水発生リスクの背景には,異常気象としての豪雨,急速 な開発を含む都市化,そして開発状況や経済活動などに 伴う地盤沈下などが考えられる。 世界でも最も規模の大きい都市圏を有する東京が分布 する関東平野においては,過去に大規模な洪水が発生し 甚大な被害が生じた。特に,1947年のカスリーン台風通 1.はじめに 近年の気候変動や異常気象現象の多発に伴い主に沖積 層で構成された低湿な平野において洪水発生のリスクが 高じており,実際にその発生と被害が多く認められる。 このリスクと対策は現在の緊急の課題である。これら洪
丸山 栄一
*・中山 裕則
**Although the large-scale flood occurred in the past in Kanto Plain, concern of a deluge disaster is newly arising with climate change. Moreover, ground subsidence has occurred in the alluvial lowlands of this region. Since it is supposed that ground subsidence has large influence on the flood damage area, it is necessary to investigate the actual condition in detail.
In this study, annual ground subsidence amount image data and its accumulation ground subsidence were firstly cre-ated in eastern Saitama and eastern Metropolitan Tokyo of Kanto Plain through conversion to the digital data of ground subsidence isogram map based on the existing leveling results and its integration processing. Then, the change situation of the ground subsidence during about 55 to 70 years was investigated by using these image data. Furthermore, based on comparison of the ground subsidence detection result of the DInSAR analysis and annual ground subsidence amount image data for about ten years, discussion of the characteristic of both results and the effectiveness of application of the DInSAR method to long-term ground subsidence investigation were described. The results of this study were summa-rized as follows;
(1) The accumulation ground subsidence for about 55 years was remarkable in northeastern Saitama, southern Saitama and eastern Metropolitan Tokyo, and the total subsidence volume was calculated as 2759.1km3
.
(2) Although change of annual ground subsidence volume was the remarkable in the period from 1951 to 1974 and the maximum annual ground subsidence volume was indicated to 459 km3
