チャットボットと個別指導を併用した数学教育における
理解困難箇所の学習支援の実践と評価
小菅李音
1高木正則
1市川尚
1 概要:著者らの大学では,数学リメディアル科目を反転授業形式で行っている.この科目では,授業の最初に著者ら が開発したチャットボットを利用し,予習で利用したe ラーニング教材や予習の学習内容について,学生自身が理解 の足りていないと考えている箇所を対話形式で回答させている.これまでの実践において,理解不足箇所の抽出が不 十分であるものの,抽出した理解不足箇所に対してシステムと人による支援を混ぜて学習支援を行うことで学生の理 解度向上に繋がることが示唆されている.本研究では,反転授業における学生の理解度の向上を目的とし,チャット ボットを利用した数学のつまずき箇所の理解を支援する学習支援システムの改善を行った.また,2020 年度前期に本 学で実施された数学リメディアル科目において,オンライン授業下と対面授業下で本システムの利用実験を行った. システム評価の結果,本システムにより学習者の理解不足箇所に応じた学習支援を素早く行うことが可能となり,学 生の理解度を深めることに繋がることが示唆された. キーワード: チャットボット,学習支援,振り返り,オンライン授業Practice and Evaluation of Learning Support for Understanding Difficult
Contents in Mathematics Using a Chatbot and Individual Coaching
RIO KOSUGA
1MASANORI TAKAGI
2HISASHI ICHIKAWA
2Abstract: Our university offer mathematics remedial courses by flipped classes. A chatbot developed by the authors is used at the beginning of the class in this course. We asked students to respond interactively to the learning contents that they did not understand enough in e-learning materials used in the preparation lessons by using the chatbot. In the practice so far, it was not enough to extract the parts that were not fully understood, but it is suggested that the combined support of the system and humans will lead to the improvement of students understanding. In this study, we improved a learning support system that uses chatbot in order to improve students understanding in flipped classrooms. In addition, in the mathematics remedial course conducted at our university in the first half of 2020, we conducted an experiment using this system under online and face-to-face classes. As a result of using this system in the courses in the first semester of 2020, we showed the system enabled a teacher, teaching assistants, and student assistants to quickly provide learning support based on their response to it, and it is suggested that it would lead to deepening students understanding.
Keywords: Chatbot, Learning Support, Reflection, Online Lessons
1. はじめに
近年,インターネット上で,大学の講義を無料で受講で きるMOOC(Massive Open Online Course)が注目を集 めている.また,講義映像を利用した反転授業の実践も広 がっている[1].岩手県立大学ソフトウェア情報学部では, 1 年次に開講されている専門基礎科目である「情報基礎数 学」において,反転授業形式で講義を行っている[2].この 科目では,毎回の授業の初めに著者らが開発したチャット ボットを利用し,予習で利用するe ラーニング教材や予習 の学習内容について,学生自身が理解の足りていないと考 えている箇所を対話形式で回答させている[3].これまでの 実践では,学習者の理解不足箇所の特定が不十分であるも のの,特定した理解不足箇所に対してシステムと人(教員 またはTA,SA)による支援を混ぜて学習支援を行う場合 に有効であると示唆されている.本研究では,反転授業に おける学生の理解度を深めることを目的とし,チャットボ 1 岩手県立大学大学院ソフトウェア情報学研究科
Graduate School of Software and Information Science,Iwate Prefectural University ットとの対話を通して予習の学習内容を振り返り,理解不 足箇所の特定とその理解を支援する学習支援システムをこ れまでの実践結果をふまえて改善した.また,2020 年前期 に本学で実施された情報基礎数学C の授業において本シス テムの利用実験を行い,本システムの有効性を評価した. 特に,本学では,本年度前期の約半分の講義がオンライン 授業で実施されたため,オンライン授業下と対面授業下に おける実践結果を比較しながら本システムの有効性を評価 した.
