Pseudomonas putidaにおける過酸化物除去酵素の発
現とその制御機構の解析
著者
菱沼 宗太
学位授与大学
東洋大学
取得学位
博士
学位の分野
生命科学
報告番号
甲第203号
学位授与年月日
2008-03-25
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00005537/
Pseudomonas putidaにおける過酸化物除去酵素の発現と
その制御機構の解析
生命科学研究科
生命科学専攻
4910050004
菱沼 宗太
博士後期課程
目次 緒論一…………一一一…一一一一…一一一・・一一一一一一一一一一一一一一一一…一…一一一…一一一・・…一……一一一一一…一……一…-4 第1章 Pseudomonas putidaおけるoxyR 1変異によるカタラーゼ発現量の増加 緒言…………一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一…一一一…一……一一一……一一……一一一…一一一一一一一一……一…7 第1節 試料および方法一一一一……一…一一一一一一一………一一…一…一.一一__一一__一一一__-7 第2節 結果 1.カタラーゼ活性の経時変化とoxyR 1変異の影響一一一一一一一一一一…一一一__一一一_10 2.カタラーゼの精製と遺伝子の同定一一一一一…一…・・…一一一一一………一一_一.一一.一一一一___13 考察一一一一一一一一一一一一一……一……一一一一一一一一一一一一……一……一一一.._一____一_.___一一一_15 第2章 katAおよびkatBの転写開始点の特定およびプロモーター上流領域への OxyRの結合 緒言・・………一一………一一一一一一・・一一一………一一一一.一一一一一___.一一....一.p___20 第1節 試料および方法……一一一一一一一一一・・一,一一一______一一一一______..一_.一一一_21 第2節 結果 1.カタラーゼ遺伝子の転写開始点の特定と過酸化物分解酵素遺伝子の……一一一24 プロモーター領域の解析 2.過酸化物分解酵素遺伝子プロモー一一ター上流域へのOxyRの結合一一一一一一一一一27 第3節考察一一一………一一・一一一一一……一……一一_一._____一一__一_一.__一_2g 第3章 過酸化物分解酵素遺伝子の転写量とタンパク産物の細胞内濃度の測定 緒言一一………一……一………一…一一一一…一一………一一…一一一一一一一…一……一一一………-34 第1節 試料および方法一一一一一………一……一………一…一一一一___一_i.一.一一.._34
第2節 結果 1.定量リアルタイムPCR(qPCR)法によるmRNA量の定量…一一一……一一一一一…一一31 2.Westem法を用いた細胞内タンパク濃度の測定…__一一一..一一_._一_一一_32 第3節 考察 第4章 KatBの生産制御機構の解析 緒言一一一……一…一一一一一一一一…一一一一…一一一・一一…一……一……一一一一一一一一・一一・一一一…一・一一一一……一一一……43
第1節
第2節
1. 2.第3節
第5章
試料および方法一一一一一一一一一一一・・……一…一一一一……一一一一一…一…一…一一…_一一一一一一..一.一_44 結果 対数増殖期におけるRpoSの発現によるKatBの産生一…一一…一一一一一一一一一一・一一一46 対数増殖期に生産されたKatBの活性発現…一一_一…一一一一_一一一一__一..一...48 考察…一一一一一一一一一一一一一一一一一一・・一・一一・一一一一一一一一一…一一一…一一一…一……一一一……一……一……一…49 プロテオーム解析によるOxyRおよびRpos依存性遺伝子の特定 緒言……一一一一一一一……一………一…一…一………一一………一一一………一・・…一一…・・一一…51 第1節 試料および方法…一…_一一一_.._一____一一.._一_一一.,___.___51 第2節 結果 1.プロテオーム解析………一一一一・一・一一……….一_.._一_一,一.,一一一__一一.一一____49 2.rpoS欠損によるahpC-ahpF転写量の上昇一一一…一一一一一・・……一………一一一59 第3節考察…一一一一……一一一一一一……一一……一一…………一一一一一…一一一一…一一一…一一…59 第6章 Pseudo〃zonas putidaにおける酸化的ストレス応答機構の発現に関与する 因子の探索 緒言一………一…………一…一一………一一一一一一………一…一一一一一…………63 第1節 試料および方法…一一一一一一一……一…・1-………一…一一…………一……-63第2節 結果と考察 1.kOtAおよびkOtB欠損株の作出一…一一一一一……一一一一…一・一一一……一一…一……i・一一一一一一……-67 2.免疫沈降法を用いたOxyR結合性遺伝子領域の探索一一一…一一一一一一一一__一.68 3.RpoHの酸化的ストレス応答への役害1」の解析一一一一一一一一一一一_一_一一一一一..一_一_6g 総‡舌一一一・一一一…一一・・一一一・一一一一・・一・・一一一一一一一一一一一一一一一一・一・・一・一一一一一一一N-一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一・・一一一一一一一一一一一一一・一一一一一・・一一一一一一一一一一一一一一73 参考文献一一一一一一一一一一一一一…・m……一一一一一一一一・p-一一………一一一一一一一_一一._一_一__一_..__一一_.74 謝辞一一一一一一一一一一……一一………一一一一一一一一………一…一・一・一一一一…………一・・一…一…一一一一一…………78
緒論 生物は環境の変化に対応するために、多くの適応機構を備えているが、それらの 発現の制御様式は多様であり、微生物においても多くの遺伝子発現調節因子の存在 が明らかとなっている。偏性好気性菌であるシュードモナス・プチダ(Pseudo〃lonas putida, R putida)は呼吸鎖により電子を酸素に伝達し、その過程により生じたプロ トン濃度勾配によりATPを合成するため、分子状酸素が生命活動に必須である。呼 吸の過程は分子状酸素の4電子還元による水の生成を伴うが、その間に分子状酸素 の不完全な還元により生じる活性酸素は、細胞内分子の無秩序な酸化や老化促進作 用を持っと考えられている。そのため、好気性生物においてはこのような活性酸素 分子類を除去する酵素系が必須であり、ペルオキシレドキシン、カタラーゼ、スー パーオキシドジスムターゼなどの存在が確認されている。R putidaのペルオキシレ ドキシン(Prx)であるAhpCは、有機過酸化物と過酸化水素の両方に対するKm値 が非常に低く、大腸菌(Escherichiα coli, E. coli)において報告されているように、 内因性の過酸化水素を迅速に分解するための主要な除去機構であると考えられる (Seaver and lmlay,2001)。AhpCは過酸化水素に対する強力な解毒機能を有するが、 酸化されたAhpCは再活性化のためにペルオキシレドキシン還元酵素による還元を 必要とする。この過程にはNADHが必要であり(Poole and Ellis,1996)、 AhpCは大 量の過酸化物の無毒化には適していないと考えられる。一般に、ペルオキシレドキ シン遺伝子の発現は酸化ストレスにより誘導され、OxyRの制御を受けることが知 られている(Storz et a1.,1990;Mongkolsuk et a1.,2000;Ochsner et al.,2000)。 OxyRは 酸化還元に依存した転写活性化因子であり(Toledano et aL,1994;Aslund et al.,1999)、 酸化ストレスに対する防御機構に含まれる因子の発現を制御し、E. coliにおいて最 も良く研究が成されている(Storz and Zheng,2000;Mongkolsuk and Helmann,2002)。 OxyRは過酸化物の存在下で酸化され、分子内ジスルフィド結合を形成することに よって活性化し、標的遺伝子の発現を促進する。その後、酸化されたOxyRはグル タレドキシン1による酵素的還元により不活性化する(Zheng et al.,1998)。 OxyR
