• 検索結果がありません。

他の者が先行して被害者に暴行を加え、これと同一の機会に、後行者が途中から共謀加担したが、被害者の負った傷害が共謀成立後の暴行により生じたとは認められない場合における、刑法 207 条の適用の可否及び適用範囲あるいはその在り方

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "他の者が先行して被害者に暴行を加え、これと同一の機会に、後行者が途中から共謀加担したが、被害者の負った傷害が共謀成立後の暴行により生じたとは認められない場合における、刑法 207 条の適用の可否及び適用範囲あるいはその在り方"

Copied!
36
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

の機会に、後行者が途中から共謀加担したが、被害

者の負った傷害が共謀成立後の暴行により生じたと

は認められない場合における、刑法 207 条の適用

の可否及び適用範囲あるいはその在り方

著者

坂下 陽輔

雑誌名

東北ローレビュー

9

ページ

80-114

発行年

2021-03-31

URL

http://hdl.handle.net/10097/00131257

(2)

他の者が先行して被害者に暴行を加え、これと同一の機会に、後行者が途中から共謀

加担したが、被害者の負った傷害が共謀成立後の暴行により生じたとは認められない

場合における、刑法 207 条の適用の可否及び適用範囲あるいはその在り方

最 決 令 和 2 年 9 月 30 日 刑 集 74 巻 6 号 登 載 予 定1 東 北 大 学 大 学 院 法 学 研 究 科 准 教 授 坂 下 陽 輔 Ⅰ 事 案 の 概 要 Ⅱ 決 定 要 旨 Ⅲ 研 究 一 は じ め に 二 先 例 の 状 況 の 確 認 1 . 平 成 24 年 決 定 及 び 平 成 28 年 決 定 と の 関 係 2 . 下 級 審 裁 判 例 の 状 況 3 . 令 和 2 年 決 定 の 意 義 の 再 確 認 三 途 中 共 謀 加 担 事 例 に お け る 207 条 適 用 の 余 地 1 . 従 来 の 議 論 状 況 2 . 本 決 定 の 説 示 の 分 析 四 207 条 の 適 用 範 囲 ( 適 用 の 在 り 方 ) 1 . 従 来 の 議 論 状 況 2 . 本 決 定 の 説 示 の 分 析 五 お わ り に

Ⅰ 事 案 の 概 要

最 高 裁 が 前 提 と す る 事 実 関 係 は 次 の と お り で あ る 。 ( 1 )A 及 び B( 以 下「 A ら 」と い う 。)は 、被 害 者 に 対 し 暴 行 を 加 え る こ と を 1 本 稿 は 、 東 北 大 学 ・ 刑 事 法 判 例 研 究 会 ( 2020 年 12 月 19 日 ・ オ ン ラ イ ン 開 催 ) に お い て 行 っ た 報 告 を 基 礎 に し た も の で あ る 。 同 研 究 会 に お い て は 、 御 参 加 さ れ た 先 生 方 よ り 、 多 く の 貴 重 な 御 教 示 を 賜 っ た 。 ま た 、 御 参 加 さ れ た 中 川 正 浩 ・ 昆 野 明 子 両 先 生 に は 、 研 究 会 後 に も メ ー ル 連 絡 の 形 で 、 理 解 の 鈍 い 筆 者 と の 議 論 に お 付 き 合 い 頂 い た 。 さ ら に 、 中 川 先 生 の 御 紹 介 を 通 じ て 、 杉 本 一 敏 先 生 か ら も 貴 重 な 御 意 見 を 伺 う こ と が で き た 。 こ こ に 記 し て 御 礼 申 し 上 げ る 。 も ち ろ ん 、 本 稿 の 至 ら な い 記 述 に 関 す る す べ て の 責 任 は 筆 者 に あ る 。

(3)

共 謀 し た 上 、平 成 29 年 12 月 12 日 午 後 9 時 23 分 頃 、被 害 者 の い る マ ン シ ョ ン の 部 屋 に 突 入 し 、被 害 者 に 対 し 、カ ッ タ ー ナ イ フ で 右 側 頭 部 及 び 左 頬 部 を 切 り 付 け 、 多 数 回 に わ た り 、顔 面 、腹 部 等 を 拳 で 殴 り 、足 で 蹴 る な ど の 暴 行 を 加 え た( 以 下 、 「 第 一 暴 行 」 と す る 。)。 ( 2 )被 告 人 は 、A ら 突 入 の 約 5 分 後 、自 ら も 同 部 屋 に 踏 み 込 ん だ 。被 告 人 は 、 被 害 者 が A ら か ら 激 し い 暴 行 を 受 け て 血 ま み れ に な っ て い る 状 況 を 目 に し て 、 A ら に 加 勢 し よ う と 考 え 、 台 所 に あ っ た 包 丁 を 取 り 出 し 、 そ の 刃 先 を 被 害 者 の 顔 面 に 向 け た 。こ の 時 点 で 、被 告 人 は 被 害 者 に 暴 行 を 加 え る こ と に つ い て A ら と 暗 黙 の う ち に 共 謀 を 遂 げ た 。 そ の 後 、同 月 13 日 午 前 0 時 47 分 頃 ま で の 間 に 、同 部 屋 に お い て 、被 告 人 及 び A は 、脱 出 を 試 み て 玄 関 に 向 か っ た 被 害 者 を 2 人 が か り で 取 り 押 さ え て 引 き ず り 、 リ ビ ン グ ル ー ム に 連 れ 戻 し 、 こ も ご も 、 背 部 、 腹 部 等 を 複 数 回 蹴 っ た り 踏 み 付 け た り す る な ど の 暴 行 を 加 え た( 以 下 、「 第 二 暴 行 」と す る 。)。ま た 、A ら は 、被 害 者 に 対 し 、 顔 面 を 拳 で 殴 り 、 た ば こ の 火 を 複 数 回 耳 に 突 っ 込 み 、 革 靴 の 底 や ガ ラ ス 製 灰 皿 等 で 頭 部 を 殴 り 付 け 、 は さ み で 右 手 小 指 を 切 り 付 け る な ど の 暴 行 を 加 え ( 以 下 、「 第 三 暴 行 」と す る 。)、A が 、千 枚 通 し で 被 害 者 の 左 大 腿 部 を 複 数 回 刺 し た ( 以 下 、「 第 四 暴 行 」 と す る 。)。 ( 3 ) 被 告 人 が 共 謀 加 担 し た 前 後 に わ た る 一 連 の 前 記 暴 行 の 結 果 、 被 害 者 は 、 全 治 ま で 約 1 か 月 間 を 要 す る 右 第 六 肋 骨 骨 折 、 全 治 ま で 約 2 週 間 を 要 す る 右 側 頭 部 切 創 、 左 頬 部 切 創 、 左 大 腿 部 刺 創 、 右 小 指 切 創 、 上 口 唇 切 創 の 傷 害 を 負 っ た 。 こ れ ら の 傷 害 の う ち 、 右 側 頭 部 切 創 及 び 左 頬 部 切 創 に つ い て は 、 被 告 人 の 共 謀 加 担 前 の A ら の 暴 行( = 第 一 暴 行 )に よ り 、左 大 腿 部 刺 創 及 び 右 小 指 切 創 に つ い て は 、 共 謀 成 立 後 の 暴 行 ( = 第 二 ~ 第 四 暴 行 ) に よ り 生 じ た も の で あ る が 、 右 第 六 肋 骨 骨 折 及 び 上 口 唇 切 創 に つ い て は 、 い ず れ の 段 階 の 暴 行 に よ り 生 じ た の か 不 明 で あ る 。 な お 、 被 告 人 が 加 え た 暴 行 は 、 右 第 六 肋 骨 骨 折 の 傷 害 を 生 じ さ せ 得 る 危 険 性 が あ っ た と 認 め ら れ る が 、 上 口 唇 切 創 の 傷 害 を 生 じ さ せ 得 る 危 険 性 が あ っ た と は 認 め ら れ な い2 こ の よ う な 事 実 関 係 を 前 提 に 、 原 判 決 ( 東 京 高 判 令 和 元 年 10 月 3 日 高 刑 速 令 和 元 年 286 頁 )は 以 下 の よ う に 説 示 し 、右 第 六 肋 骨 骨 折 の 傷 害 の み で な く 、上 口 唇 切 創 の 傷 害 に つ い て も 、 207 条 の 適 用 に よ り 被 告 人 は 傷 害 罪 の 責 任 を 負 う と 判 断 し た3。 す な わ ち 、「 先 行 者 の 暴 行 に 途 中 か ら 後 行 者 が 共 謀 の 上 加 担 し た が 、 被 2 決 定 文 上 明 ら か に さ れ て は い な い が 、 素 直 に 読 め ば 、 上 口 唇 切 創 の 原 因 行 為 は 、 第 一 暴 行 又 は 第 三 暴 行 で あ り 、( 共 謀 加 担 前 の 第 一 暴 行 に つ い て は 当 然 で あ る が ) 第 三 暴 行 を 被 告 人 は 自 ら は 行 っ て い な か っ た 、 と い う こ と と 理 解 さ れ る 。 3 第 一 審 ( 東 京 地 判 平 成 31 年 3 月 26 日 公 刊 物 未 登 載 ) の 判 断 に つ い て は 脱 稿 ま で に 閲 覧 不 可 能 で あ っ た 。 原 判 決 か ら 読 み 取 ら れ る 第 一 審 と 原 判 決 と の 相 違 は 、 左 大 腿 部 刺 創 に つ い て も 第 一 審 は 207 条 の 適 用 を 行 っ て い る 点 で あ る が 、 こ れ は 第 一 審 が 、 同 傷 害 の 原 因 行 為 が 被

(4)