2. 関連研究
渥美ら[4]は,オープンチャットとロボットの連携による 演習授業支援のためのティーチングアシスタント(TA)と の協同システムSOTARO を開発・運営している.このシ ステムは,本研究と支援対象は異なるが,チャットボット による自動応答の判定や応答の学習と推論を行っており, 本研究において応用できると考えた.甲斐ら[5]は,日常生活における言語使用についてのリフ レ ク シ ョ ン を 促 す た め の 対 話 型 入 力 ツ ー ル で あ る 「REFLECTION-BOT」を提案した.このシステムでは, 留学生に対象にした日本語学習の振り返りをチャットボッ トで実施している.本研究の学習支援方法は異なるが,シ ステムにより振り返り活動の質向上に寄与する可能性があ ることが示唆されており,本研究に類似している.
3. システムの概要
図1 に本研究で提案するシステムの概要図を示す.本シ ステムでは,学習者と自動で対話を行うチャットボットを 採用した.システムと学習者の対話により,学習者に反転 授業における予習内容の振り返りを行ってもらい,理解不 足箇所の抽出を試みる.学習者は本システムのチャット画 面で,システムから投げかけられる問いに対して,提示さ れた選択肢を選択したり,自由記述で回答したりすること で対話を進められるようにした. チャットボットとの対話において,学習者の入力に対す る返答文を生成したり,対話中の発言内容から理解不足箇 所を抽出したりするために,この授業の予習用の教材とし て利用しているe ラーニング教材[6]の教科書情報に基づい て独自に作成した数学の知識マップを利用する.また,本 システムでは,学習者との対話中に抽出した理解不足箇所 に応じて対話の流れを変化させる.具体的には,抽出した 理解不足箇所について解説している教材(科目担当教員が 独自に制作した解説動画等)がDB 上に登録されている場 合,チャット上で該当の教材を送信し学習者に閲覧を促す. 解説している教材がない場合や,送信した教材の閲覧のみ では理解できなかった学生には,授業中に TA(Teaching Assistant),SA(Student Assistant),教員が対象学生に個 別対応を行う.TA,SA,教員は学生のチャットログをシス テム上から確認でき,その内容に基づいて個別対応の内容 を決定する. 図1 システム概要図4. システムの設計と開発
4.1 数学の知識マップの作成 予習で利用しているe ラーニング教材[6]上の教科書を分 析し,数学の知識マップを作成した.例として,図2 に e ラーニングの教科書情報,図3 に実際に作成した知識マッ プ(単元名:組み合わせ)のイメージ図を示す.表1 に本 研究で開発した情報基礎数学 B と情報基礎数学 C の知識 マップの概要を示す.知識マップは知識をノードで表現し, 前提知識かどうかをリンクで管理している. 知識マップの作成にあたり,まず,教科書の内容をそれ ぞれ確認し,単元ごとにキーワードを抽出した.次に,前 提知識の関係にあるキーワード間を紐付けて作成した.図 3 の例では,一番上のノードである「組み合わせの意味」 がこの教科書で一番初めに習得する前提知識だと考えた. その下に繋がるノードは,上のノードの内容を習得してか ら学習すべき内容だと考えて紐付けを行った.知識マップ はリレーショナルデータベースで管理しており,1 つのノ ードは1 つのレコードに登録され,ペア ID を用いてノー ド間の紐付けを管理している.ペアID は,単元の前提知 図2 e ラーニングの教科書の一覧 図3 「組み合わせ」の知識マップイメージ表1 知識マップと補足説明動画の概要 科目名 単元名 ノード数 動画数 情 報 基 礎 数 学B 順列 8 5 組み合わせ 8 6 確率 14 11 統計 10 3 情 報 基 礎 数 学C 命題論理・集合 15 4 ベクトル 61 5 行列 21 4 識のID の数字とし,ペア ID が 0 の場合は,それ以上の前 提知識はないことを意味している. 4.2 開発環境 本システムは,Web アプリケーションとして開発を行っ た.開発言語はPHP,HTML / CSS ,JavaScript である. データベースはMySQL を利用した.チャットボットの UI 部にはJavaScript のライブラリである BotUI[7]を利用し ている.また,本システムは学習者の環境にとらわれずに 快適な利用ができるよう,レスポンシブデザインとした. 4.3 入力/出力機能 開発したシステム(チャットボット)の画面例を図4 に 示す.学習者の入力は,チャットボットの問いかけに対し て選択肢(ドロップダウン,ボタン)の提示や,自由記述 の入力欄を提示することにより行う.自由記述については, 記入例を表示することにより,学習者が分からない箇所を スムーズに記述できるよう支援している.入力した内容に ついては,チャットボット側と学習者側の入力を分けなが ら動的に表示する. 