はE.coliにおいて、α1!ρCF、 katG、 gorA、 grxA、 trxC、 dps(非特異的DNA結合タ ンパクをコードする遺伝子)そして、oxyS(制御RNAであるOxySをコードする遺 伝子)を含むoxyRレギュロンの発現を活性化し、抗酸化において重要な役割を担 っている。そのため、OxyRは細菌の酸化ストレス反応調節において、 SoxRと並ぶ 重要な調節因子であるといえる(Storz and Zheng,2000)。 一方、ヘムを含むタンパクであるカタラーゼは、好気性菌に広く分布しており、 このような化合物を必要とせず、酸化ストレス防御に重要である事は疑いない。微 生物の中には、複数の単機能的カタラーゼを有するものや、ペルオキシダーゼを併 せもっ2機能的なカタラーゼを有する種も存在する。これらの酵素は協同的に過酸 化物を無毒化すると考えられるが、それらの遺伝子の発現は異なるシステムにより 制御される場合がある。いくつかの微生物種において、カタラーゼの発現がOxyR に依存していることが報告されている(Ochsner et a1.,2000;Storz and Zheng,2000; Jamet et al.,2003;Chauvatcharin et al.,2005)。 E. coliは2つのタイプのカタラーゼ (HPI、 HPII)を生産する(Schellhom,1995)。 HPIは過酸化水素による誘導を受け るペルオキシダーゼ活性をもつカタラーゼであり、酸化ストレス応答において OxyRとマイナーσであるσs(Rpos)によって制御を受けるkOtGにコードされてい る(Storz and Zheng,2000;Ivanova et aL,1994)。一方、 katEにコードされるHPIIは 単機能的カタラーゼであり、σsによって制御されているが、OxyR非依存であるこ とが知られている。また、日和見感染性の病原菌であるRaeuginosaは3種のカタ ラーゼを有し、宿主による攻撃に対する防御のためにR putidaよりも高いカタラー ゼ活性を示し(Ma et al.,1999;Ochsner et al.,2000)、その疫学的な重要性からカタラ ーゼ遺伝子の制御メカニズムが詳細に調べられている。R aeuginosaではoxyRの欠 損株が得られており、KatB(R putidaのKatBと相同性は低い単機能カタラーゼ) の発現は強く影響を受けるためOxyRに依存するが、σsにより制御をうけるKatA の転写に対しては、同遺伝子の欠失の影響はわずかであることが報告されている (Ochsner et aL,2000)。これに対して土壌や水圏環境中に存在するR putidaのカタ
ラーゼ遺伝子の制御については、R putida KT2442株の近縁であるρ〆iぬmt-2株 において定常期初期に産生される2種のカタラーゼのうち、KatBの発現がrpoS依 存性である事が知られているが(Miura et al..1998)、その発現調節に関してはこれ までほとんど報告されていない。 本研究室で得られたRputida KT2442株(KT株)由来のトルエン耐性菌である R putida KT2442TOL株(TOL株)においては、 oxyRの特定の変異(oxyR1)により、 OxyR中のPhe l o6が11eに変化し、 E. coliにおけるいくつかのoxyR変異と同様に (Kullik et al.,1995)、 AhpCの高レベルの蓄積が起こることが明らかとなっている (FUkumori and Kishii,2001)。加えて、トルエン耐性株のoxyR1をoxyRへ復帰変異 をさせるとAhpCの高発現はみられなくなるため、P. putidaにおいてもoxyRがψρC の発現を調節することが判明した。oxyRの遺伝子発現調節機構について詳細に検討 するためには、同遺伝子の欠損株の作成が不可欠であるが、これまでのところ作出 に成功しておらず必須遺伝子であることが推察されている。本研究ではR putidaで のOxyRの酸化ストレス応答における役割を理解するために、R putida KT2442株に oxyR1変異を導入することにより、D主要な2種のカタラーゼをコードする遺伝子 を特定し、2)oxyRがkOtA、 katBと名付けた2つの主要なカタラーゼ遺伝子の転写 レベルでの制御に関わること、3)OxyRがψρcと同様にこれら2つの遺伝子のプ ロモーター上流に結合することにより転写調節を行うこと、および4)OxyR以外 の因子が調節に加わることによりahpC、 kOtA、およびkOtBが独立した調節をうけ ることを明らかにし、さらに各過酸化物分解酵素の細胞内濃度の調節にかかわる機 構の存在を示唆する結果が得られたのでここに報告する。
第1章Pseudomonas putidaおけるoxyRノ変異によるカタラーゼ発現量の増加 緒言 緒論においても述べたように、」’seudomonas putida KT2442株の近縁であるR putida mt-2株は、通常の培養条件下で対数期後期から定常期初期にかけて、2種の カタラーゼ(KatA、 KatB)を生産することが報告されている。しかしながら、これ らのカタラーゼは精製されていないため酵素化学的な研究がなされておらず、また それらをコードする遺伝子についてもクローン化などによる解析がなされていな かった。R putida KT2442株の親株であるリファンピシン感受性のKT2440株のゲノ ム情報に基づき、同株の染色体には4個のカタラーゼ遺伝子が存在し、その1つは E. coliのKatGと相同性が高くペルオキシダーゼ活性をもつこと、また1っはKatE と相同性が高いことから単機能カタラーゼであることを、相同性解析により得るこ とができた。2 aeuginosaでは単機能カタラーゼであるKatBの発現がOxyRに依存 することが報告されており、E. coliなどでもカタラーゼの発現にOxyRが関与する ことが知られていることから、P. putidaにおいてもカタラーゼの発現にOxyRが関 与することが予想された。 第1章では、Rputida KT2442株にoxγR1変異を導入したoxyR1変異株を作出し てカタラーゼ活性への影響を調べることにより、R putidaにおいてOxyRが2種の カタラーゼの発現を制御することを明らかにし、さらに2種のカタラーゼの精製と それらをコードする遺伝子の特定について記述する。 第1節 試料および方法 1.使用菌株 R putida KT2442(KT株)(Franklin et al.,1981) KT株は、2〆1ぬKT2440株のリファンピシン耐性株として分離された。 KT2440
株の全ゲノムは解読され(Nelson et al..2002)、認定宿主であるKT2440株に由来 するKT株は、遺伝子組換え実験に用いることが可能である。 R putida KT2442-oxγR1(KT-oxyR1株):KT株のoxyRにoxyR/変異を導入したもの。 二重相同組換えによるKT-oxyRl株の作出は、スーサイドベクターpKNGIolを用 いて以下のように行った。プライマー-oxyR F-25(5’GcccGAAGcTTcATGGA- GGCACG)およびoxyR R+951(5’GGAccTTCGAGAGCTcAcTc)を用いて、 R putida KT2442TOL株の染色体DNAを鋳型としてPCRを行い、oxyR1変異をもっ oxyR遺伝子を増幅した。得られたPCR産物をHindIllおよびSaclで消化し、プ ラスミドpuc 18に組込んだ。得られたプラスミド(pPPoxyR)をHindlll、 EcoRI で消化し、oxyRを含む約1-kbのDNA断片の末端をT4 DNAポリメラーゼを用い て平滑化した。この断片を、Smalで処理したpKNGIOIに組込み、 E. coli cc 118λpir に導入した。この株を、KT株およびE. coli C600(pNJ5000)株と共に培養し、トリ パレンタルメイティングを行い、oxyR1をKT株に導入した。候補株の選択は安 息香酸を含む最少培地でストレプトマイシン感受性を指標として行い、候補株の oxyR遺伝子の塩基配列を求めることによりKT-oxyRl株を得た。 2.培地・培養条件および試薬 通常の培養には、1.0%(w/v)Tryptone(Bacto)、0.5%(w/v)Yeast Extract(Bacto)、 0.5%(w/v)NaC1の組成となるよう脱イオン水で調製し、オートクレープ滅菌(121℃、 20分間)したLB培地を用いた。 培養は特記なき限り30℃において、以下の操作により行った。平板培地上のコロ ニーから菌体約1白金耳を2mlの液体培地に接種し、16.5mmψ試験管を用いて好気 的に一夜培養し、得られた前培養液を200ml容バッフル付三角フラスコ中の培地 50mlに100μ1加えて200rpmで回転培養した。 特に記載されていない試薬は、シグマまたは和光純薬工業の特級品を使用した。