especially in 1971, the ground subsidence decreased significantly by groundwater pumping regulation after 1975.
(3) Although both the ground subsidence isostere isogram map and the DInSAR analysis result showed slight ground subsidence in the 2000s, the DInSAR analysis result indicated the more detailed ground subsidence situation. (4) The comparison of each annual ground subsidence based on leveling results and DInSAR analysis showed the almost
same situation. However, since the DInSAR analysis result showed comparatively detailed ground subsidence distri-bution and its volume, the possibility of highly precise continuous ground subsidence monitoring by applying DIn-SAR analysis was suggested.
Keywords: DInSAR, ground subsidence, Kanto Plain ,GIS , Leveling survey
水準測量成果に干渉
SARデータを併用した
関東平野の長期地盤変動モニタリングの可能性
Possibility of Long-term Ground Deformation Monitoring in the Kanto Plain
by Precise Leveling Results with Interferometric SAR Data
Eiichi MARUYAMA
*and Yasunori NAKAYAMA
** (Accepted November 30, 2017)* Graduate School of Integrated Basic Sciences, Nihon University: 3-25-40 Sakurajosui Setagaya-ku, Tokyo, 156-8850 Japan
** Department of Earth and Environmental Sciences, College of Humanities and Sciences, Nihon University : 3-25-40 Sakurajosui Setagaya-ku, Tokyo, 156-8850 Japan
* 日本大学大学院総合基礎科学研究科地球情報数理科学専攻: 〒156-8550 東京都世田谷区桜上水3-25-40
** 日本大学文理学部地球科学科:
過による大洪水は,荒川や利根川などの堤防の決壊によ り埼玉県や東京都の東部をはじめ群馬や茨城も含む広域 において多くの宅地での浸水を伴う甚大な被害をもたら し,その被害は死者52名,被災者48万人,氾濫面積 440 km2とされる (中央防災会議,2010)。 このように地盤沈下が問題とされる埼玉県や東京都な どでは,自治体が定期的に水準測量を実施し,毎年の沈 下量を公表してきている (東京都,2016)。しかし,一部 の地域を除き,多年にわたる沈下量を積算した結果の公 表例は極めて少なく,数十年といった長期間におけるそ の推移を直接詳しく把握することが難しい。 本論では,関東平野の特に埼玉県から東京都に至る古 利根川や元荒川の流域を含む平野部を主な対象地域と し,自治体が公表している過去の水準測量結果を統合・ 編集した地盤沈下等量線図などを主に用いて,過去50~ 60年のやや長期間の地盤沈下の推移を調査した。また, 1990年代以降,地盤変動検出に有効性を発揮してきた 人工衛星観測の合成開口レーダ (SAR: Synthetic Aper-ture Radar) データの干渉処理に基づく地盤変動状況の 解析結果を,地盤沈下等量線図に基づく成果と比較し て,長期の地盤変動調査に干渉SARを適用する有効性 についても議論した。 