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保育者の枠組みに関する一考察

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Academic year: 2021

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(1)

保育者の枠組みに関する一考察

―M子の午睡を例に―

金澤妙子

An Observation Regarding the Frame of Teacher's Thought 

‑From M's Nap‑

Taeko Kanazawa

[1]はじめに

 ある保育者集団と付き合う中で私は,午睡時にM子

が寝ないとい.うことに保育老がほとほと困り果て様々

にかかわりながら次第にそのことを問題視しなくなっ ていく過程を体験した。M子の午睡をめぐる保育者の

かかわりを通して,保育者の中にどんな枠組みがあり,

何が見えているのか・見えていないのか,そのことが どういうかかわりを生んでいるのかを探るのが本稿の

目的である。

[II]保育所の状況とそこへの私のかかわりについて

〈平成7年度の保育所の状況〉

 在所児41名(5歳児11名,4歳児17名,3歳児13名

〈2歳児2名,1歳児1名を含む〉各1クラスの編成)

 職員数7名(所長1名,副所長ユ名,保母3名,調 理員1名,用務員1名)

〈私のかかわり〉

 平成4年度,それまでかかわっていた保育所で研究 を共にしていたS所長の異動が発端になって始まり,

保育実践への自然な形での参加・観察,反省会等の会 議・話し合い等への参加を継続してきた。平成5年度 は,公開保育の当番が回ってきて私が講師としてかか わった。平成7年度は所長の異動があったが,かかわ

りに大きな変化はない。敢えて言うならぽ,特に求め られない限り,会議には加わらないようにしているこ

とがあるくらいである。長期休暇中はほとんど毎日,

それ以外では月平均2−−4日程通い,終日を過ごして いる。子ども達は,私のことをあまり働かない保育者

と思っているようである。

[皿]方 法

 この保育所における私自身の保育体験,保育中に 取ったメモや保育終了後に取った思い出し記録,保育 者がM子について自覚的に記したもの,会議での話し 合い,保育中や終了後に保育老と気軽に話し合う中で

得たもの等を省察的に考察する。

[IV]M子の午睡の様子と保育者のかかわり

(1) 1。2歳児の頃

 保育者が多動と捉える程よく動き,寝かせるために 負ぶおうとすると仰け反って嫌がり探索に走り回る。

M子が好きな車やバイクに乗せて近くをゆっくり一

回りしたり,絵本がとても好きなので寝つくまで個室 で要求に応えて仰向けで読んでやったりお話テープを かけて寝かせていたが,寝ない子(担当者弁)だと捉 えていた。他の困った行為についてはM子にとoての 意味を見い出して心から可愛いと思う存在・面白い存

在として捉えら航るようにM子観を変容させていて

幼児教育学科

一41一

(2)

県立新潟,女子短期大学研究紀要 第34集 1997

も睾,午睡に関しては,生活・睡眠のリズムが崩れると

      ニtitJ

篇って決rk oた時問に腹かせることに拘っていた。こ

ういう保育者の思いとかかわりにM子は体力的にか

なわなかったり馴されたりして結果的に寝かせられて

いた。

(2)  3歳当巳春

 「すみれ(3趨児クラス)の一番お姉さんになるん だよ」と1ユわれて進級したせいか,4月当初はこれま でとうって愛わった良い子ぶりであった。午睡時も寝 はしなかったもののクラスの皆としばらくごろりと

なっていた。その時自分流に絵本を読むのだが,「他の

人が陛られないからもう少し小さい声で読んでね」と 言う保育者の要求を汲む姿も見られた。すぐに元の声 に戻ってしまうのだが,保育渚はこの年齢なりのクラ

スの一員としての慧識のτ塘芽を認め,徐・々に長く居ら

れるようになることを願ってこのひと時を意味あるも のと考えていた。加えて,昨年のクラスメイトの内M 子以外は皆4購児クラスになったこと,入所時から一 朗一でかかわってきた担当者が新しく入所した2歳児 に手をとられていたこと,また担当者自身もうM子は 仲尚への興味もあり一対一醤応は必要ないと考え以前 のように寝つくまでかかわらないこと等から,寝ない で4歳児や5歳児(特に必要な子や散歩等で疲れた時 以外は午睡たし)と遊んでいることを仕方ないと捉え