3.方法 3-1カタラーゼ活性の測定 カタラーゼ活性は、Beers and Sizerの方法に準じて行った。室温において10mM過 酸化水素を含む10mM Tris-C1(pH 8.0)にサンプルを加え、240nmの吸収の変化を測 定し、モル吸光係数を58.0として活性を算出した。 サンプルは以下のように調製した。試験菌株の培養液から経時的にサンプルを採 取し、遠心分離(3000×g,10min)により細胞を集め、懸濁用バッファー{20mM Tris- Cl(pH 8.0)、0.5mM EDTA、0.lmM DTT、10%(w/v)グリセロール}に懸濁し、懸濁 液をフレンチプレス(17,360p.s.i)で2回破砕した後、遠心分離(25,200・g、30min) により得られた上清をサンプルとして用いた。 3-2タンパク濃度の測定 Protein Assay Kit(BIO-RAD)を使用して行った。 I OOμ1の試料にDye Reagent Concentrateを4倍に希釈したものを5ml加え撹持した。室温で5分間静置しA5g5nm を測定し、ウシ血清アルブミンを用いて作成した検量線をもとにタンパク濃度を算 出した。 3-3ネイティブポリアクリルアミドゲル電気泳動法(Natlve-PAGB) Laemmli(1970)の方法により行った。 SDSおよび2・メルカプトエタノールは添 加しなかった。泳動はミニプロティアン3セル(BIO-RAD)を用い、氷冷しながら 行った。 3-4カタラーゼーペルオキシダーゼニ重染色法 二重染色はWayneとDiazの方法(1986)により行った。サンプルの調製は酵素 活性測定用サンプルと同様に行った。サンプルをNative-PAGEで泳動し、ゲルをマ レイン酸バッファー{0.IMマレイン酸(pH75)、 O.15M NaCl}で3回洗浄した。3μ1
の30%過酸化水素(H202)および15mgのジアミノベンジジン(DAB)を30ml の1・PBSに混合し、これをDAB溶液とし、洗浄したゲル上に注ぎ20分間穏やか に振とうした。一次染色されたゲルを脱イオン水で3回水洗し、これに約lmMの H202溶液30m1を注ぎ、10分間穏やかに振とう後、ゲルを軽く脱イオン水で洗っ てから、二次染色として30mlのフェリシアン化物溶液{1%(w/v)塩化鉄、1%(w/v) フェリシアン化カリウム}をゲル上に注ぎ、ゲルが緑色に染まってくるまで穏やか に振とうした。 第2節 結果 1.カタラーゼ活性の経時変化とoxyR 1変異の影響 KT株およびKT-oxyRl株を好気的に培養し、経時的にカタラーゼ活性を測定した。 結果を図1-1に示した。通常の培養条件では、両株の増殖には大きな違いはなく、 倍加時間は約35分であった。培養開始後4時間20分ほどで培養液の濁度は1.0に 達し、増殖速度は1時間半ほど後に減衰し始める。このため、本研究ではODが1 の培養液中の菌体を対数増殖期の菌体として採取した。KT株において対数増殖期 では、カタラーゼ活性はほとんど検出されなかったが、定常期初期に入ると急激な 上昇が認められた。しかし、いずれの培養時期においてもカタラーゼ活性が30Umg”i タンパクを越えることはなく、定常期中期以降には段階的に活性の低下がみられた。 一方、oxyR 1変異株においては、対数増殖期においても活性が150Um91タンパクを 下回ることはなく、一夜培養後には800Umg-1タンパク以上にまで活性が上昇した。 このことから、oxyR 1変異株はKT株と比べて、少なくとも10倍高いカタラーゼ活 性を有していることが示された。このことは、カタラーゼの発現にOxyRが関与す ることを明示している。 次に、KT株において複数のカタラーゼが生産されるのか、培養時期によりカタ ラーゼ活性が変化するのか、またOxyRがどのカタラーゼの発現に関与するかを明
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1ncubatjof}6me(h) lncub8tion time{h) 図1-1カタラーゼ活性の経時的変化 A P. putidαの増殖曲線とサンプリング時間。 LB培地でのKT株とKTLoxyR1株の 増殖は類似しており、図に示した増殖曲線は両株の典型的な培養結果を示してい る。図中の1~6の数字は図1-2に示した活性染色のためのサンプル採取時期を 示している。 B カタラーゼ活性の経時変化。●はKT株、○はKT-oxyR1株のカタラーゼ活性を示 している。 らかにするため、各培養時期に採取した菌体から抽出した試料をNative-PAGEによ り分画し、活性染色法によってカタラーゼ活性の検出を行った。図1-2に示したよ うに、R putida KT2442株は定常期初期において、2種のカタラーゼを産生している ことが確認された。ゲルにおいて見られる2つのカタラーゼ活性のうち、下側のク リアゾーンとして検出されたものは、MiuraらによりKatAとして報告されたもの に相当し、KatAは単機能カタラーゼであることが明らかとなった。一方、上側の クリアゾーンの中にダークバンドが存在するものは、KatBとして報告されている rpoS依存性のカタラーゼであると推察され、 KatBがペルオキシダーゼ活性を併せ てもっことが判明した。KT株においてKatBのカタラーゼ活性を示すクリアゾーン が、ペルオキシダーゼ活性を示すダークバンドに先立って現れているが、カタラー ゼ・ペルオキシダーゼ活性間での検出時期の差は、両酵素活性の検出感度に由来し ていると考えられる(本研究で用いたカタラーゼ活性染色法は、カタラーゼ活性はA
KT2442
K「2“2txyRl KatBKatA
1 2 3 4 5 5
1 2 3 4 5 6
B
臼t8附
KT2442 KT2442roxy督{1 「「「「「「 「一一ロー 図1-2 カタラーゼの活性染色による検出 A 野生株および変異株のカタラーゼ活性の経時変化。lane 1,0D600=1(培養開始 から4.3時間後)、lane2,0D600=2.2(同5.2時間後)、 lane3,0D600~4.5(同65 時間後)、lane4,0D600~6(同8時間後)、lane5,0D600~7(同9.5時間後)、lane6, OD600~7(同22.7時間後)に採取し、野生株は100pgタンパク、変異株はIOμg タンパク相当量を泳動した。 B 野生株および変異株のカタラーゼ活性の経時変化。両菌株ともに10μgタンパク 相当量を泳動した。 非常に高感度で検出できるため、活性の有無の確認には適しているが定量性に乏し いことが知られている)。KT株においては、対数期ではKatA、 KatBともにカタラ 一ゼ活性は非常に低くわずかにクリアゾーンとして見出され、それぞれ定常期初期 から活性が増加して明確な活性として確認され、両カタラーゼの活性は定常期において増加することが示された。また、KatBの活性は一夜培養時において最も高い ことが示されたが、KatAの活性については定常期初期から高く、一夜培養時には 低下しているように見受けられた。これに対して、oxyR 1変異株では、対数期にお いてもKatA活性が非常に強く検出され、発現時期に差があることが示唆された。 また、KatB活性は主に定常期初期以降に発現した後段階的に増加しており、KT株 における活性の推移と類似していた。また、KT株およびoxyR 1変異株で、等しい タンパク量を含む細胞抽出液を用いて活性染色を行ったところ、oxyR 1変異株では KatA、 KatB活性ともに野生株と比べて非常に強く検出された。このことから、oxyR 1 変異は定常期初期に発現する二つの主要なカタラーゼの活性を上昇させる事が示 された。 先に述べたように、P〆」ぬKT2440株の染色体DNA上には、4種のカタラーゼ をコードしていると考えられる遺伝子が存在し、Rputida Corvallis株では、2日培 養後に3種のカタラーゼが生産され、そのうちCatCカタラーゼは定常期後期に特 異的に生産されることが報告されている(Miller et aL,1997)。アミノ酸配列の比較 により、CatCはR putida KT2440株のKatEと96.7%の相同性を示すことが分かり、 KatEに相当するカタラーゼであると推察された。 KT株では図1-2に示した活性染 色において、KatEと思われるカタラーゼ活性がKatBの活性よりさらに上方(移動 度の低い場所)に確認されたが、oxyR1変異株におけるこのカタラーゼ活性の上昇 は確認されなかった。 2.カタラーゼの精製と遺伝子の同定 2-1カタラー一一・一ゼの精製と酵素化学的性質の解析 R putidaにoxγR 1変異を導入することにより、KatAおよびKatBの活性が著しく 増加することが示されたが、この活性の上昇は酵素量の増加に起因すると考えられ た。このため、2種のカタラーゼの酵素化学的性質の解析と、部分アミノ酸配列の 決定による同遺伝子の同定を目的に、KT-oxyR1株から2種のカタラーゼの精製を