2. 研究の概要 2.1 研究の背景 関東平野ではこれまで大規模な洪水が度々発生してき ており,その度に甚大な被害が発生してきた歴史があ る。中でも,1947年に発生したカスリーン台風による洪 水は,荒川や利根川などの堤防が決壊し,埼玉県や東京 都の東部の広い範囲で家屋が浸水するなど甚大な被害を もたらした。近年でも平成27年 9月関東・東北豪雨に よる鬼怒川の洪水などが発生している。 この関東平野では,1960年代より地盤がそれまでの標 高より低くなる地盤沈下が起きており,例えば,埼玉県 越谷市では最大1.8m程の地盤沈下が認められた (国土 交通省,2015)。このような地盤沈下は,自治体が実施 している水準測量により,毎年その沈下量が算出されて いるが,一部の地域を除き,多年における累積された沈 下量が算出された例はなく,経年的なその概況を把握す ることが難しい。また,近年,地盤沈下は終息に向かっ ているとされる (中嶋ほか,2010) が,実際には未だに 一部地域で僅かながら地盤沈下が観測されている (環境 省,2016)。この地盤沈下が観測されてきた地域は,過 去の海水準変動の際に浅海で形成された海成層による軟 弱な地盤であり (須貝ほか,2013),これらの層から地下 水を汲み上げることで地盤が沈下している可能性が考え られる。 また,上述の年単位の微細な沈下を広域的かつ面的に 計測する新たな手法として,人工衛星に搭載されたSAR により観測された画像間の位相差を利用して地表の変動 量を算出することができる差分干渉SAR (DInSAR: Dif-ferential Interferometric SAR) による解析結果の適用が 検討されている。この手法による大都市などが分布する 沖積低地での地盤沈下を分析した例としては,JERS-1 データにより関東平野北部において3 年間に 8cm程度 の 地 盤 沈 下 を 検 出 し た 例 ( 中 川 ほ か,1999),ALOS/ PALSARデータによりインドネシアのジャカルタで主に 都市開発による1 年間に12cm程度の地盤沈下を検出し た例 (Hasanuddinほか,2011),タイのバンコクにおけ る地盤沈下を時系列に解析を行って,地下水の汲み上げ による3cm/年程度の地盤沈下を把握した例 (Anuphao ほか,2012),さらに青森県津軽平野において複数の SARデータによるDInSAR解析で1992年から2015年ま での23年間で最大90cmの沈下を明らかにした例 (宮下 ほか,2017)などがある。 一方,既存の地盤沈下等量線図は,路線沿いの水準測 量値を基に,ある領域の面的な地盤沈下量を内挿し作成 していると考えられる。また,この地盤沈下等量線図と DInSAR解析結果を組み合わせて,長期的な地盤変動を まとめた事例も少ない。このような背景により,地盤沈 下等量線図とDInSARによる変動抽出結果を統合して長 期間の地盤変動を面的に詳しく把握する方法は,今後の 洪水被害域への影響分析に対し有用であると考えた。 2.2 研究の目的 本研究の目的は,これまで地盤沈下が問題となってき た埼玉県東部から東京都東部に広がる沖積低地を中心 に,過去約55~70年程度のやや長期間の地盤変動の推 移を明らかにするために,まず地域ごとに年単位で紙媒 体等として公開されている地盤沈下等量線図をデジタル データ化した各年の地盤沈下量を表す画像データ (以後 「年地盤沈下量画像データ」 と呼ぶ) を作成し,さらに, これら各年のデータをすべて統合・積算して求めた累積 の地盤沈下データ (以後「累積地盤沈下量画像データ」 と呼ぶ) を作成する。次に,最近約10年間において, DInSARデータの地盤変動抽出結果と年地盤沈下量画像 データを比較し,両者の特徴を検討して,両者の統合に よる面的かつ詳細な地盤変動調査の可能性について論じ ることを目的とした。