図4 システムの画面例 4.4 チャット文解析/生成機能 チャットボットでは,学習者の入力に応じた返答文の生 成が必要となる.対話文生成の流れを表したものを図5 に 示す.本システムでは,まず初めに授業開始時に実施され る事前テストの目標点数と実際の点数,点数の差から気づ いたことを入力してもらう.次に,事前テストの点数が10 点(満点)未満だった学生と予習で分からない箇所があっ た学生には,自由記述で分からない箇所を記述してもらう. 自由記述で入力されたユーザーの発話文は形態素解析され, 数 学 に関 す る 固 有 名詞 を 抽 出 す る. 形 態 素 解 析に は , MeCab[8]を利用し,情報基礎数学で使用する数学に関する 単語を辞書として登録して,形態素解析により数学に関連 する固有名詞を抽出する.その後,システム上の知識マッ プと照合し,学習者への返答文を決定する方式を実装した. 図5 対話のパターン 4.5 理解不足箇所判定機能 対話のパターンには大きく分けて4 通りあり,対話によ って学習者の理解不足箇所を判定する.一つ目は学習者が 事前テストで満点を取り,かつ分からない箇所はないと回 答した場合,授業やシステムへの意見を記述してもらう(図 5 の A).一方,事前テストで 10 点未満,または,予習内 容でわからない箇所があると回答した場合,分からない箇 所として入力された文章を形態素解析し,抽出した知識(名 詞,固有名詞)が知識マップに存在するかDB を検索し確 認する.二つ目の対話パターンでは,該当する知識が存在 した場合,その知識に関連する補足説明動画を検索し,検 索された動画をチャットで送信する(図5 の B).その後, 動画視聴後の理解状況に応じて,動画に関しての質問を行 ったりTA,SA の支援が必要か質問したりする.三つ目は, 知識マップを検索した際に,既存の補足説明動画は無かっ たが該当の知識の前提知識がある場合(ペアID が 0 以外), 前提知識に対する理解について質問を行う返答文を送信す る(図5 の C).その後,質問に対する返答文を再び形態素 解析し,対話のパターンを判定し繰り返し対話を行う.四
つ目は知識マップ検索時に前提知識もない場合(ペアID が 0),該当の知識について TA,SA,教員に補足説明しても らう際のニーズを抽出するために,「どのような点が分から ないのか」,「どのような説明方法で教わりたいか」という 質問を学習者へ提示し,学習者は提示された選択肢(公式 の説明,例題を用いて説明,その他説明方法を自由記述で 入力,等)から該当する返答を選択して送信する(図5 の D).これらの流れは,学習者が分からない箇所が複数ある 場合や,前提知識を問う繰り返しの質問を行う際には,入 力文の形態素解析からの処理を繰り返すことになる. 4.6 補足説明動画閲覧機能 理解不足箇所判定機能で学習者の理解不足箇所を抽出し た後,対象の分野について既存の補足説明動画が存在する 場合に学習者へ視聴を促す.補足説明動画はYouTube 上に アップロードされており,チャット上に埋め込む形で送信 している.図6 に実際の画面例を示す. 図6 補足説明動画閲覧機能の画面例 4.7 チャットログ閲覧機能 チャットログ閲覧機能の画面例を図7,図 8 に示す.教 員やTA,SA が各学習者のチャットボットとの対話のやり 取りを容易に確認できるように,チャットログ閲覧機能を 開発した.教員,TA,SA は授業回と担当のグループ(ア シスタント毎に5~8 名程度)番号を選択することで,該当 するチャットログを閲覧できる.ログはボット(システム) 側と学習者側が実際の対話を行っているような画面で表示 される.また,参考情報として,対話の中で質問した対象 分野に対する理解度の選択結果と事前テストの目標点数, 実際の点数も表示する.理解度は数値が高いほど理解が進 んでいるとしている.表2 に選択してもらう理解度の一覧 を示す.今回の実践では,理解度に基づいてログの表示色 を変えることにより,緊急度の高い学生を分かりやすいよ うにシステム表示部分の改善を行った.これらの情報を基 に,教員,TA,SA は各学習者の理解不足箇所を確認し, 個別指導の参考にする.また,個別指導を行った内容につ いて,対応内容を入力するフォームも設けた.対応内容を 入力することにより,チャットログ表示の「未対応」が「対 応済み」に変化する.また,学生の理解状況により対応の 図7 チャットログ閲覧機能の画面例 1 図8 チャットログ閲覧機能の画面例 2 表2 理解度の一覧 理解度 内容 0 全く理解ができていない 1 まだ分からない箇所が多く不安である 2 少し理解しているが,曖昧な箇所もある 3 概ね理解しており,不安が少ない 4 今回の範囲に関しては完璧に理解している
必要がない場合も存在するため,各グループを担当してい るTA,SA の判断によりチャットログ上のボタンを押すこ とで「対応の必要なしと判断」を表示にするようにした. 以上の表示方法により,個別対応が必要な学生の見逃し防 止や効率化を図っている.
