大分工業高等専門学校紀要 第 53 号 (平成 28 年 11 月)
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製鉄所構内に積み付けた
大気エージング処理用製鋼スラグの基本的性状
麻生 更紗
1・佐野 博昭
2・柏原 司
3古川 幹人
3・澄川 圭治
3・佐藤 庫一
3・中村 貴敏
4 1機械・環境システム工学専攻,2都市・環境工学科,3新日鐵住金株式会社,4日鉄住金スラグ製品株式会社 本研究では,製鉄所構内において積付け開始日の異なる大気エージング処理工程中の7つの製鋼スラグ山 から試料を採取し,基本的性状の測定を行った.得られた結果より,大気エージング期間の経過にともな って自然含水比は徐々に増加,土粒子の密度は徐々に減少し,大気エージング処理工程中の製鋼スラグの 自然含水比と土粒子の密度との間には相関性の高い直線関係が認められた.また,大気エージング期間の 経過にともうpH,電気伝導率,カルシウムイオン濃度の明確な差は認められないということ,カルシウム イオン濃度と電気伝導率との間には比較的相関性の高い直線関係が認められるということが明らかとなっ た.キーワード : 大気エージング,製鋼スラグ,基本的性状,pH
1.まえがき
製鉄所より発生する主な副産物として製鋼スラグを挙げるこ とができるが,これには,排出直後,数%の遊離石灰(f-CaO) が含まれており,水と反応すると2倍の体積膨張が生じるととも に,次式(1)に示すように発熱して水酸化カルシウムCa(OH)2が 生成される1).CaOH2OCa
OH
215.6kcal /mol (1) このため,製鋼スラグ中にf-CaO を含んだ状態で路盤材料な どに用いると,施工後,膨張によって路面が隆起する恐れがあ るため,冷却固化後の製鋼スラグを破砕,ふるい分けした後, 製鉄所構内の屋外で一定期間山積みをし,f-CaO を水や空気と 反応させ,製鋼スラグを安定化させるエージング処理が行われ ている2). 写真-1 は,2015 年 1 月 23 日に撮影した新日鐵住金株 式会社 大分製鐵所構内における大気エージング処理工 程中の製鋼スラグ山の一例を示す. エージング処理には,降水や散水により水和反応を促進させ る「大気エージング法」とより短期間で水和反応を完了させる 「促進エージング法」の2つがある3). エージング処理工程を経た製鋼スラグは,路盤材料などの土 木材料として有効に利用されているが,その一方でpH≒12の高 アルカリ性を有することから,これを緩和するために,製鋼ス ラグに二酸化炭素を散布して炭酸化を促進させる「迅速炭酸化 処理技術」が検討されている4). ここで,エージング処理工程中(6か月から1年)にf-CaOが水 と反応してCa(OH)2となった後,Ca(OH)2は大気中の二酸化炭素 CO2(濃度0.03~0.04%)と接触する機会があることより,接触 の程度の差は別にして次式(2)に示すような反応を経て炭酸カ ルシウムCaCO3が生成1)されている可能性が高いものと推察さ れる.