域の関東平野 (3.2節で後述) における地盤沈下の過去約 55~70年間の経年的な変化を明らかにするため,既存 の地盤沈下等量線図を主に用いて調査を行った。この地 盤沈下等量線図は,それぞれの地域ごとにわかれて年ご とに公表されているため,それらを統合・編集して集成 データとする必要があり,多くの処理が伴う。本研究で は,まず既存の地盤沈下等量線図をデジタル化し,それ らの集成画像データを作成した。次に,地盤変動の推移 を把握するために,デジタル化した地盤沈下量画像デー タの沈下域面積と沈下量の情報から対象期間の沈下総体 積を算出し,地盤沈下の経年的な推移を分析した。さら に,地盤沈下量画像データとDInSARによる地盤沈下体 積を比較して両者の特徴を調べ,両データを統合した調 査の可能性について検討した。 3.2 研究対象地域 本研究における解析対象領域は,図3 に示すように栃 木県南部と茨城県西部から埼玉県東部と東京都東部およ び千葉県北西部を含む関東平野中央部で,東西50 km× 南北80 kmの範囲である。また,合わせて地盤沈下等量 線図とDInSAR解析結果の比較範囲も示した。 本地域でこれまで明らかにされた地盤沈下概況として は,1940年代より地盤がそれまでの標高より低下する 地盤沈下が起きており,例えば,埼玉県越谷市では最大 1.8m程の地盤沈下が認められた (国土交通省,2015)。 さらに,「海抜ゼロメートル地帯」として知られる東京 都東部を中心とした地域は,戦前より著しい地盤沈下が 始まり,戦時中一時的に沈下現象は停止したものの,戦 後の復興と共に再度沈下が始まった。特に,昭和30年 代の,高度経済成長期には,戦前を凌ぐほどの著しい地 盤沈下が生じた。これらの地域では工業や農業における 2.3 長期の広域地盤変動モニタリング手法 数十年というやや長期における広域の地盤変動の調査 には,地上での水準測量成果から作成された地盤沈下等 量線図を人工衛星観測のSARデータの解析成果に組み 合わせることで高精度化が期待できる。その理由は,広 域 を 高 頻 度 で 観 測 で き る 人 工 衛 星 のSARデータは, 1990年代に入り一般的に利用されるようになったが, その取得データには未観測期間があるため,この観測開 始期間以前や未観測期間を補完するには地盤沈下等量線 図の利用が不可欠となる。一方でこの地盤沈下等量線図 はほとんどが紙媒体等で公開されており,数値的な解析 に使用するためには,それをデジタルデータへ変換を行 う必要がある。この手法の概念は図1 の通りである。 3.研究の方法 3.1 研究全体の流れ 本研究全体の流れは,図2 に示す通りである。対象地 図1 水準測量成果と干渉SARデータによる長期 地盤変動モニタリング手法の概念図 図2 本研究の流れの概要 図3 LANDSAT画像上に示した解析対象領域(赤枠内)及び 地盤沈下等量線図とDInSAR解析結果の比較範囲(青枠内)
載されているCバンド合成開口レーダ (C-SAR) による 2014年から 2016年までの観測データ (表 3) である。 SARデータの選定は,地盤沈下等量線図と比較を行う必 要があるため,観測日間隔が可能な限り1 年に近くなる ように選定した。 3.4 年地盤沈下量および累積地盤沈下量の画像 データ作成 水準測量成果に基づく地盤沈下の等量線図は,行政機 関が独自に行っている水準測量の成果から地図上に沈下 の等量線を表し作成した図葉である。これらのデータは 紙媒体で公開されているものが多く,本研究で扱うため にはデジタルデータに変換する必要があった。変換作業 としては,図4 に示すように,まず,各図葉をスキャ ナーで画像データとして読み取り,その画像の歪みを低 減する幾何補正処理を行った。この後,GISソフトウェ ア (ArcGIS) で等量線のトレース処理を行い,各沈下量 に対応する等量線で示された領域を区分し,配色が可能 なshpファイルとした。その後,数値解析のため沈下量 をDN値化し,過去約55~70年間の年毎の地盤沈下量 画像データとした。 本研究で対象とした地域は地盤沈下が著しいため,沈 下量が毎年測定されており,東京都では沈下が初めて認 められた1918年より観測されていた。しかし,本研究 ではデータが入手できた1951年以降の地盤沈下を対象 とした。また埼玉県では同じく沈下が初めて認められた 1961年より測量を行っている。さらに,関東地区地盤沈 水の利用として,水道水より安価に利用できる地下水の 過剰な汲み上げにより地盤沈下が生じたとされる (守 田,2015)。 3.3 使用データ 本研究に用いた2 種類のデータのうち,まず地盤沈下 等量線図としては,東京都や埼玉県がそれぞれ実施して いる水準測量の成果を基に作成された地盤沈下等量線図 (埼玉県,2017) および関東地区地盤沈下調査測量協議会 により調査された関東地域累積地盤沈下量図 (関東地区地 盤沈下調査測量協議会,2000,2012) を使用した (表 1)。 