5. システムを利用した授業の実践
5.1 システム実践の概要 2020 年度前期に岩手県立大学ソフトウェア情報学部で 開講された情報基礎数学C の第 2 回から第 14 回の授業中 に本システムを利用した.情報基礎数学C の授業概要を図 9 に示す.本年度は第 2 回から第 5 回までをオンライン授 業で実施し,第6 回から第 14 回までは対面授業で実施さ れた.なお,本授業の履修者は72 名であった.図 5 にお ける各回の会話パターンと各回のシステム利用人数を集計 したものを表3 に示す. 本システムでの振り返り内容について,既存動画の閲覧 をしても理解が得られなかった学生等に対して, TA,SA に協力してもらい,対象学生のチャットログを確認しなが 図9 2020 年度情報基礎数学 C 授業概要 表3 システム利用人数 授業回 A B C D 計 第2 回 31 人 0 人 28 人 13 人 72 人 第3 回 28 人 15 人 20 人 9 人 72 人 第4 回 42 人 7 人 18 人 4 人 71 人 第5 回 32 人 3 人 31 人 4 人 70 人 第6 回 0 人 12 人 47 人 10 人 69 人 第7 回 9 人 0 人 53 人 4 人 66 人 第8 回 50 人 0 人 11 人 3 人 64 人 第9 回 5 人 0 人 61 人 2 人 68 人 第10 回 53 人 0 人 14 人 1 人 68 人 第11 回 48 人 2 人 19 人 1 人 70 人 第12 回 38 人 2 人 28 人 0 人 68 人 第13 回 42 人 0 人 21 人 4 人 67 人 第14 回 46 人 1 人 16 人 4 人 67 人 ら,個別指導を行ってもらった.オンライン授業時につい ては,単元の節目の授業回(第4 回授業)に行われた個別 面談時に Google のハングアウトを利用して個別指導を行 ってもらい,対面授業時には,授業中の発展問題学習中に 個別指導を行ってもらった.なお,第6 回から第 10 回授 業時については,オンライン授業時と同様のタイミングで チャットボットを利用した振り返りを実施してもらい,前 回授業時の対話内容(振り返り)を参考に個別指導を行っ てもらった.第11 回から第 14 回授業時には,学生の振り 返り結果からの学習支援をより早く行うため,振り返りの タイミングを授業開始時の事前テスト後に変更し,振り返 り直後に対話結果を参考に個別指導を行ってもらった. 5.2 システムの評価 (1) チャットボットとテスト得点の関係分析 チャットボットを利用した振り返りを行うことにより, 各テスト間の点数に影響が出ているかを分析した.今回の 分析では,第2 回から第 5 回,第 6 回から第 10 回,第 11 回から第 14 回で実施方法が異なるため,それぞれ分けて 分析した. 第2 回から第 5 回のオンライン授業時には,通常事前学 習として学習しているe ラーニングを授業時間帯に自学自 習し,その後確認テストを行っていた.そのため,各回の 授業の終わりに学習の振り返りとしてチャットボットを利 用してもらった.確認テストは各授業回で1 回ずつしか行 われなかったため,個別指導前後の点数の推移について比 較分析はできなかったが,TA,SA には各回のチャットロ グを基に第4 回授業時の個別面談・指導を実施してもらっ た. 対面授業に変わった第6 回から第 10 回では,オンライ ン授業時に行っていたチャットボット利用のタイミングは 変えず,授業の終わりに振り返りを行ってもらった.各回 の振り返りの内容は,次回授業時にTA,SA に確認しても らい,対応が必要な学生(理解度に関する質問で「全く理 解ができていない」「まだ分からない箇所が多くて不安であ る」「少し理解しているが,曖昧な箇所もある」と回答した 学生)に対して,授業中の発展問題の演習時間に個別指導 を行ってもらった.第6 回から第 10 回授業の分析におい ては,事前テストで不合格であった学生がチャットボット を利用した振り返りを行い,事前テストから事後テストに かけて点数が向上(低下)していたかを調査した.各回の 事前テスト不合格者の点数の推移について表4 に示す.分 析の結果,第7 回授業時において点数の向上が顕著に見ら れ,事前テストで不合格だった学生が事後テストでは合格 した事例が多く見られた.