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世界各国の資産格差の要因分析 利用統計を見る

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著者

鈴木 孝弘, 田辺 和俊

雑誌名

現代社会研究

13

ページ

17-24

発行年

2015

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00007879/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

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鈴 木 孝 弘

田 辺 和 俊

 グローバル化の進展とともに,これまで所得の格差が世界的に問題視されてきたが,Piketty は 今後,世界的に富裕層に資産が集中する結果,中産階級が消滅し,格差問題としては所得の格差以 上に富,資産の格差が重大になると警告した。しかし,これまでのところ資産格差の実態とその原 因に関しては不明な点が多い。本稿では世界の主要国の資産格差の推移の分析,および途上国を含 めた175 カ国について資産格差と各種要因との相関分析を行った。その結果,Piketty が導いた「資 産格差は所得格差より常に大きい」という結論を実証することができた。さらに,所得格差や貧困 率,殺人発生率等,幾つかの要因が資産格差と統計的に有意な相関を示すことを見出した。 keywords:資産格差 所得格差 ジニ係数 時系列推移 要因分析 ないことがある。  世界の資産格差という場合,国家間の格差と国 内の格差とがあるが,本稿では各国における国内 での資産格差を取り上げる。また,資産に関して は,総資産,金融資産,非金融資産,実物資産, 固定資産,純資産等の定義があるが,本稿では, 実物資産(土地,住宅,耐久消費財等)と,金融 資産(現金,預貯金,有価証券,保険・年金,ゴ ルフ会員権等)を合算した総資産から負債(借金, ローン,分割払い等)を差し引いた純資産に関す る格差を議論する。  資産格差を表す指標のうち,所得格差の指標と しても最も多く利用されるジニ係数は,中間層の 格差が重視され,貧困層や富裕層の実態を把握し にくいという難点がある。そのため,貧困問題の 場合には低所得層の比率を強調できる貧困率が多 く用いられ,同様に,資産格差の場合は富裕層の 資産保有率を表す指標の方が望ましいとされる。 富裕層の実態を強調できる指標として,Piketty1) は資産の上位 1%あるいは 10%の富裕層が保有す る資産の比率を,また,Murtinら5)は資産分布の 平均値と中央値の比を用いている。しかし,今の ところジニ係数以外には,世界中の多数の国にお ける資産格差を示すデータが見当たらないため, 本稿ではジニ係数を用いて資産格差の分析を行っ た。 目   次 1.はじめに 2.主要国の資産と所得の格差の推移 3.多数国の資産格差の要因分析 4.結論 1 は じ め に  近年,出版された Piketty の著書 1)は経済的格 差に関する世界的なセンセーションを引きおこし た。従来,格差といえば所得の格差に焦点が当た り,所得格差やそれに伴う貧困に関して理論的お よび実証的研究が行われ,格差解決の政策が議論 されてきた。しかし,Piketty は過去 200 年以上 の各国の資産や所得のデータを分析し,今後,世 界的に資産が富裕層に集中する結果,中産階級が 消滅していくと予測した。さらに,格差問題の解 決には所得の格差以上に富,資産の格差が重大で あり,その是正には累進的な富裕税を世界規模で 導入する必要があると警告した。  しかし,所得格差と比較して資産格差に関して はこれまで十分な研究は行われていない。所得格 差と貧困についてはそれぞれ 100 報以上の論文 が発表されているが,資産格差の実態あるいは要 因の解明に関する研究はきわめて少ない 2-4)。そ の理由の 1 つには,資産格差の実態を表すデー タが所得格差や貧困率のデータと比較して十分で

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― 18 ― Piketty の「資産格差は所得格差より常に大きい」 という結論は実証できたといえよう。  一方,Piketty のもう 1 つの結論「資本収益率 と経済成長率の間のギャップが大きくなるほど経 済的格差が社会的に広まり,富の大部分を富裕層 が独占する傾向が高まる」についての実証は困難 である。この結論には多くの経済学者が異論を唱 えており,彼の資本収益率の定義や算出方法が不 明確なことも議論を呼んでいる。伊東 8)は彼の資 本収益率は資産増加率と解釈すべきであり,また, 資産の増加は富裕層で著しいことから,資産増加 率は資産格差と相関があるとしている。  そこで,Piketty の 2 番目の結論については, 世界の各国についてのデータが見当たらない資本 収益率の代わりに,資産格差ジニ係数を用いて主 要 5カ国の経済成長率(図 1)との関係を分析し た結果を表 1 に示す。50 年間に資産格差が最大 の伸びを示している米国では,1961 年から 2013 年の間にジニ係数は 0.803 から 0.871 へと 8.5% も増加したが,平均経済成長率は 2.5%に過ぎず, Pikettyの結論が成立している。一方,日本では ジニ係数は 0.562 から 0.571 へとわずか 1.6%の 増加に過ぎないが,平均経済成長率は 4.6%であ り,彼の結論は成立しない。英,独,仏の 3 国 では資産格差のジニ係数はいずれも減少したが, 平均経済成長率は 2~3%前後であり,やはり彼 の結論は成立していない。  Piketty は「資本収益率は経済成長率を超える 傾向がある」という結論を経験的に引き出すため に, 100 年以上にわたる長期の世界各国の経済 データを分析している。したがって,本稿のよう に最近のわずか 50 年程度のデータだけで彼の結 論を実証することはできないのは当然であり,資 産格差や関連する諸要因のデータ不足が実感され た。 2 主要国の資産と所得の格差の推移  Piketty は世界の富の大部分を富裕層が独占し ている原因について,過去 1 世紀以上における 世界の所得と富の分布の変遷を統計分析し,幾つ かの注目すべき結論を引き出している。本稿では, 日,米,英,独,仏の主要 5 カ国について過去 50 年のデータを用いて検証を試みた。  主要 5 カ国の資産格差のジニ係数と所得差の ジニ係数の推移をプロットしたものを図 1 に示 す。注目すべき点は,米国の資産と所得の格差の 継続的拡大であり,特に富裕層の資産保有率増大 が顕著である 6)。1962 年(ジニ係数 0.803)には 資産額上位 5%の超富裕層が 55%の資産を保有し ていたが,2013 年(ジニ係数 0.871)には 65%へ 急増している。反面,上位 5~20%の富裕層でさ え保有率は 26%から 24%と低下し,それ以下の 中間層と貧困層は19%から 11%へと大きく減少し ている。この超富裕層への資産の集中は所得の保 有率でも同様であり,1962 年(ジニ係数 0.428) の 20%から,2013 年(ジニ係数 0.574)の 36% へ急増している。  一方,他の 4 カ国の資産格差と所得格差の推移 は,米国の場合とは対照的である。日本の資産格 差は 1990 年前後のバブル期を除けば,1960 年代 以降,現在までほぼ停滞状態にある。日本の上位 10%の富裕層の資産保有率は 40%水準であり 7) 米国と比べて大幅に低い。所得格差も 1960 年代 から多少の変動を示した後,2000 年代以降は停 滞状態にある。また,英,独(西ドイツ時代と統 一ドイツ以降),仏の 3 カ国では,資産格差のジ ニ係数が 1960 年代から 1990 年頃にかけて大き く減少しているが,これは欧州各国で導入された 富裕税の効果と考えられる。しかし,新自由主義 が導入され,富裕税が撤廃された 1990 年代以降 は各国とも資産格差は停滞または微増状態にあ る。所得格差のジニ係数は米国や日本に比べると 変化は小さい。  このように,主要 5 カ国では,資産と所得の 格差の推移に大きな違いはあるものの,表 1 に 示すように,最近の 50 年において,資産格差は 所 得 格 差 よ り 大 幅 に 大 き い。 し た が っ て, 3 資産格差 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1960 1970 1980 1990 2000 2010 所得格差 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 1960 1970 1980 1990 2000 2010 成長率 -5 0 5 10 15 1960 1970 1980 1990 2000 2010 図1. 過去 50 年間の主要 5 カ国の資産格差と所得格差のジニ係数,および経済成長率の推移 英国 フランス 日本 米国 英国 ドイツ 米国 日本 フランス ドイツ 日本 フランス 米国 英国 ドイツ