行った。同株をLB培地において通常の培養条件で培養し、得られた菌体をAバッ ファー{20mM Tris-Cl(pH 8.0)-0.5mM EDTA}に懸濁したのちフレンチプレスを用 いて細胞抽出液を作成した。これに25%(w/v)ストレプトマイシン硫酸を加えて遠 心分離により核酸を除き、さらに50%飽和となるように硫酸アンモニウムを加えて、 遠心分離により2種のカタラーゼを含むタンパクを回収した。沈殿をバッファーA に溶解し、バッファーAに対して透析を行った後、DEAE-Separoseカラムにより2 つのカタラーゼ活性画分を得た。それぞれの画分からカタラーゼをButyl-Toyopearl (東ソー)、MonoQ(GE)およびSuperose l 2(GE)各カラムを用いてほぼ単一に精 製した。カタラーゼの比活性は、KatAは1.0×103 Umg-1タンパク、KatBでは3.8×IOi Umg“1タンパクであった。このことから、KatAはKatBと比べて約30倍高い活性を 有する事がわかった。また、両カタラーゼとも弱酸性から弱アルカリ性領域にかけ てブロードな活性のpH依存性を示した。 2-2分子量の推定とN末端アミノ酸配列の決定 得られたKatAおよびKatBをSDS・pPAGEにより泳動し、標準タンパクと比較す ることにより、カタラーゼ単量体の分子量はそれぞれ約55kDaと約80kDaと推定 された。溶液中での分子量を測定するために、Superose12カラムを用いてFPLC(GE) によりゲルろ過クロマトグラフィーを行った。その結果、KatAは約220kDa、 KatB は約165kDaの分子量を示した。このことから、溶液中ではKatAは4量体、 KatB は2量体を形成していると考えられた。精製されたカタラs-一一・ゼのN一末端アミノ酸配 列は、KatAがNH2-S-K-1-L-T- T-A-s-G-A-、 KatBがNH2-s-N-E-S-K-c-P-F-H-Q一であ ることが、理化学研究所で行われた分析により明らかとなった。得られた2種のカ タラーゼのN一末端アミノ酸配列と、Nelsonら(2002)により報告されたRputida KT2440株の染色体DNA配列(NC OO2947)から導かれたアミノ酸配列を比較した ところ、KatAはkOtA(PPO481;P. putida KT2440株の481番目のORF)に、 KatBは PP3668にコードされることが明らかとなった。アミノ酸配列をもとに算出した2
種のカタラーゼの分子量は、KatA 53588Da、 KatB 82060Daであり、これらの値は SDS-PAGEから推測した分子量とほぼ一致していた。 第3節 考察 Rputidaにおける過酸化物分解酵素の発現調節機構、およびそれに対するOxyR の役割を検討するために本研究は立案された。oxyR欠損株による解析が、最も端的 にOxyRの機能を示すと考えられるが、これまで行った選択条件では欠損株は得ら れなかった。OxyRはほとんどの場合遺伝子の発現を促進するため、誘導条件下に おいて欠損株で誘導されない遺伝子がOxyRによる制御をうけるとされてきた。 R putidaのoxyR1変異株は、 Ahpcを構成的に高発現することから、変異OxyRは通 常の培養条件においても標的遺伝子の発現を促進すると考えられる。oxyR 1変異に より高発現する遺伝子と、oxyRの欠損により誘導されない遺伝子は、もしOxyRに おいて活性化された状態が1つしかない場合には、おおよそ等しいと考えられる。 このため、oxyR1変異株を用いて解析を行った。 oxyR 1変異株ではKT株に比べて いずれの培養時期においてもカタラーゼ活性が上昇しており、oxyR1変異によって 2種のカタラーゼ活性が強く誘導されることが明らかであり、Rputidaにおいてカ タラーゼの発現がOxyRによって制御されていることを示唆している。 複数のカタラーゼが存在する場合、それぞれの発現量を知るには活性を分別定量 する必要がある。E. coliにおいては有機溶媒に対する耐性と、耐熱性の違いから2 種のカタラーゼの分別定量がなされている(Visick and Clarke,1997)。 R putidaでは 定常期初期から中期に2種のカタラーゼが生産され、それらがoxyR1変異株におい て高発現することから、同変異株からKatAとKatBを精製しそれらの比活性に著し い違いのあることを明らかにした。分別定量の可能性を探るために、E. coliと同様 な手法により精製されたKatAおよびKatBを処理して活性への影響を調べたが、有 機溶媒耐性・熱耐性ともに有意な差異はなく、溶液中の酵素活性を分別定量するこ
とは困難であると考えた。このため、活性染色による分画を行った。解析の結果、 KT株においてKatAおよびKatBの2種のカタラーゼは、通常の培養i条件下で構成 的に生産され、KatAは対数期後期から定常期に発現し、 KatBは定常期初期から発 現しカタラーゼとペルオキシダーゼ両活性をもつことが判明した。溶液での酵素活 性測定により、対数増殖期のKT株のカタラーゼ活性はきわめて低いことが示され た。一方、活性染色ではわずかではあるがクリアバンドがみられ、KatAおよびKatB それぞれの活性をもつように見受けられた。本研究で用いたカタラーゼ活性染色法 は、定量性は低いものの微小のカタラーゼ活性が検出でき、感度の面で極めて優れ ている。一夜培養時の菌体には、対数増殖期に比べてはるかに多くのカタラーゼが 存在することから、対数期におけるKT株のカタラーゼ活性は、前培養時に蓄積し た菌体中のカタラーゼ活性に起因することが考えられるが、KT株における基底レ ベルの活性を含むことは否定できない。これに対し、KT-oxyR1株ではKatAは培養 の全期間において、そしてKatBについては定常期において、 KT株よりも高い活性 をもっことが示された。活性染色法は定量性に乏しいものの、クリアゾーンの大き さによりおおよその比較が可能であり、oxyR1変異の導入はKT株の主要な2種の カタラーゼの両方の活性を上昇させることは明らかで、OxyRはKatA、 KatBの両 方の発現を制御すると結論づけられた。緒論などで述べたように、E coliにおいて は2機能性カタラーゼであるHP-1はOxyR依存性であるものの、単機能カタラー一一一一 ゼのHP-IIはOxyR非依存性であることが知られている。また、 R aeruginosaにお いては単機能カタラーゼであるKatBのみがOxyR依存性であり、KatAの転写に対 するOxyRの影響はわずかであることが、 oxyR欠損株を用いた研究から報告されて いる。いずれの菌株においても、複数種存在するカタラーゼのうち1種のみがOxyR 依存性である。今回、Rputidaにおいて得られた、 KatA、 KatBの2種の主要なカ タラーゼがどちらもOxyR依存性であるという結果は、そのような知見とは異なる ものであった。このことから、R putidaの酸化ストレス防御におけるOxyRの機能 がE coliおよびρ aeruginosaと比べてより重要な位置を占めていることが考えられ