これは,第6 回の振り返り内容 を参考に第7 回授業時に個別対応を行ったことと,第 6 回 と第7 回の単元内容が関連していた(どちらもベクトルの 範囲であり,第7 回授業時内容が第 6 回授業時の範囲を含 んでいた)ことから,点数が向上した多数いたと考えられ表4 事前テスト不合格者の点数の推移 授業回 事前不合格 点数向上 点数低下 第6 回 確認テストのみ実施 第7 回 22 人 21 人 1 人 第8 回 2 人 2 人 0 人 第9 回 7 人 7 人 0 人 第10 回 事前事後テストなし(個別面談) 第11 回 3 人 3 人 0人 第12 回 2 人 1 人 1 人 第13 回 事前事後テストなし(作問学習) 第14 回 事前事後テストなし(個別面談) る.また,第8 回,第 9 回においても点数が向上した学生 が確認できた.さらに,第7 回授業で事後テストの点数が 事前テストよりも低下した学生が1 名いたが,チャットボ ットでの振り返り時において,「理解しきれていないと感じ ている箇所はない」と回答しており,システムとTA/SA の どちらも個別の学習支援ができていなかった. 第11 回から第 14 回では,チャットボット利用のタイミ ングを事前テスト後に変更し,事前学習と事前テストの振 り返りとして行ってもらった.各回の振り返りの内容は, 振り返り直後の授業中にTA,SA に確認してもらい,演習 (発展問題への解答)時間に直ぐに個別指導を行ってもら った.第11 回から第 14 回授業の分析においても,事前不 合格者の点数の推移について調査した.表 4 より,第 11 回,第 12 回授業時において,同様に点数が向上した学生 が確認できた. また,第12 回授業時に点数が低下した学 生が1 名確認できた.この学生については,振り返り時に 「システムから送信された補足説明動画を閲覧し理解でき た」と回答していたが,問題に正解できるようになるまで は理解しきれず,得点が低下してしまったと考えられる. 以上の結果から,今後は予め用意されている補足説明動画 で理解を深めてもらう場合には,本当に理解できているか どうか確認する手順を会話の中に含む必要があると考える. 各回の個別対応件数を表 5 に示す.個別対応件数は Google スプレッドシートで管理している基礎数学の出席 やテスト点数など記録している学習記録簿とシステム上の 個別対応内容が記載されている件数を参照し確認した.個 別対応を行ってもらった学生の点数推移を表6 に示す.点 数の推移から分かるように,事後テストの得点が事前テス トよりも向上した例が複数見られ,個別対応したことによ り学生の理解が向上したことが推察される. 以上の分析より,チャットボットを利用した振り返りに より,各テストにおいての点数の向上が見られたことから, 学生の理解度の向上に繋がっていたことが考えられる.今 回の分析では,オンライン授業時において複数回テストを 行わなかったため,点数の推移による分析は行えなかった 表5 各回の個別対応件数 授業回 対応件数 授業回 対応件数 第2 回 ― 第9 回 3 人 第3 回 ― 第10 回 個別面談 第4 回 個人面談 第11 回 4 人 第5 回 0 人 第12 回 0 人 第6 回 4 人 第13 回 4 人 第7 回 10 人 第14 回 個別面談 第8 回 4 人 表6 個別対応を行った学生の点数推移 授業回 事前テスト 点数 事後テスト 点数 パターン数 第7回 4 点 6 点 2 件 6 点 6 点 1 件 6 点 8 点 2 件 6 点 10 点 2 件 8 点 6 点 1 件 8 点 8 点 2 件 第8 回 3 点 4 点 1 件 8 点 10 点 1 件 10 点 10 点 2 件 第9 回 1 点 5 点 1 件 4 点 6 点 1 件 6 点 6 点 1 件 第11 回 2 点 10 点 1 件 8 点 10 点 1 件 10 点 10 点 2 件 が,対面授業と同様に各回で学生に応じた個別対応を行う ことが可能であった場合,同様に学生の理解度の向上に繋 がることが考えられる. (2) 本システムに関するアンケート 情報基礎数学C の第 14 回授業時に,本システムに関す るアンケートを行った.また,各質問項目に回答した理由 についても自由記述で回答してもらった.このアンケート の回答者数は 58 名であった.アンケートの質問項目を表 7,アンケート結果を図 10,表 8~11 に示す. Q1(UI を含めたシステムの操作性に関する質問)の結 果では,約6 割の学生が「非常にそう思う」「どちらかとい えばそう思う」と回答し,肯定的な意見が多かった.表 8 に回答理由の一部を示す.表8 の肯定的意見から,チャッ トボットを採用したことによって親近感が湧いたり,入力 内容の誘導などを行ったりすることにより,振り返りの容 易さが示唆された.一方,現状のシステムでは,チャット ボットとの会話の流れの中で学習者が自由記述を行う際に 一度入力したものを訂正する場合には一つ前の会話に戻っ