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資産格差 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1960 1970 1980 1990 2000 2010 所得格差 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 1960 1970 1980 1990 2000 2010 成長率 -5 0 5 10 15 1960 1970 1980 1990 2000 2010 図1. 過去 50 年間の主要 5 カ国の資産格差と所得格差のジニ係数,および経済成長率の推移 英国 フランス 日本 米国 英国 ドイツ 米国 日本 フランス ドイツ 日本 フランス 米国 英国 ドイツ

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― 20 ―4 表1. 主要 5 カ国の資産格差と所得格差のジニ係数,および経済成長率の推移 日本 米国 英国 ドイツ フランス 資産格差のジニ係数 60 年代 0.807 0.562 0.810 70 年代 0.536 0.760 0.748 0.810 80 年代 0.816 0.585 0.650 0.685 0.690 90 年代 0.824 0.542 0.645 0.631 0.640 00 年代 0.830 0.564 0.690 0.640 10 年代 0.869 0.650 所得格差のジニ係数 60 年代 0.449 0.361 70 年代 0.334 0.269 0.309 0.320 80 年代 0.501 0.343 0.309 0.328 0.285 90 年代 0.526 0.383 0.344 0.334 0.282 00 年代 0.556 0.397 0.337 0.343 0.285 10 年代 0.574 0.395 0.351 0.299 資産格差の増減率(%) 1.60 8.47 -17.28 -14.44 -19.75 平均経済成長率(%) 4.60 2.48 1.61 2.02 2.67 表2. 資産格差のジニ係数と各種要因との相関係数 分野 要因 相関係数 分野 要因 相関係数 経済 所得格差のジニ係数 0.607** 政治・社会 殺人発生率 0.402** GpC(1 人当たりの GDP) -0.375** 政府安定性 -0.291** 経済成長率 -0.149* 軍事費# -0.253** 貧困率 0.453** 兵士数# -0.197** 失業率 0.254** 自殺率 -0.114 平均賃金 -0.189* 教育・文化 教育費# -0.255** 起業手続時間 0.180* 大学進学率 -0.265** 税収# -0.368** リテラシ -0.196** 所得税(最高) 0.088 就学年数 -0.227** 法人税(最高) 0.211** 知能指数(IQ) -0.377** 株式税(最高) -0.037 インターネット利用率 -0.342** 相続税(最高) -0.073 PC 利用率 -0.198** 産業・資源 工業付加価値# -0.313** 医療 医療費# -0.195* サービス付加価値# -0.225** 医師数# -0.352** 石油生産高# -0.253** 病床数# -0.389** 天然ガス生産高# -0.258** 平均寿命 -0.348 ** 鉄鉱生産高# -0.160* エイズ死亡率 0.386** 農業付加価値# -0.277** 結核死亡率 0.348** 農業従事者率 0.268** 肺炎死亡率 0.289** 農地面積# 0.105 マラリア死亡率 0.190* # 国民1 人当たり,** 危険率 1%有意,* 危険率 5%有意。 0.607** -0.375** -0.149* 0.453** 0.254** -0.189* 0.180* -0.368** 0.088 0.211** -0.037 -0.073 -0.313** -0.225** -0.253** -0.258** -0.160* -0.277** 0.268** 0.105 0.402** -0.291** -0.253** -0.197** -0.114 -0.255** -0.265** -0.196** -0.227** -0.377** -0.342** -0.198** -0.195* -0.352** -0.389** -0.348** 0.386** 0.348** 0.289** 0.190*