た。KT株ではそのゲノム情報から、4種のカタラーゼをコードすると考えられる 遺伝子が特定されている。通常一夜培養時にはKatAおよびKatBの2種が発現する が、ゲノム解析においてKatEと名づけられたカタラーゼは、より長い培養時間に おいて検出されるカタラーゼ活性に対応すると推測された。oxyR 1変異株において は、KatEに相当すると思われるカタラーゼ活性の著しい増加は認められず、その発 現はOxyRに依存しないと考えられるが、現時点では明らかではない。KatEはOxyR 以外の制御因子によって発現調節が行われている可能性があり、R putidaにおいて も発現するすべてのカタラーゼがOxyRによって制御されているわけではないこと が示唆された。しかしながら、先にも述べたようにこれまでに報告のある他の微生 物種とは異なり、KatA、 KatBという2種の主要なカタラーゼの発現制御に関与し ていることから、Rputidaの酸化ストレス防御機構において、 OxyRは非常に重要 な役割をはたしていることは疑いなく、OxyRは複数ある酸化ストレス応答性因子 の制御系の中でも中心的な位置を占めている可能性が高いと予測される。 活性染色の結果から、KT株ではKatA活性は定常期後期で最も高く、一夜培養時 には有意に減少するのに対して、KatBの活性は培養時間とともに増加することが 示された。このことは、細胞内で主に生産されるカタラーゼが、KatAからKatBへ 移行することを示している。一方oxyR 1変異株においては、一夜培養時に高いKatB 活性をもつことは類似するものの、KatA活性についても高く維持されていた。定 常期において、菌数の増加に伴う栄養分の減少あるいは有害物質の蓄積などにより 細胞の生理活性は低下し、環境変化に応答した新たな遺伝子発現調節が引き起こさ れる。定常期に特異的に生産されるσsによる転写制御は、枯草菌の胞子形成時に 特異的に発現する種々のσによる制御とともに、RNAポリメラーゼ自体の構成要 素の選択的利用による転写制御として、最も研究の進んでいる研究分野である。本 来低下するはずのKatAの活性がoxyR 1変異の導入により誘導され、一夜培養時に おいても持続的に活性が発現したものと考えることができる。野生株においてKatA からKatBへのシフトが起きているようにみえたことから、定常期後期以降には
KatBが必須、もしくはKatBが存在するほうが優位であることが考えられる。定常 期になり、菌体数が増加してくることによって細胞周辺の環境にも変化が生じてい ることが予想され、この変化に対応するためにKatBの存在が有利に働いているこ とが考えられる。単純なカタラーゼ活性ではKatAの方が約30倍高い活性を有する 事が精製カタラーゼを用いた実験から明らかとなっており、KatBがペルオキシダ ーゼ活性を有する二機能的カタラーゼであることが重要であると予測することが できる。しかしながら、なぜペルオキシダーゼ活性をあわせ持つカタラーゼが定常 期初期以降に生産されなければならないのか、対数期から生産されるカタラーゼが 二機能的では不都合が生じるのかなどの詳細は現在のところ不明である。 R putida KT2442株において、 KatBの活性は定常期初期以降に発現することが活 性染色法による実験結果から明らかとなった。これはMiuraらの報告にあるKatB と同様の特徴であり、定常期特異的なマイナーσであるσsによる制御下にあること が予測された。これに対してKatAはoxγR1株においては対数期からはっきりとそ の活性が確認されたほか、野生株においても弱いながら対数期から活性が検出され た。このことから、KatAについてはσsではなく、対数期から存在する他のσ因子 によって転写制御が成されていることが推察された。しかし、Miuraらの報告では、 rρoS欠損株におけるKatAの活性低下はわずかであるものの、プラスミド由来の rpoSを発現することによって、対数期におけるカタラーゼ活性が上昇し、このとき 検出されるカタラ・一一・一ゼ活性がKatA由来のもののみであることから、KatAも部分的 にσsによる支配を受けている、としている。そのため、KT2442株のKatAにっい てもσsによる部分的な制御が存在する可能性が残されているといえる。このよう に、σs依存性、非依存性と考えられる2種のカタラーゼが共にOxyRによって制御 されるという点においても、E. coliおよびR aeruginosaとは異なっている。宿主内 において生育する菌と、環境中に存在する菌とでは、細胞周辺の環境に違いがあり。 これを反映したストレス応答機構を所持していることが考えられる。この影響によ り、OxyRにおけるカタラーゼの制御に関しても異なる制御系を有していると推測
される。そこで、二種のカタラーゼの発現を制御するσ因子の特定も含めて、P putidaのOxyR.によるカタラーゼの発現制御について、2章以降でさらに検討を進
第2章 katAおよびkatBの転写開始点の特定およびプロモーター上流領域への
OxyRの結合
緒言 R putidaにおいて主要なカタラーゼであるKatAおよびKatBの発現に、 OxyRが 関与することを第1章において示した。複数のカタラーゼの発現制御にOxyRが関 与することは、これまでに報告されていない。本章ではR putidaにおける主要な3 種の過酸化物分解酵素遺伝子であるψρc、katA、 kOtBの発現へのOxyRの関与につ いて述べる。OxyRの遺伝子発現調節機構に関しては、特にE. co〃において詳細な 検討がなされており、被調節遺伝子のプロモーター上流領域へ直接結合し、RNA ポリメラーゼのαサブユニットと相互作用することにより、被調節遺伝子の発現を 転写レベルで制御すると考えられている。OxyRの結合領域は被調節遺伝子の転写 開始点の上流35bpの塩基(-35)と隣接して存在することが報告されており、間 に7塩基を挟んだ4塩基配列の繰り返し構造をもち、E. coliではArAG-N7-CTAT-N7- ATAG-N7-cTAT配列がコンセンサス配列として提唱されている。 oxyRは酸化型、 還元型のどちらの状態においても、被調節遺伝子のプロモーター上流領域に結合し、 過酸化物の存在によって酸化されて分子内ジスルフィド結合を形成することで構 造変化し(Choi et aL,2001)、酸化型OxyRのみが標的遺伝子の転写を活性化するこ とが報告されている(Tao et aL,1993;Zheng et al.,1998;Storz and Zheng,2000)。一方 Xanthomonas・ca〃rρestrisのOxyRは、酸化状態と還元状態でahpcプロモーター上流 領域の近い位置ではあるが異なった部位に結合し、還元状態のOxyRは一35領域を 覆う形で結合することが報告されている。このことからXca〃lpestrisにおいては、 還元型のOxyR.はahpCの発現を抑制すると考えられている(Loprasert et aL,2000)。 これらのことから第2章では、R putidaにおけるOxyRの標的遺伝子への結合機 構についての知見を得るため、プライマーエクステンション法によりkOtAおよび kOtB転写開始点の特定を行い、各遺伝子の増殖時期による転写量の変化や過酸化物による誘導について検討し、R putidaにおいてもE. coliのOxyRの結合配列と相同 性の高い配列が存在することを明らかにし、ゲルシフトアッセイにより酸化・還元 の両状態においてOxyRが被調節遺伝子の上流領域に結合することを確認したこと について記述する。 第1節 試料および方法 1.使用菌株・培地・培養条件および試薬 第1章に記載したKT株およびKT・・oxyR 1株を、第1章記載の培地および培養条 件で培養した。特記なき試薬はシグマあるいは和光純薬の特級品を使用した。 2.方法 特記しないものについては、Ausubelら(1992)およびSambrookら(1989)記載 の方法に従い行った。 2-1トータルRNAの調製 RNeasy(QIAGEN)を用いてRNAprotect Bacteria Reagent Handbookに従って行っ た。KT株およびKT-oxyR1株をLB培地で培養し、対数増殖期(OD600~1.0)およ び定常期(対数増殖期から約4時間後:OD600~6)の培養i液から必要量(0.40Dに 相当する菌液)を採取し、RNAprotect Bacteria Reagentと混合し、室温で5分間イン キュベーションした。5,000×gで10分間遠心分離して菌体を回収し、実験に供する まで一20℃に保存した。RNAの調製は次のように行った。菌体にlmg/mlのリゾチ ームを含んだTEバッファーを添加し、10秒間混合した後、室温で5分間インキュ ベーションした。サンプルにRLTを添加し、激しく撹枠した後エタノールを添加し、 全量をRNeasyミニカラムにアプライして8000×g、15秒間遠心処理を行った。 RW 1 による1回目の洗浄の後、RNase Free DNaseにより処理し、 RW1およびRPE処理