OH CO CaCO H O kcal mol Ca 2 2 3 2 17.7 / (2) さらに,式(2)の反応が進行しているとすれば,製鋼スラグの pHが低下していることになる. 先にも述べたように,製鋼スラグの炭酸化処理技術の開発に 写真-1 新日鐵住金株式会社 大分製鐵所構内におけ る大気エージング処理用製鋼スラグ山の一 例(2015 年 1 月 23 日撮影)大分工業高等専門学校紀要 第 53 号 (平成 28 年 11 月)
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あたっては,現在,文献4)のように二酸化炭素ガスを用いた「迅 速炭酸化処理技術」の開発が行われている.しかしながら,著 者らは,現在のエージング処理技術の主流の1つである大気エー ジングを基本とし,炭酸化反応には大気中に含まれている二酸 化炭素CO2を積極的に用い,できるだけコストのかからない「緩 速かつ経済的な炭酸化処理技術」の開発を目指している5),6). ここで,降水や散水によって水和反応を促進させる「大気エ ージング法」によるエージング処理工程は,6か月から1年と長 期間にわたり製鉄所構内の敷地を占有することになるが,この 間の製鋼スラグの性状について詳細に調査した例は見当たらな い. そこで,本研究では,「緩速かつ経済的な炭酸化処理技術」 の開発にあたって,まず,製鉄所構内において積付け開始日の 異なる大気エージング処理工程中の7つの製鋼スラグ山から試 料を採取し,基本的性状の測定を行った.2.製鉄所構内に積み付けた大気エージング処理
工程中の製鋼スラグの性状調査
表-1は,新日鐵住金株式会社 大分製鐵所構内の製鋼スラグ山 の積付け状況を示す.現在,1つの製鋼スラグ山を1ヶ月単位で 管理(積付け開始および終了月日を把握)していることから,1 山当りの積付け期間(エージング期間)が明確となっている. 試料の採取は,2014年7月28日(対象スラグ山:No.1~6)と 2015年1月23日(No.6,7)に実施した.調査の直前にバックホ ーにより穴(幅2.3m×高さ2.3m×奥行1.3m)を掘削し,その穴 の中から試料を採取した. 試料採取後,直ちに試料を大分工業高等専門学校・地盤環境 工学実験室内に運搬し,地盤材料試験の方法として基準化され ている「含水比試験」7),「土懸濁液のpH試験方法」(JGS 0211-2009) 8),「土懸濁液の電気伝導率試験方法」(JGS 0212-2009)9)に準 拠して,含水比w,pH(H2O),電気伝導率を測定した. なお,今回,測定対象とした製鋼スラグが有姿(最大粒径 37.5mm)であることより,試料の概ねの質量として,含水比w は1kg,pH(H2O)と電気伝導率は,500gとして測定を行った. また,地盤材料試験の方法として基準化されている試験とは 別に,エージング処理工程中におけるカルシウムイオンCa2+濃 度(mg/L)の測定を,「土懸濁液のpH試験方法」8)と「土懸濁 液の電気伝導率試験方法」9)に追加して行った. 一方,土粒子の密度sについては,製鋼スラグは最大粒径 37.5mmの有姿であることから,水置換法により測定する方法を 採用した. 次章では,自然含水比wn,土粒子の密度s,pH(H2O),電気伝 導率,カルシウムイオン濃度Ca2+の測定結果および各種性状間 の関係を示す.3.製鉄所構内に積み付けた大気エージング処理
工程中の製鋼スラグの各種性状
図-1は,製鉄所構内における大気エージング期間の経過にと もなう自然含水比wnの推移を示す.なお,図中には,併せて, 製鋼スラグ山No.(前出表-1参照)を示す. 図より,wnは3~8%を推移しており,同じスラグ山において も採取場所によって含水比が異なること,また,日数の経過に ともなって含水比は徐々に増加する傾向にあることがわかる. とくに,製鋼スラグ山No.6については,2回にわたって調査を行 ったわけであるが,13日では2.9~4.8%,192日では10.6%となっ ており,大気エージング期間の経過にともなって含水比が約2.8 倍増加していることになる. エージング開始当初は,散水や降水にともなって製鋼スラグ 山内部に水が浸透するが,製鋼スラグ中に含まれているf-CaO 表-1 製鉄所構内における製鋼スラグ山の積付け状況 製鋼スラ グ山No. 積付け開始 年月日 積付け終了 年月日 平均積付け 期間(日) 1 2014/1/20 2014/2/28 168 2 2014/3/1 2014/3/31 135 3 2014/4/1 2014/4/30 104 4 2014/5/1 2014/5/31 74 5 2014/6/1 2014/6/30 43 6 2014/7/1 2014/7/31 13 192 7 2014/8/1 2014/8/31 161 * 平均積付け期間において,No.2~7 は当該月の 15 日 を,No.1 は 2 月 10 日を基準. **平均積付け期間において,No.1~5,No.7 の数値お よび No.6 の上段の数値は基準日から 2014 年 7 月 28 日までの期間,No.6 の下段の数値は基準日から 2015 年1 月 23 日までの期間. 図-1 製鉄所構内における大気エージング期間の経過 にともなう自然含水比の推移(試料の状態:有 姿(37.5mm ふるい通過分)) 0 30 60 90 120 150 180 210 0 2 4 6 8 10 12 製鉄所構内における大気エージング期間ta(日) 自然含水比 wn ( % ) ○ 2014年7月28日採取 ● 2015年1月23日採取 <試料の状態:有姿(37.5mmふるい通過分)> 製鋼スラグ山No.6 No.1 No.3 No.4 No.5 No.7 No.2 製鋼スラグ山No.6大分工業高等専門学校紀要 第 53 号 (平成 28 年 11 月)
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の水和反応(前出式(1))により水分が消費されるとともに膨張 現象も生じる.しかしながら,期間の経過にともなってこの反 応が収束するにつれて,製鋼スラグによる水分の消費が無くな るため,徐々に含水比が高くなったものと推察される.併せて, 製鋼スラグの細粒化による影響も原因の1つとして挙げること ができる. 図-2は,製鉄所構内における大気エージング期間の経過にと もなう土粒子の密度sの推移を示す.図より,土粒子の密度は, 当初,3.1g/cm3程度であったが,エージング期間の経過にとも なって徐々に減少しており,168日時点で概ね2.9g/cm3まで減少 していることがわかる.この原因としては,製鋼スラグの細粒 化による影響が考えられる. そこで,先に示した自然含水比と土粒子の密度との関係を検 討してみることにした. 図-3は,自然含水比wnと土粒子の密度sとの関係を示す.図 より,自然含水比の増加にともなって土粒子の密度は減少して おり,両者の間には次式(3)に示すような相関性の高い直線関係 が認められる.