害 者 の 負 っ た 傷 害 が 加 担 前 の 暴 行 に よ る も の か 加 担 後 の 共 同 暴 行 に よ る も の か 不 明 な 場 合 に お い て は 、 加 担 前 の 先 行 者 に よ る 暴 行 と 加 担 後 の 共 同 暴 行 を 観 念 す る こ と が で き る か ら 、 こ の 各 暴 行 の 間 に 同 時 傷 害 の 特 例 を 適 用 す る こ と は 妨 げ ら れ な い と い う べ き で あ る 。 こ の 場 合 に 先 行 者 が 同 時 傷 害 の 特 例 の 適 用 の 有 無 に か か わ ら ず 被 害 者 の 傷 害 に つ い て 責 任 を 免 れ な い こ と は 、 後 行 者 に つ い て 同 時 傷 害 の 特 例 の 適 用 が 認 め ら れ る か ど う か を 左 右 す る 事 情 で は な い 。」と し た 上 で 、被 告 人 の 共 謀 加 担 前 の A ら に よ る 暴 行( = 第 一 暴 行 )と 被 告 人 の 共 謀 加 担 後 の 共 同 暴 行 ( = 第 二 ~ 第 四 暴 行 ) は 、 い ず れ も 右 第 六 肋 骨 骨 折 及 び 上 口 唇 切 創 を 生 じ さ せ 得 る 具 体 的 危 険 性 を 有 し 、 同 一 の 機 会 に 行 わ れ た も の で あ る か ら 、 被 告 人 は 、 左 大 腿 部 刺 創 及 び 右 小 指 切 創 に つ い て 傷 害 罪 の 共 同 正 犯 と し て の 責 任 を 負 う だ け で な く 、刑 法 207 条 の 適 用 に よ り 、右 第 六 肋 骨 骨 折 及 び 上 口 唇 切 創 に つ い て も 傷 害 罪 の 責 任 を 負 う と し た 。 こ れ に 対 し て 、「 先 行 者 の 暴 行 に 途 中 か ら 後 行 者 が 共 謀 の 上 加 担 し た が 、被 害 者 の 負 っ た 傷 害 が 共 謀 加 担 前 の 先 行 者 の 暴 行 に よ る も の か 共 謀 加 担 後 の 共 同 暴 行 に よ る も の か 不 明 な 場 合 に は 、 先 行 者 が 当 該 傷 害 に つ い て の 責 任 を 負 う か ら 、 後 行 者 に つ い て 刑 法 207 条 を 適 用 す る こ と は で き な い 」 と し て 、 被 告 人 が 上 告 し た 。 最 高 裁 は 、被 告 人 の 主 張 は 刑 訴 法 405 条 の 上 告 理 由 に 当 た ら な い と し つ つ 、職 権 で 207 条 の 適 用 に つ い て 以 下 の よ う に 述 べ 、 207 条 の 適 用 に よ り 被 告 人 に 右 第 六 肋 骨 骨 折 を 帰 属 さ せ る こ と は 認 め ら れ る も の の 、 上 口 唇 切 創 に つ い て も 帰 属 さ れ る と し た 点 で 原 判 決 に は 法 令 違 反 が あ る と い わ ざ る を 得 な い が 、 判 決 に 影 響 を 及 ぼ す も の で は な い と し て 上 告 を 棄 却 し た 。

Ⅱ 決 定 要 旨

( ⅰ )「 同 時 傷 害 の 特 例 を 定 め た 刑 法 207 条 は 、 二 人 以 上 が 暴 行 を 加 え た 事 案 に お い て は 、 生 じ た 傷 害 の 原 因 と な っ た 暴 行 を 特 定 す る こ と が 困 難 な 場 合 が 多 い こ と な ど に 鑑 み 、 共 犯 関 係 が 立 証 さ れ な い 場 合 で あ っ て も 、 例 外 的 に 共 犯 の 例 に よ る こ と と し て い る 。 同 条 の 適 用 の 前 提 と し て 、 検 察 官 が 、 各 暴 行 が 当 該 傷 害 を 生 じ さ せ 得 る 危 険 性 を 有 す る も の で あ る こ と 及 び 各 暴 行 が 外 形 的 に は 共 同 実 行 に 等 し い と 評 価 で き る よ う な 状 況 に お い て 行 わ れ た こ と 、 す な わ ち 、 同 一 の 機 会 に 行 わ れ た も の で あ る こ と を 証 明 し た 場 合 、 各 行 為 者 は 、 自 己 の 関 与 し た 暴 行 が そ の 傷 害 を 生 じ さ せ て い な い こ と を 立 証 し な い 限 り 、 傷 害 に つ い て の 責 任 を 免 れ な い( 最 高 裁 平 成 27 年( あ )第 703 号 同 28 年 3 月 24 日 第 三 小 法 廷 決 定 ・刑 集 70 告 人 の 共 謀 加 担 前 の も の か 否 か が 証 拠 上 明 ら か で な い と 認 定 し た こ と に 起 因 す る も の で あ り 、 前 提 と す る 法 理 論 面 に 相 違 は な い ( 第 一 審 も 、 本 評 釈 で 特 に 問 題 と な る 上 口 唇 切 創 の 傷 害 に つ い て 、 207 条 に よ る 被 告 人 へ の 結 果 帰 属 を 肯 定 し て い る )。

(5)

巻 3 号 1 頁 参 照 )。」 ( ⅱ )「 刑 法 207 条 適 用 の 前 提 と な る 上 記 の 事 実 関 係 が 証 明 さ れ た 場 合 、 更 に 途 中 か ら 行 為 者 間 に 共 謀 が 成 立 し て い た 事 実 が 認 め ら れ る か ら と い っ て 、 同 条 が 適 用 で き な く な る と す る 理 由 は な く 、 む し ろ 同 条 を 適 用 し な い と す れ ば 、 不 合 理 で あ っ て 、 共 謀 関 係 が 認 め ら れ な い と き と の 均 衡 も 失 す る と い う べ き で あ る 。 し た が っ て 、 他 の 者 が 先 行 し て 被 害 者 に 暴 行 を 加 え 、 こ れ と 同 一 の 機 会 に 、 後 行 者 が 途 中 か ら 共 謀 加 担 し た が 、 被 害 者 の 負 っ た 傷 害 が 共 謀 成 立 後 の 暴 行 に よ り 生 じ た も の と ま で は 認 め ら れ な い 場 合 で あ っ て も 、 そ の 傷 害 を 生 じ さ せ た 者 を 知 る こ と が で き な い と き は 、 同 条 の 適 用 に よ り 後 行 者 は 当 該 傷 害 に つ い て の 責 任 を 免 れ な い と 解 す る の が 相 当 で あ る 。 先 行 者 に 対 し 当 該 傷 害 に つ い て の 責 任 を 問 い 得 る こ と は 、 同 条 の 適 用 を 妨 げ る 事 情 と は な ら な い と い う べ き で あ る 。」 ( ⅲ )「 ま た 、刑 法 207 条 は 、二 人 以 上 で 暴 行 を 加 え て 人 を 傷 害 し た 事 案 に お い て 、 そ の 傷 害 を 生 じ さ せ 得 る 危 険 性 を 有 す る 暴 行 を 加 え た 者 に 対 し て 適 用 さ れ る 規 定 で あ る こ と 等 に 鑑 み れ ば 、 上 記 の 場 合 に 同 条 の 適 用 に よ り 後 行 者 に 対 し て 当 該 傷 害 に つ い て の 責 任 を 問 い 得 る の は 、 後 行 者 の 加 え た 暴 行 が 当 該 傷 害 を 生 じ さ せ 得 る 危 険 性 を 有 す る も の で あ る と き に 限 ら れ る と 解 す る の が 相 当 で あ る 。 後 行 者 の 加 え た 暴 行 に 上 記 危 険 性 が な い と き に は 、 そ の 危 険 性 の あ る 暴 行 を 加 え た 先 行 者 と の 共 謀 が 認 め ら れ る か ら と い っ て 、 同 条 を 適 用 す る こ と は で き な い と い う べ き で あ る 。」 ( ⅳ )「 こ れ を 本 件 訴 訟 手 続 の 流 れ に 即 し て い え ば 、本 件 は 、検 察 官 が 先 行 者 と 後 行 者 で あ る 被 告 人 と の 間 に 当 初 か ら 共 謀 が 存 在 し た 旨 主 張 し 、 被 告 人 が そ の 共 謀 の 存 在 を 否 定 し た が 、 証 拠 上 、 途 中 か ら の 共 謀 が 認 め ら れ る と い う 事 案 で あ る と こ ろ 、こ の よ う な 被 告 人 に つ い て 刑 法 207 条 を 適 用 す る に 当 た っ て は 、先 行 者 と の 関 係 で 、そ の 傷 害 を 生 じ さ せ た 者 を 知 る こ と が で き な い か 否 か が 問 題 と な り 、 検 察 官 に お い て 、 先 行 者 及 び 被 告 人 の 各 暴 行 が 当 該 傷 害 を 生 じ さ せ 得 る 危 険 性 を 有 す る も の で あ る こ と 並 び に 各 暴 行 が 同 一 の 機 会 に 行 わ れ た も の で あ る こ と を 証 明 し た 場 合 、 被 告 人 は 、 自 己 の 加 え た 暴 行 が そ の 傷 害 を 生 じ さ せ て い な い こ と を 立 証 し な い 限 り 、 先 行 者 の 加 え た 暴 行 と 被 告 人 の 加 え た 暴 行 の い ず れ に よ り 傷 害 が 生 じ た の か を 知 る こ と が で き な い と い う 意 味 で 、『 そ の 傷 害 を 生 じ さ せ た 者 を 知 る こ と が で き な い と き 』 に 当 た り 、 当 該 傷 害 に つ い て の 責 任 を 免 れ な い の で あ る 。」 ( ⅴ )「 本 件 に お い て 、 被 告 人 が 共 謀 加 担 し た 前 後 に わ た る 一 連 の 前 記 暴 行 は 、 同 一 の 機 会 に 行 わ れ た も の で あ る と こ ろ 、 被 告 人 は 、 右 第 六 肋 骨 骨 折 の 傷 害 を 生 じ さ せ 得 る 危 険 性 の あ る 暴 行 を 加 え て お り 、刑 法 207 条 の 適 用 に よ り 同 傷 害 に つ い て の 責 任 を 免 れ な い 。 こ れ に 対 し 、 被 告 人 は 、 上 口 唇 切 創 の 傷 害 を 生 じ さ せ 得

(6)

る 危 険 性 の あ る 暴 行 を 加 え て い な い か ら 、 同 条 適 用 の 前 提 を 欠 い て い る 。 そ う す る と 、 原 判 決 に は 、 被 告 人 が 同 傷 害 に つ い て も 責 任 を 負 う と 判 断 し た 点 で 、 同 条 の 解 釈 適 用 を 誤 っ た 法 令 違 反 が あ る と い わ ざ る を 得 な い が 、 こ の 違 法 は 判 決 に 影 響 を 及 ぼ す も の と は い え な い 。」