表7 アンケート項目 Q1 チャットボットによる振り返りシステムは使 いやすいと感じましたか? Q2 授業アンケートよりも,チャットボットとの対 話のほうが自分の意見を発言しやすいと感じ ましたか? Q3 提示された動画を見て,分からない箇所が分か るようになりましたか? Q4 提示された補足説明動画は自分の理解に役立 つ適切な内容の動画でしたか? Q5 TA/SA からの個別対応はチャットボットでの 回答内容が反映されて役立つものでしたか? 図10 アンケート結果 表8 アンケート回答理由 1 質問 チャットボットによる振り返りシステムは 使いやすいと感じましたか? 肯定的 意見 親近感が湧き入力しやすい 回答するべきことを分かり易く説明してい たから 誘導してくれるので,登録が難しくなかっ たから どちらと もいえな い意見 自分で活用できている実感がなかった 使いやすいと感じた時もあればそうでない ときもあったから 否定的 意見 答える内容と振り返りがまったく同じ内容 を聞いてくることがある 入力ミスがあった時にすぐ訂正できないか ら てやり直す必要があるため,表9 の否定的な意見が得られ たと考えられる.そのため,今後は入力内容を簡単に修正 できるようにする.また,チャット文の生成方法も改良す る必要がある. Q2(授業アンケートへの回答と比較した自分の意見の言 いやすさについての質問)の結果では,「どちらともいえな い」と回答する学生が半数程度で,「そう思う」と回答した 学生は約4 割であった.表 9 に回答理由を示す.肯定的意 見から,システムでの対話誘導や選択肢による振り返りの 入力の容易さから意見を発言しやすい学生が存在すること が示唆された.一方,学生によっては直接質問を行う方が 良いと感じたり,毎回の振り返りを適当に行ってしまった りする事が分かった.しかし,どちらともいえない意見か ら,「あまり変わらないと感じた」という意見が多いことと, 発言しやすいと感じた学生が4 割存在することを考えると, チャットボットの採用は発言の容易さに一定の効果がある と考えられる. 表9 アンケート回答理由 2 質問 授業アンケートよりも,チャットボットと の対話の方が自分の意見を発言しやすいと 感じましたか? 肯定的 意見 チャットでの振り返りということもあり, 自分の意見の発言がしやすかったと感じた 自動的に入力フォームを選択してくれたの で良かった どちらと もいえな い意見 要望も言って良いことかどうか迷うため言 いづらい時があった 授業アンケートのようなフォームに慣れて いるがチャットボットも発言しやすく,甲 乙つけ難いと感じたため あまり変わらないと感じたから 否定的 意見 人間の方が伝わりやすいと感じた 適当になってしまうから Q3(送信された動画を見て分からない箇所が分かるように なったか,システムから送信された動画は自身が知りたい 範囲の適切な内容であったか)は,システムを通じて1 回 以上動画を視聴したことがある学生のみ回答してもらい, 回答人数は 15 名であった.結果は,肯定的に回答した学 生が約5 割,どちらともいえないと回答した学生が約 3 割 であった.表 10 に回答理由を示す.肯定的意見な意見よ り,既存の動画が存在した場合の送信について,ある程度 上手く判断されて送信できていたことが分かった.しかし, 否定的な意見より,学生が求めていない動画を送信してい た場合があったことや,動画では基本的な部分しか理解が 及ばないことが回答理由によって明らかになった.動画の みでは理解できない学生については,その後の会話におい てTA や SA の対応内容を入力してもらい,個別対応によ り問題を解決しているが,求めていない動画の送信につい ては,理解不足箇所の特定(聞き出し)方法や動画推薦の アルゴリズムの修正を行う必要がある.