また,DInSARの処理のためのSARデータとしては,陸 域 観 測 衛 星ALOS (Advanced Land Observing Satellite) に搭載されたPALSAR (Phased Array type L-band Syn-thetic Aperture Radar) による2006年から2010年までの Lバンド観測データ (表 2) と,ヨーロッパ宇宙機関が 2014年から運用を始めた地球観測衛星 Sentinel-1Aに搭 表1 使用した地盤沈下等量線図および 累積地盤沈下量図の一覧 図名称 期間 縮尺 作成機関 地盤沈下地域 の経年変化図 昭和36年~ 平成28年 1/10万 埼玉県 地盤沈下 等量線図 昭和24年~ 昭和53年 1/10万 東京都 関東地域累積 地盤沈下量図 昭和53年~ 昭和63年 1/20万 関東地区地 盤沈下調査 測量協議会 関東地域累積 地盤沈下量図 昭和63年~ 平成10年 1/20万 〃 関東地域累積 地盤沈下量図 平成10年~ 平成20年 1/20万 〃 表2 使用したALOS/PALSARデータの一覧 マスタデータ (年/月/日) スレーブデータ(年/月/日) 基線長(m) 経過日数(日) 1 2006/6/12 2007/1/28 1618.47 230 2 2007/1/28 2008/1/31 1627.49 368 3 2008/1/31 2009/5/5 2347.57 460 4 2009/5/5 2009/12/21 1126.714 230 5 2009/12/21 2010/12/24 2333.204 368 ※軌道はすべてDescending Mode (下降モード) 表3 使用したSentinel-1A/C-SARデータの一覧 マスタデータ (年/月/日) スレーブデータ(年/月/日) 基線長(m) 経過日数(日) 1 2014/12/7 2015/12/14 1618.47 230 2 2015/12/14 2016/12/8 1627.49 368 ※軌道はすべてDescending Mode (下降モード) 図4 地盤沈下等量線図のGISデータ化による 年地盤沈下量画像データ作成の流れ
画像データを加算し,埼玉県東部から東京都東部を含む 56~68年間の累積地盤沈下量画像データを作成した。 この累積沈下体積算出の概念は図8 で,式①のように沈 下地域を構成する各画素面積⊿Aにその画素の沈下量H を乗算し,沈下域でn画素分を加算して総累積地盤沈下 体積Dを求めた。 D=n×⊿A×H ・・・・・・・・・・・・・・① 下調査測量協議会 (事務局は国土地理院) による近年の 10年毎の沈下量を積算した関東地域累積地盤沈下量図 (日本地図センター,2000,2012) は配布されているが, 地盤沈下が認められて以降約50年間の全累積による総 沈下量データは整備されていない。 本研究では,対象地域で地盤沈下が認められた1947 年以降2016年までの累積沈下量算出のため,水準測量 成果に基づく各年の地盤沈下等量線図を統合・積算処理 を行うことで,対象地域内の約55~70年間の累積沈下 量分布データを作成した。 東京都の地盤沈下等量線図は紙媒体として東京都土木 技術支援人材育成センターに保存されており,この図葉 をここより入手した。東京都より入手した図葉の一例を 図5 に示す。また,関東地域累積地盤沈下量図 (昭和63 年1月~平成10年 1月) (関東地区地盤沈下調査測量協 議会,2000) と,この等量線をトレース処理して編集さ れた関東地域累積地盤沈下量図 (昭和63年 1月~平成10 年1月) を図 6 に,これらから作成された累積地盤沈下 量分布図の例を図7 に示す。 最後に,1947年から2016年までの各年の地盤沈下量 図5 東京都土木技術支援人材育成センターに保管されて いた地盤沈下等量線原図 (昭和24年~昭和26年) 図6 関東地域累積地盤沈下量図 (自昭和63年1月至平成10 年1月) (関東地区地盤沈下調査測量協議会,2000) 図7 GISソフトにてトレース処理・編集された 関東地域累積地盤沈下量分布図の例 (昭和63年1月~平成10年1月) 図8 沈下域の累積地盤沈下体積の算出概念