Ⅲ 研 究

4 一 は じ め に 本 決 定 は 、す で に あ る 者 が 先 行 し て 被 害 者 に 暴 行 を 加 え 、こ れ と 同 一 の 機 会 に 、 後 行 者 が 途 中 か ら 共 謀 加 担 し た が 、 被 害 者 の 負 っ た 傷 害 が 共 謀 成 立 前 後 の 暴 行 い ず れ に よ り 生 じ た も の か 明 ら か で な い と い う 場 合( 以 下 、「 途 中 共 謀 加 担 事 例 」と す る 。)に つ い て 、刑 法 207 条 の 同 時 傷 害 の 特 例 の 適 用 が あ る か 、適 用 が あ る と し て そ の 適 用 範 囲 ( あ る い は 適 用 の 在 り 方 ) は い か な る も の か 、 に つ い て 最 高 裁 と し て 初 め て の 判 断 を 示 し た も の で あ る 。 本 事 案 に お い て は 、 様 々 な 傷 害 結 果 が 発 生 し て い る が 、 ま ず 左 大 腿 部 刺 創 及 び 右 小 指 切 創 に つ い て は 、 共 謀 成 立 後 の 暴 行 ( = 第 二 ~ 第 四 暴 行 ) に よ り 生 じ た も の で あ り 、 通 常 の 共 同 正 犯 と し て 扱 う こ と で 当 然 に 被 告 人 に 帰 属 可 能 で あ る 。 つ ぎ に 、右 側 頭 部 切 創 及 び 左 頬 部 切 創 に つ い て は 、被 告 人 の 共 謀 加 担 前 の A ら の 暴 行 ( = 第 一 暴 行 ) に よ り 生 じ て い る こ と が 明 ら か と さ れ て い る ( 共 謀 加 担 後 の 暴 行 と の 因 果 関 係 が 否 定 さ れ て い る ) た め 、 207 条 の 適 用 は 不 可 能 で あ る 。 こ れ を 被 告 人 に も 帰 属 し よ う と す る な ら ば 、 い わ ゆ る 承 継 的 共 ( 同 正 ) 犯 と し て 取 り 扱 う こ と が 必 要 と な る が 、 周 知 の 最 決 平 成 24 年 11 月 6 日 刑 集 66 巻 11 号 1281 頁 ( 以 下 、「 平 成 24 年 決 定 」と す る 。)に よ り 、傷 害 罪 に つ い て は 承 継 的 共 同 正 犯 が 認 め ら れ な い と 考 え ら れ る こ と か ら5、被 告 人 に は や は り 帰 属 さ れ 得 な い 。問 題 と な っ た の は 、 共 謀 加 担 前 ・ 加 担 後 い ず れ の 段 階 の 暴 行 に よ り 生 じ た か 不 明 で あ っ た 右 第 六 肋 骨 骨 折 及 び 上 口 唇 切 創 に つ い て で あ り 、 原 判 決 は い ず れ に つ い て も 207 条 の 適 用 に よ り 被 告 人 へ の 帰 属 を 認 め た の に 対 し 、 最 高 裁 は 前 者 に つ い て の み 認 め 、 後 者 に つ い て は 認 め な か っ た 。 す な わ ち 、 最 高 裁 も 共 謀 加 担 前 ・ 加 担 後 い ず れ の 段 階 の 暴 行 に よ り 生 じ た の か 4 本 稿 脱 稿 時 点 で 公 刊 さ れ て い た 評 釈 と し て は 、 前 田 雅 英 「 判 批 」 捜 査 研 究 69 巻 12 号 ( 2020 年 ) 2 頁 、 和 田 俊 憲 「 判 批 」 法 学 教 室 484 号 ( 2021 年 ) 131 頁 、 北 原 直 樹 「 判 批 」 研 修 871 号 ( 2021 年 ) 17 頁 が あ る 。 5 も っ と も 、 平 成 24 年 決 定 は 「 事 前 共 謀 と の 同 価 値 性 と い う 視 点 か ら 先 行 す る 結 果 も 含 め て 承 継 的 に 責 任 を 負 わ せ る 議 論 を 排 斥 し た わ け で は な い 」 と す る ( も っ と も 、 事 前 共 謀 と の 同 価 値 性 が 認 め ら れ る 範 囲 は 限 定 的 と す る ) も の と し て 、 樋 口 亮 介 「 承 継 的 共 同 正 犯 」 法 律 時 報 92 巻 12 号 ( 2020 年 ) 39-40 頁 ( さ ら に 、 和 田 俊 憲 「 承 継 的 共 犯 」 刑 法 雑 誌 60 巻 1 ・ 2 ・ 3 号 ( 2021 年 ) 58,61 頁 も 参 照 )。 こ の 理 解 に よ れ ば 、 本 事 案 は 事 前 共 謀 と の 同 価 値 性 も 認 め ら れ な か っ た 一 事 例 と い う 意 味 も 有 す る こ と に な ろ う 。

(7)

不 明 で あ っ た 傷 害 の 一 部 ( = 右 第 六 肋 骨 骨 折 ) に つ い て は 、 207 条 の 適 用 に よ り 途 中 共 謀 加 担 者 に 結 果 帰 属 を 認 め て い る た め 、 途 中 共 謀 加 担 事 例 に お い て 同 条 の 適 用 が 可 能 で あ る ( 全 面 的 に 排 斥 さ れ る こ と は な い ) と い う 立 場 を 示 し た こ と は 明 ら か で あ り 、 こ の 点 に ま ず 本 決 定 の 重 要 な 意 義 が あ る 。 も っ と も 、 原 判 決 と 最 高 裁 は 、被 告 人 自 身 が 当 該 傷 害 結 果 を 生 じ さ せ 得 る 危 険 性 の あ る 暴 行( 以 下 、「 問 題 と な る 暴 行 」と 呼 ぶ こ と が あ る 。)を 行 っ て い た か 否 か に 着 目 す る か と い う 点 で 、 207 条 の 適 用 の 在 り 方 に 関 し て 異 な る 判 断 を 行 い6、そ の 結 果 、最 高 裁 は 原 判 決 に 比 し て 、 207 条 の 適 用 範 囲 を 限 定 し て い る 。 後 者 の 点 は 、 こ れ ま で 必 ず し も 明 確 に 論 じ ら れ て こ な か っ た と 思 わ れ7、 こ の 点 に も 本 決 定 の 重 要 な 意 義 が あ る 。 以 下 、 こ れ ら の 問 題 に 関 す る 先 例 を 確 認 し 、 そ れ と の 関 係 で 本 決 定 の 意 義 を 再 確 認 し( 二 )、そ の 上 で 、途 中 共 謀 加 担 事 例 に お い て 207 条 が 適 用 さ れ る 余 地 は あ る の か と い う 問 題 ( 三 ) と 、 適 用 の 余 地 が あ る と し て そ の 適 用 範 囲 ( 適 用 の 在 り 方 ) は い か な る も の か と い う 問 題 ( 四 ) を 、 順 に 検 討 す る8 二 先 例 の 状 況 の 確 認 1 . 平 成 24 年 決 定 及 び 平 成 28 年 決 定 と の 関 係 ( 一 ) 平 成 24 年 決 定 と の 関 係 最 高 裁 は 、途 中 共 謀 加 担 事 例 へ の 刑 法 207 条 の 適 用 の 可 否 と い う 問 題 に つ い て 、 明 示 的 な 判 断 を 行 っ た こ と は こ れ ま で な か っ た と い え る 。 も っ と も 、 こ の 問 題 に つ き 、 否 定 的 な 態 度 を 示 唆 し た と 一 部 で 理 解 さ れ た 判 例 は 存 在 し た 。 そ れ は 傷 害 罪 に つ き い わ ゆ る 承 継 的 共 同 正 犯 の 成 立 を 否 定 し た 平 成 24 年 決 定 で あ る 。 同 事 案 は 、 X ら が ま ず 被 害 者 2 人 に 暴 行 を 加 え ( す で に 被 告 人 到 着 前 に 流 血 ・ 負 傷 )、 そ の 後 被 告 人 が 到 着 し 、X ら と 共 謀 の 上 、( 共 謀 加 担 以 前 よ り 激 し い )暴 行 を 行 っ た と こ ろ 、 被 害 者 は 多 く の 傷 害 を 負 っ た と い う も の で あ る が 、 原 判 決 が い わ ゆ る 承 継 的 共 同 正 犯 と し て 被 告 人 に 被 害 者 に 生 じ た す べ て の 傷 害 結 果 を 帰 属 さ せ た の に 対 し 、最 高 裁 は 、承 継 的 共 同 正 犯 に よ る 帰 属 を 否 定 し 、「 共 謀 加 担 前 に 先 行 者 で あ る X ら が 既 に 生 じ さ せ て い た 傷 害 結 果 に つ い て は 、被 告 人 の 共 謀 及 び そ れ に 基 づ く 行 為 が こ れ と 因 果 関 係 を 有 す る こ と は な い か ら 、 傷 害 罪 の 共 同 正 犯 と し て の 6 原 判 決 と 最 高 裁 と で 事 実 認 定 の 相 違 は な い 。 原 判 決 は 、 被 告 人 自 身 が 当 該 傷 害 を 生 じ さ せ 得 る 具 体 的 危 険 性 を 有 す る 暴 行 を 行 っ た と は 認 定 し て い な い 。 原 判 決 は 第 二 ~ 第 四 暴 行 を 「 被 告 人 の 共 謀 加 担 後 の 共 同 暴 行 」 と ま と め て 理 解 し て お り 、 被 告 人 自 身 が 行 っ た 暴 行 の み を 取 り 上 げ る と い う 視 点 を 有 し て い な か っ た と 思 わ れ る 。 後 述 の よ う に 、 こ の こ と は 従 来 の 理 解 か ら す れ ば 自 然 と も い え る こ と で あ っ た 。 7 例 外 と し て 、 伊 藤 渉 ほ か 『 ア ク チ ュ ア ル 刑 法 各 論 』( 弘 文 堂 、 2007 年 ) 47-48 頁 [ 島 田 聡 一 郎 ]、 西 田 典 之 ほ か 編 『 注 釈 刑 法 総 論 §§1 ~72』( 有 斐 閣 、 2010 年 ) 858 頁 [ 島 田 聡 一 郎 ]、 小 林 憲 太 郎 「 い わ ゆ る 承 継 的 共 犯 を め ぐ っ て 」 研 修 791 号 ( 2014 年 ) 8 頁 。 8 な お 、 207 条 の 適 用 の た め に は 「 機 会 の 同 一 性 」 要 件 も 重 要 で あ り 、 近 時 盛 ん な 議 論 が あ る と こ ろ で は あ る が 、 本 決 定 に お い て は 特 に 問 題 と な っ て い な い た め 、 以 下 で は 特 に 言 及 し な い 。

(8)