s 3.36500.066647wn
r0.908
(3) これより,前出図-1と図-2に認められたエージング期間の経 過にともなう自然含水比の増加と土粒子の密度の低下は,大気 エージング期間の経過にともなう製鋼スラグの細粒化現象によ る可能性が高いことが明らかとなった. 図-4は,大気エージング期間の経過にともなうpH(H2O)の推 移を示す.図より,pH(H2O)は,概ね12程度を推移しており, エージング期間の経過にともなう明確な差は認められなかった. 図-5は,大気エージング期間の経過にともなう電気伝導率 の推移を示す.図より,は,200~300mS/mを推移しており, pH(H2O)と同様に,エージング期間の経過にともなう明確な差 は認められなかった. 図-6は,大気エージング期間の経過にともなうカルシウムイ オン濃度Ca2+の推移を示す.図より,カルシウムイオン濃度は, 図-2 製鉄所構内における大気エージング期間の経過 にともなう土粒子の密度の推移(試料の状態: 有姿(37.5mm ふるい通過分)) 図-4 製鉄所構内における大気エージング期間の経過 にともなう pH(H2O)の推移(試料の状態:有姿 (37.5mm ふるい通過分)) 図-3 自然含水比と土粒子の密度との関係(試料の状 態:有姿(37.5mm ふるい通過分)) 図-5 製鉄所構内における大気エージング期間の経過 にともなう電気伝導率の推移(試料の状態:有 姿(37.5mm ふるい通過分)) 0 30 60 90 120 150 180 210 2.6 2.7 2.8 2.9 3.0 3.1 3.2 3.3 製鉄所構内における大気エージング期間ta(日) 土粒 子の密度 ρs ( g/ cm 3 ) ○ 2014年7月28日採取 ● 2015年1月23日採取 <試料の状態:有姿(37.5mmふるい通過分)> 製鋼スラグ山No.6 製鋼スラグ山No.6 No.1 No.7 No.2 No.3 No.4 No.5 0 30 60 90 120 150 180 210 11.6 11.8 12.0 12.2 12.4 12.6 製鉄所構内における大気エージング期間ta(日) pH (H 2 O) <試料の状態:有姿(37.5mmふるい通過分)> ○ 2014年7月28日採取 ● 2015年1月23日採取 製鋼スラグ山No.6 製鋼スラグ山No.6 No.1 No.7 No.2 No.3 No.5 No.4 0 2 4 6 8 10 12 2.50 2.75 3.00 3.25 3.50 自然含水比wn(%) 土粒子の密度 ρs ( g/ cm 3 ) ○ 2014年7月28日採取 ● 2015年1月23日採取 <試料の状態:有姿(37.5mmふるい通過分)> ρs=3.3650-0.066647wn (r=0.908) 0 30 60 90 120 150 180 210 0 100 200 300 400 製鉄所構内における大気エージング期間ta(日) 電 気伝導 率 χ ( mS /m ) ○ 2014年7月28日採取 ● 2015年1月23日採取 <試料の状態:有姿(37.5mmふるい通過分)> 製鋼スラグ山No.6 製鋼スラグ山No.6 No.7 No.1 No.2 No.3 No.4 No.5大分工業高等専門学校紀要 第 53 号 (平成 28 年 11 月)