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― 21 ― 3 多数国の資産格差の要因分析  次に,世界 175 カ国について資産格差に影響 する要因の分析を行った。この 175 カ国には先 進国から途上国まで多様な経済発展の国が,また 世界中の各地域の国が含まれているため,この要 因分析の結果は一般性の高いものになると期待さ れる。この 175 カ国の資産格差のジニ係数は Davies ら 9)のデータを採用したが,このデータ は 2000 年時点であるため,資産格差の要因分析 には古い。しかし,これ以外には多数国のデータ がないため,この資産格差および各種要因は 2000 年時点のデータを利用せざるを得なかった。 経済,産業・資源,政治・社会,教育・文化,医 療の分野の主な要因と資産格差との相関分析の結 果を表 2 に示す。  3.1 経済分野の要因  各種の要因の中では資産格差のジニ係数と所得 格差のジニ係数の相関が注目される。175 カ国の 2000 年時点における資産格差と所得格差のジニ 係数との相関は図 2 に示すようになり,相関係 数0.607 は検討した要因の中では最も高い。この 175カ国のすべてにおいて資産格差が所得格差よ り大きいことから,Piketty の「資産格差は所得 格差より常に高い」という結論がここでも実証で きた。  貧困率(図 3)と資産格差のジニ係数との相関 係数 0.453 は所得格差ジニ係数に次いで高いが, 失業率の相関係数は 0.254 と低く,各国の平均賃 金との相関係数も-0.189 とさらに低い。しかし, これらの要因の相関係数の符号からは,賃金が低 く,失業率や貧困率が高い国ほど資産格差が大き い傾向があると言える。 4 表1. 主要 5 カ国の資産格差と所得格差のジニ係数,および経済成長率の推移 日本 米国 英国 ドイツ フランス 資産格差のジニ係数 60 年代 0.807 0.562 0.810 70 年代 0.536 0.760 0.748 0.810 80 年代 0.816 0.585 0.650 0.685 0.690 90 年代 0.824 0.542 0.645 0.631 0.640 00 年代 0.830 0.564 0.690 0.640 10 年代 0.869 0.650 所得格差のジニ係数 60 年代 0.449 0.361 70 年代 0.334 0.269 0.309 0.320 80 年代 0.501 0.343 0.309 0.328 0.285 90 年代 0.526 0.383 0.344 0.334 0.282 00 年代 0.556 0.397 0.337 0.343 0.285 10 年代 0.574 0.395 0.351 0.299 資産格差の増減率(%) 1.60 8.47 -17.28 -14.44 -19.75 平均経済成長率(%) 4.60 2.48 1.61 2.02 2.67 表2. 資産格差のジニ係数と各種要因との相関係数 分野 要因 相関係数 分野 要因 相関係数 経済 所得格差のジニ係数 0.607** 政治・社会 殺人発生率 0.402** GpC(1 人当たりの GDP) -0.375** 政府安定性 -0.291** 経済成長率 -0.149* 軍事費# -0.253** 貧困率 0.453** 兵士数# -0.197** 失業率 0.254** 自殺率 -0.114 平均賃金 -0.189* 教育・文化 教育費# -0.255** 起業手続時間 0.180* 大学進学率 -0.265** 税収# -0.368** リテラシ -0.196** 所得税(最高) 0.088 就学年数 -0.227** 法人税(最高) 0.211** 知能指数(IQ) -0.377** 株式税(最高) -0.037 インターネット利用率 -0.342** 相続税(最高) -0.073 PC 利用率 -0.198** 産業・資源 工業付加価値# -0.313** 医療 医療費# -0.195* サービス付加価値# -0.225** 医師数# -0.352** 石油生産高# -0.253** 病床数# -0.389** 天然ガス生産高# -0.258** 平均寿命 -0.348 ** 鉄鉱生産高# -0.160* エイズ死亡率 0.386** 農業付加価値# -0.277** 結核死亡率 0.348** 農業従事者率 0.268** 肺炎死亡率 0.289** 農地面積# 0.105 マラリア死亡率 0.190* # 国民1 人当たり,** 危険率 1%有意,* 危険率 5%有意。 3 多数国の資産格差の要因分析 次に,世界175 カ国について資産格差に影響す る要因の分析を行った。この175 カ国には先進国 から途上国まで多様な経済発展の国が,また世界 中の各地域の国が含まれているため,この要因分 析の結果は一般性の高いものになると期待される。 この175 カ国の資産格差のジニ係数は Davies ら9) のデータを採用したが,このデータは2000 年時点 であるため,資産格差の要因分析には古い。しか し,これ以外には多数国のデータがないため,こ の資産格差および各種要因は 2000 年時点のデー タを利用せざるを得なかった。経済,産業・資源, 政治・社会,教育・文化,医療の分野の主な要因 と資産格差との相関分析の結果を表2 に示す。 3.1 経済分野の要因 各種の要因の中では資産格差のジニ係数と所得 格差のジニ係数の相関が注目される。175 カ国の 2000 年時点における資産格差と所得格差のジニ 係数との相関は図2 に示すようになり,相関係数 0.607 は検討した要因の中では最も高い。この 175 カ国のすべてにおいて資産格差が所得格差より大 きいことから,Piketty の「資産格差は所得格差よ り常に高い」という結論がここでも実証できた。 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0.2 0.4 0.6 所得格差ジニ係数 資産 格差 ジ ニ 係数 図2. 資産格差と所得格差の相関 貧困率(図 3)と資産格差のジニ係数との相関 係数0.453 は所得格差ジニ係数に次いで高いが, 失業率の相関係数は0.254 と低く,各国の平均賃 金との相関係数も-0.189 とさらに低い。しかし, これらの要因の相関係数の符号からは,賃金が低 く,失業率や貧困率が高い国ほど資産格差が大き い傾向があると言える。 