責 任 を 負 う こ と は な く 、 共 謀 加 担 後 の 傷 害 を 引 き 起 こ す に 足 り る 暴 行 に よ っ て 被 害 者 ら の 傷 害 の 発 生 に 寄 与 し た こ と に つ い て の み 、 傷 害 罪 の 共 同 正 犯 と し て の 責 任 を 負 う と 解 す る の が 相 当 で あ る 。」 と し た 。 同 決 定 は 207 条 に つ い て 特 に 言 及 し て い な い が 、 207 条 と の 関 係 で 問 題 と な っ た の は 、そ の「 言 及 し な か っ た こ と 」で あ っ た 。同 決 定 は 、「 少 な く と も 、共 謀 加 担 後 に 暴 行 を 加 え た 上 記 部 位 に つ い て は 被 害 者 ら の 傷 害 … … を 相 当 程 度 重 篤 化 さ せ た も の と 認 め ら れ る 」 と し て お り 、 そ の 「 少 な く と も 」 と い う 説 示 か ら は 、 上 記 傷 害 以 外 の 傷 害 結 果 を も 惹 起 し て い る 可 能 性 も 否 定 で き な い 、 と の 含 意 が 窺 わ れ る9。も ち ろ ん 、被 告 人 到 着 前 に 被 害 者 が 流 血・負 傷 し て お り 、そ れ に つ い て は 原 因 行 為 不 明 で は な く 、 先 行 行 為 が 原 因 行 為 で あ る こ と が 明 ら か で あ る か ら 、 そ の 傷 害 に つ い て 207 条 の 適 用 に よ り 被 告 人 に 帰 属 さ せ る こ と は で き ず 、そ れ ゆ え す べ て の 傷 害 結 果 を 被 告 人 に 帰 属 さ せ る こ と は 207 条 を 通 じ て も 不 可 能 で あ る10 し か し 、 す で に 生 じ て い た こ と が 確 定 し て い る 傷 害 以 外 の 傷 害 の う ち 、 被 告 人 が 惹 起 し た か 否 か が 不 明 な も の も 存 在 す る こ と が 「 少 な く と も 」 の 含 意 で あ る と す る と 、そ の 部 分 に つ い て は 207 条 を 適 用 す る こ と で 被 告 人 に 帰 属 さ せ る こ と も 可 能 で あ っ た よ う に 思 わ れ る11。し か し 、法 廷 意 見 は そ の こ と に 言 及 せ ず 、さ ら に 千 葉 勝 美 裁 判 官 の 補 足 意 見 に お い て 、「 共 謀 加 担 後 の 暴 行 に よ り 傷 害 の 発 生 に 寄 与 し た か 不 明 な 場 合 … … に は 、 傷 害 罪 で は な く 、 暴 行 罪 の 限 度 で の 共 同 正 犯 の 成 立 に 止 め る こ と に な る の は 当 然 で あ る 」 と 述 べ ら れ て い た こ と か ら 、 207 条 の 適 用 を 排 斥 す る 方 向 に 親 和 的 な も の で は な い か 、 と の 理 解 も あ っ た12 し か し 、 同 決 定 で は 、 207 条 の 適 用 ま で 検 討 せ ず と も 、 傷 害 結 果 を 相 当 程 度 重 篤 化 さ せ た と い う 限 り で は 被 告 人 に 結 果 帰 属 可 能 で あ り 、 そ れ に よ り 処 断 刑 の 範 囲 に 影 響 し な い こ と は 勿 論 、 す べ て の 傷 害 結 果 を 帰 属 さ せ て い た 原 審 ・ 原 々 審 の 量 刑 判 断 を 不 当 な も の と す る に 至 ら な い と 判 断 さ れ た た め に 、 あ え て そ れ ま で の 訴 訟 経 過 で 争 点 と さ れ て い な か っ た 207 条 の 適 用 に 触 れ な か っ た も の と 理 解 す る こ と も で き13、 そ の 中 で の 千 葉 補 足 意 見 も あ く ま で 207 条 の 問 題 を 一 旦 脇 に 置 い た も の と 捉 え る こ と も 一 応 可 能 で あ り14、 同 決 定 で は 途 中 共 謀 加 担 事 例 に お け る 9 最 高 裁 が そ の 認 定 を 前 提 と し て い る と こ ろ の 第 一 審 で は 、 被 害 者 ら の 「 傷 害 の 大 半 は 、 被 告 人 が 本 件 現 場 に 到 着 す る 前 の … … 暴 行 に よ る も の か 、 あ る い は 被 告 人 が 加 わ っ た の ち の 暴 行 に よ る も の か が 、 証 拠 上 必 ず し も 明 ら か で は な 」 い と さ れ て い る ( 刑 集 66 巻 11 号 1317-1318 頁 )。 多 数 の 傷 害 の う ち 一 部 に つ い て は 、 重 篤 化 に 留 ま ら ず 、 発 生 自 体 を 引 き 起 こ し た も の も あ る 可 能 性 が あ る 、 と い う こ と と 思 わ れ る 。 1 0 松 尾 誠 紀 「 事 後 的 な 関 与 と 傷 害 結 果 の 帰 責 」 法 と 政 治 64 巻 1 号 ( 2013 年 ) 26 頁 注 34。 1 1 金 子 博 「 判 批 」 近 畿 大 学 法 学 64 巻 2 号 ( 2016 年 ) 84 頁 注 16 参 照 。 1 2 池 田 修 = 杉 田 宗 久 編 『 新 実 例 刑 法 総 論 』( 青 林 書 院 、 2014 年 ) 355 頁 〔 芦 澤 政 治 〕、 豊 田 兼 彦 「 暴 行 へ の 途 中 関 与 と 刑 法 207 条 」 井 田 良 ほ か 編 『 浅 田 和 茂 先 生 古 稀 祝 賀 論 文 集 [ 上 巻 ]』( 成 文 堂 、 2016 年 ) 679 頁 。 1 3 石 田 寿 一 「 判 解 」 最 判 解 刑 事 篇 平 成 24 年 度 460 頁 、 橋 爪 隆 『 刑 法 総 論 の 悩 み ど こ ろ 』 ( 有 斐 閣 、 2020 年 ) 389 頁 注 34。 1 4 小 林 憲 太 郎 「 判 批 」 判 時 2323 号 ( 2017 年 ) 175 頁 。

(9)

207 条 の 適 用 の 可 否 に 関 し て は 何 ら の 示 唆 も 示 し て い な い と 捉 え て お く の が 妥 当 で あ り 、 よ り 一 般 的 な 理 解 で あ っ た と 思 わ れ る 。 ( 二 ) 平 成 28 年 決 定 と の 関 係 も う 一 つ 、今 度 は 逆 に 、途 中 共 謀 加 担 事 例 へ の 207 条 の 適 用 に つ き 肯 定 的 な 方 向 性 を 示 し た も の と 一 部 で 評 価 さ れ た 判 例 も あ り 、 そ れ は 最 決 平 成 28 年 3 月 24 日 刑 集 70 巻 3 号 1 頁( 以 下 、「 平 成 28 年 決 定 」と す る 。)で あ る 。同 事 案 は 単 純 化 す れ ば 、 X・ Y が ま ず 被 害 者 に 暴 行 を し 、 そ の 後 Z が 共 謀 な く 暴 行 を 加 え 、 被 害 者 が 死 亡 し た が 、 死 亡 の 原 因 と な っ た 傷 害 が い ず れ の 暴 行 に よ り 生 じ た の か 不 明 で あ り 、し か し Z の 暴 行 に よ り 死 因 と な っ た 傷 害 が 悪 化 さ せ ら れ た こ と は 認 め ら れ る( そ し て そ れ に よ り 死 亡 時 期 が 早 ま っ た こ と も 認 め ら れ 、そ れ ゆ え Z の 行 為 と 死 亡 結 果 と の 間 の 因 果 関 係 も 認 め ら れ る ) と い う も の で あ っ た 。 こ の 点 に つ き 、第 一 審 判 決 ( 名 古 屋 地 判 平 成 26 年 9 月 19 日 刑 集 70 巻 3 号 26 頁 )が 、「 第 2 暴 行 は 、い ず れ に し て も 、被 害 者 の 死 亡 と の 間 に 因 果 関 係 が 認 め ら れ る こ と と な り 、 死 亡 さ せ た 結 果 に つ い て 、 責 任 を 負 う べ き 者 が い な く な る 不 都 合 を 回 避 す る た め の 特 例 で あ る 同 時 傷 害 致 死 罪 の 規 定( 刑 法 207 条 )を 適 用 す る 前 提 が 欠 け る 」と し た の に 対 し 、最 高 裁 は 、「 い ず れ か の 暴 行 と 死 亡 と の 間 の 因 果 関 係 が 肯 定 さ れ る と き で あ っ て も 、 別 異 に 解 す べ き 理 由 は な く 、 同 条 の 適 用 は 妨 げ ら れ な い と い う べ き で あ る 。」と し た 。暴 行 と 死 亡 結 果 と の 因 果 関 係 を 直 接 に 問 題 と し て い る 点 に や や 不 明 瞭 な 点 が あ る が 、そ の 趣 旨 を 敷 衍 す れ ば 、第 一 審 は 207 条 を 「 傷 害 の 結 果 に つ き 責 任 を 負 う べ き 者 が い な く な る 不 都 合 を 回 避 す る た め の 特 例 」 と 理 解 し た 上 で 、 少 な く と も 死 因 と な っ た 傷 害 を 重 篤 化 さ せ た と い う 限 り で 後 行 者 に 傷 害 結 果 ( 及 び 死 亡 結 果 ) を 帰 属 す る こ と は で き る の で あ る か ら 、 最 終 結 果 に つ き 帰 属 さ れ る 者 が い な く な る 不 都 合 は な く 、 207 条 は 適 用 さ れ な い と の 理 解 を 示 し た の に 対 し 、最 高 裁 は 、そ の よ う な 場 合 で あ っ て も 207 条 の 適 用 が 排 除 さ れ る こ と は な い と し た 、と い え る15。こ れ に つ き 、論 者 の 中 に は 、207 条 を 「 傷 害 の 結 果 に つ き 責 任 を 負 う べ き 者 が い な く な る 不 都 合 を 回 避 す る た め の 特 例 」 と 理 解 す れ ば 第 一 審 の 帰 結 に 至 る べ き で あ る の に 、 そ の よ う な 帰 結 に 至 っ て い な い 最 高 裁 は こ の 207 条 の 趣 旨 を 軽 視 し て い る と し て 、 平 成 28 年 決 定 を 批 判 的 に 捉 え る 者 も い た16。 平 成 28 年 決 定 を こ の よ う に 評 価 す る の で あ れ ば 、 最 高 裁 は 、 同 じ く そ の よ う な 不 都 合 が 存 在 し な い 途 中 共 謀 加 担 事 例 に つ い て も 207 条 の 適 用 を 認 め る 方 向 性 を 示 し た も の と い う 評 価 も 可 能 で あ ろ う17。 し か し 、 す で に 指 摘 1 5 橋 爪 隆 「 同 時 傷 害 の 特 例 に つ い て 」 法 学 教 室 446 号 ( 2017 年 ) 121 頁 、 安 田 拓 人 「 同 時 傷 害 の 特 例 の 存 在 根 拠 と そ の 適 用 範 囲 に つ い て 」 井 田 良 ほ か 編 『 山 中 敬 一 先 生 古 稀 祝 賀 論 文 集 [ 下 巻 ]』( 成 文 堂 、 2017 年 ) 83 頁 参 照 。 1 6 安 田 拓 人 「 判 批 」 法 学 教 室 430 号 ( 2016 年 ) 150 頁 、 同 ・ 前 掲 注 15・ 98 頁 。 1 7 前 田 雅 英 『 刑 法 各 論 講 義 [ 第 7 版 ]』( 東 京 大 学 出 版 会 、 2020 年 ) 33 頁 、 同 「 判 批 」 捜 査 研 究 65 巻 9 号 ( 2016 年 ) 61 頁 、 同 ・ 前 掲 注 4・ 6,7,9 頁 。

(10)

