湿式ボールミル内砕料粒子の運動および破壊挙動に
関する研究
著者
久志本 築
号
63
学位授与機関
Tohoku University
学位授与番号
学術(環)第268号
URL
http://hdl.handle.net/10097/00127697
くしもと きずく
氏
名
久志本 築
授
与
学
位
博士(学術)
学 位 記 番 号 学術(環)博第
268 号
学 位 授 与 年 月 日
平成
31 年 3 月 27 日
学位授与の根拠法規 学位規則第
4 条第 1 項
研究科,専攻の名称 東北大学大学院環境科学研究科
(博士課程) 先進社会環境学専攻
学 位 論 文 題 目
湿式ボールミル内砕料粒子の運動および破壊挙動の研究
指
導
教
員 東北大学教授 加納 純也
論 文 審 査 委 員
主査 東北大学教授 加納 純也 東北大学教授 福山 博之
(多元物質科学研究所) (多元物質科学研究所)東北大学教授 小俣 孝久
(多元物質科学研究所)論 文 内 容 要 旨
本論文の目的は,湿式ボールミル内における媒体ボール間での砕料粒子の運動および破壊挙 動を観察および解析し,各種操作条件および材料物性が砕料粒子の粉砕に及ぼす影響と,湿式ボ ールミル中での砕料粒子が破壊されるメカニズムを明らかとすることである. 第 1 章では,湿式ボールミルの課題を挙げ,シミュレーションによる解析が有効である可能 性を示した.また,シミュレーションによる湿式ボールミル内砕料粒子挙動解析における現状と 課題を調査し,本論文の目的と特徴について示した. 第 2 章ではまず,砕料粒子,媒体ボールと流体を同時に解析可能な新規シミュレーション手 法を開発した.次に,開発したシミュレーション手法を用いて,湿式ボールミルにおいて粉砕に 影響を及ぼすと考えられる媒体ボールの物性および運動様式として,媒体ボール接触角度,接近 速度および媒体ボール径が媒体ボール間の砕料粒子挙動へ及ぼす影響を解析した.その結果,以 下の3 つのことが明らかとなった.1) 媒体ボールの接触角度を変えてもほとんど捕獲粒子体積 に影響しない.2) 媒体ボールの接近速度が速くなるほど,排除流れが速くなるため砕料粒子の 流体への追従性が低下し,捕獲粒子体積が増加した.3) 砕料粒子径が大きいときは,媒体ボー ル間の粉砕領域の広さが支配的となるため,その領域が大きい大径媒体ボールの方が砕料粒子を 捕らえやすくなった.一方で,砕料粒子径が小さいときは,媒体ボール間の排除流れの影響を強 く受けるため,その影響が小さい小径媒体ボールの方が砕料粒子を捕らえやすくなった.
以上のことから,微細な砕料粒子が媒体ボールに捕らえられやすくするためには,小径ボール を高速に衝突させることが効果的である可能性が示唆された.一方で,砕料粒子径によって媒体 ボールの運動様式や物性が砕料粒子挙動に及ぼす影響は変化することも同時に明らかとなった. このことは粉砕を制御する上で,砕料粒子物性や砕料粒子間の相互作用が,媒体ボール周りの砕 料粒子挙動に及ぼす影響を理解する必要があることを示唆していた. 第 3 章では,砕料粒子物性および砕料粒子間相互作用が湿式ボールミルによる粉砕に及ぼす 影響を把握するために,砕料粒子径,砕料粒子濃度,砕料粒子の分散・凝集が媒体ボール周りの 砕料粒子挙動に及ぼす影響をシミュレーションにより解析した.その結果,砕料粒子挙動に関す る以下の4 つの知見を得ることができた.1) 砕料粒子径が小さくなるほど,排除流れへの追従 性が高い,媒体ボールに捕らえられにくくなった.2) 砕料粒子濃度を濃くすると縦長い形状の クラスターが形成されるため,媒体ボールに捕らえられにくい挙動を示した.3) 砕料粒子は凝 集条件において,媒体ボールに捕らえられやすくなった.4) 凝集体はできるだけ大きく,球状 であるものが最終的に媒体ボールに捕らえられやすい可能性が高いことが示唆された. 以上のことから,微細な砕料粒子の粉砕が困難な要因は排除流れへの追従性から説明された. 加えて,微細な砕料粒子が媒体ボールに捕らえられやすくするためには,大きく球状の凝集体を 形成させることが効果的であるとわかった.そのため,凝集体の形成,破壊過程を詳細に検討し, 大きく球状な凝集体が形成される条件を調査することで,より効率的に微細な砕料粒子を捕らえ ることができる方法を提案できると考えられた. 第 4 章では,湿式ボールミル内のスラリー中における多数の凝集体の流体中での複合的な挙 動を解析するために,凝集・分散力を考慮したDEM によるシミュレーション手法を新規に提案 した.提案した手法の特徴は,(1)潤滑力,(2)潤滑力のカットオフ,(3)van der Waals 力のカッ トオフの3 つを新規に導入することで,実現象に即しながら,計算負荷を低減させた点にある. また,提案したモデルの信頼性は既存の単一凝集体の破壊挙動に関するシミュレーション結果 や実験結果と比較することで確認し,妥当性は分散性の異なるスラリーに異なるせん断応力を印 加し得られる粒子径分布の実測値を,提案した手法を用いたシミュレーション結果と比較するこ とにより検討した.その結果,各せん断速度における粒子径分布が全てのスラリーでおおよそ一 致することが確認された.これらのことから,本シミュレーション手法は流体中での多数の凝集 体の破壊や成長挙動を表現する上で十分な妥当性を有していることが確認された.