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0 30 60 90 貧困率 資産 格差 ジ ニ 係数 図3. 資産格差と貧困率の相関 国民1 人あたりの国内総生産(GpC)と資産格 差のジニ係数との相関係数は図4 のように-0.375 と高くない。GpC が多い国は所得,したがって資 産も多く,その結果,資産格差も大きいと思われ るが,負の相関が見られるのは意外である。 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0 30 60 90 120 GpC 資 産格 差ジ ニ 係数 図4. 資産格差と GpC の相関 経済成長率は上記のように Piketty の著書の中 5 3 多数国の資産格差の要因分析 次に,世界175 カ国について資産格差に影響す る要因の分析を行った。この175 カ国には先進国 から途上国まで多様な経済発展の国が,また世界 中の各地域の国が含まれているため,この要因分 析の結果は一般性の高いものになると期待される。 この175 カ国の資産格差のジニ係数は Davies ら9) のデータを採用したが,このデータは2000 年時点 であるため,資産格差の要因分析には古い。しか し,これ以外には多数国のデータがないため,こ の資産格差および各種要因は 2000 年時点のデー タを利用せざるを得なかった。経済,産業・資源, 政治・社会,教育・文化,医療の分野の主な要因 と資産格差との相関分析の結果を表2 に示す。 3.1 経済分野の要因 各種の要因の中では資産格差のジニ係数と所得 格差のジニ係数の相関が注目される。175 カ国の 2000 年時点における資産格差と所得格差のジニ 係数との相関は図2 に示すようになり,相関係数 0.607 は検討した要因の中では最も高い。この 175 カ国のすべてにおいて資産格差が所得格差より大 きいことから,Piketty の「資産格差は所得格差よ り常に高い」という結論がここでも実証できた。 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0.2 0.4 0.6 所得格差ジニ係数 資産 格差 ジ ニ 係数 図2. 資産格差と所得格差の相関 貧困率(図 3)と資産格差のジニ係数との相関 係数0.453 は所得格差ジニ係数に次いで高いが, 失業率の相関係数は0.254 と低く,各国の平均賃 金との相関係数も-0.189 とさらに低い。しかし, これらの要因の相関係数の符号からは,賃金が低 く,失業率や貧困率が高い国ほど資産格差が大き い傾向があると言える。 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0 30 60 90 貧困率 資産 格差 ジ ニ 係数 図3. 資産格差と貧困率の相関 国民1 人あたりの国内総生産(GpC)と資産格 差のジニ係数との相関係数は図4 のように-0.375 と高くない。GpC が多い国は所得,したがって資 産も多く,その結果,資産格差も大きいと思われ るが,負の相関が見られるのは意外である。 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0 30 60 90 120 GpC 資 産格 差ジ ニ 係数 図4. 資産格差と GpC の相関 経済成長率は上記のように Piketty の著書の中  国民 1 人あたりの国内総生産(GpC)と資産 格差のジニ係数との相関係数は図 4 のように -0.375と高くない。GpC が多い国は所得,したがっ て資産も多く,その結果,資産格差も大きいと思 われるが,負の相関が見られるのは意外である。 5 3 多数国の資産格差の要因分析 次に,世界175 カ国について資産格差に影響す る要因の分析を行った。この175 カ国には先進国 から途上国まで多様な経済発展の国が,また世界 中の各地域の国が含まれているため,この要因分 析の結果は一般性の高いものになると期待される。 この175 カ国の資産格差のジニ係数は Davies ら9) のデータを採用したが,このデータは2000 年時点 であるため,資産格差の要因分析には古い。しか し,これ以外には多数国のデータがないため,こ の資産格差および各種要因は 2000 年時点のデー タを利用せざるを得なかった。経済,産業・資源, 政治・社会,教育・文化,医療の分野の主な要因 と資産格差との相関分析の結果を表2 に示す。 3.1 経済分野の要因 各種の要因の中では資産格差のジニ係数と所得 格差のジニ係数の相関が注目される。175 カ国の 2000 年時点における資産格差と所得格差のジニ 係数との相関は図2 に示すようになり,相関係数 0.607 は検討した要因の中では最も高い。この 175 カ国のすべてにおいて資産格差が所得格差より大 きいことから,Piketty の「資産格差は所得格差よ り常に高い」という結論がここでも実証できた。 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0.2 0.4 0.6 所得格差ジニ係数 資産 格差 ジ ニ 係数 図2. 資産格差と所得格差の相関 貧困率(図 3)と資産格差のジニ係数との相関 係数0.453 は所得格差ジニ係数に次いで高いが, 失業率の相関係数は0.254 と低く,各国の平均賃 金との相関係数も-0.189 とさらに低い。しかし, これらの要因の相関係数の符号からは,賃金が低 く,失業率や貧困率が高い国ほど資産格差が大き い傾向があると言える。 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0 30 60 90 貧困率 資産 格差 ジ ニ 係数 図3. 資産格差と貧困率の相関 国民1 人あたりの国内総生産(GpC)と資産格 差のジニ係数との相関係数は図4 のように-0.375 と高くない。GpC が多い国は所得,したがって資 産も多く,その結果,資産格差も大きいと思われ るが,負の相関が見られるのは意外である。 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0 30 60 90 120 GpC 資 産格 差ジ ニ 係数 図4. 資産格差と GpC の相関 経済成長率は上記のように Piketty の著書の中  経済成長率は上記のように Piketty の著書の中