も あ る と お り 、 同 事 案 で は 、 207 条 の 適 用 が な け れ ば 、 後 行 者 に 帰 属 さ せ る こ と が で き る の は 、「 被 害 者 に 生 じ た 傷 害 を 重 篤 化 さ せ た 部 分 」に つ い て( 死 亡 に つ い て は 早 め た 部 分 に つ い て ) の み と い う こ と と な り 、 傷 害 発 生 そ れ 自 体 ( 重 篤 化 以 前 の 部 分 ) に つ い て は 、 な お 「 責 任 を 負 う べ き 者 が い な く な る 不 都 合 」 が 存 在 す る の で あ り 、必 ず し も 最 高 裁 が 207 条 を「 傷 害 の 結 果 に つ き 責 任 を 負 う べ き 者 が い な く な る 不 都 合 を 回 避 す る た め の 特 例 」 と 理 解 す る こ と を 排 斥 し た わ け で は な い と み る 余 地 も 十 分 に あ っ た18 以 上 よ り 、途 中 共 謀 加 担 事 例 に つ い て 207 条 の 適 用 が 可 能 で あ る か に つ い て の 最 高 裁 の 判 断 は 、 少 な く と も 明 示 的 に は19こ れ ま で 存 在 し な か っ た と い え る 。 2 . 下 級 審 裁 判 例 の 状 況 こ れ に 対 し て 、 下 級 審 裁 判 例 に 目 を 転 じ る と 、 途 中 共 謀 加 担 事 例 に つ い て 207 条 の 適 用 を 認 め る も の が 多 数 存 在 す る20 ( 一 ) 大 阪 高 裁 昭 和 62 年 判 決 著 名 な も の と し て は 、ま ず 、途 中 共 謀 加 担 事 例 に つ い て 207 条 の 適 用 を 認 め た わ け で は な い も の の 、 そ の 適 用 可 能 性 に つ き 興 味 深 い 指 摘 を し て い た 大 阪 高 判 昭 和 62 年 7 月 10 日 高 刑 集 40 巻 3 号 720 頁 ( 以 下 、「 大 阪 高 裁 昭 和 62 年 判 決 」 と す る 。)が 挙 げ ら れ る 。同 判 決 は 、直 接 に は 傷 害 罪 の 承 継 的 共 犯 を 否 定 し た も の で あ る が 、途 中 共 謀 加 担 事 例 に お け る 207 条 の 適 用 可 能 性 に つ き 、一 方 で 、適 用 を 否 定 し た 場 合 に 生 じ 得 る 、途 中 共 謀 加 担 事 例 で な い 典 型 的 な 207 条 適 用 事 例 と の 不 均 衡 の 発 生 を 指 摘 し 、 ま た 途 中 共 謀 加 担 後 の 共 同 暴 行 と 加 担 前 の 暴 行 と を あ た か も 意 思 連 絡 の な い 二 名 の 暴 行 と 同 視 し て 、 207 条 の 適 用 を 認 め る 見 解 も あ り 得 る と し つ つ 、 し か し 他 方 で 、 207 条 が 「 行 為 者 の い ず れ に 対 し て も 傷 害 の 刑 責 を 負 わ せ る こ と が で き な く な る と い う 著 し い 不 合 理 … … を 解 消 す る た め に 特 に 設 け ら れ た 例 外 規 定 」 で あ る こ と か ら 、 207 条 の 適 用 を 否 定 す る こ と も あ り 得 る と 説 1 8 橋 爪 ・ 前 掲 注 15・ 121-122,125 頁 、 豊 田 ・ 前 掲 注 12・ 680 頁 。 1 9 も っ と も 、 令 和 2 年 決 定 を 踏 ま え て 平 成 28 年 決 定 を 現 在 の 目 か ら 見 れ ば 、 途 中 共 謀 加 担 事 例 に つ い て 207 条 の 適 用 を 可 能 と す る 方 向 性 が す で に 示 唆 さ れ て い た と み る こ と は 可 能 か も し れ な い 。 す な わ ち 、 平 成 28 年 決 定 は 、 207 条 を 「 二 人 以 上 が 暴 行 を 加 え た 事 案 に お い て は 、 生 じ た 傷 害 の 原 因 と な っ た 暴 行 を 特 定 す る こ と が 困 難 な 場 合 が 多 い こ と な ど に 鑑 み 」 た 規 定 と し 、「 責 任 を 負 う べ き 者 が い な く な る 不 都 合 を 回 避 す る た め の 特 例 」 と の 理 解 を 明 示 す る こ と を 避 け て い た 。 ま た 、 同 決 定 は 、 207 条 適 用 の 際 の 要 件 ・ 主 張 立 証 の 在 り 方 を 一 般 的 な 形 で 比 較 的 詳 細 に 論 じ る 中 で 、「 検 察 官 は 、 各 暴 行 が 当 該 傷 害 を 生 じ さ せ 得 る 危 険 性 を 有 す る も の で あ る こ と 及 び 各 暴 行 が 外 形 的 に は 共 同 実 行 に 等 し い と 評 価 で き る よ う な 状 況 に お い て 行 わ れ た こ と 、 す な わ ち 、 同 一 の 機 会 に 行 わ れ た も の で あ る こ と の 証 明 を 要 す る と い う べ き で あ り 、 そ の 証 明 が さ れ た 場 合 、 各 行 為 者 は 、 自 己 の 関 与 し た 暴 行 が そ の 傷 害 を 生 じ さ せ て い な い こ と を 立 証 し な い 限 り 、 傷 害 に つ い て の 責 任 を 免 れ な い と い う べ き で あ る 。」 と し 、 検 察 官 が 上 述 の 要 件 を 証 明 し た 場 合 に は 、 各 行 為 者 は 自 身 の 暴 行 と 傷 害 と の 因 果 関 係 の 不 存 在 を 証 明 す る 以 外 に 責 任 を 免 れ る 術 は な く 、 途 中 共 謀 加 担 事 例 で あ る こ と ( = 先 行 者 に は 全 結 果 が 帰 属 で き る こ と ) を 主 張 立 証 し て も 責 任 を 免 れ る こ と は な い 、 と い う こ と が 示 唆 さ れ て い た と も い え る よ う に 思 わ れ る か ら で あ る 。 2 0 石 田 ・ 前 掲 注 13・ 460 頁 は 、 消 極 に 解 し た 裁 判 例 は 見 当 た ら な い と す る 。 直 後 で 述 べ る よ う に 、 大 阪 高 裁 昭 和 62 年 判 決 も 消 極 に 解 し た も の と 評 価 す べ き で は な い 。

(11)

示 し 、最 終 的 に は 訴 因 変 更 が な さ れ て い な い こ と を 理 由 に 207 条 に よ る 帰 属 の 検 討 を 打 ち 切 っ て い る21 こ の よ う に 同 判 決 は 、一 般 論 と し て は 、途 中 共 謀 加 担 事 例 に つ き 207 条 の 適 用 を 肯 定 す る 立 場( 以 下 、「 適 用 肯 定 説 」と す る 。)も 否 定 す る 立 場( 以 下 、「 適 用 否 定 説 」と す る 。)も あ り 得 る こ と を 指 摘 し て い た も の の 、事 案 処 理 と し て は 訴 訟 法 的 観 点 か ら 207 条 の 適 用 を 差 し 控 え た も の で あ り 、ま た す で に 指 摘 も あ る と お り 、 仮 に 207 条 の 適 用 を 一 般 論 と し て 肯 定 す る 立 場 に 与 し た と し て も 、当 該 事 案 に お い て は 、 共 謀 加 担 後 の 暴 行 は 非 常 に 軽 微 で あ り 、 被 害 者 の 傷 害 の 大 部 分 ( あ る い は す べ て ) は 被 告 人 共 謀 加 担 前 に 生 じ て い た こ と が 明 ら か で あ り 、 207 条 の 適 用 の 余 地 が な い あ る い は 実 益 が ほ ぼ な い 事 例 で あ っ た22。ゆ え に 、207 条 の 適 用 に 関 す る 説 示 は 完 全 な 傍 論 で あ り 、 こ の 大 阪 高 裁 昭 和 62 年 判 決 は 、 適 用 否 定 説 に 一 定 の 理 解 を 示 し て は い る も の の 、 適 用 否 定 説 を 明 示 し た も の と ま で は 言 え な い と 位 置 づ け ら れ る べ き で あ ろ う 。 ( 二 ) 大 阪 地 裁 平 成 9 年 判 決 及 び そ れ 以 降 の 裁 判 例 こ れ に 対 し て 、 大 阪 高 裁 昭 和 62 年 判 決 で 示 唆 さ れ て い た 適 用 肯 定 説 を 明 示 的 に 採 用 し た も の と し て 、 大 阪 地 判 平 成 9 年 8 月 20 日 判 タ 995 号 286 頁 ( 以 下 、 「 大 阪 地 裁 平 成 9 年 判 決 」と す る 。)が あ る 。す な わ ち 、途 中 共 謀 加 担 事 例 で 適 用 を 否 定 し た 場 合 に 生 じ 得 る 、途 中 共 謀 加 担 事 例 で な い 典 型 的 な 207 条 適 用 事 例 と の 不 均 衡 の 発 生 を 示 唆 し た 上 で 、「 単 独 犯 の 暴 行 に よ っ て 傷 害 が 生 じ た の か 、共 同 正 犯 の 暴 行 に よ っ て 傷 害 が 生 じ た の か 不 明 で あ る と い う 点 で 、 や は り 『 そ の 傷 害 を 生 じ さ せ た 者 を 知 る こ と が で き な い と き 』 に 当 た る 」 と し て 、 207 条 の 適 用 を 肯 定 し た の で あ る 。 そ の 後 、近 時 に 至 る ま で 、途 中 共 謀 加 担 事 例 に 207 条 を 適 用 す る こ と に 肯 定 的 な 判 断 を 示 す 裁 判 例 が 積 み 重 ね ら れ て い る 。 紙 幅 の 関 係 上 、 詳 細 な 紹 介 は 困 難 で あ る が 、 基 本 的 に 、 上 記 大 阪 高 裁 昭 和 62 年 判 決 及 び 大 阪 地 裁 平 成 9 年 判 決 で 示 さ れ て い た の と 同 様 、途 中 共 謀 加 担 事 例 で な い 典 型 的 な 207 条 適 用 事 例 と の 不 均 衡 の 回 避 と い う 実 質 論 ( 以 下 、「 均 衡 論 」と 呼 ぶ こ と が あ る 。)を 前 提 に23、( 表 現 に 若 干 の ば ら つ き は あ る が 最 大 公 約 数 的 に 言 え ば ) 共 謀 成 立 前 の 先 行 者 に よ る 暴 行 に よ っ て 結 果 が 生 じ た の か 、 共 謀 成 立 後 の 共 同 正 犯 と し て の 暴 行 に よ っ て 結 果 2 1 訴 因 変 更 の 要 否 に つ い て は 、 刑 事 訴 訟 法 研 究 者 の 御 協 力 を 得 つ つ 、 今 後 さ ら に 検 討 し て い く こ と と し 、 本 稿 で は こ れ 以 上 踏 み 込 ま な い 。 な お 、 令 和 2 年 決 定 の 原 判 決 は 、 同 様 の 問 題 に つ き 、 訴 因 変 更 が 常 に 必 要 で あ る わ け で は な い と の 立 場 を 示 し て い る 。 2 2 西 田 ほ か ・ 前 掲 注 7・ 859 頁 [ 島 田 ]、 伊 藤 ほ か ・ 前 掲 注 7・ 48 頁 [ 島 田 ]、 高 橋 則 夫 「 承 継 的 共 同 正 犯 に つ い て 」 井 田 良 ほ か 編 『 川 端 博 先 生 古 稀 記 念 論 文 集 [ 上 巻 ]』( 成 文 堂 、 2014 年 ) 566 頁 。 2 3 こ の 点 を 指 摘 す る も の と し て 、 神 戸 地 判 平 成 15 年 3 月 20 日 LEX/DB 28095281、 神 戸 地 判 平 成 15 年 7 月 17 日 LEX/DB 28095309 、 仙 台 地 判 平 成 25 年 1 月 29 日 LLI/DB 06850125、 東 京 高 決 平 成 27 年 11 月 10 日 東 高 刑 時 報 66 巻 1 ~ 12 号 103 頁 が あ る 。

(12)

