エトポシド経口剤を同時併用した
肺癌の放射線治療
山梨医科大学
放射線科 大西洋 山口元司 雨宮健吾 伊藤敦子 中島寛人
碓井貴子 島津典子 荒木力
第2内科 西川圭一 小澤克良 成宮賢行 金澤正樹
大木善之助
〈はじめに〉 エトポシドは血管内投与だけでなく、経口 投与でも抗腫瘍効果が証明されている。その 作用は時間依存性があり、連日服用すること が効果的であると考えられている。また放射 線治療との併用により相乗効果を示すといわ れている。われわれは肺癌の放射線治療中に エトポシド経口剤を連日併用し、併用しない 症例群との効果および副作用の違いを検討し たので報告する。 <対象> 1992−94年に放射線根治照射の行なわれた肺癌 100例を対象とした。エトポシド経口剤の併用 の有無にっいては時期によって異なり、無作 為には行なわれていない。内訳を表1に示す. エトポシド経口剤を併用した症例群(以下併 用群と呼ぶ)55例、エトポシド経口剤を併用 しなかった症例群(以下非併用群と呼ぶ)45 例で、性別は併用群が男性44例女性11例、非 併用群が男性33例女性12例である。平均年齢 は併用群69.0歳、非併用群70.0歳である。病 理組織分類は、併用群で扁平上皮癌26例、腺 癌16例、小細胞癌11例、大細胞癌1例、その 他1例、非併用群で扁平上皮癌18例、腺癌16 例、小細胞癌17例、大細胞癌0例、その他13 例である。病期は併用群で1期6例、II期2 例、ma期17例、皿b期11例、 N期19例、非併 用群は1期2例、II期1例、 ma期9例、 Mb 期13例、IV期20例とやや非併用群で進行期が 多くなっている。 〈治療方法〉 放射線治療はマイクロトロンにて6MVX線を 用いて、総線量は45Gy/15回(1回3Gy)から 76Gy/38回(1回2Gy)で基本的に1日1回照 射であるが、15症例ではhyperfractionation 法(1回1.2Gy、1日2回)で照射が行なわ れている。平均のdose/fraction/ti咀eは、併 用群で60.7Gy/33.9fr/46.5days、非併用群で 54.5Gy/27.Ofr/42.5daysである. 併用群ではエトポシド経口剤(25mg)を朝(8 時)1回、照射開始時から終了時まで連日服 用させた。非併用群は化学療法の施行歴がな いものが28例、静注法による化学療法後が17 例である。 〈結果〉 治療完遂は併用群45例、非併用群37例であ った.CTで評価できた完遂例の治療効果は、 併用群ではCR 8例(19X)、 PR23例(53X)、 NC12 例(28X)、非併用群ではCR 3例(8X)、 PR14例 (38X)、 NC20例(54Z)で、 CRとPRを合わせた奏 功率は併用群で72X、非併用群で46Zと、併用 群で良好であった。病期別の治療効果では、 併用群では1期で3例(50Z)にCRが得られ、 m a期でもCR 4例(25Z)、 PR 9例(56X)、 m期全体 のCRとPRを合わせた奏功率が78Xと、非併用 群の42Xに比し高い局所効果が認められた(表 2)。 副作用を表3に示す。倦怠感は併用群で30 X、非併用群で24Xで若干併用群で高かった。 放射線食道炎によると考えられる食道痛は併 用群で68Zと高率に認められ、この内約半分は経口摂取困難になるほど重症化した。照射野 外に及ぷような放射線肺炎(以下重症放射線 肺炎と呼ぶ)は非併用群では12Zであったのに 総数 対し併用群では28Zと高く、併用群のうち4例 男性 は放射線肺炎が主原因と考えられる死亡に至 女性 った。白血球が2000/μ1以下に低下したのは 年齢 併用群で22Z(最低値700/μD:非併用群で 組織 はOZで、血小板が10万/μ1以下に低下したの は併用群で9X(最低値4万/μ1)、非併用群 でOZであった。 全例の生存曲線を図.1に示す。1年生存率 は併用群で26.6X、非併用群で19.OX、2年生 存率は併用群で15.5X、非併用群で9.5Xであり、 併用群でやや良好な傾向がみられるが、統計 学的に有意差はなかった。 