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― 22 ― で世界の資産格差に関連して重要視されている指 標であり,彼は「長期的には資本収益率は経済成 長率を超える傾向がある」という結論を導出して いる。しかし,本稿のデータでは資産格差との相 関は図 5 のようにきわめて低く(相関係数は -0.149),経済成長と資産格差は無関係であること を示している。  税制は貧富の差を縮めるために世界中のすべて の国で導入されているが,資産格差に対する税対 策の有効性を実証した研究は多くない。特に,資 産は子や孫に引き継がれ,格差が相続によって固 定化,拡大することから,相続税関係の要因は先 行研究で検証されており,資産格差に大きな影響 を与えるとする研究がある 10-12)  しかし,本稿の分析では各種税率と資産格差ジ ニ係数との相関係数は,所得税 0.092,法人税 0.216,相続税-0.071,株式税-0.035 であり,いず れも低い。特に,所得税(図 6)と法人税(図 7) の相関係数が正符号であることは,これらの税率 の高い国ほど資産格差が大きく,税制が有効に機 能 し て い な い こ と を 示 唆 す る。 こ の 結 果 は, Piketty が著書の中で主張している「相続税のよ うな 1 度きりの課税では公平性は保てない」,「資 産から生じる所得への課税では租税回避などが生 じやすく実効性が薄い」ことを実証していると考 えられる。 6 で世界の資産格差に関連して重要視されている指 標であり,彼は「長期的には資本収益率は経済成 長率を超える傾向がある」という結論を導出して いる。しかし,本稿のデータでは資産格差との相 関は図 5 のようにきわめて低く(相関係数は -0.149),経済成長と資産格差は無関係であること を示している。 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 -15 -5 5 15 25 経済成長率 資産 格差 ジ ニ 係数 図5. 資産格差と経済成長率の相関 税制は貧富の差を縮めるために世界中のすべて の国で導入されているが,資産格差に対する税対 策の有効性を実証した研究は多くない。特に,資 産は子や孫に引き継がれ,格差が相続によって固 定化,拡大することから,相続税関係の要因は先 行研究で検証されており,資産格差に大きな影響 を与えるとする研究がある10-12) しかし,本稿の分析では各種税率と資産格差ジ ニ係数との相関係数は,所得税0.092,法人税 0.216, 相続税-0.071,株式税-0.035 であり,いずれも低い。 特に,所得税(図6)と法人税(図 7)の相関係数 が正符号であることは,これらの税率の高い国ほ ど資産格差が大きく,税制が有効に機能していな いことを示唆する。この結果は,Piketty が著書の 中で主張している「相続税のような1 度きりの課 税では公平性は保てない」,「資産から生じる所得 への課税では租税回避などが生じやすく実効性が 薄い」ことを実証していると考えられる。 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0 20 40 60 80 所得税率 資産 格差 ジ ニ 係数 図6. 資産格差と所得税率の相関 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0 20 40 60 法人税率 資産 格差 ジ ニ 係数 図7. 資産格差と法人税率の相関 3.2 産業・資源分野の要因 各種産業における付加価値生産性も資産の増加 をもたらし,その結果,資産の格差が増大する可 能性があるが,産業・資源分野の各種要因と資産 格差ジニ係数との相関はいずれも高くない。工業, サービス,農業の付加価値(図8,相関係数-0.311) や石油,天然ガス,鉄鉱の生産高(相関係数-0.253) の相関係数がいずれも負であることは,これらの 生産性が高い国ほど資産格差が小さいことを示し ている。 6 で世界の資産格差に関連して重要視されている指 標であり,彼は「長期的には資本収益率は経済成 長率を超える傾向がある」という結論を導出して いる。しかし,本稿のデータでは資産格差との相 関は図 5 のようにきわめて低く(相関係数は -0.149),経済成長と資産格差は無関係であること を示している。 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 -15 -5 5 15 25 経済成長率 資産 格差 ジ ニ 係数 図5. 資産格差と経済成長率の相関 税制は貧富の差を縮めるために世界中のすべて の国で導入されているが,資産格差に対する税対 策の有効性を実証した研究は多くない。特に,資 産は子や孫に引き継がれ,格差が相続によって固 定化,拡大することから,相続税関係の要因は先 行研究で検証されており,資産格差に大きな影響 を与えるとする研究がある10-12) しかし,本稿の分析では各種税率と資産格差ジ ニ係数との相関係数は,所得税0.092,法人税 0.216, 相続税-0.071,株式税-0.035 であり,いずれも低い。 特に,所得税(図6)と法人税(図 7)の相関係数 が正符号であることは,これらの税率の高い国ほ ど資産格差が大きく,税制が有効に機能していな いことを示唆する。この結果は,Piketty が著書の 中で主張している「相続税のような1 度きりの課 税では公平性は保てない」,「資産から生じる所得 への課税では租税回避などが生じやすく実効性が 薄い」ことを実証していると考えられる。 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0 20 40 60 80 所得税率 資産 格差 ジ ニ 係数 図6. 資産格差と所得税率の相関 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0 20 40 60 法人税率 資産 格差 ジ ニ 係数 図7. 資産格差と法人税率の相関 3.2 産業・資源分野の要因 各種産業における付加価値生産性も資産の増加 をもたらし,その結果,資産の格差が増大する可 能性があるが,産業・資源分野の各種要因と資産 格差ジニ係数との相関はいずれも高くない。工業, サービス,農業の付加価値(図8,相関係数-0.311) や石油,天然ガス,鉄鉱の生産高(相関係数-0.253) の相関係数がいずれも負であることは,これらの 生産性が高い国ほど資産格差が小さいことを示し ている。 6 で世界の資産格差に関連して重要視されている指 標であり,彼は「長期的には資本収益率は経済成 長率を超える傾向がある」という結論を導出して いる。しかし,本稿のデータでは資産格差との相 関は図 5 のようにきわめて低く(相関係数は -0.149),経済成長と資産格差は無関係であること を示している。 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 -15 -5 5 15 25 経済成長率 資産 格差 ジ ニ 係数 図5. 資産格差と経済成長率の相関 税制は貧富の差を縮めるために世界中のすべて の国で導入されているが,資産格差に対する税対 策の有効性を実証した研究は多くない。特に,資 産は子や孫に引き継がれ,格差が相続によって固 定化,拡大することから,相続税関係の要因は先 行研究で検証されており,資産格差に大きな影響 を与えるとする研究がある10-12) しかし,本稿の分析では各種税率と資産格差ジ ニ係数との相関係数は,所得税0.092,法人税 0.216, 相続税-0.071,株式税-0.035 であり,いずれも低い。 特に,所得税(図6)と法人税(図 7)の相関係数 が正符号であることは,これらの税率の高い国ほ ど資産格差が大きく,税制が有効に機能していな いことを示唆する。この結果は,Piketty が著書の 中で主張している「相続税のような1 度きりの課 税では公平性は保てない」,「資産から生じる所得 への課税では租税回避などが生じやすく実効性が 薄い」ことを実証していると考えられる。 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0 20 40 60 80 所得税率 資産 格差 ジ ニ 係数 図6. 資産格差と所得税率の相関 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0 20 40 60 法人税率 資産 格差 ジ ニ 係数 図7. 資産格差と法人税率の相関 3.2 産業・資源分野の要因 各種産業における付加価値生産性も資産の増加 をもたらし,その結果,資産の格差が増大する可 能性があるが,産業・資源分野の各種要因と資産 格差ジニ係数との相関はいずれも高くない。工業, サービス,農業の付加価値(図8,相関係数-0.311) や石油,天然ガス,鉄鉱の生産高(相関係数-0.253) の相関係数がいずれも負であることは,これらの 生産性が高い国ほど資産格差が小さいことを示し ている。 3.2 産業・資源分野の要因  各種産業における付加価値生産性も資産の増加 をもたらし,その結果,資産の格差が増大する可 能性があるが,産業・資源分野の各種要因と資産 格差ジニ係数との相関はいずれも高くない。工業, サ ー ビ ス, 農 業 の 付 加 価 値( 図 8, 相 関 係 数 -0.311)や石油,天然ガス,鉄鉱の生産高(相関 係数-0.253)の相関係数がいずれも負であること は,これらの生産性が高い国ほど資産格差が小さ いことを示している。