が 生 じ た の か 不 明 で あ る と い う 点 で 、「 そ の 傷 害 を 生 じ さ せ た 者 を 知 る こ と が で き な い と き 」 に 当 た る と の 形 式 ( 以 下 、「 時 系 列 分 断 形 式 」 と 呼 ぶ こ と が あ る 。) を と り24、 途 中 共 謀 加 担 事 例 に つ い て 207 条 の 適 用 を 認 め て い る と い え る 。 令 和 2 年 決 定 の 分 析 と の 関 係 で 特 に 興 味 を 引 く も の と し て 、東 京 高 決 平 成 27 年 11 月 10 日 東 高 刑 時 報 66 巻 1 ~ 12 号 103 頁 ( 以 下 、「 東 京 高 裁 平 成 27 年 決 定 」 と す る 。)の み 、簡 単 に 紹 介 す る 。こ の 事 案 に お い て 、207 条 の 適 用 に よ る 結 果 帰 属 が 問 題 と な っ た 途 中 共 謀 加 担 し た 少 年 は 、 何 ら 実 行 行 為 を し て い な い い わ ゆ る 共 謀 共 同 正 犯 で あ っ た25。そ れ に も 拘 ら ず 、本 決 定 は 、( 均 衡 論 と 時 系 列 分 断 形 式 の い ず れ も 指 摘 し た 上 で )「 本 件 に お い て は 、共 謀 成 立 後 も 、少 年 は 、被 害 者 に 対 し 、 自 ら 直 接 暴 行 を 加 え て い な い が 、 少 年 は 、 既 に 成 立 し て い た 乙 、 丙 お よ び 甲 の 共 謀 に 加 担 し 、 甲 の 行 為 を 利 用 し て 被 害 者 に 暴 行 を 加 え て い る の で あ る か ら 、 自 ら 直 接 暴 行 し て い な い と し て も 、 同 時 傷 害 の 特 例 の 適 用 に は 影 響 を 与 え な い と い う べ き で あ る 。」と し て い る 。こ れ は 令 和 2 年 決 定 の 原 判 決 と 親 和 的 な 判 断 で あ り 、 ま た 従 前 の 下 級 審 裁 判 例 で 蓄 積 さ れ て き た 均 衡 論 及 び 時 系 列 分 断 形 式 と も 不 整 合 な わ け で も な く 、 こ れ を 紹 介 す る 文 献 に お い て も 本 件 少 年 が 問 題 と な る 実 行 行 為 を 行 っ て い な い 点 は 必 ず し も 問 題 視 さ れ て い な い26 3 . 令 和 2 年 決 定 の 意 義 の 再 確 認 以 上 の よ う に 、途 中 共 謀 加 担 事 例 に つ い て 207 条 の 適 用 が 可 能 で あ る か に つ い て の 最 高 裁 の 判 断 は 少 な く と も 明 示 的 に は 存 在 せ ず 、 そ れ ゆ え に 適 用 範 囲 ( 適 用 の 在 り 方 ) に つ い て の 判 断 も 存 在 し て い な か っ た 。 そ れ に 対 し て 、下 級 審 レ ベ ル で は 、途 中 共 謀 加 担 事 例 に つ い て 207 条 の 適 用 が 可 能 で あ る と の 立 場 が 大 阪 高 裁 昭 和 62 年 判 決 で 示 唆 さ れ 、 大 阪 地 裁 平 成 9 年 判 決 で 明 示 的 に 採 用 さ れ 、 そ れ が 現 在 ま で 続 い て い る と い う 状 況 で あ り 、 途 中 共 謀 加 担 事 例 に 207 条 の 適 用 が 可 能 で あ る と い う こ と そ れ 自 体 に つ い て は 、下 級 審 レ ベ ル で は す で に 定 着 し て い た と い っ て よ か ろ う 。 こ の 限 り で は 、 令 和 2 年 決 定 の 最 高 裁 の 判 断 は い わ ば 予 想 さ れ た こ と と も い え た が 、 そ の 予 想 が 裏 切 ら れ な か っ た 点 に お い て 、 令 和 2 年 決 定 に 重 要 な 意 義 が あ る こ と は 疑 い が な い 。 加 え て 、そ れ と 同 等 に 重 要 と 思 わ れ る の は 、そ の 際 の 207 条 の 適 用 範 囲( 適 用 の 在 り 方 ) で あ り 、 こ の 点 に つ い て は 従 前 必 ず し も 十 分 な 議 論 が な さ れ ず 、 東 京 2 4 こ の 点 を 指 摘 す る も の と し て 、 前 掲 注 23 で 挙 げ た 諸 裁 判 例 に 加 え 、 横 浜 地 判 平 成 22 年 4 月 26 日 LLI/DB 06550310 が あ る 。 さ ら に 、 共 犯 関 係 の 解 消 の 事 例 に つ い て で あ る が 、 名 古 屋 高 判 平 成 14 年 8 月 29 日 判 時 1831 号 158 頁 も 同 様 で あ る 。 2 5 そ れ に 対 し て 、 大 阪 地 裁 平 成 9 年 判 決 や 前 掲 注 23 及 び 24 で 紹 介 し た そ の 他 の 裁 判 例 は 、 必 ず し も 明 瞭 で は な い も の の 、 途 中 共 謀 加 担 し た 者 も 、 問 題 と な る 暴 行 を 自 ら 行 っ て い る と い え る よ う に 思 わ れ る 。 2 6 た と え ば 、 細 谷 泰 暢 「 判 解 」 最 判 解 刑 事 篇 平 成 28 年 度 29-31 頁 、 橋 爪 隆 「 同 時 傷 害 の 特 例 の 適 用 に つ い て 」 警 察 学 論 集 72 巻 12 号 ( 2019 年 ) 185-186 頁 に お い て 紹 介 さ れ て い る が 、 本 件 少 年 が 問 題 と な る 実 行 行 為 を 行 っ て い な い 点 に つ い て の 判 断 に は 特 に 言 及 が な い 。

(13)

高 裁 平 成 27 年 決 定 及 び 令 和 2 年 決 定 の 原 判 決 は 、 令 和 2 年 決 定 の 最 高 裁 の 立 場 と は 異 な り 、途 中 共 謀 加 担 事 例 に お け る 207 条 の 適 用 の た め に 、当 該 途 中 共 謀 加 担 者 が 自 ら 問 題 と な る 暴 行 を 行 っ て い る 必 要 は な い 、 と い う 理 解 を 採 用 し て い た と い え る 。 そ の 意 味 で 、 下 級 審 レ ベ ル で は 、 令 和 2 年 決 定 の よ う な 理 解 が 一 致 し て 受 け 入 れ ら れ て い た わ け で は な く 、 必 ず し も す べ て の 者 が 予 想 し て い た わ け で は な い 判 断 を 令 和 2 年 決 定 は 示 し た と い え 、 こ の 点 も 重 要 で あ り 、 検 討 に 値 す る も の と 思 わ れ る 。 以 下 、 順 に 検 討 す る27 三 途 中 共 謀 加 担 事 例 に お け る 207 条 適 用 の 余 地 1 . 従 来 の 議 論 状 況 ( 一 ) 適 用 否 定 説 の 存 在 本 件 の よ う な 途 中 共 謀 加 担 事 例 に つ い て の 刑 法 207 条 の 適 用 の 可 否 に つ い て 、 学 説 上 、適 用 否 定 説 も 現 在 ま で 比 較 的 有 力 で あ っ た28。こ の 立 場 は 、先 ほ ど の 大 阪 高 裁 昭 和 62 年 判 決 で も 示 さ れ て い た よ う に 、 同 条 の 趣 旨 と し て 、 誰 に も 当 該 傷 害 結 果 が 帰 属 さ れ な く な る こ と の 不 当 性 の 回 避 を 挙 げ る の が 通 常 で あ り 、 そ の こ と を 根 拠 と し て 、 途 中 共 謀 加 担 事 例 の 場 合 、 少 な く と も 先 行 者 に は 全 て の 傷 害 結 果 が 帰 属 す る の で あ り 、 誰 に も 当 該 傷 害 結 果 が 帰 属 さ れ な い と い う 不 都 合 性 は 存 在 し な い た め 、 適 用 を 否 定 す べ き で あ る と 主 張 す る 。 こ の よ う な 見 解 に 対 し て は 、「 何 ら 条 文 上 の 根 拠 を も た な い 、論 者 の『 そ う 解 し た い 』と い う 単 な る 願 望 に 過 ぎ な い 」29と の 痛 烈 な 批 判 も 存 在 す る も の の 、207 条 は 、そ の 文 言 上 、「そ の 傷 害 を 生 じ さ せ た 者 を 知 る こ と が で き な い と き 」に つ い て の 規 定 で あ り 、 こ れ を 「 そ の 傷 害 を ( 共 同 正 犯 的 な も の も 含 め て ) 帰 属 さ れ る 者 が 不 存 在 と な る と き 」 と 解 釈 す る こ と は 可 能 で あ り30、 ま た そ の よ う な 解 釈 の 出 2 7 な お 、 以 下 の 議 論 は 、 共 犯 関 係 の 解 消 の 場 合 ( た と え ば 、 前 掲 注 24・ 名 古 屋 高 判 平 成 14 年 8 月 29 日 ) に も 援 用 可 能 で あ ろ う 。 こ れ に 対 し て 、 辰 井 聡 子 「 同 時 傷 害 の 特 例 に つ い て 」 立 教 法 務 研 究 9 号 ( 2016 年 ) 14-15 頁 は 、 207 条 を 加 重 暴 行 罪 と し て 理 解 す る と の 前 提 か ら 、 途 中 共 謀 加 担 の 事 例 で あ れ ば 後 行 者 の 行 為 は 先 行 者 が す で に 行 っ た 暴 行 と 相 ま っ て よ り 重 大 な 結 果 が 発 生 す る 危 険 性 が 高 い と い え る が 、 共 犯 関 係 の 解 消 の 事 例 に お け る 離 脱 者 の 行 為 は そ う で は な く 、 以 降 の 他 者 の 行 為 に よ る 危 険 性 の 負 担 を 求 め る の は 妥 当 で は な い 、 と し て 別 異 取 扱 い を 主 張 す る 。 傾 聴 に 値 す る 見 解 で は あ る が 、 す で に 207 条 の 趣 旨 に 関 す る 前 提 理 解 が 異 な る 。 後 述 す る よ う な 本 決 定 の 理 解 は 、 共 犯 関 係 の 解 消 の 場 合 で も す べ て 妥 当 す る た め 、 判 例 の 理 解 と し て は 、 共 犯 関 係 の 解 消 の 場 合 に も 射 程 が 及 び 得 る と 理 解 す べ き で あ ろ う 。 2 8 西 田 典 之 = 橋 爪 隆 『 刑 法 各 論 [ 第 7 版 ]』( 弘 文 堂 、 2018 年 ) 50 頁 、 中 森 喜 彦 『 刑 法 各 論 [ 第 4 版 ]』( 有 斐 閣 、 2015 年 ) 19 頁 、 井 田 良 『 講 義 刑 法 学 ・ 総 論 [ 第 2 版 ]』( 有 斐 閣 、 2018 年 ) 520 頁 、 高 橋 則 夫 『 刑 法 各 論 [ 第 3 版 ]』( 成 文 堂 、 2018 年 ) 60-61 頁 、 松 原 芳 博 『 刑 法 各 論 』( 日 本 評 論 社 、 2016 年 ) 63-64 頁 な ど 。 さ ら に 、 安 田 ・ 前 掲 注 15・ 92-93 頁 、 豊 田 ・ 前 掲 注 12・ 678-679 頁 。 2 9 小 林 憲 太 郎 「 暴 行 ・ 傷 害 罪 の 周 辺 」 判 例 時 報 2405 号 ( 2019 年 ) 117 頁 。 3 0 橋 爪 ・ 前 掲 注 15・ 125 頁 参 照 。