表10 アンケート回答理由 3 質問 ・システムから提示された動画を見て,分か らない箇所が分かるようになりましたか? ・提示された補足説明動画は自分の理解に 役立つ適切な内容の動画でしたか? 肯定的 意見 動画ではその問題に対しての解き方がわか りやすく解説されていて、理解に役立てる ことができたから 何回も見返せるので良いと思いました どちらと もいえな い意見 自分のわからないところの基本的なところ はわかる様になったが、問題を解くまでは 行けなかったから 否定的 意見 比較的他よりも難易度の高い問題の解決の ために必要な部分がチャットボットでの動 画検索では出てこなかったり内容が違うと いうことがよくあったため Q4(TA,SA からの個別対応はシステムでの回答内容が 反映されて役立つものであったか)の結果では,肯定的に 回答した学生が約 7 割を占めていた.表 11 に回答理由を 示す.肯定的意見より,理解不足箇所がある学生について, チャットボットでの対話内容をふまえた授業中の TA,SA における個別対応について,概ね上手く行えていたことが 示唆された. 否定的意見として,個別対応を受けていない という学生も確認できたが,理解不足箇所のない学生に対 しては個別対応を行っていないためであると考えられる. 表11 アンケート回答理由 4 質問 TA/SA からの個別対応はシステムでの回答 内容が反映されて役立つものでしたか? 肯定的 意見 情報共有がされているので個人面談などの 際に話の整合性が取れているのでスムーズ かつ快適に行えたと思ったから 自分の分からないところを TA さんが知っ ていたので話がスムーズに進んだ 個人個人 で学習 状況を理 解 してくれ るの で、非常に良いと思った どちらと もいえな い意見 分からない部分は自分で調べ解決していた ため 自分から要望をあまり出していないため 否定的 意見 個別対応をあまりされてない 今回実施したアンケート全体の考察として,本システム で振り返りを行うことにより,自分の意見を発言しやすい 学生が存在することが分かった.また,理解不足箇所に対 応した動画配信やシステム上では補えない部分について TA/SA から直接の学習支援を行うことにより,学生の理解 度の向上に貢献できていたと考えられる.今後,否定的意 見を基に,より学習者に適した学習支援を行えるようにシ ステムの改善やTA/SA の支援体制を検討する.
6. おわりに
本研究では,反転授業における学生の理解度の向上を目 的とし,チャットボットを利用した理解不足箇所の振り返 りと学習支援システムを数学リメディアル科目の授業にお いて実践した.システム評価の結果,提案システムにより, 個々の学生応じた学習支援を行うことで,学生の理解度を 深めることに繋がっていたことが示唆された.また,提案 システムをオンライン授業時にも利用することで,同様に 学生の理解度を深めることに繋がることが考えられる,今 後は,システム利用アンケート等から明らかになった問題 点を基にシステムの改善を重ね,引き続き授業での実践を 行っていく. 謝辞 本研究は,ISPS 科研費 JP17K01139 の助成を受けたも のです.参考文献
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