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3.3 政治・社会分野の要因  国の治安や政府の安定性もその国の資産格差に 影響を与える可能性がある。国内の治安の程度を 示す指標として殺人発生率を取り上げると,資産 格差ジニ係数との相関は図 9 のようになり,相 関係数は 0.402 とかなり高い。また,政府の安定 性を示す指数である Functional States Index(第 1 位はスイスの 79.3,最下位は中央アフリカ共和 国の21.1)と資産格差との相関もかなり高い(相 関係数-0.291)。これらの結果から,治安が悪く, 政府が不安定な国ほど資産格差が大きい傾向があ ることがわかる。 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0 20 40 60 80 工業付加価値 資産 格差 ジ ニ 係数 図8. 資産格差と工業付加価値の相関 3.3 政治・社会分野の要因 国の治安や政府の安定性もその国の資産格差に 影響を与える可能性がある。国内の治安の程度を 示す指標として殺人発生率を取り上げると,資産 格差ジニ係数との相関は図9 のようになり,相関 係数は0.402 とかなり高い。また,政府の安定性

を示す指数であるFunctional States Index(第 1 位

はスイスの79.3,最下位は中央アフリカ共和国の 21.1)と資産格差との相関もかなり高い(相関係 数-0.291)。これらの結果から,治安が悪く,政府 が不安定な国ほど資産格差が大きい傾向があるこ とがわかる。 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0 30 60 90 殺人発生率 資産 格差 ジ ニ 係数 図9. 資産格差と殺人発生率の相関 3.4 教育・文化分野の要因 資産格差と教育の関係については,親の経済状 態が子の教育機会に影響し,高い教育が好条件な 就業機会につながり,さらに資産の拡大につなが るといわれている。そのため,資産格差と教育関 係の要因との相関分析を行った先行研究は幾つか ある10-13)が,本稿のように世界の多数の国につい て検証した研究はない。本稿の分析では,知能指 数(IQ)(相関係数-0.377)(図 10)やインターネ ット利用率(相関係数-0.342)等,ここで検討し た教育関連要因がすべて資産格差と負の相関を示 しており,教育投資や先端技術に意欲的な国ほど 資産格差は小さい傾向があることを示している。 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 50 70 90 110 知能指数(IQ) 資産 格差 ジ ニ 係数 図10. 資産格差と知能指数(IQ)の相関 3.5 医療分野の要因 資産格差と医療要因との関係については,低所 得・貧困世帯の多い国ほど医療・福祉費の比率が 高く,したがって資産格差が増大すると考えられ る。しかし,これまでのところ,健康要因と資産 格差との相関を分析した先行研究は少ない9, 14, 15) 本稿の分析では,病床数(相関係数-0.389)(図11) や医師数等の医療投資関係要因は資産格差と負, エイズ死亡率(相関係数0.386)等の疾病関係要因 は正の相関があり,医療投資が多く,疾病が少な い国ほど資産格差が小さい傾向があることを示し ている。 3.4 教育・文化分野の要因  資産格差と教育の関係については,親の経済状 態が子の教育機会に影響し,高い教育が好条件な 就業機会につながり,さらに資産の拡大につなが るといわれている。そのため,資産格差と教育関 係の要因との相関分析を行った先行研究は幾つか ある10-13)が,本稿のように世界の多数の国につい て検証した研究はない。本稿の分析では,知能指 数(IQ)(相関係数-0.377)(図 10)やインターネ ット利用率(相関係数-0.342)等,ここで検討し た教育関連要因がすべて資産格差と負の相関を示 しており,教育投資や先端技術に意欲的な国ほど 資産格差は小さい傾向があることを示している。 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0 20 40 60 80 工業付加価値 資産 格差 ジ ニ 係数 図8. 資産格差と工業付加価値の相関 3.3 政治・社会分野の要因 国の治安や政府の安定性もその国の資産格差に 影響を与える可能性がある。国内の治安の程度を 示す指標として殺人発生率を取り上げると,資産 格差ジニ係数との相関は図9 のようになり,相関 係数は0.402 とかなり高い。また,政府の安定性