(14)

発 点 と な る 、 利 益 原 則 に 抵 触 す る 同 条 の 例 外 性 を 重 視 し て 適 用 範 囲 を 限 定 し よ う と の 価 値 判 断 に も 一 定 の 説 得 力 が あ り 、 や は り 傾 聴 に 値 す る も の と い う べ き で あ ろ う 。 ( 二 ) 従 来 の 適 用 肯 定 説 と 適 用 否 定 説 か ら の 批 判 そ れ に 対 し て 、 学 説 に お い て は 、 上 述 し た 下 級 審 裁 判 例 と 同 様 、 適 用 肯 定 説 も 根 強 く 、そ の 根 拠 と し て 主 と し て 挙 げ ら れ る の も 、上 述 し た 下 級 審 裁 判 例 と 同 様 、 均 衡 論 ( と 時 系 列 分 断 形 式 の 採 用 ) が 主 で あ っ た31 し か し 、 均 衡 論 に 対 し て は 、 共 謀 に 基 づ い た 犯 行 の 方 が 常 に 単 独 犯 と し て の 犯 行 よ り も 違 法 性( あ る い は 当 罰 性 )が 高 い わ け で は な い と の 批 判32や 、そ も そ も 本 条 は 暴 行 を 加 え た 複 数 の 者 の う ち 誰 に も 傷 害 結 果 が 帰 属 さ れ な い 事 態 を 阻 止 す る た め の 例 外 的 規 定 な の だ か ら 均 衡 論 を 持 ち 出 す こ と は 当 を 得 て い な い33と の 批 判 が 向 け ら れ て い た と こ ろ で あ っ た 。 特 に 後 者 の 批 判 は 、 た と え 均 衡 論 と い う 適 用 肯 定 説 の 主 張 が 正 し い と し て も ( す な わ ち 適 用 を 否 定 す る こ と に よ り 不 均 衡 が 生 ず る と し て も )、本 条 が 本 来 は 利 益 原 則 に 抵 触 す る 例 外 的 規 定 で あ る 以 上 は 、例 外 の 要 請 が な い の で あ れ ば 適 用 す べ き で な い 、と い う 非 常 に 明 快 な 批 判 と い え る34 2 . 本 決 定 の 説 示 の 分 析 以 上 の 議 論 状 況 を 前 提 に 、 適 用 否 定 説 を 排 斥 し た 本 決 定 の 理 由 部 分 ( 決 定 要 旨 ( ⅱ )) を 分 節 し て 分 析 す る 。 ( 一 )「 途 中 か ら 行 為 者 間 に 共 謀 が 成 立 し て い た 事 実 が 認 め ら れ る か ら と い っ て … … 同 条 を 適 用 し な い と す れ ば … … 共 謀 関 係 が 認 め ら れ な い と き と の 均 衡 も 失 す る 」 説 示 の 順 序 と は 異 な る が 、 ま ず 均 衡 論 に つ い て の 分 析 か ら 始 め る 。 前 述 の よ う に 、 こ の 均 衡 論 は 従 来 の 適 用 肯 定 説 の 常 套 句 で あ っ た が 、 そ れ に 対 し て は 、 共 謀 に 基 づ い た 犯 行 の 方 が 常 に 単 独 犯 と し て の 犯 行 よ り も 違 法 性 ( あ る い は 当 罰 性 ) が 高 い わ け で は な い と の 批 判 が 適 用 否 定 説 か ら な さ れ て き て お り 、検 討 を 要 す る 。 し か し 、 結 論 か ら 述 べ れ ば 、 最 高 裁 の こ の 点 の 説 示 は 理 論 上 特 に 問 題 の な い も の と い え る 。 3 1 山 口 厚 『 刑 法 各 論 [ 第 2 版 ]』( 有 斐 閣 、 2011 年 ) 51-52 頁 、 橋 爪 ・ 前 掲 注 15・ 125-126 頁 、 伊 東 研 祐 『 刑 法 講 義 各 論 』( 日 本 評 論 社 、 2011 年 ) 42 頁 。 ほ か に も 、 林 幹 人 『 刑 法 各 論 [ 第 2 版 ]』( 東 京 大 学 出 版 会 、 2007 年 ) 57 頁 や 前 田 ・ 前 掲 注 17・ 32-33 頁 も 適 用 肯 定 説 と い え る が 、 均 衡 論 の み に 言 及 し 、 時 系 列 分 断 形 式 に は 言 及 し て い な い 。 逆 に 、 均 衡 論 に 疑 問 を 示 し つ つ も 、 時 系 列 分 断 形 式 の 採 用 に よ り 適 用 肯 定 説 を 支 持 す る の は 、 小 林 ・ 前 掲 注 29・ 117 頁 。 3 2 長 井 長 信 「 同 時 傷 害 の 特 例 に つ い て 」 寺 崎 嘉 博 ほ か 編 『 激 動 期 の 刑 事 法 学 ― 能 勢 弘 之 先 生 追 悼 論 集 』( 信 山 社 、 2003 年 ) 427 頁 、 照 沼 亮 介 「 同 時 傷 害 罪 に 関 す る 近 時 の 裁 判 例 」 上 智 法 学 論 集 59 巻 3 号 ( 2016 年 ) 93 頁 以 下 、 豊 田 ・ 前 掲 注 12・ 678₋679 頁 。 適 用 肯 定 説 か ら で あ る が 、 小 林 ・ 前 掲 注 29・ 117 頁 も 参 照 。 3 3 中 森 ・ 前 掲 注 28・ 19 頁 、 安 田 ・ 前 掲 注 15・ 92-93 頁 。 3 4 時 系 列 分 断 形 式 へ の 批 判 に つ い て は 、 四 で 取 り 上 げ る こ と と す る 。

(15)

【 表 】 各 事 例 類 型 の 整 理 表 問 題 と な る 暴 行 途 中 共 謀 あ り な し あ り 〔 ① -問 題 と な る 暴 行 あ り ・ 途 中 共 謀 あ り 型 〕 〔 ③ -問 題 と な る 暴 行 な し ・ 途 中 共 謀 あ り 型 〕 ※ 特 殊 事 例 ( ③ ´) も あ り な し 〔 ② -問 題 と な る 暴 行 あ り ・ 途 中 共 謀 な し 型 〕 ( 207 条 の 典 型 的 適 用 事 例 ) 〔 ④ -問 題 と な る 暴 行 な し ・ 途 中 共 謀 な し 型 〕 【 図 】 各 事 例 類 型 の イ メ ー ジ 図 ま ず 、① 先 行 者 A が 問 題 と な る 暴 行 を 行 っ て い た と こ ろ 、途 中 共 謀 加 担 し た 後 行 者 X も 問 題 と な る 暴 行 を 自 ら 行 っ た 場 合( 以 下 、 便 宜 上 、〔 ① -問 題 と な る 暴 行 あ り ・ 途 中 共 謀 あ り 型 〕 と す る 。 な お 、 以 下 す べ て 同 様 で あ る が 、 い ず れ の 暴 行 が 当 該 傷 害 結 果 を 発 生 さ せ た か 不 明 で あ る こ と を 前 提 と す る 。)と 、② 先 行 者 A と 後 行 者 X が 、共 謀 関 係 は な い も の の 同 一 の 機 会 に い ず れ も 問 題 と な る 暴 行 を 行 っ た 場 合 ( 以 下 、〔 ② -問 題 と な る 暴 行 あ り ・ 途 中 共 謀 な し 型 〕 と す る 。 こ れ が 207 条 適 用 の 最 も 典 型 的 な 事 例 で あ る こ と は 疑 い な い だ ろ う 。)と を 比 較 し た 場 合 、単 独 で X が 行 っ て い る こ と は 全 く 同 じ で あ り 、〔 ① -問 題 と な る 暴 行 あ り ・ 途 中 共 謀 あ り 型 〕 に お い て は 、( 先 行 者 A も 第 二 暴 行 を し て い れ ば だ が ) A に よ る 第 二 暴 行 へ の 共 犯 的 関 与 の 分 が 加 算 さ れ 、 X の 行 為 の 違 法 性 の 程 度 と し て は 「 純 増 」 と い え 、 そ れ ゆ え 、〔 ② -問 題 と な る 暴 行 あ り ・ 途 中 共 謀 な し 型 〕 に お け る X に 結 果 〔①-問題となる暴行あり・途中共謀あり型〕 〔②-問題となる暴行あり・途中共謀なし型〕 〔③-問題となる暴行なし・途中共謀あり型〕 〔③´-特殊な問題となる暴行なし・途中共謀あり型〕 〔④-問題となる暴行なし・途中共謀なし型〕 A X A X A・B A A X B X B X 問題となる暴行の実行 共同正犯的関与のみ (問題となる暴行なし)

(16)