3.5 DInSAR 解析による地盤変動 人工衛星搭載SARは,衛星から照射されたマイクロ波 が,地表の対象物などにより散乱され,センサで受信さ れたマイクロ波強度やセンサと地表間の距離の情報であ る位相情報を同時に観測する。DInSAR解析とは,地上 の同地域を2 回以上観測したSARデータの位相差 (位相 のずれ) を求めて,位相情報の差分より地表面の高度や 変位を抽出するものである。この解析により観測期間に 生じた地盤の変動を面的に計測することができる。 ここで,観測SAR画像の 1 シーン目をマスター画像, 2 シーン目をスレーブ画像と呼ぶが,これらの間の地表 変動を検出するDInSAR解析では,地表変位の検出精度 に影響を及ぼす幾つかの成分 (因子) がある。その最も 影響の大きい成分として,衛星の軌道が必ずしも一致し ていないために生じる軌道縞と地形縞があげられる。軌 道縞は,地表に地形がない状態を仮定した標高0mにお いて示される軌道の違いに基づく幾何学的な模様である が,衛星データの持つ軌道情報を用いることで除去する ことができる。また,地形縞は地形の標高に対応して表 される等高線のような模様であるが,既存のDEMの標 高値を用いて変動のない状態の地形縞を推定し,これの 差分により除去することが可能である。これらのことか ら,より高精度で変動検出を行うためには,マスター画 像とスレーブ画像の観測時の衛星位置の違いの軌道間距 離である基線長を短くすることが重要であり,このほか として,大気中の水蒸気量でマイクロ波の伝搬速度が遅 くなる位相遅延の誤差を極力少なくする必要もある。す なわち,データ選定時に,水蒸気の多い時期や,降雨な どの気象条件の観測データを極力選定しないことも必要 となり,本研究においてもこれらの条件をできる限り考 慮した。 4.地盤変動の解析結果 4.1 長期の累積地盤沈下状況 東京都では1947年から2016年までの 29図葉分,埼玉 県では1961年から2016年までの33図葉分及び1983年か ら2008年までの関東地域累積地盤沈下量図 3 図葉分の 地盤沈下等量線図をそれぞれGISソフトウェアでポリゴ ンデータ化し,それぞれの期間で沈下量の積算処理を 行った。埼玉県と東京都では保存されていた図葉の違い により,それぞれ56年間と 60年間の情報であったが, 東京都では2008年以降ほとんど沈下が観測されていな い (東京都,2017) ことから,この期間は沈下がないも のとして両者を統合・編集し,関東平野中央部の累積地 盤沈下量画像データとした。それらを図9 ~11に示し, 図9 1961年から2016年の埼玉県における 累積地盤沈下量 図10 1947年から2016年の東京都における 累積地盤沈下量 図11 統合編集した埼玉県から東京都へかけての 累積地盤沈下量
栗橋付近,埼玉県南部の所沢市並木付近,東京都東部の 足立区から江東区に至る地域が明瞭に示された。求めら れた埼玉県東部と東京都東部における約55年間の累積 地盤沈下体積は2759.1 km3となった。 著しい沈下地域うち埼玉県北東部に関して,図13に 縄文時代の海進と地盤総沈下量の関係を示すが,この地 域一帯は過去に何度も海進を受けた細い谷埋め状の地形 による沖積低地であり,極めて軟弱な泥層を主体とする 有楽町層が厚く堆積している (遠藤,2015)。すなわち極 めて軟弱な泥層が厚く堆積していたことから地下水の汲 み上げに伴い,沖積層が圧密され地盤が沈下したことが 確かめられた。 4.2 年地盤沈下量の推移 既存の地盤沈下等量線図から作成した年地盤沈下量画 像データにより各年の累積地盤沈下体積を求めたが,そ の東京都と埼玉県それぞれの変化を図14に,両都県を 合わせた年沈下体積の変化を図15に示す。累積地盤沈 下体積の算出概念は,3.4節の図 8 の通りである。 年単位の沈下体積の推移の特徴は,東京都が1960年代 から1970年代前半にかけて,埼玉県が 1960年代後半か ら1970年代にかけてそれぞれ著しかったことが分かる。 それぞれの沈下量を示すカラーチャートを図12に表す。 図11によれば,少なくとも約 55年間で沈下が著しく 約120 cmを超えた地域として,埼玉県北東部の久喜市 図12 図9~11の沈下量表示のカラーチャート 図13 縄文海進と総沈下量の関係 図14 埼玉県と東京都の年地盤沈下体積の推移 図15 埼玉県から東京都へ至る地域の地盤沈下体積の推移
