2008),会計制度委員会報 告第 7 号『連結財務諸表における資本連結手. (181). 11. 続に関する実務指針』 . 山田純平(2012)『資本会計 の 基礎概念─負債・ 持分の識別と企業再編会計』中央経済社. [お お た か さ と る 横浜国立大学大学院国際社 会科学研究院准教授].

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参照

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