ていた。

       こtib

 ただ,午睡への拘りを捨てたわけではなく,5 一一・10 分もするとパ〜っと飛び出して行ってしまうM子の

背に「M子ちゃん駄目なんだよ一」と言葉をかけてい た。迎える子ども達の方も「M子ちゃんは,まだすみ れだからあっち」という声も聞かれるものの,担任の 橋渡しや担当者の「M子ちゃんのことお願いね一」と いう声がけ等,クラスの仕切りを越えた保育者同士の 気拷ちの交流もあってM子を受け入れていた。

③ 3歳露夏

 磐くなりこれまで午睡をしなかった4歳児や5歳児 も午睡をするようになり,M子の寝ない状態が目立つ ようになったこともあるのではないかと思うが,保育 者がM子が寝ないことを問題視するようになった。し

ばらく収まっていた,保育中に勝手にどこかに飛び出 て行・ってしまう行動が春頃からまた始まoていて,見 ていないわけにはいかないものの,休憩等で見る人の いない時潤なので午睡に参加してもらわないと困る事 情もあoた。1歳児が途中入駈し,担当者はますます

M子どころではなくなっていた。最初だけでも皆と一

緒にごろりとしている姿もなくなったというM子側

の変化もその要因だろう。また,午睡時に走り回るM

子の足音は他児に迷惑だと感したことやM子のクラ

スで「どうしてM子ちゃんぽっかり寝ないの?」「私 も寝たくない」という声が聞かれるようになり,他の 子に悪い影響を与えると思ったこともあるだろう。

 保育者は,なんとか少しでも寝かせようとしM子は 泣き喚いてからだごと抵抗する。拒否しながらも目を

とろんとさせ足元もふらつかせているM子の姿に,保 育者は寝かせてやることが必要だと言っていた。この ような保育者のかかわりを見ていてのことか,午睡の 部屋から出て行くM子を,泣き喚こうがなんであろう

が怒鳴って引ぎずり戻して来る5歳児の姿も見られ

た。

㈲ 3歳児夏〜秋

 M子のからだごとの抵抗に保育者の方がお手あげ

だったり寝ない子が何人か出てくることによって午睡

を要求することが難しくなって,M子と2〜3人が寝

ないことを認めざるを得なくなった。そのような中,

思い返していくと午睡時だけはM子もクラスの他の

子どもと一緒に遊んでいる姿に気づかされた。

 子ども達の中からは「M子ちゃん悪い子」とか「M

子駄目1」(大人の口調そっくりに)という声があがり 仲間外れにされることが多くなったからか,M子が自 分のクラスに居着かないことを以前から気にしていた 担任は,M子への制止の多かったこれまでのかかわり

を反省しそのような言動を控えていこう とする と共

に,午睡時の遊びを通してM子がクラスに受け入れら れる機会になればと考え,彼らが午睡をしないことを 積極的な意味で認めるようになった。午睡時に楽しく

過ごした後,親しそうにM子が話しかけH子も応じ

ている姿や,どうしても眠くならない子や早く目が覚 めた子も加わっていい雰囲気の時がある一方で,他の 時には「M子ちゃんは駄目1」の声も相変わらず聞か

れた。

 M子の体力も増し,簡単には誤魔化されない知力や 勘も培われ,寝かせようという保育者との問で寝かさ れまいとする。そのような姿に,「もしかしたらM子

には午睡が必要ないのかもしれなし・ね」rでも寝てもら

わないと困る!」等と気持ちの揺らぎを保育者間で話 題にしながらも、M子が帰りの会で担当者に抱かれて 紙芝居や絵本を見ていて眠ってしまうと,保育瑠側も この時間にこのやり方で寝か・Lようとし,もう少しで

一42一

(3)

保育者の枠組みに闘する一考察

寝入りそうな時には話の結末を引っ張る等の連携プ レーも自然に生まれた。

 このようなことが続く中,寝かせられると思うのか M子も抱かれて見るのを拒むようになった。次第に保 育者も諦めるが,いのこり時に所用に同行させた車の 中で寝てしまうと,今度は多少の期待をして連れて行 くようにもなった。車中眠ったM子をそっと抱き降ろ そうとした際目覚めると,M子は不覚にも寝てしまっ たことに気づいてか,がっかり肩を落としていて「勉 強するつもりが眠ってしまoたことに気づいた受験生 みたいだ」とその仕草を真似て笑い合った。そのうち どういうわけか誘っても車に乗らないことも出てき た。このようなM子の姿に「よっぽど嫌なんだろうねJ