が示されたが,これは2011年東北地方太平洋沖地震の 影響によるもので,図17の地盤沈下等量線画像のよう に,埼玉県の加須市北平野付近を中心に最大10 cmの地 盤沈下が観測された (環境省,2012)。 4.3 DInSAR による関東中央部の最近の地盤沈下 ALOS/PALSARデータによる2006年から2010年まで のDInSAR解析による面的な地盤沈下調査を試みた。解析 を行ったのは表2 に示す 5 ペアであり,このうちペア 1 (2006年 6月12日~2007年 1月28日) とペア 2 (2007年 1月28日-2008年 1月31日) の期間で,埼玉県加須市の 利根川右岸に微小ながら沈下が検出された。その変動図 画像を図18と図19にそれぞれ示す。また,これらの沈 下量とカラーチャートの関係は図21の通りである。 図18では230日で最大1.9 cm (加須市上樋遣川付近) の沈下パターンが示された。また,図19では368日間で 最大2.9 cm (加須市新川通付近) の沈下パターンが示さ れ た。 さ ら に, 表2 の2006年 (6月12日) から2010年 (12月24日) までのデータによる解析結果を積算したも のを図20に示すが,これにおいても利根川右岸に沈下 が示された。 尚,図14,15の2011年に見られる図17のような2011 特に東京都で1955年,埼玉県で 1975年にそれぞれ沈下 が最も急速に進行したことが示された。両都県を合わせ た年単位の沈下体積は,1950年代から1970年代前半に かけて大きく,特に1970年代前半が最も大きかった。 しかし,1975年より両都県とも沈下体積が著しく少な くなった。特に東京都は1974年の最大 103 km3に対し, 約13分の 1 の 8km3と僅かになった。埼玉県も前年の約 3 分の 1 以下になり,以後減少傾向が明らかである。こ の理由については,1956年の工業用水法や公害対策基本 法の制定を受けて地下水の汲み上げが規制され,図16 のように1973年頃から地下水位が上昇に転じた (東京 都,2017) ためで,図 14,15の①や②地点のように地下 水汲み上げに起因した地盤沈下が急速に沈静化したと考 えられる。 また,埼玉県で2011年に一時的に年約 64 km3の沈下 図16 主な観測井の地下水位変動図 (江東区,墨田区,江戸川区) (東京都,2017) 図17 2011年の埼玉県北東部の地盤沈下等量線図 図18 ALOS/PALSARによる2006年6月12日-2007年 1月28日 (230日間) のDInSAR解析結果 図19 ALOS/PALSARによる2007年1月28日-2008年 1月31日 (368日間) のDInSAR解析結果
年東北地方太平洋沖地震による一時的な地盤沈下につい ては,2011年 5月に運用を停止したALOSが観測末期で 異なる観測条件によりデータが取得されることが多かっ たため,良好な観測ペアが取得されず,十分な干渉結果 が得られなかった。 5.地盤等量線図とDInSAR 解析結果の比較 水準測量成果に基づく既存の地盤沈下等量線図の地盤 沈下とDInSAR解析による地盤沈下の特徴の比較を行っ た。両者の年単位の結果が得られる2006年から 2010年 まで (5 年間) と,2015年から2016年まで (2 年間) の 年地盤沈下量画像データの体積と,DInSAR解析による 年地盤沈下体積の値を表4 に,両分布画像を図22に示 図20 ALOS/PALSARによる2006年6月12日-2010年 12月24日 (積算) の積算結果 図21 DInSAR解析の沈下量を表すカラーチャート 表4 近年10年間における地盤沈下等量線図および DInSARを基に算出した沈下体積 年 沈下等量線図を基に算出した沈下体積( km3) DInSAR 解析を基に算出した沈下体積(km3) 2006 0.05 4.8 2007 2.90 4.54 2008 0.19 0.76 2009 0.03 8.92 2010 10.80 0.24 2011 64.18 - 2012 0.12 - 2013 0.00 - 2014 0.05 - 2015 0.00 0.11 2016 1.31 1.1 図22 地盤沈下等量線図とDInSAR解析に基づく 年地盤沈下画像の比較 ②DInSAR解析画像 ① 地盤沈下等量線図