を示す指数であるFunctional States Index(第 1 位

はスイスの79.3,最下位は中央アフリカ共和国の 21.1)と資産格差との相関もかなり高い(相関係 数-0.291)。これらの結果から,治安が悪く,政府 が不安定な国ほど資産格差が大きい傾向があるこ とがわかる。 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0 30 60 90 殺人発生率 資産 格差 ジ ニ 係数 図9. 資産格差と殺人発生率の相関 3.4 教育・文化分野の要因 資産格差と教育の関係については,親の経済状 態が子の教育機会に影響し,高い教育が好条件な 就業機会につながり,さらに資産の拡大につなが るといわれている。そのため,資産格差と教育関 係の要因との相関分析を行った先行研究は幾つか ある10-13)が,本稿のように世界の多数の国につい て検証した研究はない。本稿の分析では,知能指 数(IQ)(相関係数-0.377)(図 10)やインターネ ット利用率(相関係数-0.342)等,ここで検討し た教育関連要因がすべて資産格差と負の相関を示 しており,教育投資や先端技術に意欲的な国ほど 資産格差は小さい傾向があることを示している。 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 50 70 90 110 知能指数(IQ) 資産 格差 ジ ニ 係数 図10. 資産格差と知能指数(IQ)の相関 3.5 医療分野の要因 資産格差と医療要因との関係については,低所 得・貧困世帯の多い国ほど医療・福祉費の比率が 高く,したがって資産格差が増大すると考えられ る。しかし,これまでのところ,健康要因と資産 格差との相関を分析した先行研究は少ない9, 14, 15) 本稿の分析では,病床数(相関係数-0.389)(図11) や医師数等の医療投資関係要因は資産格差と負, エイズ死亡率(相関係数0.386)等の疾病関係要因 は正の相関があり,医療投資が多く,疾病が少な い国ほど資産格差が小さい傾向があることを示し ている。 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0 20 40 60 80 工業付加価値 資産 格差 ジ ニ 係数 図8. 資産格差と工業付加価値の相関 3.3 政治・社会分野の要因 国の治安や政府の安定性もその国の資産格差に 影響を与える可能性がある。国内の治安の程度を 示す指標として殺人発生率を取り上げると,資産 格差ジニ係数との相関は図9 のようになり,相関 係数は0.402 とかなり高い。また,政府の安定性

を示す指数であるFunctional States Index(第 1 位

はスイスの79.3,最下位は中央アフリカ共和国の 21.1)と資産格差との相関もかなり高い(相関係 数-0.291)。これらの結果から,治安が悪く,政府 が不安定な国ほど資産格差が大きい傾向があるこ とがわかる。 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0 30 60 90 殺人発生率 資産 格差 ジ ニ 係数 図9. 資産格差と殺人発生率の相関 3.4 教育・文化分野の要因 資産格差と教育の関係については,親の経済状 態が子の教育機会に影響し,高い教育が好条件な 就業機会につながり,さらに資産の拡大につなが るといわれている。そのため,資産格差と教育関 係の要因との相関分析を行った先行研究は幾つか ある10-13)が,本稿のように世界の多数の国につい て検証した研究はない。本稿の分析では,知能指 数(IQ)(相関係数-0.377)(図 10)やインターネ ット利用率(相関係数-0.342)等,ここで検討し た教育関連要因がすべて資産格差と負の相関を示 しており,教育投資や先端技術に意欲的な国ほど 資産格差は小さい傾向があることを示している。 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 50 70 90 110 知能指数(IQ) 資産 格差 ジ ニ 係数 図10. 資産格差と知能指数(IQ)の相関 3.5 医療分野の要因 資産格差と医療要因との関係については,低所 得・貧困世帯の多い国ほど医療・福祉費の比率が 高く,したがって資産格差が増大すると考えられ る。しかし,これまでのところ,健康要因と資産 格差との相関を分析した先行研究は少ない9, 14, 15) 本稿の分析では,病床数(相関係数-0.389)(図11) や医師数等の医療投資関係要因は資産格差と負, エイズ死亡率(相関係数0.386)等の疾病関係要因 は正の相関があり,医療投資が多く,疾病が少な い国ほど資産格差が小さい傾向があることを示し ている。 3.5 医療分野の要因  資産格差と医療要因との関係については,低所 得・貧困世帯の多い国ほど医療・福祉費の比率が 高く,したがって資産格差が増大すると考えられ る。しかし,これまでのところ,健康要因と資産 格差との相関を分析した先行研究は少ない 9, 14, 15)。本稿の分析では,病床数(相関係数-0.389)(図 11)や医師数等の医療投資関係要因は資産格差と 負,エイズ死亡率(相関係数 0.386)等の疾病関 係要因は正の相関があり,医療投資が多く,疾病 が少ない国ほど資産格差が小さい傾向があること を示している。

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― 24 ― 引用文献

1) Piketty, T. “Le Capital au XXIe siècle,” Seuil (2013); Piketty, T. “Capital in the Twenty-first Century,” Belknap Press (2014); トマ ピケティ(著)・山形浩生(訳)・守岡桜 (訳)・森本正史(訳)『21 世紀の資本』みすず書房 (2014).

2) Davies, J. B. and Shorrocks, A. B. “The Distribution of Wealth,” Atkinson, A. B. and Bourguignon, F. (ed.), “Handbook of Income Distribution, Edition 1,” Vol. 1, Chapter 11, pp. 605-675 (2000).

3) Cagetti, M. and De Nardi, M. “Wealth Inequality: Data and Models,” FRB of Chicago Working Paper No.

   2005-10 (2005), doi.org/10.2139/ssrn.838325. 4) Piketty, T. and Zucman, G. “Capital is Back:

Wealth-In-come Ratios in Rich Countries 1700-2010,”

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5) Murtin, F. and d’Ercole, M. M. “Household wealth in-equality across OECD countries: new OECD evi-dence,” OECD Statistics Brief, June <http://www. oecd.org/std/household-wealth-inequality-across-OECD-countries-OECDSB21.pdf>.

6) Wolff, E. N. “Household Wealth Trends in the United States, 1962-2013: What Happened over the Great Recession?” NBER Working Paper No. 20733, pp. 1-71 (2014).

7) 小池拓自『家計資産の現状とその格差』レファレンス (682) 67-84 (2007).

8) 伊東光晴『話題のピケティを読む 誤読・誤謬・エトセ トラ』世界 (866) 62-73 (2015).

