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中学校社会科における地理巡検の有り方と工夫・改 善 : 北海道遺産「札幌軟石」の教材活用を通じて

著者 菊地 達夫

雑誌名 北翔大学北方圏学術情報センター年報

巻 11

ページ 103‑107

発行年 2019

URL http://id.nii.ac.jp/1136/00003122/

(2)

中学校社会科における地理巡検の有り方と工夫・改善

Ⅰ.は じ め に

現在,教育業界では,新学習指導要領の移行期間に入 り,授業・教材開発の模索が続いている。新学習指導要 領の改訂の基本方針として,①育成を目指す資質・育成 の明確化,②主体的・対話的で深い学びの実現に向けた 授業改善の推進,③カリキュラム・マネジメントの推進 を挙げている。①では,全ての教科等の目標・内容にお いて,「知識及び技能」,「思考力,判断力,表現力等」,

「学ぶに向かう力,人間性等」といった3つの柱を示し た。②では,深い学びの鍵として,各教科の見方・考え 方を重視している。結果,幼稚園等,小学校,中学校,

高等学校の系統化をより強化する枠組みとなった。

中学校社会科の場合,小学校社会科及び高等学校地理 歴史科・公民科の改訂の内容を視野に入れつつ,授業開 発・実践を進める必要性がある。小学科社会科では,教 科用図書地図(地図帳)が,第3学年からの配付へ前倒 しとなる。また,中学校社会科への接続強化として,

「地理的環境と人々の生活」,「歴史と人々の生活」,「現 代社会の仕組みや働きと人々の生活」といった中軸とな

る枠組みを示し,学習内容を整理した。高等学校では,

地理総合(標準2単位),歴史総合(標準2単位),公共

(標準2単位)といった新科目が必履修科目として配置 となる。

今回,地域調査に関わる内容構成の見直しとして,以 下のように改めた。生徒の生活舞台を主要な対象地域と した観察や野外調査,文献調査等の実施方法を学ぶ「地 域調査の手法」と地域の将来像を構想する「地域の在り 方」の2つの中項目に再構成した。その理由として,学 習のねらいを技能の習得,地域課題の解決に分けること で学習理解の深化へつながるものと考えた。

地域調査を含む地理巡検に関する先行研究をみれば,

課題解決を目指し,教育現場の実態に対応する授業開発 研究の成果が報告されている。例えば,松岡他(2012)

では,地理教育におけるワンポイント巡検を開発し,そ の成果・意義を強調した。具体的には,中学校・高等学 校を見据え,1時間で実現できる学校周辺地を巡る内容 を示した。時間的な課題を解決する一助として注目に値 する。他方,1時間を超えるような地理巡検の実践には 対応できない。これまで,土日祝日を活用する地理巡検 の実践はあるものの,教育現場の実態を考えると実施に 北方圏学術情報センター年報 Vol.11

研究報告

中学校社会科における地理巡検の有り方と工夫・改善

-北海道遺産「札幌軟石」の教材活用を通じて-

菊地 達夫

北翔大学短期大学部こども学科 抄 録

本稿は,中学校社会科地理的分野のうち,身近な地域調査を含む地理巡検の学習活動に着目 して,具体的な事例を通じ,どのような授業展開が可能か明らかにしようとするものである。

加え,教育現場における多様な制約を見据え,それらの解決を目指す時間的・構造的手立ても 示そうとするものである。

まず,地理巡検に関係する学習指導要領の内容(地域調査)を確認した。次に,歴史的分野 担当の社会科教員と理科教員(地学分野)の協力・支援による統合の構築を提案した。実施時 間の確保は,それら担当教員の授業を束ね,一定の時間を生み出した。関連教員の協力を得た ことで,引率教員の確保に加え,他分野・内容の指導支援・協力を得ることにもつながる。

続いて,「札幌軟石」を教材活用した地理巡検の具体例(学習内容と観察対象物の概要)を 述べた。その過程では,事前後学習の有り方にも触れた。最後に,このような地理巡検を開発 するポイントを述べた。

キーワード:中学校社会科,地理巡検,地域調査,札幌軟石

(3)

向けより工夫・改善が必要となってきている。

中学校社会科の学習活動の有り方は,前後の機関にお ける学習内容の積み重ねや発展に影響をもたらす。本稿 は,地理的分野のうち,身近な地域調査を含む地理巡検 の学習活動に着目して,具体的な事例を通じ,どのよう な授業展開が可能か明らかにする。加え,教育現場にお ける多様な制約を見据え,それらの解決を目指す時間的・