6.結論 本研究では,埼玉県から東京都に至る平野部を主な対 象地域とし,既存の地盤沈下等量線図などにより,過去 約65年間の地盤沈下の推移を分析し,2006年以降につ いて,DInSAR処理に基づく地盤変動解析結果と比較し て,長期の地盤変動調査に干渉SARを適用する可能性 について論じた。本研究の結論をまとめると以下の通り である。 (1)水準測量成果に基づく地盤沈下等量線図などから求 められた累積地盤沈下が約55年間で著しかったのは, 埼玉県北東部・久喜市栗橋付近,埼玉県南部・所沢市 並木付近,東京都東部・足立区から江東区に至る地域 で,これらの地域の総累積地盤沈下体積は2759.1 km3 と算出された。 (2)1951年から2016年までの年地盤沈下体積の推移で は,1974年までが顕著で,特に東京都では1955年が 最大で,その年沈下体積は317 km3,埼玉県では1974 年が最大で,同じく332 km3であった。また関東平野 全域では,1971年が最大となり年沈下体積は 459 km3 であった。 (3)1975年は沈下体積が前年に対し約 4分の1以上減少 し,この年以降,年約100 km3の割合で減少していっ た。これは,地下水くみ上げ規制によるものと考えら れた。 (4)2000年代は地盤沈下等量線図などや DInSAR解析成 果によっても地盤沈下は僅かであったが,DInSAR解 析結果により埼玉県や東京都の一部地域においてより 詳しい地盤沈下が検出された。 (5)水準測量に基づく年地盤沈下量とDInSAR解析に基 づく年地盤沈下量の比較では,2009年を除き同様な地 盤沈下が示されたが,DInSARにおいてより詳細に地 盤沈下分布および沈下量が示されていた。このことか ら,DInSAR解析の適用によるさらに高精度化した継 続的な地盤沈下モニタリングの可能性が期待された。 謝辞 本 研 究 に 使 用 し たJERS-1/SAR,ALOS/PALSARお よ び ALOS2/PALSAR2データは宇宙航空研究開発機構と日本大学 文理学部との共同研究である研究プロジェクトの一環として 提供されたものであり,謝意を表する。また,本稿をまとめ るにあたり一般財団法人リモート ・ センシング技術センター の冨山信弘博士にはSARデータ解析結果のまとめに対して ご助言をいただいた。ここに記して深甚なる謝意を表します。 なお,本研究では文部科学省学術研究助成金(基盤研究 (C) 課題番号 26350406「合成開口レーダデータを適用したア ジアの自然災害発生状況の分析手法の検討」),および平成29 年度日本大学文理学部付置研究所所員個人研究費の一部を使 用した。 す。これらの水準測量成果に基づく年地盤沈下量 (①) とDInSAR解析による年地盤沈下量 (②) の特徴は,以 下のとおりである。 (a)全体的に類似した地域に沈下域が示されたが,①に 比べ②の方がより細かな沈下パターンが示されてい る。これは①が1cm単位の変動で路線沿いの水準測 量成果から内挿され結果であるのに対し,②はSAR データにより50m空間解像度の出力面情報として示 されていることによると考えられる。 (b) 図23に は2007年 のSARに よ る 年 地 盤 沈 下 量 を 0.5 cmステップでカラー表示されているが,この年の ①の沈下分布に比べ詳細に示されていることが分か る。特に,DInSARでは,局所的に 2cm程度の沈下が 複数地点確認できる。 (c)2009年では①に比べ②において広域に顕著な地盤 沈下 (表 4 で8.92 km3) が示された。また,翌年2010 年では逆に①で広域の10.8㎦の地盤沈下が示された。 使用したPALSARデータの 2009年5月5日の観測時の 天気は曇り (気象庁,2017) であり,水蒸気の影響の 可能性も考えられるが,詳細は今後の課題である。 以上のように,水準測量に基づく年地盤沈下量画像 データとDInSAR解析に基づく年地盤沈下量画像データ の比較では,2009年を除く両者で同じ地域に地盤沈下 が確認でき,後者がより詳細に地盤沈下の分布と量が把 握できた。このことは,DInSAR解析成果を取り入れた 継続的な地盤沈下モニタリングにおいて,より高精度化 への期待が考えられた。 図23 2007年のDInSAR解析に基づく 年地盤沈下画像の詳細表示
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