を 帰 属 し つ つ 、〔 ① -問 題 と な る 暴 行 あ り ・ 途 中 共 謀 あ り 型 〕 に お け る X に 結 果 を 帰 属 し な い の は 不 均 衡 と 言 い 得 る 。 均 衡 論 に 否 定 的 な 論 者 か ら は 、〔 ① -問 題 と な る 暴 行 あ り ・ 途 中 共 謀 あ り 型 〕 の 場 合 に は 、 X 自 身 が 行 っ て い る 行 為 に つ い て 、 A か ら の 影 響 が あ る 分 、 行 為 責 任 が 低 下 す る 可 能 性 が あ る と の 指 摘 も あ る が35 仮 に そ う で あ る と し て も そ れ は 期 待 可 能 性 等 の 理 論 的 に は せ い ぜ い 責 任 面 の 問 題 で あ り36、因 果 関 係( の 推 定 )と い う 客 観 的 帰 属 の 問 題 と し て は 行 為 の 違 法 性・危 険 性( 結 果 へ の 因 果 力 )の 程 度 の み を 比 較 す る の が 適 切 で あ り37、そ の 観 点 か ら は 〔 ① -問 題 と な る 暴 行 あ り ・ 途 中 共 謀 あ り 型 〕 ≧ 〔 ② -問 題 と な る 暴 行 あ り ・ 途 中 共 謀 な し 型 〕 と い う 図 式 は 成 り 立 っ て い る と い え よ う38 問 題 と な り 得 る の は 、 お そ ら く 均 衡 論 に 否 定 的 な 論 者 が 主 と し て 批 判 の 対 象 と し て 想 定 す る 場 面 と 思 わ れ る 、 ③ 既 に 問 題 と な る 暴 行 を 行 っ て い た 先 行 者 A・ B に X が 途 中 加 担 し た も の の 問 題 と な る 暴 行 を し て い な い 場 合39( 以 下 、〔 ③ -問 題 と な る 暴 行 な し・途 中 共 謀 あ り 型 〕と す る 。)で あ る40。こ の 場 合 に は 、特 に X が い か な る 暴 行 も し て い な い 場 合 が わ か り や す い が 、 X の 単 独 犯 と し て の 行 為 の 違 法 性 は な く 、 X の 行 為 の 違 法 性 は A・ B の 行 っ た こ と へ の ( 正 犯 と 評 価 さ れ る と は い え )間 接 的 な も の に 留 ま る た め 、〔 ② -問 題 と な る 暴 行 あ り・途 中 共 謀 な し 型 〕 と い う 207 条 適 用 の 最 も 典 型 的 な 事 例 に お け る X よ り 行 為 の 違 法 性 の 程 度 が 低 い 場 面 が 想 定 し 得 る 。 も ち ろ ん 、 た と え ば X が A・ B の 問 題 と な る 暴 行 が 当 た り や す い よ う に 被 害 者 を 羽 交 い 絞 め に し て い る 場 合 な ど 、 X の 関 与 に よ り A・ B の 問 題 と な る 暴 行 の 危 険 性 が よ り 上 が る と い え る 場 合 に は 、 問 題 と な る 暴 行 自 体 の 危 険 性 が 上 が っ て い る 以 上 、 そ れ へ の 間 接 的 関 与 と は い え 、〔 ③ -問 題 と な る 暴 行 な し・途 中 共 謀 あ り 型 〕に お け る X の 行 為 の 違 法 性 の 程 度 が〔 ② -問 題 と な る 暴 行 あ り・途 中 共 謀 な し 型 〕に お け る X の 行 為 の 違 法 性 の 程 度 よ り 低 い と は 必 ず し も 言 え な い が 、少 な く と も〔 ③ -問 題 と な る 暴 行 な し・途 中 共 謀 あ り 型 〕≧〔 ② -問 題 と な る 暴 行 あ り ・ 途 中 共 謀 な し 型 〕 と は 必 ず し も 言 え ず 、〔 ③ -問 題 と な る 暴 行 な 3 5 長 井 ・ 前 掲 注 32・ 427 頁 。 小 林 ・ 前 掲 注 29・ 117 頁 も こ の 趣 旨 か 。 3 6 い わ ゆ る 実 行 行 為 の 全 て を 行 う 従 犯 ( 故 意 あ る 幇 助 的 道 具 ) を 認 め 、 そ し て そ れ が そ の 者 に は 正 犯 と し て の 違 法 性 が 認 め ら れ ず 、 従 犯 と し て の そ れ に 留 ま る と の 理 由 に よ る と す れ ば 、 本 文 の よ う な 理 解 と 抵 触 す る 可 能 性 は あ る 。 し か し 、 そ も そ も そ の よ う な 形 態 を 認 め る べ き で あ る か に は 疑 問 が あ り 、 そ の よ う な 形 態 を 認 め た よ う に も 思 わ れ る 横 浜 地 川 崎 支 判 昭 和 51 年 11 月 25 日 判 時 842 号 127 頁 な ど は 、 構 成 要 件 の 実 質 的 解 釈 ( 譲 渡 と い う 取 引 行 為 が 帰 属 す る の は 譲 渡 人 で あ る ) に よ り 背 後 者 を 直 接 正 犯 と 解 し 、 そ の 媒 介 者 は ( 実 行 行 為 を す べ て 行 っ て い る わ け で は な い と 評 価 さ れ ) 幇 助 に 留 ま る 、 と い う 形 で 理 解 さ れ る 余 地 が あ る ( 橋 爪 ・ 前 掲 注 13・ 336 頁 、 佐 伯 仁 志 『 刑 法 総 論 の 考 え 方 ・ 楽 し み 方 』( 有 斐 閣 、 2013 年 ) 411-412 頁 参 照 )。 暴 行 ・ 傷 害 に は そ の よ う な 余 地 は な い で あ ろ う か ら 、 暴 行 ・ 傷 害 に つ き 実 行 行 為 の す べ て を 行 う 従 犯 が 認 め ら れ る 余 地 は な か ろ う 。 3 7 期 待 可 能 性 等 の 問 題 は 、 結 果 を 帰 属 さ せ た 後 に 、 責 任 レ ベ ル で 調 整 す れ ば よ い 。 3 8 従 来 均 衡 論 を 主 張 す る 論 者 は 、 お そ ら く こ の 比 較 を 念 頭 に 置 い て い た と 思 わ れ る 。 た と え ば 、 橋 爪 ・ 前 掲 注 15・ 125₋126 頁 参 照 。 3 9 別 種 の 軽 微 な 暴 行 を 行 う に 留 ま る 場 合 や 全 く 暴 行 を 行 わ な い 共 謀 共 同 正 犯 類 型 の 場 合 。 4 0 長 井 ・ 前 掲 注 32・ 427 頁 。

(17)

し・途 中 共 謀 あ り 型 〕<〔 ② -問 題 と な る 暴 行 あ り・途 中 共 謀 な し 型 〕の 場 面 も あ る と い う こ と は 言 え よ う 。 こ の 限 り で は 、 均 衡 論 に 否 定 的 な 論 者 の 主 張 は 正 し い 面 を 含 む 。 し か し 、 こ の 文 脈 で は ② と ③ を 比 較 す る こ と は 適 切 で な い よ う に 思 わ れ る 。 ② と ③ を 比 較 し た 場 合 、 そ こ に は 途 中 共 謀 が あ る か 否 か と い う 点 の み で は な く 、 X が 問 題 と な る 暴 行 を 行 っ て い る か 否 か と い う 点 も 異 な っ て お り 、 む し ろ 後 者 の 点 こ そ が〔 ③ -問 題 と な る 暴 行 な し・途 中 共 謀 あ り 型 〕<〔 ② -問 題 と な る 暴 行 あ り・ 途 中 共 謀 な し 型 〕 と な り 得 る 原 因 と い え る 。 そ の こ と は 、〔 ③ -問 題 と な る 暴 行 な し・途 中 共 謀 あ り 型 〕と ④ 先 行 者 A に よ る 問 題 と な る 暴 行 と 、A と は 共 謀 関 係 に は な い B と X に よ る 共 謀 の 上 で の 共 同 暴 行 と い う 事 案 で 、B が 問 題 と な る 暴 行 を 行 い 、 X は 問 題 と な る 暴 行 を 行 わ な か っ た と い う 場 合 ( 以 下 、〔 ④ -問 題 と な る 暴 行 な し・途 中 共 謀 な し 型 〕と す る 。)を 比 較 す れ ば 明 ら か で あ る 。〔 ③ -問 題 と な る 暴 行 な し・途 中 共 謀 あ り 型 〕と〔 ④ -問 題 と な る 暴 行 な し・途 中 共 謀 な し 型 〕と で は 、途 中 共 謀 の 有 無 の み が 相 違 で あ る が 、両 事 案 の X に つ き 行 為 の 違 法 性( さ ら に は 責 任 も 含 め て ) の 程 度 に つ い て の 相 違 は 存 在 し な い 。 ゆ え に 、 途 中 共 謀 が 存 在 す る こ と そ れ 自 体 ( 誰 か 一 人 が 傷 害 結 果 を 帰 属 さ れ る こ と が 確 保 さ れ る こ と そ れ 自 体 ) は 、 行 為 者 X の 行 為 の 違 法 性 の 程 度 を 減 ら す こ と は な い (〔 問 題 と な る 暴 行 あ り 型 〕 の 場 合 に は 増 加 さ せ る 可 能 性 が あ る )。 ゆ え に 、 途 中 共 謀 が 存 在 す る ( 誰 か 一 人 が 傷 害 結 果 を 帰 属 さ れ る こ と が 確 保 さ れ る ) と い う こ と の み で 別 異 取 扱 い を 行 う こ と は 、 常 に 均 衡 を 失 す る と い え る 。 〔 ② -問 題 と な る 暴 行 あ り・途 中 共 謀 な し 型 〕の 場 合 に 207 条 の 適 用 を 認 め る の で あ れ ば 、〔 ① -問 題 と な る 暴 行 あ り ・ 途 中 共 謀 あ り 型 〕 の 場 合 に 認 め な い と す れ ば 均 衡 を 失 す る し 、〔 ④ -問 題 と な る 暴 行 な し ・ 途 中 共 謀 な し 型 〕 の 場 合 に 207 条 の 適 用 を 認 め る の で あ れ ば 、〔 ③ -問 題 と な る 暴 行 な し ・ 途 中 共 謀 あ り 型 〕 の 場 合 に 認 め な い と す れ ば 均 衡 を 失 す る と い え る 。 も ち ろ ん 、 後 述 す る よ う に 、 そ も そ も 〔 ④ -問 題 と な る 暴 行 な し・途 中 共 謀 な し 型 〕が 207 条 の 適 用 対 象 に 含 ま れ る か 否 か と い う こ と は 問 題 に な り 得 る が 、仮 に〔 ④ -問 題 と な る 暴 行 な し・途 中 共 謀 な し 型 〕が 適 用 対 象 で な い の で あ れ ば 、( そ れ は〔 問 題 と な る 暴 行 な し 型 〕で あ る こ と が 理 由 で あ ろ う か ら )当 然 に〔 ③ -問 題 と な る 暴 行 な し・途 中 共 謀 あ り 型 〕も 適 用 対 象 で は な い の で 、そ の 場 合 に 均 衡 論 を 語 る 意 義 が 残 る の は〔 ① -問 題 と な る 暴 行 あ り・途 中 共 謀 あ り 型 〕と〔 ② -問 題 と な る 暴 行 あ り・途 中 共 謀 な し 型 〕に つ い て の み で あ り 、 そ れ に つ い て は や は り 均 衡 論 が 妥 当 す る 。 結 局 、 い ず れ に せ よ 均 衡 論 は 正 し い と い え る 。 以 上 よ り 、 途 中 共 謀 加 担 と い う 事 実 の み で は 行 為 の 違 法 性 の 程 度 に 影 響 を 与 え な い た め 、そ の 事 実 の み を 理 由 に 207 条 の 適 用 を 否 定 す る こ と は 均 衡 を 失 す る と

参照

関連したドキュメント

問についてだが︑この間いに直接に答える前に確認しなけれ

わが国の障害者雇用制度は、1960(昭和 35)年に身体障害者を対象とした「身体障害

( 同様に、行為者には、一つの生命侵害の認識しか認められないため、一つの故意犯しか認められないことになると思われる。

自発的な文の生成の場合には、何らかの方法で numeration formation が 行われて、Lexicon の中の語彙から numeration

参加者は自分が HLAB で感じたことをアラムナイに ぶつけたり、アラムナイは自分の体験を参加者に語っ たりと、両者にとって自分の

るものの、およそ 1:1 の関係が得られた。冬季には TEOM の値はやや小さくなる傾 向にあった。これは SHARP

防災 “災害を未然に防⽌し、災害が発⽣した場合における 被害の拡⼤を防ぎ、及び災害の復旧を図ることをい う”

翻って︑再交渉義務違反の効果については︑契約調整︵契約