構造的手立ても示していきたい。

以下では,第2章において,地理巡検に関係する学習 指導要領の内容(地域調査)を確認し,課題解決に向け た時間的・構造的手立てを示す。続く第3章において,

「札幌軟石」を教材活用した地理巡検の具体例を述べる。

最後,第4章において,地理巡検を開発するポイントを 示す。なお,「札幌軟石」は,2018年北海道遺産に選定 されたものである。

Ⅱ.学習指導要領と工夫・改善の具体

1.関係する学習指導要領の内容

地理巡検に関係する学習指導要領の内容は,「地域調 査の手法」と「地域の在り方」が該当する。これらの学 習内容(小単元)は,日本の様々な地域の内容に含まれ る。

具体的には,「地域調査の手法」の内容に続き,「日本 の地域的特色と地域区分」,「日本の諸地域」を経て,最 後に「地域の在り方」を学ぶ。また,日本の様々な地域 は,地理的分野の3つの単元のうち,最後に位置づく。

ゆえに,地域調査は,地理的分野におけるまとめ的な役 割を帯びる。

さて,地理巡検とは,「地域調査の手法」の内容のう ち,観察や野外調査に含まれる。地理巡検の主な手法は,

教員主導型,生徒主体型などがある。他方,地理的事象 の見方や考え方を高めるには,教員主導型が望ましい。

ただし,社会科教員が,地理的事象の見方・考え方の認 識があることを前提する。

よって,教員主導型は,「地域調査の手法」の内容と して,生徒主体型は,「地域の在り方」の内容として考 えるとよい。すなわち,教員主導型による地理巡検を経 験することで,地理的事象の見方や考え方を理解する。

その理解を前提とすることで,生徒主体型による地域調 査を行う。結果,地域課題の解決を目指す学習活動とし て深まりが増すと考えられる。

2.工夫・改善の具体

教員主導型の地理巡検の課題として,①実施時間の確 保,②引率教員の支援・確保,③指導教員のスキルの向 上といった点が指摘されている。上記の課題は,個人の 努力のみでは限界がある。よって,統合することで課題 解決に迫りたい。提案内容は,土日祝日(長期休暇中を 含む)を利用する半日地理巡検を想定している。

具体的には,歴史的分野担当の社会科教員と理科教員

(地学分野)の協力・支援による統合の構築である。実 施時間の確保は,一教員の担当時間の調整では,難しい。

そこで,協力・支援教員を募り,いくつかの授業を束ね,

一定の時間を生み出す。また,関連教員(歴史系社会科 教員や理科教員)の協力を得ることで,引率教員の確保 に加え,他分野・内容の指導支援・協力を得ることにも つながる。

現行学習指導要領の課題の1つとして,資料から読み 取った情報を基にして社会的事象の特色や意味などにつ いて比較したり関連付けたり多面的・多角的に考察した りして表現する力の育成が不十分であったと指摘してい る。ゆえに,地理的な視点,歴史的な視点,地学的な視 点の統合は,地域的特色を理解する上で,多面的・多角 的な考察となり,課題解決に向けた手法として効果も高 い。

加え,内容の取扱い(地理的分野)では,「地域の特 色や変化を捉えるに当たっては,歴史的分野との連携を 踏まえ,歴史的背景に留意して地域的特色を追究するよ う工夫するとともに,公民的分野との関連にも配慮する こと」,「地域的特色を追究する過程で生物や地学的な事 中学校社会科における地理巡検の有り方と工夫・改善

表1 地域調査(地理巡検)に関係する学習指導要領の内容

(1)地域調査の手法

地域などに着目して,課題を追究したり解決したりする活

動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。

ア 次のような知識及び技能を身に付けること。

(ア)観察や野外調査,文献調査を行う際の視点や方法,地 理的なまとめ方の基礎を理解すること。

(イ)地形図や主題図の読図,目的や用途に適した地図の作 成などの地理的技能を身に付けること。

イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。

(ア)地域調査において,対象となる場所の特徴などに着目 して,適切な主題や調査,まとめとなるように,調査の手法 やその結果を多面的・多角的に考察し,表現すること。

(4)地域の在り方

空間的相互依存作用や地域などに着目して,議題を追究し たり解決したりする活動を通して,次の事項を身に付けさせ ることができるよう指導する。

ア 次のような知識及び技能を身に付けること。

(ア)地域の実態や課題解決のための取組を理解すること。

(イ)地域的な課題の解決に向けて考察,構想したことを適 切に説明,議論しまとめる手法について理解すること。

イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。

(ア)地域の在り方を,地域の結び付きや地域の変容,持続 可能性などに着目し,そこで見られる地理的な課題について 多面的・多角的に考察,構想し,表現すること。

資料)文部科学省(2017):『中学校学習指導要領(平成29年告 示)解説社会編』東洋館出版社.