後、RNase Free水によりRNAを溶出し、分光光度計を用いて測定した100分の1 TE希釈液のA260㎜値から濃度を推定し、トータルRNAとして実験に使用した。 2-2過酸化物による誘導条件 培養液に、液量の9分の1量のH202およびt-Butyl hydroperoxide(BHP)を加え て最終濃度を10mMとし、室温(約25℃)において所定の時間処理した。 2-3プライマーエクステンション法
1)cDNAの合成
ominiscript RT Kit(QIAGEN)を用い、適当量のトータルRNAおよび5’にビオチ ン標識された各遺伝子の5「末端付近の配列に相補する配列をもつプライマー20 pmolを含む、プロトコール記載の組成の反応溶液20plをRNase Free水を用いて調 製し、反応溶液を37℃、60分間インキュベートすることでcl)NAを合成した。 ・使用したプライマー ahpC PE+103 (5「biotin-CAGACCACTTGCCTTTCAG) katA PE+54 (5’biotin-GTTCTGGTTGTCGGCTACA) katB PE+20 (5’biotin-CATTTCGATTCGTTCGACATC) 2) シークエンシング反応とゲル電気泳動 シークエンシング反応は、Sequencing high-Cycle-(TOYOBO)を使用して行った。 目的のDNA領域を含むプラスミドとシークエンシング用サンプルミックスをプロ トコールに従って調製し、各dNTP-ddNTP溶液2μ1を入れた4本のPCRチューブに 分注し、95℃30秒→72℃2分間で、30サイクルPCRを行った。反応後、4plのStop Solutionを加え、泳動前に75℃、5分間熱変性してから使用した。プライマーはcDNA 合成の際に使用したものを用いた。反応物の泳動は尿素を含むポリアクリルアミド ゲル電気泳動により定法に従って行った。 3)ナイロン膜への転写とシグナルの検出泳動されたDNA断片は、ナイロン膜(Hybond-N+)をゲルに直接のせ、一晩放 置することで転写した。ビオチンに由来するシグナルの検出は、ストレプトアビジ ンービオチンーアルカリフォスファターゼ法にもとつくImaging high-Color・一 (TOYOBO)により行った。 2-4プロモーター上流領域の解析 特定した転写開始点の周辺領域の配列を、Genetyx-Win(ソフトウェア開発)を 用いてデータベース上のKT2440株の全塩基配列と比較することで行った。 2-5ゲルシフトアッセイ RocheのDIG Gel Shift Kitを用いて行った。 ahpC、 katAおよびkOtBのプロモータ ー領域を含む断片は、下記の5f末端にビオチンラベルしたプライマーを用いて目的 の領域を増幅した、ビオチンラベルPCR断片を使用した。 ・使用したプライマー ahpC OxyR結合領域を含む断片 ahpC PE+103およびahpC F-174 (5℃CAGTGCAGAGTTCAGGTCC) 同含まない断片 ahpC PE+103およびahpC F-65 (5’-CAGCGGGArGATTAGTTAGG) hatA OxyR結合領域を含む断片 katA PE+54およびkatA F-234 (5℃TATGGCGTATGTCGAGCTG) 同含まない断片 katA PE+54およびkatA F-72 (5’-CTGTAArCTTGCTCGTCAA) kOtB OxyR結合領域を含む断片 katB PE+20およびkatB F-361 (5’-GTATGGCTGTGTATTGAAGC) 同含まない断片 katB PE+20およびkatB F-201(5’-CGGCTAGTCTTTCTCGTGG) プロトコールに従い調製したビオチンラベルPCR断片を含む溶液に、100mM
DTTで還元処理をしたoxyRあるいは未処理のoxyRを加え、室温でlo分間放置 後、0.25×TBE-6%ポリアクリルアミドゲルを用いて氷上で泳動した。泳動は80V定 電圧で行った。シグナルの検出はImaging high -color一を用いて、2-3、3)記載の方 法でおこなった。 第2節 結果 1.カタラーゼ遺伝子の転写開始点の特定と過酸化物分解酵素遺伝子のプロモータ ー領域の解析 1-1カタラーゼ遺伝子の転写開始点の特定と過酸化物による発現誘導 プライマーエクステンション法により、katAおよびkatBカタラーゼ遺伝子とahpC 遺伝子の転写開始点の特定を行った。対数増殖期において、KT株ではkatA、 kOtB いずれの遺伝子についてもそれらの転写物に由来するシグナルは得られず、転写レ ベルが低いことが示唆された。KT株におけるkatAの発現は過酸化物により誘導さ れ、図2-1Aおよび2-2に示したように、転写開始点は開始コドン(ArG)のAか ら42塩基上流(-42)のAであることが判明した。また図として示していないが、 定常期においては過酸化物による誘導をかけない場合にも、同じ塩基からの転写が おこることが確認された。一方kOtBについては、定常期において構成的な発現が 観察され、転写開始点は一183のGであったが(図2-IB、2-2)、kOtAと異なり対数 増殖期での過酸化物による誘導は見られなかった。このようなkOtA、 hatBの増殖時 期による発現の変化は、1章で述べたカタラーゼ活性染色の結果と一致していた。 また、oryR1変異株では対数期からkOtAの、定常期初期以降においてkatBの発現 が確認され、いずれにおいても転写開始点はKT株と同一であった。 1-2過酸化物による2つの吋ρC転写産物の誘導 KT株において、過酸化物処理によりhatAと同様にahpCの転写が誘導された
A
BHPkatA
H202 Cont O5 2 1060 05 2 1060 ACG「 竜 櫓B
katB1234AC6↑
1 P 臼 ● ● P1C
ahpC
H202 BHP Cont O5 2 10 60 05 2 10 60 ACGTD
45り乙 D「Dr噌:∴:・’//’tt
● 輪白 1 P P2ahρC
123456
、“’一司■■■■ ・・‘llaiilV””u, 図2-1 プライマーエクステンション法による転写開始点の特定。 特記なき限り0.5pgのトータルRNAから調製したcDNAを使用した。 A hatA転写産物の5’側末端残基の特定。 KT株の対数期 (培養時間4.3時間、 OD600=1)の培養液を、 BHPあるいはH202で所定の時間(分)処理し、 RNA 保護試薬(Bacterial Protect Reagent)を加えた後回収した菌体から抽出したトー タルRNAを用いて実験を行った。 Contは水により処理を行ったコントロール。 A,C, G Tはプライマーエクステンションに用いたビオチン化DNAを用いて調 製した、kOtA遺伝子のシークエンスラダー。 BkatB転写産物の5’側末端残基の特定。 Aと同様に処理した、対数期のKT株 (lane 1)、o」)ryR 1変異株(lane2)、および定常期 (培養時間8.3時間、 OD600~6、 のKT株(lane3)、 oxyR1変異株(lane4)の菌体から抽出したRNAを用いた。 A,C,ぱTはプライマーエクステンションに用いたビオチン化DNAを用いて調 製した、kOtB遺伝子のシークエンスラダー。 C α1!ρC転写産物の5’側末端残基の特定。Aと同様に処理した、 KT株の対数期の 菌体から調製したトータルRNAを用いた。Contは水により処理を行ったコント ロール。Pl,P2は2か所の転写開始点を示す。 A,C,qTはプライマーエクステ ンションに用いたビオチン化DNAを用いて調製した、ψρC遺伝子のシークエ ンスラダー。 DKT株でも2つの転写開始点からα11ρCが転写される。lanel、3、5はKT株(5μ9 のトータルRNAを用いた)、1ane 2、4、6はoxγR 1変異株。 lane 1、2は培養4.3 時間、lane 3、4は6.3時間、 lane 5、6は8.3時間の菌体から調製したRNAを用 いた。(図2-1C)。両遺伝子とも過酸化物による処理開始から30秒以内に転写が誘導され たが、ahpCの転写はPl(-37のC)とP2(-28のA)の2ヶ所から始まること が判明した。処理開始直後は一37からの転写物のみが確認され、過酸化物による処 理時間の増加に伴い、転写量の増加と一28から転写されるmRNAの割合が増加し ていた。 