とか「他の子も本当はM子と同じ気持ちなのかもしれ ない」等という保育者の声も聞かれた。

⑤ 3歳児秋〜冬

 追いつ逃れつしながら,いつの間にか保育者はM子 をなんとかして寝かせようとはしなくなった。夏が過

ぎ,また4・5歳児が午睡をしなくなったことや,M

子も成長し飛び出て行く心配がなくなうたこともある だろう。午睡への流れは示しつつ,M子を初め寝たく ない子が別室で遊んでいられることは普通のことに

なった。

 こういう状況が保証されるからか,またM子も午睡 前の紙芝居や絵本の時間には参加し数秒から数分は布       なめし団に入るようになった。実際寝た例はなくても一緒に

寝たい子やM子と寝たい子も出てきており,仲間意

識・クラスへの帰属意識も育っていることもあるだろ

う。11か月}こ亙る担任との保育所生活の中で互いの関

係も密接になっていることもあるだろう。ジグザグを 経ながらからだを張って勝ち取った感はあるものの,

今午睡時を自分にとって過ごしやすいものにしてくれ ている担任への信頼感もこの年齢なりにあるのかもし

れない。

 保育者側の寝かせようという意識が薄れていくと

M子も身構えなくなるのか,年末から年明けにかけて は帰りの会で紙芝居を見ていて帰り支度のままドサッ

と潰れて眠ることも2度程あり笑いを誘った。正月あ けには,午前中の遊びの時痒いという背中を掻いて やっていて眠そうだと見取った担任が,午睡時添い寝 して背中を撫でてやっていると眠った。3歳児になっ て初めてのことである。起きて来たM子にA保母(昨 年度担任)が「寝て起きたん?」と声をかけ,M子が 頷くと「どうりでいい顔してると思った。お昼寝する

とお肌がつるつるしていいお顔になるんだよ」と言う と照れていた。A保母が,またからかい気味に「Mちゃ ん,どうして今日はそんなに可愛いの?」と聞くと,

M子は「だってお昼寝ちたもん」と言い,「そっか一,

どうりで一」と言うA保母とからだごとじゃれ合って 嬉しそうだった。担任も迎えに来た母親にM子を交え

て今日の、、ビッグニューズ を話し,母親と共に喜ん でM子を認める言葉をかけていたo

 それから2〜3日眠りまた寝なくなったので,担任

は意識しすぎかなと思い直したと言うが,1月宋に自

分の方から担任を誘い眠ってから1週間一一 10日ずっと

眠った。眠り方も途中で目を覚ましてまた眠るという ふうだったのがぐっすり2時間程眠るようになった。

その後,3歳以上児は午睡をしないようになり,当然 M子の午睡が話題になることもなくなった。

[V]保育者の枠組みと見えたもの見えなかったもの

① 午睡が大切だという思い

 保育者養成校や講習会や本等で学んだ知識,あるい は保育者として経験を積んでくる過程での実感として この年齢の子どもには午睡が必要であるという枠組み があり続ける。それが,午睡を嫌がるM子を寝ない子 だと捉え,なんとか寝かせる手段を講じさせる。その

中でM子の午睡に対する構えが醸成される土壌も作

られ,やがて成長してくると保育者の寝かせたい思い

に応じてM子の中にもそれを逃れる構えがいたち ごっこのように生じている。

 だが,この枠組みがあるから眠そうな状況の捉えが でき,寝付くことができるようにかかわるし,寝たこ

とを喜んで認めるかかわりを生み,互いの関係のあり ようを変えていく。その中でM子も自分を調整して寝 るために保育者を誘うこともするようになる。だが一 方で,M子自身の生活リズムの中で本当にこの時間に 寝ることが必要なのかどうかは見えない。