(4)

象などを取り上げる際には,地域的特色を捉える上で必 要な範囲にとどめること」とある。すなわち,歴史的分 野や地学的事象との関連付けは,地理学習において元々 想定されている。

Ⅲ.地理巡検の学習内容・構造

本章では,前章における地理巡検の工夫・改善の具体 として,「札幌軟石」を教材活用し,事前後の学習内容,

観察対象物の概要について示す。

1.事前学習の内容

事前学習では,地図(地形図)学習を中心に行う。具 体的には,観察対象物(事象),関係する地理的事象

(例:支笏湖)の位置,対象物(間)の方位・距離,周 辺の景観,土地利用の様子を理解する。また,地図上で の巡検地の移動ルートの理解を行う。

関係する地理的事象の位置とは,個別では判断しくい ことを理解することである。例えば,札幌市(南部)は,

支笏火山による火砕流堆積物の北限となっている。

周辺の景観とは,土地の高低,勾配,河川の流路や山 の位置を捉えることである。土地利用とは,公園,農地,

住宅地,商業地等の様子を捉えることである。

事前学習の成果は,当日(現地観察)の現実空間と対 比することで,地域的特色の理解を深めることはもちろ ん地図的能力の育成も高めることができる。

2.現地観察の内容

本節では,例示した観察対象物の概要(解説説明の一 部)について述べる。巡検地は札幌軟石(溶結凝灰岩)

の様子やその採石場跡地を巡る南区一帯(地理巡検1),

札幌軟石を活用した建築物を巡る都心部一帯(地理巡検 2)に分けた。

【地理巡検1】

現地観察のねらいは,札幌軟石の特色とその分布する 地理的環境を理解すること,採石場跡地の利用の様子を 理解させることである。

①石山緑地

石山緑地は,かつての採石場を札幌市が公園化した場 所である。緑地には,火砕流堆積物が露出しており,そ の下部に溶結した凝灰岩が堆積している。上部には,溶 結している部分があり,その後の降雨等により,侵食を 受け,丸みを帯びている(前田 2007)。

北方圏学術情報センター年報 Vol.11

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図3 地理巡検の学習過程・構造(札幌軟石の教材活用の場合)

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図1 実施時間の確保に向けた工夫・効果(例)

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図2 引率教員数の確保・指導スキル向上に向けた工夫・効果

(例)

写真1 石山緑地の様子

(5)

②石山陸橋

石山陸橋とは,昔,定山渓鉄道があった際,鉄道を跨 ぐ橋があり,その名残で呼ばれている。

この付近を流れる真駒内川の河床は,溶結凝灰岩が堆 積している。護岸には,溶結凝灰岩に水平の割れ目(板 状節理)が確認できる(前田 2007)。

③札幌軟石採石場跡

藻南公園付近には,白っぽい崖が見られる。この崖は,

支笏火山の火砕流堆積物で,上部から下部に向かって溶 結の程度が強まっていることを確認できる。

ここも,かつての採石場の跡地である。崖の手前は,

公園化し,石切の様子を伝える解説版も設置されている

(前田 2007)。

【地理巡検2】

現地観察のねらいは,意匠の素晴らしさを堪能させな がら,洋風建築物に札幌軟石を使用していることを気付 かせることである。また,建物がどのような利用をして いるか,注目させたい。

①札幌市資料館

札幌市資料館は,大正15年(1926)に札幌控訴院とし て建築された。札幌軟石を使った建物としては全国的に も貴重なものであり,平成30年(2018)3月には札幌市 有形文化財に指定されている。

昭和48年(1973)11月3日,裁判所の移転に伴い札幌 市資料館として開館した。開館当初は,札幌オリンピッ ク関係の資料や札幌にゆかりのある文学関係の資料を展 示していたが,館内で歴史展示室および郷土史相談,市 史編さんなどを行ってきた文化資料室が移転したことか ら,平成18年,控訴院時代の法廷を復元した「刑事法廷 展示室」を設置した。さらに平成27年には,「まちの歴 史展示室」と札幌国際芸術祭に関する「SIAFラウンジ」,

「SIAFプロジェクトルーム」も設置している。

②日本キリスト教団札幌教会

現在の日本キリスト教団札幌教会は,北海道庁の土木 科に勤務し,教会の信者だった間山千代勝が設計を行っ た。この教会は,1904年(明治37年)に建てられたもの であり,建材には当時札幌市で採石された札幌軟石を使 用している。