9) Davies, J. D., Sandstrom, S., Shorrocks, A. B. and Wolff, E. N. “The Level and Distribution of Global House-hold Wealth,” NBER Working Paper, No. 15508, pp. 1-62 (2009).

10) Frick, J. R. and Grabka, M. M. “Zur Entwicklung der Vermogensungleichheit in Deutschland,” Berliner

Journal für Soziologie, Vol. 19, pp. 577-600 (2009).

11) Leitner, S. “Drivers of Wealth Inequality in Euro Area Countries,” Working Paper-Reihe der AK Wien, No. 137, pp. 1-33 (2015).

12) Lewin-Epstein, N. and Semyonov, M. “Immigration and Wealth Inequality in Old Age: The Case of Is-rael,” Research in Social Stratification and Mobility,

available online February 2013, doi.org/10.1016/ j.rssm. 2013.02.001 (2013).

13) Almas, I. and Mogstad, M. “Older or Wealthier? The Impact of Age Adjustment on Wealth Inequality,”

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24-54 (2012).

14) Nowatzki, N. R. “Wealth Inequality and Health: A Po-litical Economy Perspective,” International Journal of

Health Services, Vol. 42, No. 3, pp. 403-424 (2012).

15) Suk, J. R., Manissero, D., Büscher, G. and Semenza, J. C., “Wealth Inequality and Tuberculosis Elimina-tion in Europe,” Emerging Infectious Diseases, Vol. 15, No. 11, pp. 1812-1814 (2009). 4 結 論  本稿では,世界の多数の国について資産格差お よ び 所 得 格 差 の ジ ニ 係 数 の デ ー タ を 用 い て, Piketty が提出した結論の検証を行った。「資産 格差は所得格差より常に大きい」という結論は実 証できたが,「資産格差は経済成長率より常に大 きい」という結論については実証できなかった。  また,資産格差のジニ係数と各種の要因との相 関を分析した結果,統計的に有意な幾つかの要因 を明らかにすることができた。この結果を基に, 資産格差に対する多数の要因の相対的な影響度を 明らかにするために,多変量解析の手法によって 決定要因の探索を行いたいと考えている。 8 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0 5 10 15 病床数 資産 格差 ジ ニ 係数 図11. 資産格差と病床数の相関 4 結 論 本稿では,世界の多数の国について資産格差お よび所得格差のジニ係数のデータを用いて, Piketty が提出した結論の検証を行った。「資産格 差は所得格差より常に大きい」という結論は実証 できたが,「資産格差は経済成長率より常に大き い」という結論については実証できなかった。 また,資産格差のジニ係数と各種の要因との相 関を分析した結果,統計的に有意な幾つかの要因 を明らかにすることができた。この結果を基に, 資産格差に対する多数の要因の相対的な影響度を 明らかにするために,多変量解析の手法によって 決定要因の探索を行いたいと考えている。 引用文献

1) Piketty, T. “Le Capital au XXIe siècle,” Seuil (2013); Piketty, T. “Capital in the Twenty-first Century,” Belknap Press (2014); トマ ピケティ(著)・山形浩 生(訳)・守岡桜(訳)・森本正史(訳)『21 世紀 の資本』みすず書房(2014).

2)Davies, J. B. and Shorrocks, A. B. “The Distribution of Wealth,” Atkinson, A. B. and Bourguignon, F. (ed.), “Handbook of Income Distribution, Edition 1,” Vol. 1, Chapter 11, pp. 605-675 (2000).

3) Cagetti, M. and De Nardi, M. “Wealth Inequality: Data and Models,” FRB of Chicago Working Paper No.

2005-10 (2005), doi.org/10.2139/ssrn.838325.

4) Piketty, T. and Zucman, G. “Capital is Back: Wealth-Income Ratios in Rich Countries 1700-2010,”

Quarterly Journal of Economics, Vol. 129, No. 3, pp.

1155-1210 (2014).

5) Murtin, F. and d’Ercole, M. M. “Household wealth inequality across OECD countries: new OECD evidence,” OECD Statistics Brief, June <http://www. oecd.org/std/household-wealth-inequality-across-OEC D-countries-OECDSB21.pdf>.

6) Wolff, E. N. “Household Wealth Trends in the United States, 1962-2013: What Happened over the Great Recession?” NBER Working Paper No. 20733, pp. 1-71 (2014).

7) 小池拓自『家計資産の現状とその格差』レファ レンス (682) 67-84 (2007).

8) 伊東光晴『話題のピケティを読む 誤読・誤謬・ エトセトラ』世界 (866) 62-73 (2015).

9) Davies, J. D., Sandstrom, S., Shorrocks, A. B. and Wolff, E. N. “The Level and Distribution of Global Household Wealth,” NBER Working Paper, No. 15508, pp. 1-62 (2009).

10) Frick, J. R. and Grabka, M. M. “Zur Entwicklung der Vermogensungleichheit in Deutschland,” Berliner

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11) Leitner, S. “Drivers of Wealth Inequality in Euro Area Countries,” Working Paper-Reihe der AK Wien, No. 137, pp. 1-33 (2015).

12) Lewin-Epstein, N. and Semyonov, M. “Immigration and Wealth Inequality in Old Age: The Case of Israel,”

Research in Social Stratification and Mobility,

available online February 2013, doi.org/10.1016/j.rssm. 2013.02.001 (2013).

13) Almas, I. and Mogstad, M. “Older or Wealthier? The Impact of Age Adjustment on Wealth Inequality,”

Scandinavian Journal of Economics, Vol. 114, No. 1,

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14) Nowatzki, N. R. “Wealth Inequality and Health: A Political Economy Perspective,” International Journal

of Health Services, Vol. 42, No. 3, pp. 403-424 (2012).

15) Suk, J. R., Manissero, D., Büscher, G. and Semenza, J. C., “Wealth Inequality and Tuberculosis Elimination in Europe,” Emerging Infectious Diseases, Vol. 15, No. 11, pp. 1812-1814 (2009).

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