m期症例のみ抽出した生存曲線を図.2に示 す。治療開始後1年の間で併用群の方が生存 率が低かった。 放射線肺炎の重症度別の生存曲線を図.3に 示す。放射線肺炎が重症化すると明らかに生 存率が悪化していた(P=0.017)。併用群の重 症放射線肺炎16例を病期別に分類すると、14 例(87.5Z)がstage皿、 IVにて発生した。 放射線肺炎の重症度を60Gy以上と未満に分 けると、併用群で60Gy以上照射されると高率 Stage に重症化していた(表4)。 1 次に予後因子の分析結果を示す。generali E zed Wilcoxon検定による単変量解析では、危 皿A 険率5Xで、 T因子(1,2対3.4)、N因子(0,1対 2,3)、M因子(o対1)、ps(70練満対70z以 皿B
上)N治療効果(CR対PR,NC)、照射線量( IV
60Gy未満対60Gy以上)、放射線肺炎の重症度 が有意であったが、性、年齢(60歳未満対60 歳以上)、病理組織(小細胞癌対非小細胞癌) 、エトポシド経口剤併用の有無は有意差が認 められなかった。 Coxの比例ハザードモデルによるによる多変 量解析では、N因子、 H因子、照射線量のみが 有意であった。表1
症例の内訳
1992/8月∼1995/2月A群
55
44
11
53−83(69.0歳)扁平上皮癌
腺癌
小細胞癌
大細胞癌
その他
Stage
Ill
皿A
皿B
N
26
16
11
1 16
2
17
11
19
B群45
33
12
51−88(70.0歳)【表2 病期別の治療効果】
倦怠感
食道痛
A群
CR PR NC
3 1 2
0 1 1
4 9 3
0 5 2
1 7 4
【表3 副作用】
重度食欲不振
重度放射線肺炎
A群
30%
68%
36%
28%
18
17
7
0
3
2
19
13
20
B群
CR PR NC
0 1 1
0 1 0
1 5 3
0 2 8
2 5 8
B群
24%
24% 12% 12%一86一
生存率 1 .8 .6 .4 .2 0 併用群 非併用群 照射開始からの 期間(日) 0 200 400 600 800 1000 1200
図1 全症例の生存期間
生存率 1 .8 .6 .4 .2 0 併用群 非併用群 照射開始からの 期間(日) 0 200 400 600 800 1000 1200図2 病期川症例の生存期間
生存率 1 .8 .6 .4 .2 0 0 重症 軽症 200 400 600 800図3 放射線肺炎の重症度
による生存期間
照射開始からの 期間(日) 1000【表4 放射線肺炎の重症度】
A群
なし 軽症 重症
B群
なし 軽症 重症
59Gy以下 6
2
111
0
2
60Gy以上 6
11
15
2
4
2
〈考察〉 エトポシドはトポイソメラーゼIIを阻害し て間接的にDNA鎖を切断する半合成ポドフィ ロトキシン誘導体である。エトポシドの抗腫 瘍効果は悪性リンパ腫、白血病、膀胱癌、肺 癌、睾丸腫瘍など多岐にわたり、近年頻用さ れている抗癌剤の一っである.また、血管内 投与だけでなく、経口投与でも抗腫瘍効果が 証明されており、外来診療にても使用できる 利点がある。1971年から有効な抗癌剤として 臨床応用が開始されたが、いまだにその最も 適正な使用法は試行錯誤されている薬剤であ る。 1990年には少量(50mg)を連日経口服用する ことにより、静注法と同等または静注法で無 効例にも有効な効果が報告され1・2’、濃度依 存性とともに時間依存性が大きいことが特徴 となっている.連日経口使用にての適切な投 与量にっいては一定の見解がないが、血中濃 度を1μgん1以上にすることが必要であると 考えられているぶ。 1日量25mgでは最高血中 濃度は1μgん1に達するが持続できず、抗腫 瘍効果は十分でないとする報告もあるa。 エトポシドの肺癌に対する使用方法は静注 法では白金製剤(シスプラチン、カルボブラ チン)と併用されることが多く、小細胞癌で は60−70Xの奏功率が得られると考えられてい る。経口剤の使用は初回治療として用いられ ることは少なく、高齢者の小細胞癌や寛解後 の維持療法として用いられることが多い。一88一