②個々の状態に添うことが大切だという思い

 近年の保育動向を背景にしてか,この枠組みがある からM子なりの午睡への参加を認めよ一うとするし,い

たちごっこのようだとはいえM子の眠くなる時間や

状態や方法に気づくとそれに合わせていこうとする。

M子は自分の頑張りによって過ごしやすい状況を手

に入れたが,寝たくないよ・寝なくていいよというM 子の思いが理解されたわけではないし、午睡が大切な

んだという保育者側の思いも執拗にあり続ける。

一43−一

(4)

県立新潟女子短期大学研究紀要 第34集 ユ997

だが,1儲のずれがぶつかり合うのではなく,ずれ を抱えながら根負けした形でもM子に添おうとして,

もしかしたらM子には午睡が必要ないのかもしれな

いと粋組みが擶らぐ瞬間もあるのはこの粋組みのため である。逆に,この粋級みが理念としてあるために,

M子の思いに本当には気づきにくかったり,M子への かかわりがクラス集団や保育所全体の中でどういう意

味をもつのかが見えにくいこともある。

かを押さえていかないと,すぐに情緒的な反省にすり 替わってしまい,枠組みの検討はできにくい。

引用文献

* 金澤妙子「子ども観の変容をもたらすもの」『金城

学院大学論集』通巻161号 p.53−78 1995年

参考文献

③ 保育所生活は集団生活だという思い

 個が大切だという思いと同時に秩序への拘りもあ り、集団生活の大まかな流れが守られている範囲内で は個も認めていられるが,それが脅かされそうになる と集団生活の秩序を乱されることへの不安が寝かせた

い思い・1!]分勝手は良くないという思いを強化させ,

M子の眠そうな様子を捉えてまた午睡の必要性を保 育者に確信させていく。

 このような保育者の思いやかかわりは周りの子ども のモデルになり,様々な枠組みを培っていく。午睡が 大切だと思っているのに,寝なくても共にいることの 中に仲間意識の芽生えに繋がるものを見,積極的な意 味を見い出すことができるのもこのような背景があっ てのことである。一方,集団生活そのものの問い返し

はない。個の思いも見えにくい。

㈲ からだ優位の健康観

 心とからだが健康で初めて真に健康なのだというこ とばよく分かっているつもりで,その実,健康をから だだけで捉えている。だから,睡眠を欲しているから だはキャッチできるが眠くてもますます頑張ってしま

うM子の思いへの気づきはない。

・金澤妙子「保育者の枠組み(午睡)に闘する一考察」

 『日本保:育学会第49回大会研究論文集』p.274−275 工996年

・金澤妙子「M子の午睡に関する一考察」『保育学研 究]第34巻第1号p.20−28 日本保育学会 1996年

・前原寛「保育園における午前休息の試み」r日本保育 学会第43回大会研究論文集』p.120−−1211990年

・前原寛「気になる子を捉える視点 一子どもを取り 巻く状況を中心として一」『日本保育学会鯉7回大会

研究論文集』p.514・−515 1994年

・小川博久「保育研究の在り方をめぐって 一関係論

的批判一」『保育の実践と研究jVol.1Ne.1p.

29−38 スペース新社保育研究室 1996年

・大場幸夫・梅田優子「保育者が気になるこどもを捉

 える視点としての関係性について」『日本保育学会第

44回大会研究論文i集』p.234−235 199ユ年

・大場幸夫・梅田優子「保育者が気になる子どもを捉  える視点としての開係性について②」『日本保育学会

第45回大会研究論文集』p.756−7571992年

・大場幸夫・梅田優子「保育者が気になる子どもを捉

 える視点としての関係性について(3〕」『日本保育学会

第47回大会研究論文集』p. 86−87 1994年

[VI]おわりに

 健廠な生活を伝えることが大切だという保育者の思 いが様々な枠組みによって成り立っていること,それ らの粋組みや枠組み同土の絡み合いが状況や関係が変 わる中で変容していることを見てきた。何を見ようと してどういうものが見えているのかはその時々におい て違う。状況や関係の中で自分に見えているものを自 覚化し,それが何であり,どんなかかわりを生んでい るのか,そのために見えなくなっているものは何なの

付 記

・本研究は,1995年度金城学院大学・金城学院大学 父母会特別研究助成費の一部を受けている(1996

年3月31日まで筆者所属)。

・本研究は,日本保育学会第49回大会(1996年5月

18日 於聖徳大学:・聖徳大学短期大学部)での口

頭発表に修正・加筆したものである。

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