第5 章では,第 4 章で開発したシミュレーション手法を用いて流体中での凝集体挙動を解析 し,大きく球状な凝集体が形成される条件について調査した.また,実際の計算では簡単のため に,湿式ボールミル内における流体流れはせん断流れであるとみなすことができるため,単純せ ん断場における凝集体挙動を解析対象とした.まず,せん断場中の凝集体構造に関するシミュレ ーション結果と実験結果の比較から,本シミュレーションがせん断場中における凝集体構造を表 現する上で十分な妥当性を有していることを確認した.次に,このシミュレーション手法を用い て,せん断場中の凝集体の構造形成メカニズムについて解析したところ次の 5 つのことが明ら かとなった.1) 単純せん断場中で凝集体は他の凝集体と衝突,合一し,その後破壊され,また 衝突するといった破壊と成長を繰り返すサイクルを持ち,このサイクルは成長過程と破壊過程に 大きく分けることができた.2) 凝集体の大きさはせん断速度が遅いほど大きくなった.3) 成 長過程では,凝集体形状は球状となった.4) 破壊過程では,もとの凝集体の大きさが大きいほ ど,破砕片も大きくなった.5) 破壊過程では,せん断速度が速いほど細長い形状の破砕片とな り,遅いほどもとの凝集体の形状を維持した破砕片となった. 以上の解析結果から,媒体ボール接近場以外ではせん断速度を遅くすることで,媒体ボールに 捕らえられる凝集体が大きく球状となりやすい可能性が示唆された. 第6 章では,第 2 章から第 5 章までの検討で砕料粒子が捕らえられやすいとされた条件が, 砕料粒子の破壊挙動に及ぼす影響について解析した.その際,砕料粒子の運動および破壊挙動を 解析可能なシミュレーションモデルとして ADEM-CFD モデルをまず開発し,その妥当性を実 験から確認した.その後,開発したモデルを用いて,砕料粒子が捕らえられやすくなる条件が砕 料粒子の破壊挙動に及ぼす影響を解析した.その結果,小径ボールであっても接近速度を速くす ることで,凝集体を構成する砕料粒子を破壊することができ,また凝集条件のほうが分散条件よ りも一度に破壊可能な砕料粒子数が多くなる可能性も示唆された.この結果は,砕料粒子が捕ら えられやすくなる条件が,砕料粒子を破壊する上でも有利に作用する可能性を示唆していた. 第7 章は結論であり,各章の結言をまとめた. 本論文で得られた結果をまとめるとともに,得られた知見を基に考えられる理想的な湿式ボー ルミルの構想を示す.まず,湿式ボールミル内部の砕料粒子挙動を解析するために,以下に示す
3 つの現象を解析可能な新規シミュレーション手法を開発した. 1) 流体中で接近する媒体ボール間の砕料粒子挙動 2) 流体中における凝集体の構造形成過程 3) 流体中で接近する媒体ボール間の砕料粒子の運動および破壊挙動 次に,開発したシミュレーション手法を用いることで,湿式ボールミル中で砕料粒子が破壊さ れるメカニズムと各種操作条件および材料物性が砕料粒子の粉砕に及ぼす影響をシミュレーシ ョンにより解析した.その結果,以下の 4 点を満たす湿式ボールミルを設計することにより, 粉砕性能が向上する可能性が示唆された. 1) 媒体ボールを小径化する. 2) 媒体ボールの接近速度を速くする. 3) スラリーを凝集条件に調製する. 4) 接近する媒体ボール間以外では低せん断速度場とする. 最後に,上記 4 つの条件を満たす湿式ボールミルを考える.媒体ボールの小径化および接近 速度の増加を実現可能な粉砕機としては湿式媒体撹拌型ミルがある.この粉砕機は,媒体ボール とスラリーで満たされた容器中央に枝状に分岐した構造の撹拌棒が装入されており,この撹拌棒 を回転させることで,粉砕を行う.この粉砕機の特徴は媒体ボールの小径化と接近速度の増加を 同時に実現可能な点であり,これは上記(1)と(2)の条件を満たしている.一方で,スラリーを凝 集条件で調製するために,粉砕に伴いスラリーの分散・凝集条件が変化する可能性も考慮して, 常に凝集条件を保てるようにする必要がある.そこで,装置内部のスラリーのζ電位を測定し, 常に等電点となるようにpH を調製する機構を取り付けることで上記(3)の条件を満たすこと ができるようにする.さらに,接近する媒体ボール間以外では低せん断速度場とするために,中 央の撹拌棒の他に容器壁面にも撹拌棒を取り付け,それぞれの撹拌棒を反対方向に回転させる機 構を取り付ける.この機構により,撹拌棒同士がすれ違う領域は高速に媒体ボール同士を衝突さ せることができ,一方でそれ以外の領域では,中央と壁面に取り付けられた撹拌棒が反対方向に 回転していることにより比較的低速で媒体ボールが運動することが想定されるため,接近する媒 体ボール間以外では低せん断速度場とすることができる.以上の検討をまとめると次のような装 置が湿式ボールミルにおいて理想的であると考えられる.1) 一般的に使用される湿式媒体撹拌 型ミルをベースに用いる.2) 湿式媒体撹拌型ミルにスラリーのζ電位を測定し,常に等電点と なるようにpH を調製する機構を取り付ける.3) 湿式媒体撹拌型ミルの容器にも撹拌棒を取り 付け,中央の撹拌棒と反対方向に回転させる.