放射線治療との併用は、静注法との報告は 比較的多いが、経口剤との同時併用の報告は 少ない。神宮らは、非小細胞肺癌に放射線治 療とエトポシド経口剤(25mg)を連日併用し、 肩平上皮癌では併用効果がみられたが腺癌に はみられなかったと報告している5 :’。今回の 結果では、エトポシド経口剤の放射線治療と の併用により、局所効果は明らかに向上する が生存率の向上には結びっかなかった。その 主な原因として、エトポシド併用により放射 線肺炎が増強されることが考えられた。とく に進行病期においては、呼吸状態がもともと 悪いことに加えて、照射野や線量が大きくな ってしまうことが関与し、放射線肺炎がさら に増強され致死的となる可能性がある。また、 放射線食道炎の増強も予後を悪くさせている 原因と考えられた。 エトポシドは単剤では薬剤性肺炎の発生は 少ないとされており、また、放射線治療との 併用でも静注法による1−5日間の使用では放 射線肺炎の増強はみられないとする報告が多 い。エトポシド経口剤の連日併用で静注法で はみられにくい放射線肺炎の増強が認められ た原因は、エトポシドとDNAトポイソメラーゼ IIとの結合が可逆的であるため、静注法では 投与が終わるとともに効果が低下してしまう が、経口剤の連日投与により効果が持続され 放射線との相乗効果も発現しやすいのではな いかと考えられた。 エトポシド経口剤併用による良好な抗腫瘍効果を生存率の向上に結びっけるために、併 用期間を短縮するなど使用方法を変更するか、 放射線肺炎の予防として還元剤を投与するか などの対策が必要と考えられた。 <結語> 1.100例の肺癌非手術例を対象に、放射線治 療中55例にはエトポシド経口剤(25咀g)を連日 併用し、併用しない45例との効果・副作用の 違いを検討した。 2.1年および2年生存率は、併用群で26.6 Z,15.5Zで、非併用群で19.OZ,9.5Xであった。 3.局所効果は、併用群でCR 19Z,PR 53X、非 併用群でCR 8Z,PR 38Xと、併用群で良好であ った。 4.皿期では併用群の方が予後不良であった。 5.併用群では放射線食道炎や放射線肺炎が 重症化することが多く、特に放射線肺炎の悪 化は進行期症例で予後を増悪させている原因 と考えられた. 6.今後、エトポシド経口剤併用の放射線治 療による良好な局所効果を予後の改善に結び っけるために、特に放射線肺炎の重症化に対 する改善策が必要であると考えられた。 〈文献> 1) Maurice LS: Low−・dose oral etoposide : a n ew role for an old drug?; J. CIin. Oncol. 8 : 1607−1609, 1990. 2) F Anthony G, David HJ, John DH: Chronic daily administration of oral etoposide;Semin . Onco1. 17 : 71−74, 1990. 3) Clark PI, Cottier B, Joel SP : A pharma− cokinetics of VP 16−213 given by different administration methOds; Cancer Chemother. Phar■acol. 7 : 141−145, 1989 4)沼田由夏、栗田雄三、横山 晶、他:非小細 胞癌に対するEtoposide長期連日 経口投与のP ilot Study;基礎と臨床27:2255−2265,1993 5) Jingu K, Ohmagari J, Masuda K, et al : Influence of etoposide on the local effect to radiation in non−s■all ce11 1ung cancer− a randomized prospective study−; J.Jpn.Soc. Ther.Radiol.Onco1.5 :141−149,1993