1-3過酸化物分解酵素遺伝子のプロモーター領域の解析 プライマーエクステンション法により解析した転写開始点周辺の塩基配列は、デ ータベースに登録されたR putida KT2440株全塩基配列におけるそれぞれの遺伝子 に対応する領域と完全に一致した。P. putidaにおいてOxyRにより制御される遺伝 子のプロモーターおよびその周辺領域の解析を目的に、3種の過酸化物分解酵素遺 伝子の塩基配列の比較を行った。結果を図2-2に示した。kαtAとahpCでは、転写 開始点から開始コドンまでの距離が約40塩基で、5俳翻訳領域が短いことが明ら かとなった。一方、kOtBは両遺伝子よりも100塩基以上長い5’非翻訳領域をもって いた。kOtAのプロモーター領域における一35および一10配列に相当する部位の 5’TTGTCCおよび5’AATACTという配列は、σD因子を結合したRNAポリメラーゼ (σD-RNAポリメラーゼ) が結合すると考えられる配列と類似していた。また、4 章に記載したrpoS遺伝子を欠損した株においても、転写量は野生株とほぼ同等で あった事から、kOtAの転写は主としてσD-RNAポリメラーゼによって行われること が推察された。また、kOtBの一10領域の配列(5℃TAGTCT)は、σs-RNAポリメラ ーゼの結合領域である5℃TAcacT(大きい文字で示された塩基はσs依存性遺伝子に おいて高く保存されている)と類似していた。また、第4章で述べるように、KatB の酵素活性はrpoS欠損株ではほとんど検出する事ができなかったことから、 KatB はrpos依存性のカタラーゼであることが確認された。転写開始点の上流領域に、 kOtA、 kOtB、 ahpCいずれの遺伝子においても、 E. coliでの解析により提唱されてい るOxyRの結合配列と相同性の高い配列が存在し、16塩基から構成されるその配列
口 =t!.yO↓Pl kata A↑cTATTG↑↑TA了T↑CTATTaATGTAAGTCAT6↑MTGAATTTGTcccTGTMTcTTec↑cGTcAA↑Ac↑cTcTcTAcAGc(xlATTA(31bp)A丁6
LRp・D-1
, -10↓Pl
k∂tB ceTG↓CALGA㏄cA6cΩ18[c《66c↑cCA↓CA6㏄Ac下⊆1△1丁AGAce↑cT6c(x)AAocTcGGcTAGTc↑↑TcTcaTG6(x ccxxxlAA(|73bp)AT6 RpoS・ ↓P1↓P2
∂hρCA6↑↑』1堕㏄AAMcΩA虹cG榔㏄8エGAocTTT(x)_CA』1/LanGccTTcAGcGGGAT(aTTAGTTAau1”rcTATccATcAAcTeAτ(26bp)ATGOxyR結合配列
ATAG-n7-CTAT-n7-ATAG-n7-CTAT 図2-2hatA、 kOtB、 ahpCの転写開始点、プロモーターおよびその上流領域のDNA 配列 転写開始点(P1、 P2)を矢印で示した。右端のArGは各遺伝子の開始コドンを 示し、既知のσ因子の認識するプロモーター領域の一10および一35配列と相同 性のある領域を示した。OxyR結合配列と同一の塩基は赤文字で示している。 配列の上の黒点(・)は、それぞれの遺伝子のPlから35塩基上流の塩基を示す。 と、kOtAでは10、 kOtBおよびahpCでは12の塩基が一致していた。また、結合領 域の3’末端の塩基は、3つの遺伝子すべてにおいて転写開始点から35べ一ス上流 の塩基(-35)と隣接していた。ahpCについては、 P lとP2の2つの塩基から転写 が開始されるが、P1の一35と隣接してoxyR結合配列が存在した。 P 1、 P2どちら についても、既存のσ因子の認識配列と相同性の高い領域は見出すことはできなか った。 2.過酸化物分解酵素遣伝子プロモーター上流域へのOxyRの結合 これまでの研究から、細菌のOxyRは標的遺伝子のプロモーターの上流領域に結 合する事が知られている。RputidaにおけるkOtA、 hatBおよびahpCプロモーター 上流領域へのOxyRの結合を確認するために、ゲルシフトアッセイを行った。結果 を図2-3に示した。OxyRが結合すると考えられる領域を含むhatA.kOtBおよびahpc 各遺伝子の5’上流領域断片では、OxyRの添加量に依存して移動度の減少が見られ、A
(OxyR)41DNA katA 0 0.08 0.4 2 10 50 free→ 、e-・、 鰹 ■鄭 篇薯,・B 旦
十 一 Cont katハ ←bound i塙 1 ~←bound 一b・uj一Y智一b-d
C (o刈魎NA
O50
△kata free→㌧ .katB
free→ , ←b。、,d katB】_←b。、,d△katB一b…df,e,→U-←b…d
free→ 。・滅 ahρC ヒ free→』i幽縫綻・ ←bound ahρC } △ahρC ←bound ←b・und f,ee→⊇〔←b・md free→麟ww 図2-3 ゲルシフトアッセイによるkOtA、 kOtB、ψρCプロモーター領域に対する OxyRの結合性の確認 約106nolのビオチン化断片を含むサンプルを各レーンで分画した。移動度の変 化したもの(bound)としないもの(free)を矢印で表した。 A OxyR結合領域と予想される領域を含むhatA、 kOtB、 ahpcプロモーター領域へ のOxyRの結合。ビオチン化DNAとOxyRの数の比率を最上部に示した。 B DTTで処理した0.2 pmolのOxyRを添加した場合(+)と、0.2 pmolの無処理 のOxyRを添加した場合(一)の比較。 ContはOxyRを含まないもの。 c OxyR結合領域を含まないkOtA、 katB、ψρc断片(実験方法の項を参照)との OxyRの反応性。0はOxyRを含まないもの、50は0.2 pmo1のOxyRを添加した もの。 それぞれの断片にOxyRが結合することが強く示唆された(図2-3A)。また、還元 剤により処理をしたOxyRも、未処理のものと同様に、これら3種の遺伝子のプロ モーター上流領域へ結合することが示された。一方、OxyRの結合領域に相当する 部分を含まない断片には、OxyRの添加による移動度の変化が見られないことから、 OxyRは予想された結合領域に結合することが強く示唆された。第3節 考察 katAおよびhαtB遺伝子の転写開始点が特定され、各mRNAの5r末端に相当する 領域およびその上流領域の比較から、ahρC、 hatA、 katB各遺伝子とも転写開始点か ら35べ一ス上流の塩基と隣接する形で、OxyRが特異的に結合する領域と相同性の ある領域を有していた。このことから、この領域にOxyRが結合し転写制御を行っ ている可能性が高いと考えられた。さらに、ゲルシフトアッセイの結果、ahpC、 hatA、 kOtB各遺伝子ともOxyRの添加によりバンドが上方にシフトし、 OxyRが各遺伝子 のプロモーター上流領域に結合することが強く示唆された。また、oxyR1変異株で 対数期においてもψρCおよびkatAの転写産物が確認されたことから、両遺伝子は OxyRにより転写レベルでの制御を受けていることが明らかとなった。一方katBに ついては、対数期において転写産物が明確には確認されなかったが、KT株、 oxyR 1 変異株ともに定常期初期には転写物が存在し、oxyR 1変異により転写量が増加する ことが判明した。以上のように、導入したoxγR 1変異が3種の過酸化物分解酵素遺 伝子の発現時期や発現量に影響を及ぼすことから、これらの遺伝子は転写レベルに おいてOxyRにより何らかの発現制御を受けてはいるが、各遺伝子の調節機構は同 一でないことが結論づけられた。 oxyR1変異株においては、 KatAとKatBの発現時期が異なるのに対して、 KT株 では2つのカタラーゼは定常期に入ることにより発現が誘導されることを第1章で 示した。これは通常の培養条件では、OxyRが活性化される要因が定常期において 生じることを示唆している。この要因はおそらく過酸化物であり、培養の経過に伴 い細胞内の還元物質の濃度低下により生じると考えられる。KT株では、対数増殖 期の菌体を過酸化物処理することにより、ahpCおよびhatAの転写量が増加し mRNAの存在が確認できた。このことは、対数増殖期の細胞内に、これらの遺伝子 を誘導するのに必要な因子がすでに存在し、(OxyRと同様に活性化される付加的調 節因子の関与を否定することはできないが)過酸化物によるOxyRの活性化が発現