元々は1889年(明治22年)に結成された札幌メソヂス ト教会が,札幌市中央区の南1条西2丁目に木造の教会 堂を建設したのが始まりである。1903年の4月に教会堂 が大火に見舞われ,消失した。その後,翌年の1904年に 木造から札幌軟石を用いた石造りの教会堂を建設,現在 ある教会堂の姿となった。

創成川に沿った創成川通りを西側に面している教会堂 は,西側にのみ塔が建てられており,ロマネスク様式の デザインを基調とする。加えて,アーチ型の開口部分,

中学校社会科における地理巡検の有り方と工夫・改善

写真2 札幌(石山)軟石採石場跡の様子

写真3 札幌市資料館の外観

写真4 日本キリスト教団札幌教会の外観

(6)

頭頂部に設置された十字架,バラ窓など細部に特徴のあ る造りは,ゴシック風のデザインを思わせる。内部講壇 は竪琴をイメージした柱で装飾が施されており,建物全 体の平面はラテン十字型である。青い屋根や色彩豊かな 窓のモザイクも特徴である。

キリスト教信者達の葬儀にも使用されているほか,牧 師などによる説教も行われている。12月24日になると,

クリスマス礼拝が行われるほか,午後にはクリスマスイ ブ礼拝としてキャンドルサービスをはじめとする各種イ ベントも開催している。

3.事後学習の内容

事後学習では,まず,現地観察時におけるねらいの確 認を行う。具体的には,地図,写真(画像)資料を手が かりとして順番に概要(説明内容の一部)を振り返る。

続いて,観察対象物を中心として,地理的な視点,歴 史的な視点,地学的な視点の関連付けを行う。

具体的には,時間軸を中心として,どのような空間的 な広がりを得たか,事前学習(地図学習)と現地観察の 学習内容を俯瞰し,対象物間の関係性に気付かせたい。

そのため,教員の意図的な支援が必要となる。例えば,

関係性を踏まえた構造図を示し,その補足解説を行う。

それを経て,ワークシートを利用したまとめを書かせる。

こうした支援がないと,単なる自主的な地理巡検のま とめになってしまう。結果,深みのある関係性の気付き までには発展しにくい。

Ⅳ.お わ り に

本稿は,中学校社会科地理的分野のうち,身近な地域 調査を含む地理巡検の学習活動に着目して,具体的な事 例を通じ,どのような授業展開が可能か明らかにするこ とを目的としたものであった。加え,教育現場における 多様な制約を見据え,それらの解決を目指す時間的・構 造的手立ても示そうとするものであった。

結果,これまでの地理巡検の課題解決を目指す関連教 科・分野担当教員の支援を得ることで,実施時間の確保,

引率教員の確保,指導スキルの向上に応える同時解決的 な手立てを示すことができた。

その上で,「札幌軟石」を教材活用した地理巡検の展 開を例示した。とりわけ,事後学習時において対象物間 の関連付けによる気付きの重要性について示唆した。

最後に,今回のような地理巡検を開発するポイントを 2つ指摘しておきたい。1つは,自然的事象と人文社会 的事象の関係性が見えやすい観察対象物を選ぶことであ る。人文社会的事象の立地は,何らかの自然環境との関 係性を有する。その関係性を重視したい。2つは,観察 対象物(人文社会的事象)の変容に着目することである。

前者の場合,自然的事象を含むことで理科教員の協力を 得やすい。後者の場合,時間軸の視点を含むことで歴史 系社会科教員の協力を得やすい。すなわち,効果的な地 理巡検の開発には,いかに協力を得やすい環境整備がで きるか,重要となってくる。

今後も,より質の高い地理巡検の在り方を追究してい きたい。

Ⅴ.文 献

松岡路秀他(2012):『巡検学習・フィールドワーク学習 の理論と実践―地理教育におけるワンポイント巡検の すすめ』古今書院.

中牧崇(2019):『大学・地理教育巡検の創造』古今書院.

文部科学省(2018):『中学校学習指導要領(平成29年告 示)解説社会編』東洋館出版社.

北海道高等学校日本史教育研究会編(2003):『札幌・小 樽散歩』㈱山川出版社.

前田寿嗣(2007):『歩こう札幌の地形と地質』北海道 新聞社.

山口幸男他(2016):『地理教育研究の新展開』古今書院.

北方圏学術情報センター年報 Vol.11

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図4 「札幌軟石」を教材として空間・時間軸の関係性(地理 巡検の学習内容の構造)

参照

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