誘導の律速であることを示している。一方、kOtBについては対数増殖期での過酸化 物による誘導は確認できず、また、定常期においても明確には誘導されなかった。 対数増殖期にkOtBの誘導がおきないのは、定常期特異的σ因子であるRpoSが少な いことが考えられる。また定常期において誘導が明らかでないのは、OxyRがすで に活性化されており過酸化物による影響を分別しにくいことが考えられる。 ahpcおよびkatAの発現を指標として、 OxyRの活性化に対するBHPとH202の の影響を比較すると、いずれもBHPによる誘導がより顕著であるように思われる。 このことは、ψρCとkOtAの発現機構はH202よりもBHPに対してより強く応答す ることを示唆している。oxyR1変異によるahpCおよびkatAの顕著な発現量の上昇 から、これらの誘導に関わる主な要因はOxyRの酸化であると考えられる。Claibome ら(1999)によれば、タンパク中のシステイン残基は酸化によりスルフェン酸の状 態を経てS-S結合を形成する。この際に、システインスルフェン酸は還元されてシ ステインに戻りうる。反応の過程でH202が過酸化物の供与体となる場合と、アル キル化酸化物であるBHPが供与体となる場合で、中間体の還元速度が異なること で誘導の差が生じた可能性がある。E. coliのOxyRでは、分子内s-s結合の還元に グルタレドキシンが関与することが知られているが(Zhengら1998)、いずれの過 酸化物により酸化されたOxyRも同じ構造を持つと推測されるので、還元速度にっ いては差があるとは考えにくく、分子内二重結合の形成時における違いを反映して いると思われる。 一連の実験結果から、ahpCにおいては転写開始点が2ヵ所存在することが明確 となった。複数の転写開始点をもつ遺伝子は少なくなく、例えばRputidaのηpoH は3ヶ所から転写が起きることが報告されている(Manzanera・et・al.,2001)。 ahpCに おいてみられる特徴的な現象は、過酸化物による誘導時間が長くなるにっれて、下 流(P2)からの転写物の割合が高くなることである。 ahpCにおいて2種類の転写 産物が生産される理由は現時点では明らかでなく、さらにこれら転写物の生理的な 機能の差にっいても不明である。分子内高次構造の形成により、それぞれの転写産
物で翻訳効率に違いがでることが考えられたため、ahpC mRNAの5’末端領域にお いて分子内二次構造を形成する領域を検索したが、見出すことはできなかった。 ψρC転写は、過酸化物による誘導を受けて速やかに開始されることが、プライマ ーエクステンションにより明らかにされている(図24C)。プロモーター上流領域 に結合したOxyRはE. coliでの解析から4量体を形成するが、 Choiら(2001)によ り報告されているように過酸化物による酸化に伴い構造変化し(図2-4)、RNAポ リメラーゼによる転写の活性化を行うと考えられている。その際、還元状態と酸化 状態では結合する領域が異なる分子が生じる可能性が示唆されている(図2-4)。
A
B
図2-4酸化・還元によるOxyRの構造変化 A 結合領域へのOxyRの結合と酸化による結合位置と分子構造の変化の模式図。 一,OxyRの結合配列。 B 分子内S-S結合の形成に伴う2コのシステイン残基付近の構造変化。 Rputidaでは、図2-2に示されたOxyRの結合領域の上流あるいは下流に付加的 な結合配列は見出せず、Ecoliで得られた知見とは矛盾するものである。 R putida では結合位置のシフトなしに転写の活性化を引き起こすのかもしれない。酸化および還元状態のOxyRがいずれもahpcのプロモーター付近に結合することと、転写 物が速やかに検出されることから、還元状態のOxyRはahpcプロモーターに結合 していることが推測される。また、2つの転写開始点が近接していることから、2 っのOxyR 4量体がahρCのプロモーター上流に同時に結合することは不可能である と考えられる。ahpC遺伝子は各細胞において1コピーのみ存在するため、それぞ れの細胞は一つの転写サイクルでいずれか一つのahpC mRNAを生じると考えられ る。ここで、2つの転写物は以下のように生じた可能性がある。 1)OxyRが酸化状態か還元状態かでRNAポリメラーゼの結合領域が変化する場合 一E.coliの場合のように、 OxyRが下流側のRNAポリメラーゼのαサブユニットと 接触していれば(Tao et aL,1993)、より上流領域に結合した還元状態のOxyRは、 酸化によりRNAポリメラーゼによる転写を活性化するが、転写が開始されRNAポ リメラーゼが移動しないと、より下流域にある酸化状態での結合部位へ移行、ある いは形状を変化させることができない。一度RNAポリメラーゼが転写を始めると、 OxyRの移行あるいは形状変化により新たに結合するRNAポリメラーゼの結合位 置が変化し、OxyRが還元状態の場合の約10べ一ス下流の領域において転写開始複 合体を形成する。酸化状態のOxyRは還元されるまでその位置に留まり、P2からの 転写を促進することになる。変異OxyRはE. coliと同様にグルタレドキシン1によ る還元を受けるものの、より速かに酸化される、もしくはOxyRよりも還元的な環 境で酸化状態になることが推測される。この推論が正しければ、OxyRの結合位置 がmRNAの転写開始点を規定することになる。 2)OxyRの結合領域は変化せず、結合するRNAポリメラーゼホロ酵素に含まれる σ因子の種類が異なるため、2つの転写物が生産される場合一活性化によってOxyR の結合領域あるいは下流側の立体的位置は変化せず、既存のRNAポリメラーゼホ ロ酵素は同じ位置に結合し転写を触媒する。OxyRが活性化されるような酸化的状 態になった場合は、新たな(酸化的状態特異的)σ因子が生産され、還元状態とは 異なる位置から転写がおきる。この場合、RNAポリメラーゼのポロ酵素の立体構
造が、結合するσ因子によって変化し30Aほど下流で開始複合体を形成する必要が ある。 このように、OxyRがahpc、 kOtA、 kOtB各遺伝子のプロモーター上流領域に結合 し、過酸化物による活性化によりRNAポリメラーゼによる転写を促進することで、 それらの遺伝子の発現を制御していることが強く示唆された。OxyRによる過酸化 物分解酵素の発現調節機構をさらに詳しく検討するため、第3章では、リアルタイ ムPCR法による各遺伝子のmRNA転写量の定量化、およびウエスタンブロット法 による各遺伝子のタンパク産物の濃度測定を行った。
第3章 過酸化物分解酵素遺伝子の転写量とタンパク産物の細胞内濃度の測定 緒言 第1章、2章において得られた結果から、KatA、 KatBの2種のカタラーゼの発現 にOxyRが関与しており、kOtA、 kOtBに加え、これまでに既にOxyR依存性である ことがわかっているahpcについても、プロモーター上流領域にOxyR結合領域が 存在しており、OxyRが直接結合して制御を行っていることが明らかとなった。 E. coliにおいては、 OxyRが制御する遺伝子はOxyRレギュロンとして知られ、酸化的 ストレスの緩和に関与する酵素群をコードする遺伝子が多く含まれ、OxyRは被調 節遺伝子の発現を、少なくとも転写レベルで制御することが報告されている(Storz and Zheng,2000)。 P. putidaにおいて、 OxyRによりkOtA、 katBおよびahpCが転写 レベルでの制御を受けているのか、ならびにE. coliでOxyRレギュロンに含まれる 遺伝子のホモログがR putidaに存在した場合、それらが転写レベルの制御を受ける のかを明らかにするために、3種の過酸化物分解酵素遺伝子およびE.coliでOxyR レギュロンに属する遺伝子のホモログの転写量を、リアルタイムPCR法により測 定した。また、転写レベルでの調節に加えて、翻訳時や翻訳後などさまざまな段階 で遺伝子産物の発現調節が行われる可能性があることから、各酸化ストレス除去酵 素遺伝子の転写と、タンパク産物が蓄積する過程での、oxyR 1変異の影響にっいて 検討するために、ウエスタンブロット法を用いてKatA、 KatBおよびAhpCの細胞 内存在量の推定を行った。 第1節 試料および方法 1.使用菌株・培地・培養条件および試薬 第1章に記載したKT株およびKT-oxyR 1株を、第1章記載の培地および培養条 件で培養した。特記なき試薬はシグマあるいは和光純薬の特級品を使用した。